抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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お気に入り一気に増えてるううううう!!
でも評価下がっとる…(´・_・`)
面白いと思っていただけましたらお気に入り・高評価(特に9・10あたり)どしどしよろしくお願いします。
※2023/3/5 今後のオリジナル展開の都合上、かっちゃんがデク君に謝るタイミングを大幅に早めました。


爆豪勝己:ライジング

 緑谷は、2代目の“個性”と3代目の“個性”を同時に発動させて死柄木を食い止めた。

 物体の移動速度を変化させる『変速』と運動エネルギーを蓄積して放出できる『発勁』を組み合わせ、音をも置き去りにする移動速度を生み出し、たった一撃でワンフォーオール100%に匹敵する威力の攻撃を放った。

 緑谷は、ワンフォーオールの力に『発勁』の力を上乗せし、オールマイト級の力とオールフォーワンの“個性”を手に入れた死柄木ですら防ぎ切れない程の威力の攻撃を放つが、死柄木が常時発動している『無効』の“個性”により掻き消されてしまう。

 

「ワンフォーオールを寄越せ」

 

 死柄木は、不気味な笑みを浮かべながら緑谷に手を伸ばした。

 だがその時、死柄木は頭を抱えて苦しみ出した。

 

「ぐぁ…あが……!!」

 

 死柄木は、全身の激痛に苦しみ空中で暴れる。

『超再生』を発動しても、激痛は引くどころかひどくなる一方だった。

 

「……さっきまで……のは…まだわかる… 肉体の限界を超えて動いた負荷… だが今は…『超再生』が機能している。今の俺の身体に限界なんて───………… 」

 

 死柄木は、『超再生』が発動しているにもかかわらず大ダメージを負っているのが理解できずに混乱する。

 死柄木の激痛の原因は、ボロボロに壊れた“個性”だった。

 ひなたの『声』を何発も浴びた事で、死柄木の“個性”は振動を起こしていた。

 ひなたは、たとえ死柄木の持つ全ての“個性”を壊したとしても、素でオールマイト並みのパワーを持つ死柄木を止める事は不可能だと踏んでおり、それこそ“個性”を壊す前に殺されるだろうと考えていた。

 そこでひなたは、死柄木の持つ強大な力を利用して自滅させる事にした。

 自分を回復させる為に“個性”を使えば使うほど強く共振し、連鎖的に“個性”が共振を起こして生み出された莫大なエネルギーが、内側から死柄木自らの身体を蝕んだのだ。

 ひなたの最後の悪あがきは、決して無駄ではなかった。

 死柄木は、『超再生』が正常に機能しないのはひなたが原因だと気付き、今度こそひなたを殺そうと飛び掛かる。

 緑谷は、死柄木に拳を叩き込んで阻止すると、『黒鞭』と『発勁』を組み合わせて発動し、空中で死柄木を拘束すると何度も超音速の攻撃を叩き込む。

 だが死柄木は、全身がバキバキと壊れる音を立てながらも、無理矢理“個性”を発動して背中から棘を伸ばし、ひなたを突き刺そうとする。

 緑谷は、『発勁』のエネルギーを上乗せした空気砲で棘を砕こうとするが、“個性”の複数同時使用による負荷で身体に激痛が走る。

 するとその時、爆豪が爆破を放って死柄木の棘を粉々に砕いた。

 

「かっちゃん…!」

 

 緑谷が目を見開いていると、爆豪が緑谷の肩を叩いて言った。

 

「一人で勝とうとしてんじゃねえ! 重ェモンは一緒に背負ってやる! 一緒に勝つぞ!」

 

「…うん!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 二ヶ月程前。

 緑谷は、オールマイトや爆豪、クラスメイトに協力してもらって“個性”の複数使用の訓練をしていた。

 新しく発現した『発勁』の訓練の為、パワー系の“個性”の砂藤に協力を仰いでいた。

 緑谷は、『浮遊』と『黒鞭』を使って複雑な地形の中で動き回っていた。

 

「そこで“個性”解除!」

 

「で、超パワーでぶん殴る!」

 

 麗日と砂藤が言うと、緑谷は『浮遊』を解除し、『発勁』で貯めたエネルギーを空気砲に乗せて放った。

 すると、重力による急降下の勢いも乗って、緑谷の狙った的が粉々に砕ける。

 

「っしゃ!」

 

「おぉ! 形になってきたねデクくん!」

 

「つーかよ、強くなりすぎじゃねえ? 俺が来た意味…」

 

「そんな事ないよ! 砂藤くんの“個性”は同じパワー系として参考になるところが多いし、何より発動にデメリットが無いっていうのはすごい利点だと思うんだ! 砂藤くんの必殺技の『シュガーラッシュ』だけど「お、おう…」

 

 砂藤が自分を卑下していると、緑谷が早口で砂藤を褒めちぎってきたので、砂藤は悪い気がしなかったのか照れ臭そうに頭を掻く。

 緑谷が訓練している様子を見て、爆豪がオールマイトに話しかける。

 

「やれてンな」

 

「技術面は相澤少女にアドバイスを得ているし、“個性”の使い分けの感覚は物間少年に教わったからね。それにしても、彼は私の想定を超える速度で進んでいくな」

 

 オールマイトは、緑谷の成長速度に驚きつつも、周囲の人間に影響されて進んでいく緑谷を見て微笑んでいた。

 すると爆豪がオールマイトに話しかける。

 

「そろそろ誤魔化しきれねぇと思うんだが。『黒鞭』と『浮遊』だけだった時は何とか誤魔化せたがよ。流石に5つも“個性”が発現したら怪しむ奴だっているだろ。現に、触角はもう気付きかけてんぞ」

 

「『黒鞭』と『浮遊』以外は他の者に開示しない。相澤少女にも、納得してもらう説明をするつもりさ。しかし、既に発現してしまった力は使いこなせるようにならなければならない。あの夜君も理解したように、大いなる力を他者へ継承させられるという事実が人々にどのようなリスクをもたらすのか、慎重に考えなきゃいけない。力を求めるのは悪い人だけじゃない」

 

「……」

 

 爆豪がオールマイトに尋ねると、オールマイトが答える。

 すると爆豪は、自分の胸の内を打ち明けた。

 

「あいつは… 根っこの部分で自分を勘定に入れてねェ。きっと昔からずっとそうで、やれる事が増えた今も…それが不気味で遠ざけたくて、理解できねェ自分の弱さを棚上げして、虐めた」

 

「… 律儀に訓練に付き合ってくれるのは、その贖罪も含まれてる…そうだろう? 彼はそんな風に思ってもいないだろうがね。エンデヴァーに似てると言ったのはその変化さ。私はこうなるまで省みることもできなかった。また…話し合える時がくるさ。私が言えた義理じゃないけどね…」

 

 オールマイトと爆豪が話している間も、緑谷はクラスメイトと一緒に“個性”の訓練をしていた。

 その後、壊理の“個性”の指導を終えたひなたが心操と一緒に差し入れを持ってくる。

 

「おお、デッくん! かっちゃん! お疲れ様!」

 

「やってんな皆」

 

「はい、差し入れ! ひー君と一緒に作ったんだよ。皆でどうぞ」

 

 ひなたは、麗日達を呼び出して特訓をしている緑谷に差し入れの入った鞄を渡す。

 鞄の中には、おにぎりが入ったタッパーと味噌汁が入った水筒、そして蜂蜜レモンが入ったタッパーが入っていた。

 

「わあ、美味しそう…ありがとう!」

 

「ちなみにこのおにぎり、どれか一個はサルミアッキ入りです」

 

「食いモンで遊ぶなクソ触角!!」

 

「珍しく爆豪ちゃんの方がまともな事言ってるわ」

 

 ひなたがニヤニヤしながら言うと、爆豪が爆破を放ちながら珍しく正論で殴りつけ、蛙吹がツッコミを入れる。

 心操は、ひなたと爆豪のやり取りを見て呆れつつ、オールマイトに差し入れの味噌汁を渡す。

 

「オールマイトもどうぞ」

 

「ありがとう」

 

 心操が差し入れを渡してくると、オールマイトが礼を言った。

 その後ひなたも緑谷の特訓に付き合い、アドバイスをした。

 特訓の休憩中、ひなたは爆豪にウザ絡みしに行っていた。

 

「やー、あのかっちゃんがデッくんの特訓に付き合う日が来るとはねぇ」

 

「ンだよ」

 

「いやぁ、君も成長したなって思ってさ。1年前の君なら考えられなかったからね。このこの〜!」

 

 ひなたがニヤニヤ笑いながら爆豪を肘で小突くと、爆豪はウザ絡みしてくるひなたの顔を押しのけた。

 

「ぐえっ」

 

「ウゼェ」

 

「ごめん」

 

 爆豪が普段のようにキレ散らかすわけでもなく冷静なトーンで睨んでくると、ひなたは押された鼻を擦りながら謝る。

 そして、ずっと疑問に思っていた事を爆豪に尋ねる。

 

「…あのさ、ホント今更なんだけどさ。何で君はあんなにデッくんに突っかかってたの?」

 

 ひなたが尋ねると、爆豪は黙り込み、二人の間に澱んだ空気が流れる。

 するとひなたは、澱んだ空気を何とかしようと慌てて取り繕う。

 

「あ、言いたくなかったら言わなくていいんだけどさ! あの、何というかその…「俺はずっと、あいつを見下してた」

 

 ひなたが取り繕おうとすると、爆豪が話し出した。

 

「なのによ。あいつ、自分の事放っぽって俺の事助けようとすんだよ」

 

「うん」

 

「それが意味わかんなくて、気味悪くて、突き放したかった。だから、虐めた」

 

「…そっか」

 

 爆豪が話すと、ひなたはそれを最後まで聞いた。

 爆豪がひなたに悪態をつかずに打ち明けたのは、何度も競い合ってきたライバルとしてひなたの事を認めている部分があったのと、緑谷にした事に対して少なからず責任を感じていたからだった。

 ひなたがその流れで尋ねると、爆豪は自分が緑谷にした仕打ちを打ち明けた。

 

「……うん、想像以上にやってんな」

 

 爆豪が打ち明けた暴力暴言の数々に、ひなたは目元をヒクつかせてドン引きしていた。

 暴力暴言、人格否定、自殺教唆、どれを取ってもヒーロー候補生の行いとは思えなかった。

 ひなたは、頭を掻きながらため息をつくと、冷静なトーンで言った。

 

「君さ、それは早いうちに謝った方がいいよ。つーか今謝れ」

 

「今更謝ってあいつに許してもらえって言うんかよ」

 

「違うよ。君が謝りたいっていう気持ちをちゃんと伝える事が大事なんだよ。たとえ許してもらえなくても、きっといつか歩み寄れるよ。だって君達は、生きてるんだから」

 

 ひなたが言うと、爆豪は静かに俯く。

 ひなたが傷つけた相手や傷つけられた相手はもうこの世にはいないという事を悟り、今伝えなければ一生歩み寄れないまま終わってしまうのではないかという思いが頭をよぎったからだ。

 ひなたは言いたい事を言い終わると、その場からすっくと立ち上がった。

 

「前向いて行こうぜ。君が過去に何をしてたって、僕は今の君が好きだよ」

 

 ひなたはニコッと笑顔を浮かべながら言ったかと思うと、爆豪の背中を軽く蹴って急かした。

 

「ほらほら、そうと決まったらとっとと行きなさい!」

 

「足蹴にすな! 言われなくても行けンだよクソが! ババァかてめぇは!」

 

「今から謝る人の態度は思えない! あとお母さんの事ババァって言っちゃあかんよ」

 

 爆豪がひなたにキレ散らかすと、ひなたが目を丸くしてドン引きした。

 するとその時、心操が来てひなたに話しかけてくる。

 

「ひなた。エリちゃんの事で相澤先生が呼んでる」

 

「あ、ごめん! 今行く」

 

 心操が言うと、ひなたは慌てて心操についていった。

 ひなたと心操は、そのままその足で教師寮に顔を出した。

 特訓が終わった後、爆豪は緑谷に声をかけた。

 

「おい。デ…出久。いるか」

 

「えっ、かっ、かっちゃん…!? どうしたの?」

 

 いつもなら緑谷を『デク』と呼ぶはずの爆豪が緑谷を『出久』と呼んだので、緑谷は見るからに動揺していた。

 爆豪と緑谷は、誰もいない体育館裏で話をした。

 二人にそろそろ寮に戻るよう声をかけようとしたオールマイトは、たまたま二人が話しているのを見かけ、二人の話の内容を察したのかそのまま去っていった。

 

「てめぇとワンフォーオールの秘密を共有した時から、ずっと思ってた事だ。出久、今までごめん」

 

「………え?」

 

 爆豪が頭を下げて謝ってくると、突然の事で緑谷は戸惑う。

 爆豪は、緑谷に頭を下げたまま自分が今までしてきた事を謝罪した。

 

「てめぇをずっと見下してた…………“無個性”だったから。俺より遥か後ろにいるハズなのに、俺より遥か先にいるような気がして、嫌だった。見たくなかった。認めたくなかった。だから、遠ざけてたくて虐めてた。否定することで優位に立とうとしてたんだ。俺はずっと敗けてた。雄英入って、思い通りに行くことなんて一つもなかった。てめぇの強さと自分の弱さを理解してく日々だった」

 

 爆豪が本心を打ち明けると、先程まで突然の謝罪に戸惑っていた緑谷は黙って爆豪の謝罪を受け入れた。

 緑谷自身、爆豪の人間性自体は好きではなかったが、爆豪の強さに憧れ目標にしていたのも事実だった。

 まさか今になって爆豪が謝ってくるとは思わなかったが、それが彼なりに自分にできる事を考えた結果なのだとしたら、それを受け入れようと思っていた。

 

「俺はてめぇに許してほしいわけじゃねえ。てめぇがどう思おうと、それは何も間違ってねえよ。ただな……」

 

「えっ?」

 

「いい加減一人で突っ走ろうとすんのやめろや…! 俺に簡単に追いつかれてるクセに思い上がってんじゃねえぞクソが」

 

「ご、ごめんなさい…!」

 

 爆豪がいつもの調子に戻ってメンチを切りながら言ってくると、緑谷は思わず反射的に謝った。

 

「わぁったかクソデ…出久!!」

 

「デクでいいよかっちゃん…」

 

 爆豪がぎこちない様子で緑谷の名前を呼ぶと、緑谷は爆豪のフォローをした。

 その頃、教師寮では。

 相澤と一緒に壊理の訓練の打ち合わせをしていたひなたは、急にニヤけ出した。

 

「えへへへへ」

 

「急に笑うな。気色悪い」

 

「いやぁ、これで一件落着かなぁって」

 

「何の話だ」

 

 ひなたがニヤけながら言うと、相澤が呆れ顔でツッコミを入れた。

 後日、ひなたが壊理との訓練を終えて部屋に戻ろうとしていると、後ろから爆豪が声をかけた。

 

「相澤」

 

「おや、何ですかかっちゃん」

 

「試してぇ事がある。ツラ貸せや」

 

「ん、いいよ」

 

 爆豪が真剣な表情で言うと、ひなたは髪を軽くいじりながら返事をした。

 その後、ひなたと爆豪は体育館を借りて二人で特訓をした。

 ひなたがアコースティックシューズを使った高速飛行で逃げ、爆豪が爆破による飛行で追いかけた。

 数十分後、“個性”を限界まで使った爆豪は、全身の激痛で膝をつき息を切らしていた。

 

「はぁ、はぁ…! いってぇ…! クソが…!!」

 

「うん、50%ってとこだね」

 

 爆豪が息を切らしていると、ひなたがアコースティックシューズの速度を確認しながら言った。

 結局爆豪は、一度もひなたを捕まえる事ができなかった。

 それどころかひなたは息切れすらしておらず、限界速度の半分も出していなかった。

 ひなたとの力の差をいやでも感じた爆豪は、地面を睨みながら悔しがっていた。

 

「機動力ですらてめぇに負けてんじゃねえか…!」

 

「いやいや。僕のは技術とサポートアイテムで補助してるだけだから。それに、700キロ以上はゴチャついた場所で出すと危険だから開けたとこ以外じゃ絶対使わないし! むしろ生身でここまでやれてる君の方がすごいさ!」

 

 爆豪が悔しがっていると、ひなたが爆豪の肩を揉みながらフォローした。

 ひなたは、自分の声をサポートアイテムで衝撃波に変換し、空気の波動を足場にする事で高速飛行するという技を実践していた。

 その気になれば超音速での飛行も可能だが、速度に身体が追いつかずに自分で軌道を操作できなくなるため、普段は安全に飛行できる速度を保っているのだ。

 爆豪が焦りの表情を見せていると、ひなたは爆豪の肩を叩きながら言った。

 

「かっちゃんだって頑張っとるさ。『クラスター』だっけ? エンデヴァーんとこで学んだ事、しっかり生かしてるじゃないですか」

 

「まだだ。あいつに追いつけなきゃ…追い越せなきゃ意味がねえんだよ」

 

「…ホントかっちゃんはかっちゃんって感じだね。まあでもそういうの、嫌いじゃないぜ」

 

 ひなたが爆豪をフォローすると、爆豪が悔しそうに言った。

 ひなたは、凄まじい速度で成長していく緑谷を追い越そうともがいている爆豪の姿を見て、自分も強くならなければと強く思った。

 するとその時、爆豪がひなたを指差して口を開く。

 

「おい。それ、どうやってんだ」

 

「これ? これは全身の振動を“個性”で増幅して防御や攻撃の補助に使ってるんだよ。エンデヴァーのアドバイスを受けて、意識しなくても振動の増幅を維持できるようにしたんだ。でもこれは音の“個性”の副産物だよ?」

 

「俺はそれを爆破でやりてぇ。コツ教えろや」

 

 ひなたが言うと、爆豪は真剣な表情でひなたに教えを乞う。

 するとひなたは、口をあんぐりと開けて爆豪の方を見た。

 

「ンだよ」

 

「かっちゃんが自ら人に物を教わりに来た、だと…!? これは夢に違いない…! そうだ、こういう時は元素を周期表の順に暗唱しよう! 水素ヘリウムリチウムベリリウム「いいから早よ教えろやクソ女!!」

 

 爆豪がひなたに教えを乞いに来たのでひなたが混乱していると、爆豪が爆破を放ちながらキレた。

 その後、ひなたは爆豪に自分の技のコツを一通り教えた。

 すると今度は、ひなた宛てに轟からラインが来た。

『新しい赫灼の習得で聞きたい事があるから教えて欲しい』という内容だった。

 

「ん、今度は焦ちゃんからですか。んもー、お前ら一度にまとめて来いよ面倒くさいなぁ! そりゃー行くけどさぁ!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「エンデヴァー!! ラス一絶対あてろよ…!」

 

 爆豪が言うと緑谷は黒鞭で死柄木を締め付け、死柄木の反応を超える速度でラッシュを叩き込む。

『黒鞭』を『発勁』で強化した『黒鎖』で死柄木を拘束し、『危機感知』で反応を補強しつつ『変速』と『発勁』で超高速かつ超威力の攻撃を何百発も叩き込んだ。

 オールマイトに匹敵する身体能力を手に入れた死柄木でも、その全てを捌き切る事はできず、攻撃をいなしたと思った瞬間には攻撃を喰らっていた。

 

(ワンフォーオール・フルカウル120%…!!)

 

「『デトロイトスマッシュ』!!! 『ワイオミングスマッシュ』!!! 『セントルイススマッシュ』!!!」

 

 緑谷がラッシュを叩き込むと、死柄木は再生が追いつかずよろめく。

 

「やはりワンフォーオールは…俺の夢を阻む!」

 

「…!! その為の力だ!!」

 

 緑谷は、そう言って死柄木にスマッシュを放つ。

 

「『テキサススマッシュ』!!!」

 

 緑谷は、死柄木が反応する暇すら与えず最大威力の打撃を何百発も叩き込む。

 死柄木は、緑谷に何百発も殴られながらも笑っていた。

 それを見た爆豪は、冷静に戦況を分析していた。

 

「ダメだ、このままじゃ負ける」

 

(出久は、今までに習得したモン総動員させて死柄木に喰らいついてる。相澤の“個性”だって、相当効いてるはずだ。なのに、あのクソは馬鹿力で粘ってやがる。弱ってるとはいえ、『超再生』と『無効』が効いてるせいで決定打が入れられねえ。それに対して2代目の“個性”は、5分経ったら反動で呼吸できなくなる時限付きだ。時間内に倒しきれなきゃ、力奪われて粉々だ)

 

「だったら5分でケリつける」

 

 死柄木を確実に殺す為の段取りを組んだ爆豪は、轟に声をかける。

 

「轟、処置は済んだな!?」

 

「ああ、何を…」

 

「うるせー俺に掴まれ! エンデヴァー!! 上昇する熱は俺が肩代わりする! 轟はギリギリまでエンデヴァーを冷やし続けろ!」

 

 爆豪が指示を出すと、エンデヴァーは爆豪の意図を汲み頷く。

 

「俺の最高火力を以て…一撃で仕留めろという事か…任せろ」

 

 ロックロックは、エンデヴァーの作戦を聞いて目を見開く。

 

「そんな…子供に───…」

 

「先生達を頼みます!」

 

 轟が言うと、ロックロックはとっくに緑谷をヒーローと認めた事を思い出し三人に託す事に決めた。

 

「っああ…」

 

 その直後、二人が爆豪に掴まり爆豪は爆破で空を飛んだ。

 

「『黒鞭』が伸びきったところを狙う! 俺が出たら2人はすぐに離れろ! 巻き込まれるぞ」

 

「緑谷…頑張れ…!」

 

「緑谷…!」

 

 轟と心操は、死柄木と奮闘している緑谷に声をかける。

 爆豪は、同じ男に憧れた者として、その力を受け継いだ緑谷がボロボロになりながらも命がけで戦っているのを見ていた。

 緑谷の黒鞭がビンッと伸び切ると、エンデヴァーが飛び出す。

 

「今だ!!」

 

 轟が叫ぶと、エンデヴァーは死柄木を羽交締めにする。

 

「エン…」

 

「離れろ!!」

 

 緑谷が目を見開いていると、エンデヴァーは緑谷に離れるよう言った。

 

「てめェ…!」

 

 死柄木はエンデヴァーを睨むが、エンデヴァーは熱を溜め続ける。

 そして、一気に炎を放出した。

 

「『PLUS ULTRAプロミネンスバーン』!!!!」

 

 死柄木は、エンデヴァーが放つ炎に焼かれてもがき苦しむ。

 だが、その次の瞬間だった。

 

 

 

「あ゛」

 

 死柄木が呻き声を上げた次の瞬間、エンデヴァーの身体を黒い棘のようなものが貫く。

 

「エンデヴァー!!!」

 

 エンデヴァーが刺されると、轟は叫び声を上げ爆豪は目を見開く。

 

「な…ぜ…死なん…!!」

 

 死柄木に刺されたエンデヴァーは大量の血を噴き出し、死柄木は丸焦げになってもまだ意識を保っていた。

 

「轟! エンデヴァーを頼んだ!」

 

「…! ああ!」

 

 爆豪が言うと、轟は氷を操ってエンデヴァーを回収し、氷で止血しつつエンデヴァーの身体を冷やした。

 爆豪は、足からの爆破で死柄木の背後を取ると、全身から噴き出す汗を球状に圧縮し、一気に解き放った。

 エンデヴァーからのアドバイスのもと生み出した圧縮撃ちの極致で、今爆豪に撃てる最大火力の技だった。

 

「喰らえ!! 『榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)・クラスター』!!」

 

 爆豪が最大火力の技を放つと、死柄木は目を見開く。

 “個性”での防御も間に合わず、爆破が全て死柄木に直撃した。

 全方位からの大爆破を喰らった死柄木だったが、『無効』の“個性”を発動させてダメージを最小限に抑えていた。

 死柄木は、『超再生』で身体を再生させようとするが、その隙を与えずに緑谷が死柄木を『黒鎖』で拘束し右拳を振り抜く。

 

「130%…ユナイテッドステイツ・オブ・スマァァァッシュ!!」

 

 至近距離で超音速の衝撃波を喰らった死柄木は、白目を剥いて血反吐をぶちまける。

 

「ぁ……がぁ……」

 

 二人の最大威力の攻撃を喰らった死柄木は、全身からバキバキと音を立てていた。

 何度も再生不能な攻撃を喰らい、内側からも身体を破壊され、もはや今の死柄木に正常な意識は無かった。

 それでもなお立ち向かうのは、狂気とも呼ぶべき執念以外の何物でもなかった。

 一方で轟は、全速力で救護班のもとへ向かい、サイドキックのアポロンにエンデヴァーを診せた。

 

「ギリギリまで体温下げときました。アポロンさん、治療お願いします」

 

「ああ…!」

 

 轟が言うと、アポロンは早速エンデヴァーの治療をした。

 エンデヴァーの治療をアポロンに任せた轟は、緑谷と爆豪の援護に入る。

 

「赫灼熱拳…『噴流熾炎』!!」

 

 轟は、死柄木目掛けて炎を直線状に放ち、炎で死柄木の身体を貫いた。

 さらに、すかさず右手から冷気を放ち、死柄木の身体を瞬時に凍らせた。

 

「『噴流氷冷』!!」

 

 轟は、死柄木の身体を内部まで凍らせ、何層にも氷を張って巨大な氷像を形成した。

 急激な温度変化により死柄木の身体は内部までズタズタになり、『超再生』と『無効』を発動しても瞬時に身体を冷凍された。

 だが次の瞬間、死柄木を覆っていた氷にビシッとヒビが入り、死柄木が氷を粉々に砕いて飛び出した。

 

「な…!!」

 

 身体の限界などとうに超えているはずの死柄木は、全身から血を撒き散らしながら笑っていた。

 

「弟を────……」

 

 死柄木は、衝撃波を撒き散らしながら飛び出すと、緑谷目掛けて手を伸ばした。

 すると爆豪は、咄嗟に爆破を放って飛び出し、緑谷を足蹴にして突き飛ばした。

 その瞬間、死柄木が衝撃波を纏った掌底を放ち、爆豪を吹き飛ばした。

 爆豪は、全身からの爆破で衝撃を相殺していたものの、掌底の威力を殺し切れずに重傷を負う。

 そして死柄木もまた、ひなたの“個性”のせいで『崩壊』と『オールフォーワン』が発動できず、爆豪を突き飛ばした右腕から血が噴き出る。

 

「がはっ…!!」

 

「かっちゃん!!」

 

「クソ…! 身体が…!」

 

 爆豪が目を見開いて血反吐を吐くと、緑谷が叫ぶ。

 爆豪は、汗腺を酷使した事による全身の激痛のせいで、爆破を維持できなくなり落下していく。

 死柄木の中にいるオールフォーワンは、落ちていく爆豪を嘲った。

 

「ゲホッ……今…っの……技は…流石に…肝を冷やしたよ……相当鍛錬を積んだ事だろう…だが、無駄な足掻きだった」

 

「っ取り消せぇ!!」

 

 オールフォーワンの言葉に激昂した緑谷は、超音速で死柄木に突進し、拳を振りかぶる。

 そしてそのまま、何十発もの打撃を叩き込んだ。

 だがトドメの一撃を浴びせようとした、その瞬間だった。

 

「かはっ……! はっ、はっ……!」

 

 緑谷は、ついに“個性”の限界時間を迎え、息切れを起こす。

 すると死柄木の顔面が割れ、割れた顔面の中から不気味な笑みを浮かべたオールフォーワンの顔が覗く。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、大阪府砂色市では、ギガントマキアが建物を薙ぎ倒しながら突進していた。

 

『只今砂色市を速度を緩める事なく北上中です!! 街が! 街が蹂躙されて───…ああっ!! 今っ、あ!! 逃げて!! おばちゃん逃げて!! 逃げてって!!』

 

「ははっ、人がゴミのようだ」

 

 零は、薙ぎ倒された建物にトマトのように押し潰される人々を見てせせら笑っていた。

 すると、ギガントマキアが主の匂いが二つに増えた事に気がつく。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、轟と心操は緑谷の方を向いて目を見開いていた。

 緑谷は、ついに“個性”の発動限界を迎え、死柄木に顔を触れられてしまった。

 

「「緑谷ァ!!!!」」

 

 死柄木が緑谷に触れると、緑谷は力が吸い込まれていくような感覚に陥る。

 

「やっと触れた。貰うよ、ワンフォーオー…」

 

 死柄木が言ったその瞬間、死柄木がワンフォーオールの中に入り込んできた。

 死柄木は、死柄木の中にいるオールフォーワンに囁かれるが、オールフォーワンを黙らせようとする。

 緑谷が怒りに身を任せた結果その場から動けずにいると、歴代継承者達が現れ、オールフォーワンと死柄木の侵食を止めた。

 歴代継承者達が緑谷を助けると、緑谷は侵食されようとする中必死に足掻いて自らの意思で飛び出した。

 するとその瞬間、緑谷と死柄木は現実へ引き戻される。

 緑谷は、ただ死柄木がもう起きない事を祈っていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、解放戦線の幹部達は、ギガントマキアの背に乗って死柄木と合流しようとしていた。

 荼毘は、スケプティックの映像を見て死柄木がエンデヴァーと交戦しているのを知り、急に上機嫌になる。

 

「死柄木がエンデヴァーと!? そりゃいいや、準備しろ」

 

「準備って何を」

 

 スケプティックが尋ねると、荼毘がニヤリと笑いながら答える。

 

「偽りのヒーロー社会を崩壊させる準備だよ」

 

「そいつはいい。ちょうどいい機会だ、僕のとっておきの爆弾もぶち込んでよ」

 

「お前ら俺の事何だと思ってるんだ」

 

 荼毘と零がスケプティックに頼むと、スケプティックは二人の人遣いの粗さに呆れ返る。

 Mr.コンプレスは、端に立っていたトガに声をかける。

 

「トガちゃんはいいのかい?」

 

「ん?」

 

「さっき探してたでしょ、雄英生徒の好きな子達! 彼らもヒーローなワケだけど」

 

 すると、トガが口を開く。

 

「…… 何を以って線を引くのでしょう? 人を助ける人がヒーローなら、仁くんは人じゃなかったのかな…私の事は…どうするんでしょうか。聞きたかったんです出久くんに──…お茶子ちゃんに、ひなたちゃんに……答えによっては──…大丈夫です」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、一台のヘリコプターが蛇腔病院跡地に向かって全速力で飛行していた。

 

「まだか…!? あと5分以内に現着したまえ!」

 

「ホークスやミルコじゃないんですから無理ですよ! 全速力で飛ばしてます。危険なので座ってて下さい! まだ身体も全快というワケじゃないでしょう」

 

 操縦士は、急かされると呆れながら言った。

 

「今も命が奪われ続けていると言っているんだ。論点をすり替えないでくれ!」

 

「労ってんすけど!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃那鳩市ではギガントマキアが暴れており、ヒーロー達が避難誘導をしていた。

 

「目標現在那鳩市をおよそ100km/hで直進中!」

 

「速過ぎないか!?」

 

「正確には『デカすぎる』だ、『頑丈すぎる』も加えとけ! 土竜のような長い爪で建物を掻き分けてる! 瓦礫が飛び散って奴の図体以上に被害規模がデカい! 進路周辺5kmは避難区域になる!! このまま我々が進み(ヴィラン)も直進し続けて来るならば、約8分後! 会敵する事となる! 被害は既に未曾有の領域に達している…!! これは我々の罪だ!! 彼らはただそこで暮らしていただけだ! まだある命を!! 死んでも守れ!! 我々への罰をこれ以上他者に被らせるな!!」

 

 そして解放戦線の隊長達は、そのギガントマキアの背に乗っていた。

 

「ヒーローが迫ってきてる」

 

「マぁジ? ゴキブリ並みにしつけぇじゃん」

 

 スケプティックが報告すると、零が頭を掻きながらため息をつく。

 するとMr.コンプレスがスケプティックのパソコンを覗き込む。

 

「衛星? からの映像か? 便利ね」

 

「これを便利と感じる文化レベルを恥じろ」

 

 Mr.コンプレスの発言に、スケプティックがツッコミを入れる。

 

「山荘ほどではないが…かなりの数だ。我々が今こうしていられるのも、結果論でしかない。相手の出方には依然気を付けねば……」

 

 スケプティックが言いかけたその時、Mr.コンプレスがパソコンの画面を指差す。

 

「あ!? ストップ!! そこアップしろロン毛!!」

 

「それが人にモノを頼む態度か…?」

 

 スケプティックが呆れつつも渋々映像をアップすると、蛙吹と麗日が映し出される。

 

「あれ、こいつら確か101号の…」

 

「こいつら…!! 噂をすればだ…!」

 

 零が画面の方を振り向いて口を開き、Mr.コンプレスが驚く。

 すると画面を見たトガがMr.コンプレスに詰め寄る。

 

「みすたー!! 装備! 出して下さい」

 

「え、ちょ待って急に来ないのおじさん照れちゃ…」

 

「はやく!!!」

 

「ひえっ」

 

 Mr.コンプレスが若干引き気味に圧縮した装備を出すと、トガが装備を装着する。

 

「じゃ」

 

 そう言ってトガが降りて行こうとするとMr.コンプレスが止める。

 

「おぉいちょっと!! あーもー気付かなきゃ良かった!! ダメだよ降りちゃ!! 危ないって!」

 

「モヤモヤしたままじゃ気持ち悪いので、私は聞きに行かないといけないのです」

 

「今じゃなくていいでしょ!! 荼毘と零も何か言えよニヤニヤしてねぇで!」

 

 Mr.コンプレスが荼毘と零に言うと、荼毘は無視してスケプティックを急かす。

 

「どぉ━━━━━━━━━━でもいい」

 

「僕今それどころじゃないからさ。悪いねMr」

 

「おい、余計なもん見てねえで早く始めろよ。焼き殺すぞ」

 

「グズグズすんな」

 

「…貴様らという奴はぁ〜〜〜〜!!」

 

 荼毘と零がスケプティックを急かすと、スケプティックは不満そうに準備を進める。

 すると、スピナーがトガに声を掛ける。

 

「トガ。俺達ゃ偶々寄せ集まっただけのはぐれ者達だが………トゥワイスがやられて悔しいのはお前だけじゃねぇ。ここはあいつにとって唯一の居場所で、そのボスが恐らく『俺達が集まる事』を望んでる。勝手するのは俺達の本領、ただし必ず戻ってこい」

 

 スピナーが言うとトガは笑顔を浮かべ、そのまま降りていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、蛙吹と麗日は他のヒーロー達と一緒に避難誘導をしていた。

 

「蛇腔市民の誘導は救助隊・警察に任せる! ヒーローはこれから大型(ヴィラン)の進路先へ! 住民の避難・救助及び進行阻止に移る!! 死柄木の元へ向かった者達はまだ状況を知らない筈だ! 通信障害により連絡が取れない! 伝達を頼む!! 行くぞ走れ!! 少しでも速く!! 一人でも多く…命を救え!!」

 

 プロヒーローの一人が指示を出すと、麗日は不安を抱えつつも走り出した。

 

「大型(ヴィラン)が見えたぞ!! 速い!! 避難を急げ!!!」

 

(ヴィラン)に対して直角に逃げて下さい! 屋内にまだ人が残ってる! 手分けして救出しろ!!」

 

「ウラビティ、こっちにまだ二人!」

 

「わかった!」

 

 蛙吹が声をかけると、麗日が駆けつける。

 だがその直後、蛙吹の方へ瓦礫が飛んでくる。

 

「フロッピー!!」

 

 麗日が叫んだ直後、瓦礫がビルに激突する。

 プロヒーロー達は、各々の“個性”で瓦礫を受け止めた。

 

「うわあああ!!」

 

 麗日は、咄嗟にワイヤーを蛙吹の足に固定し引っ張り上げていた。

 

「手荒でごめんね!」

 

「ありがとう助かったわ!」

 

 二人が救助活動をしていると、一人の老婆が二人に向かって声をかける。

 麗日は、ギガントマキアがすぐそこまで迫っている事に焦り早く老婆の夫を助けなくてはと考えた。

 老婆が叫びながら路地裏へ行くと、麗日が蛙吹に住民二人を任せて路地裏に向かう。

 麗日が老婆を追いかけると、老婆は猛スピードで駆け抜けていく。

 

「大丈夫です!! 私が助けます!!」

 

 麗日は、夫の為に危険を承知で駆け抜けていく老婆の姿を見て絶対に助けると心に決めた。

 だが…

 

 

 

「本当に!?」

 

 次の瞬間には、老婆がトガの姿になっていた。

 すると、麗日は青ざめて目を見開く。

 トガは、適当に近くにいた老婆を殺して血を奪い、その姿に変身していたのだ。

 

「トガ…ヒミコ!!?」

 

「久しぶりだねお茶子ちゃん」

 

 そう言ってトガが建物に入っていくと、麗日が追いかける。

 

「待っ…」

 

 だが麗日が駆けつけた時には、どこかに隠れているのかトガの姿はなかった。

 麗日は、いつどこから出てきてもおかしくないトガを警戒する。

 すると、どこからかトガの声が聞こえてくる。

 

「梅雨ちゃんともお話したかったなぁ。梅雨ちゃんは大切なカァイイお友達だもの。出久くんともお話ししたいの。ひなたちゃんともお話したい。私、いつもボロボロになってる出久くんがカッコよくて大好き! ひなたちゃんもカァイくて、でもステ様みたいでカッコよくて大好き。お茶子ちゃんもカァイくて大好き。私、お茶子ちゃんみたいになりたいの。だから教えてお茶子ちゃん。私をどうしたい?」

 

 トガは、いきなりナイフを構えて麗日に襲い掛かった。

 トガに組み触れられた麗日だが、咄嗟にナイフを持った手首を掴んだ。

 

「…………っ! そんな事聞く為に…! さっきのおばあちゃんの…血を奪ったの…? 殺したの…!?」

 

「“そんな事”…」

 

「私は今、一人でも多くの人を助けたいの…!! トガヒミコ!! 邪魔するなら今すぐあなたを捕まえる!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、轟は落ちていく緑谷を助け出していた。

 

「ふっ!!」

 

 轟は、着地するとすぐに緑谷と爆豪の容態を確認した。

 

「爆豪! 緑谷! 頑張れ、すぐ救護班と合流して───…」

 

 だがその時、死柄木が黒い棘を伸ばしながら起き上がった。

 

「…弔っ。ダメだよ…退かナ─────、あんた…の…言っ言、言いっ〜…なり…には……」

 

 死柄木が言った、その直後だった。

 

 

 

 ボウッ!! 

 

 

 

 突然、ねじれた波動が死柄木に襲い掛かる。

 

「皆!!!」

 

 その直後、波動と飯田が駆けつける。

 飯田は、戻ってこない緑谷達を心配して駆けつけ、それを不思議に思った波動も一緒についてきたのだ。

 飯田は、かつて自分を正してくれた緑谷と轟を助けるため、後で処罰を受ける覚悟で駆け出した。

 波動と共に駆けつけた飯田は、轟に状況を説明する。

 

「大型(ヴィラン)がここに向かってる!! 向こうで脳無と戦ってるヒーローにも伝えてある!!」

 

「まぁじ?」

 

「飯田くん…!」

 

 飯田の登場に、彼のインターン先であるマニュアルは目を見開く。

 

「飯田!! 緑谷達を運んでくれ!」

 

「……全く、道理で帰ってこないわけだよ!!」

 

 轟が指示を出し、マニュアルは負傷者達を運ぶ。

 ボロボロになったプロヒーローや、負傷しつつも他の重傷者を逃しているイブキを見た波動は、頬を膨らませながら死柄木を睨む。

 

「再生能力も牛歩…だいぶ弱ってる! 波動先輩!」

 

 轟が波動に言うと、死柄木が棘を伸ばしながら言った。

 

「蛆…が、無限に…湧く───…」

 

 そしてその時、ボロボロに傷ついて心操に応急処置をされていたひなたが目を覚ます。

 

「う……」

 

「ひなた!」

 

 ひなたが目を覚ますと、心操が声をかける。

 ひなたは、息が絶え絶えになり身体からミシミシと嫌な音を立てていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、麗日はトガと交戦していた。

 麗日は、身体を回転させてトガを振り解く。

 

「ごめんね、あの時より強くなってるから!」

 

 そう言って麗日が慎重かつスピーディーにトガと距離を詰めていくと、トガが口を開く。

 

「お茶子ちゃん私ね、大好きな人の事を考えるとその人そのものになりたくなるの。その人の血が全部欲しくてたまらなくなるの。キュンとする、私はそうなの。でも皆はそうじゃない、とっても生きにくい。この前ね、私の“普通”をカァイソウって言って殺そうとしてきた嫌ーな人がいたんだよ。だからお茶子ちゃんの血と“個性”で高いとこから落としたの」

 

 トガが言うと、麗日は目を見開く。

 

「『好きな人の血』だと“個性”もその人になれた。あの時とっても幸せだったよ」

 

 トガが笑みを浮かべながら言うと、麗日はトガ目掛けてワイヤーを伸ばす。

 トガが身を翻してワイヤーを避け背中の注射器を投げつけると、麗日は吹き飛ばされて家具にぶつかり、その拍子に近くにあったテレビの液晶画面が割れ電源がつく。

 

「私は… 人を落として幸せを感じたりしない。何が…さっきから何が言いたいの!!」

 

 そう言う麗日だったが、いつの間にかしまっておいたオールマイトのキーホルダーがトガに取られていた事に気がつく。

 

「お茶子ちゃんから落っこちたよ」

 

「それは──…!」

 

 麗日はキーホルダーをトガから取り返そうとするが、トガは逃げながら麗日に尋ねる。

 

「大事なもの」

 

「……そうだよ!」

 

「私も仁くん大事なお兄ちゃんでした。一緒だねぇ、お茶子ちゃん。お茶子ちゃんの好きな人って出久くんだよねぇ。そうかなって思ってたの。これ出久くんのだよねぇ!? “私達”一緒だよねぇ!?」

 

「それは…それはしまっとくんだ」

 

 そう言って麗日は、無重力にした家具にワイヤーをつけて武器にする技『ゼロ・サテライツ』を繰り出す。

 麗日は、無重力にした家具で攻撃を仕掛けるが、トガはそれをナイフで受け流し続けていく。

 

「私もずっと我慢した! 小っちゃい頃にやめろって言われて! でもだめだった、しまっとくと大きくなるの!」

 

「トガヒミコ… 好きに生きて他人を脅かすなら……その責任は受け入れなきゃいけない」

 

 麗日が言うと、トガは目に涙を浮かべて頷く。

 

「うん、そうだね。ありがとうね、ばいばい」

 

 トガがそう言ってナイフで斬りかかろうとすると、蛙吹が現れ舌でナイフを弾き飛ばす。

 

「フロッピ━━━!!」

 

「何でトガヒミコがここに」

 

「梅雨ちゃん」

 

「やめてと言ったはずよ」

 

 蛙吹が言った直後、建物が倒壊しトガが姿を消す。

 

「消えた! 死角を突く気ね…! 背中合わせに──…」

 

「…ううん………逃げた…」

 

 蛙吹は周りを警戒するが、既にトガは建物からいなくなっていた。

 麗日は、落ちたキーホルダーを拾うと複雑そうな表情を浮かべた。

 

「……涙…」

 

 

 

 

 




かっちゃんのいじめの謝罪についてですが、いじめの内容や自殺教唆の件に関してデク君本人に謝らせるかどうか迷った結果、原作通りにする事にしました。
経験則上、その場でいじめの内容を事細かに懺悔した上で謝られても、いじめられた側からすれば過去の傷を抉られて余計苦しいだけなんじゃないかと思ったので。
その代わり、ひーちゃんはかっちゃんのいじめの内容を知っています。
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