抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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はい、ついに全面戦争編突入でございます。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。


全面戦争編
静かな始まり


 3月下旬。

 蛇腔総合病院では。

 

「あら珍しい! 先生おはようございます」

 

「ホッホッ、おはよう!!」

 

 この日、街からヒーローが消えた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 遡る事約二ヶ月前、ホークスが“病院”のヒントを得てから一週間が経った頃。

 

「どうしました、トゥワイス」

 

「助けてくれ!! ……って“カーマイン”も一緒か」

 

 ホークスの元に駆け寄ったトゥワイスは、戦線メンバーと話をしていたホークスを呼び出した。

 トゥワイスは、ホークスに耳打ちをする。

 

「『行動理念』って何言や良い? スピナー、コンプレス、マグ姉は連日奴らと会議会議。義爛も荼毘も零もどこ吹く風だし、トガちゃんは可愛い。教えてくれ先生。『部隊には未だ不信を抱く者も少なくない』『擁立された置物とは言え、一部貴方の口から行動理念を明示すべきだ』俺、『あわわわわ』『ぅ、ウンコしてくる!!』てなわけ! 助けて!」

 

 トゥワイスがコロコロ態度を変えながら事情を話すと、ホークスは大笑いした。

 

「その口調は『サンクタム』ですね。解放軍でも最古参に位置する方だ」

 

 超常解放戦線は現在部隊編成され、連合メンバーと幹部が各自傾向別に分けられた部隊を持つ。

 ホークスは構成員全てを一ヶ月掛け把握。

 各隊実力者上位3名が隊長を補佐する。

 一名を除き皆各地にある拠点を治めていたリーダーである。

 拠点を任された身故、泥花市の「再臨祭」には参加していないが、その実力は並のヒーローを軽く凌駕する。

 

 開闢行動人海戦術隊“BLACK” 隊長:トゥワイス、零

 開闢行動遊撃連隊“VIOLET” 隊長:荼毘、外典

 開闢行動情報連隊“CARMINE” 隊長:トガ、スケプティック、キュリオス

 開闢行動支援連隊“BROWN” 隊長:Mr.コンプレス、スピナー、マグネ

 

 徹底監視と行動制限の中気取られずに全構成員を把握できたのは、ホークスが幼少の頃から公安に叩き込まれてきた交渉術の賜物だった。

 

「『個の自由を至上とし、既存の仕組みを討ち滅ぼす』とかでいんじゃないですか?」

 

「ほう」

 

「あと! リ・デストロへの忠信は必ず添えるように!」

 

「ああ!?」

 

「この数を統一しているのは彼と彼の血ですから」

 

 ホークスが言うと、トゥワイスは嫌そうな顔をする。

 

「心にもない事言いたくないなあ。めちゃくちゃほめりゃいんだな、わかった、助かったぜぇ!」

 

 そしてもう一つ分かった事は、解放戦線の具体的な目的だった。

 それは現行制度、即ちヒーローの殲滅だった。

 全国主要都市を一斉に襲撃し、機能停止させ無法地帯となったところで、リ・デストロと心求党党首が政界に現れ武器をバラ撒き自衛という名の自由を謳う。

 超常原始、法が意味を失ったように、混沌の世を創り出し瓦礫の王座に死柄木が座る。

 オールフォーワンの再演だった。

 

「あ! 良くしてくれてありがとな! やっぱいい奴だ、おまえは!!」

 

 トゥワイスは、満面の笑みを浮かべながらホークスに言った。

 するとホークスも微笑み返す。

 

「こちらこそ」

 

 ホークスは、解放戦線に潜入してからトゥワイスと仲良くなっていた。

 だがそれは、“個性”が覚醒したトゥワイスを誰よりも警戒していたからだった。

 

「なァ、ホークス。仲間の役に立とうって人間に悪ィ奴はいねぇ。一緒に好きに飛ぼうな!」

 

 トゥワイスは、純粋にホークスを戦線の仲間として、友として信頼していた。

 だが彼は、既に水面下でヒーロー達が動き出している事は知る由もなかった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして春休みが終わる頃。

 

「そろそろ春休みが終わっちまうな」

 

「ねー! あっという間だった!」

 

 上鳴が言うと、ひなたが頷く。

 すると麗日が携帯を見ながら言った。

 

「今度のインターン、遠征だって」

 

「あら本当ね」

 

「梅雨ちゃん達も? マジで? 俺らも俺らも!」

 

 麗日、蛙吹、上鳴が話していると緑谷、ひなた、心操も会話に加わる。

 

「僕達もその日遠征だよ!?」

 

「うん!」

 

「俺も」

 

「え〜〜!? 何だろうね!?」

 

「待ってウチも」

 

「俺もだ」

 

 A組のインターンは全員遠征、しかも何人かは同じ集合場所だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてインターン当日。

 

「あの麓のヒーロー達がいる! 我々は後方で住民の避難誘導だ!」

 

 エンデヴァーのサイドキック『バーニン』が、遠くの山を指差しながら緑谷達に説明をした。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、ファットガムやミッドナイト、Mt.レディ、『四神』などのヒーロー達は解放戦線のアジトへ向かっていた。

 

「私達ここにいて大丈夫? (ヴィラン)連合って雄英を狙ってたノコ?」

 

 小森が言うと、ミッドナイトが答える。

 

「彼らは大きくなり過ぎた…」

 

「ミッナイ先生」

 

「強大な力を手にした今、死柄木は最短で目的を達成するつもりよ。危ないのはもうあなた達だけじゃない。大丈夫よ! 初動で少し力を借りたいだけだから!」

 

 ミッドナイトが言うと、常闇の隣にいた上鳴が不安そうに叫ぶ。

 

「何で俺が最前線なんスか!!? わあーん、みんなが恋しい!! A組が恋しいよおおおおおおおお」

 

 最前線に立っていたエッジショットは、ヒーロー達を代表して呟く。

 

「各地、拠点とやらは全て包囲している。蟻一匹逃がさぬ」

 

 すると、天喰の頭を撫でて落ち着けていたファットガムが独り言を言う。

 

「しっかしま━━、会議の日程やら細かいとこまでよーわかったなァ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 殻木球大、“個性”なし。

 蛇腔総合病院創設者にして現理事長。

『“個性”に根ざした地域医療』を掲げ、創立後すぐ慈善事業に精を出し始める。

 全国各地に児童養護施設や介護施設の開設。個人病院との提携。

 気紛れにも見える沿革だが、人々からは敬意と共に受け入れられている。

 以上が警察が調べたドクター、自称氏子達磨の詳細だった。

 

「何故その男だと?」

 

 ロックロックが尋ねると、塚内が答える。

 

「公安からの情報を受け部下を潜入させた。この病院には関係者も用途を知らない立入禁止の空間がある。霊安室からのみ通行可能な空間。出入りしるうのは殻木のみ。潜入を続け証拠も掴んだ。これがその写真だ」

 

 塚内は、集まったヒーロー達に小さな脳無の写真を見せた。

 するとピクシーボブが気味悪がる。

 

「ちっちゃい脳無!!」

 

「殻木球大の逮捕自体は難しくない。しかし、先走れば戦線の人間達に勘付かれる。我々には保須や神野のトラウマがある。殻木・脳無・死柄木…そして連合…いや、『超常解放戦線』の一斉掃討が我々の命題だ。敵軍隊長共の集まる定例会議、それが今あの館で開かれている。“ワープ”がコワイが、発動者は病院側にいるとの事。『逃がしてくれる者』が捕えられたら、逃げ場は無くなるというわけだ」

 

 塚内が言うと、エンデヴァーが前に出る。

 

「数多ある病院から、蛇腔を突き止めたのもあいつか…? どこで何してる?」

 

 エンデヴァーが尋ねると、塚内が言葉を濁す。

 

「……一応… 機密なんで、あいつが誰の事指してるか知りませんが…皆この国で平和の為に身を削ってる」

 

 塚内が言うと、エンデヴァーは扉を開け前へと歩き出した。

 

「フン…! 何が機密だ…行くぞ」

 

 一方で、プレゼントマイクは隣にいたひなたと心操に声をかける。

 他のクラスメイトは主に後方での避難誘導(一部の生徒は連合のアジトに乗り込み)が任務だったが、ひなたと心操だけは“個性”の関係上病院の方に赴く事になったのだ。

 ひなたと心操は替えが利かない貴重な“個性”のため最前線に立たされる事はなかったが、それでも他のクラスメイトに比べれば何倍も危険な任務を背負わされている事に変わりはなかった。

 

『ごめんな、お前らだけこっちに呼んじまって』

 

「いえ…別に嫌だとか思ってません」

 

『お前らの“個性”がどうしても必要なんだ。協力してくれるか?』

 

「ん! 当然です!」

 

 プレゼントマイクが言うと、二人は嫌な顔ひとつせずに了承する。

 するとプレゼントマイクは、ひなたの頭をワシャワシャと撫でる。

 それでも心操が若干不安そうな表情を浮かべていると、通形が後ろから肩を組んで話しかけてくる。

 

「大丈夫! 俺達もついてるんだよね!」

 

「「先輩!」」

 

「今回の作戦、サーが未来を見て立てたんだ。病院側に必要な戦力をサーがかき集めてくれた。必ず上手くいくんだよね!」

 

 通形は、大袈裟なポーズを取りながらひなた達を励ました。

 すると、ナイトアイも前に出てきて通形の肩に手を置く。

 

「心配するな。この作戦で貴様ら三人が死なないのは確定している。殻木と死柄木の捕獲に成功し、我々の完全勝利。この未来は、何があっても変えてはならない。行くぞ」

 

「はい!」

 

 ナイトアイが声をかけると、ひなたはハキハキとした声で返事をした。

 そして作戦決行の時がやって来て、ヒーロー達は一斉に動き出した。

 ひなたが少し不安そうにしていると、隣にいた心操がひなたの方へ左手を伸ばしてくる。

 ひなたは、少し頬を赤らめつつもその手を取って手を繋いだ。

 そして覚悟を決め、他のヒーロー達に続いて歩き出した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして現在、とある市街地では。

 

「……何か今日…ヒーローいなくね? いつも絶対誰かいるのに…」

 

「あ! いるじゃん!」

 

 市街地にいたのは、スライディンゴー一人だけだった。

 スライディンゴーがキョロキョロと周りを見渡していると、突然後ろからデステゴロに絡まれる。

 

「!?」

 

「知らねェのはお前らだけだ。裏切り者の解放信者!!」

 

 その頃、崖の上から街の様子を窺っていたヒーロー達が動き出す。

 

「動いた! 私達も行くよ!! 区画ごとに分かれて住民の避難を!!」

 

 バーニンが支持を出すと、緑谷達も走り出す。

 そしてその頃、エンデヴァー達は蛇腔病院に乗り込んでいた。

 その中には、ミルコ、相澤、プレゼントマイク、イナズマ、イブキ、プッシーキャッツやナイトアイ事務所の面々、そしてひなたと心操もいた。

 

「な、何ですか!?」

 

「エンデヴァー!?」

 

「わあー!!」

 

「すまんなぁ邪魔するでー!」

 

 突然ヒーロー達が乗り込み困惑している病院職員や患者達に、マンダレイがテレパスを送る。

 

『皆さん外へ! ここが戦場になる恐れがあります』

 

「塚内警部! エンデヴァー! こちらです!」

 

 病院内に潜入していた警官が、塚内やヒーロー達を殻木の元へ案内する。

 殻木は、ヒーロー達が来ているとは露知らず死柄木の新たな“個性”の『完成』を待ち侘び鼻歌を歌いながら院内を歩いていた。

 すると、エンデヴァーをはじめとしたヒーロー達が殻木に迫る。

 

「貴様か。脳無の製造者、オールフォーワンの片腕。観念しろ、悪魔の手先よ」

 

 エンデヴァーがヒーロー達を代表して言うと、殻木は滝のような冷や汗を掻いて震え上がる。

 

「ひいぃ!! 何でっ… 何でェ!?」

 

「先生!?」

 

 殻木が顔を真っ青にして走り出すと、近くにいた職員達は首を傾げる。

 すると相澤が殻木の足を捕縛布で引っ掛けて転ばせ、“個性”を発動した。

 すると殻木は、立つ事すらままならない程年老いた老人と化した。

 

「ゲホッ、ヒィ、ヒィ、ハー、ハー」

 

「やはり、戸籍登録の通りではないようだ。『抹消』で視た途端老け込んだな。“個性”を持っている」

 

「見たとこ老化を止める“個性”とかかァ?」

 

 エンデヴァーとイナズマが言うと、塚内が殻木に尋ねる。

 

「……その“個性”がオールフォーワンの長生きの秘訣か? 黒い脳無にのみ搭載されていた『超再生』、類似した“個性”は存在するが…決してありふれたものじゃない。“レア個性”などと呼ばれる類のもの…“個性”の複製。或いは人造“個性”か。お前はその技術をオールフォーワンに提供していた」

 

 すると、プレゼントマイクが殻木の肩を掴む。

 

「スゲーじゃん。そういうのよー、再生医療とかよォ、そっち方面でハイパーチートなんじゃねえの。なァ」

 

 プレゼントマイクは、殻木を突き飛ばして転ばせ正面を向かせると、胸ぐらを掴んで詰め寄る。

 

「ひっ!」

 

「何でこんな使い方だよ!?」

 

 プレゼントマイクは、自身のサングラスが割れる程の声量で殻木に怒鳴りつける。

 

「何でこんな使い方だよジジィ!!!!」

 

 すると、事情を知らない病院職員二人がプレゼントマイクと殻木の間に割り込んで殻木を庇った。

 

「ちょっと! 乱暴やめて下さい!! 先生が何したって言うんですか!?」

 

 病院職員が事情をヒーロー達に尋ねると、エンデヴァーが前に出る。

 

「下がっていろ!」

 

「ちょっと!? 変だよ!」

 

「出口へ!」

 

「皆さん避難しといて下さい!」

 

 炎のサイドキッカーズや警察は職員達を遠ざけ、イナズマやイブキも職員達を離れさせた。

 虎やマンダレイ、ピクシーボブも患者や職員を避難させ、ミルコは一足先に脳無の隠し場所へと駆け抜けていった。

 相澤は、殻木を捕縛布で縛って睨みつける。

 

「…… 今この病院の人間全員を退避させてる。脳無との戦闘に備えてな。だが、無血制圧できるならそれに越したことはないだろ? 特定の人間の指示でしか動かないよう脳をプログラミングしている事。指示が無ければ脳無は只の遺体である事。これまでに捕えた個体を調べてわかったそうだ。弄んでは捨ててきた。数多の人が言ってんだ。次はこっちが奪う番」

 

「嫌じゃ…!! 堪忍しておくれ!!!」

 

 ヨボヨボに老けた殻木は、目に涙を浮かべてガタガタ震え出す。

 その直後、ミルコと無線で連絡を取っていたエンデヴァーが目を見開く。

 

「……! ミルコ!」

 

 そして殻木は、ニヤリと笑っていた。

 

「堪忍…」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、ミルコは霊安室の隠し通路を駆け抜けていた。

 障害物をものともせずに駆け抜けられる通形と、脳無を無力化できるひなたも、ミルコについていった。

 ひなたは、アコースティックシューズで高速飛行しながら索敵をしていた。

 すると、霊安室に繋がる通路はもちろん、病院中に脳無が隠されている事に気がつく。

 さらには、最奥の部屋で殻木が死柄木を改造する為の機械をいじっている事に気がつく。

 ひなたの索敵の精度は、インターンを通して格段に上がっていた。

 

「すごいうるさい…! デカいのがウジャウジャいます! あと、殻木と死柄木が奥の部屋に!」

 

「殻木が!? 上でヒーロー達が尋問してたよね!?」

 

「多分、“個性”の複製技術の産物です。十中八九、奥にいる方が本物です」

 

「ありがとう! お手柄だよね!」

 

「クソジジィ…舐めたマネしやがって! 蹴っ飛ばしてやる!」

 

 ひなたが索敵の報告をすると、通形がサムズアップをし、ミルコがニィッと笑みを浮かべる。

 ミルコは、耳に装着した通信機でエンデヴァーと連絡を取った。

 

「おいエンデヴァー! 聞こえてるか!? 動いてるぞ!!」

 

 ミルコがそう言った直後、脳無がウジャウジャと現れる。

 するとひなたは、息を大きく吸い込んで“個性”を発動した。

 

「『滅葬歌曲(モルテカンタービレ)』!!」

 

 ひなたが叫ぶと、脳無の“個性”が壊れる。

 するとその直後、ミルコが驚異的な脚力で飛び出し、脳無の頭を踏み潰した。

 

「本当は遺族の為にも元の姿に戻してあげたかったけど、そんな余裕も無いんで。今動いてる奴は“個性”壊しときました! 行って下さい!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその頃エンデヴァー達の方はというと、鯨型の脳無と腕がドリルになった脳無が壁を突き破って現れた。

 だがその直後、音波攻撃が容赦なく脳無に襲いかかり、脳無が無力化される。

 脳無が全て“無個性”化されると、エンデヴァーが容赦なく脳無を熱線で貫き、イナズマが雷で脳無を貫いた。

 

「“個性”が無ければ、所詮ただの人形だ」

 

 ミルコから連絡を受けたエンデヴァーとイナズマが脳無を一方的に攻撃すると、『超再生』を壊された脳無は再生できずに消し炭になる。

 それを見た殻木は、動揺した様子で大泣きする。

 

「なんでええええええ!!?」

 

 殻木がみっともなく大泣きしたかと思うと、次の瞬間には殻木の顔に印鑑がめり込んでいた。

 すると殻木は、形を保てなくなって泥のように溶ける。

 

「ギャ」

 

『予知』の“個性”で殻木が偽物だとわかっていたナイトアイは、容赦なく印鑑を殻木に投げつけていた。

 それを見た心操は、思わず目を見開く。

 

「分倍河原の“個性”…!?」

 

「やはり仲間の“個性”を複製していたか」

 

 ナイトアイは、印鑑を構えて次々と脳無に投げつけた。

 印鑑が片目に直撃し目が潰れた脳無が馬鹿力で襲いかかってくると、相澤が脳無の腕に捕縛武器を巻き付け、脳無の力を利用してバランスを崩し、容赦なくナイフを脳無の脳に突き刺した。

 

「クレシェンドがやってくれた。行きましょう」

 

 相澤は、脳無の返り血を拭いながら言った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、殻木は死柄木が入った培養器の前に立っていた。

 

「どうして本物のワシがここにいると分かったんじゃ? ええい、忌々しいヒーローめ!! この病院を捨てたくない!」

 

 殻木は、モニターで院内の様子を確認すると移動式の椅子に腰を下ろし逃げようとする。

 その頃ミルコは、通路内の脳無を次々と肉塊に変えながら通路を駆け抜けていた。

 

「おんもしれェ!」

 

 殻木は、『ジョンちゃん』という名前の小型脳無を見つけると『ジョンちゃん』の方へ走っていく。

 

「苦渋の決断じゃ…!! お散歩はおわりじゃよ、ジョンちゃん!! 今すぐワシと死柄木をワープさせるんじゃ!」

 

 殻木が叫んだ、その直後だった。

 

 

 

 CRASH!!! 

 

 

 

「キャッ」

 

 突然隠し通路へと通じる扉が吹き飛び、殻木が複製した“個性”の培養瓶が吹き飛ぶ。

『ジョンちゃん』は、吹き飛んできた扉に押し潰される。

 殻木の目には、扉を蹴り飛ばしているミルコ、そしてそれに続く通形とひなたが映っていた。

 

「てめェが本物だなァ!?」

 

 ミルコが殻木を睨みながら尋ねると、殻木は大量の冷や汗をかいて震え上がった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ミルコが蹴飛ばした鉄の扉は、次々と殻木の研究の成果を粉々に破壊していく。

 それを見ていた殻木は、鼻水を垂らし口をあんぐりと開けていた。

 殻木の脳裏には、自分の子供のような存在だった脳無、そして心の底から畏敬するオールフォーワンとの思い出が駆け巡る。

 

「やあああああ!!!」

 

 殻木は、複製した“個性”や未完成の脳無が蹴散らされていくのを見て狼狽していた。

 だがその直後、殻木の足元から通形がヌゥッと顔を出す。

 

「ぱ」

 

 通形は、そのまま勢いよく腕を振りかぶって殻木を殴り飛ばした。

 

「ワァアアアアアア!!!」

 

「ごべぁ!!」

 

 通形が殻木の腹を殴ると、殻木は胃液をぶちまけながら吹っ飛んでいく。

 通形は、そのまま殻木を捕えると、ひなたに声をかけた。

 

「確保完了! クレシェンド!」

 

「了解!」

 

 通形に呼ばれたひなたは、勢いよく息を吸い込むと、研究施設全体に爆音を響かせる。

 すると殻木の生み出した複製“個性”の瓶が全て粉々に割れ、脳無の培養カプセルも全て粉々に割れ大量の培養液が噴き出す。

 そして、直接爆音を浴びた殻木は、“個性”を壊されて一気に老け込む。

 

「ゲホッ、ゲホッ…! ゼェ、ゼェ……! 嘘じゃ…嘘じゃ…! 円弥の奴…何ちゅう化け物を生み出したんじゃ…! よりによって、彼奴の最高傑作がどうしてヒーロー側に…!」

 

 殻木は、捕縛武器を振り回して自分に降りかかってきた培養液を弾き飛ばしながら睨みつけてくるひなたを見て、目に涙を溜めてガタガタと震えた。

 ミルコは、通形に捕えられて泣いている殻木を見下ろすとニカッと笑った。

 

「やっぱてめェが本物だったか。覚悟しやがれジジィ!!」

 

「やだあああああああああ!!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 エンデヴァー達は、突然現れた脳無と交戦していた。

 

「喰らえやぁ!! 『霹靂神』!!」

 

 イナズマは、自分の周りにいる脳無にありったけの雷を落として消し炭に変えた。

 ひなたが“個性”を消していたおかげで、ヒーロー達は苦戦する事なく次々と脳無を倒せた。

 心操は、捕縛武器を使って脳無の頭上へと跳び上がると、脳無の脳を踏み潰した。

 

「ふぅ…」

 

 心操が下位脳無を一体倒すと、イナズマが僅かに目を見開く。

 普通(ヴィラン)を殺さなければならない状況では躊躇して動けなくなるものだが、まだ学生の心操が躊躇なく動けているのを見て感心していたのだ。

 

「何や、新人! 容赦ないなァ! 素質あるで、自分」

 

「あいつが身体張って前線に立ってるんです。勝つためなら何だってやってやる…!」

 

 心操が捕縛武器を構えながら言うと、イナズマはニィッと笑う。

 全ての脳無を倒し終えると、ロックロックは通信機越しにマンダレイに尋ねる。

 

「これで全部か。マンダレイ! 院内の避難は!?」

 

『丁度最後の一人が済んだとこ!』

 

 一方、ミルコに続き殻木を追っていたクラストも、同様の連絡を受け取る。

 

「成程、委細承知した!!」

 

 クラストは、ミルコが潰した脳無の残骸が転がる通路を駆け抜けていく。

 すると正面からゾロゾロと脳無が現れる。

 クラストは、“個性”を使って脳無と交戦する。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、ひなた達はというと。

 ミルコが殻木の研究の成果を蹴っ飛ばして粉々にし、ひなたがハイエンドと殻木の“個性”を消し、通形が殻木を確保していた。

 唯一、頑丈に守られていた死柄木のカプセルだけは破壊できなかったが、ミルコが聴覚と嗅覚をフルに使って死柄木のカプセルを見つけ出した。

 

「死柄木の野郎はこの奥だな!? 蹴っ飛ばす!」

 

「嫌じゃ、嫌じゃ! やめとくれ!」

 

「誰がやめるかバァカ!!」

 

 ミルコは、殻木が泣き喚くのを無視して死柄木の確保に動いた。

 だがその時、突然ハイエンドが起き上がってミルコに襲いかかる。

 ミルコは咄嗟に蹴りを放ったが、ハイエンドに片手で受け止められた。

 

「チッ…!」

 

 ハイエンドに蹴りを止められたミルコは、一旦飛び退いて距離を取る。

 ハイエンド達は、ひなたに“個性”を壊されてはいたもののオールマイト級のパワーとスピードは健在だった。

 それを見たひなたは目を見開いており、殻木は泣きながら狂気的な笑みを浮かべた。

 

「嘘だろ…さっきの攻撃で意識を奪ったはず…!」

 

「こんな事もあろうかと、手を打っておいて正解じゃったわい! 死柄木の身に危険が迫ると自動的に外敵を排除するようにプログラミングしたんじゃ! 忌々しいヒーロー共を蹂躙せよ!! 愛しきハイエンド達!!」

 

 ミルコは最前列にいたハイエンドに身体を掴まれるが、蹴りを放ってハイエンドの顔面と手を弾き飛ばす。

 だがハイエンドはそのまま腕を振り抜き、ミルコを吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたミルコは、後ろの壁に激突する。

 腕と顔面が砕けたハイエンドはそのまま地面に倒れ込むが、また別のハイエンドが前に出てくる。

 

「ミルコさん!!」

 

 ミルコが吹っ飛ばされると、ひなたが目を見開いて叫んだ。

 

「ひっ」

 

「お」

 

「えこっ」

 

 ハイエンド達は、たどたどしく何かを言い始める。

 

「ひ…ロ」

 

「うん…」

 

「久…ぶり」

 

「ヒ…ロ…」

 

「暴れらレル…」

 

「ヒーロー…!!」

 

「全部…殺して───暴れましょ」

 

 するとその時、クラストが研究施設に辿り着く。

 

「ミルコ!!」

 

 クラストがミルコを助けに行こうとしたその時、ハイエンドがクラストの目の前に現れる。

 

「君はNo. ───…知らなイけどクラスト!」

 

「正解、賢いな!」

 

 ハイエンドが襲いかかると、クラストは両腕から巨大なシールドを出現させてハイエンドの顔と左肩に突き刺した。

 

 

 

 No.6ヒーロー『クラスト』

 “個性”『盾』

 全身からシールドを生成できる! 

 

 

 

「コんなんじゃ、僕ァやっや、やられまセン!」

 

 そう言ってハイエンドが顔に突き刺さったシールドを歯で噛み砕くと、クラストは涙を流す。

 

「───哀れ、生ける屍よ!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 “脳無”。

 複数の“個性”を持てるよう改造された死体。

 意思が無く、プログラムされた行動しかとれない。

 “個性”の所持数と改造強度によって下位・中位・上位に分けられる。

 上位は最低でも常人の10倍以上の筋力を持つ。

 そして、その上に位置するハイエンド。

 上位以上のスペックに加え、生前の性格が反映された高度な自立思考能力を持つ。

 

 

 

 その頃、ハイエンドに吹き飛ばされたミルコは、後ろに並ぶ配管を掴むと、グッと両脚に力を込める。

 

「な、ナ、何故動ケる…?」

 

「動キを、ト、止めろ。俺ガ殺ル」

 

 ハイエンドは、前に出てミルコに攻撃を仕掛けようとする。

 するとミルコは、驚異の脚力で跳び上がった。

 ミルコが蹴った配管はひしゃげ、ミルコは跳ね上がった先にあった配管を蹴って方向転換をしハイエンド達の背後に着地した。

 

「脚で相殺したんだよ! 衝撃を!」

 

 

 

 No.5ヒーロー『ミルコ』

 個性『兎』

 兎っぽい事を兎以上にできる! 

 

 

 

「ジジイは捕まえた! 次ァ死柄木だ!」

 

 ミルコは、ハイエンド達の背後に着地すると、死柄木の方へと走っていく。

 だがハイエンド達は、ミルコが死柄木の元へ行くのを阻んだ。

 するとそれを見た通形は、殻木の身柄をひなたに託す。

 

「相澤さん、ちょっとごめんよ。ここは任せた!」

 

「っはい!」

 

 通形は、ひなたに殻木の身柄を託すとそのまま地面に沈み込んだ。

 そしてハイエンド達の目の前に瞬間移動すると、“個性”を使って瞬時に打撃を叩き込んだ。

 

「『ファントム・メナス』!!」

 

 通形は、一瞬でハイエンドの脳に打撃を叩き込んで通り過ぎていく。

 通形の早業を見たひなたは、目を見開いて呆気に取られていた。

 

(すごい…! これが、プロの世界…! 僕も、追いつきたい。追い越したい。僕だって、最高のヒーローに!!)

 

『AHHHHHHHHHHHH!!!』

 

 ひなたは、ハイエンドに音波攻撃を浴びせて動きを止めると、ドリルのように変形させた捕縛武器で突きを放って頭部を確実に破壊する。

 

「『踵月輪(ルナリング)』!!」

 

 ミルコは、空中で円を描きながら二体のハイエンドの頭に強烈な蹴りを喰らわせ、頭を踏み潰した。

 三人がかりで“無個性”化したハイエンドを倒していくが、ハイエンドは次々と現れ死柄木の元へ行こうとする三人を阻んだ。

 

「次、カラ、つ、次、へト…」

 

「主の、もとへハ、イ、行かせ、ナイ」

 

 ハイエンドは、死柄木を守る形で三人の前に立ちはだかった。

 するとミルコは、ニィッと笑いながら飛び出す。

 

「しっつけぇなぁ!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、超常解放戦線のアジトでは。

 

「分倍河原! やりやがった! どこ行った!? クソッ!! やりやがった! ああ最悪だ!!」

 

 スケプティックは、血相を変えてノートパソコンを叩きながら走っていた。

 

(あの後、俺はちゃんとホークスを注視してた! 変わった動きは少しもなかったんだ! 欺かれた!! 俺じゃない! 分倍河原のせいで!!)

 

「ヒーローが来る!!」

 

 スケプティックが叫んだ瞬間、アジトにはバキッと音を立てて亀裂が入った。

 

 

 

 

 

皆さんご投票ありがとうございました。荼毘戦とスピナー戦なんですが、同票になっちゃったので再度投票やります。どっち先に見たいですか?(梅干しと死柄木は最後にします)

  • 焦凍VS荼毘
  • 障子VSスピナー
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