抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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メリれ!クリスマス!

 ひなた達がメディア演習をしていた頃、オールマイトは徹夜で作業をしていた。

 すると校長が声をかける。

 

「また寝てないのか」

 

「校長! いえいえ寝てますよ! お気遣いなさらず!」

 

「君はやつれるという現象を履き違えてるのさ」

 

 残業のしすぎで目の下に濃い隈ができ顔が氷柱のように尖ったオールマイトに、校長がツッコミを入れる。

 

「古い時代ですと記録も疎でして」

 

「寝ないと毛に悪いのさ。報告があってね。近々、インターンを再開させる」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその後、職員会議でインターンの話題が上がった。

 

「これ何です?」

 

「突然インターン再開だなんて」

 

「椅子あるでしょう…」

 

「暖を取るにはここが最適解なのさ」

 

 資料を見たミッドナイトとセメントスが尋ね、相澤の捕縛武器の中から顔を出す校長に相澤がツッコミを入れると校長が資料を見ながら答える。

 相澤の捕縛武器の中は程良い温もりがあり、もはや校長のお気に入りスポットとなっていた。

 

「元々各事務所と我々の間で決めた自粛…様子見だったわけだが、今回なんと公安委員会から“ヒーロー科全生徒の実地研修実施”を要請された」

 

 校長は、相澤の捕縛武器の中で暖をとりながら報告をした。

 すると、それを聞いたブラドキングが声を上げる。

 

「要請〜!? インターンを再開しろって言ってるのか!」

 

「うん…」

 

 ブラドキングが声を上げると、校長が頷いた。

 するとミッドナイトが自身の仮説を全員に尋ねる。

 

「これって…人手が足りなくなるって言ってる? このヒーロー飽和社会で」

 

「『昨今増加している組織化した(ヴィラン)への対応学習を目的とし…』泥花ノ件デ何カアッタニ違イナイ」

 

「連合が絡んでるはず。何でこう…ぼかしてる」

 

 ミッドナイトに続けてエクトプラズムとスナイプが言うと、校長が自身の仮説を話す。

 

「公安は何か重大な危機を嗅ぎ取ったんだろうね。ぼかすのは誰かに知られたくないから…香山くんの言う通り、これ自体がメッセージのように感じる」

 

「そりゃあ学徒動員なんて大っぴらに言えませんよ。尋常じゃない」

 

「こんな事初めてです…」

 

「何にせよ…危機に備えるのはヒーローの常さ。極力実績のあるヒーロー達にあたってみよう。『冬休みの課題』だね。皆はこの後、生徒に伝えてくれ…それと相澤くん、考案ついでに例のプログラムの──…」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして12月23日、A組寮では。

 

「モミの木のお通りじゃああああああ!!」

 

「運べ━━━!!」

 

 切島と上鳴が騒いでおり、男子達がモミの木を寮内に運んでいた(八百万の“個性”では生物を創造できないため生徒達の自腹で調達した)。

 そして女子達は、主に寮内の飾り付けをしていた。

 

「クリパだ━━━!!」

 

「わーい!!」

 

 主に芦戸と葉隠がはしゃぎながら八百万が創造した飾りを寮内やツリーに飾っていた。

 一方、厨房では料理が得意な砂藤とひなたがご馳走の下拵えをしていた。

 

「さて、りっきー! 僕らは料理の下拵えしよっか。下拵えに一日かかるやつとかあるし」

 

「おう!」

 

 二人は、パーティー用に買ってきた食材を調理台の上に並べて下拵えを始める。

 するとひなたにお遣いを頼まれていた相澤が厨房に顔を出す。

 

「相澤、砂藤。頼まれてたもの買ってきたぞ」

 

「ありがとうございます先生!」

 

 相澤が紙袋を渡すと、ひなたが礼を言いながら受け取る。

 実はクリスマスパーティー用の料理にワインが必要なのだが、未成年だと酒類が買えないのでひなたが相澤にお遣いを頼んだのだ(ひなた曰く『肉料理や魚介料理はワインを使うと臭み消しになってコクが出る』との事で、『エリちゃんが参加するパーティーの食事だから拘りたい』との事)。

 

「で、何を作るんだ」

 

「えーっと、こんな感じです」

 

 相澤が尋ねると、ひなたはクリスマス当日のご馳走のメニューを相澤に見せた。

 すると相澤は、ひなたの作ったメニュー表を見て微かに目を見開く。

 パーティーには壊理が来るため、子供が好みそうなメニューで固められており、デザートも壊理の好物のリンゴを使ったスイーツを用意していた。

 

「随分と凝るんだな」

 

「へへーん、まあ明日は特別ゲストが来ますからね!」

 

 相澤がひなたと砂藤の張り切りっぷりに驚いていると、ひなたはドンッと胸を叩く。

 ひなたは、壊理が来ると聞いて張り切っており、壊理に喜んでもらえるよう最高に美味しい料理を作るつもりでいた。

 その後も、クリスマスパーティーの準備は着々と進められていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 そしてクリスマス当日。

 オールマイトの元に、校長から電話がかかってくる。

 

『寮にしてから4ヶ月、誰もおかしな様子はないさ』

 

 校長は、寮内の生徒達の様子を見て出した結論をオールマイトに伝えた。

 入学当初から(ヴィラン)に生み出されたという事で監視という建前で見守ってきたひなたに関しても、やや成長速度が早すぎるくらいで特に(ヴィラン)と通じている様子はなかった。

 

「では…! 生徒の中に(ヴィラン)連合のスパイはいないと──…!」

 

『この先連合に動きがあったとして、そこで何も無ければ』

 

「……雄英ヒーロー科は皆、ヒーローの心を持っています」

 

『知ってるよ。ところで今日は帰ってくるのかい?』

 

「今日中は厳しいかと…緑谷少年に何か…!?」

 

『君、今日が12月何日か忘れちゃいないかい!?』

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「「「Merry Christmas!」」」

 

 A組は、豪華な料理を並べたテーブルの周りを囲むソファーに座りクラッカーを鳴らした。

 爆豪以外は全員、自分の“個性”がモチーフの飾り(緑谷に関しては自身の頭髪と同じ緑のモジャモジャ)がついたサンタ服を着ていた(飯田は眉と髭を装備し一見誰だか分からなくなっていた)。

 

「インターン行けってよー。雄英史上最も忙しねェ一年生だろこれ」

 

「2人はまたリューキュウだよね」

 

「そやねぇ、耳郎ちゃんは?」

 

「聖夜最高」

 

 ひなたと芦戸を除く女子達が話をしていると、峰田が鼻の下を伸ばしてサムズアップをする。

 するとサンタ飯田が緑谷に尋ねる。

 

「緑谷くんはどうするんだい、やはりナイトアイ事務所に行くのか?」

 

「僕もそう思ってたんだけど…ここ最近仕事が立て込んでるみたいなんだ。グラントリノもダメだから今宙ぶらりん」

 

「そっかぁ」

 

 緑谷が言うと、切島が納得する。

 実は泥花の悲劇以降ナイトアイ事務所は仕事が立て込んでおり、その関係で緑谷はインターンを断られてしまったのだ。

 すると緑谷が話を続ける。

 

「任意参加だった前回と違って今回は課題だから学校で紹介してくれるって……」

 

「ほぉー、あー、じゃー…爆豪はジーニストか!?」

 

「あ!?」

 

 爆豪が切島に対して返事をすると、その隙に上鳴が爆豪にサンタ帽を被せ芦戸がサンタ服を着せようとする。

 

「……決めてねェ」

 

 爆豪は、そう言って上鳴に被せられた帽子を脱ぎ投げ捨てる。

 

「でもまーおめー指名いっぱいあったしな! 行きてーとこ行けんだろ」

 

「今更有象無象に学ぶ気ィねェわ」

 

 そう言って爆豪が去ろうとすると、再び芦戸と上鳴が爆豪にサンタ服とサンタ帽を着せようとする。

 案の定、爆豪は二人に対してブチ切れた。

 

「着せんじゃねェよ!!」

 

「同調圧力に屈しなよー」

 

 荒れる爆豪に対し、芦戸が無理矢理サンタコスを押し付けてくる。

 すると、峰田が突然声を荒げる。

 

「おオい!!! 清しこの夜だぞ!! いつまでも学業に現抜かしてんじゃね━━━!!」

 

「斬新な視点だなオイ」

 

「不思議な日本語」

 

 峰田の『学業に現を抜かすな』という発言に、心操がツッコミを入れる。

 心操はというと、緑色のサンタ服にメガホンがついたサンタ帽を被っていた。

 するとそこへターキーを持った砂藤が現れる。

 

「まァまァ、峰田の言い分も一理あるぜ。ご馳走を楽しもうや!」

 

「「「料理もできるシュガーマン!!」」」

 

 砂藤がターキーを持ってくると、A組は一斉に声を揃える。

 すると豪華な料理を持ったひなたが後ろからヒョコッと現れる。

 

「そうそう、今日は特別ゲストが来るんでたーんと豪華にしてみました! 召し上がれ!」

 

「「「何かと才能ガールひなちゃん!!」」」

 

 ひなたが登場すると、クラスメイトが声を上げた。

 ひなたは、丈の短い赤いサンタ服の下にお揃いの短パンといった格好で、クラスメイト同様自身の“個性”をモチーフにした飾り(ヘアピンと同じフォルテッシモのマーク)がついたサンタ帽を身につけていた。

 ひなたと砂藤が次々と厨房から料理を運び、テーブルにはあっという間に豪華な食事が並んだ。

 

「美味そう…!」

 

「これ本当に食っていいのか…!?」

 

 クラスメイトは、砂藤とひなたが作った食事に、思わず目を輝かせる。

 

 野菜料理はカプレーゼ、ポテトサラダ、ブロッコリーとオリーブのリースサラダ、ほうれん草とキノコのバターソテー。

 前菜はフライドポテト、一口サンド、オニオンリング。

 肉料理はターキー、フライドチキン、ローストビーフ、煮込みハンバーグ、一口コロッケ、サイコロステーキ、鴨肉スモークのみかんソースがけ。

 魚料理はシーフードフライ、カルパッチョ、サーモンパイ、アクアパッツァ。

 その他メインはチーズフォンデュ。

 米料理はパエリア、ピラフ、ガーリックライス。

 パスタ料理はラザニア、ミートソースパスタ、ジェノベーゼ。

 パンはシュトーレン、パネトーネ、パンドーロ。

 スープはクラムチャウダー、ミネストローネ、コーンポタージュ、オニオングラタンスープ。

 デザートはホールケーキ、ブッシュ・ド・ノエル、フルーツタルト、アップルパイ、フルーツポンチ、クレームブリュレ、プレッツヒェン、シュークリーム、ジェラート(イチゴ、リンゴ、チョコ、ミルク、抹茶の5種類)。

 飲み物は紅茶、コーヒー、烏龍茶、ジュース(オレンジ、リンゴ、ブドウ)、炭酸飲料(コーラ、サイダー、ジンジャーエール)。

 

 見ているだけで食欲をそそる食事が並び、クラスメイトは思わず唾を飲んだ。

 クラスメイトのリアクションを見て、ひなたは嬉しそうに微笑む。

 すると葉隠がひなたに尋ねる。

 

「ひなたちゃんはやっぱり今回もファットガム事務所?」

 

「んや、今回はエンデヴァーインターンOKみたいだからエンデヴァーのとこ行こうと思ってる」

 

「そっかー」

 

「ひー君は? またお父さんとこ?」

 

「うん」

 

 ひなたが尋ねると、心操が頷く。

 ひなたが二度目のインターンの話をしていると、扉から相澤の声が聞こえてくる。

 

「遅くなった…もう始まってるか?」

 

 相澤の声が聞こえてくると、A組が扉の方を振り向く。

 扉が開き、相澤とサンタ服を着た壊理が入ってきた。

 

「とりっくぉあ、とりーと…?」

 

「違う混ざった」

 

「「「「サンタのエリちゃん!」」」」

 

 ハロウィンと混ざってしまっていた壊理に相澤が指摘すると、A組のテンションが一気に上がった。

 

「かっ、可愛〜!」

 

「おにわそとおにわうち」

 

「エリちゃんそれ節分。でもカァイイからいいや!」

 

 麗日がスライディングすると壊理は今度は節分と混ざってしまい豆を撒き、ひなたがそれを指摘した。

 すると緑谷がひなたに話しかける。

 

「相澤さん、特別ゲストって…」

 

「うん! もちろんエリちゃんの事だよ! 僕はお父さんから聞いたから知ってたんだけど」

 

「もー! 言ってくれれば良かったのにー!」

 

「ごめんごめん、皆をビックリさせようと思って内緒にしてたんだ」

 

 壊理の事を当日まで黙っていたひなたを芦戸が軽くポカポカすると、ひなたは笑顔を浮かべながら謝る。

 

「似合ってるねぇ!」

 

「通形先輩はいないンスか!?」

 

「今日はこっちでと伝えてある。クラスの皆と過ごしてるよ。ホラ、行っておいで」

 

 相澤が言うと、壊理はA組に声をかけに行った。

 壊理は、少し緊張気味にA組の輪の中に混じる。

 緑谷は、壊理の角がまた少し大きくなっている事に気がつく。

 

「角…また大きくなってますね」

 

「ああ。前向きだよ。ひなたが“個性”の指導をしているしな」

 

 緑谷が言うと、相澤が答えた。

 するとひなたがヒョコッと現れて緑谷に話しかける。

 

「あ、デッくん聞いて! あのね、エリちゃん勉強も頑張ってるんだよ! この前ひらがなとカタカナ全部書けるようになったんだよね!」

 

「そっかぁ!」

 

 ひなたが言うと、緑谷は嬉しそうな表情を浮かべる。

 壊理は“個性”の練習だけでなく勉強も少しずつ進めており、“個性”の練習はひなたと相澤が、勉強はエクトプラズムとセメントスが教えていた。

 ずっと治崎に道具扱いされまともな教育を受けられなかったせいで勉強はかなり遅れており、勉強と“個性”の練習を並行してやらなければならないため7歳児にはハードなスケジュールとなっていたが、それでも壊理は頑張ってついてきていた。

 

「せっかくだからクリスマスソングでもどう?」

 

「いいね! きょーちんキーボード貸してー」

 

 耳郎はクリスマスソングを歌い、ひなたは耳郎の部屋からキーボードを借りて(流石にひなたの部屋のピアノは持って降りられないため)伴奏をした。

 他のA組は、砂藤とひなたが作った料理を楽しむ。

 ひなたは、チーズフォンデュの鍋のコンロに火をつけながら、壊理に声をかける。

 

「エリちゃんチーズフォンデュやってみる?」

 

「ちーずふぉんでゅ?」

 

「パンとかお肉とかお野菜とかを、串に刺してトロトロに溶けたチーズにつけて食べるの。楽しいしおいしいよ」

 

 ひなたは、まずは食べやすい大きさにカットしたバケットを鉄串に刺し、チーズに浸して見本を見せる。

 するとそれを見てやってみたくなったのか、壊理も恐る恐るバケットを鉄串に刺し、熱々のチーズにつけた。

 バケットをチーズにくぐらせて引き上げると、ドロドロに溶けたチーズがバケットから滴り落ちる。

 心操は、紙皿を用意しながら壊理に話しかけた。

 

「熱いから気をつけて」

 

 心操が声をかけると、壊理はコクっと頷き、熱々のバケットを吹き冷ましてから一口齧る。

 すると壊理の頬が緩み、表情から多幸感が伝わってくる。

 

「…フフ、楽しいしおいしい」

 

 壊理が口の端にチーズをつけながら言うと、ひなたはパァッと笑顔を浮かべる。

 

「良かったぁ! いっぱいご飯作ったから、いっぱい食べてね!」

 

 ひなたは、腕によりをかけて作った料理を次々と壊理に勧めた。

 壊理は、特にチーズフォンデュとアップルパイが気に入った様子だった。

 障子は相澤に気を利かせて飲み物を差し出しており、上鳴はというと部屋に戻ろうとする爆豪を追いかけていき強制的に連れ戻していた。

 一通り料理を楽しんだ後は、待ちに待ったイベントが始まった。

 

「それではそろそろプレゼント交換をしよう!」

 

「「「待ってましたー!!」」」

 

 飯田に言われ、A組はそれぞれ用意したプレゼントを出す。

 A組は、それぞれプレゼントに紐を結びつけ、紐くじのように長く伸ばした。

 

「エリちゃん先いいよ」

 

「え?」

 

「こういうのは小さい子優先!」

 

「それを言うならおま「お黙り!」ウェ!?」

 

 幼児体形のひなたが言うと上鳴がツッコミを入れようとし、ひなたはフライドチキンの骨を上鳴の口に突っ込んで黙らせた。

 

「あ、じゃあ…これ!」

 

 壊理が紐を一本選ぶと、A組も紐を一本ずつ選んだ。

 

「俺はこれ!」

 

「私はこれ!」

 

「バクゴー! お前も選べよ!」

 

「はいかっちゃんの分!」

 

「は? ンなモン誰が選ぶかよ」

 

 切島が声をかけひなたが爆豪の分の紐を持ってくると、爆豪は悪態をついて部屋に戻ろうとする。

 すると瀬呂がひなたに合図を出した。

 

「ひなちゃん行ったれ」

 

「イェッサー!」

 

 瀬呂から指示を受けたひなたは、ビシッと敬礼をすると、素早い動きで爆豪の前に回り込んで足止めする。

 ひなたは、クラスメイトを無視して部屋に戻ろうとする爆豪の前に立ち、姿勢を低くしてステップを踏みながら呟く。

 

「カバディカバディカバディカバディ…」

 

「邪魔だどけ触角!!」

 

 ひなたが爆豪の目の前でステップを踏んで部屋に戻ろうとするのを邪魔していると、爆豪がとうとうキレた。

 するとその隙に芦戸が爆豪の足に紐を結びつける。

 

「みなっちナイス!」

 

「結んでんじゃねェクソが!!」

 

 ひなたが芦戸に向かってサムズアップをすると、芦戸がサムズアップで返す。

 すると爆豪がさらに荒れた。

 

「ではせーのでいくぞ!」

 

「「「せーの!!」」」

 

 飯田が全員に言うと、全員紐を持って掛け声を上げ、同時に紐を引っ張る。

 

「お! それ俺の!」

 

「あ、やっぱり」

 

 瀬呂は、アジアンテイストのブランケットを持った耳郎に声をかけた。

 瀬呂は、蛙吹が用意したであろう蛙の手鏡を持っていた。

 

「わぁダンベル!」

 

 芦戸が選んだのは、切島が用意したダンベルだった。

 

「こ、これは……」

 

「わ、私はこれ…」

 

「エリちゃん!?」

 

「………」

 

 飯田が選んだのは八百万が用意した金の延べ棒、壊理が選んだのは常闇が用意した変わったデザインの大剣、爆豪が選んだのは飯田が用意したメガネだった(無論嫌そうに眉間に皺を寄せていた)。

 

「自分で買ったやつじゃんか…」

 

「いらねぇ…」

 

 上鳴は自分で用意したバスケットボールを引いてしまい、峰田は青山のブロマイドを引いて落ち込んでいた。

 

「お、おおお…オモチ…!」

 

「オールマイトキーホルダー…」

 

 緑谷と麗日は、互いに用意したプレゼントを引き顔を赤くしていた。

 そしてひなたはというと。

 

「僕のプレゼントはー………あれ?」

 

 ひなたが引いたのは、白猫が編み込まれたピンク色の手編みのマフラーだった。

 そのマフラーに見覚えがあったひなたがふと心操の方を見ると、心操は黒猫が編み込まれた水色の手編みのマフラーを引いていた。

 二人が引いたのは、クリスマスの為に一緒に編んでいたお揃いのマフラーだった。

 

「「あ……」」

 

 ひなたと心操もまた、互いに用意したプレゼントを引いていた。

 その事に気がついた二人は、目が合うと小さく声を漏らす。

 

「き、奇遇だね…キグー」

 

「うん……」

 

 ひなたがほんのりと頬を赤く染めながら心操に話しかけると、心操も頬を赤く染めて頷く。

 するとそれを見ていた峰田が二人に血眼を向けてぺッと唾を吐き捨てた。

 

「何なん。さっさと終われクリスマス」

 

「唾を吐くのはやめたまえ峰田くん!!」

 

 峰田が嫉妬に塗れたオーラを放ちながら唾を吐き捨てていると、飯田がフルスロットルで峰田に注意をする。

 こうして楽しいクリスマスパーティーが終わった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 パーティーの後、壊理は相澤と一緒に教師寮へ戻りA組は全員片付けを始めた。

 

「緑谷、大丈夫それ」

 

「うん」

 

「あ、それ纏めといて。後で片付けるから」

 

「りょー」

 

 緑谷と耳郎は一緒に食器の片付けをしており、緑谷が一気に食器を運ぼうとすると耳郎が声をかけた。

 そしてひなたはというと、八百万、瀬呂、峰田の“個性”を使った飾り付けを片っ端から“個性”で消し飛ばしていた。

 

『YEAHHHHHHHHHHHH!!!』

 

「おお!!」

 

「毎度見るけどすげえ」

 

 ひなたの声が当たった飾りが次々と光の粒になって消滅していくと、それを見たクラスメイトが感心する。

 ひなたの技は、もはや名人芸だった。

 

「ひなちゃんこっちも頼むわ!」

 

「ゼヒュ…待って今行く…」

 

「あんまり無理すんなよひなた」

 

 上鳴に呼ばれたひなたがゼエゼエと息をしながら駆けつけると、心操がひなたを心配する。

 クラス全員でパーティーの片付けをしている最中、轟が突然緑谷と爆豪に声をかける。

 

「緑谷、爆豪。もし行く宛が無ェなら、来るか? エンデヴァーのインターン」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 パーティーが終わった後、ひなたは心操の部屋に行き、一緒に二次会をした。

 ひなたは、部屋の中でくつろいでいたジジに、新しい猫用のおもちゃやマタタビボールの入った大きな靴下をプレゼントした。

 

「はい、ジジにもプレゼント!」

 

「うにゃあ」

 

 ひなたがジジにプレゼントを贈ると、ジジは嬉しそうに新しいおもちゃで遊んだ。

 ちなみに今晩のジジの食事は、猫用ケーキにチュール、鶏ささみハンバーグと、いつもより豪華な食事だった。

 本当はジジもパーティーに連れて行きたかったのだが、衛生面が心配なのと、万が一壊理を驚かせてしまったら良くないという事で、一緒にパーティーをやる代わりにケーキやプレゼントを用意したのだ。

 

「じゃ、僕達も二次会しますか」

 

「だね」

 

 ひなたが言うと、心操が頷く。

 ローテーブルの上にお菓子を並べ、それを二人で食べながら雑談をした。

 マグカップに入ったココアを吹き冷ましているひなたは、モコモコの部屋着とホットパンツといった格好で、スラリとした美脚が覗いていた。

 ひなたは、心操の部屋にあった猫のぬいぐるみを抱きしめ、テーブルの上のおかきをポリポリと齧りながら心操に話しかける。

 

「楽しかったねぇ、クリスマスパーティー」

 

「うん。来年もやりたいな」

 

 ひなたが話しかけると、心操は首の後ろを手で押さえながら答える。

 するとひなたは、猫のぬいぐるみに頬擦りをしながら、ふにゃりと笑みを浮かべる。

 

「えへへ…こうやって友達と一緒にクリパやるの、何気に初かも。今日の事、一生の思い出になりそう」

 

「そっか」

 

 ひなたが幸せそうに満面の笑みを浮かべて言うと、心操は微笑ましそうにひなたを見つめる。

 心操の隣でお菓子を食べているひなたは、心操のプレゼントのマフラーを首に巻いていた。

 ひなたがマフラーを大事そうに撫でていると、心操はマフラーを指差しながら尋ねる。

 

「それ、暑くないのか?」

 

「大丈夫なの! ひー君のプレゼントだから!」

 

「そういうもんか」

 

「そういうもんなの!」

 

 暖房のきいた室内でマフラーを巻いているひなたに対し、心操が暑くないのか尋ねると、ひなたは嬉しそうにマフラーに頬擦りしながら答えた。

 ひなたにとっては、人生で初めてできた恋人からのプレゼントは、何よりの宝物だった。

 偶然とはいえ心操からプレゼントを貰って幸せな気分になったひなたは、ふふっと笑いながら心操に寄りかかった。

 すんと鼻を鳴らすと愛する恋人の匂いが鼻をくすぐり、さらに多幸感に満たされる。

 

「えへへ、ひー君いい匂いする」

 

 ひなたが幸せそうに表情を蕩けさせながらポツリと呟くと、心操は思わず目をパチクリさせる。

 するとそれを見たひなたは、心の中で思った事が声に出ていて、それを心操に聞かれていた事に気がつき、みるみる顔を赤くする。

 

「あっ、も、もしかして今の声に出てた!?」

 

「まあな」

 

「うわーっ!! 恥ずかしい!! ごめんなさい!! そんなっ…そんなつもりじゃなかったのに!! 僕ってばはしたない!!」

 

 慌てふためいた様子で尋ねると心操が頷くので、ひなたはやはり心の声が漏れていたのだと確信し、耳や首まで真っ赤にして狼狽した。

 図らずも本音が口に出てしまい、自分でも気持ち悪い事を言ってしまったのではないかと急に恥ずかしくなり、顔を両手で隠しながら首をブンブンと横に振ってのたうち回った。

 ひなたは、顔を赤くしながら必死に取り繕おうとする。

 

「ちがっ……今のは、ホント違くて…! ホント、何言ってんだ僕…!」

 

「違うの?」

 

「えっ?」

 

「俺がいい匂いするって言ったの、違うのか?」

 

「あ……」

 

 心操の言葉にひなたが振り向くと、眼前に心操の顔があった。

 ひなたは思わず目をパチクリさせ、元々赤くなっていた顔をさらに赤くする。

 心操が見つめている間にも胸の鼓動がどんどん速くなり、胸の鼓動が心操に聞こえてしまうのではないかという考えが頭を過った。

 それと同時に、心のどこかに、胸の鼓動が聞こえてほしいという思いが確かにあった。

 すると心操は、狼狽しているひなたを後ろから抱き寄せ、耳の後ろに顔を近づけて匂いを嗅いだ。

 

「…ひなた、いい匂いする」

 

「えぇ!?」

 

 心操がひなたの耳の近くで呟くと、ひなたは後ろを振り向いて目を丸くしながら驚く。

 不意打ちに開いた口が塞がらない様子のひなたを見て、心操はクスッと笑った。

 

「奇遇だな。同じ事考えてた」

 

「っ〜!!」

 

 心操が笑いながら言うと、ひなたは顔はトマトのように真っ赤になり、心臓が口から飛び出そうな程跳ね上がる。

 ひなたが照れ隠しに猫のぬいぐるみに顔をうずめると、心操はひなたを揶揄うかのように後ろからひなたを抱きしめながら頭を撫でた。

 

「俺はお前の事、いい匂いすると思ってるけど…ひなたは違うんだ?」

 

「………違く、ない、です…」

 

「正直でよろしい」

 

 心操がひなたに抱きつきながら悪戯っぽく笑って囁くと、ひなたは目を白黒させたまま途切れ途切れに呟く。

 身長差のせいで心操が後ろからひなたに覆い被さるような構図となり、余計にひなたの胸がうるさく高鳴った。

 ひなたは、後ろから心操に抱きつかれ、頬を赤く染めながら口を開く。

 

「……ねえひー君」

 

「ん?」

 

 ひなたが話しかけると、心操はひなたの方を振り向く。

 するとひなたは、心操の両頬に両手を添え、心操の唇にそっと口付けた。

 唇を離し、心操を見上げたひなたは、目に涙を浮かべながら伝える。

 

「僕と、ずっと一緒にいてくれてありがとう」

 

 ひなたは、ポロっと涙を溢しながら、心操に感謝を伝えた。

 ひなたの赤く染まった頬の上に涙の粒が流れると、心操は僅かに目を見開く。

 ひなたは、心操の目を見つめながら自分の想いを伝える。

 

「僕は、君と一緒にいられて、毎日すっごく幸せなの。ひー君は、僕と一緒にいて幸せ?」

 

 ひなたが尋ねると、心操は僅かに目を細め、頬を染める。

 そしてひなたの唇に口付け、ひなたの頭を軽く撫でながら唇を押し当てた。

 唇を離すとちゅっと小さな音が鳴り、ひなたがはにかんでいると、心操はひなたの大きな瞳を見つめながら言った。

 

「ああ。今が一番幸せ」

 

 心操が言うと、ひなたは満面の笑みを浮かべながら、心操にぎゅっと抱きついた。

 心操は、今幸せそうなひなたを見て、ひなたの背中に手を回して愛おしそうにひなたの頭を撫でた。

 二人はその後、二次会を切り上げて同じベッドで身を寄せ合って眠った。

 外では雪が降り積もり、冷たい風が吹きつけていたが、ひなたは恋人の温もりを感じながら幸せそうに眠りについた。

 

 

 

 

 

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