こっちの世界は向こうと違う事が多過ぎて大変だ。信号とか言うのは何度も忘れかけるし、そもそも言葉や文字も完璧じゃない。
それでも親父の出身地であるし、ボーダーの事は気になってたから来たことは後悔してない。それにこっちに来る目的もあったしな。
こっちに来て直ぐにオサ厶と知り合えたのは悪くない。オサムは強くないのに度胸はあるし、嘘をつかないからな。
ボーダーの筈なのに近界民について知らなかったり、ボーダーの役割が聞いてた話と違ってたり、色々と誤算はあったけどな。
代わりに食事を買ってきてくれたり、ニホンの事について教えてもらう約束もした。たぶんこいつは良い奴なんだろうと思ってると、言い出しにくそうにしながらも口を開いた。
「空閑、ぼくにもボーダーに知り合いは居る。その内1人だけにお前の事を話しても良いか?」
「んん?他の奴に知られるとまずいんじゃないのか?」
「その人ならぼくは信頼できるし、相談にのってくれると思ってるんだ。お前に不安があるならやめるし、お前の事は伝えない」
ボーダーが近界民、いや基本的にはトリオン兵に対抗する為にいるみたいだけど、近界民が嫌われてるならオサムはおれを捕まえる側の筈だ。
それなのにこっちに確認をとったりしてくるとは…しかもダメだと言ったら本当にやめるつもりでいるみたいだ。騙してきたり罠にかけてくる奴の対処は知ってるけどこれはどうしたら良いんだ?
チラッとレプリカに意識を向けるが『決めるのはユーマ自身だ』としか言わないだろうし、それにそうしないといけないって事はおれも分かってる。
「いいぞ、オサムは
内容が内容だから比較的人気のない場所に移動してからデンワと言う物を使うオサム。おそらく通信系の道具なんだろうがトリオンを感じない。こっちの技術はすごいな。
コソコソと話すようなら探ろうかとも思ってたけど目の前で聞き耳を立てなくても聞こえる声で話すオサムを見ていると調子が狂うな。
「これから先輩が来るから少し待つけど空閑は時間は大丈夫か?」
この後は予定はない。それにこの身体だと睡眠を取れず、一日中活動出来るおれならたとえどれだけ遅くなっても問題はない。
にしても、ついてきてるって事は了承してる様なもんだろうにわざわざ確認するとはやっぱ面白いな。それともこっちのやつはみんなこれぐらい丁寧なのか?
そんな事を考えてるとおかしな足音が聞こえた。オサムは気づいてないみたいだけど、あれは人の音、それもある程度の高さから飛び降りた音だ。
かなり近いと思うのに全然気づけなかった。謎の足音に警戒をしているとそいつは簡単に姿を表し、オサムの方に手を振っている。オサムが反応を返したって事はあれがセンパイか?
「強いな……」
はっきり言ってオサムは強くはない。だからオサムの知り合いっていうのもオサムより強くてもそこそこだと思っていた。おれのトリガーなら勝てるとは思うけど、ボーダーは侮れないかもな。
「おまたせ、修くんに空閑くん?」
「ふむ、音を立ててもらうまで気付かなかった。中々やりますな。あんたがオサ厶の言ってたセンパイさん?」
「空閑、先輩は敬称だ。あの人の名前は夜景さん、夜景空さんだ。来てくれてありがとうございます。それでその……」
センパイは敬称で、名前がヤカゲクウね。ふむふむ、覚えた。とりあえずオサムがヤカゲさんやヤカゲセンパイって呼んでるから真似しておこう。そのオサムは何やらつまりながらヤカゲセンパイと話してる。
「とりあえず落ち着いて話せる場所に移動しよ。後は起きたことを順番に話してくれれば大丈夫だから」
「はい、分かりました」
「空閑くんもそれで良い?」
言ってる事に嘘はないから罠じゃないのは分かる。だけどなんか違和感を感じる。何も無いのに視線を感じる様になったのはこの人が来た直後だ。話してないだけで何かある。
「おれはそっちが仕掛けて来ないなら、それでも構わないけど」
「まぁ、敵対しなければ攻撃はしないよ」
「ふぅん、嘘はついてないね。なら良いか」
敵対しなければって事は敵対すればヤルのも厭わないのか。それはまぁ当たり前だし、わざわざ敵対しなければって事は何かしてくる可能性は低いかな。
「ここから近い所に旧い私の家があるの。カメラに映らないルートでそこに行くから私の後ろについてきて」
ふるい家と聞いてボロボロの家を想像したがそうではなく、今の家の前に住んでた家という意味の様だ。先ほども居た警戒区域と言う場所に入ってその家を目指す。
「ここだね。普段は使ってないけど防衛任務終わりに覗いて行くからあまり汚れてはないよ」
家の中に入るのは普通ならリスクがあるけど、こっちの普通の家はそんなに丈夫じゃないからトリガーを使えば逃げるのは簡単だろうと考えながらヤカゲセンパイの家に入った。
「お邪魔します」
「オサムそれは家に入る時の決まりか?」
「ん、あぁそうだ。自分の家以外に入る時の挨拶だ」
「オジャマします。であってるか?」
「ふふ」
ニホンのルールを覚える約束をしているので聞いてみたら家に入る時に言う挨拶らしいので修が言ってたのをとりあえず真似しているとヤカゲセンパイの方から笑い声が聞こえた。
「いらっしゃい。まさか修くんが近界の人と会うとは思ったなかったし、ましてそんなに仲が良いとはね。つくづく何が起こるか分かんないねぇこの世界」
笑顔を浮かべたままそんな事を言うと修とおれは座れる場所に案内された。座りながら気付いたけど、いつの間にか変な視線は完全に消えていた。
「さて、それじゃあ色々と話そうか」
どんな話し合いになるかはおれにも分からないが、なんとなくそんな悪い事にはなりそうにないと思えた。レプリカから後で聞いたらおれも笑ってたらしい。