「経営科との特別授業があります」
朝のホームルームで突然告げられた相澤の言葉に、A組はきょとんとした。
雄英高校はヒーロー科、サポート科、普通科、そして経営科と分かれていて、ヒーロー科とサポート科はアイテムやヒーロースーツのことで時折、連携する事もあるが、普段は他科とあまり関わることはない。
「はいっ! それは一体どういう授業になるのでしょうか?」
バッと手をあげて質問する飯田に、相澤が答える。
「経営科によるヒーロープロデュースだ。経営科の生徒とペア、もしくはグループになり、一分以内のヒーロープロモーション映像を作る。そして普通科生徒による投票で順位を決める。ちなみにB組と合同だ」
「へえ~」
「おもしろそう!」
生徒達は、各々感想を言った。
ふだん、厳しい訓練をしているので、毛色の違う授業は単純に楽しみだった。
それに、プロモーション映像を撮るのはまるでプロヒーローみたいでワクワクする。
少し浮かれた教室の空気に相澤が軽く咳払いをすると、A組は一瞬で静かになった。
「いいか、これはあくまで経営科主導の授業だ。どんなヒーローになるのかは経営科の生徒次第。つまり、プロモーション映像を作る時は、全部あちらの生徒の言うとおりのヒーローを演じろという事だ」
最後の言葉にわずかな不穏さを感じた生徒達だったが、相澤の目力におし黙る。
「ペア及びグループは事前に経営科で決めてある。これから顔合わせだ。行くぞ」
相澤に促され、A組は経営科に向かうべく教室を出た。
「プロモだって! カッコかわいく撮ってほしい~!」
「ね~!」
「経営科とは普段絡み少ないからな〜、何だかんだ楽しみだわ!」
芦戸と葉隠とひなたがピョンピョンと跳ねる横で、麗日が恥ずかしそうに両手を頰に当てながら言った。
「や~でも、カメラで撮られるってなんか照れる!」
「ウチも……やだな~」
同意しながら顔をしかめる耳郎に、蛙吹と八百万も苦笑しながら頷いた。
「こういうの初めてだものね、ケロ」
「少し緊張しますわね」
そんな女子達の近くを歩いている心操が隣の障子に話しかける。
「やだな〜緊張するわ」
「だがこれも授業だからな」
二人の横で常闇が呟く。
「プロモーション映像など夢幻泡影……」
その後ろには飯田と緑谷と轟が歩いている。
「プロモーション映像か。最近そういうのに力を入れている事務所が多いみたいだな」
「新人を売り出す時には、それがかなり重要になってくるからね。もちろん、やらない所もあるけど、一発でこういうヒーローですって伝わるから。そうそう、ヒーロー事務所受けるときに個人で作ってくる人もいるらしいよ!」
「そういうもんか」
その近くにいた峰田が話しかけてくる。
「何言ってんだよ、轟! プロモ次第でモテるかモテないかが決まるんだぞ!?」
「別にモテなくてもいいだろ」
「これだからイケメンは!!」
憤慨する峰田の隣から上鳴がウキウキとした様子で言った。
「俺、超カッコよく撮ってもらいてー! クール系!」
「僕は絶対キラキラさ☆」
髪をファサッと搔き上げる青山に、瀬呂と尾白が苦笑する。
「それじゃいつもと変わんねーじゃん」
「でも青山がキラキラしてないのは想像できないな」
その後ろにいる爆豪がチッと舌打ちする。
「クソ面倒くせぇ授業だな」
「まーまー爆豪! おもしろそーじゃねーか!」
なだめる切島の横で砂藤が言う。
「たまにはこういうのもいいよな。今日のデザートはティラミスだからがんばれ!」
「何で俺がデザートに釣られると思っとんだ!」
わいわい言いながらA組は経営科へと向かっていく。
その先頭にいる相澤は、いまだ自分の運命を知らずにいる生徒達を不憫に思い、わずかに顔をしかめた。
「まぁ……せいぜいがんばれ……」
呟いたその言葉は、誰にも聞き取られず廊下に消えた。
◇◇◇
そして、一週間後。
壇上に大きなスクリーンを張った体育館に、サポート科を除く1年の全クラスが集められていた。
今から経営科によるヒーロープロデュースのプロモーション映像の発表会だ。
スクリーンが見えやすい中央に座っているのは、投票する普通科の生徒達。
その横はパーテーションで仕切られており、中で経営科とヒーロー科の生徒が出番を待っていた。
ヒーロー科の生徒達は全員、フードつきの黒マントを羽織っている。
経営科の生徒が考えたヒーロースーツを着ているので、映像披露のあとに脱ぐ手はずになっていた。
普通科の生徒達もふだんない合同授業に、わいわいと盛りあがっている。
だが一方、ヒーロー科の生徒達の顔はA組B組もれなく全員深刻なものだった。
「……誰かウソだって言ってくれよ……」
「マジでやんのか……?」
まるで葬式のような暗い呟きがあちこちで聞かれる。
空気もどよんと澱んで、今にもカビが生えてきそうだ。
そんな生徒達のもとに担任のブラドキングと相澤がやってきた。
「お前らの気持ちはわかる! だが、これも大事な授業だぞ。覚悟決めて舞台に立て!」
「プロヒーローになれば、理不尽な事は一つや二つじゃすまない。これはその為の予行演習でもある……いいか? ヒーローとしてのプライドは持て。だが、人前に立つ時は恥は捨てろ」
熱弁するブラドキングと、脅すように諭す相澤。
信頼の厚い担任達の言葉に、生徒達はそれぞれ覚悟を決めた。
そして、経営科プロデュースによるヒーロープロモーション映像鑑賞授業が始まった。
トップバッターは、出席番号一番のひなただ。
プロデュースした経営科の生徒とともに壇上に上がる。
ひなたのペアは、眼鏡と鉢巻を身につけた、いかにもといった感じの男子だ。
経営科の生徒が軽い自己紹介をしてから、コンセプトを話し始めた。
「コンセプトは魔法少女ヒーローです。夢と希望があれば、女の子は誰だってヒーローになれる! そんなメッセージを表現しました。それでは、ご覧ください!」
そして映像が始まった。
中学の制服と思われるセーラー服に身を包み、まだ髪を整えていないのか髪がボサボサになったひなたが、ごく普通の家庭のダイニングで朝食の食パンを食べていた。
するとそこへ、母親役の生徒が現れ、ひなたに声をかける。
「ひなた〜、早く学校行かないと遅刻するよ〜!」
「わかってるってば〜!」
母親の声にひなたは生意気な返事をしながら、リビングのテレビを見る。
リビングのテレビには、カッコよく戦うヒーローが映っていた。
「あ〜あ、私もあんな風に強くてかっこいいヒーローになりたいなぁ。私にも、誰かを守れるような力があればなぁ」
ひなたがぼやいたその時、どこかで見た事のあるようなないような白い身体と赤い瞳を持った小動物が現れる。
その小動物は、きゅるんと笑顔を浮かべるとひなたに話しかけた。
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
小動物が話しかけると、ひなたは意を決した表情を浮かべて言った。
「ハチべえ! 私、ヒーローになりたい! 私、何の取り柄もない普通の女の子だけど…こんな私でも、ヒーローになれるかな!?」
ひなたがそう言った瞬間、ひなたの身体がエメラルドグリーンの光に包まれる。
ひなたはあっという間にエメラルドグリーンの衣装を纏った魔法少女に変身し、胸元のリボンの上には16分音符型のエメラルドのような宝石が輝いていた。
場面は変わり、覆面を被った
するとそこへ、魔法少女の格好をしたひなたが現れる。
「待ちなさい!」
「誰だ!?」
「喰らいなさい、モルテ・フィナ━━━レ!!」
「ぐわあああああ〜!!」
ひなたが右手に持ったレイピアを振り下ろすと、大量のエメラルドグリーンの光が
「街の平和は、魔法少女ひなたちゃんがジャンジャン守りまくっちゃうんだからね!」
ひなたが言った直後、エメラルドグリーンの光がパッと飛び散る。
そこで映像が終わった。
そして壇上でマントを脱いだひなたが、マントを脱いで魔法少女の姿で普通科の生徒達にレイピアを向ける。
「魔法少女ヒーロー・ひなた☆マギカ! よろしくにゃん♪」
決めポーズをするひなたは、今回の撮影で心が2、30歳ほど老け、グリーフシードに変化する寸前のソウルジェムのような瞳をしていた。
ほとんどの普通科の生徒はポカンとしており、一部の
ヒーロー科の生徒達は予想以上の地獄の空気に震えあがる。
A組とB組は、それぞれ顔合わせの際、プロデュースするヒーロー像の説明を受けた時から、今日の発表会に怯えていた。
なぜなら、経営科の生徒達のプロデュースしたいヒーロー像は、全て思った以上のトンチキなものだったからだ。
ちなみに今回の映像の撮影直後のひなたはというと。
「僕って、ほんとバカ」
と、この授業に対し「楽しみだ」などと言っていた頃の自分を嘲笑い、絶望の表情を浮かべながら涙ながらに語っていた。
優秀な雄英生とはいえ、学生は学生。
日頃から温めていたヒーロープロデュースのアイディアは、子どもの頃夢想したヒーロー像がドロッドロに煮詰まりすぎて得体のしれないものに変化し始めてしまっていたのだ。
「もう二度としたくない授業だった……」
「あぁ、絶対にやりたくない……」
その光景を後ろから眺めながら、さっき生徒を鼓舞したその口で、げんなりしたようにグチをこぼすブラドキングと相澤は自分の高校生時代を思い出していた。
二人も雄英出身なので、この授業を経験している。
ヒーロー科にとって、別名地獄の授業として語り継がれていたのだ。
そんな空気の中、次は青山が壇上に上がった。
「えー、コンセプトは病弱ヒーローです。病弱だってヒーローになれるんだという社会への強いメッセージを表現しました。それでは、ご覧ください!」
そして映像が始まった。
青山の映像は、ヒーローになりたい病弱な少年が
そして壇上でマントを脱いだ入院着の青山が普通科の生徒に向けて、しこんでいた血糊をグハッと吐き出す。
「よ、よろしくね……☆」
次は芦戸が壇上に上がる。
「コンセプトはヤンキーです! ヤンキーは時代を超越します! どうぞご覧ください!」
芦戸の映像は、特攻服姿の芦戸が木刀と拳で
壇上で、マントを脱いだ芦戸が特攻服姿で普通科生徒に向けて木刀を肩にメンチをきっている。
「ヤンキーヒーロー・ミナ! マジ気合入ってるんで、夜露死苦ぅ!」
意外とハマっている芦戸のヤンキーヒーローに、圧倒された普通科がパチパチとまばらに拍手をした。
そして次は麗日と蛙吹のペアだ。
経営科の生徒が意気揚々と発表する。
「コンセプトは歌って踊れるアイドルヒーローデュオです! かわいさは正義!」
そして映像が始まった。
二人の映像は、武道館のライブ中に
壇上で、キラキラ衣装の二人が、少し恥ずかしそうにポーズを決める。
「「チャコ&ケロッピ、よろしくね!」」
普通科からわずかなどよめきが起こる。
そして次は飯田の番だ。
経営科の生徒が言う。
「コンセプトはダンディなヒーローです。大人の男の色気で
飯田の映像は、バーテン姿の飯田が
壇上で、ダンディにキメているバーテン姿の飯田が言う。
「皆さん! 映像の中に出てくるカクテルは本物ではありませんっ! 飲酒は20歳になってからです!」
「ちょっ! そこはダンディにヒーロー名を言うところでしょ!」
「いやっ、まずそこをはっきりさせておかないと!」
プロデュースした生徒と多少もめながら飯田が壇上から下り、次の尾白が経営科の生徒とともに上がってきた。
経営科の生徒が言う。
「コンセプトは観てのお楽しみです! どうぞ!」
尾白の映像は、地味で普通な少年だった尾白がパンク衣装に変身してライブハウスでギターをかき鳴らし、そこへ乱入してきた
壇上で経営科の生徒と派手なメイクと衣装の尾白が言う。
「コンセプトは社会への反抗と破壊です! でも正義です!」
「ビ、ビジュアル系ヒーロー・ MASHIRAO!」
次に上鳴が壇上に上がる。経営科の生徒が言う。
「観てもらえればわかります! とりあえずどうぞ!」
上鳴は、別の惑星から来た宇宙人という設定で、甲冑に赤マント姿だった。
映像は、上鳴が立ちはだかる
普通科生徒がざわついているなか、満足そうな経営科の生徒がはきはきと言う。
「◯ーベルヒーロー大好きです! よろしくお願いします!」
「雷神デー、見参!」
ざわつきのなか、次に壇上に上がったのは切島だ。
経営科の生徒が言う。
「世界で一番カッコいい職業は漁師だと僕は思います! どうぞご覧ください!」
切島の映像は、海坊主のような
「海の安全は任せとけ! 漁師ヒーロー・一本釣り太郎!」
漁師姿の切島が釣り上げるポーズを決める。
そして次は砂藤が壇上に上がる。
経営科の生徒が言う。
「実家はスナックをしているので、スナックとヒーローという組み合わせを考えました」
砂藤の映像は、スナックのママという設定の砂藤が、スナックにやってきた
壇上で、ママ姿の砂藤がおにぎり片手に言う。
「人生に悩んだらうちの店においで」
そして次は障子が壇上に上がった。
経営科の生徒が言う。
「幼い頃、人形劇を見て感銘を受けました。コンセプトは子供に夢を、人形劇をもっと広めよう、です。ご覧ください!」
障子の映像は、障子が複製腕と人形を使って狼と子ヤギの役全てを演じ、最終的には子ヤギと狼が協力して
映像が終わり、壇上で障子が人形を手に話しだす。
「よろしくね!」
そして次に壇上に上がったのは耳郎だった。
経営科の生徒が言う。
「コンセプトはセクシー&クールです! よろしくお願いします!」
そして映像が始まった。
耳郎の映像は、女スパイという設定のチャイナドレス姿の耳郎が、ウェイトレスとして働いている中華レストランのオーナーの悪事を暴き、隠し持っていたナイフでセクシーに悪を裁くというものだった。
壇上で、チャイナドレス姿の耳郎がしかめた顔を赤くして言う。
「お、女スパイのキョン…キョン……よろしくね……っ」
次に壇上に上がったのは心操だ。
経営科の地味目の女子生徒がドキドキしながら言う。
「コンセプトは執事です! こんな風にかっこよく助けてくれるヒーローが身近にいたらなっていう思いで作りました!」
そして映像が始まる。
心操の映像は、執事服の心操が、ペアの女子演じるお嬢様の身の回りの世話をし、襲いかかってきた
心操のイケメンスマイルと共に映像が終わり、普通科の生徒、特に女子達からは黄色い声が上がった。
執事服を着た心操は、微笑みながら頭を下げる。
「執事ヒーロー・バトラー人使と申します。以後、お見知り置きを」
心操が頭を下げる中、ペアの経営科の女子はご満悦といった表情を浮かべていた。
心操の映像は、完全にペアの女子の妄想を丸出しにした映像だった。
次に壇上に上がったのは瀬呂だ。
経営科の生徒が言う。
「社会を動かしているのは毎日コツコツ働いているサラリーマンです! そんなヒーローがいてもいいんじゃないかと思い、このヒーローをプロデュースしました!」
瀬呂の映像は、サラリーマンとして働いている瀬呂が、老人を襲おうとしていた
スーツ姿の瀬呂が名刺を差し出しながら言う。
「サラリーマンヒーロー・瀬呂範太、正義と会社の利益を守ります!」
そして次は常闇が壇上に上がった。
経営科の生徒が言う。
「中世ゴシックは浪漫の塊! そんなヒーローを目指しました!」
常闇の映像は、闇の貴族という設定の常闇が黒い霧を出して
壇上で、貴族衣装の常闇が雰囲気たっぷりに言う。
「──闇の貴族ヒーロー・ダークシャドウ13世……我は夜とともにいる……」
そして次は轟が壇上に上がった。
経営科の生徒が言う。
「コンセプトはズバリ王子様です! よろしくお願いします!」
轟の映像は、呪われた王子であるという設定の轟が、現代の都会にタイムスリップし、そこに居合わせた少女に乱暴しようとしていた父親をイケメンパワーで倒すというものだった。
壇上で王子に扮した轟が言う。
「鉄仮面ヒーロー・プリンスショートだ。よろしくな」
そして次は葉隠が壇上に上がった。
経営科の生徒が言う。
「着ぐるみには無限の可能性があります! それを表現するヒーローを目指しました!」
葉隠の映像は、着ぐるみを着た葉隠が、次々と色んな動物に変身し、銀行強盗を次々と倒していくというものだった。
壇上で、ウサギの着ぐるみ姿の葉隠がポーズを決める。
「なんにでもなれちゃうよ! よろしくね!」
次は爆豪が壇上に上がった。経営科の生徒が言う。
「一見、
爆豪の映像は、プロレスのヒール役っぽい爆豪が
壇上の爆豪は、ビキビキと目を吊り上げながらも言った。
「……
次は緑谷が壇上に上がった。
経営科の生徒が言う。
「国民に愛されるヒーローを目指しました! よろしくお願いします!」
緑谷の映像は、幼い少年役の緑谷が、老人から金をひったくった
壇上で子どもっぽい服を着た出久がみかん片手にポーズを決める。
「国民の孫ヒーロー・デクちゃん! よろしくね!」
次に壇上に上がったのは峰田だ。
経営科の生徒が言う。
「えー、
峰田の映像は、最初は無邪気な子供として登場した峰田が、自分を馬鹿にしてきた
映像が終わり、壇上で、子どもに扮した峰田がポーズを決める。
「見かけは子ども、倒し方はモラルハザード! チャイルドヒーロー・チャッピー!」
そしてA組の最後に壇上に上がったのは八百万だ。
経営科の生徒が言う。
「昔ながらの任俠映画を見て思いつきました! どうぞご覧ください!」
八百万の映像は、
壇上で着物姿の八百万が腰をかがめ片手と片足を前に出し、啖呵をきる。
「博徒ヒーロー・彼岸花の百! 以後、お見知りおきをですわ!」
そして、次はB組の番だ。
最初に壇上に上がったのは泡瀬だ。
経営科の生徒が言う。
「危険と隣り合わせのとび職は、ヒーローと通じるものがあります。そんなヒーローをプロデュースしてみました」
泡瀬の映像は、とび職の泡瀬が、ビルをメチャクチャにしようとしていた
壇上で作業服姿の泡瀬が言う。
「とび職は現場の華! ヒーローの現場は命がけ! とび職ヒーロー・安全第一!」
次に壇上に上がったのは回原だ。
経営科の生徒が言う。
「独楽って回すだけのシンプルなおもちゃですが、だからこそ世界に通用すると思うんです! そんなヒーローを目指しました!」
回原の映像は、和服姿の回原が傘の上で独楽を回していると
壇上で、和服姿の回原が独楽を回しながら言う。
「独楽が回れば世界も回る! よろしくお願いします!」
次に壇上に上がったのは、鎌切だ。
経営科の生徒が言う。
「切れ味の鋭いヒーローをプロデュースしました。よろしくです!」
鎌切の映像は、政治家の髪を切っていた理容師姿の鎌切がハサミで
映像が終わり、壇上で、理容師姿の鎌切がポーズを取りながら言った。
「髪も切って
次は黒色と宍田と吹出の三人が壇上に上がる。
経営科の生徒が言った。
「ヒーローと芸人の共通点は人を笑顔にできる事だと思います。そんなヒーローズを目指しました!」
三人の映像は、トリオ漫才師『ケモクロオノマ』が漫才をしていると、電波ジャックしに来た
壇上で、三人がスタンドマイクの前で言う。
「「「愛と笑いは世界を救う!」」」
次に壇上に上がったのは拳藤だ。
経営科の生徒が言う。
「愛と夢の世界……そんなヒーローをプロデュースしました!」
拳藤の映像は、宝塚風の煌びやかなミュージカル上演中の劇場で、
壇上で羽根を背負っている拳藤が華麗にポーズを決めて言った。
「よろしくお願いいたします」
次に壇上に上がったのは口田だ。
経営科の生徒が言う。
「えー、言葉には無限の力があります。そんなヒーローを目指しました」
口田の映像は、ラッパーの口田が
映像が終わって経営科の生徒が言う。
「言葉にもたまには限界がある。そういう矛盾を体現したヒーローです」
「よ、よろしくお願いします~……」
普段、口数の多くない口田が何百テイクを重ねてやっとできたラップなので、生では披露をあきらめたのだった。
次に壇上に上がったのは、小大、小森、塩崎、角取、取蔭、柳だ。
経営科の生徒が言う。
「戦う少女達の愛と友情は尊さの極みです! ご覧ください!」
6人の映像は、小大を除く5人が野菜の美少女戦士に変身し、
壇上で6人が戦士の服でポーズを決めて言った。
「「「「「「野菜の栄養と友情パワーで世界を救う! 野菜少女戦隊ヒーロー・プリキュアシックス!」」」」」」
次に壇上に上がったのは庄田二連撃だ。
経営科の生徒が言う。
「ふわふわもこもこっていいですよね! そんな安心感を与えるヒーローを考えました!」
庄田の映像は、ショッピングモールで迷子になった子供を誘拐しようとしていた
映像が終わり、壇上で、マシュマロマン姿の庄田がポーズを決める。
「事件もあと始末も優しく解決! マシュマロマン!」
「ちょっとファットガムと被っててすみません!」
経営科の生徒が謝ったあと、次に壇上に上がったのは円場だ。
経営科の生徒がテンション高く言う。
「細かい事はいいです! とりあえずスタート!」
円場の映像は、葬式会場に乱入した
映像が終わると同時にノリのいい音楽がかかり、円場と経営科の生徒が踊り始める。
「とりあえず踊っとけばこっちの勝ちって感じでぇ! よーしゃーしゃーす(よろしくお願いします)!」
次に壇上に上がったのは鉄哲だ。
経営科の生徒が言う。
「日本の農家は素晴らしい! そんな想いを込めたヒーローです!」
鉄哲の映像は、農家の鉄哲が農作業をしていると、田んぼへ
映像が終わり、壇上で、鉄哲がおにぎりを持ちながら言った。
「米も作るが平和も作る! 農家ヒーロー・ジャパンライス!」
次に壇上に上がったのは骨抜だ。
経営科の生徒が言う。
「皆さん、ご存じですか……? オペラ座の地下には怪人がいるのです……」
骨抜の映像は、駅前の広場で人質を取って騒いでいた
壇上で、仮面にマント姿の骨抜が言う。
「どんな地下も私の庭……怪人ヒーロー・ファントム・オブ・ジ・ジャスティス」
次に壇上に上がったのは、凡戸だ。
経営科の生徒が言う。
「生き物はだいたい母親から産まれます。つまり、母親という存在は最強なのです。男の凡戸くんにお願いしましたが、立派なママを演じてくれています。そんなヒーローを僕のママに見てもらいたくて作りました!」
凡戸の映像は、町で
映像が終わり、壇上で、エプロン姿の凡戸が人形の赤ちゃんをよしよししながら言った。
「わたしの前では、どんな
次に壇上に上がったのは、物間だ。
経営科の生徒が言う。
「神社をモチーフに考えたヒーローです! よろしくお願いします!」
物間の映像は、賽銭泥棒をしようとしていた
壇上で神主姿の物間が、ポーズを決めて言った。
「おみくじを引けば人生変わるかも!? 神主ヒーロー・ネギネギ!」
最後に壇上に上がったのは、鱗だ。
経営科の生徒が言う。
「小学校の頃の将来の夢はゾンビになる事でした。そんな想いを込めたヒーローです!」
鱗の映像は、ショッピングモールで
壇上で、鱗はゾンビ姿で言った。
「ヴァ……ヴァヴァヴァ……ヴァ~」
「死んでても腐っててもヒーロー! ゾンビヒーロー・ロメロ! って言ってます! よろしくお願いします! ちなみにロメロっていうのはゾンビ映画の基礎を作った映画監督の名前です!」
これで、全部のヒーロープロデュース映像が終わった。体育館の空気は複雑な感情が渦巻いていた。
「あれ? 俺のヒーロー、もしかしてスベってる?」
経営科の中に、気づく者。
「プリキュア……いやしかしアイドルもいい……いや待て、魔法少女も捨てがたい…!」
「バトラー人使もプリンスショートも眼福だわぁ…」
「ひなた☆マギカひなた☆マギカひなた☆マギカひなた☆マギカひなた☆マギカ…」
普通科の中に、真剣に迷う者や、一部のヒーローに熱狂する者。
「ダークシャドウ13世か……」
ヒーロー科の中に、とまんざらでもない者。
だが、それはごく一部の者で、大多数はこう思っていた。
経営科生徒達の、やりきった感と結果への期待。
普通科生徒たちの、続けざまに妙なものを観させられた混乱と、どのヒーローに投票すればいいのかという戸惑い。
ヒーロー科生徒たちの、「なんでもいい、頼む、早く終わってくれ」という羞恥と懇願。
それを生温かい目で見守る先生達。
カチャ……
だがその時、普通科生徒達の頭上のライトが落下してきた。
前日の授業でボールがぶつかった際、ボルトが緩んでいたのだ。
突然の事に声も出せない普通科生徒達。
しかしそれを一番近くにいた鱗が“個性”の鱗をとっさに飛ばし、生徒たちに落ちる寸前のライトをキャッチした。
「ふう、危なかった」
ゾンビ設定も忘れて、そう言う鱗に、普通科生徒達の感嘆の視線が集まった。
◇◇◇
「えー、では経営科によるヒーロープロデュース、投票第一位は……ゾンビヒーロー・ロメロです」
「え? 俺?」
投票結果を淡々と報告する相澤に、鱗がきょとんとする。相澤が続けて理由を発表した。
「投票理由はゾンビヒーローうんぬんではなく、さっき救けてくれたから、という理由が圧倒的でした。つまりヒーローは外見やイメージではなく、行動が大事という事だ」
その言葉に経営科の生徒たちが自分のヒーローを省みて、シュンとする。
実は経営科は経営科で、この授業が別名、鼻折られ授業として語り継がれていた。
例年であれば、普通科生徒たちの辛辣な投票理由を延々と並べられ鼻を折られるのだが、今年は一言だけですんだのは幸いだったのかもしれない。
普通科は普通科で、この地獄のような授業の様を見て、「ヒーロー科も、経営科も大変だな……」と他人の痛みを知る授業になっていた。
ちなみに、サポート科は独立独歩だ。
骨も、折れた部分が前より強く太くなるように、挫折を乗り越えた精神もきっと前よりタフになっているだろう。
痛み分けした三科に、妙な連帯感が生まれたかどうかは定かではない。