抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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1ヶ月もお待たせして申し訳ございません。


極々、地獄

 その後、前線の生存者、そして避難・救助など、各々の役割を遂行し終え前線へ向かった者、動ける者が死柄木の撤退を阻むも、脳無による突然の陽動・撹乱行動、統率された連携にヒーローたちは分断されつつ、3体のニア・ハイエンドを仕留める。

 しかし、残り7体と共に死柄木一行は行方を晦ました。

 ギガントマキアは仮免ヒーロー・クレシェンドモルトの“個性”により完全に無力化。

 ギガントマキアとMr.コンプレスは確保される。

 そして群訝山荘にて、キュリオス、マグネ、リ・デストロ、外典、トランペット、会議に集まった超常解放戦線構成員1万6931人が確保される。

 しかし、ギガントマキアの行進により幹部を含む132人を取り逃がす。

 他全国に点在するシンパの制圧。

 

「リューキュウ事務所インターン生からの報告! トガヒミコ逃走中! まだ近くにいる筈だ」

 

「クソガキャあ、こんな時! こんな時に!」

 

 救助隊が街を見ると、街は半壊し多くの住民が巻き込まれていた。

 その中には小さな子供もおり、男児が瓦礫の下敷きになっていた。

 男児の妹と思われる女児が男児の手を引いて助け出そうとしていると、ちょうど頭上の瓦礫が崩れて落ちる。

 するとその時、蛙吹と麗日が二人の子供を助け出した。

 

「危なかった!!」

 

「ケロ!」

 

 すると、子供二人はどっと泣き出した。

 

「わあああん!!」

 

「お父さんとお母さんは「わああああん!!」

 

 蛙吹は、泣き喚く男児を抱えて避難所まで連れて行く。

 

「この子……足を怪我してるしとりあえず避難所に運ばなきゃ」

 

「誰か来てぇ、下に人がー!!」

 

 麗日は、住民の叫び声を聞くと二人を蛙吹に任せて助けに行った。

 

「私行くね!!」

 

 麗日が走り出したその時、崩れた建物から大怪我を負った住民が現れる。

 

「あ、あのっ…奥に、妻が、嬢ちゃん早く!」

 

「何号室ですか!?」

 

 麗日は、大怪我を負った男性の妻を探し出して救出した。

 だが、いくら住民達を救出してもキリがなかった。

 麗日は、住民達の叫び声が聞こえヒーロー達も救助に追われている中冷静に判断を下し住民を救い出していく。

 

「大丈夫、落ち着いて」

 

「やめよ…」

 

 麗日が懸命に救助活動をしていたその時、一人のヒーローがそう呟いた。

 

「これはもう、ダメでしょ。転職先、探さなきゃ」

 

 ヒーローは、絶望の表情で惨状を眺めながら言った。

 

 死柄木は死んでいた。

 装置を壊された時点で蘇生の道は絶たれていた。

 その時の感電は傍らのエクスレスにすら感じ取れない程度のかすかなもので、蘇生には不十分だった。

 死柄木を蘇らせたのは、夢と憎しみ。

 たった一つ、死柄木の執念によって、多くの者が散っていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその頃、国民達にはヒーローに対する不信感が募っていた。

 

「やば、これ終わったっしょ」

 

「荼毘ウゼー、けどエンデこれどうすんだろ」

 

「これがヒーローのやる事かよ…」

 

(ヴィラン)を雄英に匿ってたなんて」

 

「嘘でしょ、信じてたのに…」

 

「儂ら守るんが仕事じゃないんか、どないやねん」

 

「今度こそお終いかねぇ」

 

「海外に引っ越すか」

 

「金ねぇよ」

 

「明日にでも説明するべきだ!!」

 

 そしてその頃、小学生の男子二人は一緒に下校しながら携帯を見ていた。

 

「僕達大丈夫かなぁ」

 

「大丈夫だろ━━━━━━━! だって俺達には、ゴチンコ達がいるんだぜ!」

 

 真ん中の男子が心配そうに言うと左隣の男子が笑顔を浮かべながら言った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして同日夜。

 対個性最高警備特殊拘置所通称『タルタロス』。

 本土から約5km離れた沖に建造された収容施設。

 便宜上拘置所とされているが、実態は国民の安全を著しく脅かす、または脅かした人物を厳重に禁錮し監視下に置くものであり、刑の確定・未確定を問わず様々な“個性”の持ち主が収監されている。

 居房は6つに区分されており、“個性”の危険性や事件の重大性によって振り分けられている危険性の高い人物程地下深くに収監される。

 一度入れば生きて出ることは叶わないと言われており、“個性”社会の闇とも呼ばれている。

 

 PM8:34、本土側通行門、通称『青銅の門』。

 監視室の看守に無線越しに尋ねられると、六本腕のヒーローが応答する。

 その背後ではセキュリティロボット達が目の前の人物に向かって発砲するが、次々とロボットが破壊され、もう一人のヒーローは目の前の人物にやられて倒れていた。

 死柄木は、ニア・ハイエンドを盾にして前に進んだ。

 すると本土とタルタロスを繋ぐ橋が降下していき、飛行型のロボットが次々と攻撃を開始する。

 だが、ニア・ハイエンドによってロボット達が破壊されていく。

 死柄木は、飛行型のニア・ハイエンドに乗ってタルタロスへ侵入していく。

 死柄木は監視塔を破壊し、『サーチ』でオールフォーワンの本体を探した。

 

 一方看守達は、侵入してきた柄木の対応に追われていた。

 最深部のシステムがダウンし、居房のロックが内側から外されていく。

 

「システム戻りません!」

 

「居房ブロックが開放されていく!! 内側からだ!!」

 

「制圧部隊到着!!」

 

「全居房ブロック制圧へ移行!」

 

「規定に則り扉から一歩でも出た収容者は…

 

 看守が言いかけたその時、監視室のモニターを突き破って何者かが現れる。

 看守はその人物目掛けて銃を乱射するが、その直後看守は叩き潰される。

 

「そんなもんじゃあ死ねねェなァ!! 出口はどこだぁ!!?」

 

 そう叫んだのは、かつて洸汰の両親を殺し緑谷に倒されたマスキュラーだった。

 

「ぐああああ!!」

 

「てめ…せっかく…」

 

「肉」

 

 そして、マスキュラー同様雄英生の合宿先で大暴れしたムーンフィッシュも脱獄する。

 

「“個性”使ってもシステムが作動しない…ったく世も末だね………」

 

 ピンク色のメッシュが入った髪をした女囚人がぼやくと通り過ぎた際に扉に何かを打ち付ける音が聞こえたため、女囚人は面倒くさがりつつも扉を開けると中からオーバーホールが出てきた。

 

「親父」

 

 オールフォーワンの“個性”のよって解放された囚人達だったが、既に橋は降下しており逃げ場はなかった。

 

「待てよ! 橋がねぇぞ! 出られねぇ! ふざけんな、早くシャバの土踏ませろぉ!!」

 

 するとそこへ、オールフォーワンが現れる。

 

「出たければ僕にしたがってくれ、友よ。そして側で見ていて欲しい。これから始まる空位時代に、より完璧な魔王が生まれる。これは僕が最高の魔王になるまでの物語だ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして、蛇腔病院突入同時刻。

 世間への体裁、デトネラット社長としての業務。

 解放軍指導権譲位に伴う革命への新たな統率。

 2つの顔を持つリ・デストロは泥花市聖戦以降文字通り2人になっていた。

 

「『サポートアイテムの共同開発依頼』などと謀りおって…! あなた方公安に見張られていることは知っていたが…遂にウチの製品を無視できなくなったかと。2つの顔でぬか喜びした。このような強硬策を打ってくるとは…これがあなた方の作り上げてきた秩序か。いいだろう、確かに必要だったのだろう。だが、我々が求めるは“秩序無き秩序”、真の自由。解放せよ。種は既に蒔かれているのだ」

 

 リ・デストロの分身は、捨て台詞を吐きながら溶けて消えていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして、タルタロス襲撃から6時間が経過。

 AM3:06紫安刑務所、AM:55婆柩刑務所、AM4:30久隠刑務所で暴動が起こる。

 オールフォーワンが職員を操り、職員の生体IDのみで起動する緊急用航空機が使われ、ニア・ハイエンドとタルタロス脱獄者によって7か所の刑務所が襲撃され、内6か所から受刑者が放たれた。

 

 そしてAM5:04。

 

「これで下拵えは済んだ! 劇的な一日だった! 暴れたい人間に暴れさせ、僕への追及を撹乱してもらう。君達には悪いが僕が休む間守ってほしい」

 

 死柄木の身体を借りたオールフォーワンは、荼毘、スピナー、零、スケプティックに指示を出す。

 するとスピナーが口を挟む。

 

「…意外と話が合うんだよ…ゲームとか…誰だよ…俺がついて行くのはお前じゃない」

 

「大丈夫さ! 僕は弔の想いを何より尊重してる。これから身体を休ませ完成させる。完成した時…僕らの想いは成就する」

 

 オールフォーワンがそう言う中、零は独り言を呟いていた。

 

「ここまで長かった。やっと、クソみたいな時間が終わる」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 タルタロス襲撃から二日後、爆豪は病室のベッドで目を覚ました。

 爆豪は、起き上がると強引に酸素マスクを外す。

 

「痛っ!!」

 

 すると峰田、砂藤、瀬呂、葉隠が病室に入ってくる。

 

「あ━━━!! 起きたぁ!!」

 

「うるせぇ、どこだここ!!」

 

「良かったキレたいつも通りの異常者だ!」

 

「屁みてェに確認すな!!」

 

 4人が爆豪の回復を喜ぶと、爆豪は寝起き早々キレ散らかし血を吐く。

 

「“セントラル病院”、最先端最高峰の治療を受けられる病院だよ」

 

「つーかマジ良かった! マジ一番ヤベェって聞いてて俺さァもぉさあ!! 腹に穴開いたとかもぉさぁー」

 

「私看護師さんに伝えてくる!」

 

 葉隠が病室を出ていくと、爆豪は峰田の顔を掴んで尋ねる。

 

「デクと轟は…触か…相澤と心操は……先生、先輩は。エンデヴァーは。事態は、どうなった!?」

 

 すると3人は、爆豪に現状を話し始める。

 グラントリノとミッドナイトは重傷を負ってまだ意識が完全には回復しておらず、生徒達は一部を除いて大方意識が回復していた。

 だが、緑谷だけが意識を取り戻さなかった。

 それを聞いた爆豪は緑谷の病室へ向かおうと暴れ、それを峰田達が爆豪を押さえつけて止めようとした。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃心操も、病院のベッドで目を覚ました。

 身体に重みを感じて起き上がって見てみると、ひなたが心操のベッドの上に突っ伏して眠っていた。

 心操が起き上がると、ひなたは眠い目をこすりながら起きた。

 

「んー…あ、ひぃくんおはよー」

 

「ひなた…」

 

「あ、そうだ。あのね。ご飯作っておいたから、食べれそうだったら食べてね。急にがっつりしたもの食べたら胃がびっくりしちゃうから、お粥にしてきたよ」

 

「ありがとな」

 

 ひなたが粥の入った保温容器を取り出してニコッと微笑むと、心操はひなたの頭を優しく撫でた。

 心操は、ひなたが服の下に包帯を巻いており心なしかやつれている事に気がつく。

 

「さっき皆と先生のお見舞いも行ったんだけど、思ったより元気そうだったよ。かっちゃんも今起きたんだって。ひー君もこれ食べて早く元気になってね」

 

「ひなた、お前は大丈夫なのか?」

 

「うん! おかげさまで、今超全快! ほら見て、こんなに元気!」

 

 心操が尋ねると、ひなたは腕をブンブン振りながら答えた。

 笑顔を浮かべているひなただったが、心操の目にはひなたが無理をしているように映っていた。

 

「……わかってる。僕がミスしたせいで大勢の人が傷ついて、ひー君がこんな目に遭って、先生達が非難されて…平気なわけ、ないよ…けどさ……折れるわけにはいかないんだよ。今もまだ、助けを求めてる人がいる。僕は僕にできる事をしなくちゃ。だって僕は、ヒーロー…だから…!」

 

 ひなたは、目に涙を浮かべながら無理に笑顔を作った。

 すると心操は、ひなたを抱き寄せて言った。

 

「無理するな。お前が背負いきれないものは、俺が一緒に背負う。一緒にヒーローになろうって約束しただろ」

 

「…本当に君、僕にはもったいないよ…」

 

 心操がひなたを抱きしめると、ひなたは心操の背中に手を回した。

 つくづく自分にはもったいない相手と巡り会えたという思いで、堪えていた涙が溢れた。

 

「ありがとうひー君。決めたよ。僕は………」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、相澤は医師から容態を聞かされていた。

 相澤は、死柄木に顔面を掴まれた事で両眼を損傷し、幸い視力は失わなかったものの、“個性”に後遺症が残った。

 相澤の病室には、プレゼントマイクが来ていた。

 すると、プレゼントマイクが悔しそうに口を開く。

 

「癒原先輩まで………何で…」

 

「それより…生徒達は…」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、轟の病室には障子、切島、芦戸、八百万が見舞いに来ていた。

 

「気にすんな」

 

「大丈夫だかんね…」

 

「…轟さんの事、私たちは見てましたもの。大丈夫です」

 

 切島、芦戸、八百万は轟に言葉を投げかける。

 病院の外では、エンデヴァー目当てのマスコミが取材をしようと騒ぎ立てていた。

 マスコミは、轟とエンデヴァーの見舞いに来ていた轟の母親や兄姉に詰め寄り、無神経な質問を浴びせていた。

 

「関係者の方ですか!? エンデヴァーの容態はどうなっているかご存知でしょうか!? 今の日本の惨状をエンデヴァーは把握しているかどうか、荼毘との関係について皆知りたがっています!! 会見の日取りは!? 我々は不安なんですよ、知りたいんです!!」

 

 荼毘の炎は、エンデヴァーより強かった。

 荼毘は、エンデヴァーを破滅させる為だけに憎しみの炎で己を焼きながらずっと見ていた。

 轟は、エンデヴァーには荼毘を倒せないと考え自分がやるしかないと思っていた。

 

「焦凍」

 

 その時、冬美が病室に入って声をかけた。

 冬美の後ろにいた夏雄も、心配そうに轟を見ていた。

 

「ちゃす…!」

 

「あーと…! 轟のお兄さんお姉さん!! 轟、喉が火傷でまだ…」

 

 切島が立ち上がり芦戸が状況を伝えようとすると、冬美の後ろからもう一人現れる。

 その姿を見て、轟は目を見開いた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方ホークスは、ベストジーニストの車に乗ってエンデヴァーの元へ向かっていた。

 

「ホークス!!」

 

 ベストジーニストが叫ぶと、眠っていたホークスが目を覚ます。

 

「良かった、寝たか死んだかわからん。もうじき着くぞ」

 

 するとホークスは、喋る代わりに端末を操作して音声機能で返事をする。

 

『すんません、俺だけ快眠して』

 

「全くだ、セントラルの医療技術がなければお前はまだ死の淵を彷徨っていたし、脳無から着想を得た仮死状態にする手術など! 私は受けなかった! おかげで今も身体はボロボロ、ダメージデニムのようにな!!」

 

『すんません、下手な細工じゃごまかせないと進言したのは俺です。脳無をつくれる奴が裏に潜んでたんで。手術は成功! 仮死状態の貴方を荼毘に届けた。奴は遺体の鑑定も求めてきましたが、本物ですから何事もなくパス。荼毘は貴方の死を信じ込みそして──遺体の共有保管を提案してきた。効果的な場面で遺体を使うべきだと…こうして貴方の体は奴らの息のかかった施設で保存された…まァ、こちらの効果的なタイミングでこっそり蘇生させましたけどね』

 

 ホークスが言ったその時、ベストジーニストがハンドルを切る。

 

「掴まってろ」

 

なをさか(何すか)

 

解れ(トラブル)が見えた」

 

 街では、(ヴィラン)による犯罪が横行していた。

 ベストジーニストは、車に仕込んだワイヤーを操って(ヴィラン)を全員捕縛する。

 

「ありがとう助かった!!」

 

「体調の都合により仰々しい捕り物失礼した。警察と管轄のヒーローは?」

 

「…来ないよ。警察は脱獄の件で手一杯。ヒーローは批判の的にされるや否や事務所畳んでトンズラこいちまった」

 

 住民の一人が報告すると、他の住民がボソッと呟く。

 

「……ヒーローなんか…いなくても………」

 

「では私のサイドキックを配置しよう」

 

 住民達がベストジーニストに礼を言い声援を送る中、住民の約半数はヒーローに対して不信感を抱いており冷めた目を向けていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、ベストジーニストはホークスの母親が住む家へと車を走らせた。

 

「どれだ?」

 

『あの奥です。回復して表に出る前に、確認しなきゃいけない』

 

 ホークスの母親は、ホークスの父親が捕まってから公安に保護されて名前も変え、公安が用意した高級住宅に暮らしていた。

 だが、ホークスが訪れた時には既に家はもぬけの殻となっていた。

 

 するとホークスは、母親が残していったと思われる手紙を見つける。

 手紙には、突然押しかけてきた者達に脅迫されてホークスの父親の事を話してしまい、迷惑をかけない為に家を出ていった事が記されていた。

 零が轟家の新居の居場所を特定したのと同じやり方でホークスの母親の居場所を特定し、荼毘が(ヴィラン)を唆してホークスの母親の家を襲撃させ、ホークスの素性を聞き出したのだ。

 

『……荼毘が人を使ったのか…ここまで辿りつくとは…………やっぱ漏れるとした母さんだよなぁ…』

 

「それは…キツいな…まるでスキニージーン『いえ。『鷹見』の抹消は俺と母の関係が消えるという事です。それでいいと思ったんです。救うのじゃなく見限った、人を助けたいって奴がですよ。それが返ってきただけ、むしろスッキリすわ…公安は現在実質機能停止、俺に指示を出す人がもういない。縛るもんが』

 

「なくなった」

 

 ホークスは、人工声帯を兼ねたマスクを外し、掠れた声で言った。

 

「ジーニストさん。追いつめられた時、自由を得た時って、人の性が表れますよね。だから、分倍河原は良い奴でした。人の役に立とうと必死だった。俺もそうありたい。荼毘の語った轟家の話が本当だとしても…きっと今は違う」

 

「してどう動く」

 

「片付けなきゃいけない事が死ぬ程あります。まず俺の原点から…エンデヴァーさんが困ってる」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、都市部はパニックに陥っていた。

 二日前の被害状況も把握できぬまま、大量の凶悪(ヴィラン)が解き放たれるという未曾有の事態に加え、脳無の存在が決定打となった。

 以前にホークスがエンデヴァーに語った噂話、全国に広がる真偽不明の脳無目撃談。

 人ならざる不気味な存在は、雄英高校に現れて以来、深層下で人々の心を蝕み続けていた。

 噂の浸透は人々の抱く情勢不安の表れであり、溜まり続けたフラストレーションが今回ついに決壊した。

 各地で(ヴィラン)が暴れており、ヒーローが駆けつける前に住民がサポートアイテムで撃退を試みていた。

 

 種は既に蒔かれていた。

 ヒーローを見限った人々が自衛の手段を求めた時、それらはもう市場に出回っていた。

 対(ヴィラン)戦闘訓練を受けていない一般市民の武装戦闘は、周辺一帯を巻き込み更なる被害を生んでいた。

 僅か二日の間にこうした事件が全国で頻発している。

 

 そして、ヒーローが減っていた。

 程々の活躍と程々の名声。

 若かりし頃の活躍を貯金に現役を続けていた壮年男性。

 No.9ヒーローヨロイムシャ、瞬足の引退表明。

 これに端を発し、今もヒーローを辞職する者が続出している。

 平和が前提にあった世の中で、一体どれだけの人間が、奇しくもヒーローが、その意味を今一度問われている。

 奇しくもヒーローが、篩に掛けられている。

 そして、人々はその全ての責任を、エンデヴァー一人の肩に乗せる。

 

「焦凍くん達はとりあえず大丈夫です。あなたも何とか一命を取り留めた。エンデヴァーさん、私は応援しています」

 

 担当医は、そう告げてエンデヴァーの病室から出ていった。

 エンデヴァーは、荼毘に言われた言葉を、そして零の何も映さなくなった瞳を思い出し、ぼんやりと天井を見上げていた。

 

「俺は生き延びても…エンデヴァーは死んだ」

 

 そう言ってエンデヴァーが目に涙を浮かべていると、轟が病室の扉を開ける。

 

「お…」

 

 轟は、驚いた表情を浮かべると扉を閉めた。

 

「泣いてる…!」

 

「ショートォオオオ!!!」

 

 エンデヴァーは、ベッドを起こして轟に声をかける。

 すると、冬美と夏雄が入ってくる。

 

「お父さん。良かった…! ようやく皆で顔合わせられた…!」

 

「お前達…無事か…!?」

 

「何…泣いてんだよ」

 

「すまん…本当に…すまない、すまん……っ。俺は…自分の罪と向き合って、やり直していこうと…それが死んだ燈矢への、家族への贖罪だと思っていた。だが…もう、遅すぎたんだ。俺の蒔いた火の粉は、気付けばもはや俺一人では消せないところまで燃え広がっていた。俺は──…これからどうすればいい」

 

 エンデヴァーは、涙ながらに家族に語った。

 ひなたが事務所に来た事で罪と向き合う機会を得たエンデヴァーは、あえて自分の醜い一面を世間に晒し、過去に蓋をして民衆を欺くのをやめ、初心に帰って一からやり直そうとしていた。

 それが家族への贖罪になると、死んだ燈矢もそれを望んでいると心のどこかで信じていた。

 だが燈矢は荼毘として生きており、自分のした事を真っ向から全否定され、トドメとしてホークスやひなたの過去まで暴露された事で、エンデヴァーの心は揺らいだ。

 さらに、自分の元部下がやらかしたせいで何の罪もない少年が燈矢と同じ末路を辿ったという事実を突きつけられ、『エンデヴァー』は完全に死んだ。

 

 何もかもが、遅すぎたのだ。

 きちんと部下を見張って増長を止めていれば、零は生まれなかった。

 燈矢の心を壊し死に追いやらなければ、荼毘は生まれなかった。

 荼毘が生まれなければ、ホークスやひなたが荼毘の復讐に利用されて苦しむ事もなかった。

 最初はほんの小さな火種だった。

 だがその火種は憎しみによって膨れ上がり、ようやく気付いた時には既に誰にも止められない程燃え上がっていた。

 ヒーローとしての『エンデヴァー』が死んだ今、エンデヴァーは先を見る事さえできなくなっていた。

 するとその時、冷が口を開いた。

 

「どうするもこうするもないでしょ。あなたは、あの子達を止めるしかないの」

 

「冷……!」

 

「皆で話をしに来たの。轟家の事、燈矢の事」

 

 

 

 轟燈矢は、両親の“個性”婚の末に、轟家の長男として生まれた。

 幼い頃の彼は、No.2ヒーローである父を尊敬しその息子である事を誇りに思っていた。

 燈矢はエンデヴァーが望んでいた『半冷半燃』は持っていなかったが、エンデヴァー以上の炎の素質を持っており、エンデヴァーは燈矢を第二の自分として大いに期待していた。

 

 だが、燈矢は成長するにつれ母親譲りの冷気に強い体質へと変わり、彼自身の“個性”と体質が合わない事が判明すると、エンデヴァーは燈矢をヒーローに育てる事を断念した。

 エンデヴァーにとっては、『第二の自分』が炎を使えないという事実が耐えられなかったのだ。

 だが燈矢は、エンデヴァーが自分に何を望んでいるのか、自分が何の為に生まれてきたのかを知っており、エンデヴァーにつけられた心の火はそう簡単に消せるものではなかった。

 エンデヴァーは、燈矢にヒーローを諦めさせる為に『半冷半燃』の個性を持つ子供を作る事にした。

 そして末弟の焦凍が産まれ、自分の存在を否定されたように感じた燈矢は当時赤ん坊だった焦凍を焼き殺そうとした。

 

 

 

「一番つらいのはあなたじゃないし、あの子を見なかったのはあなただけじゃない」

 

 冷は、エンデヴァーにそう告げた。

 

 

 

 結局、燈矢が焦凍を殺そうとしたのは未遂で終わったが、エンデヴァーは焦凍を兄姉に近づけさせないようにした。

 それからは表向きは弟妹と仲良く接していた燈矢だったが、毎晩夏雄に泣きながら家族への恨みを打ち明けていた。

 そうして負の感情を膨張させ続け、密かに山で訓練を続けついに満足のいく火力を出せるようになった燈矢はエンデヴァーに訓練の成果を見に来るよう言ったが、燈矢が諦めていなかった事を知ったエンデヴァーは激怒し、その場所に行かなかった。

 そして13歳の冬、絶望に打ちひしがれた燈矢は自分の感情を抑えられなくなり、赤い炎は青色に変わって勢いを増していった。

 炎を制御し切れなくなった燈矢は山火事を起こし、鎮火跡には下顎の骨が落ちていただけで死体は見つからず、表向きは焼死扱いとなった。

 

 

 

「あの日全て諦めていれば──────… 燈矢を殺してしまった事で後に引けなくなっていた…焦凍に傾倒する他…なくなっていた」

 

 泣きながらエンデヴァーが話すと、冷、冬美、夏雄も自分達の非を語り出す。

 

「燈矢が消えて…エスカレートしていくあなたが悍ましくて…子供達にまで面影を見るようになってしまった」

 

「壊れてるのを知りながら…怖くて踏み込めなかった…上っ面で繕う事しか…してこなかった」

 

「全部あんたが始めた事であんたが原因だ。でも、俺がぶん殴って燈矢兄と向かい合わせてやれてたら…荼毘は生まれてなくて、焦凍に盛り蕎麦をご馳走してやれてたかもしれない」

 

 冷は、昔好きだったリンドウの花を持ってエンデヴァーに語りかける。

 

「責任はあなただけのものじゃない。今回の事は私達全員の責任。心が砕けても私達が立たせます。あなたは荼毘と戦うしかないの」

 

「……お前…本当に…冷か…?」

 

「私達よりよっぽど辛いハズの子が、恨んで当然の私を再びお母さんと呼んでくれた。雄英高校でお友達をつくって、私達を繋ぎ留めてくれた。焦凍が轟家のヒーローになってくれたのよ」

 

 冷が言うと、轟も掠れた声を振り絞ってエンデヴァーに手を差し伸べる。

 

「ケホッ、ここに… 来る前、お母さんと話した。お前が…もう戦えねェと思って、俺がやるしかねェって思ってた……でも、違うみてえだ。泣き終わったら立てよ、皆で燈矢兄を止めに行こう」

 

 するとそこへ、廊下で立ち聞きしていたホークスが入ってくる。

 

『すみませーん。話、立ち聞きしちゃいました。その家族旅行、俺らもご一緒してよろしいですかね?』

 

 さらにベストジーニストも一緒に入ってくる。

 

『俺は昨日既に退院して、色々と情報集めていたんですけ…』

 

 ホークスが言いかけると、冷は二人に向かって土下座をする。

 

「ウチの息子が…申し訳ありませんでした」

 

『やややや、そういうつもりで出てきたんじゃないんで! やめて下さい、奥さん!』

 

 ホークスは、ニコニコと笑顔を浮かべながら端末を操作し音声機能で話す。

 するとベストジーニストが冷に歩み寄った。

 

「荼毘について伺いたかっただけです…! 盗み聞きは違法デニムでしたが…怨嗟の原点は捜査の手掛かりになります。“その後のどう生き延び、どうやって荼毘へと変貌を遂げたか”は本人に直接聞くとしましょう」

 

『俺、あなたの昔の映像とかよく観てましたけど、若い頃の執念がこんな形で肥大していたとは…ショックですねー。燈矢くんのお話って事で出てきませんでしたが、ショートくんの火傷、これもエンデヴァーさん?』

 

 ホークスが轟と肩を組んで尋ねると、冷が代わりに答える。

 

「………私です」

 

「お…」

 

『そっか。ショートくんは、君はかっこいいな』

 

「?」

 

 ホークスは、両親を見限った自分とは違い家族と向き合っている轟を尊敬していた。

 そして、エンデヴァーに現状を説明する。

 

『エンデヴァーさん、外は今地獄です』

 

「…ああ」

 

『死柄木弔・零・荼毘・トガヒミコ・スケプティック、逃走した解放戦線構成員132名。そして、7匹の脳無ニア・ハイエンド………………全て行方不明。更に、死柄木と脳無によりタルタロス他6か所の刑務所が破られ少なくとも1万以上の受刑者が野に放たれました。ヒーロー公安委員会の中枢メンバーが死亡および重症、ヒーローをまとめる機能が失われています。風向きの悪さを察したヒーローたちが今も続々と辞職中。(ヴィラン)の活性化が進み、ヒーローを信じきれなくなった一般市民が武器を手に取り戦う事で被害が被害を呼ぶような状況。現在政府は各国からヒーローの要請をしていますが、公案の停止によりヒーローの派遣手続きが滞っています。これがわずか二日間で起きています。奥さんの仰った通り、あなたは戦う他に道はありません。そして俺達もです! 此度の責任、No.1だけのモノじゃない! ご家庭だけで占有しないでいただきたい』

 

「何故…何を…」

 

『てなワケで、こっからはトップ3のチームアップです!』

 

「私は元よりホークスに命をベットした身。地獄の花道ランウェイなら歩き慣れている」

 

『ホラ、俺らとご家庭、少しは肩も軽くなって立って歩ける気ィしません?』

 

「…ああ…!!」

 

 ホークスの言葉にエンデヴァーが頷くと、夏雄も口を開く。

 

「燈矢兄を…止めるまでだから」

 

「…ああ…!!」

 

 エンデヴァーが頷くと、ホークスはエンデヴァーに告げる。

 

『早速ですがまず皆々様への説明責任! 荼毘や零の告発を受けた以上避けては通れません。ざっくりと答弁内容考えてたんスけど…一つ不明瞭な要素が……………『ワンフォーオール』って何なんですかね?』

 

 ホークスが尋ねると、冬美もマスコミの質問攻めに合った時の事を思い出す。

 

「それ…そういえばさっきも…」

 

『ワンフォーオール…我々はそれの正体を知らなきゃあいけません』

 

「…デク…?」

 

 エンデヴァーが呟くと、ホークス達が耳を傾ける。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方、爆豪は暴れすぎて蛙吹に拘束されていた。

 

「デクてめゴラ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!! 何で俺が起きててめーが寝とんだあ!!」

 

「叫ぶな」

 

「こいつが起きると悲しむ暇も無ェ」

 

 蛙吹が看護師にペコリと頭を下げ峰田や砂藤と一緒に爆豪を連れて行くと、看護師が引き気味に目で追っていた。

 

「やっとどっか行った…!」

 

 飯田と麗日も、荒れる爆豪を引き気味に見ていた。

 

「すまない梅雨ちゃんくん。あの怪我を見た時は嫌な想像をしてしまったが…」

 

「むしろ前よりうるさくなっとる」

 

 すると、耳郎が二人に話しかける。

 

「委員長! 常闇も上鳴ももう退院できるってさ! …………身体は無事なんだよね?」

 

「そう聞いてるけど……不安だ…」

 

 麗日が心配そうにしていると、ホークスが声をかける。

 

『チワっす』

 

「大・爆・殺・神ダイナマイト…! 無事か…!」

 

「無事に見えンのか」

 

 ベストジーニストが爆豪を心配すると、爆豪は悪態をつく。

 

『緑谷出久くんと話したいんだけど』

 

「今はオールマイトが二人きりにしてくれと」

 

『………オールマイトが………』

 

 飯田が答えると、ホークスは少し考え込む。

 その頃オールマイトは、ワンフォーオールと対話をする緑谷を側で見守っていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 緑谷が眠り続けている間、エンデヴァーは病室を後にし、どこかへと向かっていた。

 まだ病み上がりにもかかわらず無理に動こうとするので、冬美がエンデヴァーを心配して追いかけた。

 

「ちょっ…お父さん! まだ動いちゃダメって先生が…」

 

「俺にはまだ、償わなければならない者達がいる」

 

 そう言ってエンデヴァーが向かっていったのは、相澤の病室だった。

 

 

 

 




はい、原作通りヒーローサイド惨敗。
お兄ちゃんのせいで連合にシャレにならないくらいバフかかってるからしゃーなしやで。
次回からは原作と展開をガラッと変えようと思っています。
ひーちゃんが吹っ切れたので、これからはテンポ良く話が進んでいくと思います。
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