抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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OVA・6 笑え!地獄にように
笑え!地獄のように


 ひなた達が雄英に入学してから、10ヶ月が過ぎようとしていた。

 季節は冬。

 ひなた達は、通常の授業を受ける傍ら週4日No.1ヒーロー『エンデヴァー』の事務所でインターンに励む日々を続けていた。

 その頃、深夜の路上では。

 

「「「「ひゃははははははは!!!」」」」

 

 数人の警官達が、地面に転がって狂ったように笑っていた。

 その近くを、筆をモチーフにしたと思われるおかしな格好をした男が通り過ぎる。

 男は、自前の筆で壁に『Love and Peace』と書かれたプラカードをぶら下げたゴリラの絵を描いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 後日、街中の至る場所で落書きが見つかった。

 ある道路にはウサギが警察官を踏み潰している絵、あるバスにはカエルが大きな花を持っている絵、ある歩道にはピエロの顔をしたキューピッドが弓矢を構えている絵など、いくつもの写真が並べられていた。

 あまりの被害の数々に、写真を見たひなたは思わず目元をひくつかせる。

 

「…………」

 

「被害は既に50件を超えています。何卒、犯人逮捕に協力していただけませんでしょうか」

 

 そう言って刑事は、エンデヴァーに頭を下げて依頼をした。

 だが、エンデヴァーは乗り気ではない様子だった。

 No.1ヒーローであるエンデヴァーは、落書き犯に構っていられる程暇ではなかった。

 

「我々に落書き犯を捕まえろと?」

 

「是非とも!」

 

「断る! この程度の軽犯罪、警察で処理しろ!」

 

「ですが! 落書き犯、自ら“Mr.スマイリー”と名乗る男の“個性”が、あまりに強力で…!」

 

 エンデヴァーが断ると、刑事は事件の深刻さを話し食い下がる。

 すると炎のサイドキッカーズが反応を示した。

 

「んっ、強力な“個性”?」

 

「どんな“個性”なんです?」

 

 バーニンとキドウが尋ねると、刑事が話す。

 

「スマイリーの顔を見た者はどういうわけか、突如として笑い転げてしまうんです!」

 

「何だそれは?」

 

「悶絶し、立ち上がれなくなる程に爆笑してしまうんです! しかも、その効果が2時間も続きます。スマイリーを逮捕しようとしても、笑わされ、逃げられてしまうんです!」

 

「!」

 

 刑事が説明すると、ひなたがハッとする。

 落書き犯の“個性”は、ひなたにとっては姉のような存在であるMs.ジョークの“個性”によく似ていた。

 エンデヴァーは、ため息をついて渋々といった様子で依頼を了承する。

 

「……分かった。パトロールの際、落書き犯に注意するようにする」

 

「よろしくお願いします!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、エンデヴァーは事務所の会議室でサイドキック達と話していた。

 

「全く…くだらん事件を押し付けおって」

 

「事件にくだるもくだらないもないでしょ…」

 

「何か言ったか!!」

 

「いえ、何も…」

 

 エンデヴァーが言うと、ひなたがボソッと独り言を言う。

 それに対してエンデヴァーがひなたの方を睨みつけると、ひなたは顔を逸らして口笛を吹いた。

 

「しかし、ひどい落書きだな…」

 

「バンクシー気取りの芸術テロってやつか?」

 

「ここまで警察を撒き続けるなんて…しぶとい奴!」

 

 キドウ、オニマー、アルテミスは、写真を見ながら呟く。

 するとひなたは、写真のうち一枚を見てピンと触角を立てる。

 

「あ、これカァイイ」

 

「え?」

 

「あ…か、カワイー…カワイソウ! 可哀想ですよね、この家の人! 大事にしてた家に落書きされちゃって!」

 

 サイドキックの一人がひなたの方を向くと、ひなたは流石に不謹慎だと思ったのか慌てて誤魔化す。

 ひなたは、頭を掻きながら気まずそうに目を背けた。

 すると緑谷が口を開く。

 

「相手を強制的に笑わせる…まるでMs.ジョークのような“個性”だ」

 

「あ…笑姉の(ヴィラン)退治エグいもんねえ。同じような事が出来んなら、対策練っとかんと笑い殺されちゃうな」

 

「顔を見ないようにして、犯人を確保すればいいんじゃないか?」

 

「あっ、じゃあ僕の反響定位で…」

 

「まともに論じてんじゃねえ!! このクソども!!」

 

 緑谷、ひなた、轟の三人が(ヴィラン)への対策を真面目に話し合っていると、爆豪がキレた。

 たかが落書き犯に大袈裟だと感じているのは、エンデヴァーだけではなく、爆豪も同じだった。

 するとエンデヴァーがサイドキッカーズに伝える。

 

「しばらく家に戻る。パトロール頼んだぞ」

 

「「「「了解!!」」」」

 

「はっ、了解(オーキードーキー)!」

 

 エンデヴァーに対しサイドキッカーズが返事をすると、ひなたもワンテンポ遅れて敬礼をした。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、ハイヤーの運転する車に乗ったエンデヴァーはというと。

 

「ケェ━━ッ!! 軽犯罪者の逮捕協力たあ、舐められたもんだな! え? No.1ヒーロー!」

 

「全くだ…超常解放戦線の事だけでも、頭が痛いというのに…」

 

 ハイヤーがエンデヴァーを煽ると、エンデヴァーはため息をつきながらぼやいた。

 ハイヤーが轟家の前に車を停めると、エンデヴァーが降りる。

 だがその直後、エンデヴァーは目を見開く事になる。

 

「な…!! これは…!!」

 

 轟家の塀には、ふざけた落書きがされていた。

 それを見たエンデヴァーは、怒りに打ち震える。

 

「ぬぅぅ…許さん!!!」

 

 エンデヴァーは、怒りのあまり顔から炎を出して燃え上がり、着ていた服が焦げてコスチューム姿となった。

 唸り声を上げて怒り狂うエンデヴァーを見て、ハイヤーはギョッとする。

 

「ケェーッ!! エンデヴァー!?」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 後日。

 エンデヴァーは、事務所でサイドキッカーズに指示を出していた。

 

「Mr.スマイリーとかいう生意気な落書き犯を総員で確保する!! いいな!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 サイドキックが返事をする中、ひなたと緑谷は隣の轟に耳打ちをする。

 

「どういう風の吹き回し…?」

 

「エンデヴァー、何かあったの?」

 

「家の壁に落書きされたらしい」

 

「ケッ、私怨かよ!」

 

「隣の火事に騒がぬ者なし…自分ん家だけど」

 

「黙れ!!!」

 

 轟の報告に対し爆豪が悪態をつきひなたが爆豪に同調するように腕を組んで頷くと、エンデヴァーが二人に怒鳴り散らして黙らせた。

 するとその時、サイドキックからの通信が入る。

 

『こちらB班! 落書き犯を発見! 直ちに確保します』

 

「行くぞ!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 エンデヴァーの掛け声を合図にサイドキッカーズが返事をし、ひなた達は現場に直行した。

 その後、ひなた達はサイドキックからの報告があった場所に辿り着いた。

 

「この辺りのはずだが…」

 

 エンデヴァーがそう言った直後、サイドキックの笑い声が聞こえてくる。

 

「この声は…」

 

 聴き覚えのある声にエンデヴァーが駆けつけると、壁に『TRUE♥︎』と書かれた紙の胴体をした棒人間が描かれており、その真下でサイドキック二人が腹を抱えて転げ回って爆笑していた。

 

「「あっはっはっはっはっはっはっは!!!」」

 

「しっかりしろ!」

 

 エンデヴァーはサイドキックの一人の身体を抱えて介抱しようとしたが、二人とも大笑いしたまま止まらなかった。

 

「くっ…手分けして捜すぞ!」

 

「「「了解!!」」」

 

「「はい!」」

 

 エンデヴァーが指示を出すと、ひなた達は(ヴィラン)の捜索を始めた。

 ひなたは、反響定位で(ヴィラン)の位置を探していた。

 一方で緑谷も、腹を抱えて爆笑している男性と落書きを発見し、その近くを探すと逃走している男を発見した。

 

「いた…!」

 

 ひなたは、髪を逆立ててざわつかせると、エンデヴァーに索敵の結果を報告する。

 

「エンデヴァー! 目標を発見! 本人の“個性”の波長で間違いありません!」

 

「よし、撃て!!」

 

「了解!」

 

 エンデヴァーが指示を出すと、ひなたは大きく息を吸う。

 そして、壁に落書きをしている標的目掛けて“個性”で声を調節して思いっきり叫んだ。

 

『ROCK'N'ROOOOOOOOOLL!!!!!』

 

 ひなたは、Mr.スマイリーという(ヴィラン)に狙いを定めると、不可避の爆音攻撃をMr.スマイリーに直撃させた。

 いきなり自分の攻撃範囲のはるか遠くから音波で狙撃されたMr.スマイリーは、訳も分からないまま“個性”を消される。

 

「ぬぅ…!?」

 

 ひなたの攻撃が当たったMr.スマイリーは、爆音によって意識を刈り取られる。

 それを確認したひなたは、アコースティックシューズで一気に距離を詰めると、Mr.スマイリー目掛けて捕縛武器を伸ばす。

 

「よし、クリーンヒット! ひっとらえい!!」

 

 ひなたは、捕縛武器でMr.スマイリーを捕らえようとする。

 だが、ひなたが飛ばした捕縛武器に反応したMr.スマイリーは、意識を失う寸前に自分の作品を庇うように立ちはだかった。

 

「!」

 

 ひなたの目に映ったのは、“個性”を消されて意識が朦朧としながらも、自分の作品を守る為に立つMr.スマイリーの姿だった。

 ひなたはその姿を見て、Mr.スマイリーはただの(ヴィラン)ではないのではないかという考えが頭を過ぎる。

 だが、(ヴィラン)(ヴィラン)だとすぐに割り切り、作品を庇おうとしたMr.スマイリーを捕縛武器で拘束した。

 

「ぐっ…」

 

「確保!!」

 

 ひなたは、捕縛武器でMr.スマイリーを拘束して組み伏せて叫んだ。

 すると、Mr.スマイリーを確保する為後ろから追ってきていたサイドキック達が合流してくる。

 

「でかした、クレシェンド!」

 

 ひなたと合流したサイドキックは、真っ先にMr.スマイリーを捕らえたひなたに声をかける。

 だが合流してきた爆豪は、しょうもないイタズラでこれだけ世間を騒がせておきながら、ひなた一人で解決できてしまった事が妙に納得できていないらしく、苛立ちながら両手から小規模の爆破を放っていた。

 

「チッ、クソカス(ヴィラン)が! 梃子摺らせやがって…!」

 

「待って!」

 

 爆豪が爆破を放ちながらMr.スマイリーに小言を言おうとすると、ひなたが止めた。

 ひなたは、Mr.スマイリーが気を失う寸前まで守っていた作品を庇う形で立ちながら爆豪を諌めた。

 

「もう身柄は捕らえたし、“個性”も消した。これ以上僕達がやる事は何もない。そうでしょ?」

 

「………チッ」

 

 ひなたが言うと、流石の爆豪も頭が冷えたのか、舌打ちだけして引き下がった。

 その後、サイドキックが警察に通報し、Mr.スマイリーの身柄を警察に引き渡した。

 エンデヴァーが事の顛末を警察に話している間、ひなた達インターン組4人は落書きの前で集まって話していた。

 

「相澤がいたからとはいえ…やけにあっさり終わったな」

 

「うん…」

 

 轟が言うと、緑谷が頷く。

 どんな“個性”でも瞬時に消せてしまうひなたがいるとはいえ、あれだけ警察を苦しめた(ヴィラン)がこうもあっさり捕まるというのは妙に納得がいかなかった。

 確かに顔を見ただけで笑わせてしまうというのは恐ろしい“個性”だったが、蓋を開けてみれば本人には何の凶悪性も無く、ひなたの“個性”で瞬殺できる相手だった。

 拍子抜けするほど呆気ない結末に、爆豪は悪態をつく。

 

「ケッ、結局ヒーローおちょくって楽しんでただけのクソ愉快犯かよ」

 

「そうかな? ちょっと伝え方が不器用なだけだと思うよ」

 

「あ!?」

 

 爆豪が悪態をつくとひなたがコテンと首を傾げながら言うので、爆豪が意味不明と言いたげな表情で振り向く。

 するとひなたは、Mr.スマイリーが最後に描いた作品を見ながら言った。

 

「ほら、ちゃんと見てあげて。この作品を見てると、より多くの人にこの作品を見てもらいたいって思いが伝わってくると思わない?」

 

 ひなたは、自分の胸に手を置いて微笑みながら言った。

 すると緑谷と轟は、壁に描かれた絵に目を向ける。

 

「まあ、人ん家に落書きすんのは普通に犯罪だし、捕まるのは当然なんだけどさ。でも、僕は結構この絵好きだよ」

 

「………」

 

 ひなたは、微笑みながら絵を眺めていた。

 すると緑谷は、作戦開始前にエンデヴァー事務所で読んだ資料の内容を思い出す。

 

(Mr.スマイリー…本名微笑(ほほえみ)真治郎(しんじろう)。28歳。自称芸術家。中学、高校と多くの作品を発表するも評価は得られず、美大は不合格。以降、放浪しながら作品を壁に描き続けている…か)

 

 事前に読んだ資料の内容を思い出した緑谷は、自分も“無個性”でも結局ヒーローの夢を諦められなかった事を思い出し、Mr.スマイリーと自分を重ねた。

 

(諦め切れないんだ…あの時の僕のように、可能性を探し続けてたんだ)

 

 緑谷と轟は、ひなたの言葉を受けて絵を眺めた。

 

「より多くの人に、か…」

 

「ただの落書きにしか見えねえ」

 

「身も蓋もないな君」

 

 爆豪が身も蓋もない事を言うと、ひなたが呆れ顔を浮かべながらツッコミを入れる。

 しばらく絵を眺めていたひなただったが、唐突に小さく声を上げる。

 

「……あ」

 

「どうした、相澤」

 

「この絵、ずっとどこかで見た事あるなって思ってたんだよ。見て、この古いサイト」

 

 ひなたは、スマホで10年以上放置されている古いウェブサイトを検索して三人に見せた。

 少年時代のMr.スマイリーこと微笑真治郎が自身の作品を見てもらう為に開設したウェブサイトだったが、アクセス数が伸び悩んでおり、そのまま放置されて他のウェブサイトに埋もれてしまっていた。

 だが、よく見てみると一件だけコメントが書かれていた。

 コメント欄を開くと、『あなたの絵のおかげで元気が出ました ありがとう』と書かれていた。

 

「これがどうかしたのか?」

 

「僕、これ昔見てたんだよ。もう何年も前の話だけど」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 8年前。

 この頃まだ救出されたばかりで入院していたひなたは、暇潰しの為に与えられたタブレットを見ていた。

 この時のひなたは、相澤の手で綺麗に編まれた長い三つ編みをしており、大人しく無口で少しオドオドした少女だった。

 すると看護師が病室の扉を開けて入ってくる。

 

「ひなたちゃん、今日もリハビリ頑張ろっか」

 

「………」

 

 看護師が声をかけると、ひなたはコクリと頷く。

 すると看護師は、ひなたが見ていたタブレットを覗き込んで尋ねる。

 ひなたが見ているのは、与えられたタブレットをいじっていたらたまたま辿り着いた古い個人サイトにアップされている絵だった。

 

「またその絵見てるの?」

 

「………」

 

 看護師が尋ねると、ひなたは口をモニョモニョさせながら頷く。

 すると看護師は、ひなたが見ている絵を横から覗き込んだ。

 

「やー、お姉さん芸術は全然わかんないからなぁ。何が良いのかさっぱりだわ」

 

 看護師は、ひなたがじっくり見ていた絵を見ながら苦笑いを浮かべた。

 するとひなたは、少し恥ずかしそうに唇をモニョモニョと動かしながら話し始める。

 

「あのね…ぼく、この絵をみると、リハビリがんばれるの。だから、描いたひとにありがとうってつたえたいの。でも、どうやってつたえたらいいのかわからないの」

 

 ひなたは、拙い言葉で、しかしハッキリと看護師に伝えた。

 看護師は一応サイトを確認するが、そのサイトはもう何年も更新されていないようだった。

 

(あー…これ、もう何年も更新されてないじゃない。きっと作った本人も忘れて放置してるのね。今更コメントしても、作った本人も困るだけだと思うけど…)

 

「よし、じゃあお姉さんが代わりに伝えといてあげる!」

 

「ほんと!?」

 

「うん、お姉さんに任せといて!」

 

 看護師が言うと、ひなたは目を輝かせて微笑んだ。

 看護師は、絵を描いた本人に届く事はないと思いつつも、ひなたの代わりにコメント欄にコメントを打ち込んで投稿した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして現在。

 ひなたからサイトの事を聞いた緑谷は、Mr.スマイリーを連行している警官に話しかけた。

 

「待って下さい」

 

 緑谷が声をかけると、Mr.スマイリーを連行しようとしていた警官が足を止める。

 

「少しだけ…お話いいですか」

 

 緑谷が言うと、警官は少し呆れたような表情を浮かべつつも、『少しだけなら』と言ってその場で立ち止まった。

 突然インターン生に呼び止められたMr.スマイリーが少し困惑していると、緑谷がスマホでひなたの見つけてきた古いサイトを見せた。

 

「スマイリーさん。あなたの絵、見ました。これ、あなたのサイトですよね」

 

「…! どうしてそれを…」

 

 緑谷がサイトを見せると、Mr.スマイリーは驚いたような表情を見せた。

 

「友達がたまたまこのサイトを見つけたんです。個人サイトまで作って絵を投稿するような人が、どうして人の家に絵を描いたりなんかしたんですか?」

 

「……人の目に触れない作品を描き続けるのは…虚しいものさ。一人でも多くの人に見てもらおうと作ったサイトも、誰にも見てもらえなくてね。だったらいっその事、私を評価しようとしない美術界に私の存在を思い知らせてやろうと思ってしまったんだ。滑稽だろう? 笑いたければ笑うがいいさ」

 

「誰にも見てもらえない…これを見てもそう言えますか?」

 

 Mr.スマイリーが自嘲しながら語ると、緑谷はサイトのコメント欄を見せた。

 もう何年も放置していたサイトにコメントが書かれているのを見て、Mr.スマイリーは驚いていた。

 

「これは…?」

 

「放置されてから何年も後に書かれたから、ご存知なかったんですね。このコメント、僕の友達が書いたんです。あなたの絵にすごく救われて、だからせめてお礼が言いたかったって…そうだよね、相澤さん」

 

 緑谷がひなたの名前を出すと、ひなたが前に出た。

 先程自分を瞬殺した少女の顔を見たMr.スマイリーは、大きく目を見開く。

 

「僕、昔交通事故で入院してた事があったんです。その時、暇潰しに見てたネットでたまたまあなたのサイトを見つけて…あなたの作品に元気を貰ったから、つらいリハビリも頑張れたんです。でも、あなたにお礼を言う方法がわからなくて…だからコメント欄に書き込んだんです。あなたの作品のおかげで、とても救われました。本当に、ありがとうございました」

 

「そんな、私は…」

 

 ひなたが頭を下げながら礼を言うと、Mr.スマイリーは戸惑ってしまう。

 自分に礼を言いたがっていたファンがいた事にも気付かず、(ヴィラン)紛いの事をしてファンの気持ちを裏切ってしまった自分には、礼を言われる資格は無いと自分を卑下していた。

 すると緑谷は、Mr.スマイリーに対して言った。

 

「あなたの作品に救われた人がいる。だから、諦めてほしいんです。僕達も応援しますから」

 

「…そうか。私は美術界と戦っている気でいて、ただ逃げていただけなのかもしれないな」

 

「スマイリーさん…!」

 

 Mr.スマイリーが観念したように言うと、緑谷とひなたが笑顔を浮かべる。

 だがその直後、ひなたの頭にビビッと不穏な波長が流れ込んでくる。

 事件を察知したひなたは、エンデヴァーに向かって叫ぶ。

 

「エンデヴァー!! 南東900mの商業ビルで(ヴィラン)による襲撃が発生!!」

 

「何!?」

 

「チッ、こんな時に…!」

 

 ひなたが(ヴィラン)の位置を報告すると、エンデヴァーが僅かに目を見開き、ただでさえMr.スマイリーの対処に追われていたサイドキックが厄介そうな表情を浮かべる。

 ひなたは、引き続き(ヴィラン)の移動速度と方角を逐一報告した。

 

「現在、時速200kmオーバーでこっちに向かって逃走中!!」

 

「仕方ない…行くぞ、ショート、デク、バクゴー、クレシェンド!!」

 

「「「了解!」」」

 

「命令すんな!」

 

 ひなたが報告をすると、エンデヴァーは警察とサイドキック数人にその場を任せ、一直線に(ヴィラン)の方へ飛んでいった。

 するとインターン生4人も、全速力で飛び出した。

 一方、商業ビルで盗みを働いて逃げてきた(ヴィラン)は、街を荒らしながら逃走していた。

 一人は強力な電磁気で周囲のものを吸い寄せる“個性”、一人は巨大化の“個性”、そしてもう一人は破壊力のある衝撃波を放つ“個性”の(ヴィラン)だった。

 電磁気の(ヴィラン)と衝撃波の(ヴィラン)は盗んだ金品を、そして巨大化の“個性”を持つ(ヴィラン)は両手に人質を抱えていた。

 

「ギャハハハハ!! さぁ選べヒーロー共ォ!! まだ未来ある若者一人の命か!! 老い先短えジジイババア5人の命か!!」

 

「あいつら、人質を…!」

 

 巨大化の“個性”を持つ(ヴィラン)が6人の人質をこれみよがしに見せびらかすと、轟は(ヴィラン)を睨む。

 (ヴィラン)が両手に抱えた人質を今にも握り潰そうとしていたため、下手に手を出せなかった。

 すると爆豪が前に出て、眩い光を放つ。

 

「クソ共が! だったら…『閃光弾(スタングレネード)』!!」

 

「ぐぁ!?」

 

 爆豪が光を放つと、目が眩んだ(ヴィラン)が怯む。

 エンデヴァーとひなた達は、その隙に人質を救出しようとする。

 だが…

 

「チッ…死ねえ!!」

 

 爆豪に爆破を放たれて痺れを切らした(ヴィラン)の一人が、ヤケクソと言わんばかりに衝撃波を放つ。

 爆豪はそれを難なく躱すが、衝撃波が向かった先にはMr.スマイリーが描いた絵があった。

 (ヴィラン)の攻撃によって、Mr.スマイリーの作品は無残に破壊される。

 

「私の作品が…!」

 

 作品を壊されたMr.スマイリーは、ショックを受けて立ち尽くす。

 そしてその直後、怒りに打ち震えたかと思うと、警察の拘束を振り解いて意を決したように飛び出す。

 

「あっ、おいバカ!! 止まれ止まれェ!!」

 

 Mr.スマイリーが飛び出すと、警官が慌てて止めようとするが、Mr.スマイリーは警察の制止を無視して(ヴィラン)の方へと走っていった。

 すると、電磁気の(ヴィラン)がMr.スマイリーに気付く。

 

「ああ!? 何だあいつ!?」

 

「私の偉大な芸術作品に傷をつけた報いは…受けてもらわねばならない!!」

 

 Mr.スマイリーは、作品を壊された怒りに駆られ、危険も顧みずに(ヴィラン)に立ち向かった。

 それを見た電磁気の(ヴィラン)は、ニヤリと笑ったかと思うと、“個性”を発動してMr.スマイリーを引き寄せる。

 Mr.スマイリーは、抵抗も虚しく(ヴィラン)の“個性”で浮かされた。

 

「くっ…!」

 

「スマイリーさん!!」

 

「あーあ、人質が増えちゃったなぁ!!」

 

 Mr.スマイリーが(ヴィラン)の“個性”で浮かされると、緑谷が叫ぶ。

 それを見た(ヴィラン)は、調子に乗って高笑いした。

 (ヴィラン) に引き寄せられたMr.スマイリーは、空中で手足をばたつかせてバランスを取ると、(ヴィラン)の眼前で満面の笑みを浮かべる。

 

『Oh〜♡ミラクルスマイリー♡』

 

 Mr.スマイリーが“個性”を発動させると、(ヴィラン)三人と人質がその場で大笑いした。

 

「「「ひゃははははははははは!!」」」

 

「「「「「「あはははははははは!!」」」」」」

 

 大型(ヴィラン)が大笑いするあまり人質を掴んでいた手を離し、電磁気(ヴィラン)と衝撃波(ヴィラン)が爆笑のあまり“個性”を解除すると、エンデヴァー、爆豪、緑谷の三人が落下する人質とMr.スマイリーを助け出した。

 その直後、ひなたが爆音攻撃で三人の(ヴィラン)の“個性”を消し、轟が氷結で(ヴィラン)を拘束した。

 人質と一緒にMr.スマイリーを地面に下ろした緑谷は、満面の笑みを浮かべてMr.スマイリーを見た。

 

「スマイリーさん…!」

 

 

 

 Mr.スマイリー

 本名:微笑真治郎

 “個性”『スマイル』

 自分の笑顔を見せる事で、任意の対象者を2時間笑わせる事ができる! 

 鏡でも映像でも、リアルタイムなら効果は有効! 

 抱腹絶倒、爆笑必至だ!! 

 

 

 

 

 その後、大笑いしている(ヴィラン)達は、バーニン達に連行された。

 それを見た緑谷は、Mr.スマイリーの“個性”に感服する。

 

「やっぱりすごい“個性”だ…ヒーローになれば良かったのに」

 

「争い事は苦手でね」

 

 そう言ってMr.スマイリーは、自分の罪を認め両手を前に差し出した。

 

「私は改めて美術界に挑戦するよ。その前に、罪を償わなければな」

 

「あ…」

 

 Mr.スマイリーが言うと、緑谷がハッとする。

 どんな理由があろうと、彼のやった事は犯罪だった。

 すると、ひなたがMr.スマイリーに声をかけた。

 

「いつか成功するって信じてます! 僕達があなたのファン第一号ですから!」

 

「…ああ。ありがとう」

 

 ひなたが言うと、Mr.スマイリーが礼を言った。

 するとその直後、記者達が駆けつけMr.スマイリーに詰め寄ってくる。

 

「全国に指名手配中の犯人を倒したのは、あなたですよね!? 生中継中です! 是非ともコメントを!」

 

 女性記者がそう言ってマイクを差し出すと、Mr.スマイリーは帽子の鍔を押さえながら言った。

 

「私はしがない天才芸術家。名前はそう、Mr.スマイリー!」

 

『Mr.スマイリー♡』

 

 そう言ってMr.スマイリーが満面の笑みを浮かべてウインクすると、“個性”が発動する。

 

『Mr.スマイリー♡』

 

 すると、その場にいた記者達は笑い転げ、緑谷とひなたも爆笑した。

 

『Mr.スマイリー♡Mr.スマイリー♡Mr.スマイリー♡』

 

 さらに、犯人やバーニン達も爆笑し、エンデヴァーも爆笑する。

 轟は苦しそうに蹲りながら笑いを堪えており、爆豪に至っては笑いすぎて死にそうになっていた。

 

『Mr.スマイリー♡』

 

 リューキュウ事務所では、リューキュウ、波動、蛙吹、麗日が爆笑していた。

 

『スマイリー♡』

 

 チームラーカーズの事務所では、エッジショット、シンリンカムイ、Mt.レディ、プリンセスプリティハニー、上鳴、瀬呂、峰田が爆笑していた。

 

『スマイリー♡』

 

 ヒーローチーム『四神』の事務所では、イナズマとブルードラゴンが肩を組んで笑っており、他の四神メンバーやイブキが爆笑していた。

 

『スマイリー♡』

 

 雄英の教師寮の談話スペースでは、相澤、心操、通形、壊理が爆笑していた。

 

『スマイリー♡』

 

 雄英の仮眠室では、オールマイトがソファーに寝転がって爆笑していた。

 

『スマイリー♡』

 

 普通科C組の教室では、影山達が自分のスマホの映像を見て爆笑していた。

 

『スマイリー♡』

 

 士傑高校の寮の竜崎の部屋では、部屋の備え付けのテレビを見ていた竜崎が爆笑していた。

 

『ずーっとスマイリー♡』

 

 街中に、人々の笑い声が響き渡る。

 この報道をきっかけにしたのか、Mr.スマイリーの作品は世間に注目されるようになった。

 ひなた達は、Mr.スマイリーの作品を世界中の人々に見てもらうため、パソコンに強い上鳴や絵に詳しい吹出と一緒に新たにホームページを作成した。

 そのホームページを通して大勢に認められる事になるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

皆さんご投票ありがとうございました。荼毘戦とスピナー戦なんですが、同票になっちゃったので再度投票やります。どっち先に見たいですか?(梅干しと死柄木は最後にします)

  • 焦凍VS荼毘
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