異世界転生したら俺以外の俺が俺TUEEEEEしてた件 作:ヘルシー司
多くの蹄が土を踏みしめ森の中を勢いよく駆ける力強い音が大きな木々の間にひそと消えていく
それがこの森の巨大さを物語っていた。
おそらく俺のいた元の世界ではこんな大きな森は無かっただろう。
見知らぬ土地の景色は面白く外の景色を眺めていると時間を忘れる。
俺の横に座るシナイさんでさえ森をじっと見つめている。
そのまま景色にふけっていると、いきなりガタンという音と共に馬車が揺れ、停止した。
予期していないことが起こり馬車の中でひっくり返ってしまう。
シナイ「....早く降りるぞ。」
急かされ馬車を降りる。触れないのか。
てっきりバカにされるもんだと思っていた。以外と配慮してくれる人なんだな。
全隊員が馬車から降りるのを確認し、シナイさんが各隊員に役割を振りチーム分けしていく。
シナイ「じゃあいつも通りのゲーム形式でいくぞ、一番大きい獲物を狩ってきたチームが優勝だ。」
隊員達「うぉぉぉぉ」
皆やる気に満ちているようだ。
いつもこういうふうにしてやる気を出させているらしいが俺にも配慮してほしいもんだ。
チームのお荷物になるのは目に見えている。
入隊してすぐ険悪な仲になるのは最悪だ。
シナイ「じゃあ最後にブライトは初めてだから俺と一緒のチームな。」
うん、物凄く配慮してくれてた。これも意外だ、実は優しいんだな。
「それじゃあ初めっ、夕暮れまでにはここに集合だぞー」
その言葉を皮切りにそれぞれ散っていき、この場に俺とシナイさんの2人だけが残った。
俺「あのーそろそろ僕たちも探し始めません?」
どういうわけかシナイさんは動こうとせず、スタート地点の周りを歩きまわってときどき地面を見つめている。
もう何分こうしているだろう。
俺「確かにシナイさんだけならこんなことしていても余裕で優勝かもしれませんけど。」
「俺というお荷物がいることを忘れないでくださいよ。早く探し始めましょう。」
シナイ「いや俺たちが狩る獲物はもう決まっている。居場所も分かる。」
予想外の答えに戸惑う俺にシナイさんはスッと地面を指さす。
なんだ?熊の足跡?なんでここに?
その足跡は元の世界での熊の足跡によく似ていた。馬がいるんだから熊もいるのか、だがそれにしてもこの足跡は大きすぎる。
「やっぱ降りてきてたか。近くの山からだ。」
「食べ物を探してってことですか?」
「そうだ、さっき馬車からこいつに食べられたモンスターの死骸が見えた。この様子じゃこのへんはもう食われた後だな。」
「ちなみにそのモンスターってどんなやつなんですか?」
シナイ「見た目は普通の熊に悪魔の角や尻尾、羽が付いただけだけだが、強さはケタ違いだ。」
「名をデビルベアー、といっても熊に悪魔が取り憑くなんて前例が無く最近俺たち騎士団がつけた名前だが。」
「こいつは山の生物を食い荒らした。で、先週第6隊が向かったが、敗走した。」
俺「えっ、騎士団が!?そんなに強いんですか?」
シナイ「なにせ新種で、戦い方が分からなく、情報が無かったからな。」
「俺、嫌ですよそんなのと戦うなんて。」
「ああ、こいつは危険すぎる、だから俺だけでやる。お前は走って他の班員と合流しろ。」
「いやシナイさん1人じゃ無理ですって、だって第6隊20人でも敵わなかったのに、それにどうやって倒すつもりなん、
と言いかけたところでシナイさんが口の前に人差し指を持っていく。
シナイ「シッ、近いぞ」
俺「えっ」
「デビルベアーは影の中を移動する。向こうで影が揺れるのが見えた。」
影の中を移動するって、この高い木ばかりの森じゃ影だらけじゃないか。
「早く逃げろ!来るぞ!!」
シナイさんはすでに腰の双剣を抜き戦闘体勢に入っている。
すぐ近くの影が大きく揺れる。
俺があっと思った瞬間、影から飛び出してきたそいつはすでに俺の鎧に爪を立てていた。
俺を守るための鉄の鎧が粉々に破壊される。
声を上げる時間などない、振り下ろされたもう片方の腕に俺の腹は引き裂かれ
「スキル発動、疾走dash 筋力増強power up」
ていない、飛び散る血の代わりに俺が見たのは、代わりに吹っ飛ぶそいつ、デビルベアーの姿だった。
「シ、シナイさん、俺、、」
「早く逃げろ、俺が時間を稼ぐ。」
「こ、腰が抜けて立てないです。」
「なんだと?」
奥で頭を振りながら起き上がったそいつは顔につけられた三日月の形の傷をさすり、こっちを睨みながら再び影に潜んでいく。
「スキル発動、跳躍上昇leap」
シナイさんはそれを確認した後俺を担ぎ驚異的な跳躍力で大木に登りその太い枝に俺を座らせる。
「ここでじっとしていろ、あいつを倒した後降ろしてやる」
双剣を持ち背中を向けデビルベアーの潜む下を睨み返しながらそう言うシナイさんに俺はただただ頷く。
この人ならきっと倒せる。
そう信じることしか、俺にはできない。
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さて、ブライトは安全な場所に避難させたし、あいつのところに戻るか。
それにしても弱いほうから狙うとはなんという狡猾さだ。
熊の見た目をしていても中身は悪魔一色って訳か。
下を向くが姿はなく、じっと潜んでいるのか影が揺らめく気配も無かった。
だからといってこのまま睨み合いを続けるつもりも無い、危険を承知で降りるしかないのだ。
俺はあえて隙を晒すようにしてバンジージャンプをするかのように両手を大きく広げてどうぞ狙って下さいと言わんばかりの大声を出しながら飛び降りる。
1秒、2秒、、地面に着く寸前 着地先にてあいつは姿を表した。
比喩ではない殺意のこもった本物の悪魔の目、そしてすぐそばに添えられる王国製の鎧をも一撃で砕く破壊力をほこる爪。
もちろん空中ではそれを躱すことなど不可能、俺はその姿を見た直後すぐさま剣を下に向ける。
そのまま爪がとんでくるより先にあいつの肩に剣を突き刺した。
苦しそうな大きなうめき声が森に響く、それに負けぬようより大きな声を出し突き刺す腕に力を入れる。
喧嘩をするとき声を上げながら相手に拳を突き出すのと同じ要領だ。
肩の関節をやられているため、いつまでたっても爪がとんでくることはない。
このまま続ければ俺の勝ちだ、作戦勝ちだ。
........!! 突然脇腹に鋭い痛みを感じた。
腕にこめている力が弱まっていくのが分かる。
下を向くと鎧を貫通し尻尾が刺さっていた、そう悪魔の代名詞である先の尖った鋭利な尻尾だ。
まずい。このままだと押し返される。
急いで剣を引き抜き飛び退く。
その際刺さっていた尻尾も同時に勢いよく外れたことで、痛みとともにそう現実は甘く無いことを感じさせられた。
そうしている間も服の中に血が侵入し感触が伝わっていく。
そして目の前のデビルベアーの顔が苦痛で歪んでいるのが見える。それはお互いが満身創痍だということを表していた。
そう今の状態だけでいうならばの話だが。
そのままデビルベアーの顔を睨んでいるとある異変に気づく。
最初顔につけた傷が無くなっている。普通の人間なら一生ものの傷の深さだったはずだ。
傷が回復するなどという話は先に相対したはずの第6隊から聞いたことが無かった。
きっと彼らは傷をつけることすら出来なかったのだろう。
傷が回復するという事実を理解しその顔に焦りの表情が見え始めたとき、眼前の敵は初めて笑みを見せた。
そして治ったばかりの腕を振り回し、動作確認をする。
そうデビルベアーはこのために圧倒的な量の食事をとることが必要なのだった。
もちろん食事をすることで手に入れたエネルギーを全て使い切れば再生することはない。
だがこの森中の生物を手当たり次第に捕食した食物連鎖の頂点に対しエネルギーが尽きる想像など出来るはずも無かった。
腹に傷を受けたシナイには時間がなく、しかもその短い時間の間に途方もない数の傷をつけなければならなかった。
しかし、その事実を知ったからといってシナイが戦意を失ったわけではない。
シナイは回復するならば一撃で絶命させればよいのだ、という思考に一瞬でたどり着いた。
デビルベアーは目の前でもう余裕だといったような笑みでこちらを見ている。
だがそれを見返すシナイの目には炎が灯っていた。
この戦いの勝敗は一瞬で決着が着く。
正直今の状況なら五分五分だろう、勝てば生き、負ければ死ぬという人生最大の大博打。
突如脳裏によぎるある一つの考え、それは使えば勝率をほぼMAXまで引き上げられる禁止された力の解放。
シナイの生まれ持ったスキル爆発力boostの使用。
そのスキルは一時的に全てのステータスを大幅に上昇させることが出来るもの。
だがそれはMax HPの消費と引き換えに行われる犠牲強化だ。
指で長方形を描きステータス画面を表示させHP欄を確認する。
HP 62/155 現在のMax HPは155と表示されているが、元々のMax HPは410だったことを思い出した。
あの頃交わした約束が蘇ってくる。
あの頃といっても数ヶ月前のことだが、俺はレオさんに勝利するべくレベル差のある相手に挑んでは爆発力boostで勝利するというのを繰り返していた。
レベルが上がるとMax HPも上がるため対したデメリットには思えなかった。
いつものように闘技場でレオさんに負け悔しかった俺はある日の夜、街を抜け秘密の特訓に励んでいた。
すると女の子の悲鳴が遠くから聞こえてきた。急いで向かうと青いローブを纏った複数の魔法使いたちが女の子を連れ去ろうとしているのが見えた。
このまま出て行っても敵わないと思い、いつものように爆発力boostを使い勝負にでた。
結果は惨敗、剣ごときで魔法に勝てると思うなという捨て台詞まで吐かれる始末だった。
俺は無力だった、そして救えないほどの阿呆だった。
目の前の惨状を忘れてこんなときでもレオさんだったら助けられたんだろうなんてことを考えていた。
地面に倒れ込んでいた俺がかろうじて頭だけを上げると、連れていかれる寸前の女の子がこちらを見ているのが見えた。
その表情は泣いているのでも、苦しんでいるのでも無かった。ただ全てを諦めた顔だった。純粋無垢な15、16の少女でもこんな顔になるといった事実が一番俺の心を揺さぶった。
この少女の裏には彼女のことを掴んで離さない得体の知れない大きな恐怖の根源があるのだということが伝わった。
ああ、なんてことだ。
こんなときにレオさんがいたらなどと情け無い。
ここに今居るのは、俺だけだ。
あのいたいけな少女を助けることが出来るのは俺だけなのだ。
その時俺の中で何かが爆発した。
それはレオさんに対する執着だっただろうか、心のどこかにあったどんな敵と対峙するときにも見せる余裕さだっただろうか。
爆発力boost 爆発力boost 爆発力boost 爆発力boost 狂ったようにスキルを重ねてかけていく。
4人の魔法使いが後ろの気配に気づいた時にはすでに全員を地面に伏せさせていた。
そのまま気絶させ、少女を救出した。
少女を抱えて街に戻っていると、腕の中から泣き声が聞こえてくる。
しばらく泣いたあと安心したのだろうか、そのまま腕の中で眠ってしまった。
そして次の朝、医者に行き昨日の傷を治してもらおうとしていると、少女が話しかけてきて、俺に魔法をかける。
???「私、回復魔法使えるから、、」
時間が立つにつれ昨日の傷が癒されていくのが分かった。
だが身体に違和感を覚えた。回復したはずなのに身体が重いままだ。
すぐにHPを確認するが大幅にMax HPが減っていて155/155 になっていた。
このとき俺は何回も爆発力boostをかけると減る量が倍増していくということを理解した。
???「私のせい、、? 私を助けたから?」
「違う、それだけは違う。」
???「危険な力、私のために使ったんでしょう?」
「それは、、そうだが君が気に病むことはない。」
???「本当?」
「ああ、そうだ!」
???「なら、もうその力使わないって約束してくれる?」
「ああ、いいぞ!絶対にもう二度と使わない。」
???「そういえば、あなたの名前聞いてなかった。」
「俺の名前はシナイだ、宜しくな。君の名前は?」
???「私....?私の名前は、、
と、ここまで回想したところで再び選択の時間だ、約束を破るか、破らないか。
破れば勝利は確実、破らなければ五分五分、
もし使用しても減るのはたった1だけ、それで負ける可能性を0にするのが賢い選択だろう、負ければHPは0、死ぬんだからな。
それにさっきから迎え撃つつもりでいるのか目の前で余裕を見せているデビルベアーの鼻を明かしてやりたいという気持ちもある。
なんて、使う訳ないんだけど。
ん...? 待てよ。余裕、余裕か....
今気づいたがこの勝負はスキルを使わなくても最初から勝ちは確実だった。
前で仁王立ちをしているデビルベアーに昔の自分の面影を重ねる。
昔の自分と対峙しているようだった。
目を閉じて息を整え、剣を構える。
そして目を開き、眼前の敵へ勢いよく突っ走る。
それに気づいたデビルベアーも腕を大きく前に出し迎え撃つ姿勢を整えようとする。
が、間に合わなかったようだ。あいつにとって想定外に素早かったらしい。
腕が前に出されたときにはすでに懐に潜り込んでいた。
下から片方の剣で両腕を斬り落とす。
その瞬間デビルベアーの身体が下から闇に呑み込まれていく。
焦って影の中に潜ろうしたんだろうが逆効果だ。
そのまま腰の辺りに顔がきたところでもう片方の剣を喉に思い切り突き刺した。
「じゃあな、」
急所を刺されたその体はドロドロになって影に溶けて行った。
昔の俺にちゃんとしたさよならを告げられたような気分だ。
さて、ブライトを下ろしてやるとするか。
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