暗い暗い世界でリオンは歩いていた。何も無くただ嫌な感覚を与えてくるそこは現実ではないと思わせてくる。しかし何故か感覚が現実と同じで夢とも言いがたかった。夢と現実では感覚が違う。なのにそこの境界線が無いのは何故なのだろうか。分からぬままにリオンは無意味に進んで行った。
ある程度歩いた時リオンの耳には不意に何か聞き覚えのある声が耳に流れて来た。それは大きくしかし朧気に聞こえてきた。
声は聞き覚えのある声だった。大切な人のような気がする。
リオンは振り向いた。何か希望を抱いてここから抜け出すために。振り向いた先には小さな光があった。それにリオンは無意識ながらに近づいて行った。
リオンが目の前まで近づくとそこにあった光はいきなり闇に飲み込まれた。突然の出来事で何もすることは出来ず、ただ呆然としていた。
喪失感と絶望感が襲う中でまた違う声が聞こて来た。その声にまたリオンは振り向くとそこには先程とは違う中心に闇を抱える光があった。リオンはその姿に動こうとした足を止めてしまった。光は暖かく優しいかった。けれどその中に抱える闇は虚無感と恐怖感を同時に与えてくる。
どうすれば良いか分からなかった。進むべきか振り返って足を早めるべきなのか。分からない。けれどここからは逃げたかった。どうすれば良いか分からずにオドオドとしているとまた先程の声が聞こえてきた。今度の声は強くハッキリ自分の耳には確かに自分の名前を呼ぶ声を聞いた。それに伴い光は大きくなり闇を抱えた光を包み込んだ。それを見たリオンに迷いは無くなり真っ直ぐと光へと進んで行った。
「…オン、…ン…」
声が聞こえる。うっすらと聞こえるそれはしかし強かった。しかしぼんやりとしたリオンの頭には何も理解することが出来なかった。
「リオ…リオン!」
次第に覚醒していく頭には自分の名を呼ばれていることと声の主が誰なのかを直ぐに理解することが出来た。
「…おはようかな?リアムにエマ」
「馬鹿野郎!何呑気にそんなこと言ってやがる!どれだけ心配したと思ってんだよ!」
「本当にそうだよ!」
強く怒りのこもる言葉だった。しかし同時に優しさを感じることが出来た。
リアムとエマは瞳に涙を浮かべながらリオンを抱きしめた。抱きしめられたリオンは混乱していてゆっくりと辺りを見渡した。リオンが居るのは先程の待機部屋のようでリオンと彼を抱きしめるリアムとエマしかいなかった。リオンの周りは最初よりも散らかっていると言うか荒れ果てていた。物は散乱し壁には亀裂が入っている。また警報音と赤いランプが点滅していた。
先程と変わっている光景の部屋を見ていると少しずつ自分たちの置かれた状況を理解し始めた。
「……あっ!リアム、僕が気絶してからどれだけだったの?」
「お前が気絶して30分だ。本当ならお前を担いで避難するつもりなんだがドアが開かなくてな」
そう言ってリアムの目線は扉の方を向いた。リオンもそれにつられて扉に目を向けた。ドア自体には何も変哲の無く被害が無さそうなドアだった。
「どうやらドアの外に配管が倒れていてドアを塞いでるのよ」
「…なるほど。やばいね」
エマの説明に苦笑いしか出せないリオンは状況の深刻さを理解した。
「しかも浸水が起きてるらしくて脱出ポッドで急いで避難しろって警告が流れてたのが20分前。しかも何処かで爆発が起きたみたいだ」
「めっちゃやばいじゃん!」
苦笑いなんて出してる暇じゃなかった。急いで避難しないと海の藻屑の仲間入りだ。こんな歳でそんな運命を辿りたくない。しかし絶望しかない状況でどうすればいいのだろうか。それ自体が分からない状況自体が最悪なのだ。
「てかなんでリアム達は落ち着いてるんだよ?」
「あ〜一通り頑張ったから諦めた」
「右に同じくかな?」
「いやいやそんなあっさり諦めるな!そして何故疑問形だぁー!」
リアムとエマの軽くあっさりした言い方に思わずリオンは声を荒らげてしまった。何故ここまでも落ち着いているのだろうか。別に慌ててろなどとリオンは言いたい訳では無い。ただこの状況で落ち着いていられる2人に驚いてしまっているのだ。
「まぁまぁ落ち着いて、ね?」
「……あー!分かったよもう」
誰のせいだ!と言いたかったがここで言えば相手の思う壷だと誰も何か企んでいる訳でも無いはずなのにそんなことを思ってしまっていた。それだけリオンはこの状況に焦っていた。
「とりあえずドアを見てみるよ」
「おう!まぁどうにも出来ないと思うぞ」
「見るだけだよ」
その一言を流しながらリオンは扉に近づいた。扉は普通のドアでドアノブを回すと直ぐに開けることが出来る。だからリオンは手をドアノブにかけた。ドアノブは簡単に周りリオンはするりとドアを押した。最初は問題なくドアを押せたものの直ぐに何かに引っかかり開けることは出来なかった。この船のドアは大体が自動スライド式なのだが船員室などは何故か開き戸なのだ。
ドアの間からは配管が倒れているのが見えた。先程のエマの話を聞いていたし驚きは無かった。
リオンは後ろを振り向きリアムの顔を見た。
「ねぇレオン」
「なんだ?」
「この船何回の攻撃を受けたの?」
「…少なくとも10回以上だ。何回も大きな揺れがあったしな」
「それがどうかしたの?」
エマが分からないと顔で訴えてきた。
「…いやなんでもない…よ……」
そう言いながらリオンはまたドアの隙間に顔をやった。目線がドアの隙間に合わさった時目の前に髭を生やした男の顔がそこには会った。
「………」
「………」
「うわぁぁぁ!」
一瞬放心した後にリオンは大声をあげて驚いた後ろに驚いた時の猫のように飛び退いた。
「おっと、おいおいどうしたんだ?」
「ねぇ扉の隙間に男の人がいるんだけど」
リアムがリオンの体をクッションの代わりに受け止めると心配するように聞いてきた。それと同時にエマはすぐさまドアの隙間へと確認をしに行った。怖がらずにあそこへ行くとはエマ恐るべし。
「本当か!」
エマのの話を聞いたリアムは直ぐにリオンを置いてドアに向かった。リオンはその後に直ぐさに立ち上がり恐る恐るエマ達がいるドアへと向かっていった。
少し遅れてリオンがドアの前に来るとリアムは既にドアを覗き込んでいた。リオンが横から様子を伺うとレオンは驚いた表情をドアの先へと向けていた。
「ガーハッハッハ!まさかあんなに驚くとは思わんかったぞ!」
ドアの先から豪快なしかし親しみのある男の低い声が聞こえてきた。その声は凄く聞き覚えのあるもので声を聞いた瞬間にすぐ様に主の姿を頭に浮かべることが出来た。
「ジョンさん!なんで貴方がここにいるんですか?」
少しポカーンと目をぱちくりさせていたリアムは復活すると質問を投げかけた。当然だ普通なら避難してるはずなのにわざわざ遠回りになるこの場所に居ること自体がおかしい事だった。なにかあったにしても他の人達が居ないこと自体その可能性を消すことにもなっていた。
「…なぁーに避難してる時に突然お前さんらのことを思い出してな、心配で見に来たんだよ。そしたら部屋から話し声が聞こえてな、覗き込んだらたまたまリオンと目があってな、まさかあんなに驚かれるとは思わんかったぞ」
「…すみません」
何事も無かったように話すジョンさんの話を聞きながらリオンは顔を見て驚いたことに申し訳なく感じて謝った。しかしジョンさんは気にするなの一言で許した。というかジョンさん自身リオンのことを一切怒って居ないようだった。
「なになに?3人は知り合いなの?」
3人で話しているおりにエマが話しかけてきた。おそらく1人だけ仲間外れになっているのを不満に思ってのことだと思われる。
「仕事先の上司みたいなものだよ」
「初めての俺らに優しくしてくれた寛大な人だな」
「優しい人だね」
「あーお前さんら話してるとこ悪いがそろそろ出ないと死ぬぞ?」
少し恥ずかしそうに言うジョンさんはそっぽを向きながら話題を急に変えてきた。頬を書きながら赤に顔を染めてもいた。
しかし最もな話でこのまま無駄に時間を潰していたら死んでしまうだろう。今は直ぐに逃げ出さないといけない。それが第1の目標だから。
「すいません。えーとそこに倒れている配管はどかせますか?」
「大丈夫だ、こう見えて俺は俺は怪力だからな!」
ジョンさんはそう言って腕を曲げながら力こぶを作って見せた。それを見て少しの安心感を得られた。
ジョンさんは直ぐにドアから離れた。見えない位置にジョンさんが行くと直ぐに踏ん張る様な声と共に何かが擦れる音が聞こえた。
「今のうちに早く出ろ!」
声が聞こえると直ぐにリオン達はドアを開けた。リオンがドアノブを回し押すと先程と違い、軽く簡単に開けることが出来た。そこで誰が先かと問題になると思うがリオンは迷わずににリアムの方を向いた。リアムもちょうどこちらを向いたようでお互いに目があった。何も言うことなくリオン達は頷くと直ぐにエマの方を向いた。2人とも考えることは同じということだ。
「エマ、君が先に出るんだ」
「えっ?なんで?」
「レディーファーストってやつだ」
「で、でもぉ」
「良いから早く出てくれ。言い合ってる時間は無いんだ」
反論しようとしたエマに何も言わせないと言うような威圧感をだして彼女の言葉を遮った。そのかいもあってかエマは渋々としかし直ぐにドアから先に入って言った。だがそこにあったある光景にリオン達は顔を背けた。…理由は名誉のために言わないが。
まずこういう時は意見が合わない時があるだから先にエマを先に生かすことにした。
「通ったよ!早く2人も出てきて!」
顔を背けていたリオン達にエマは直ぐに知らせた。
「じゃあさっさと出るか、なぁリオン?」
「ああ、生きてここから出てやるさ」
2人はリアム次にリオンという順番で外に出た。
全員が出るのを確認したジョンさんは持ち上げていた配管を下ろした。その際にドカンと大きな音がなりそれがどれだけ重たかったかを教えてくれた。
「ジョンさんありがとうございましす!おかけで命が助かりました!」
「本当にそうだな」
「命の恩人です!」
「感謝は生きてここから出てからにしな。道は俺が知ってるから着いてこい!何があってもお前らは俺が送ってやるからな!」
ジョンさんは直ぐに後ろを振り向くと進み出した。その力強い背中をリオン達は見ながらついて行く。その背中に父、もしくは恩師のような感じを覚えながら脱出ポッドを目指してリオン達は進み始めた。