『夜景先輩、少し良いですか?』
修くんから連絡がきた明日にはB級に上がれそうと言っていたからその報告だろうか。まだ勤務中ではあるが担当範囲に
「修くんちょっと待ってて…良いかな?」
『今のところは
仮に電話しながらでもトリオン兵なら群れてても問題は無いけど、オペレーターからの注意はしっかり受け止めつつ、電話を続ける。
さて彼の目的への一歩を見事刻んだ修くんをしっかりお祝いしてやろうと思っていると彼から衝撃的な言葉がとんできた。
『近界民ってぼくたちと同じ様な人なんですか?』
とりあえず一言「ごめん」と言って自分の隊のオペレーターとの内部通信を切った。携帯の音量は小さめだし、トリオン体との関連は無いから向こうの声は拾われていないと思う。
だが私の応答の声は通信状態だと確実に拾われる。
近界民についてはC級には知らされていない、まだ私も修くんには教えていない情報だ。C級からB級へ上がった後に教えられ、受け入れられずに記憶処理後にボーダーを辞める者も出る重大な秘匿事項。
B級に上がって教えられて親しい私に確認がしたかった?いや、果たす目的がある修くんなら驚きつつも飲み込める情報だ。
それに几帳面な修くんの性格を考えると先に昇格の報告とお礼の言葉を言う。そうなると彼は予期せずにその情報を手に入れた事になる。
それに修くんの言い方は疑問形だが何処か確信を持って訊いている。近界民が人だと確信する様な状況……彼は今、何処で、何をしている。
「もしかしてだけど、近界民を名乗る誰かと出会ったりした?」
『ッ?!……はい、それでえっと空閑って言うんですがそいつと話しながらいて、どうしたら良いか相談できる人に連絡する事になって先輩に……』
おそらくだが友好的な近界民か……正直に言えば役職なんてない、あくまで一戦闘員でしかない私の手にはあまる話だが、後輩に頼られる状況でパスするのもね。タイミングよく防衛任務も交代の時間が近い。
「これから君たちの所に行くから待ってて」
日はもう暮れかけているが急げば多少は話す時間はあるだろう。カメラの無い警戒区域の何処かで待ち合わせってのも考えた。
だけど修くんは映らないルートを知らないし止めといて正解かな。それに三輪隊が向かった方向で何か問題があったらしいし、遭遇すればまずいどころではない。
『悪いね日向。ちょっと私的な相談だったから切らせてもらったよ』
『いえいえ、大切なご要件だったんですね。大事なサポートをしている日向を突き放すほど大事なご要件だったんですからね』
とりあえずぶち切っていた通信を再開させると日向からのありがたい小言が送られ、そこにいないのにジトーっとした目で睨まれてる気になる。
とりあえずお詫びとご機嫌取りはそのうちしとかないとなと考えつつ、この場をやり過ごす方法を考えてると別口で通信がきた。
『夜景さん、お疲れ様です。今から
「真織ちゃん、ありがとう。日向、後は頼んだ」
『前んとこ
「イコさん、すみません急いでるので詳しい引き継ぎは日向経由でお願いします。それでは……」
直接顔を見せてしっかり引き継ぐのが本当は良いんだろうが直ぐ近くまで来ているのが
『まりおちゃん、日向ちゃん……俺なんか空ちゃんに嫌われる様な事やってもうた?だとしたらラウンジで土下座して謝るんやけど』
『ウチに聞かれても知らんし、仮に迷惑掛けてたとして余計に迷惑やからそれはやめとき』
『いえ、空さんは本当にただ急いでるだけなんで…こちらの隊長がすみません』
後でイコさんが物凄く気にしていたと聞いて申し訳ない気持ちになり、後日謝りに行ったら普通に歓迎されて終わったのはまた別の話。
トリオン体で行くのは警戒させるかとも思ったが、とりあえず時間が惜しい。『グラスホッパー』を使って住人のいない家の上空を駆けぬけた。
警戒区域の中は猛スピードで進むことが出来たがここから先を跳んで進むのは考えなくても目立つこと必至である。
「『カメレオン』」
持ってて良かったと透明化トリガーである『カメレオン』を使って丈夫な建物を選んで自力で跳び移っていく。これでも地形踏破は得意な方なので問題はない。そしてもう1つ……
「『ステルスボール』」
大体の居場所は聞いているが探すのであれば
これを使うとトリオンを通して視覚情報を得る私なら広範囲を一方的に索敵できる。仮に戦闘になったとしても優位を取れる状況にもなる。まぁ、壊されるとそれなりに負担が返って来るけど、そこは慣れるしかない。
「っと、居た居た……あの白い子が近界民かな?」
不用意に音を立てれば警戒されるだろうが無音で近付くのはそれはそれで警戒される。なので少し離れた位置でわざと音を立てて着地し『カメレオン』を解除した。
「おまたせ、修くんに空閑くん?」
「ふむ、音を立ててもらうまで気付かなかった。中々やりますな。あんたがオサ厶の言ってたセンパイさん?」
「空閑、先輩は敬称だ。あの人の名前は夜景さん、夜景空さんだ。来てくれてありがとうございます。それでその……」
何から話していいのか分からないと言った様子だね。まぁ、私達は慣れているけど初めて聞いた人達は驚く情報が降って湧いたんたから仕方ないかな。
「とりあえず落ち着いて話せる場所に移動しよ。後は起きたことを順番に話してくれれば大丈夫だから」
「はい、分かりました」
「空閑くんもそれで良い?」
「おれはそっちが仕掛けて来ないなら、それでも構わないけど」
そう言いながら空閑くんに一番近い『ステルスボール』へと視線を向けた。今までに動かした際の空気の流れや勘で気付いた人は居るけど、どちらにせよこの子も強いな。
「まぁ、敵対しなければ攻撃はしないよ」
「ふぅん、嘘はついてないね。なら良いか」
嘘はついてないねぇ…それを判別したのは雰囲気からか?それとも私と同じか?まぁそれなら後者の方が今の段階ではありがたいけど、了承を得たからとりあえず移動しよう。
「ここから近い所に旧い私の家があるの。カメラに映らないルートでそこに行くから私の後ろについてきて」
私達の周りに飛ばしている『ステルスボール』の一部を先行させて防衛任務中の他のボーダー隊員に出会さない様にしながら3人で歩いていった。