抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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ありがとうございます。
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面白いと思っていただけましたら高評価(9・10あたり)、お気に入り、感想などなどよろしくお願いします。


各々の胸に

 雄英の教師陣がUSJに到着し、死柄木達が去っていった後。

 

「なんてこった…」

 

「これだけ派手に侵入されて逃げられちゃうなんて…」

 

 ドレッドヘアーとガスマスクのような仮面を着けたガンマンスタイルの風貌が特徴的な教員『スナイプ』と、SM嬢のようなコスチュームを着たスタイル抜群の女性教員『ミッドナイト』が悔しそうに言った。

 すると校長が、筋骨隆々の身体と強面が特徴的な1年B組の担任『ブラドキング』に肩から下ろされながら冷静に状況を分析する。

 

「完全に虚を突かれたね…それより今は生徒らの安否さ」

 

「それと…」

 

 プロヒーロー達が生徒達の安否確認をしている一方で、生徒達もまた状況を整理していた。

 

「教師陣か…ここにこれだけ集まるって事は、学校全体に仕掛けて来たって事じゃなさそうだ」

 

「大丈夫スかオールマイト!?」

 

 切島がオールマイトを心配するが、変身が解けかかって身体から煙が出ていた。

 するとその直後、突然切島の目の前にセメントの壁が迫り上がる。

 

「生徒の安否を確認したいからゲート前に集まってくれ。怪我人の方はこちらで対処するよ」

 

 そう言って出てきたのは、顔が灰色の直方体になっている『セメントス』だった。

 

「そりゃそうだ! ラジャっす!!」

 

 切島は、元気よく返事するとゲートへと向かっていった。

 するとその直後オールマイトの変身が完全に解けてガリガリの骸骨のような姿になる。

 セメントスは、危うくオールマイトの本来の姿が切島にバレてしまうところだったので気を利かせて切島を出口へ向かわせたのだ。

 

「ありがとう。助かったよ…セメントス」

 

「俺もあなたのファンなので…このまま姿を隠しつつ保健室へ向かいましょう。しかしまァ、毎度無茶しますね…」

 

 オールマイトが礼を言うと、セメントスはニコッと笑いながら言った。

 

 

 

 セメントス

 本名 石山堅

 “個性”『セメント』

 触れたコンクリを粘土のように操るぞ! 

 現代社会じゃ鬼強だ! 

 

 

 

「無茶をしなければやられていた。それ程に強敵だった」

 

 元の姿に戻ったオールマイトは、そう言って保健室へと向かっていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、都内某所のバーでは。

『CLOSE』の札が立てられ客が一人もいないバーの中に突然、黒い渦が現れる。

 

「ってぇ…」

 

 黒い渦からは、銃弾を喰らってボロボロになった死柄木が現れた。

 死柄木は、床に這いつくばって血を流していた。

 すでにひなたに壊された“個性”は元通りになってはいたものの、その怒りは全く収まっていなかった。

 

「両腕両脚撃たれた…完敗だ…脳無もやられた…“個性”も出せなかった…手下共は瞬殺だ…子供も強かった…平和の象徴は健在だった…! 話が違うぞ先生……」

 

 すると、モニターからは低い男の声と老人の声が聞こえてくる。

 

『違わないよ。ただ見通しが甘かったね』

 

『うむ…舐めすぎたな。(ヴィラン)連合なんちうチープな団体名で良かったわい。ところで、ワシと先生の共作脳無は?』

 

『回収してないのかい?』

 

 老人と男が尋ねると、黒霧が答える。

 

「吹き飛ばされました。正確な位置座標を把握できなければ、いくらワープとはいえ探せないのです。そのような時間は取れなかった」

 

『せっかくオールマイト並みのパワーにしたのに…まぁ…仕方ないか…残念』

 

 黒霧が報告すると、画面の向こうの老人はやや落胆していた。

 すると死柄木は、画面に向かってひなたに対する恨み言をぶつける。

 

「特に何だあのガキ…! あのガキに“個性”を壊されてから全部狂った……! 脳無はボコボコにされて、あいつのせいでオールマイトにあっさりやられた……! 叫ぶだけで“個性”を壊せる“個性“なんて聞いた事がない……!! クソッ、あいつさえ居なきゃオールマイトを殺せたかもしれない…ガキがっ…ガキ…!」

 

 死柄木が悔しそうに言うと、画面の向こうの男は死柄木とは対照的に興味深そうに言った。

 

『その様子だと、なす術なくあの子に完敗したようだね。言っただろう? あの教室には、脳無を超える怪物がいるって。尤も、あの子自身は内に秘めた怪物性にこれっぽっちも気付いちゃいないがね』

 

『ほっほ、そうかそうか! 脳無相手に善戦したか! 流石は()()()の最高傑作じゃわい!』

 

 男はひなたの強力な“個性”に興味を抱いており、老人も死柄木からひなたの話を聞いて興味深そうに言った。

 すると男が死柄木に向かって言い放つ。

 

『今回の事を悔やんでも仕方ない! 今回だって無駄ではなかったはずだ。精鋭を集めよう! じっくり時間をかけて! 我々は自由に動けない! だから君のような『シンボル』が必要なんだ。死柄木弔!! 次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!』

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「17…18…19……(ヴィラン)との戦闘で負傷した彼女を除いて…ほぼ全員無事か」

 

 塚内は、他の警察官と共に(ヴィラン)全員の身柄を拘束し生徒達の安否確認を行っていた。

 生徒達は、重傷を負ったひなたを除いて全員無事だった。

 自壊する程の超パワーを出した緑谷に関しても、たまたま“個性”の制御がうまくいったらしく大きな怪我は無かった。

 葉隠は、尾白の肩に手を置いて話しかける。

 

「尾白くん…今度は燃えてたんだってね。一人で…強かったんだね」

 

「皆一人だと思ってたよ俺…ヒット&アウェイで凌いでたよ…葉隠さんはどこにいたんだ?」

 

「土砂のとこ! 轟くんクソ強くてビックリしちゃった」

 

 尾白が尋ねると、葉隠は轟を指差しながら言った。

 

「何にせよ無事で良かったね」

 

(凍らすとこだった危ねえ…)

 

 葉隠が話し尾白が苦笑いを浮かべていると、轟は危うく葉隠を凍らせるところだったと考えていた。

 

「僕がいたとこはね…どこだと思う!?」

 

 青山が自慢げにしゃしゃり出てくるが、常闇と心操は無視して隣にいた切島と話していた。

 

「そうか、やはり皆のとこもチンピラ同然だったか」

 

「まあ俺らのとこは半分以上ひなたが倒してたけど……」

 

「ガキだと舐められてんだ」

 

 常闇が切島からその時の状況を聞き、心操はひなたの無双を思い出して顔を引き攣らせながら首を掻いていた。

 切島も他のクラスメイト同様、チンピラ達は大した事なかったと語っていた。

 

「どこだと思う!?」

 

「どこ?」

 

 無視された青山がしつこく尋ねてくるので、蛙吹は仕方なく尋ねる。

 すると青山はキリッとポーズを決めながら答えた。

 

「秘密さ!!」

 

 すると蛙吹は、『聞いて損した』と言わんばかりに見事にスルーし塚内の話を聞いていた。

 

「とりあえず生徒らは教室に戻ってもらおう。すぐ事情聴取ってわけにもいかんだろ」

 

「刑事さん、相澤先生は…」

 

 蛙吹が不安そうに塚内に尋ねると、塚内はセントラル病院に電話をかけてスピーカーをオンにした。

 すると病院から返事が返ってきた。

 

『両腕粉砕骨折、顔面骨折…幸い脳系の損傷は見受けられません』

 

「だそうだ…」

 

「ケロ…」

 

 病院からの返事を塚内が報告すると、蛙吹は心配そうな表情を浮かべる。

 すると塚内は、さらに生徒達に報告する。

 

「13号の方は、背中から上腕にかけての裂傷が酷いが命に別状はなし。オールマイトも同じく命に別状なし。彼に関してはリカバリーガールの治癒で充分処置可能との事で保健室へ」

 

 塚内は、13号やオールマイトの容態も生徒達に報告した。

 

「あの……! 相澤さんは……!? 僕達を逃がす為に (ヴィラン)と戦って、大怪我を負ったんです……!」

 

「ひなたは……治るんですよね!?」

 

 緑谷と心操がひなたの容態を尋ねると、塚内は病院からの返事を二人に報告した。

 

「……彼女は、頭を負傷して出血が酷かったが、脳系の損傷はなく命に別状はないそうだ。早ければ明日にでも退院できるらしい。幸いにも殴られる直前に受け身を取っていたおかげで負傷は最小限で済んだようだが……オールマイト並みのパワーを持つ(ヴィラン)の本気の一撃を受けておいてその程度で済んだのは奇跡だそうだ」

 

「……そうですか」

 

「ひなたちゃん……」

 

 とりあえずひなたの命に別状はなく明日にでも退院できると聞いた生徒達は、不安は拭い切れなかったものの一安心していた。

 

「私は保健室の方に用がある。三茶! 後頼んだぞ」

 

「了解」

 

 塚内は、猫の異形型の“個性”と思われる部下に現場を任せて校長の方へ向かう。

 

「セキュリティの大幅強化が必要だね」

 

「ワープなんて“個性”、ただでさえものすごく希少なのによりにもよって(ヴィラン)側にいるなんてね……」

 

 校長はUSJ全体を見渡しながら考え、ミッドナイトも悔しそうに言った。

 すると、鬼の異形型の“個性”と思われる塚内の部下が報告をする。

 

「塚内警部! 約400m先の雑木林で(ヴィラン)と思われる人物を確保したとの連絡が!」

 

「様子は?」

 

「外傷はなし! 無抵抗で大人しいのですが……呼びかけにも一切応じず口が利けないのではと…………」

 

 塚内が尋ねると、塚内の部下が報告をした。

 すると塚内は、校舎の方角を親指で指しながら笑顔で校長に話しかける。

 

「校長先生、念の為校内を隅まで見たいのですが」

 

「ああ、もちろん! 一部じゃとやかく言われているが、権限は警察の方が上さ! 捜査は君達の分野! よろしく頼むよ!」

 

 塚内が言うと、校長も快く捜査の許可を出した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして保健室では、オールマイトがリカバリーガールに治療を受けていた。

 

「今回は事情が事情なだけに、小言も言えないね」

 

 リカバリーガールがそう言ってため息をつくと、塚内が保健室に入ってくる。

 塚内は、帽子を脱ぐとリカバリーガールに一礼してオールマイトに笑顔で声をかける。

 

「失礼します…オールマイト、久しぶり!」

 

「塚内くん!! 君もこっちに来てたのか!!」

 

 塚内はオールマイトとは普段から仲がいいので、フランクな口調で話していた。

 塚内は、早速オールマイトが寝ていたベッドの前まで行くと話しかける。

 

「早速で悪いがオールマイト、(ヴィラン)について詳しく……」

 

「待った、待ってくれ。それより…生徒は皆無事か!? 相澤…イレイザーヘッドと13号は!! 相澤少女は!!」

 

 オールマイトが生徒や後輩の安否の報告を催促すると、塚内はやれやれと言わんばかりに笑みを浮かべながら報告する。

 

「………生徒は彼女以外は軽傷数名。彼女も命に別状はなく、早ければ明日退院できる。教師2人はとりあえず命に別状なしだ。3人のヒーローと1人の少女が身を挺していなければ、生徒らも無事じゃあいられなかったろうな」

 

「そうか…しかし、一つ違うぜ塚内くん。相澤少女以外の生徒らもまた戦い、身を挺した!! こんなにも早く実戦を経験し、生き残り、大人の世界を、恐怖を知った1年生など、今まであっただろうか!? (ヴィラン)も馬鹿な事をした!! このクラスは強いヒーローになるぞ!! 私はそう確信しているよ」

 

 オールマイトは、笑みを浮かべながら力強く言った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ──…………

 

 少女は、培養液と思われる液体が入ったポッドの中で目を覚ました。

 4〜5歳くらいの身体で、腰程まで伸びた黒髪が液体の中でゆらゆら揺れる。

 ポッドの底の照明からは青白い光が当てられ、ポッドの中の少女を不気味に照らしていた。

 

 ──最高だ……! こいつが完成すれば、私の願いが叶う……! 

 

 白衣を着た壮年の男は、興奮気味に少女の入ったポッドに両手をついて恍惚とした表情を浮かべていた。

 少女は男に大きな緑色の瞳を向けると、そっと瞳を閉じた。

 

 すると、頭の中に映像が流れ込んでくる。

 3人の男子高校生が夕焼けが照らす通学路で互いの夢を語り合っていると、その中の1人で水色の癖っ毛をした大柄な男子が突然黒い霧の中に埋もれて姿が見えなくなっていく。

 するとその霧を吸い込んだ黒髪の男子と金髪の男子が突然鼻や口から黒い液体を吐き出し、液体が一箇所に集まりグネグネと粘土のようにうねってやがて一人の少女の姿になった。

 そして少女の目の前に立ち込める黒い霧の中からは、脳がむき出しになり肌が漆黒の怪物が無数に出てくる。

 その中の一体が大きく口を開き、怪物の口の中から無数の手が現れ少女の方へ手を伸ばしていく。

 無数の手が触れると夕焼けの背景はボロボロと崩れていき、赤と黒が点滅する不気味な背景へと変わっていく。

 少女が無数の手に掴まれて怪物の口の中へと引き摺り込まれ、その奥ではスーツを着た一人の男が不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ──…………

 

 そして次に目を覚ました時、少女はポッドの外にいた。

 まだぼんやりとしか見えていない目に映っていたのは白衣を着た研究員達だった。

 ポッドから出てきた少女は自分の足で立つ事すら出来ず、周りをキョロキョロと見渡すといきなり泣き始めた。

 

 ──ふぎゃあぁあああああ、うわぁあぁあああああん!! 

 

 少女が人間の声とは思えないほど大声を上げて泣くと、周りにいた研究員達が耳や口から血を噴き出してバタバタと倒れ始める。

 すると上の階の窓からその様子を覗いていた男は、口角を吊り上げる。

 

 ──ほぅ……こいつは素晴らしい。流石は私の最高傑作といったところか

 

 だがその直後、少女の身体に異変が起こる。

 眼球が飛び出て穴という穴から出血し、身体中がビキビキと変形した。

 

 ──あ゛っ、がぁ゛っ、あ゛ぁあ……!! 

 

 全身が変形し、もはや原型を留めなくなった少女は、その場に倒れ込む。

 手足はグシャグシャになり、眼球は飛び出し、乳歯がボロボロに欠け、全身の内臓という内臓が破損し、もはや生きているのかもわからない程の重傷だった。

 それを見た研究員は、顔色を悪くしつつも少女の容態を確認する。

 

 ──あーあ、自分の“個性”でこうもダメになっちまうとはな。脳ミソがスクランブルエッグみたいになってら。おーい、生きてるかい? 

 

 ──ふむ……やはり制御因子を調整しなければ使い物にならなさそうだな。治療を行う。手術室に運んでおけ

 

 ──あ、はい……! 

 

 ──それと足元に転がっているスクラップは第二実験室に運んでおけ。少々調べたい事がある

 

 男が命令すると、研究員は少女を延命装置に繋いで手術室に運び込んだ。

 他の研究員達は、床に転がった死体を片付け、男の指示通り別室に運び込んだ。

 少女は、薄れゆく意識の中、男と研究員の会話をぼんやりと聞いていた。

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ……!!」

 

 そして次に目が覚めた時には、少女は長い髪を揺らしながら裸足で暗闇の中を走っていた。

 ペタペタと裸足で冷たい地面を走る音が鳴り響く。

 

「だれか……だれか助けて……!」

 

 少女は、死への恐怖で顔を真っ青にし目に涙を浮かべながら、目の前の光に向かって死に物狂いで走っていた。

 だが少女が光に向かって手を伸ばしたその時、後ろから手が伸びてきて少女の首を掴んだ。

 首を掴まれた少女は、そのまま地面へと組み伏せられる。

 そしていつの間にか四肢を拘束具で拘束され、口に布を噛まされ、実験用のステンレス製の寝台に寝かされていた。

 少女は、あたりをキョロキョロと見渡すと、滝のような冷や汗をかいて震え上がり、生理現象なのか歯をガチガチ鳴らす。

 冷えたステンレスの感触、薬品の匂い、定期的に鳴る機械音、所々に散らばった血の赤、それら全てが少女を怯えさせる要因となっていた。

 すると、先程少女の首を掴んで組み伏せた男が不気味な笑みを浮かべながら少女の顔を覗き込む。

 

「ダメじゃないか、101号。勝手に逃げたりなんかしちゃあ。せっかくあと少しで私の夢が叶うところだったというのに」

 

「ん゛━━━っ!! ん゛━━━っ!!」

 

「これからお前は新たな自分に生まれ変わるんだ。さあ、私に夢の果てを見せてくれ」

 

「ん゛━━━━━━━っ!!!」

 

 少女は泣きながら抵抗したが、男は聞く耳を持たなかった。

 男は、満面の笑みを浮かべながら少女の腕に注射を打とうとした。

 するとその時だった。

 

 

「……い、おい! ……なた!」

 

 突然、ぼんやりとした別の男の声が聞こえてくる。

 そしてその直後。

 

 

 

 

 

「ひなた!」

 

「……はっ!?」

 

 名前を呼ばれたひなたは、ハッとして目を見開く。

 まず初めに映り込んだのは白い天井、そしてその次に映り込んだのは山田の顔だった。

 山田は、普段の逆立てた髪にサングラスと黒調のコスチュームといったDJ風のファッションではなく、髪を後ろでハーフアップに結って大きな団子にしており、普段のサングラスではなく眼鏡をかけていた。

 シャツの襟の隙間からは胸板が覗いており、細身に見えて案外引き締まった身体をしている事がわかる。

 

「パパ……」

 

 頭に包帯を巻いたひなたは、完全に目が覚めたのか瞬きをして山田の方を見ていた。

 ひなたの左腕には点滴のチューブが通っており、病衣に身を包んでいた。

 

「大丈夫か、お前熱出してずっと魘されてたんだぞ」

 

「……そう……」

 

 山田が心配そうにひなたの顔を覗き込むと、ひなたは瞳を伏せて頷く。

 熱に浮かされていたせいか、頬が赤くなっており汗ばんだ顔に髪が張り付いていた。

 ひなたは、袖で額の汗を拭うと頭を起こして山田に尋ねる。

 

「……今、何時?」

 

「夜の7時だ」

 

「クラスの皆は……? お父さんや13号先生、オールマイトは……」

 

「A組は、お前以外は全員無事だ。消太と13号も命に別状はないらしい。オールマイトも、保健室での処置で十分だったそうだ。ただ、今回の事で明日は臨時休校になった」

 

「……そっか」

 

 山田から全員の容態を聞いたひなたは、安心したのかほっとため息をつく。

 ひなたが身を挺して死柄木達に立ち向かったのは無駄ではなかったのだ。

 すると山田は、思い出したようにひなたに尋ねる。

 

「あ、そうだ。お前の好きなコーヒーゼリー買ってきたぞ。食えるか?」

 

「食える」

 

 ひなたが触角をピコピコさせて口の端から涎を垂らしながら即答すると、山田は病室の備え付けの冷蔵庫から買ってきたゼリーを取り出して病院のベッドに取り付けられたテーブルに置く。

 ひなたは、プラスチック製の小さなスプーンでゼリーを掬って口に運ぶ。

 熱に浮かされていた時に冷たいゼリーを食べたからか、ひなたは触角をピコピコさせ元々丸い目をさらに丸くする。

 するとゼリーを食べている途中で、ひなたが徐に口を開く。

 

「…………あのね、夢を見てたの」

 

「夢?」

 

「……うん、僕が『ひなた』じゃなくてまだ『101号』だった頃の夢。僕が光る水の中に入ってて、その中で夢を見てたの。お父さんとパパの友達が目の前で黒い霧の中に消えて、お父さんとパパが僕を吐き出す夢。それで、霧の中から脳みそが剥き出しの化け物が出てきて、化け物の口の中から手がいっぱい出てきて……その奥で男の人が笑ってたの」

 

 ひなたがそう言うと、山田はため息をつく。

 ひなたは定期的にこの夢を見る事があり、それを相澤や山田に言ってくる事がよくあった。

 二人はひなたに白雲の事を話した事はあったが、そもそもその話をしたのはひなたが夢の中に白雲が出てきたという話をしたのがきっかけで、それまでひなたは白雲の事を知らないはずだった。

 奇しくもバックアップデータに記されていたひなたの本当の誕生日は白雲の命日で、二人は心のどこかでひなたが白雲の生まれ変わりなのではないかと思っていた事もあった。

 

「……またその夢か」

 

「それでね、その夢に出てきた化け物と黒い霧が、僕がUSJで見た(ヴィラン)そっくりだったの。僕を殴る前に『助けて』って言ってたし、夢に出てきたのも偶然じゃなかったのかも」

 

 ひなたがしれっと言うと、山田は目を見開くあまり眼鏡をずらす。

 そして、目を見開いたままひなたの肩を掴んで尋ねる。

 

「……おい、今何つった」

 

「あのね、脳みそ(ヴィラン)から僕を殴る前に『助けて』って声が聞こえてきたの。黒い霧の(ヴィラン)からも、小さい声だけど聞こえてきた。それで一瞬気を取られて殴られちゃったんだけど……」

 

「その話、詳しく聞かせてもらえないか?」

 

 ひなたが頬張ったゼリーを口の中で転がしながら山田に話すと、塚内の声が聞こえてくる。

 

「久しぶり! 調子はどうだい、ひなたちゃん」

 

「塚内さん!」

 

 塚内が病室のドアを開け、帽子を脱いで一礼してから病室に入るとひなたは表情を明るくする。

 研究施設から救出された直後、ひなたは塚内に何度も世話になっており、ひなたの尊敬する大人のうちの一人だった。

 

「すまないね、立ち聞きする形になってしまって……」

 

「いえ、全然構いませんよ! 頭の痛みも熱も引いてきましたし。ええと、何からお話ししましょうか?」

 

(さすが俺の娘。ホントいい子)

 

 偶然ひなたの話を立ち聞きしてしまった塚内に対してひなたが笑顔を浮かべながら対応すると、山田は心の中で娘自慢をする。

 すると、塚内に続けてもう一人入ってくる。

 リカバリーガールの治療を受けて回復したオールマイトで、トゥルーフォームというガリガリの姿をしており、トレードマークのウサギの耳のような触角は垂れ下がっていた。

 

「……と、その人は?」

 

 ひなたが尋ねると、オールマイトが名乗る。

 

「初めまして、相澤少女。私は八木俊典。オールマイトのマネージャーをやらせてもらっている」

 

「は、はあ……はじめまして八木さん」

 

(こんなマネージャーいたんだ……でも何か喋り方といい雰囲気といいリスペクトしてるってレベルじゃないオールマイト感が……)

 

 勘の鋭いひなたは八木と名乗るオールマイトの正体に勘付きかけつつも、そんなわけないと思い直した。

 そしてふと山田との関係を公には秘密にしている事を思い出し、この状況をどう説明しようかと若干慌てていた。

 

「あ、えっと……」

 

「ああ、そのままで構わない。君が相ざ……イレイザーヘッドとプレゼントマイクの娘だという話は塚内くんから聞いているからね」

 

「あ……はい。お気遣いありがとうございます」

 

 八木と名乗るこの男はオールマイトなのでひなたの素性を知っていて当然なのだが、それを知らないひなたはコクリと頷く。

 するとオールマイトがパイプ椅子に座ってひなたに話しかける。

 

「オールマイトも君の様子を見に来たがっていたんだが、生憎急用が入ってしまってね。彼から伝言を預かっている。『私が至らないばかりに君に痛い思いをさせてしまった。本当にすまない』」

 

 オールマイトは、ひなたに向かって頭を下げて謝罪の言葉を告げる。

 するとひなたは目をパチクリさせ、そして微笑んだ。

 

「……あの、でしたらオールマイトにこう伝えていただけますか? 『僕が皆を守りたくて勝手にやった事ですから、僕が傷ついたのは僕の責任です。あなたは至らなくなんかない。僕の為に頭を下げないでください』」

 

「……君は優しいな。わかった。しっかり伝えておくよ」

 

(俺の娘ホント天使)

 

 ひなたがオールマイトの目を見て言うと、オールマイトは微笑んで頷いた。

 親バカの山田は、その様子を微笑ましそうに見ていた。

 すると塚内がひなたに尋ねる。

 

「ひなたちゃん。早速で悪いんだが、USJを襲撃してきた(ヴィラン)について聞きたい事があるんだ」

 

「ああ、はい……」

 

「オールマイトが吹き飛ばした(ヴィラン)、名を脳無というそうだが、彼は我々の呼びかけに一切応じなかった。おそらく口が利けないのではないかと考えていたのだが……」

 

「え!? あの(ヴィラン)喋れないんですか!?」

 

 塚内が話していると、ひなたは目を見開いて驚きのあまり大声を上げる。

 そして、ハッとしてすぐに両手で口を塞いだ。

 

「あ、いや……すいません……普通に声が聞こえてきたんで、てっきり喋れるものかと……」

 

「普通に声が聞こえてきた?」

 

 ひなたが瞬きをしながら言うと、塚内が驚いた様子で尋ねる。

 するとひなたは、脳無に殴られた頭を摩りながら話し始めた。

 

「はい……『痛い、嫌だ、助けてくれ』って男の人の声が……殴られる直前にその声が聴こえてきて……お父さんを傷つけた(ヴィラン)だってわかってるのに、研究施設でひどい事されてた頃の僕と重なっちゃって、気がついたら手が避けられない距離まで迫ってきててそのまま殴られたんです」

 

「男の声……やはり偶然とは思えないな……死柄木とかいう(ヴィラン)が言うには脳無は対オールマイト用に改造された人間だそうだ。彼の声が一瞬でも聞こえたというのは大きな進展だよ」

 

「へへ……」

 

 塚内が言うと、ひなたはふにゃりと笑った。

 するとオールマイトが病室に備え付けられた時計を見て塚内に声をかける。

 

「おっと、そろそろ面会の終了時刻だ」

 

「そうだな。私達は行くよ、ひなたちゃん。何か思い出したらまた連絡をくれるかい?」

 

「はい、もちろん!」

 

「お大事に、相澤少女。明日退院できるといいな」

 

「はい!」

 

 塚内とオールマイトがパイプ椅子から立ち上がって椅子を畳むと、ひなたはコクリと頷く。

 二人が病室を出ていくと、山田も椅子から立ち上がりひなたの頭を軽く撫でる。

 

「じゃあなひなた、明日も来るからな。今日はしっかり休め」

 

「うん、ありがとうパパ」

 

 ひなたが笑顔で礼を言うと、山田は病室を後にした。

 そして翌日、学校は臨時休校となりひなたは無事退院した。

 だが、ほとんどの生徒は心身共に疲れ切って休まらなかった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてUSJ襲撃事件から二日後、ひなたは普通に登校していた。

 頭の包帯はまだ取れていなかったが、普通に動き回れる程度には回復していた。

 

「皆━━━!! 朝のホームルームが始まる! 席につけ━━!!」

 

「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」

 

 委員長という事で張り切る飯田に対し、瀬呂がツッコミを入れる。

 それを見ていたひなたは苦笑いを浮かべていた。

 そして予鈴と同時に、教室の前のドアが開く。

 

「お早う」

 

「「「「相澤先生復帰早えええ!!!!」」」」

 

 相澤は、顔面を包帯でグルグル巻きにし両腕をギプスで固定した状態で入ってきた。

 

「先生、無事だったのですね!!」

 

「無事言うんかなぁアレ…」

 

「あはは…無理は良くないって言ったんだけどなぁ」

 

 よろよろしながら教卓につく相澤に対し、飯田が挙手をし麗日が心配しひなたは呆れた様子で笑っていた。

 実際のところ、フラフラの状態で出勤しようとする相澤をひなたが止めたのだが、既に歩ける状態なのにいつまでも復帰しないのは合理的じゃないと突っぱねられてしまったのだ。

 

「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ」

 

 それを聞いた生徒達は身構えた。

 

「戦い?」

 

「まさか…」

 

「まだ(ヴィラン)が━━!!?」

 

 各々が反応すると、相澤は少し溜めて言った。

 

 

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」」

 

 

 

 

 




梅干しとジジイに目をつけられてしまったひーちゃん。
どうなる事やら…

ちなみにこの時点でのあだ名及び呼ばれ方
青山:ゆー君/相澤さん
芦戸:みなっち/ひなた
蛙吹:梅雨ちゃん/ひなたちゃん
飯田:天ちゃん/相澤くん→ひなた君
麗日:お茶子っち/ひなたちゃん
尾白:まっしー/相澤さん
上鳴:電吉/ひなちゃん
切島:鋭ちゃん/ひなちゃん
砂藤:りっきー/相澤
障子:めぞりん/相澤
耳郎:きょーちん/ひなた
心操:ひー君/ひなた
瀬呂:はーちん/ひなちゃん
常闇:ふみにゃん/相澤
轟:焦ちゃん/相澤
葉隠:とおるん/ひなたちゃん
爆豪:かっちゃん/触角(たまに相澤)
緑谷:いずっ君→デッくん/相澤さん
峰田:峰田/相澤
八百万:ヤオモモ/ひなたさん

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