1ヶ月ぶりの更新です。
時間軸で言えば4月に入る前ですが、本作ではデク君がA組と和解(?)しているので、A組もプロヒーローの指示下でダツゴク退治をしています。
A組が雄英に戻ってきてから数日後。
街では、オールフォーワンが解き放ったダツゴク達が暴れ回っていた。
Ms.ジョークが教師を務める傑物学園の生徒も、未だに避難が終わっていない住民の避難を促していた。
真堂と中瓶は、二人で目的のビルに向かいながら話していた。
「あの“ダツゴク”が昨日南区に現れた。各自至急対象区域をあたられたし…居残りの誘導、手早く解決しよう」
「今残っている人はもー筋金入りだよ」
真堂が言うと、中瓶も呆れながら言った。
ほとんどの住民は、今暴れている
「ジョーク先生流爽やかスマイルネゴシエイト!」
「ダメそー」
真堂が爽やかな笑顔を浮かべながら言うと、中瓶が若干呆れる。
どうしてもどこか腹黒さが拭いきれておらず、却って住民達に不信感を与えてしまうであろう事は容易に想像できた。
「とにかく時短!田口ビルに籠城してるってさ、行こう!」
「あ、待ってよぉヨーくん」
真堂がビルに向かっていくと、中瓶が真堂についていく。
二人は、住民達が籠城しているビルへ赴き説得を試みた。
だが住民達は、頑なに聞き入れようとしなかった。
「今度は子供寄越してきたか。無駄だ帰んな」
「ここは危険です。備蓄も長くは保たないでしょう。傑物学園に避難して下さい」
「人が集まった所にまた敵が襲来した時、あんたらどうにかできんのかい?ウチの店襲ったクズを何人も返り討ちにしてやった。俺たちゃ目が覚めたんだ。自分で育った街は自分で守る。命は他人に預けねぇ」
「金品や物資を狙う者だけなら可能です。しかし、“ダツゴク”や脳無は違います。昨日、すぐ近くで目撃情報が入っています。『暴力』、それ自体を目的とするような…人とかけ離れた連中がやればプロでも死にます」
「言ったろ、ヒーローよりも自分を信じる。他人の生き方も強制できる程偉いんか、“ヒーロー”って奴は」
「あなた方よりは戦いに長けています。お守りさせて下さい」
「その言葉を信頼してきた結果がコレだろ。平行線だ、帰んな坊主。俺たちはもうヒーローには頼れねぇよ」
真堂は笑顔で交渉を試みたが、住民達は依然動こうとしなかった。
全面戦争での被害に加え、エンデヴァーやホークスの素性が世間に晒された事で、一部の民衆は完全にヒーローへの信用を失っていた。
不穏な表情を浮かべながらビルを去っていく真堂に、中瓶が声をかける。
「ダメじゃん、ヨーくんダメじゃん。ダメじゃーーーーん」
「俺が少し揺らしちまえば、あんなビル一瞬で瓦解しちまうんだぞ!!あ〜、強制連行していいなら引きずってやるのに」
「ダメじゃん」
真堂が不穏な笑顔を浮かべながらヒーローらしからぬ物騒な発言をすると、中瓶が呆れる。
するとその時、中瓶の携帯が鳴る。
「真壁からだ」
「通信基地局もいつまで保つんだろうな…」
真堂がぼやいていると、真壁が声を張り上げる。
『2人とも逃げろ!!出た!!』
「え」
『射手次郎が肉眼で確認した!そっちに向かっている!俺らの位置からじゃ間に合わん、逃げろ!!』
真壁が言っている間にも、破壊音は少しずつ近づいてくる。
二人は、近づいてくる破壊音に警戒して戦闘態勢を取る。
「来る…」
その直後、ビルの上を高く跳んでビルを壊しながら何者かが現れた。
「“ダツゴク”…!」
真堂が目を見開くと、その直後大男が二人の前に現れる。
二人の目の前に現れたのは、かつて
マスキュラーは、ニヤリと笑いながら真堂と中瓶に話しかける。
「よう、遊ぼうぜ!!2人か?足りねえなぁ、仲間はいるのか?」
「タタミィ!先生に応援要請!及び市民の避難!!」
真堂は、先に中瓶を逃がして指示を出す。
すると中瓶は、真堂に向かって叫ぶ。
「ヨーくんは!」
「ブッ倒す」
中瓶が尋ねると、真堂は戦闘態勢を取りながら答える。
すると、崩れた瓦礫の中から全身を筋繊維で覆われたマスキュラーが現れる。
「いいねぇ、シャバは」
瓦礫の中から現れたマスキュラーは、ニヤリと不気味な笑顔を浮かべていた。
一方、ビルに籠っていた住民達も自分達の街を守る為に動き出そうとする。
「これ以上街を荒らされてたまるか…!!」
住民達は、サポートアイテムを作動させて迎撃態勢を取ろうとする。
するとそこへ、中瓶が現れて住民達に向かって叫ぶ。
「待って!!“血狂い”です、戦っちゃダメ、逃げて!!」
「知るか!!あんたらの指図は受けねぇ」
「死なせたくないだけなの!!」
中瓶は住民達を逃がそうとするが、住民達は中瓶の指示を聞き入れず平行線となってしまった。
するとその直後、ドォンと轟音が鳴り響きビルが大きく揺れる。
「ヨーくん!!」
中瓶は、血相を変え目を見開いてビルの外に向かって叫ぶ。
真堂は、マスキュラーによってビルの屋上に叩きつけられていた。
「おいおい…話になんねぇ。『ヒーローを見たら10人はいると思え』、いいねぇ、いるねぇ!!」
マスキュラーは、叩きつけた真堂を見下ろしながら高笑いした。
辛うじて意識を保っていた真堂は、“個性”でマスキュラーの身体を揺らす。
だが、全身を筋肉の鎧で覆っていたマスキュラーにはまるで効かなかった。
「無駄だ。1万2千層の筋繊維装甲さ。どんな力でも俺本体に届くことはない」
「あっそ…!!人にはやらなきゃいけない時がある。不屈の心こそこれからのヒーローが持つべき素養なんだよ。『震伝動地』!!!」
筋肉増強の“個性”を持つマスキュラーの前では、真堂の“個性”はほとんど有効ではなかった。
だがそれでも真堂は決して逃げ出す事はせず、最大威力の揺れをマスキュラーにお見舞いする。
「脳みそシェイクになっちまえ!」
真堂は“個性”を限界まで発動させてマスキュラーを揺らすが、それすらもマスキュラーにはまるで効かず、マスキュラーは真堂に重い一撃をお見舞いしようとする。
すると、その時だった。
ドガシャァッ!!
「!?」
突然、マスキュラーは何者かに吹き飛ばされ家屋の屋根に叩きつけられる。
真堂は、“個性”の反動で激しく脳震盪を起こしながらも、マスキュラーを吹き飛ばした人物をその目に捉えた。
「マスキュラー…道理で“危機感知”が止まないわけだ」
「その声はぁああ…」
「雄…英の……」
聴き覚えのある声に、マスキュラーの口角が吊り上がり、真堂の目が僅かに見開かれる。
マスキュラーの前に、緑色のコスチュームに黄色いマントを身につけ真堂を抱えた“デク”が現れた。
自分を負かした男の声を忘れるわけがなかった。
マスキュラーは、すぐにデクの正体が緑谷だと気付く。
「忘れられるワケがねェ!お前だろ!?なァ!?緑谷だ!!逢いたかったぜ!雑魚ばかりで物足りなかったよ、ずっとぉ!!」
マスキュラーは、高笑いしながら筋繊維を纏い、近くにあった瓦礫を掴む。
「フウ〜〜〜…待て…逃げるなよ〜〜〜?違うんだ、勘違いすんなよ?復讐だとかの立派な話じゃねェんだ。俺はただ、この“個性”で好きに暴れられれば十分だと思ってたんだ。けど、俺も人間なんだよなぁ。あの時の愉しさを知っちまったら、もう戻れやしねェ!!」
そう言ってマスキュラーは自分の左眼に瓦礫を填めて義眼代わりにする。
マスキュラーは、屋根から跳び上がると両腕を緑谷が立っているビルの壁に突き刺して力を込める。
「ばっ!!」
するとビルが横に割れ、マスキュラーのいる所からひっくり返った。
マスキュラーは、ビルから飛び退いた緑谷に興奮で満ちた笑みを向ける。
「全力でヤろうぜぇ、緑谷!!!」
マスキュラーは、安全な場所に真堂を逃がそうとする緑谷を興奮で燃えた目で見据えながら殺意剥き出しで歩み寄る。
するとその時、緑谷の無線機から別行動を取っていたひなたから通信が入る。
『デッくん!大丈夫!?今からそっち行こうか!?』
「大丈夫…!!」
ひなたがマスキュラーを討伐しに行った緑谷を心配して加勢を提案すると、緑谷はマスキュラーを見ながら応答する。
その頃住民達は、その様子をビルの中から呆然と眺めていた。
マスキュラーが緑谷に喧嘩を吹っかけている様子は煙で見えず、住民達は混乱していた。
「何が起きた!?煙で見えねェ!坊主は…」
住民達が混乱する中、中瓶はビルから飛び出して真堂のもとへ行こうとする。
一方、緑谷は真堂を連れて一旦マスキュラーから逃げていた。
緑谷は、自分の腕の中でかろうじて意識を保っていた真堂に声をかける。
「間に合わなくてすみません…!」
「いや…いいさ。後輩に助けられてちゃざまぁないね」
緑谷が間に合わずに真堂を負傷させた事を謝ると、真堂は脳震盪で気分を悪くしながらも答える。
真堂は、ヒーローらしからぬ不穏な笑みを浮かべながら続けて言った。
「あの見せ筋…振動でじわじわと装甲剥がしてやるつもりだったんだけどなァ」
真堂が負傷して“個性”の反動まで負ってなお腹黒さを発揮していると、緑谷は内心引きつつも思ったより真堂が元気そうで一安心した。
緑谷が真堂を抱えて向かった先には、緑谷と一緒にダツゴクの撃退と住民の避難誘導に来ていたクラスメイトがいた。
あの後雄英ヒーロー科は、プロヒーローや他校のヒーロー科と連携して学校周辺の警備と近隣の住民の安全を確保していた。
オールフォーワンやそれに与する者の狙いである緑谷やひなたが外で
「デクくん!」
「麗日さん、耳郎さん!先輩を連れてここから離れた場所へ!」
「緑谷、あんたは!?」
「今筋は戦闘に飢えてる。これ以上街に被害を出す前に、僕が食い止める!」
そう言って緑谷は、マスキュラーがいるビルへと戻っていた。
グズグズしているとマスキュラーが緑谷を探しに来て余計に被害が大きくなってしまうため、要件だけを伝えて全速力でマスキュラーの元へ戻った。
緑谷の意図を理解した二人は、真堂を連れてマスキュラーと緑谷が交戦している場所から離れた。
ワンフォーオールの事を打ち明けてクラスメイトと本音で語り合う事が無ければ、以前の緑谷ならクラスメイトを巻き込む事を恐れて戦場に立たせる事さえしなかったが、今の緑谷は違った。
今まで一緒に窮地を乗り越えてきた友達を信じる覚悟を決め、今
二人ができるだけ遠くへ移動していると、見るからにガラの悪い男二人が現れる。
男二人は“個性”を使っており、どう見ても
「ヒャハハ!マスキュラーの野郎が暴れてっから来てみりゃあ、マジでヒーローがいんじゃねえか!」
「嬢ちゃん達、俺らと遊ぼうぜぇ!」
男二人は、“個性”を使って襲いかかってくる。
この二人は近くの刑務所から脱獄した元囚人で、マスキュラーの暴れっぷりに便乗して民間人に危害を加えに来たのだ。
タルタロスから脱獄した大物
だがそんな事はA組はとっくに想定済みで、麗日は“個性”で浮かせた小物を使った格闘術で、耳郎は音波攻撃で
「「邪魔するなぁ!!」」
一方で、真堂を麗日達に任せた緑谷は、身体から煙を出して煙幕を張り、身体を浮き上がらせてマスキュラーを誘導する。
するとその直後マスキュラーが現れ連続で拳を放っていくが、緑谷はそれを避けていく。
「緑谷ァ!!!」
緑谷がマスキュラーの攻撃を避けると、痺れを切らしたマスキュラーが叫ぶ。
緑谷は、黒鞭でマスキュラーの身体を縛り、近くの川へと落とす。
「小細工を…!」
川へ落とされたマスキュラーは、苛ついた様子で緑谷を睨む。
すると緑谷も川へと飛び込み、マスキュラーに尋ねる。
「お前を逃がした死柄木とオールフォーワンは今どこにいる」
「知らね、奴らがくれたの『好きにしろ』の一言だけだ。目移りすんなよなぁ、白けるぜ…!こんな小細工も…つまんねぇよ!あの日のようにぶつかろうぜェ!?全力でぇ!!」
「何でそこまで暴れたいんだ」
「悔いのねェ人生を送る為さ」
「悔いって… 何だ」
「愉しみを存分に味わえねェ事だ」
「他に道はなかったのか、今筋強斗」
「皆無だね!!俺に同情でもしてぇのか!?そういうのは他所でやんな!!俺の心に在るのは、血と闘争だけだ!!!」
緑谷はマスキュラーとの対話を望んだが、マスキュラーは知ったこっちゃないと言わんばかりに緑谷との対話を蹴り、全身を筋肉で膨張させていく。
すると緑谷は、姿勢を低くして拳を振りかぶる。
ここまで言っても分かり合えないと悟ったのか、もう問いかける事はしなかった。
「戦う事には変わりない…」
「つまんねェ男になっちまっ…」
マスキュラーが言いかけたその時、マスキュラーの目の前から緑谷が消える。
そして、マスキュラーの筋繊維が剥がれていく。
マスキュラーは、自分の身体に起こった変化に理解が追いついていない様子だった。
「!!」
「筋肉の張り足しの間隔。力を消費した筋肉は…剥がれる又は剥がす。駆け引きを嫌う奴がわざわざ階下に飛んだ…“張り足し”の感覚がズレてたんじゃないか?気付かない内に“振動”トレーニングでもしたか?」
緑谷がそう言うと、マスキュラーは筋繊維を張り直す。
複数の“個性”を使い分けて策を練り、戦闘ではなく対話を望んだ緑谷に対して痺れを切らしたようだった。
「小賢しい」
だがその直後、緑谷がマスキュラーの腹に重い一撃を叩き込む。
緑谷のボディーブローが突き刺さると、マスキュラーは目をひん剥いて呆気なく意識を手放した。
「これも、僕の全力だ!!」
◇◇◇
その後、緑谷は警察署にマスキュラーを引き渡しに行き、麗日達と合流した。
あの後麗日達は真堂を助けに行った中瓶と合流できたようで、田口ビルで住民達の安否確認と真堂の応急処置をしていた。
ヒーローを信じないと言い張っていた住民達も真堂の応急処置を手伝っており、緑谷は住民達に礼を言った。
「ご協力ありがとうございます」
「俺達だって死なせてぇわけじゃねぇ。話ぐれぇ聞いてやらにゃ罰が当たる」
緑谷が住民達に礼を言うと、真堂の避難勧告を蹴った住民の一人が真堂の方を見ながら言った。
ヒーローに頼らないと言いながらも、命懸けで自分達を守ろうとしてくれた少年達の事まで見限る事はできなかった。
緑谷が全員の無事が確認できてひとまず一息つくと、中瓶が緑谷に声をかけた。
「君、仮免試験の時の…本当にありがとう…!」
中瓶は、真堂に寄り添って涙を堪えながら緑谷に礼を言った。
中瓶に礼を言われた緑谷は、安堵で僅かに頬を緩めた。
するとその時、ひなたから無線で通信が入る。
『もしもしデッくん?そっち大丈夫?』
「相澤さん!うん、さっきダツゴクを警察に引き渡して、今街の人達の安全が確認できたところだよ」
◇◇◇
その頃、ひなたはというと。
ひなたは、別の地区で
緑谷からの報告を聞いたひなたは、携帯で心操とやり取りしながら現状を報告した。
「そっか、やっぱりいらない心配だったね。こっちは全員無事だよ。今ひー君達が避難誘導と安否確認してくれてる。僕も“個性”で探してはいるけど。ん?ダツゴク?ああ……」
「クソッ…何もできなかった…あんなの、あんなのアリかよ…!このバケモンが……!」
ひなたが緑谷と話していると、ひなたの近くにいた
ひなたは、集団で暴れ回っていた脱獄犯達を捕縛武器で拘束し、背中を蹴って警察署へと歩かせていた。
人間の原型がない異形型の“個性”の
圧倒的な力の差を見せつけられた上に“個性”と聴覚を奪われた
「こっちは全滅。これからおまわりさんに引き渡すとこ。結局オールフォーワンと死柄木の居場所知ってる奴は誰もいなかったよ。うん、大丈夫。心配ないよ。焦ちゃん達のとこも皆無事だって」
ひなたは、緑谷に現状を報告しながら脱獄犯を連行していた。
この地区で暴れていた脱獄犯は、全員USJの
むしろ手こずったのはその場に留まっていた住民達の避難誘導の方だったが、心操の説得のおかげでほとんどの住民は雄英への避難に応じた。
ひなたは、自分の代わりに住民の避難誘導をしてくれていた心操に声をかける。
「ありがとうひー君。流石にこればっかりは僕には無理だったから…」
「ん」
ひなたが軽く拳を突き出しながら心操に言うと、心操は軽く拳を当てた。
心操に視線を向けられたひなたは、嬉しそうにふにゃりと表情を蕩けさせる。
するとその時、ひなたが周囲の音を拾い、後ろを振り向く。
「っ……!」
「どうした、ひなた」
「また
「…一応聞いとくけど、どうすんの?」
「行くしかないでしょ」
そう言ってひなたは、アコースティックシューズのギアを上げる。
シューズからはバチっと火花が散り、ひなたの髪がぶわっと浮き上がり瞳が淡く光る。
そのままひなたが爆速で飛び出すと、心操は空中を駆け抜けていくひなたを追いかけていった。
一方で、ひなたは専用のヘッドホン付きゴーグルで
ひなたが向かっていった先では、ピンク色のガスが発生しており、発生源を中心に渦巻いていた。
「ガハッ、ゲホッ…!!」
「情けないなぁ。ヒーローがそんな簡単にやられちゃってさ」
少年院の制服とガスマスクを身につけた中学生くらいの少年が、ガスで意識が混濁しているプロヒーローを見下していた。
外で暴れ回っている
身体からガスを放ちながら暴れ回っていたのは、かつてひなた達の合宿を襲った少年
拳藤と鉄哲に倒された後少年院へと移送されたのだが、オールフォーワンが招いた世間の混乱に乗じて脱獄してきたのだ。
「ホント生きやすい世の中になったもんだね。学歴だけのバカばっかりが評価されて、そういう奴等が上に立つ世の中なんか間違ってる!」
そう言ってマスタードは、どこからかくすねてきた拳銃を抜いてその場に倒れていたヒーローに銃口を突きつける。
ガスで身体の自由を奪われたヒーローは、悔しそうにマスタードを睨む事しかできなかった。
マスタードは、自分とは違い優位にいるはずのヒーローを見下して良い気分になっていた。
するとその時、背後でガスが僅かに揺らいだ事に気付く。
「バレバレなんだよ、バァカ」
マスタードが自身のガスをレーダー代わりにして背後から急接近してくる人影を感知すると、近づいてきた人影に向かって発砲した。
だが人影は、驚異的な身のこなしで銃弾を弾くと一気に距離を詰めてくる。
人影を撃ち殺そうと何発も銃弾を放つが、接近してくる人影はその全てを鞭で弾いた。
人間離れした動きで急接近してくる人影に、マスタードは驚きのあまり一瞬反応が遅れる。
「っ!?避け……」
その一瞬が仇となり、人影の急接近を許した。
急接近してきたのは、鞭型のサポートアイテム『リストウィップス』を装備したひなただった。
濃いガスの煙の中から現れたひなたは、両眼を光らせ髪をざわっと逆立てると、“個性”を使って至近距離で絶叫する。
『AHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!』
「ぐぁ…!!」
ひなたが絶叫すると、防ぎようが無く耳が痛くなる程の爆音に、マスタードは思わず顔を歪める。
ひなたが叫んだ瞬間、ひなたの放った音波によってガスが消える。
ガスで苦しんでいたヒーローや住民は、ひなたの音波によって何事もなかったかのように回復した。
「ゲホッ、ゲホッ…!あれ…?苦しくない…」
「何が起こったんだ…?」
ガスから解放された住民達は、音波の発生した方を振り向く。
ひなたの音波にやられたマスタードは、ふらつきながらもひなた目掛けて発砲する。
だが至近距離で爆音に晒されて、平衡感覚も頼りにならない状態で撃った弾など当たるはずもなく、ひなたは平然とした表情を浮かべながら鞭をビシッとマスタードの腕に打ち付けて銃を手放させる。
ガスが効かず、頼みの綱だった拳銃を奪ってきたひなたに対し、マスタードは見るからに動揺する。
「クソッ…何なんだお前…!」
「…君、僕達の合宿邪魔しに来た奴だよね?」
「!」
ひなたが冷ややかな口調で言うと、マスタードはビクッと肩を跳ね上がらせる。
目の前のヒーローが、かつて自分達が合宿を襲撃した1年A組の生徒だと思い出したのだ。
ひなたは淡く光らせた瞳でマスタードを睨みながら、真っ赤な鞭を振るいあげる。
「この社会に不満があるからぶつけたいんだよね?わかるよ。でもね。これ以上街の人達を傷つけるのは、この僕が許さない」
ひなたは、鞭でマスタードを縛り上げると、そのまま腕に体重を乗せて地面に叩きつけた。
地面に叩きつけられたマスタードは、大きく目を見開いて血反吐を吐く。
叩きつけられると同時にメキメキと骨が折れる音が響くが、意識を手放すまでには至らなかった。
ひなたはそのままマスタードに馬乗りになり、捕縛武器をきつく締める。
「がはっ……」
「手加減した。色々と聞かなきゃいけない事あるから、今気絶されたら困る」
マスタードがかろうじて意識を保っているのを確認すると、ひなたはゴーグルをグイッと上げながらマスタードの胸ぐらを掴んで地面に押さえつける。
ひなたは、オールフォーワンと死柄木の居場所に関する手がかりを少しでも集める為に、
するとその時、ひなたを追いかけてきた心操がひなたと合流してくる。
心操がひなたの方に駆け寄ってくると、ひなたが顔を上げてパァっと笑顔を浮かべる。
「ひなた!」
「あ、ひー君!こっちもう終わったよ」
「速すぎんだろ…俺が来る前に全部終わらせちまいやがって」
「ごめんごめん。だって、急がないと被害が拡大するところだったじゃない」
「そりゃあそうだけどよ」
ひなたの仕事の速さに心操が呆れていると、ひなたが申し訳なさそうに笑った。
その後、心操は“個性”でマスタードを尋問したのだが、結局有力な情報は得られずそのまま警察に引き渡した。
ひなたは、住民達の安全が確保できると、ビルに篭っていた住民達に声をかける。
「皆さん!この通り、
ひなたは、ガスの被害を受けた住民達に雄英への避難を促した。
ガスを喰らって自分達だけでは自分の命を守るのに限界があると悟った住民達は、半数ほどは避難に応じた。
だが未だにヒーローを信用しない何人かの住民は、怒りの矛先をひなたに向ける。
「何が『安全』だ…全部お前のせいだろうが」
「!」
住民の1人が、聞こえるか聞こえないかくらいの声でポツリと呟く。
するとその発言を皮切りに住民達の怒りがヒートアップしていき、次々とひなたに罵声を浴びせてくる。
「お前のせいで日本中がメチャクチャになったんだぞ!!わかってんのか!?」
「この疫病神!!どっか行け!!」
「あんたさえいなきゃ、こんな事にならなかったのよ!元の生活を返してよ!!」
「
住民達が次々と罵声を浴びせてくると、ひなたは目に涙を浮かべてぐっと唇を噛み締める。
どんなにひなたが過去の償いをしようと、世間からの目は厳しかった。
ひなたが握りしめた拳を下ろしてその場から立ち去ろうとした、その時だった。
「被害者面すんのもいい加減にしろよ!!」
ひなたを侮辱されて痺れを切らした心操が、住民達に向かって声を荒げた。
まさか心操が怒ってくるとは思わなかったひなたは、僅かに目を見開いて心操の方を振り向く。
「大人しくこっちの避難勧告に応じなかったあんたらが、今好き勝手できてるのは何でだと思う?そうやって暴言吐く余裕があるのは誰のおかげかわかってんのか?ひなたは…こいつは、自分の事しか考えてないあんたらを守るためだけに毎日パトロールに出向いて
心操は、柄になく住民達に怒鳴りつけた。
すると住民達は、感情を剥き出しにして罵声を浴びせてくる。
「うるせぇ!!そいつがどうなろうと知った事か!誰もクソ
「そもそもお前らヒーローが失敗しなけりゃ、
「じゃあ失敗したからってただ謝ってりゃ良かったのか?謝るだけ謝って、あんたらを見捨ててどっかに消えりゃあそれで満足か!?」
「…!」
心操が言うと、ひなたを罵倒していた住民達が黙る。
ひなたが来なければ、自分達はとっくに
心操も少しずつ冷静さを取り戻してきたのか、住民達に訴えかける。
「皆さんを不安にさせてしまったのは、被害を抑えられなかったのは俺達ヒーローの責任です。だからこそ、一日でも早く平和な日常を取り戻す為に今自分にできる事を全力でやってるんです。今まで通りヒーローを信用しろとは言いません。でもせめて、皆さんの未来を守ろうとしてる奴の邪魔はしないでもらえますか。ほんの少しだけ、皆さんの為に外で戦ってる人達に目を向けてくれませんか。そうすれば、皆さんが安心して暮らせる日を取り戻せるはずですから」
心操は、頭を下げて住民達を説得した。
すると何人かの住民はようやく頭が冷えたのか、ひなたに罵声を浴びせるのをやめた。
住民達がひなたの方を見ると、ひなたは住民達を真っ直ぐ見据えて言った。
「僕は、平和な日常が戻ってくるまで何度だってここに来ます。どんなに追い返されたって、どこに逃げたって、何度でも皆さんに構い続けます。雄英に来たくないのなら、お好きにどうぞ。こっちも好きにやらせてもらいますから」
ひなたは、自分の思いを一切包み隠さず住民達に伝えた。
ヒーロー科の学生が本格的にヒーロー活動を再開してからというもの、ひなたは毎日住民達が立て籠っている建物の玄関先に生活に必要な物資や食糧を置いて回っていた。
どんなに拒絶されても助けたいという、ひなたの個人的なわがままだった。
ひなたは、今後もしつこく住民達に構い続けると告げてそのまま立ち去ろうとした。
すると、先程真っ先にひなたに罵声を浴びせてきた男がひなたを呼び止める。
「待てよ。避難しねえとは言ってねえ。毎日毎日あんたに来られたらたまったもんじゃねえからよ。その代わり、今度こそ死柄木達を全員ぶっ潰せ」
男が言うと、ひなたは目を見開く。
ひなたのしつこさに根負けした住民達は、未だにヒーローへの不信感を抱きつつも、ひとまず雄英に身を預ける事にした。
住民達の避難が終わった後、心操はため息をつく。
「はぁ…何やってんだ俺。本当は不安を取り除かなきゃいけなかったのに…ヒーローとしてやっちゃいけねえ事した」
心操は、自己嫌悪のあまり頭をクシャッと掻く。
するとひなたは、心操に歩み寄り手をきゅっと握りながら優しく言葉をかけた。
「そんな事ないよ。ひー君が僕の為に怒ってくれて、嬉しかった。助けてくれてありがとう」
「困ってる人を助けるのがヒーローだろ」
ひなたが礼を言うと、心操はひなたの頭に手を置いた。
心操がひなたの頭を撫でると、ひなたは感極まって心操の腕に抱きついた。
その後も、二人は雄英付近のパトロールを続けた。
途中でひなたと相澤が元々住んでいたアパートの前を通りかかったのだが、アパートの一室は、ひどく荒らされていた。
壁には下品な落書きがされ、郵便受けにも罵詈雑言が書かれた紙が何枚も押し込まれていた。
「不法侵入に器物損壊…これ、もう
ひなたが住んでいた家の惨状を見て、心操は見るからに怒りを露わにする。
恩師と恋人を侮辱され、これを黙って見過ごせるはずがなかった。
一方で、人格そのものを完全否定するような言葉で埋め尽くされた紙を見ていたひなたは、平然とした表情でポツリと呟く。
「暇な人もいるんだね」
ひなたが平然とした様子で言うと、心操がひなたの方を見る。
ひなたは、手に持っていた紙をグシャッと握り潰しながら口を開く。
「僕は、僕の手の届く場所にいる皆を助けたい。どんなに嫌われたって、構うもんか。余計なお節介はヒーローの本質なんだ」
ひなたは、キッと前を向いて決意を固めた。
するとその時、ブーッとひなたの携帯が鳴る。
「…あ、そろそろ戻らなきゃ」
「え?」
「会いたい人がいるの。今日会いに行く予定だったから、早く戻って支度済ませなきゃ」
そう言ってひなたは、ひと足先に雄英に戻っていった。
その頃水面下では、巨悪が少しずつ動き出していた。
ごめんなさい、本当はこの話でレディナガン戦に入りたかったんですが、思ったより長引いてしまいました。
少しだけ原作沿いにして、オリジナル要素を少しだけ加えてみました。
皆さん多分マスタードの事忘れてきた頃だと思うので、ほんの思いつきでひーちゃんにシバかれてもらいました。