そうだなまず私がなんでボーダーに入ったかを話そうと思うとあの日まで遡る必要があるかな。そう三門市の人間なら忘れることの出来ないあの日だ。
大規模侵攻……三門市を襲ったあの大災害の日、私も家族も近しい知り合いも無事ではあった。無論、家が壊されたりなど被害が零ではなかった。
それに命が無事だったのも当時のボーダーの人達が助けてくれたからであって、正直結構ギリギリな状況まで追い込まれていたのは確かだ。
「大丈夫だったんですか?」って大丈夫じゃなかったらここにいる訳無いだろう。心配してくれて嬉しいが落ち着いて続きを聞いてなさい。それで何処まで話したっけな。
そうそうトリオン兵が目前まで迫ってきているそんなギリギリな所で私を助けてくれた人が居たんだよ。その人は今もボーダーに居るし、一応A級の人だよ。
「無事か?」
「…は、は、はァイ!!あり、ありがと…うございます?」
助けてくれた恩人に対して私はかなり間抜けな返答をしてしまったとあの時を思い出すと顔から火が出そうになる。声は変につまり、裏返りながら、疑問符を付けるような口調でのお礼にその先輩は笑って「無事で良かった」と行って次の現場に駆け出していった。かっこいいだろ?
普通の女子ならまず惚れるであろうシチュエーション。命の危機に駆けつけてくた異性という物語の中から飛び出したのかと思う様な相手。
それに対して私が抱いたのは憧憬の念だった。ただただ純粋にかっこいい!!すごい!!あの武器はなんだろう!!と言った感情が救助され落ち着いてから途切れずに溢れ出した。
オタクを名乗るにはニワカ過ぎる私だがそういったサブカルチャーには触れる機会があり、物語もびっくりなSFチックな存在を目の当たりにしてネジが数本とんだ。おい、何故納得顔で頷く、それはそれで失礼だろ……まぁ良い。
ボーダーが隊員を募集し始めると直ぐに応募したいと両親に告げた。幸い学業はトップを独走しており、社会をいち早く体験すると言うのも良い経験になると母からは直ぐにOKが出た。
父は危険だとか女の子がそんな危険な事をとか色々と煩かったけど理詰めでいけば直ぐに陥落した。現実的な母を説得するのは厳しいが夢見がちな父は弱かった。
家の事は置いとくとして、ボーダーに入ってからはお礼を言うために情報収集をした。それで直ぐに相手が誰かは分かったし、その人の周囲の状況に気付いて惚れなくて良かったと安堵したのも懐かしい。
そう…その恩人である先輩には好きな人がいたんだよ。今はどうにか応援できないか頑張ってる。恩返しのつもりだが余計なお世話にならないようには気を付けてる。
と話がそれたが、ボーダーの試験の際、筆記試験はまぁ問題なく満点に近い点を取ることが出来ていた。そして問題の素質の検査、要するにトリオンの計測だが、これが問題だった。
問題と言っても君とは真逆だな。私と戦ってるから十分に分かってるだろうが私のトリオンはとても多かった。直ぐに職員から声がかかったよ。
「『夜景さん、貴方のトリガーを扱う才能はとても優れています。よろしければ入隊よりも早めに体験してみませんか?いわゆる研修に近い形と思って頂ければ分かりやすいか』…とね」
トリガーやトリオンなど当時は全然仕組みも何も知らなかったが、とにかく早く触れたかった私には願ってもない話だった。
内情を知ってから考えると向こうとしてはトリオン能力が高い私を逃したくなかったんだろう。それと早めに戦える人員を用意したかったのもあるかな。
そして体験の初日、トリガーについてとトリオンについて簡単な説明を聞いて、お試しでとトリガーを起動させた私は即効で意識を失いぶっ倒れた。
他にも体験入隊をしている人がいる中でトリガーを起動した瞬間に倒れた私はどう見えたか、会場は騒然となり、ボーダーの人も大慌てで私は救護室へ運び込まれた。
倒れる瞬間の脳が僅かにだが残した像は私の周囲全体の景色を無理矢理圧縮したかのような物で、そんな情報の塊に対して私は驚き気絶した。
そうして起き上がった私を検査したボーダーの人たちから知らされたのが『トリオン視覚』、私のトリオン能力によって発現したサイドエフェクトだった。
もう直ぐにBに上がれるだろうからって君にもこの前教えただろ。トリオン能力が高いと起こる副作用、特殊な能力。それは薬とかと同じでメリットもデメリットもあるんだ。
私は自分のトリオンで作られた物から視覚情報を得ることが出来る。私が生み出すトリオンの全てが目であり視神経の役割を担えた。
初めそれを聞いた時は特殊能力に胸が踊りつつ、制御するか慣れるかしなければトリオン体にも成れないのではと不安を抱いた。
しかし、その問題は段々と解決していった。まず今までトリオンを使う機会がなかった故に機能していなかったがサイドエフェクトは常に私に存在し、それに対する受け皿も私にはあったんだ。
要は主に視覚を司る目と情報を処理する脳、その二つについても私はサイドエフェクトの効果でかなり発達してて、実感するのが初めてだから驚いて気絶したが覚悟してトリオン体に成れば大丈夫だった。
それでも全身が目である感覚に戸惑って上手くいかず、トリオン体になって動くのに慣れる事から始めないといけなかった。
全身という事は足の裏にまで視覚があるんだが、地面が迫る映像に気圧されたりもしてな。必要ない部分の目を閉じれる事に気付くまでは大変だった。
段々と360°死角のない視界でも動ける様になり、距離感などの把握に役立て、様々なアドヴァンテージに変える事が出来た。
もちろん、そのサイドエフェクトのせいで不利になる事も非常に多い。避けれない攻撃を受ける際にその部分の目を閉じれないとかなりの反動がある。
不幸自慢をしたい訳でもないし、わざわざ弱点を全て説明する気はないから私のサイドエフェクトの詳細はこれ以上は話さない。
けど私はサイドエフェクトを前提に動かざるを得ない。だからこそサイドエフェクトの無い視界や戦いの組み立て方は分からないとも言える。
だから正直基本以外を教えるのは向いてない。それでも最低限最後まで面倒はみるから安心しなさい。
今ではボーダー内に多くのサイドエフェクト所有者がいるし、苦労話をした後でこう言うのも難だが、私のサイドエフェクトほどデメリットが少ない物は無いだろう。
意識して目を一々閉じると言う手間がかかるがある意味オンオフが効いているのは私ぐらいの物だし、とにかく幸運と言える。
と話がだいぶ反れたが、そうだ私の体験入隊に誘われた時の話だったな。私は倒れて騒動を起こした事を謝り、ボーダーは想定しなかった事を謝りながら、改めて体験入隊が始まった。
苦労しながらも体験中にサイドエフェクトに慣れた私は死角が無いために奇襲が効かず、視覚と処理能力が高い為に攻撃を避けるのはもちろん、相手の動きの予測も出来た。
正式入隊後もトリガーに慣れればそう簡単に負けることはなく、記憶した相手の動きから自分の動きを最適化していき戦い方をどんどん完成させていった。
その途中で『スコーピオン』や『イーグレット』『ライトニング』『アイビス』などの武器トリガーやその他のオプショントリガーもどんどん増えていった。
その最中に私が思い描いた事はただ一つ、「私も何か作りたい!!」それだけだった。2期にA級部隊の1つを率いてみないかと誘われてた私はその誘いを蹴って開発室に入り浸った。
物覚えは良い方だし、頭もサイドエフェクトもあって悪くない。それでも初めてどころか、まだまだ解明されてない事も多い技術を会得するのは並大抵の事では無い。
他のトリガー開発に携わった人たちは開発室の人と協力して作っていたが、私は自分で全てやりたかった故にだいぶ習得に時間を注いだ。
まぁ途中で狙撃用トリガーが普及し、完璧万能手と言う概念が生まれ、先輩がその名を手に入れた時に「は?!私も成りたいんですけど?!」とポイント稼ぎに明け暮れるなど寄り道も多かった。
ん、あぁそれで完璧万能手になったんだよ。憧れ兼対抗心で頑張ったら成ってた。意外とそんなもんだよ。完璧万能手を目指してる荒船ってのがいるんだけど、そいつなんかは「やはり本人のやる気も影響するか……」と理論化の参考にしてたぞ。
それでまぁトリガー開発の中で漫画やアニメを参考にする事が多くて、キャラに成り切ったりしてたんだ。それが今の性格七変化の元だね。高3にもなって厨二病?特別な力で異世界からの侵略者と戦うなんて状況自体が厨二だろう。
まぁサイドエフェクトによる優位と死角の無さ、情報処理能力にトリガー開発の知識から考える手法、色々とやる内に色んな戦略を考えるのが楽しくてとにかく試しながら戦ってたら勝率が高くなってった。
私の取れる手が増えて対応出来る状況が増えたから当たり前と言えば当たり前だけどね。奇襲も効かないから圧倒的な物量で詰みに持ってかれなければ早々負けなかった。
突拍子も無い戦い方についていける人が居ないからオペレーターだけみつけて戦闘員一人の部隊を作ってB級ランク戦を勝ち抜いてA級に上がった。
そこからは正直やりたい放題しまくったねぇ。A級からは改造トリガーを自前で用意してランク戦に持ち込めるんだ。毎回毎回試作トリガーを持ち出してランク戦を荒らした。
この前なんかは自爆トリガーを持ち出して自分の死と引き換えに全員倒したら反省文を書かされた。一応使い所はあるからデータは提出したけどね。
まぁ好きな事やってる内にこうなってたってのが私の場合は正しいかもね。これを言うとおしまいだけど才能はあったんだと思うよ。
トリオン能力にサイドエフェクト、それを十全に扱えるポテンシャル、それがなければこんな所までは来れなかったからね。
まぁめちゃくちゃ端折りはしたけどこれが私がボーダーに入ってから今までの大体の流れかな。たぶん参考にするには向いてないタイプだよ私は。
……そう落ち込まない落ち込まない。やりたい事をやるのが1番なのは誰でも一緒。それに才能だけが全てって訳でもないんだよ。
才能が全てならば個人ランクも部隊の順位も変動する訳が無いでしょ。変動全てが運による物だって言うなら話は別だけどそんな訳も無いでしょ。
君にはコツコツと積み重ねていく学んでいく才能、伸び代は豊富にある。ただ行動力は十分ありそうだけど、もう少し我儘になった方が良い。
君が前に言った我儘は私が覚えてる限り2つ、いや3つだけだからね。しかも本当に君の為なのはその内の1つだけ、自分の為にもう少し動くんだ。それこそが君を成長させる鍵だよ
「はい、貴重なお話ありがとうございました」
なになに、師匠と名乗るのもおこがましい小さな助言程度しかしてないけどこれでも先輩だからね。また何かあったら何時でも声を掛けなさい。
そう言って別れた面倒を見ている後輩を見送る。抱え込みがちな子だけど真面目だから持ち込むとしてもそんな大事は無いだろう。
この時の私はそう思っていたが、私は1週間後にそう言った事を後悔こそしないが、しばらく頭を抱える事になるとは思わなかった。