スランプでした(言い訳)。
今回はかなり原作から外れたストーリーとなっております。
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レディナガンに勝利し、オールフォーワンが彼女に与えた“個性”に仕掛けた爆弾を解除したひなた達は、オールフォーワンの率いる超常解放戦線を殲滅する為少しずつ戦力を蓄えていた。
しかし、辞めていったヒーローから情報が漏れ始め、次々と刺客が緑谷とひなたを回収しに現れた。
だがひなた達も、黙ってやられていたわけではなかった。
ワンフォーオールを受け継いだ緑谷と共に戦う事にしたA組は、団結して刺客達を倒し、警察に引き渡していた。
オールフォーワンに認められて“個性”を付与された刺客も強かったが、A組はそれ以上に成長していた。
「に、に゛く゛め゛ん゛ん゛……」
歯をボロボロに折られ、心操の捕縛武器で拘束されているのは、かつて1年の林間合宿に奇襲を仕掛けた死刑囚ムーンフィッシュだった。
オールフォーワンに能力と凶暴性を評価され、新たに“個性”を付与され刺客としての役割を与えられ、緑谷達に奇襲を仕掛けに来たのだ。
だが障子と耳郎をはじめとした索敵班によって居場所を特定され、緑谷を探し出す前に心操と常闇に先手を打たれた。
歯の成長速度と一度に伸ばせる面積を飛躍的に上げる『ドーピング』の“個性”を与えられ、大幅に強化されたムーンフィッシュは、以前自身を破った常闇に対し一度は優勢に立った。
しかし、
障子、心操、常闇の三人は拘束したムーンフィッシュを見下ろし、その近くでは一緒に作戦に参加していた青山が腹を下して蹲っていた。
暴走しかけた
「すまない、心操。また助けられた」
「いや、それはこっちのセリフだ。障子の索敵と
常闇が暴走しかけた事を心操に謝ると、心操はペルソナコードのツマミを回しながら言った。
心操は、『洗脳』で大人しくさせたムーンフィッシュを見ながら口を開く。
「本格的に動き出してきたな」
「ああ。おそらく辞めていったヒーロー達から情報が漏れてる」
「戦いを始めるタイミングは向こうが握ってる。奴等が完全に力をつける前にどれだけ戦力を増やして、こっちに有利なように戦局を運べるかが鍵だな」
心操は、障子と話しながら首元の捕縛武器を握った。
◇◇◇
翌朝、まだ日が昇っていない午前4時。
ひなたは、雄英の敷地内の訓練場でフリーランニングをしていた。
少しでも身体を動かしていないと身体が鈍ってしまうため、日課のトレーニングに打ち込んでいたのだが、“個性”の訓練をしても周囲に影響を及ぼさない場所を選んで鍛えていたのだ。
人間離れした動きで道なき道を駆け抜け、小高い場所まで移動するとふぅと一息ついた。
ひなたが顎の汗を拭っていると、ちょうど後ろを走っていた心操が近づいてくる。
「やるね、ひー君! 僕について来れるなんて!」
「お前から目を離すわけにいかないからな。つーかわざとやってるだろ」
「て」
心操が少し息を切らしながらひなたの頭を小突くと、ひなたは軽く両目を瞑る。
険しい道を駆け抜けていたひなただったが、心操も相澤に鍛えられていたためひなたの動きについて来られるようになっていた。
ひなたは、わざと心操が追いつけるギリギリのスピードで走って心操を試しており、心操もそれに気付いていた。
するとひなたは、肩掛け鞄から蓋付きのタンブラーを二つ取り出す。
「あ、そうそう。スムージー作ってきたから一緒に飲も!」
「…サンキュ」
ひなたが笑顔を浮かべながら冷えたタンブラーを片方渡すと、心操はタンブラーを受け取った。
近くにあった少し大きめの岩に腰掛けてひなたの手作りスムージーを飲みながら、二人で語り合った。
自分の素性が明るみになった時は暗い表情をしていたひなたが前向きに特訓に取り組んでいるのを見て、心操は安心していた。
「…やっぱ強いよな、ひなたは。普通、あんな事があった後で立ち直れないでしょ」
「そうかなぁ」
「悔しくないのか? 何の罪もないのに、何も知らない奴等に散々言われて」
「ううん、罪ならあるよ。生みの親の言いなりになって、人を傷つけた。僕の普通の生活を守る為の犠牲から、目を背けてきた」
心操が尋ねると、ひなたは首をふるふると横に振りながら答えた。
ひなたは善悪の区別もつかないうちから人を傷つける事を強要されていたのだから、悪いのはひなたに人を傷つけさせた生みの親であってひなたは悪くない、心操はそう考えたが、ひなた自身はそうは思わなかった。
「僕は、まだ僕を許せないでいる。僕を許せる時があるとすれば、それは僕が傷つけた以上の人を救けた時だと思う」
「ひなた……」
「ああ、でも、だからって自分を犠牲にしようって話じゃないよ。僕は、自分の生きたいように生きる。今度こそ、救けて勝つんだ!」
ひなたが満面の笑みを浮かべながら言うと、心操はひなたの顔をじっと見つめる。
そして、ひなたの頬にそっと手を添えた。
その仕草に思わずドキッとするひなただったが、次の瞬間には心操がひなたの柔らかい頬を両手でプニプニした。
「ひゃ!? な、何でつねるの!?」
「……何となく」
人使が何となくひなたの頬をいじると、ひなたはぷぅと頬を膨らませる。
しばらく二人でスムージーを飲みながら話した後、ひなたはすっくと立ち上がって心操に声をかける。
「よいしょ、そろそろ戻ろっか」
「そうだな」
ひなたが声をかけると、心操も立ち上がった。
そのまま手を繋ぎながら二人で寮に戻ろうとすると、ちょうど日課のランニングをしていた緑谷と鉢合う。
先に緑谷に気付いたひなたは、触角をピコピコさせながら緑谷に声をかけに行く。
「あ、そのモサモサ頭は! デッくん!」
「緑谷」
「相澤さん、心操くん!」
「キグーだね! 朝っぱらからこんな所で会うなんて! デッくんも朝のランニング?」
「う、うん…!」
(近い…!)
ひなたがずいっと緑谷に歩み寄ると、緑谷は緊張のせいかガチガチに固まる。
普段のランニングコースの上で三人で話していると、茂みの中で何かが光る。
茂みの中には、深くフードを被った数人の男女が隠れていた。
「標的が二人もいるとは…好都合…!」
隠れていた男女のうち、一際大柄な男は、ひなたの頭に狙いを定めて“個性”で生み出した武器を向けた。
するとその瞬間、緑谷の頭の中で危機感知のアラームが鳴り響く。
茂みの中で何かが光るのが見えた緑谷は、咄嗟に叫んだ。
「伏せて!!」
緑谷が叫んだ直後、茂みから矢が飛んでくる。
緑谷は、二人を庇う形で飛び出すと、飛んできた矢をエアフォースで弾き飛ばした。
矢を弾き返されて敵が怯んでいると、緑谷はその隙に煙幕を出して敵の目を眩ませた。
敵の攻撃が止むと、ひなたは咄嗟に自分を庇った緑谷を心配する。
「デッくん! 大丈夫!?」
「大丈夫! それより相澤さん、索敵を!」
緑谷が言うと、ひなたはコクっと頷いて“個性”で索敵をする。
すると、ひなたが出した音のレーダーの中に5人いる事に気がつく。
「5人いる…!」
「5人って…まさか刺客か!?」
「違う!
「!」
5人の音を聴き取ったひなたが言うと、心操と緑谷は僅かに目を見開く。
たった今自分達を攻撃した相手が
第一、先に攻撃を仕掛けてきた相手を攻撃せずに捕らえろといきなり言われても、咄嗟に対応できなかった。
「攻撃するなって…じゃあどうすれば…」
「耳塞いでて!」
心操が戸惑った様子でひなたに尋ねると、ひなたは大きく息を吸う。
そして次の瞬間、髪をざわつかせて両眼を光らせ、ありったけの声で叫んだ。
『BOM!!!!』
ひなたが大声で叫ぶと、音波がビリビリと周囲の木々を揺らす。
突然叫び声を上げたひなたは、すかさず大柄な男がいるあたりの方向を指差しながら指示を出す。
「相手の“個性”は封じた! デッくん、捕縛を!」
「うん…! 『黒鞭』!!」
ひなたが指示を出すと、緑谷は5代目の“個性”でひなた達を狙った敵を瞬く間に捕縛した。
5人の敵を捕縛した緑谷は、そのまま捕縛した敵を茂みから引っ張り出す。
捕縛された5人が悔しそうにひなた達を睨みつけると、ひなたは一際大柄な男のフードを引っ掴んで顔を露わにした。
その顔を見た心操は、思わず目を見開く。
それもそのはず、ひなた達を狙ったのは、前にひなた達が雄英に避難誘導をした住民達だったのだ。
「この人達、この前避難誘導した…!」
「…まさか、想定してた悪い事態がこんなタイミングで起こるとはね。詳しい話は、後で聞かせてもらいますね」
ひなたが5人を見下ろしながら言うと、5人とも観念したように俯いた。
◇◇◇
その後、ひなたを殺そうとした5人は、雄英の地下シェルターへと連行され、警察や教師陣からの事情聴取を受けた。
校長は、両手を拘束されて椅子に座らされている5人を見ながら言った。
「超常解放戦線との戦いに備えて、雄英もセキュリティを強化した。この地下シェルターもその一つさ。ここなら、あらゆる通信傍受を遮断できる。非常に残念だ。守るべき市民をここに閉じ込めなければならない事態になるとはね…」
教師陣や警察が事情聴取をする中、A組は信じられないものを見るような目で5人を見ており、特に女子達は今回命を狙われたひなたを心配するように寄り添っていた。
「いきなり襲われたって…マジかよぉ!?」
「3人とも、ホントに大丈夫なんだよね!?」
「大丈夫だよ。それより今は……」
クラスメイトが心配する中、ひなたは拘束された5人の方を見る。
恋人と親友を狙われた心操は、一歩間違っていたら二人を殺されていたかもしれないという嫌な想像からか、怒りを露わにしながら5人に歩み寄る。
そして、リーダー格の男の前に立ち、“個性”を発動させた状態で命令する。
「何であんな事したんだ。答えろ」
心操に命令されたリーダー格の男は、弱々しく口を開いた。
その男が語ったのは、予想を裏切る言葉だった。
「……仕方なかったんだ。家族を守る為には、ああするしかなかったんだ…!」
「何だと…?」
男が弱々しく言うと、その場にいたほとんど全員が目を見開く。
男は、冷や汗を流してガタガタと震えながら話し始めた。
「…命令されてたんだよ。緑色の男と背の低い女の二人を捕らえろって…オールフォーワンに…!」
「「「…!!」」」
男が恐怖で歯をガチガチと鳴らしながら言うと、ひなた達は言葉を失う。
目の前にいる男はオールフォーワンに脅されてひなた達を捕えようとした、想定していなかった悍ましい事実に表情を歪めつつも、心操はさらに男に質問を投げかける。
「命令されたって…あんたら、いつからあいつらの手下だったんだ? 何であいつらの手下になんかなったんだ」
「…俺は、ちょうど10年くらい前だ。会社が起こした不祥事の責任を負わされて、仕事をクビになって…転職先も見つからなくて、あの頃は家族にもひもじい思いをさせてた。そんな時、あの男に声をかけられたんだ。助けて欲しかったら協力しろって…俺は、妻と子供達だけでも助かるならと誘いに乗ってしまった…!」
男は、自分の犯した過ちを悔いながら全てを話した。
懐柔しやすそうな一般人を悪魔の囁きで手下にする、それがオールフォーワンのやり方だった。
使い捨ての駒の一般人であればたとえ任務に失敗しても支障が出ない上に、相手が守るべき市民ならヒーローの嫌がる顔が見られる、オールフォーワンの考えそうな事だった。
「でも、それが間違いだったんだ…! その後、あの男の命令に逆らったり、失敗した人間がその後どうなったかを見せられた。失敗したり裏切りがバレたりしたら、俺だけじゃない…妻や子供達まで殺される…!! 俺だって、出来る事なら自首したかった! あの男から解放されたかった! けど…どうしようもなかったんだ…!!」
男は、オールフォーワンに与する事を選んでしまった過去の自分を責めた。
もし任務に失敗したり命令に逆らったりすれば、自分だけでなく、自分に関わった人間全員を殺される。
自首や自殺でもしようものなら、その時も家族や友人を殺される。
人質をとられて逃げたくても逃げられず、家族を守る為にひなた達を攻撃してしまった。
それが男が語った真実だった。
すると、男の隣に座っていた地味めの女性も泣き出した。
「うっ、ひぐっ、何で…何でこんな事になるのよ…私はただ、お父さんを助けたかっただけなのに…! “個性”まで売ったってのに、これ以上何を奪えば気が済むのよ…!!」
泣き出した女性は、事故に巻き込まれて植物状態となった父親を助ける為にオールフォーワンに手を貸した。
元々オールフォーワンが欲しがっていた“個性”を持っていたので、両親に貰った“個性”を彼に捧げてまで父親を助けようとした。
しかし、過去に一度任務に失敗してしまい、父親を惨殺され、また失敗したら今度は母親を殺すと脅されていた。
ここに捕えられている5人は、全員それぞれの事情があって、オールフォーワンに手を貸して家族や友人を人質にされた被害者だった。
今回は緑谷とひなたを捕獲しろという命令を受けていたが、ただの一般人にできる事はたかが知れていた。
だからこそ、オールフォーワンに話を持ちかけられた5人で協力して任務に当たる事にしたのだ。
ひなたは、自分を攻撃した5人に言いたい事があるのか、前に出て歩み寄り口を開いた。
「あなた達をどうするかは、警察が決める事です。少なくとも僕は、僕の大事な人を傷つけようとしたあなた達を許しません」
ひなたが言うと、5人は静かに俯く。
ヒーロー候補生を攻撃して
だがひなたが次に語った言葉は、捕えられた者達にとっては予想外の言葉だった。
「…けど、大事な人を守りたいって気持ちは同じです。オールフォーワンをぶっ倒して、あなた達も、人質の皆さんも全員助けます。だからどうか、力を貸してもらえませんか」
「「「!!?」」」
ひなたが言うと、5人とも一斉に目を見開く。
いきなり『大元を潰したいから力を貸せ』と言われても、理解が追いつかなかった。
プレゼントマイクは、いきなり無茶を言い出したひなたに対して声を荒げた。
『バッ…お前正気かひなた!? 今さっきお前らを攻撃した奴等だぞ!?』
「でもさパパ、オールフォーワンに利用されてたって事はさ、つまり奴とずっと接触してきたって事でしょ? どんな短所も、見方を変えれば長所になるはずだよ」
「手下にされた人達の立ち回り次第では、オールフォーワンの出方を誘導できるかもしれない…!」
「相澤少女、緑谷少年…!」
ひなたが冷静に言うと、緑谷もひなたの考えを汲んだ。
ついさっき自分達を攻撃した者達を本気で助けようとする二人の姿勢に、オールマイトは思わず目を見開く。
ひなたは、自分の考えを警察に話す。
「もちろん、危険な立ち回りをさせるって事はわかってます。どうしても嫌なら、無理強いするつもりはありません。第一、僕には決定権が無いし。でももし、この人達が一緒に戦ってくれるっていうなら、今後の処遇を考えていただけませんか」
「確かに、奴等の動きを誘導できれば戦いを有利に運べるかもしれないが……」
ひなたが5人の処遇を考えてもらえるよう塚内に言った。
塚内は、確かにオールフォーワンを誘導できるならその方法を取るに越した事はないが、なぜひなたが自分達を裏切った相手を庇うのか理解できなかった。
すると、捕えられた男も、弱々しくひなたに尋ねる。
「俺達は、君達を敵に差し出そうとしたんだぞ…? なのに、どうして…!」
男は、何故ひなたが自分達を庇ったのか、その理由をひなたに尋ねた。
するとひなたは、男の目を真っ直ぐに見て言った。
「だって、あなた達が助けを求めるような目をしてたから」
ひなたが言うと、男は目を見開く。
さらに緑谷も、捕らえた5人を安心させる言葉をかけた。
「大丈夫。人質にされた人達は、必ず助けます」
緑谷が言うと、男は涙を流しながら俯いた。
その後、ひなた達は一旦A組の寮に戻り、拘束された5人の処遇は警察が決める事となった。
ひなた達が地下シェルターから去った後、リーダー格の男の隣に座らされていた小柄な男が口を開く。
「…変な奴等だったな」
「ああ。俺達なんかにはもったいないヒーローだった」
男は、自分のした過ちを悔いると同時に、自分達を助けてくれると約束したひなたに心から感謝していた。
オールフォーワンに加担して
日本が半壊した今でも、まだ希望は失われていなかった。
それだけで、男にとっては何よりの救いだった。
◇◇◇
その後、A組寮では。
教師陣の指示で寮に戻ったA組は、談話スペースに集まって話をしていた。
「あの人達…どうなるのかな」
「わからない。ひなた君の言葉を前向きに受け止めてくれていると良いが…」
「もしそうだったとしても、彼等の今後の処遇を決めるのは警察と公安委員会です。今は私達に出来る事をするしかありませんわ」
「緑谷、相澤。お前ら、何か考えがあるんだろ。あれだけ啖呵切っといて、『駄目でした』じゃ済まされねぇぞ」
「「………」」
飯田、八百万、轟が言うと、緑谷とひなたは黙って考え込む。
クラスメイトの言葉を聞いて、オールフォーワンに勝って全員を助けたい一心で提案したものの、作戦がうまくいく確証は無く、自分達の言葉が却ってオールフォーワンの手下にされた人々に不安を与えてしまってはいないかという思いがよぎった。
一応考えている事はあるものの、不安要素は山積みだった。
すると、爆豪が二人の肩をバシッと叩く。
「おい。言い出しっぺが何シケた面してんだ」
「ご、ごめんかっちゃん!」
爆豪が二人に発破をかけると、緑谷は慌てた様子で背筋を伸ばし、ひなたも申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。
ひなたは、頬を掻いて笑顔を浮かべながら話を始める。
「…うん。一応考えてあるよ。全部うまくいけばの話だけど、あいつらに一泡吹かせられる、かも」
ひなたが少し自信無さげに笑いながら言うと、クラスメイトの大半が一斉にひなたの方を見る。
切島は、思わずひなたの肩を掴んで尋ねる。
「それホントか!?」
「う、うん。さっきの人達が協力してくれるなら、成功確率はもっと上がるけど…今のとこ、
切島が尋ねると、ひなたは目を点にしながら答える。
ひなたが若干自信無さそうに答えると、クラスメイトはさらに目を丸くする。
「90!?」
「最近何かおめーらやけに張り切ってると思ったら、そういう事かよ!」
「何で言ってくれなかったのさー!」
「ごめん…ついこの前の事だし、いつどこで情報が漏れるかわかんないから…でも一応、先生には既に話しておいた。それで、公安に掛け合ってくれるって」
「行動力の鬼や!!」
ひなたは、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら言った。
実際、自分に通信機が埋め込まれていたせいで何度も
それを察してか、今まで黙っていた理由を話してもなお責める者は誰もいなかった。
「ずっと考えてた。僕が奪っちゃった皆の時間を、どうやったら取り戻せるか。…ううん、取り戻すだけじゃない。皆と一緒に、最高の未来を作っていきたい!」
ひなたが満面の笑みを浮かべながら言うと、クラスメイトのほとんどが笑みをこぼす。
心操も、ここ最近になって自信を持ってリーダーシップを発揮しているひなたを見て安心していた。
ひなたはこれまで、自分のわがままに人を巻き込んで不幸にする事を恐れて、本来の才覚を発揮できずにいた。
入学当初から、明るくて誰に対しても仲良く接する割には妙な線引きが目立つとは思っていたが、今思えばひなたはその時からずっと助けを求めていたのだ。
しかし、心操が正面からひなたに想いを伝えてからは、少しずつ周りを引っ張っていく事が多くなった。
文化祭や合同訓練の際も、ひなたの周囲を巻き込む力が役に立った。
ひなた自身は気付いていなかったが、心操はひなたの持っている力を見抜いていた。
「…とは言っても、最終的にどうするかはプロの判断待ちだね。とりあえず今は少しでも力をつけておかないと」
ひなたがそう言ってソファーから立ち上がった、その瞬間だった。
ひなたの後ろに立っていた青山が、突然何の前触れもなく倒れた。
それを見たクラスメイトは、血相を変えて青山に駆け寄る。
「青山!?」
「ゆー君!!」
「青山!? おい、しっかりしろよ! 青山!!」
ひなた達は、必死に声をかけながら青山を介抱した。
だが青山の容態は悪くなる一方で、次第に呼吸が弱くなっていく。
それを見たひなたは、激しい頭痛に襲われる。
「う、うぅ……!」
突然頭痛に襲われたひなたは、苦しそうにその場に膝をつく。
ようやく希望が見えてきた矢先に、暗雲が漂い始めた。
◇◇◇
その後、意識を失った青山は総合病院に運び込まれた。
青山の母親は、病院のベッドで横たわっている青山の手を握りながら泣いていた。
「ごめんね…優雅…ごめんねぇ…!」
青山の母親が涙を流し、父親も俯きながら拳を握りしめる。
A組の生徒も見舞いに来ており、特に仲が良かった芦戸と葉隠は泣いていた。
青山を診察した医師は、言いづらそうな表情を浮かべつつも口を開いた。
「おそらく、“個性因子”と肉体との間に起きた拒絶反応が原因と思われます。普通に“個性”を持って生まれたお子さんであれば、ここまで激しい拒絶反応を起こす事はまずあり得ません。…お言葉ですが……この“個性”、一体いつどこで手に入れたんですか?」
医師は、異質なものを見るような目を向けながら青山の両親に尋ねる。
もう隠し通す事はできないと悟った父親は、俯きながら話し始める。
「“個性”の付与は…10年前だ。私達はその頃、“無個性”として生まれてきてしまった優雅にどうにか“個性”を与えてやる方法を探していた。そんな時、ある医者が私達に声をかけてきたんだ。『もしお宅のお子さんの幸せを願うなら、必要な力を提供しよう』と…」
父親は、青山が“個性”を手に入れた経緯を話し始めた。
青山は富裕層の生まれで、生まれた時から何不自由ない暮らしをしていた。
しかし、5歳の時の“個性”検査で“無個性”と判明してからは、彼の人生が大きく狂う事となった。
両親は、青山の幸せを願って“個性”を手に入れる方法を探した。
息子が“個性”を手に入れられるなら、手段は選ばなかった。
だがいくら探しても“個性”を手に入れる方法は見つからず、諦めかけていたその時、当時名医として活躍していた志賀が現れたのだ。
志賀は、独自の技術で製造した“個性”を青山家に売りつけた。
青山がベルト無しでは“個性”を使いこなす事ができず、よく腹痛を起こすのは、志賀から買った“個性”が人工“個性”の製造の過程で生み出された失敗作だったからだ。
「私達は、優雅に幸せになってほしかった…! クラスの子達の輪から外されないように、皆と同じように夢を追いかけられるようにって…!」
「それだけじゃない。…怖かったんだ。“無個性”の子供を産んだ家族がどういう扱いを受けるかと、世間の目に怯えて過ごす毎日だった。私達は、世間の目から逃れたくて、あの男が売りつけてきた“個性”に目が眩んでしまった…! 本当に悪い事をしたと思ってるよ…!!」
青山の両親は、泣きながら自分達のしでかした過ちを悔いた。
青山の両親が手段を選ばずに“個性”を探していたのは、青山の幸せを願ったからだけではなかった。
普通の家庭ならば、生まれた子供が“無個性”だったとしても、その事を受け入れて我が子に最大限の愛情を注いでやれたかもしれない。
しかし、青山の家は普通ではなかった。
富裕層という事もあり、世間体を気にした両親は、息子が“無個性”であるという事実を何としてでも隠したかった。
志賀はそこにつけ込み、社会的地位の高い人間を選んで“個性”や違法薬物を売りつけ、その取引で得た資金を研究費用に充てていた。
志賀が人々の弱みにつけ込んで“個性”を売り物にしていた、その悍ましい事実に、何人かのクラスメイトは思わず顔色を悪くする。
ひなたは、過去の出来事がフラッシュバックし、思わず吐き気を催していた。
◇◇◇
10年前。
当時まだ1歳だったひなたは、施設内を探検していた時に偶然志賀と零の会話を聞いてしまった。
ひなたがほんの好奇心で志賀の実験室を覗くと、志賀と零が血塗れの姿で実験をしていた。
「ああ、何だ。また壊れたか。やはり101号のようにはいかないな」
志賀は、少し落胆した様子で寝台の上の死体を眺めていた。
零は、志賀の実験を手伝いながら話しかける。
「ねえ。さっきすげぇ安値で“個性”売り捌いてたけど、あれ詐欺みたいなもんでしょ? とっくに人工“個性”の研究は成功してんのに、何で
「ふん、あれは全て私の研究の為に生み出したものだ。それに“個性”の製造と複製には、それなりに時間と労力を要するんだ。そう簡単に売り渡すわけがないだろう」
「だったら親切に教えてやりゃあ良かったのに。『お宅に売った“個性”は、使えば使う程寿命が削られる失敗作です(笑)』ってさ」
「なあに、別に嘘はついていないさ。
志賀は、悪魔のような笑みを浮かべながら真実を話した。
大金を払ってまで“個性”を買うような人間が、“個性”を使わずに一生を終えられるわけがない。
志賀はそれをわかっていて、まるで彼等の絶望的な運命を嘲笑うかのように、失敗作の“個性”を売り捌いていた。
「……?」
志賀が下卑た笑みを浮かべながら話していると、それを聞いていたひなたは不思議そうに首を傾げる。
まだ精神的に幼く善悪の区別がつかなかったひなたは、その時のやり取りを気に留めずにすぐに記憶の隅に追いやっていたが、当時のやり取りを思い出した今になって人間とは思えない悍ましい会話をしていたのだと気が付いた。
◇◇◇
志賀の言葉を思い出したひなたは、目に涙を浮かべて唇を噛み締めていた。
青山の両親が全てを打ち明けると、上鳴と切島が問い詰める。
「青山…お前、何でずっと黙ってたんだよ!? 緑谷が“無個性”だって打ち明けた時、俺達があいつを特別扱いしたかよ!?」
「俺達、友達だろ!? こんな事になる前に、一言相談してくれたって良かったじゃねえか!!」
上鳴と切島は、涙ながらに青山に訴えた。
すると青山は、ようやく目を覚まし、ポツポツと話し始めた。
「僕は……」
「優雅!!」
「僕は…ヒーローになりたかったんだ…パパンとママンを喜ばせたくて…胸を張れるヒーローになりたかった。クラスの皆と対等になりたかった…! 緑谷くんと相澤さんが本当の事を話してくれたあの日…僕は、
目を覚ました青山は、絶望の表情を浮かべ、涙を流しながら本心を打ち明けた。
青山自身、与えられた“個性”が自身の命を削っているという事にはとっくに気付いていた。
だがそれでも、自分の為に手を尽くしてくれた両親の為、期待してくれているクラスメイトの為、そして何より自分自身の夢の為に、“個性”の使用をやめるわけにはいかなかった。
一度は、誰かに助けを求めようとした事もあった。
だが、緑谷とひなたが自分の秘密を打ち明けた事で、緑谷が自分と同じ“無個性”にもかかわらず自分よりも遥か先にいた事、そして自分が“個性”を買った男にひなたがずっと苦しめられていた事を知ってしまった。
クラスメイトを苦しめた
そうでなくても、そんな卑劣な手でヒーローになろうとしてしまった自分が惨めで仕方なかった。
「情けなくなんかない!」
青山が涙ながらに語ると、緑谷が叫んだ。
「僕も皆も、君に助けられた! かっちゃんと常闇くんが攫われそうになった時、君は命懸けで助けてくれた! 文化祭の時だって、君がいたから上手くいったんだ! 自分の事しか考えてないなら、皆の為に“個性”を使ったりなんかしなかったはずだ!」
緑谷は、絶望の表情を浮かべていた青山に必死に訴えかけた。
以前青山が緑谷のベランダに置いたチーズは、緑谷が気付けなかったSOSだった。
歪な手段で手に入れた“個性”に蝕まれながらも、自分と同じ悩みを抱える緑谷に助けを求めていたのだ。
「緑谷…くん…」
「諦めちゃダメだ!! 君は、僕達のヒーローなんだ!!」
緑谷は、青山を奮い立たせ、生きる希望を与えようとした。
青山に今まで助けられた分、クラスメイトとして、ヒーローとして、青山を助けようとした。
するとひなたも、涙を拭いながら話し始める。
「ごめん、ゆー君。ずっと苦しんでたのに、気付いてあげられなくて…」
ひなたは、青山の苦しみに気付けなかった事を今になって後悔した。
もっと早く気付いていれば、人を治すのに特化した技術を身につける事ができたかもしれない。
そうすれば、もっと早く青山を救えていたかもしれない。
ひなたは、青山の手を力強く握ると、髪を逆立てて目を光らせながら叫んだ。
「絶対、助けるから!! 君がもう苦しまないように、胸を張っていけるようにする!! お願いだから生きて!! 皆で一緒に、ヒーローになろうよ!!」
ひなたは、目に涙を溜めて必死に訴えかけた。
するとそのタイミングで、相澤が青山に話しかける。
「青山。お前の担任として、少し厳しい事を言わせてもらうよ。お前はヒーローに向いてない」
「!」
「どんなに誰かを助けようとしたって、お前自身が死に急いでたら何の意味も無い。そんなものはヒーローとは呼ばない。こんな状況じゃなけりゃ、俺はとっくにお前を除籍してる」
青山に対し、相澤は冷酷に現実を突きつけた。
相澤が青山にヒーローに向いていないと言ったのは、彼が元“無個性”だからでも、実力が足りないからでもなかった。
ヒーローになる為だけに死に急ぎ、周りに拒絶される事を恐れて頼るべき教師や友人を頼らなかったからだった。
命を削る諸刃の剣と知らずに“個性”を受け取ってしまった青山を責める事はできない。
しかし、独りよがりで過度な自己犠牲を肯定してしまえば、彼はこの先その方法しか信じなくなる。
あえて厳しい事を言ったのは、相澤なりの優しさだった。
「だがこんな事になったのは、お前が苦しんでいる事に気付けなかった俺の責任だ。必ず、お前を助ける」
「!」
相澤が言うと、ひなたが僅かに目を見開いて振り向く。
「お父さん、それって…!」
「アテはある。お前がいた施設を潰した時に奴等から回収したデータを、各国の優秀な研究者が研究してプロヒーローのサポートに役立ててる。俺達プロヒーローはあれから8年間、何もしなかったわけじゃない」
相澤が話すと、ひなたは目を大きく見開く。
ひなたが生まれてから3年間も苦痛に耐えてきたのは、決して無駄ではなかった。
「雄英高校1年A組、青山優雅。お前は必ず、俺の手で卒業まで導く。そこまでしてヒーローになる気概があるなら、最後まで貫け。今度こそ、自分に胸を張れるヒーローになれ。途中で諦める事は俺が許さん」
相澤が青山に告げると、青山はしきりに溢れ出る涙を拭った。
こんな状況でも自分を助けようとしてくれる恩師と級友の存在に、青山は救われたのだ。
◇◇◇
青山の見舞いに来たA組は、雄英に戻る為に病室を後にした。
一時は危ない状態だった青山は、ひなたの“個性”と医師の治療によって“個性”の侵食を食い止められ、数日後には退院できる状態にまで回復した。
しかしそれはあくまで侵食の進行を止めただけで、削られた寿命までは元には戻らなかった。
ひなたは、拳を握りしめながら口を開く。
「…僕は、ゆー君達を苦しめたあいつを、あいつを裏で操ってたオールフォーワンを、クラスメイトが苦しんでるのに気付いてあげられなかった自分を、許せない」
ひなたは、血が滲む程強く拳を握り締め、髪をざわつかせて怒りに満ちた表情を浮かべていた。
ギリっと歯を食いしばりながら今にも爆発しそうになる怒りを抑えつつ、クラス全体に語りかけるように言った。
「絶対、勝つよ」
ひなたが言うと、クラスメイト全員が頷いた。
全員、大切な友達の人生を弄んだ
胸糞マシマシでお送りしております。