「…君は誰だ?」
制服を見る限りうちの学校の生徒のようだ。黒のセーラー服なのだがこの子はその上からカーディガンを羽織り、袖が手のひらの半分まで伸びている。ちなみに今は3月。少しだけ肌寒いといっても春の予感を感じさせるような晴れの日もある。男子はいわゆる学ランだ。学ランの下にはカーディガンとYシャツを着ているのだが、翔弥はYシャツの上にカーディガンを羽織っているだけというスタイルだった。しかし…いきなりそんなこと言われても…、適当に話をそらして自然と別れるか…。
「あ、ごめんね、あたし志水姫花(しみず ひめか)。君と同じ1年だよ」
あれ、それって……
「ああ思いだした、美術の」
「そうそう!思いだしてくれた?たしか一緒だよね?」
俺たち1年生は入学当初に実技科目を4つの中から選ばなければならないことになっている。科目は音楽、美術、書道、情報基礎。音楽は歌を歌いたくない、書道は字が下手、情報は…あんなもんいいだろとそういう理由で少しは絵が書けるので俺は美術にしたんだったか。で、美術教室での机の並びが名簿順でちょうど俺と志水さんで先頭で1つ離れていたような気がする。
「そういえばそうだったか。あまり人のことは覚えない方でな、それで、志水さんは何でここにいるの?見た限りではラノベとかはあまり好きそうではないんだけども」
髪短いし今のところ性格はさっぱりしてるのでどっちかというとスポーツとかやりそうなイメージだけどな。
「そんなことないよ!結構面白いのは面白いし、アニメとかも見たりしてるよ?まあ恥ずかしいから友達にはあんまり言ってないけどね」
「へえ、意外だなあ。なんかおすすめのやつとかあるか?俺、決まった文庫しか買わないからさ」
ここは話をそらして逃げに徹する。というか早く帰りたいし。
「おすすめねえ、あるよ!タイトル忘れちゃったんだけど異世界ものだよ。また思いだしたら言うね」
「ああ、よろしく頼む、んじゃあそろそろ…」
と、振り返り漫画コーナーに行こうとした瞬間両肩をガッチリ捕まえられる。
「うん?まだ話は終わってないよ?」
「…へいへい」
笑顔だけど頼むから光のない目をしてかなーり強く肩を掴むのは止めてもらいたい。なんか危ない属性を兼ね備えてるような気がするんだが。
「で、なんの話だったか?たしか、主人がどーのこーの」
「そうそう、あたしの主人になって」
「…なんで俺が?てか主人てどういうことだよ、意味がわからん」
と、不満を少し込める。誰もがそう思うだろう。
「あーじゃ説明するね。あたしの───」
「おーい、森仁、買ってきたから帰ろうぜー…って」
漫画を買ってきたのであろう、翔弥が俺たちのいるラノベコーナーに入ってきて、すごく驚いている様子だった。
「翔弥……」
「姫、どういうつもりなんだ?まさか森仁を巻き込むつもりじゃないだろうな?」
「…誰を選ぼうがあたしの勝手でしょ」
「まあそうだけどな…」
翔弥は顔をしかめる。おいおい、俺には何がどうなっているのやら状況がわからんぞ。
「ち、ちょっとストップだ。2人はどんな関係なんだ?」
「あ、うん。あたしと翔弥は家が近いから小さい頃からの幼なじみなの」
「なるほど、ねえ」
翔弥に幼なじみがいたとは意外だったな。姉がいるということは知っていたが。
「まあそんなことはいいんだ。姫、これから森仁をどうするんだ?」
どうやら姫というのは志水さんのあだ名らしい。
「森仁くんを主人になってくれるように説得するよ」
「…そうか」
ふっと笑顔に戻る。
「でも気をつけろよ、お前の立場だったらわかるだろ?」
「うん、わかってる。心配しないで」
「はいよ、んじゃあ俺先帰るわ、森仁、あんま変な頼みは聞くなよー」
翔弥がそう言ってふりかえり、少し歩みを進めたあと、俺には軽く舌打ちをした音が聞こえたような気がした。
「じゃあ、あたしたちも移動しようよ、ここじゃ話せないこともあるしね」
「そうだな、じゃあ買ってくるから外で待っててくれ」
「うん、わかった」
そして俺は会計を済ませて外に向かう。本には毎回カバーを掛けてもらうので今回もそうしてもらった。
外にでると店の中が暖かかったからか、さっきより少し寒く感じた。
「じゃあ、いこうか」
寒さに耐え、2人は歩き始めたのであった。
ストーリーは次回で大きく動くのでご期待ください!
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