抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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春の雪山キャンプまつり

 目の前には、見渡す限り一面の銀世界が広がっていた。

 光を浴びてキラキラと輝く真っ白な雪原。

 その奥には抜けるような青空を背負う高い雪山がそびえている。

 

「うわー、すごい…!」

 

「しかも絶好のキャンプ日和!」  

 

「きれー!」

 

 目を輝かせてあたりを見回すひなたに、芦戸と葉隠もウキウキと同意した。

 そんな三人は雪山仕様の防寒着に、大きなリュックを背負っている。

 A組の女子達は、皆で雪山に登っていた。

 この7人が雪山にやってきたきっかけは、数日前に遡る。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「あ~、どっか行きて ー」  

 

 夕飯前、寮の共有スペースのソファにだらりと座りながら言った上鳴の言葉に、同じく携帯をいじりながら座っていた瀬呂が笑いながら応える。

 

「どっかってどこだよ」

 

「決めてないからどっかなんだろー。だって今、春休みじゃん! なぁ? おかえり!」  

 

 上鳴がちょうどインターンから帰ってきたばかりのひなた、爆豪、切島、緑谷、轟に話を振る。

 春休みなのでインターン先に泊まりこみが多いが、連絡や事務手続き、もちろん勉強もあるので寮に戻ってくる。

 

「ただいま〜!」

 

「んだ、いきなり」

 

「おう! ただいま!」

 

「ただいま~。何の話?」

 

「春休みだから、上鳴がどっか遊びに行きたいんだと」  

 

 そこへ一足先にインターンから戻っていた飯田が通りかかる。

 

「何を言ってるんだ、上鳴くん! 学生の本分は勉強だぞ。しかも俺達は寮住まいの身。どこかにおいそれと遊びに行けるわけがないだろう? 皆、おかえり!」  

 

 飯田にひなた達が「ただいま」と返事をする前で、上鳴が続ける。

 

「でもさ~、だって、今は春休みだぜ? 休みって、休むためにあるんじゃねーの?」

 

「確かに春休みって感じはしないよね。ずっとインターンだし」  

 

「だろ〜?」

 

 自分の言葉に頷く緑谷の同意を得て、上鳴はしたり顔で返す。

 しかし緑谷はパッと笑顔になって言った。

 

「でも、インターンもすごく楽しいよ! 勉強になる事ばっかりだし……轟くん、誘ってくれて本当にありがとう!」

 

「おう」  

 

 轟は簡素に応えながらも、わずかに表情がやわらかくなる。

 上鳴はそんな二人のやりとりを見て、ム~ッと眉を寄せた。

 

「いや、それはわかんのよ? でも春休みって貴重じゃん!? 夏休みと冬休みって長いけど、春休みは一瞬じゃん!?」

 

「それは学校によらん?」

 

 上鳴が言うと、ひなたがツッコミを入れる。

 ひなたの中学校は、3月中旬の学年末試験が終わるとすぐに春休みだったので、冬休みより春休みの方が長かったのだ。

 

「そういや、なんで秋休みはねえんだろうな?」  

 

 切島の素朴な疑問に瀬呂が答える。

 

「秋は、夏いっぱい休んだから、何とか乗りきれんだろって事じゃね?」

 

「なるほどな!」

 

「だから、そういう事じゃねーのよ! 俺が言いたいのは、春休みを楽しみたいって事なのよ! 旅行とまでは言わないけどさぁ、ただ遊ぶためにどっか行きたいじゃん!」  

 

 話をそらされ続けた上鳴が不満げにそう叫んだその時、後ろから低い声がかけられた。

 

「そうか、上鳴はどこかに遊びに行きたいのか」

 

「──先生!!」  

 

 いつのまにかやってきていた担任の相澤の出現に、皆の背筋が伸びる。

 温度の低い視線で見回され、上鳴達は叱られることを覚悟した。  

 相澤はとても厳しい。

 それが愛情に裏づけされているものだとわかっている生徒達だが、それでも厳しいものは厳しい。

 上鳴達はせめて反省文数枚ですみますようにと祈る。  

 しかし、かけられたのは意外な言葉だった。

 

「それじゃあ、雪山キャンプなんてどうだ?」

 

「……え?」  

 

 一瞬、何を言われているのか理解できない生徒達に、相澤が持っていたプリントを見ながら続ける。

 

「雪山訓練の施設があるんだが、結構本格的だぞ。雪山に、森も、魚がいる湖もある。そこなら一泊くらいはできる。ちょうどお前ら、休み被ってる日があるから全員で使ってもいいぞ」  

 

 突然の魅惑的な申し出に、ポカンとする上鳴達を見て相澤が言った。

 

「なんだ? 行きたくないのならムリにとは言わないが」

 

「……いや行きたいですっ!! でも何で突然……?」

 

「こないだの職員会議で、春休みだから、気分転換に施設を開放しようかって話になったんだよ。リフレッシュしたほうが作業効率もよくなるしな。……で、どうする?」  

 

 相澤に訊かれ、全員即決で雪山キャンプに行く事になったのだ。

 ひなた達は初日に女子全員でキャンプに行き、男子は次の日に飯田、上鳴、切島、瀬呂、轟、爆豪、緑谷の7人が、また後日に青山、尾白、砂藤、障子、心操、常闇、峰田の7人で行く事にしたようだ。

 7人で雪山を登っている途中、耳郎が景色を見渡しながら口を開く。

 

「いやぁ、ここが雄英の一部だなんて思えないや」

 

「どんだけお金かかっとるんや」

 

「お茶子ちゃんしっかり」

 

「そう言う梅雨ちゃんも大丈夫?」

 

「厚着してカイロ貼ってるから大丈夫よ」

 

 雄英のあまりの散財っぷりに麗日が卒倒しそうになり、蛙吹が声をかける。

 だがそんな蛙吹も、“個性”の性質上寒さに弱いのでひなたが声をかけたが、蛙吹は大丈夫そうだった。

 蛙吹は全身を防寒具で覆っており、女子の中では一番厚着だった。

 

「キャー! 雪ー!」

 

「雪合戦しよー!」

 

「お二人とも、滑りますわよ」

 

 芦戸と葉隠がキャッキャとはしゃいでいると、八百万が声をかける。

 7人で雪山を歩いていると、麗日がうららかスマイルで言った。

 

「にしても、全員休みの日にキャンプ行けるなんてラッキーやね!」

 

「だね!」

 

 麗日が言うと、葉隠も頷く。

 だがひなたは、どこか不安を覚えている様子だった。

 

「うーん…どうだろうね」

 

「え?」

 

「いや、さ…お父さんの性格的に、ただの好意で施設開放するなんて思えないんだよね。何か裏がありそう」

 

「あー…」

 

 ひなたが言うと、女子達は全員納得する。

 そしてふと、相澤が言っていた言葉を思い出した。

 

『ただし、一度入ったら24時間たたないと出入口が開かない作りになっている。どんな事があってもだ。そして、携帯も通じないぞ。それでもいいな?』  

 

 多少の圧を感じながらも、それでも皆は行く事に決めたのだった。  

 ひなたが不安がっていると、とにかく純粋にキャンプを楽しみたい芦戸が楽しい空気に戻そうとした。

 

「えー、気にしすぎだって〜! そういうのやめようよ皆でキャンプ楽しもうよ〜!」

 

「う〜ん……そうだね」

 

 芦戸が言うと、ひなたは頭を掻きながら納得した。

 相澤とてたまには好意で施設を開放してくれる事はあるだろうと考えた。

 女子達は、テントを建てる場所を決めると、事前の打ち合わせ通り役割分担をした。

 

「じゃあ、昨日話して決めた通り、テントの設営は経験者のヤオモモとひなたに任せちゃって大丈夫かな?」

 

「ええ、お任せくださいまし!」

 

「うん!」

 

 耳郎が言うと、八百万はプリプリしながらテント設営を請け負う。

 ひなたも、山田に雪山キャンプに連れて行ってもらった事があったので、テント設営や食糧の調達など、一通りはわかっていた。

 雪山には虫がいないため、虫嫌いの二人でもキャンプを楽しめたのだ。

 雪山キャンプ経験者のひなたと八百万がテント設営、芦戸と麗日が薪の調達、蛙吹、耳郎、葉隠の三人が食糧調達をする事になった。

 八百万は、必要な道具を“個性”で創造して薪班と食糧班に配ってから、テント設営を始めた。

 まずテントを建てる場所の雪をしっかり固めるところからだ。

 ひなたは、テントを建てやすい平らな場所を見つけると、地面の雪を踏み固めた。

 

「よいしょっと…これくらいしっかり踏み固めとけば大丈夫かな」

 

「ええ。では、テントを建てていきましょう。ひなたさんはそちらの角をお願いしますわ」

 

「はーい」

 

 テントを広げ、ペグを打ち込んでいく。

 登山が趣味の爆豪程ではなかったが、二人とも雪山キャンプ経験者という事もあり、二人で協力して手際よくテントを建てていった。

 初めは普通にテントを建てていた二人だが、建てているうちに楽しくなってしまい、出来るだけ快適に過ごせるようこだわり抜いてテントを建てた。

 全員分のテントが完成した後も、八百万が“個性”で道具を作っていたのだが、他の女子達が快適に過ごせるようにと仮設トイレやシャワーユニットまで創造してしまう程の徹底ぶりだった。

 いくら“個性”伸ばしの訓練で創れる総重量が増えたとはいえ、流石にここまで来ると心配になってきたのか、ひなたが声をかける。

 

「ヤオモモ、こんなに造って大丈夫?」

 

「ええ。昨日、たくさん食べて脂質を溜め込んでおきましたから」

 

「それはありがたいけど…僕、何か君に返せてるかなぁ…」

 

 ひなたが声をかけると、八百万が便利そうな道具を創造しながら答える。

 八百万の“個性”なら大抵の物はその場で造る事ができたため、持ってきた荷物のほとんどは脂質の多い食糧だった。

 八百万がサラッと言うと、ひなたがツッコミを入れる。

 何から何まで尽くしてくれるのはありがたいのだが、度が過ぎると逆に申し訳ない気持ちの方が大きくなるものだ。

 一方で、芦戸と麗日はというと、森で薪集めをしていた。

 

「麗日ぁ! 大きめの石とか枝とか色々持ってきたよー!」

 

「ありがとう三奈ちゃん! ちゃんと縛って…えいっ」

 

 芦戸が大量の枝や石を持ってくると、麗日が礼を言った。

 芦戸は、八百万に作ってもらった小型チェーンソーを使い、枝をカットしていた。

 麗日は、芦戸が持ってきた枝や石をしっかりとロープで結んで固定すると、指の肉球で触れた。

 すると薪を運ぶ用のバッグが軽くなり、二人とも楽に薪を運ぶ事ができた。

 

「うちらも戻って焚き火の準備せんと……ん?」

 

 薪を運ぼうとした麗日は、近くに何かがあるのに気がつく。

 だがそれを覗き込んだその時、後ろから芦戸に声をかけられた。

 

「うららかー! 早く行くよー!」

 

「あっ、うん!」

 

 芦戸に声をかけられた麗日は、慌てて薪を持って早足で芦戸のもとへ向かった。

 一方で、食糧班の三人はと言うと、薄氷の張った湖で釣りをしていた。

 

「ここら辺でいいかな…結構底の方にいるよ」

 

「じゃあ早速やり方を教えるわね」

 

 耳郎がイヤホンジャックで魚が多く釣れそうな場所を探し、田舎の親戚の家に行った時に釣りをさせてもらった事がある蛙吹が耳郎と葉隠に釣りのやり方をレクチャーした。

 三人が湖の氷に穴を開けて湖の中に糸を垂らし、魚がかかるのをじっと待っていた、その時だった。

 

「あっ!」

 

 葉隠が釣り竿を手に魚が餌にかかるのを待っていると、ピクッと振動が竿越しに伝わってくる。

 

「透ちゃん、糸を巻いて」

 

「うん!」

 

 蛙吹が声をかけると、葉隠は急いで釣り竿の糸を巻いた。

 すると、葉隠が釣り竿を引いた瞬間、大きめの魚が水面から飛び出し暴れた。

 

「わぁ、大物!」

 

「ニジマスだわ。塩焼きにすると美味しいのよ」

 

「この調子でどんどん釣っていこっか」

 

「今夜は焼き魚だー!」

 

 三人は、この調子でどんどん魚を釣っていった。

 解散してから数時間が経った頃、魚の入ったクーラーボックスを持った三人が湖から帰ってきた。

 三人が戻った頃、既に薪班は設営班と合流し焚き火の準備をしていた。

 

「ただいまー」

 

「おかえりー! うわ、すごい! 大漁だねぇ!」

 

「ケロケロ、響香ちゃんも透ちゃんも飲み込みが早くて、すぐに釣れるようになったのよ」

 

「ヤマメに、ニジマスに、ワカサギ! これは今日のご飯が楽しみだねぇ!」

 

 ひなたは、蛙吹が持っていたクーラーボックスを覗き込みながら目を輝かせる。

 そんな中耳郎は、前方を指差しながら尋ねる。

 

「てかヤオモモにひなた。これ、どうしたの?」

 

 耳郎は、若干驚いた様子で二人に尋ねる。

 数時間前まではただの雪原だったはずの場所は、二人が拘り抜いて建てたテントが張られており、その近くにテーブルや人数分のバタフライチェアが設置されていた。

 さらに奥には仮設トイレと浴槽付きシャワーユニットまで置かれており、すっかり快適なキャンプ施設へと様変わりしていた。

 その事を耳郎に言及されたひなたと八百万は、照れ臭そうにはにかむ。

 

「あはは…張り切っちゃった」

 

「皆さんのお役に立てればと思い…」

 

「雪山キャンプでお風呂入れると思わなかったー! ヤオモモ様様だよー!」

 

 女子達に神様のように崇められた八百万は、嬉しそうにプリプリした。

 その後女子達は、焚き火や魚の準備をし、焚き火を囲みながら談笑した。

 焚火を囲み、魚が焼けるのを待っているうちに、あたりはすっかり暗くなっている。

 魚が焼けると、女子達は魚にかぶりついた。

 焼きあがったばかりのパリパリの皮が香ばしく、ふわふわの身がとても美味だった。

 

「ん〜まぁ! これ二、三匹いけるわぁ!」

 

「自分達で用意したからか、より一層美味しく感じるわ」

 

 女子達は自分達で用意した焼き魚の味に舌鼓を打ち、麗日に至っては頬が落っこちそうになっていた。

 全員が二匹目の魚に手を伸ばしたその時、ひなたがキランッと目を輝かせて言った。

 

「ふふふ、お楽しみはまだまだこれからですよ」

 

 そう言ってひなたは、自分のリュックから薄力粉と生卵を取り出した。

 

「っ…! それは卵と小麦粉…まさか…!」

 

「そう、ワカサギといったら天ぷら。食べたいよね?」

 

「「「食べたぁい!!」」」

 

 ひなたが言うと、芦戸、麗日、葉隠が返事をした。

 蛙吹、耳郎、八百万の三人も、声は上げなかったものの口の端から涎を垂らしソワソワしていた。

 こういう時のひなたは抜かりないのだ。

 塩で下味をつけたワカサギを、卵と薄力粉を水で溶いて作った衣にくぐらせ、焚き火の上に鍋をセットして油を170℃に熱し、カラッと揚げたらワカサギの天ぷらの完成だ。

 サクサクした衣とワカサギの旨みが食欲をそそり、魚二匹を平らげたはずなのに自然と手が進んでしまう。

 さらにひなたが野菜も欲しいだろうと考え持ってきた大葉や茗荷、ふきのとうなども天ぷらにして美味しく戴いた。

 今日釣った分の魚を完食した女子達は、八百万の挿れた紅茶を嗜みながらガールズトークに花咲かせた。

 すると芦戸が、自分のリュックからマシュマロを取り出しながら尋ねる。

 

「みんなぁ! 焼きマシュマロ食べる?」

 

「たべるー!」

 

 芦戸が尋ねると、今度はひなたが天真爛漫な笑顔を浮かべながら返事をした。

 ひなたは、カリカリに焼けたマシュマロを頬張りながらふと空を見上げる。

 夜空のような天井には、小さな星々が本物のように瞬いていた。

 本物の夜空と見紛う程精巧に作られたプラネタリウムだ。

 大自然のように見える雪山は、実は人工施設なのだ。

 夜空も、雪も、森も、全て作り物なのである。

 それでも心が洗われる非現実が、そこにはあった。

 

「ねえねえ! せっかく女子だけで集まったんだしさ! 恋バナしよ恋バナ!」

 

「ええ…また?」

 

「いいじゃん! 年頃の女の子はみんな、恋バナするものなんだよ!」

 

「何その決めつけ…」

 

 芦戸が何が何でも恋バナしたがると、耳郎がツッコミを入れる。

 すると芦戸は、そんなやりとりを笑いながら見ていたひなたにターゲットを絞る。

 

「ねえひなた、最近心操とうまくいってんの?」

 

「ぴゃ!?」

 

 芦戸がどストレートに尋ねると、ひなたはビクッと肩を跳ね上がらせる。

 すると、ノリのいい葉隠も乗っかってくる。

 

「とっとと吐いちゃいなよ。もうとっくに付き合ってんのはバレバレなんだよ」

 

 二人に詰め寄られたひなたは、顔を赤くしてしどろもどろになりながらも、とうとう根負けして白状した。

 

「……えと、はい」

 

 ひなたが顔を赤くして頷くと、二人はキャーキャーとはしゃいだ。

 

「どっちから告白したの!?」

 

「……ひー君から」

 

「えー意外!」

 

 二人がキャイキャイはしゃぐ中、ひなたは心操との馴れ初めを話し始めた。

 

「入試の時、ひー君が助けてくれて…その時からずっと、いいなって思ってたの。がむしゃらにヒーローになろうと頑張ってるところが、カッコいいと思ってた。だから、ひー君が付き合ってくれって言ってくれた時は、嬉しくって…つい、泣いちゃった」

 

「何それメッチャロマンチック〜!」

 

「ねえ、どこまで進展した!?」

 

「デートした!? 手繋いだ!? あっ、もしかしてもうキスした!?」

 

「………」

 

「「キャー!!」」

 

 ひなたが顔を赤くして口をモニョモニョさせながら頷くと、二人のテンションが更に上がる。

 だが流石にこれ以上は話したくなかったのか、ひなたは話題を変えようとする。

 

「もう、やめてよ…そんないきなり聞かれても困るって言うか…あっ、そうだ! お茶子っちはどうなの!?」

 

「えっ、何で私に振るん!?」

 

 不意に右隣にいたひなたに振られた麗日は、ビクッと肩を跳ね上がらせる。

 麗日は、緑谷の事を思い浮かべて顔を赤くしながら、何とか話題を変えようとする。

 

「えっと、えっと…あっ! そういえば、皆に言い忘れてた事があったんだった!」

 

「え、何? 怖い」

 

「実は、さっき三奈ちゃんと薪拾いしてた時、白い動物の毛みたいなのを見つけたんよ。ほら」

 

 そう言って麗日は、持ち帰った動物の毛を全員に見せた。

 ひなたは、その毛をまじまじと観察する。

 

「イイズナにしては毛が長いな…ホッキョクグマか…ヒグマのアルビノとか? う〜ん、わかんないや。ヤオモモ、わかる?」

 

「いえ…図鑑で読んだどの生物の毛にも該当しませんわ。見た事ない生物の毛ですわね」

 

「というかそもそも、ここって人工の施設でしょ。だったらその毛も作り物なんじゃないの?」

 

 真面目に白い毛を分析するひなたと八百万に、耳郎が冷静なツッコミを入れる。

 だがその時、蛙吹が神妙な面持ちで言った。

 

「でもここへ来る前、波動先輩から気になるお話を聞かされたわ」

 

「え?」

 

「何でもこの雪山、磁場が狂っているところがあるらしくて、異世界に繋がる時空の歪みがあるそうよ。そこから見た事のない巨大な白い生物が出てくるのを見た生徒がいるんですって」

 

「それってまさかイエ…」

 

「私は聞かされただけだから何とも言えないわ」

 

 ひなたが何かを言おうとすると、蛙吹が付け足すように言った。

 

「流石にないでしょ…そんなオカルトじみた話」

 

「ですが、もし本当に山に危険生物が潜んでいるのだとしたら、油断はできませんわ。外にセンサーを設置しましょう」

 

「うん、それが良さそうだね。僕も一応起きてられる間は索敵してみるし」

 

 八百万が提案すると、ひなたがコクリと頷く。

 女子達は、就寝の準備をした後、テントに入って眠りについた。

 全員が寝ている間も、夕食の焼き魚の骨で取った出汁に調味料を入れて味を整えたスープを飲みながら、音の結界を張って索敵を行った。

 女子達が寝静まった頃、何の前触れもなく猛吹雪が発生し、外の状況を把握しづらくなる。

 するとだ。

 ひなたの音の結界の中に、大型の怪物が入り込んできた。

 

「!」

 

 そして次の瞬間、結界の中に入り込んだ怪物は、どうやらひなた達の存在に気付いたのか、ゆっくりとひなた達のテントに近づいてくる。

 ひなたは、“個性”を使って眠っている女子達に呼びかけた。

 

「皆!! 起きて!! 来るよ!!」

 

「んぇぇ…いきなり何〜?」

 

 ひなたが呼びかけると、寝ぼけた女子達が起き上がる。

 ひなたは、怪物が走ってくる方角を把握しつつ叫んだ。

 

「大型の怪獣っぽいロボがこっちに向かってきてる! 急いで戦闘準備を!」

 

「やっぱり、ただ息抜きの為だけに施設を開放してくれるわけがなかったって事か…!」

 

「うん。多分、このまま油断したところを襲うつもりなんじゃないかな。とりあえず皆、いつでも戦えるように身体あっためといて!」

 

「ケロ…」

 

「梅雨ちゃん、しっかり」

 

 ひなたが声をかけると、麗日と葉隠は冬眠しそうになっている蛙吹を暖房や防寒具で暖めた。

 八百万は、迎撃に必要な道具を創造しながら女子達に作戦を話す。

 

「ひなたさん、耳郎さん。引き続き索敵をお願いします。大雑把でいいのでロボットの大きさと移動速度を教えて下さい」

 

「わかった! けど、どうすんのヤオモモ!?」

 

「下手にこちらから仕掛けていては体力を消耗してしまいますから、向こうから仕掛けてきたタイミングで迎撃します。勝負は一瞬、いいですね?」

 

「うん、それしかなさそうだね!」

 

 八百万が話すと、芦戸が頷く。

 ひなたは、走ってくるロボットの大きさや特徴を、耳郎はロボットのスピードを八百万に報告した。

 

「全長6.7m! 二足歩行で走ってきてる! あと、爪が鋭い!」

 

「ここに到着するまで、1分かかるかかからないかくらいかな…」

 

「…ありがとうございます。十分ですわ」

 

 二人が言うと、八百万は創造を続けながら返事をする。

 だがその時だった。

 

「っ!? ちょっと待って…そんなのアリ!?」

 

「来るよ!! 皆、急いでテントから出て!!」

 

 二人が叫ぶと、女子達はほぼ反射的にテントから抜け出した。

 するとその直後、大きな影が迫り、女子達が眠っていたテントが八つ裂きにされた。

 猛吹雪が刺すように吹きつけ、外気に晒された素肌が痛む。

 そこにいたのは、白い体毛に身を包み、鋭い爪を持ったイエティだった。

 ひなたは、“個性”を発動してイエティに向かって叫んだ。

 

『AHHHHHHHHHHHHHH!!!!!』

 

「大きいものを作るのは時間がかかりますの…!」

 

 ひなたはイエティに向かって叫び、八百万はテントの中で創造していた銛をイエティの頭に刺した。

 八百万は、襲いかかってくるであろうイエティを迎撃するため、作戦を話しながらも銛を創造していたのだ。

 だがイエティに効いている様子は全くなく、イエティは頭に銛が刺さった状態で襲いかかってきた。

 するとその直後、イエティが動きを止めて呻き声を上げる。

 

「さっきの音波でモーターの異常振動を起こしたの」

 

「今ですわ、皆さん!」

 

 ひなたは、ふんすと鼻を鳴らしながら言った。

 先ほど八百万が撃った銛は、ひなたの音波を増幅する共鳴装置も兼ねていたのだ。

 八百万が叫ぶと、芦戸、耳郎、葉隠がひなたの音波で内部破壊されたイエティに畳み掛けた。

 

「『アシッドマン』!!」

 

「『ハートビートサラウンドレガート』!!」

 

「食らえー! ヤオモモ作ダイナマイト!!」

 

 三人は、それぞれの方法でイエティを攻撃した。

 八百万も、ロケットランチャーを創造してイエティの頭を狙撃する。

 だがイエティに攻撃が効いている様子はなく、イエティは近くにいた蛙吹を襲おうとした。

 

「うぅ…ゲコッ、ゲコッ……」

 

「梅雨ちゃん!」

 

 イエティが寒さで弱った蛙吹目掛けて腕を振るった、その時だった。

 イエティが突然ふわりと空中に浮き上がる。

 

「お茶子ちゃん…!」

 

 蛙吹は、眠気に耐えながらもイエティがいた場所に立っていた麗日を見た。

 麗日は、他の5人がイエティの気を引いている隙にイエティに接近し、イエティに触れて“個性”を発動していたのだ。

 

「うぅうう…!! プルス…ウルトラぁ!!」

 

 麗日は、吐き気を覚えながらも、イエティを浮かせ続けた。

 だがイエティは、浮かされた状態でも激しく暴れ回った。

 イエティは、吐き気で膝をついた麗日に向かって腕を振り下ろそうとする。

 するとその時、イエティの前に蛙吹が現れ、舌でイエティを拘束した。

 

「梅雨ちゃん!! そのまま風下に向かって投げて!!」

 

「ケロォ!!」

 

 ひなたが叫ぶと、蛙吹は勢いよくイエティを投げた。

 するとひなたの狙い通り、ちょうど吹きつけてきた猛吹雪が追い風となり、軽くなったイエティが吹き飛ばされていく。

 

「3、2、1…今だよお茶子っち!」

 

「解除!」

 

 ひなたが叫ぶと、麗日は“個性”を解除した。

 するとイエティは、自重により自由落下を始める。

 落ちた先は、深い谷底だった。

 遥か遠くから、ガシャアン!! とイエティロボットが砕け散る音が響いた。

 その音を聞いたひなた達は、ホッと安堵のため息をつく。

 するとその直後、ピタリと猛吹雪が止み、周囲が急にパッと明るくなった。

 

『はい、そこまで。おつかれさん』

 

 天井のスピーカーから、相澤の声が響いた。

 するとひなたは、はぁっとため息をつきながら言った。

 

「やっぱり…今のも抜き打ち訓練?」

 

『まあな。本当に春休みの息抜きに施設開放なんてするわけないだろう。春休みの特別授業だよ』

 

「じゃあ、あのロボットは…」

 

『よくできたロボットだろう? パワーローダーの力作だぞ。それをまあ、あんなにえげつないやり方で壊してくれたもんで』

 

「いや、あんなのがいきなり来たら手段なんて選んでられませんって…」

 

 葉隠の疑問に相澤が答え、女子達のやり方に一言言おうとすると、耳郎がツッコミを入れた。

 

『何を言ってる。今のは褒めたつもりだったんだが。悪条件で(ヴィラン)に遭遇した時、咄嗟に行動できずにそのままやられるヒーローも多い。その点お前達は、相澤があのイエティの正体を見抜いていたとはいえ、よくあそこまで躊躇なく動けたと言ってるんだ』

 

 相澤が褒めると、女子達は珍しく相澤に褒められて嬉しくなったのか、顔を見合わせて頬を緩ませる。

 そんな中、蛙吹がずっと抱いていた疑問を口にする。

 

「じゃあ、私が波動先輩から聞いた話は…」

 

『あぁ、あれもこちらから波動に頼んだ。少しでも信じるようにな。合理的虚偽さ』

 

「うぅ〜! また騙された! せっかく皆でキャンプ楽しもうと思ってたのに〜!」

 

 相澤が言うと、芦戸は悔しそうにブンブンと腕を振る。

 

『今回の授業の反省点、改善点をそれぞれレポート提出するように。あぁ、それから、男子にはこの授業の事は絶対にもらすな。いいな?』

 

 残りの生徒も順次、合理的虚偽に騙されてこの授業を受けるのだ。  

 ひなた達は返事をし、それぞれ顔を見合わせて脱力したように苦笑した。

 

『新しいテントを用意してあるから、今夜はこのまま泊まれ。以上』

 

 そう言って相澤は、話を締め括った。

 すると女子達は、緊張の糸が解けたのか、ドッとため息をついた。

 

「いやぁ〜、ビックリした!」

 

「だね…」

 

 葉隠が言うと、耳郎も苦笑する。

 すると八百万も苦笑しながら口を開く。

 

「ですが私達はラッキーでしたね」

 

「え?」

 

「今回は、ひなたさんがすぐにイエティの正体を見抜いたから対処ができましたが、もし何の準備もなしにあのまま襲われていたらと思うとゾッとしますわ」

 

「あっ……」

 

 八百万が言うと、他の女子達はハッとした。

 今回はひなたがすぐに対処したから何とかなったものの、もしその場にひなたがいなかったら、女子達はあのままイエティに攫われていたかも知れなかったのだ。

 もしそうなったら、自分達はどうするべきかと、女子達は各々考えていた。

 だがそんな中、静寂を打ち破るように芦戸が言った。

 

「それより、せっかく先生が新しいテント用意してくれたんだし! 皆でキャンプ楽しもーよ!」

 

「ケロ、それもそうね」

 

「うん!」

 

 芦戸が言うと、女子達は同意するように頷いた。

 本物のように煌めく星の下、女子達は春休みの思い出作りをするのだった。

 

 

 

 

 

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