ではではどうぞ!
インターン開始から一週間、事務所には宿泊施設が設備されており、ひなた達は炎のサイドキッカーズと寝食を共にしていた。
ひなたにとっては職場体験以来のエンデヴァー事務所の生活で、すっかり慣れた様子だった。
「おはよーどーだい進捗はぁ!!!」
ひなたが起きると、バーニンが大きな声で話しかけてくる。
「おはようございますバーニン「朝からでけー声出すなぁ!」
「コラやめなさいかっちゃん! あんたホント失礼!」
「おはようございますバーニン!」
熱苦しいノリで絡んでくる炎のサイドキッカーズに爆豪がキレるとひなたが注意をし、緑谷が挨拶をした。
「どうよ『エンデヴァーさんより速く撃退』! あ! いーやごめんね!!? デリカシーが無かった!! わかってるよ、そんな簡単にいきっこないよね」
(煽る…!!)
バーニンが煽っていると、ひなたが顔を引き攣らせる。
するとその時、轟が部屋から出てくる。
「昨日は惜しかった。3人共、昨日の感覚大事にしていこう。今日こそエンデヴァー追い越すぞ」
「うん!」
「惜しかったのは俺だバァァアカ!! てめーは足遅ェんだよ! よって俺が上!!」
「朝からデカい声出さないでかっちゃん近所迷惑なのよ」
「黙ってろクソ触角!!」
「うっざ…」
「おはようございますバーニン」
轟が三人に話しかけると、爆豪が轟に突っかかる。
ひなたが爆豪に注意すると、爆豪がひなたに逆ギレし、ひなたが爆豪をうざがる。
一方で轟は、暴言を撒き散らす爆豪を無視してバーニンに挨拶をした。
三人は、そのまま荒れる爆豪を無視して進捗をバーニンに報告した。
「点での放出ってのがまだ慣れねェ」
「ちょっとずつ掴めてきてる気がします」
「最初は慣れなかったんですけど、やっと身体が追いついてきました」
緑谷は点での放出の感覚を少しずつ掴めている様子で、ひなたも少しずつ制御の感覚を掴んでいた。
昨日の反省点を話し合う4人はよく見るとボロボロになっており、努力と経験の積み重ねが見て取れた。
「発破かけるまでもないってか」
バーニンは、一週間前と比べて見るからに成長している4人を見て微笑んでいた。
◇◇◇
その後、4人はただひたすらエンデヴァーを追いかけた。
「集中すれば出来る事を、寝ながらでもできるようにしろ!! やると決めた時には既に行動し終わっていろ!!」
「はい!!」
エンデヴァーが言うと、ひなたが返事をする。
ひなたは、アコースティックシューズにエネルギーを充填し、靴底から衝撃波を放って爆速で空中を駆け抜けた。
今市街地で出せる限界のスピードまで引き出したひなたは、炎を使って高速飛行をしているエンデヴァーを追い越した。
緑谷は『黒鞭』と『浮遊』を使った立体機動で駆け抜け、爆豪はエンデヴァーと同じ要領のジェット噴射で高速飛行をし、轟は足元に氷を出しつつ圧縮した冷気と炎熱をジェット噴射の要領で噴き出して駆け抜けた。
4人は、最終日に入ってついにエンデヴァーを追い越した。
「っしゃ!」
「ハッハァ!! どうだ見たかァ!!」
ようやくエンデヴァーの速度を自分なりの方法で出す事に成功した緑谷と爆豪は、ニッと笑顔を浮かべる。
だが…
「貴様ら、一つ忘れている事があるぞ」
「ああ!?」
そう言ってエンデヴァーは、はるか遠くにいる
すると
それを見た4人は、思わず目を見開く。
「な…!!」
「俺が課した課題は、駆け比べじゃない。『俺より早く
そう言ってエンデヴァーは、
そのコンマ数秒後に駆けつけた4人は、息を切らしていた。
「駆けつけた時すでに息切れしているようじゃ意味がない。無理して速く走ろうとするな。俺を追い越した時のスピードを当たり前に出せるようになれ」
「クソが…!!」
「昨日より全然ペースが速い…!」
爆豪は今日もエンデヴァーを追い越せなかった事を悔しがり、緑谷はここ数日でエンデヴァーがギアを上げてきている事に驚いていた。
「でも確実に縮まってるよ。No.1までの距離」
ひなたは、ニッと笑顔を浮かべながら言った。
「大丈夫、今日こそ追い越せるよ」
「ああ。プルスウルトラ、だな」
ひなたが言うと、轟も頷く。
エンデヴァーは、仕事を終えると4人に声をかける。
「行くぞ!!」
「おお!!」
「ああ」
「「はい!!」」
エンデヴァーが声をかけると、4人は同時に返事をする。
◇◇◇
4人が連れて来られたのは、轟家の新居だった。
すると爆豪がキレ散らかす。
「何でだ!!!」
「お母さんと姉さんが飯食べに来いって」
「何でだ!!」
「友達を紹介して欲しいって」
「今からでも言ってこい、やっぱ友達じゃなかったってよ!!」
「かっちゃん…!」
轟に対して爆豪が逆ギレしていると、緑谷が慌てて止めようとする。
「焦ちゃん、お母さん退院したんだってね。よかったね!」
「…ああ。お前らのおかげだ。ありがとな」
「何を言っとるんだ君は!」
ひなたが笑顔を浮かべながら言うと、轟が珍しく微笑みながらひなたと緑谷に礼を言うので、ひなたは触角をピコピコさせながらニコッと満面の笑みを浮かべた。
轟の家族の新居は、小高い場所にある日本家屋で、前の家よりは小さい家ではあったものの上品な佇まいの家だった。
家族の希望をできるだけ叶える形で建てられた一軒家は、エンデヴァーが建材にも拘ったのか、家に上がると檜の香りがした。
5人が家に上がると、轟の姉の冬美がエプロン姿で笑顔を浮かべながら5人を出迎える。
「忙しい中お越し下さってありがとうございます。初めまして、焦凍がお世話になっております。姉の冬美です! 突然ごめんねぇ、今日は私のわがまま聞いてもらっちゃって」
「何でだ…」
「嬉しいです! 友達の家に呼ばれるなんてレアですから!」
「お邪魔します!」
爆豪が不機嫌そうにする中、緑谷は素直に喜びひなたもお辞儀をする。
轟は、家に上がるなり久々に姉と会話をしていた。
「姉さん。そっちは大丈夫か?」
「え? 何が?」
「ほら、あんな事があった後だし、変な奴に嗅ぎ回られたりとかしてないかって思って」
轟は、エンデヴァーの過去の行いが世間に知られた事で家族が悪質なマスコミに嗅ぎ回られたり下卑た好奇心に晒されたりしているのではないかと心配していた。
すると冬美は、少しはにかみながら答える。
「ああ、その事ね。心配しないで。あれからお父さんね、私達を守る為に家の警備を強化してくれたの。近くに警察署もあるし、私の職場や夏の大学にもお願いしてセキュリティを強化してもらったから大丈夫だよ。ここまでしてもらっちゃって、逆にちょっと申し訳ないかなァ」
「そうか…」
冬美が言うと、轟は肩の力を抜く。
今まで家族を顧みなかった父親が家族を守る為に手を尽くしていると知って、安心したのだ。
するとその時、台所から轟の母親の冷が出てくる。
「おかえりなさい。焦凍、あなた」
「…ああ。ただいま」
「お母さん…体調大丈夫なのか」
「ええ。せっかく焦凍がお友達を呼んでくれたんですもの。私も久しぶりに台所に立ってみたの。夏も奥で手伝ってくれてるわ」
冷が轟とエンデヴァーに声をかけると、エンデヴァーが若干気まずそうに返事をし、轟が冷の体調を心配する。
冷が笑顔を見せながら答えると、轟は安堵の表情を見せる。
轟に続いてひなた達も歩いてくると、冷はひなた達三人に挨拶をした。
「はじめまして。焦凍のお友達ね。来てくれてありがとう。焦凍の母の冷です」
「はじめまして…! みっ、緑谷出久といいます!」
「お友達じゃねンだよ゛っ「はじめまして、轟くんのお母さん! 相澤ひなたです! で、こっちは爆豪勝己くん! お友達です!」てめぇ後で覚えとけよクソ触角…!」
冷が三人に挨拶すると、緑谷は緊張気味に答え、爆豪が悪態をつこうとするとひなたが爆豪に肘打ちを喰らわせ、そのまま鮮やかな動きで右腕で爆豪を抱え込み左手で爆豪の口を塞ぎながら一緒に冷に頭を下げながら挨拶をした。
ひなたにやりたい放題やられた爆豪は、ビキビキと額に青筋を浮かべる。
◇◇◇
その後、ひなた達は轟の家族と一緒に食事をした。
食卓には餃子や麻婆豆腐、竜田揚げなどの料理が並んでいた。
「相澤、食いたいのあったら取るぞ」
「ありがとう!」
轟が隣の席のひなたに声をかけると、ひなたは笑顔で礼を言った。
ひなたは、口の端に米粒をつけたまま麻婆豆腐を頬張っていた。
「んん!! んま!!
「食べられない物あったら無理しないでね」
「どれもめちゃくちゃ美味しいです! この竜田揚げ味がしっかり染み込んでるのに衣はザクザクで仕込みの丁寧さに舌が「飯まで分析すんな! てめーの喋りで麻婆の味が落ちる」
緑谷がいつものブツブツで冬美の手料理を褒めちぎっていると、爆豪がやめさせた。
ひなたは、竜田揚げに箸を伸ばし、まるでハムスターのように頬張った。
「ホントどのお料理も美味しいです! あ、そうだ! 余った分があったらこのタッパーに…」
「相澤さんもしかしてそれいっつも持ち歩いてるの…!?」
「ふふふ、これぞ先読みの力です」
「良いように言うんじゃねーただの乞食だろが!!」
「ふふっ、気持ちいい食べっぷりね。作った甲斐があるわ」
ひなたが鞄の中からタッパーを取り出すと、緑谷がツッコミを入れ、それに対してひなたが少しカッコつけて言うと爆豪がキレながらツッコミを入れる。
常にタッパーを持ち歩いているひなたに対し、緑谷と爆豪がツッコミを入れつつも、冷は温かい態度で接した。
するとそんな中、夏雄が口を開く。
「その麻婆豆腐、美味いだろ。姉ちゃんが作ったからな」
「なるほど、道理でメチャクチャ美味しいわけです!」
「焦凍から話聞いてるよ。職場体験の時からずっと焦凍の事気にかけてくれてたんだってな」
「いえ、そんな…大した事はしてないですよ」
夏雄が言うと、ひなたは恥ずかしそうにパタパタと手を振った。
「正直、親父の事は許せない。許せる時なんて来ないよ。けどさ、全力で焦凍とぶつかってくれる友達がいなきゃ、親父のこれからを見届ける事すら一生できないままだったと思う」
「夏雄…」
「緑谷くん、ひなたちゃん。弟の事、助けてくれてありがとな」
夏雄が言うと、ひなたは嬉しそうにはにかみながら触角をウキウキさせ、緑谷も少し強張った様子で口角を上げた。
すると夏雄は、思い出したように轟に話しかける。
「そうだ、焦凍。学校の話聞かせてよ」
「あ、そうそう! 学校の話聞こうと思ってたの! ね、お母さん」
「ええ。私も聞きたいわ。せっかく来てもらったし、皆からも聞かせてもらえる?」
「…! もちろんです!」
ひなたと緑谷は、轟と一緒に学校での話をした。
その後、食事が終わるとひなた達は片付けの手伝いをした。
ひなた、爆豪、緑谷の3人は台所へ食器を運ぶと居間へ繋がる廊下を歩きながら話をする。
「何かいい感じだったね。焦ちゃん家の人達」
「うん。轟くんも、楽しそうだった」
「ケッ」
ひなたが触角をピコピコさせながら言うと、緑谷も嬉しそうに言い、完全に蚊帳の外だった爆豪は不機嫌そうにする。
3人が話している間、轟は家族と一緒に居間で食器の片付けをしていた。
「手伝わせちゃって悪いなァ」
「手伝わせない方が緑谷と相澤に悪い」
冬美が苦笑いを浮かべていると、轟が食器を運びながら返す。
爆豪はともかく緑谷とひなたは世話焼きなので、むしろ手伝わせてもらっている事をありがたがっていた。
すると、冷が食器を運びながら轟に話しかける。
「ありがとうね、焦凍。おかげですごく楽しかった」
「礼ならあいつらに言ってよ。…俺は、人に恵まれた」
冷が言うと、轟は自分の掌を見つめながら言った。
するとその時、ひなた達が皿を運んでくる。
「お皿持ってきました!」
「あら、ありがとう」
ひなたが山積みになった皿を運んでくると、冷が礼を言う。
ひなた達が手伝いをしたので食器の片付けはすぐに終わり、食器が片付いた後は居間で雑談をした。
するとそこへ、エンデヴァーが入ってくる。
「そろそろ学校に送る時間だ」
ひなた達が外に出ると、既に送迎用の車が待機していた。
緑谷とひなたは、轟の家族に頭を下げる。
「「ご馳走様でした!」」
「四川麻婆のレシピ教えろや」
「俺のラインに送ってもらうよ」
爆豪が冬美に言うと、轟が言った。
すると、エンデヴァーが車に乗り込む途中家族に礼を言う。
「皆、ありがとう」
冬美は、少しずつ家族と向き合おうとしているエンデヴァーの横顔を見て微笑む。
そして、緑谷とひなたに声をかける。
「緑谷くん、ひなたちゃん。焦凍とお友達になってくれてありがとう。爆豪くんも」
冬美が笑顔で緑谷の手を握ると、緑谷は若干ぎこちない笑みを浮かべる。
「そんな…こちらこそ…です!」
冬美が次にひなたの手を握ると、ひなたは笑顔を浮かべながら会釈をした。
冬美が三人に礼を言うと、冷も前に出て頭を下げる。
「三人とも、これからも焦凍の事、よろしくお願いします」
「…はい!」
「誰がよろしくするっでっ「こちらこそ、よろしくお願いします」
冷が頭を下げて言うと、緑谷が頷き、ひなたは悪態をつこうとする爆豪を黙らせて頭を下げた。
そしてその後、5人はハイヤーの運転する車に乗った。
座席の二列目に轟とひなたが座り、三列目に爆豪と緑谷が座った。
「何で俺がクソデクの隣だふざけんな」
「そんな事言ったってさ、かっちゃんあんた誰の隣でも文句言うでしょ」
爆豪が文句を言っていると、ひなたがツッコミを入れた。
「貴様らには早く力をつけてもらう。今後は週末に加え…コマをずらせるなら平日最低2日は働いてもらう」
助手席に座っていたエンデヴァーが、ひなた達4人に対して言った。
「前回麗日や切島達もそんな感じだったな」
「期末の予習もやらなきゃ…相澤さん英語教えて」
「うん! デッくんも分析ノート見せて」
緑谷が言うと、ひなたが触角をピンと立てて答える。
爆豪は、緑谷から離れたいあまり窓を開けて頭を出す。
「No. 1ならもっとデケェ車用意してくれよ」
「ハイヤーに文句言う高校生か━━━!! エンデヴァー、あんたいつからこんなジャリンコ乗せるようになったんだい!!」
(アグレッシブ…!!)
爆豪が文句を言うとハイヤーがいきなり叫んだので、ひなたが心の中でツッコミを入れる。
するとエンデヴァーは、窓の外を眺めながら答えた。
「頂点に立たされてからだ」
「ケェ━━━━━!! 立場が人を変えるってェやつかい!!」
(ケェ…? ケェーって何だ)
ハイヤーが謎のテンションで言うと、エンデヴァーが心の中でツッコミを入れた。
一方で爆豪は、いきなり不安そうに頭を抱え出した緑谷を怪訝そうな表情で見る。
「おいデク。何クソみてえなツラしてんだ」
「今、危機感知が鳴ったんだ。どんどん強くなってる…!」
「は?」
緑谷が言うと、唯一緑谷の“個性”を知っている爆豪が目を見開く。
するとその時だった。
「ん?」
運転していたハイヤーは、前方にポツンと人が立っているのに気がつく。
ひなたも、目を細くして『それ』の正体を目視で確かめようとした。
目の前に立っていた男は、“個性”で道路上の白線塗料を剥がしていく。
男の後ろでは、誰かが白線塗料で巻かれていた。
「探したぜ。あんな所に家族を匿ってたとはな、エンデヴァー!」
エンデヴァーは、白線塗料で拘束されている人物を見て目を見開く。
見間違うはずがなかった。
捕らえられていたのは、夏雄だった。
「夏兄!!」
夏雄の姿を確認した轟は、血相を変えて叫ぶ。
「頭ァ、引っ込めろジャリンコ!」
ハイヤーは、見事な運転スキルで車体を旋回させ男を避けた。
エンデヴァーは、勢いよく車のドアを開けると全身に炎を纏って飛び上がった。
するとその直後、車が白線塗料で拘束される。
「!?」
エンデヴァーは、目の前の男に対して叫ぶ。
「彼を離せ!」
すると男は、夏雄を盾にして叫ぶ。
「俺を覚えているかエンデヴァー!!」
「…………7年前…! 暴行犯で取り押さえた…!
「そう! そうだすごい! 覚えているのか嬉しい!! そうだ俺だよ! 『エンディング』」
エンディングが名乗った直後、エンデヴァーが勢いよく飛び出す。
それと同時に、ひなた達も車から飛び出す。
「すまないエンデヴァー、でもわかってくれ。俺がひっくり返っても手に入らないものをあんたは沢山持っていた。憧れだったんだ! 俺は何も守るものなんてない!」
エンディングは、夏雄をさらに強く拘束すると矢印型の白線塗料を夏雄の顔に突きつける。
「この男を殺すから、頼むよエンデヴァー! 今度は間違えないでくれ! 俺を、殺してくれ。ヒーローは余程の事でも殺しは選択しねェ! でもよ! あんた脳無を殺したろ!? 俺もあの人形と同じさ、生きてんのか死んでんのか曖昧な人生! だから安心して! その眩い炎で俺を!」
『AHHHHHHHHHHHHH!!!!』
エンディングが夏雄の首に矢印型の白線塗料を突き刺そうとしたその時、突然爆音が響き渡る。
すると夏雄を拘束していた白線塗料が緑色の粒子になって消え、剥がれていた白線塗料も緑色の粒子になって消し飛ぶ。
爆音が響き渡ると、エンディングの身体がピリッと痺れて“個性”が出せなくなる。
車の近くでは、ひなたが髪を逆立ててエンディングを睨みつけてた。
「制御と先読みの力」
ひなたは、この一週間、エンデヴァーのもとでのインターンにより“個性”を無意識で制御できるようになり、さらには予測力を鍛えた事で“個性”発動のタイムラグを補っていた。
「っるせぇ…誰だ!?」
いきなり爆音で“個性”を消されたようエンディングは、態勢を立て直そうとする。
だがエンディングの反応を遥かに超える速度で、何かがエンディングの視界の端を横切った。
突然の出来事に、エンディングは呆気に取られる。
「…………………は?」
見ると、爆豪が夏雄を抱えて爆速で駆け抜けていた。
さらに次の瞬間、突然エンディングの身体が氷漬けになり、二人の影がエンディングに迫ってくる。
一人は『浮遊』で高速飛行をしている緑谷、そしてもう一人は左拳に炎を溜めている轟だった。
「『マンチェスタースマッシュ』!!」
「『赫灼熱拳』!!」
「がべぁ!!」
緑谷はエンディングに踵落としを叩き込み、轟は炎を纏った拳をエンディングの鳩尾に叩き込んだ。
避けるどころか反応する間も無い早業の前に、エンディングは前歯を何本か折り胃液をぶちまけて撃沈した。
エンデヴァーは、自分が駆けつける前に瞬く間にエンディングを倒し夏雄を助けてしまった4人を見て、呆然としていた。
だがすぐに我に返ると、エンデヴァーは爆豪と夏雄に駆け寄って抱きつく。
「怪我は」
「無ェよ離せ!」
「熱い…」
エンデヴァーが二人の無事を確認すると、爆豪は悪態をつき夏雄は暑がる。
するとエンデヴァーは、さらに二人を強く抱きしめた。
「加齢臭…!」
エンデヴァーの加齢臭に耐えかねた爆豪は、スポンとエンデヴァーの腕から抜け出す。
「白線野郎は!?」
爆豪が振り向くと、その先にはエンディングを氷漬けにしている轟がいた。
「確保完了」
「ん!」
「かなり強めに打ったから、当分は気を失ったままだろう」
轟は気を失ったエンディングをさらに氷漬けにしながら言い、エンディングの“個性”を消したひなたがサムズアップをする。
エンディングを倒した轟は、気絶したエンディングの顔を見ながら言った。
4人で事件を解決すると、危険が去った証拠に危機感知が鳴り止み、緑谷は安堵の表情を浮かべる。
するとその時、後ろからクラクションの音が聞こえる。
「ちょっと、これ何の騒ぎ!?」
「待って、あそこにいるのエンデヴァーじゃね!?」
「ウッソ何でこんなとこにいんの!?」
道路上で車を運転していた運転手達は、道路上にいるひなた達に気付くと車を止めて車から降りてくる。
車から降りてきた者達の多くは、路上にエンデヴァーがいる事に気がつくと驚いていた。
緑谷は、車から降りてきた一般人達に声をかけた。
「皆さん! この通り、
「おいそこ写真撮ってねーで散れやクソモブ共!」
「かっちゃん…!」
緑谷がギャラリーに声をかける中、ギャラリーの中の数人が空気を読まずに写真を撮ろうとする。
すると爆豪が爆破を放ちながら怒鳴り、写真の撮影をやめさせた。
ひなたは、爆豪の態度にハラハラしつつも、心の中ではグッドサインを送っていた。
「道路への被害は最小限。車に乗ってた人達への被害もゼロ。完全勝利だ」
「うるせー!!」
「何で!?」
緑谷が拳を握って笑みを浮かべると、爆豪が突然怒鳴り散らした。
爆豪は、エンデヴァーの方を振り向くと今度はエンデヴァーに怒鳴りつける。
「何だっけなァNo.1!! 『この冬』!? 『一回でも』!? 『俺より速く』!?
するとエンデヴァーは、夏雄を抱き締めながら言った。
「ああ…!! 見事だった…!! 俺のミスを、最速でカバーしてくれた…!」
エンデヴァーは、息子を助けてくれた4人に対し感謝していた。
内心悔しがって負け惜しみの一つや二つ言われるものだと思っていた爆豪は、エンデヴァーが負けを認め4人に感謝していたので逆に調子を狂わされていた。
「急にしおらしくなりやがって…! もっと悔しがれ…」
「かっちゃん…!」
「あはは…」
爆豪が文句を言っていると緑谷が宥め、ひなたが苦笑いを浮かべる。
一方で、エンデヴァーは、夏雄を抱きしめながら謝っていた。
新居で安全を保証すると言っておきながら、自分を狙ってきた
「離…」
「夏雄…! すまない…! お前達を守ると言っておきながら、この体たらくだ…!! 俺のせいで怖い目に遭わせて、すまなかった…!」
夏雄を抱きしめながら自分の失態を謝罪しているエンデヴァーを見て、ひなたは複雑そうな表情を浮かべる。
するとその時、パトカーのサイレンの音が鳴り響く。
「警察だ! 良かった…!」
その後、駆けつけた警察がエンディングを逮捕し事件は無事解決した。
「白線塗料を操る“個性”をブースト剤で強化してた。だいぶ減りはしたがまだ市場には出回ってる」
「やっぱり…道理で波長がグチャグチャしてたと思いました」
警察が報告すると、ひなたが納得する。
するとハイヤーもエンデヴァーに忠告する。
「あんたも気をつけろよ。この数日で二人に狙われてるじゃねェか。まったく闇は消えねェな!」
「だが、光もまた消えることはない」
エンデヴァーは、夏雄と4人に目を向ける。
夏雄は、4人に礼を言っていた。
「ありがとう。えっと…ヒーロー名…」
「ああ?」
「バクゴーだよね」
夏雄が爆豪にヒーロー名を尋ねると爆豪が悪態をつき、緑谷が代わりに言った。
「…違ぇ」
「違うの?」
爆豪が珍しく控えめに答えると、ひなたがキョトンとする。
すると緑谷も嬉しそうに尋ねる。
「え!? 決めたの!? 教えて!」
「言わねーよてめーにはぜってー教えねぇくたばれ!」
緑谷が目を輝かせながら尋ねると、爆豪が逆ギレする。
すると轟が爆豪に尋ねる。
「俺はいいか?」
「ダメだてめーもくたばれ! 先に教える奴いんだよ!」
(焦ちゃん…この流れで何で教えてもらえると思ったんだろう。天然カァイイなぁ)
爆豪からヒーロー名を聞き出そうとする轟に爆豪がキレると、ひなたは轟に対して心の中でツッコミを入れる。
ひなたは、荒れる爆豪を見て少し考え事をしていた。
(それにしても、かっちゃんがヒーロー名を教える相手って誰なんだろう。オールマイトかな。それか職場体験先のベストジーニストかな…)
ワイワイと騒ぐ爆豪達を見て、エンデヴァーは微笑んでいた。
だがワイワイと騒ぐ4人を見ていたのは、エンデヴァーだけではなかった。
はるか遠くの建物の物陰に隠れていた荼毘が、その様子を単眼鏡で除いていた。
すると、背後にいた零が腕を組んだまま荼毘に話しかける。
「ほらな、ちゃんといただろ」
「ああ…にしても、よく見つけたな。さすがストーカーシスコン野郎」
「失礼だなァ、純然たる兄妹愛ですけど?」
零の得意げな発言に荼毘が返すと、零は首を掻きながら言った。
零の首には、痛々しい縫い痕があった。
「妹があの火事親父のとこにいるって知ったらお兄ちゃん心配で心配で。ついついあいつらが行きそうな場所、調べちゃった。僕ってば、妹想いなの」
「よく言うぜ」
零が右眼を蒼く光らせながら言うと、荼毘が呆れ返る。
零は、舞い踊るような足取りで荼毘の前に立つと、ニコッと笑ってみせた。
「僕ね、友達が困ってたらついつい助けたくなっちゃう質なの。僕達は似た者同士だ。一緒に何もかもをブチ壊そうぜ、⬛︎⬛︎くん」
「全く、俺ァ良い友達を持ったぜ。⬛︎⬛︎くん」
零が不気味な笑みを浮かべながら言うと、荼毘もニィッと口角を吊り上げた。
ひなた達は、水面下で不穏な陰が蠢いているとは知る由もなかった。