抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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ワールドヒーローズミッション・2

 その頃、ニューヨークの司令部では。

 突然警告音が鳴り、オペレーターの一人が長官に報告する。

 

「オセオンのチームから緊急連絡! デクとクレシェンドが指名手配を受けたようです!」

 

 オペレーターの報告を受けた長官とオールマイトは、思わず目を見開く。

 

「なっ!? 緑谷少年…それに相澤少女まで!?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、日本チームの待機ホテルでは。

 

「何故そんな事に!?」

 

「オセオンで民間人12人を殺害したって…」

 

「そんなバカな事があるかよ!?」

 

『F××K!!! 何が殺人事件の犯人だ!!! 誰だそんなクソ情報発信しやがったのァ!!?』

 

 障子が驚いていると、耳郎がパソコンでニュースを見ながら言った。

 すると鉄哲が悔しそうに拳を握り、切島はテーブルに拳を打ち付けていた。

 そしてプレゼントマイクに至っては、愛娘のひなたが指名手配された事に憤るあまりヴォイスを放ちサングラスがヒビ割れていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、エジプトチームの待機ホテルでは。

 

「でも、司令部からの情報だし…」

 

「待って待って! 二人がそんな事するわけねーよ! なあ!?」

 

「当然、何かの間違いっスよ!」

 

「誤報だ誤報!!」

 

 Mt.レディが言うと、上鳴は慌てて二人を庇った。

 すると瀬呂と峰田も二人を庇い、塩崎も声を荒げはしなかったものの二人を信じて祈りを捧げていた。

 

「そうね、峰田ちゃんのお友達が疑われてるなんて、アタシ見過ごせないわ」

 

 そして峰田の職場体験先のヒーロー、プリンセスプリティハニーも口元のチョビ髭を弄りながら知人のヒーローの卵が疑われている事に憤っていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、フランスチームの待機ホテルでは。

 

「信じない。デクくんとひなたちゃんが…二人がそんな事、絶対にするわけがない!」

 

「ケロ! きっと何か裏があると思うわ」

 

「うんうん!」

 

 麗日と蛙吹が言うと、波動が頷く。

 リューキュウは、三人を安心させる為に声をかける。

 

「大丈夫。エンデヴァー達も動いてくれるわ」

 

「向こうのチームには相澤先生と心操ちゃんもいるもの、きっと黙ってないはずよ」

 

 リューキュウが言うと、蛙吹が頷いて言った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方で、緑谷とひなたは警察の追跡を何とかやり過ごしていた。

 二人は一息つくと、ロディが二人を問い詰める。

 

「どういう事なんだよ!? あんたらが人殺しで、俺がその共犯者!? いつの間に仲間になったんだよ!? 説明しろよ!」

 

「……僕らにも分からないんだ…どうしてこんな事に…」

 

「…本当にごめんなさい」

 

 緑谷とひなたが申し訳なさそうに言うと、ロディは魂が抜けたように崩れ落ちる。

 

「ああ…終わった…俺の人生、今でもドン底なのに…さらに落ちてどうすんだ…? 最悪だ…それもこれも全部、お前らのせいだ! 何とかしろよヒーローだろ!?」

 

 ロディが二人を責め、ピノもそれに同調するように鳴くと、緑谷が口を開く。

 

「警察は問答無用で発砲して、(ヴィラン)まで襲ってきた。それは、僕らの生死を問わないという事。つまり、彼らの目的は僕らではなく…」

 

「あっ、こいつか!」

 

 緑谷が言うと、ロディは思い出したようにアタッシュケースを持ち上げる。

 何か手がかりが無いか探してみたものの、結局事件性がありそうなものは何も見つからなかった。

 

「ダメだ…事件性がありそうなものは何も…」

 

「タイトル見たら大体内容察しつくけど、こっちの書類にも特にそれっぽい事は書いてなかったよ」

 

 ひなたが本や書類に目を通していると、ロディはひなたから書類を引ったくり、急いでアタッシュケースの中身をしまって蓋を閉めた。

 

「…って、何してんの!?」

 

「狙われてんのはケースだろ!? だったらこいつを渡せば一件落着なんじゃね? そうだよ。簡単な事じゃないか…」

 

 ロディがヘラヘラ笑いながら言うと、緑谷がツッコミを入れる。

 

「そんな簡単じゃないよ」

 

「えっ」

 

 緑谷の発言にロディが固まっていると、ひなたも言った。

 

「うん。だって、警察が僕らを撃ち殺そうとしてきたって事は、そのケースが僕ら三人の命と天秤にかけるまでもないくらい重要って事でしょ? 『渡してくれてありがとう』で済ませてくれるわけ…ないよね?」

 

「相手が、ケースに隠されている秘密を知った僕らの口封じを…」

 

 ひなたと緑谷が言うと、ロディの顔が青ざめていく。

 するとロディは、ヘラヘラ笑いながら開き直る。

 

「うう…待て待て待て! そうネガティブな方向に考えるなよ。そうだ! ケースを燃やそう! んで、燃えちゃった~って言おう」

 

「却下」

 

 ロディがヘラヘラ笑いながら言うと、ひなたがバッサリ切り捨てる。

 すると緑谷も、冷静にツッコミを入れた。

 

「結果が変わってないよ」

 

「うう…ならいっそ、警察に言おうぜ」

 

「え? 何て?」

 

「『ケースが欲しければ100万ユール持ってこーい』ってな!!」

 

「それ、本当の犯罪だよ…!」

 

「火に油注ぐんじゃないよ!!」

 

 ロディが悪人面をしてアタッシュケースを持ち上げながら言うと、緑谷とひなたがツッコミを入れる。

 

「自棄を起こしちゃダメだ!」

 

「…なあ、やっぱケース渡そうぜ。命まで取られないって…考えすぎだって…!」

 

 ロディは、へなへなと崩れたかと思うと二人に縋るように言った。

 ひなたは、ロディの情けない態度に片眉を上げて頭を掻いていた。

 

「…このケースが何かの犯罪に繋がっているなら、簡単に渡すわけにはいかない」

 

「僕も反対。何というか…何か嫌な予感がするんだ」

 

 緑谷とひなたがヒーローとしての意見を言うと、ロディが怒鳴ってくる。

 

「あんたらの正義感に俺を巻き込むなよ!!」

 

「僕達三人、もう巻きこまれてる。命を狙われたんだ。何故こんな事になったのか、それがわからない限り、無闇に動くのは危険だよ」

 

 緑谷が言うと、ロディが尋ねる。

 

「…じゃあ、どうすんだよ…?」

 

 ロディが尋ねると、緑谷とひなたは顔を見合わせて頷く。

 そして、二人なりの結論を出した。

 

「……逃げよう」

 

「うん」

 

「…は?」

 

 緑谷が言いひなたが力強く頷くと、ロディがキョトンとする。

 すると緑谷は、ロディに作戦を話した。

 

「どんな事情があるにせよ、警察と戦うわけにはいかない。僕らを追っているのはオセオン国の警察…なら国境を越えて、隣国のクレイドに逃げ込めば、彼らは手出し出来なくなるはず。包囲される前にここを急いで離れよう」

 

 緑谷が言うと、ロディは緑谷に尋ねる。

 

(ヴィラン)は? (ヴィラン)が追いかけてきたらどうすんだよ?」

 

「その時は、必ず僕らが君を守るよ」

 

「え…?」

 

「大丈夫だよ! 僕らはヒーローなんだから!」

 

 緑谷が言うとロディがキョトンとしたので、ひなたは両拳を握ってニコッと笑った。

 だが強がるひなたの右肩に巻かれた包帯には、血が滲んで緋色の染みができていた。

 

「今は、逃げる事が最善だと思う」

 

「その後の事は、逃げてから考えればいい」

 

 緑谷とひなたが言うと、ロディは観念したように頭を掻く。

 

「…ああ、そうかい。わかったよ…いいさ。国境でもどこでも行ってやるよ!」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、最寄りの三人は街に向かった。

 緑谷とひなたはロディに有り金を渡し、自分達の分の変装用の服とリュックを買ってもらった。

 店裏でコスチュームから変装用の服に着替え、装備とアタッシュケースをリュックにしまった。

 ひなたは、キャスケットに丸い瓶底眼鏡、上はダボっとした半袖トレーナー、下は短パンとレギンスにスニーカーといった格好だった。

 ロディは、路地裏から顔を出して出発しようとしているバスを窺った。

 

「あのバスで、国境方面まで行ける。後ろにしがみつきゃタダだ」

 

「ダメだよ! ちゃんとお金払わなきゃ!」

 

「俺ら指名手配中だから、通報されたら終わりっしょ」

 

 ロディが悪い笑みを浮かべながら言うと緑谷がごもっともな正論を言うが、ロディは無視してバスの上に飛び乗った。

 

「あっ!」

 

「ーっ!! ああも〜! お父さん、パパ、ごめんなさい!」

 

 ロディが飛び乗ると、ひなたは観念したように走り出す。

 

「女は度胸!!」

 

「相澤さん! ああ、もう!!」

 

 ロディとひなたが先にバスに飛び乗ると、緑谷も仕方なく二人を追いかけてバスの上に飛び乗った。

 すると、ロディが声をかける。

 

「はい、無賃乗車。お仲間だね、ヒーロー」

 

「……」

 

 ロディがニヤニヤしながら言うと、ひなたはムスッとする。

 するとひなたは、財布から小銭を出して緑谷に渡す。

 

「デッくん、お金」

 

「うん」

 

(『デラウェアスマッシュ・エアフォース』…!)

 

 緑谷は、ひなたから小銭を受け取ると3枚の小銭を開いている窓から指先で弾いて料金箱に投げ入れた。

 絶妙なコントロールで小銭が料金箱に入っていくと、『Thank you!』と表示される。

 緑谷が小銭を入れると、ひなたはサムズアップをした。

 料金をきちんと払った緑谷は、右手の指を三本立てた。

 

「3人分。先払い」

 

 緑谷とひなたがドヤ顔していると、ロディが呆れた様子で言った。

 

「………屋根の上に乗るのはセーフ?」

 

「……ダメだね」

 

「ああ、バレたら絶対お父さんに殺される…」

 

 緑谷が申し訳なさそうにしている一方で、ひなたは相澤の制裁を受けるという絶望のあまり涙を流していた。

 三人を乗せたバスは、国境方面へと走っていく。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、オセオン警察本部では。

 エンデヴァーと相澤は、警察本部に乗り込んで直接長官に直談判していた。

 

「長官!! 証拠を提出して頂きたい!! 緑谷出久と相澤ひなたが大量殺人犯であるという証拠を!!」

 

「御言葉ですが、我々関係者にも開示不可能な捜査情報など、真実がどうであれ彼等の未来を冒していい理由にはなりません。具体的且つ論理的な根拠の提示をお願いします」

 

 エンデヴァーは怒鳴り、相澤は静かに憤りつつも情報の開示を求めた。

 弟子が、教え子と娘がいきなり殺人犯にされて二人とも黙っていられるわけがなかった。

 

「二名の事件は継続中。捜査情報を教えるわけにはいきません。ましてや同じ日本のヒーローである身内には…」

 

「クッ…」

 

 長官が冷たい返事をすると、二人は悔しそうに部屋から出ていった。

 長官は、出て行く二人の去っていった扉を睨みつけながらポツリと呟く。

 

「日本のNo.1ヒーロー、エンデヴァー…“ステージ5”の重病者め…」

 

 そう言って長官は、机の引き出しを開けた。

 中には、“個性”終末論の本が入っていた。

 

「人類の救済を…」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃轟は、相澤と一緒に既に調査を進めていた心操と情報共有をしつつ、さらに調査を進めていた。

 すると、クレアボヤンスが二人のいる部屋に入ってくる。

 

「ショートくん! ヒトシくん! 知り合いの探偵から調査結果が来たわ」

 

 クレアボヤンスが報告すると、二人が立ち上がり轟が尋ねる。

 

「どうでした!?」

 

「ショートくん、君が見たという“個性”攻撃を受けた車…それに乗っていた人物は、ヒューマライズの団員だそうよ」

 

「な…」

 

「ヒューマライズ…!」

 

 クレアボヤンスが報告すると、二人とも目を見開いて驚きを露わにする。

 轟は、すかさず団員の居場所を尋ねる。

 

「そいつは今どこに?」

 

「意識不明の重体で、病院の集中治療室にいるわ。警察の護衛つきでね」

 

「…話は聞けねーか」

 

「厳しいだろうな」

 

 クレアボヤンスが言うと、轟と心操は残念そうに言った。

 すると、クレアボヤンスがさらに報告をする。

 

「それと、もう一つ。事故現場近くに、盗まれた宝石がブチまけられていたそうよ」

 

「な…! まさか…」

 

「ひなた達の追ってた奴が持ってたケース…!」

 

 クレアボヤンスの報告を聞いた二人は、顔を見合わせた。

 心操の予想通り、事故現場付近にブチ撒けられた宝石は、ロディが仲間から受け取って運んでいたアタッシュケースの中身だった。

 するとその時、轟の携帯が鳴る。

 

「緑谷からのメールです」

 

「! 緑谷から?」

 

「なんて?」

 

 轟がメールを確認すると、横から心操とクレアボヤンスも内容を確認する。

 そのメールの内容は、意外なものだった。

 

 

 

『暗くなったら

 冷蔵庫にある

 イチゴを

 どうぞ』

 

 

 

「『暗くなったら冷蔵庫にあるイチゴをどうぞ』…あいつ、俺達にイチゴを…?」

 

 轟が天然発言をすると、心操がツッコミを入れた。

 

「違うと思うぞ轟」

 

「これ、暗号じゃない?」

 

 クレアボヤンスが言うと、轟は緑谷が送った暗号の内容に気付く。

 

「…! そうか」

 

「メールを全部ひらがなにして、縦読みすると…」

 

 轟は、メールの文面を全てひらがなに変換した。

 

 

 

『くらくなったら

 れいぞうこにある

 いちごを

 どうぞ』

 

 

「く、れ、い、ど」

 

 轟が文面を縦読みすると、クレアボヤンスがハッとする。

 

「…! クレイドって…隣国のクレイドの事よね?」

 

「緑谷はそこに向かってる…!」

 

「ひなたもきっとそこに…」

 

 緑谷とひなたの行き先がわかった二人は、顔を見合わせて頷く。

 

「クレイドに行ってみます」

 

「俺も行きます」

 

「分かったわ。エンデヴァーとイレイザーヘッドには報告しておく」

 

 二人がクレイドに向かおうとすると、クレアボヤンスが頷く。

 二人が部屋を出て行こうとすると、ちょうど爆豪が戻ってきたので、二人は爆豪の手を引く。

 

「爆豪行くぞ」

 

「何だいきなり!」

 

「いいから来い」

 

 二人は、爆豪を連れて事務所を出発した。

 三人が歩いていると、警官が物陰から三人の方を見ている事に気がつく。

 爆豪は、小声で轟と心操に尋ねる。

 

「クソデクとクソ触角絡みだな?」

 

「ああ、後で話す」

 

 すると心操が、首を掻きながら言った。

 

「……視られてんな」

 

「まずはあの見張りを撒くぞ」

 

「ああ」

 

「命令すんじゃねぇ!」

 

 轟が言うと心操が頷き、爆豪が反発した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、国境へ向かうバスの屋根の上では。

 轟にメールをした緑谷は、すぐにバッテリーを抜いた。

 

「轟くん達が掴んでくれればいいけど…このケースに隠されてる秘密を…」

 

「うん」

 

 緑谷が言うと、ひなたもケースを軽く撫でながら頷く。

 ロディは二人と背中合わせになる形で座っており、ペンダントの家族写真を眺めていた。

 そして夕方、三人は国境付近に辿り着いた。

 バスの屋根からそっと飛び降りた三人は、物陰から様子を伺う。

 

「警察は…いないみたいだね」

 

「うん。でも迂闊な行動はできないね」

 

 緑谷とひなたが話していると、ロディが二人に声をかける。

 

「なあ」

 

「「?」」

 

「ちょっと、電話してきてもいいだろ?」

 

「あ、うん…君の情報はテレビに出てないから大丈夫だと思うけど、なるべく手短にね」

 

「ああ!」

 

 ロディが尋ねると、緑谷が許可を出す。

 するとロディは、近くの公衆電話の方に走って行って依頼主の店主に電話をかけた。

 

『はい、スタンリーク』

 

「あ、おっちゃん?」

 

『ん!? ロディか!?』

 

「あ…いきなりで悪いんだけど…俺の家に行って、弟と妹にしばらく帰れないって伝えてくんないかな? 金は後で払うからさ…『バカ野郎!!』

 

 ロディが店主に頼み事をすると、店主が怒鳴り声を上げる。

 

『てめえにそんな事してやる義理はねぇ! それより、ブツが届いてねぇってクレームが来たぞ!?』

 

「いや、それは…」

 

『言い訳してんじゃねえ!』

 

「違うんだよ!」

 

『死にたくなきゃ、とっととブツを届けろ! いいな!?』

 

 店主は、そうやって捲し立てると一方的に電話を切ってしまった。

 ロディは、肩を落としながらポツリと呟く。

 

「ブツなんてねーよ…クソッ!!」

 

 ロディは、当たり散らすように受話器を叩きつけて戻した。

 すると、ロディが心配で様子を見に来た緑谷とひなたが声をかける。

 

「あ…どうかしたの?」

 

「何かあったの…?」

 

 二人が心配そうに尋ねると、ロディは笑顔を浮かべながら振り向く。

 

「…いや、何でもねえよ」

 

「「あ…」」

 

 精一杯強がっていたロディだが、表情には落胆や悲観、疲労が混ざったような感情が現れており、声も心なしか震えていた。

 ロディが強がっているのに気付いた二人は、心配を隠せなかった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、ひなた達と合流しようとしていた三人はというと。

 三人は、目立たないよう私服に着替え、クレイド行きの列車に乗っていた。

 

「あ? ケースを取り違えただぁ?」

 

 爆豪が尋ねると、轟が話す。

 

「ああ。(ヴィラン)が奪った宝石が入ったケース…そのケースを緑谷と相澤は途中で取り違えたらしい。今、二人が持っているケースの元の持ち主はヒューマライズの団員だ」

 

「で、恐らくだが今二人が持っているケースの中身はヒューマライズ関連だ」

 

 轟に続けて心操も言うと、爆豪が二人に尋ねる。

 

「警察がクソデク達を追いかけ回してるのも、そのせいか?」

 

「恐らくな。そのケース、かなり重要なモノなんだろ。そうじゃなきゃここまで大規模に警察は動かねえ」

 

 爆豪が尋ねると、轟が答える。

 すると爆豪が推測を話した。

 

「…警察の中にも団員がいるな」

 

「そいつ…いや、そいつらがひなた達を狙う建前作りの為に、ひなた達を殺人犯に仕立て上げたって事か」

 

 爆豪が言うと、心操が頷く。

 すると轟も続けて言った。

 

「ああ、どこにヒューマライズの目が光ってるかわからない.慎重に行動するぞ」

 

「わかってる」

 

「命令すんな」

 

 轟が言うと心操が頷き、爆豪が反発した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして夜。

 緑谷とひなた、そしてロディは馬小屋のような廃屋を見つけ、そこで休憩を取る事にした。

 ひなたは『虫が出る』だの『呪われる』だの最初は本気で嫌がっていたが、背に腹はかえられぬと覚悟を決めて失禁覚悟で一緒に小屋に入った。

 

(ヴィラン)…? 事故…? 自然災害…? 怖かねーよそんなもん…何が一番怖いかって…?」

 

「あんたにも怖いものとかあったんだな…」

 

 ひなたは、虫を怖がるあまり爪を噛みながらブツブツと独り言を言う程にまで精神的に擦り減っていた。

 部屋の隅でガタガタと怯えているひなたを見て、ロディが呆れる。

 緑谷は、マップを開きながら明日の予定を考える。

 

「やっぱり、国境までは交通機関がない。どこかで乗り物を調達するか、それとも歩いていくか…」

 

「は!? 歩く!? 無理だろ、何キロあると思ってんだよ!?」

 

「でもしょうがないじゃない、それしか無いんだもの」

 

 緑谷が言うとロディが猛反対し、ひなたが片眉を上げながら言った。

 すると緑谷が笑顔を浮かべながら言った。

 

「疲れたなら、僕がおぶっていくよ」

 

「え?」

 

「困ってる人を助ける、その為の力だから」

 

 緑谷が言うと、ロディは呆れ返ったように笑って干草の上に寝転がる。

 

「ハッ…俺、もう困ってっから、とっとと助けてくんない?」

 

「うん、絶対に助けるよ」

 

 ロディが寝転がりながら言うと、緑谷はマップを見ながら返事をする。

 するとひなたは、緑谷の背中にピッタリと密着しながら耳元でブツブツ囁く。

 

「デッくん…その力、小さじ一杯分くらいでいいから僕にも使ってくれませんかね…? 僕、今かつてない程に絶賛お困り中なんスよ。常に僕の半径10cm以内にいてくれるだけでいいんで。一生のお願い」

 

(お、おお、お、おっぱい…!!)

 

 ひなたがガタガタ震えながら言うと、緑谷は背中に押し当てられたひなたの胸の感触のせいで固まってしまっていた。

 

 

 

 その夜、ロディは幼い頃の夢を見た。

 ロディが家の庭で弟や友達と一緒に遊んでいると、父親が帰ってきた。

 家族全員で夕食を食べた後は、父親が作ったパズルを解いた。

 ロディが苦戦していると父親が解き方を教え、ロディはそれを応用して自力で解いた。

 パズルの中に入っていたのは、父親が大切にしていたペンダントだった。

 そのペンダントをプレゼントとして貰ったロディは、父からの愛情が何よりも嬉しかった。

 

 だが数年後、父親が失踪した。

 後に父親がヒューマライズの一員になった事がわかると、周囲の者達は掌を返したように彼を迫害した。

 そしてその火の粉はロディや幼い弟と妹にも降り掛かり、ロディ達は迫害の末家を追われ、今のトレーラーハウスに移り住んだ。

 理不尽な仕打ち、友人達の心無い裏切り、全ては父親のせいだった。

 ロディは、その憎しみをぶつけるかのようにペンダントを地面に投げ捨てて壊した。

 そして、何故このような仕打ちを受けなければならないのかわからずただ泣く事しかできない弟と妹を抱きしめ、二人に誓った。

 

 ──兄ちゃんはずっと一緒にいるからな…たとえどんな事をしてでも…

 

 

 

 ロディがふと目を覚まして後ろを振り向くと、ケースを抱えるようにして眠っている緑谷と、その緑谷にしがみつくようにして眠っているひなたがいた。

 ロディは、緑谷とひなたを起こさないよう慎重にケースを回収した。

 するとその時、ひなたの体がピクっと動く。

 

「んん…」

 

 ひなたの薄桃色の唇から少しくぐもった吐息が漏れ、ひなたはもぞもぞと動く。

 するとその直後だった。

 

「宇宙一バカな侍だこのヤロー!」

 

 突然ひなたが叫び出し、ロディはビクッと肩を跳ね上がらせる。

 だが、その直後にはひなたは何事もなかったかのように寝息を立てていた。

 

「んん…すぅ……すぅ……うぅん…付喪操術……」

 

 ひなたの声が寝言だった事がわかると、ロディはホッとため息をつく。

 どんなカオスな夢を見てるんだとツッコみそうになるが、ロディはそのままケースを持って出入り口に行こうとする。

 だがその時、ふと緑谷の言葉を思い出す。

 

『…このケースが何かの犯罪に繋がっているなら、簡単に渡すわけにはいかない』

 

 だがロディは、それでもケースを持って廃屋の外に出て行こうとした。

 すると、それを制止するようにピノが鳴き喚いて暴れる。

 ロディは何とかピノを静かにさせようとするが、ピノはさらに暴れる一方だった。

 ロディは、仕方なくピノを振り切って廃屋を出て駆け出した。

 そして公衆電話まで辿り着くと、警察に連絡する。

 

「もしもし」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、廃屋では。

 ピノは、翼を羽ばたかせながら大声で鳴いて二人を起こしていた。

 

「ん…何……」

 

「ふぁ…きたない…死んで……」

 

 二人が眠い目を擦っていると、ピノがケースを置いていたリュックを翼で指す。

 ケースが無い事に気がついた二人は、一気に意識を現実に引き戻された。

 

「あ…!!」

 

「ケースが無い!! それに男の子も居ないよ!!」

 

 まさかの事態に、ひなたはアワアワしていた。

 

「もしかして…」

 

 緑谷がある可能性を思い付いたその時、ピノが廃屋の入り口付近で鳴く。

 すると緑谷とひなたは、荷物を持って急いで廃屋から飛び出し、ピノの手招き通りに走っていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、ロディはペンダントの写真を見ながら迎えを待っていた。

 するとヘリコプターの音が聞こえてきたので、ロディは両手を大きく振って自分の位置を知らせる。

 しばらくするとヘリコプターがロディの前に降り立ち、中から何者かが現れ歩み寄ってくる。

 

「警察の人かい?」

 

「ケースを渡せ」

 

 ロディが尋ねると、降りてきた男ロゴンはロディの質問を無視して歩み寄る。

 ロディは、ロゴンにケースを投げた。

 

「これで、俺は自由って事でいいんだよな?」

 

 ロディが尋ねると、ロゴンはケースを受け取ってから不意に尋ねる。

 

「仲間はどこだ」

 

「…え?」

 

「お前もそいつらも知ってるんだろう? このケースの秘密をなぁ!!」

 

 そう言ってロゴンは両腕を金棒に変形させ、角の生えた赤鬼のような巨漢に変身した。

 迎えの男ロゴンは、警官ではなく(ヴィラン)だった。

 ロゴンの姿を見たロディは、震えながら首を横に振って比定した。

 

「し、知らない…な、何も知らないって……」

 

 ロディが否定してもロゴンは近づき、ロディは尻餅をついてしまった。

 

「弟と妹が待ってるんだ…頼むよ…帰らせてくれよぉ!!」

 

 ロディは、頭を抱えて蹲りながら叫んだ。

 無慈悲にロゴンの金棒がロディの頭に振り下ろされる、その瞬間だった。

 突然、ロゴンに向かって風圧が襲いかかった。

 ロゴンは、風圧を金棒で防いだ。

 

「エアフォースを…なら! スマアアアアアッシュ!!!」

 

 緑谷は空中でセントルイススマッシュを放ち、ロゴンはそれを鉄棒で受け止めたが、受け切れずに吹っ飛ばされた。

 緑谷は、ケースを回収して呆然としているロディに歩み寄る。

 

「お、俺は!!」

 

 そう言ってロディがケースを抱えて首を横に振ったその時、ロディ目掛けて緑色の光を纏った矢が飛んでくる。

 ヒューマライズの狙撃手ベロスが物陰から矢を構えていたのだ。

 だが次の瞬間、突然爆音攻撃が放たれ、矢はコントロールを失って軌道が逸れる。

 爆音攻撃は、ロゴンとべロスを襲った。

 

「がぁっ!?」

 

「ぐぁ!!」

 

 爆音攻撃に晒された二人は、そのまま意識を失う。

 緑谷がハッとして振り向くと、そこにはひなたがいた。

 

「相澤さん!」

 

「間に合った!」

 

 ひなたは、捕縛武器で二人を手早く拘束すると、緑谷とロディに声をかけた。

 

「すぐにここを離れよう」

 

「うん。他にも同じくらい強い(ヴィラン)がゴロゴロいるかもわかんないもんね」

 

 緑谷が今後の方針を話すと、ひなたも頷く。

 今後に方針の確認が終わると、三人はすぐに出発した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後三人は、手頃な洞窟を見つけ、そこで休憩を取る事にした。

 三人で焚き火を囲み、緑谷とひなたがマップを見ながら話し合っていると、ロディが二人に話しかける。

 

「……何で助けに来たんだよ」

 

「ん? どうしてって…」

 

 ロディが言うと、緑谷が尋ね返す。

 するとロディは、座っていた岩から立ち上がって二人に背を向けながら言った。

 

「俺はケースを持ち出した…あんたらを裏切ったんだ……俺なんか見捨てて、ケースを取り返して逃げりゃよかったんだ…」

 

「そんな事、できないよ」

 

「僕達はヒーローだよ。君を置いて行くなんて選択肢は無い」

 

 ロディが言うと、二人は自分達の意見を伝えた。

 するとロディは、昼間の事を正直に話した。

 

「昼間だって(ヴィラン)が盗んだ宝石を運んでたんだ。あんたらヒーローが嫌いな犯罪者だぜ!?」

 

「困ってる人を放っておけないよ。どうしても助けたいって思っちゃうんだ」

 

「うん」

 

 ロディが言うと、緑谷が返しひなたも頷く。

 ロディは、呆れ顔を浮かべながら振り向いた。

 

「それでケガしたら割に合わねえだろ」

 

「う、確かに…善処します」

 

「それ善処しねえやつ」

 

「あはは…でも、救けられれば、それで充分だよ」

 

 ロディが言うと、ひなたは苦笑いを浮かべながら頭を掻き、ロディがツッコミを入れる。

 緑谷は、二人のやり取りに笑いつつ、笑顔のまま答えた。

 

「んん……よくわかんねえ」

 

 ロディは、自分の常識が通じない二人に参ったという様子で頭を掻いた。

 ロディが岩に座り直すと、緑谷が目を輝かせながら話し始める。

 

「…ずっと憧れてたんだ。笑顔で人々を救ける…そういうヒーローになりたくて…オールマイトのようになりたくて」

 

「オールマイトって…世界的に有名な、あの?」

 

「うん、僕の師匠なんだ」

 

「マジかよ…」

 

 緑谷が言うと、ロディが驚く。

 そして隣にいたひなたも、元々丸い目をさらに丸くして驚いていた。

 

「は!? いやそれ初耳!!」

 

 ひなたが触角を直立させて驚くと、緑谷はしまったと言わんばかりに両手で口を塞ぎ、ひなたに詰め寄って口の前で人差し指を立てた。

 

「え、えっと…こ、この事はクラスの皆には内緒にしといて!? お願い!!」

 

「えぇ!?」

 

 緑谷が言うと、ひなたは驚いて声を上げた。

 ひなたは、うまく飲み込めずにいつつも腕を組んで考え込み、左眼だけ開けて言った。

 

「んん……しょうがないなぁ。僕も今日借り1個作っちゃったしね」

 

 ひなたは、緑谷が自分のわがままを聞いてくれた礼に秘密にする事を約束した。

 すると、ロディがひなたに尋ねる。

 

「…あんたもか?」

 

「え? うーん…僕は、お父さんみたいなヒーローになりたい! 何も無かった僕に夢を与えてくれた、そんなヒーローに!」

 

 ひなたが少し上を見上げながら目を輝かせて言うと、ロディは顔を背けながら言った。

 

「オールマイトみたいに、父さんみたいなヒーローになりたい…あんたらはその夢を追いかけて、ヒーローになった…ハッ、俺とは大違いだな」

 

「え?」

 

「大違いって…」

 

 ロディが言うと、緑谷とひなたが尋ねる。

 するとロディは自分の話をし始めた。

 

「俺は先の事なんか、何も考えられねえ。パイロットになりたいなんて寝言、言ってる余裕もねえ。幼い弟妹を養うだけでいっぱいいっぱいだ」

 

 ロディが言うと、ひなたはロディの立場を考えずに自信満々に自分の話をしてしまった事を後悔した。

 

「あ…」

 

「ぼ、僕は…「何も言うなよ! 同情なんかされたくねえ!」

 

 緑谷が立ち上がって何かを言おうとするとロディが怒鳴り、緑谷は黙って岩に座り込んだ。

 すると、ロディが話し始める。

 

「ヒーローなんて…目立ちたがり屋で、人助けとか言いながら金儲けする奴らの集まりだと思ってた。現に、俺の住む町にヒーローは来てくれねえ。金になんないからな…でも、あんたらみたいなヒーローもいるんだな。あんたらに助けられれば助けられるほど、俺は何やってんのかって思うよ…俺、カッコ悪ィ」

 

 ロディは、自分と二人を比べて惨めになっていた。

 すると緑谷とひなたが話し始める。

 

「…僕も、カッコ悪いよ。幼い頃からヒーローになりたいって思ってたけど、『お前はダメだ。ヒーローなんかになれるわけない』って、ずっと言われて…“個性”が上手く使えなくて、落ちこぼれてた。だから…カッコ良くなりたいんだ。笑顔で人々を助けられる、そんなヒーローに…!」

 

「…『人を傷つける“個性”だ』って言われて、(ヴィラン)にも狙われて、そんな自分がずっと嫌いだった。どんなにつらくてもヒーローは助けてくれなくて、ヒーローを嫌いになった事もあった。でもお父さんが僕を助けてくれたから、変われたんだ。だからもっと強くなりたい。強くなって、お父さんみたいなカッコいいヒーローになりたい!」

 

 二人が話すと、ロディは普通の真剣な表情に魅入られた。

 するとその時、ピノが上機嫌になって翼を羽ばたかせ、緑谷の頭上にちょこんと座り込む。

 

「そいつはピノっていうんだ」

 

「「ピノ?」」

 

「俺はロディ。ロディ・ソウルだ。あんたらの名前は?」

 

 ロディが立ち上がって名乗ると、今度は緑谷とひなたが立ち上がりながら名乗る。

 

「僕はイズク・ミドリヤ…ヒーロー名はデク」

 

「僕はヒナタ・アイザワ…ヒーロー名はクレシェンド・モルト。あ、ヒナタでいいよ! 長いから」

 

 二人が名乗ると、ロディが笑顔を浮かべる。

 

「デクにヒナタ……覚えやすいな」

 

「うん、気に入ってる」

 

「えへへ…僕の大好きな人がくれた、大好きな名前なんだ」

 

 二人も笑顔を浮かべると、ピノも上機嫌な様子で鳴いた。

 すると、急にひなたが笑い出す。

 

「…ふふっ」

 

「どうした?」

 

「いや…僕達、こんなに一緒にいたのにお互いの名前知らなかったんだなぁって。今思うとおかしくって。よろしくね、ロディくん!」

 

「ああ」

 

 ひなたが右手を差し伸べると、ロディはひなたの手を握った。

 

「少し寝ておこう、ロディ」

 

「ああ、そうだな。デク、ヒナタ」

 

「うん」

 

 緑谷とロディが言うと、ひなたはコクリと頷いてその場に横になった。

 焚き火が少しずつ弱くなっていき、弱々しくも暖かい光が三人を照らしていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、ヒューマライズ本拠地では。

 フレクトターンは、オセオン警察の長官からの報告を聞いていた。

 

『申し訳ありません、寸前の所で取り逃しました。現在、警官を総動員して行方を追っております』

 

「軍は動かせないのかね?」

 

『流石に、私の権限では…』

 

「捜索を続けよ」

 

『はっ、人類の救済を…』

 

 長官がフレクトターンに忠誠を誓うと、長官の顔が表示されたモニターが消え、フレクトターンは隣のモニターに視線を移す。

 そのモニターには、ケースを抱えたロディが映っていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 焚き火が消えた頃、緑谷とひなたはというと。

 

「んん…一は全、全は一……」

 

 ひなたが相変わらず変な夢を見ていると、車の音が聞こえてくる。

 ひなたは、車の音で目を覚まし、眠たそうに目を擦った。

 

「んんー…何? 車?」

 

「危機感知が反応しない…(ヴィラン)じゃないよ」

 

「じゃあ…」

 

 ひなたと緑谷が荷物を持って二人で洞窟の入り口まで来ると、ロディが古びた4人乗りのジープのそばに立っていた。

 

「ロディ!」

 

「ああ、起こしちまったか」

 

「その車は?」

 

「…もしかして、それを取りに行ってくれてたの?」

 

 緑谷とひなたが尋ねると、ロディはしれっと笑いながら答える。

 

「ああ、借りてきた。歩きだとつれーだろ? 料金後払いで借用書も書いてきた。ヒーロー協会名義でな。セスナ借りられれば、ソッコーでクレイドまで行けるんだけどな」

 

「セスナって…ロディ、操縦できるの!?」

 

「すごいや! 流石パイロット志望!」

 

「へへ、冗談だって。乗れよ」

 

 ロディが言うと、緑谷とひなたが驚く。

 ロディが笑いながら冗談だと白状すると、ひなたは若干ムスッとした。

 結局、ロディと緑谷が運転席と助手席に、ひなたが後部座席に乗る事になった。

 ロディが運転するジープで国境へ向かっていると、ロディが二人に尋ねる。

 

「なぁデク、ヒナタ」

 

「「何?」」

 

「ケースの秘密がわかったら、俺、家に帰れるよな?」

 

 ロディは、ケースに手を触れながら不安そうに尋ねる。

 すると、緑谷とひなたが答える。

 

「勿論だよ!」

 

「うん! 皆で無事に家に帰ろう!」

 

 ひなたが触角を振って頷くと、緑谷が尋ねる。

 

「…あ、幼い弟さんがいるんだっけ?」

 

「妹もな」

 

「ご両親は?」

 

「お袋は一番下の妹を生んだ後、すぐ逝っちまった。だから親父は、俺達を必死に育ててくれた…けど、いきなりいなくなった」

 

「え…いなくなったって?」

 

 緑谷が尋ねると、ロディは家族の話をした。

 緑谷がさらに尋ねると、ロディは緑谷に尋ね返す。

 

「ヒューマライズって知ってるか?」

 

「無差別テロを起こした団体…」

 

「“個性”を持ってる人を病人扱いしてる宗教団体…って聞いてるけど」

 

 ロディが尋ねると、緑谷とひなたが答える。

 するとロディが話し始めた。

 

「ああ。親父がそこの団員だって事がわかって、そっからはもうさんざんさ。つるんでたダチは離れるわ、学校や家を追い出されるわ、まともな働き口すら見つからねえ」

 

「そうだったんだ…」

 

「…親父の事を恨んださ。恨んで恨んで…んで、どうでもよくなった。今は、弟と妹の方が大事だ。まともな生活を送らせてやりたい」

 

 そう言ってロディがロケットペンダントの写真を見つめていると、いきなりひなたが食いついて顔を寄せてくる。

 

「あ! 弟と妹の写真?」

 

「ああ」

 

 ひなたが尋ねると、ロディは緑谷にペンダントを渡しながら頷く。

 緑谷は、微笑ましい家族写真を見て僅かに目を見開く。

 

「へえ! かわいいね」

 

「弟は頭のデキがよくてさ、妹はかなりかわいい! 将来、絶対美人になる!」

 

 ロディが運転そっちのけで家族写真を覗き込んでいると、前を見ていた緑谷とひなたがギョッとする。

 ロディは、写真に夢中になるあまり蛇行運転をしてしまっていた。

 

「前! 前みて! ロディィィ~~!!」

 

「ぎゃああああああああっ!!!」

 

 ロディが蛇行運転をすると、車体が大きく揺れひなたは目を丸くする。

 車体が道の凹凸に躓いて大きく跳ね、ドスンと音を立てて着地する。

 するとロディは慌てて車を止め、後ろに乗っていた乗っていたひなたを心配する。

 

「あ…悪い!! 大丈夫か!?」

 

 ロディが尋ねると、ひなたは手を挙げてヒラヒラと振った。

 ひなたは後部座席の上でひっくり返っており、目を回していた。

 

「う、うぅ…あ、安全運転でお願いします…」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 それから三人を乗せたジープは、国境を目指して走っていく。

 緑谷が地図を広げながらロディやひなたとルートを相談し、道なき道を進んでいった。

 途中の綺麗な花畑でひなたが後部座席の窓から目を輝かせながら落ちそうな勢いで身を乗り出し二人をヒヤヒヤさせたり、途中の川ではジープを手招きしていた緑谷が転んでしまいびしょ濡れになり荷台に服を干してタオル一枚を身につけた緑谷にひなたが目のやり場に困ったりした。

 途中でガソリンスタンドに寄り緑谷とひなたがガソリンを入れていると、レジ打ちが怪しそうに二人に目を向けたので、必要な物資を買いに来たロディが慌ててレジ打ちの気を逸らしていた。

 雨の岩場では、緑谷とひなたが“個性”とサポートアイテムを使ってジープを引き上げ、雨が上がると三人でパンを食べながら国境へと走っていく。

 日が暮れかけた頃になると、途中の草むらでジープを停めて次のルートを三人で相談し合った。

 

 深夜になると、三人は古びた建物の影にジープを停めて休憩を取る事にした。

 ひなたは、リュックに入れておいた魚の缶詰を食べて体力を回復させる。

 ロディは、緑谷の包帯を巻き直しながら言った。

 

「いやー、デクの“個性”便利だな! ヒナタの“個性”も索敵とかに使えるし、羨ましいよ」

 

 ロディが言うと、緑谷が思い出したように尋ねる。

 

「あっ、ねえロディ」

 

「ん?」

 

「“個性”あるよね? どんな“個性”?」

 

「あ! 僕も気になってたぁ!」

 

 緑谷が尋ねると、ひなたも手を挙げて言った。

 するとロディは、露骨に嫌そうな顔をして渋る。

 

「…言いたくねえ」

 

「あっ…ごっ、ごめん…」

 

 ロディが言うと、緑谷とひなたは申し訳なさそうにする。

 するとロディは、恥ずかしそうに言った。

 

「…笑わねーなら」

 

「笑わない!」

 

「うん!」

 

 ロディが言うと、緑谷が即答しひなたも首を激しく縦に振る。

 

「絶対だな!?」

 

「絶対笑わない!」

 

「うんうん!」

 

 ロディが念押しすると、緑谷とひなたは激しく首を横に振った。

 するとロディは、恥ずかしそうに話し始めた。

 

「ん…俺の“個性”は……」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後もジープでの旅は続き、翌日の昼頃。

 三人はようやくゴール付近に辿り着いた。

 オセオン国とクレイド国の国境は、広大な渓谷の底にあった。

 

「うわぁ…やっぱりいるよなぁ」

 

「ものすごい警備だ。戦わずに正面突破はできそうにない」

 

 ひなたがサポートアイテムのゴーグルを装着して底を覗きながらぼやき、緑谷も双眼鏡を覗きながら言った。

 緑谷は、崖を見上げながら二人に言った。

 

「ここを越えていくしかないね」

 

 緑谷は、ロディに背を向けて両手を後ろに差し出す。

 

「乗って。早くしないと」

 

「デク、ヒナタ。これを持ってけ」

 

 そう言ってロディは、ケースを二人に差し出した。

 

「ロディ?」

 

「急に何言って…」

 

「二人とも、その怪我で俺を抱えて登んのしんどいだろ? 俺はここまでだ」

 

 ロディは、手に持っていたケースを二人に託して言った。

 すると当然、緑谷とひなたが反対する。

 

「でも! 車はガス欠だし、こんな場所で一人にさせる訳には…」

 

「そうだよ! 指名手配されてないとはいえ、君が狙われてるのは変わりないんだから!」

 

「俺の逃げ足の速さは知ってるだろ。木の実でも食ってここで待ってっから、早くケースの秘密解いて、迎えに来てくれ」

 

「「ロディ」くん…」

 

「頼んだぜ、ヒーロー!」

 

 ロディが二人にケースの秘密を託すと、二人は顔を見合わせて頷きケースを受け取ろうとする。

 すると、その時だった。

 

「来るよ!!」

 

「えっ?」

 

 突然、ひなたと緑谷が上空を見上げて戦闘態勢を取る。

 はじめは何の事かわからなかったロディだが、ふと風を切るような音が聞こえ、上空を見上げると思わず後退りした。

 

「嘘だろ…まだ追ってきてたのかよ!?」

 

 ロディの視線の先には、こちらへ向かってくるヘリがあった。

 ヘリからは、ヒューマライズの団員であるシデロが身を乗り出し、手の甲から鉄球を生み出してジャラジャラと鳴らしていた。

 それを視認したひなたは、ケースを受け取った緑谷を走らせる。

 

「行ってデッくん!!」

 

「うん…!」

 

「耳塞いで!」

 

 ひなたは、大きく息を吸い込むと、ヒューマライズのヘリ目掛けて爆音を放った。

 すると、ヘリに乗っていた全員が“個性”を消されて叫び声上げる。

 

「ぐああああ!!」

 

 ひなたに“個性”を消されたシデロは、タイミングが悪かったのか、そのまま気を失ってヘリから落ちた。

 

「シデロ様ァ!!」

 

「くそっ、こうなったら…!」

 

 ヘリの操縦士は、ヘリの中に仕込んであった爆弾を起爆させ自滅しようとした。

 ヒーローに捕まるくらいなら死んだ方がマシだと考えたのだ。

 

「ごめん!」

 

「えっ!?」

 

 緑谷は、ロディにケースを押し付けると、フルカウルを使って走り出した。

 ひなたと緑谷は、ヘリから落ちたシデロと、自爆を図る操縦士達を助けようと、全速力で飛び出そうとした。

 だがその時、巨大な氷塊が落ちていくヘリを覆い、爆豪が爆速ターボで駆け抜け落ちていくシデロを掴んだ。

 

「ミスってんじゃねえぞてめぇら!!」

 

「かっちゃん…!」

 

 シデロを救出した爆豪が怒鳴り散らすと、ひなたがホッと安堵のため息を漏らす。

 そして轟と心操も、ヘリに乗っていた団員を救出し拘束していたところだった。

 

「良かった、全員生きてるな」

 

「こいつら、ヘリの中に爆弾仕込んでた。危ないところだったぞ」

 

「あ、ありがとう轟くん。でもどうやって?」

 

「相澤の爆音のおかげで、列車から見つけられた。ん? そいつが電話で言ってた…」

 

「うん、僕らと一緒に犯罪者にされた…ロディっていうんだ」

 

 轟がロディに目を向けると、緑谷はロディを紹介した。

 するとロディは、轟に礼を言った。

 

「さっきはありがとう」

 

 ロディが轟に感謝すると、ピノも感謝の意を示すように鳴いた。

 するとだ。

 

「んな事より! ケースだ! ヒューマライズ絡みなんだろ!?」

 

 爆豪が勢いよく着地してとんでもない事を言ってくると、ひなた達三人が驚く。

 

「え? ヒューマライズ絡み?」

 

「どういう事…?」

 

「ああ。だから俺達はここに来た。有力な情報が手に入る可能性があると踏んで…」

 

 そう言って轟が軽くケースを持ち上げると、緑谷は俯いて少し考え込む。

 その時だった。

 

「あっ!」

 

 ふと何かに気付いた轟は、両手でケースを持って底を調べた。

 

「ん…どうした緑谷?」

 

「あ…」

 

「これって…」

 

 緑谷が底を調べると、ケースの底のゴムが一個外れかけている事に気がつく。

 そして緑谷とひなたは、外れかけたゴムに仕掛けが隠されていた事に気がついた。

 

 

 

 

 

 

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