抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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大変長らくお待たせいたしました
今回はかなり原作沿いです


最終決戦編
運命の日


 セントラル病院。

 重要施設である此処との連携を密にする為、いくつかの警察署が隣接する形で拠点を移していた。

 病院には、オールマイトをはじめとしたヒーローや、警察が集まって作戦会議をしていた。

 雄英内に避難していた一般市民の裏切りや、青山が過去に(ヴィラン)組織から“個性”を買っていた事などから、ヒーロー達の動きは制限されていた。

 オールマイトは、ヒーローや警察に現状を報告する。

 

「青山少年は現在、検査結果を待っています」

 

「先日の件で、我々は 一気に動きを制限される事になった。ここにいる者は様々な状況証拠や動向からシロと判断し、話を進めます。エンデヴァーさんやジーニストさん主力ヒーローには現場指揮を執ってもらいます。緊急ですが内密な会議という事で、とりあえず安全第一、少数で進めます。インゲニウム、ラグドール」

 

 ホークスが言うと、ステインに襲われてヒーローを引退したはずの飯田の兄インゲニウム、そしてオールフォーワンに“個性”を奪われたはずのラグドールがコスチュームを纏って会議室に入ってくる。

 

「ああ」

 

「承知の上。とは言え──流子たちは来れないのサビしーにゃん」

 

「すんませんね、メンバーを疑っているワケじゃないんです」

 

「にゃ」

 

「にゃ」

 

 愚痴をこぼすラグドールに対しホークスが申し訳なさそうに言うと、ラグドールが笑顔を浮かべながら鳴き、ホークスも鳴いた。

 ホークスは、急遽ヒーロー活動を再開する事になった二人に声をかける。

 

「二人とも、大丈夫そうですか」

 

「バーッチリにゃん!」

 

 ホークスが尋ねると、ラグドールは上機嫌でポージングをする。

 実は全面戦争の後の数週間、ひなたはより多くの戦力をかき集めるため、怪我で引退したヒーローや全面戦争で再起不能になったヒーロー達を慰問していた。

 “個性”が成長して他人の身体を修復できるようになったので、ヒーロー達を負傷する前の状態に戻して回っていた。

 ラグドールも、オールフォーワンに“個性”を奪われる前に戻してもらう事ができ、急遽現場に復帰する事になったのだ。

 だがインゲニウムの負傷に関しては、“個性”が一切関与しない負傷だったため、ひなたの“個性”をもってしても治せなかった。

 

『ごめんなさい、僕の“個性”じゃ役に立てないみたいです。“個性”が関係してない負傷はどうにも…』

 

 インゲニウムの治療に失敗したひなたは、飯田の家族に頭を下げて謝る。

 するとその時、相澤と通形が壊理を連れてきた。

 

『あの、私にやらせてください』

 

『エリちゃん!』

 

『デクさんが、ルミリオンさんが、クレシェンドさんが、言ってくれたの。私の“こせい”はみんなを助ける力だって。私、みんなを助けたくて、いっぱいいっぱいくんれんしたの』

 

 そう言って壊理は、インゲニウムの負傷した神経を元に戻した。

 壊理は、ひなたと“個性”の訓練を重ねた事により、身体の一部だけを巻き戻す事ができるようになっており、インゲニウムを全盛期の状態に戻す事に成功した。

 壊理に戻してもらったインゲニウムは、二度目のオールフォーワンとの戦いに備え、急遽ヒーロー業を再開する事になった。

 ひなたと壊理の“個性”で復帰した二人は、オールマイト達に協力する為今ここにいるのだ。

 

「インゲニウムはあの日死んだ。だけど弟が俺の跡を継いでくれて、俺の役目はもう終わったと思ってた。でも、そうじゃなかったみたいだ。全力で協力します」

 

「聞かせて。必要事項ってやつ──!」

 

 二人が言うと、オールマイトはホワイトボードを使って説明を始める。

 

「これは最善・次善に関わらず、必ずやらなければならない事…分断です。零の“個性”を移植され、全盛期の私にも匹敵するパワーを与えられた死柄木弔の強さは、オールフォーワンを優に超えている。そしてそのオールフォーワンの力も神野戦を見た者なら承知の筈だ。プラス───タルタロス襲撃時に見せた電波を用いた連携に加え、“思考の共有”がどこまで可能かも不確定。2人が揃って出てくるだけで我々は勝てない。”最低でも10km以上 2人を引き離す”、これが我々の勝利に必要な最低前提条件」

 

「当然向こうもそうならないように駒を動かしてくるだろうな」

 

「あぁ、塚内くん。燃え広がり焼き尽くす火の恐ろしさ。合宿山荘戦でしかと味わっているその脅威。荼毘が尖兵に来るだけで 我々の足は止まる。そして、問題の零。奴は人の心の隙に入り込み、揺さぶり、支配してくる。その脅威は、身をもって味わっている者もいるハズ───! 奴に“視”られた時点で我々は詰みだ。だから、“全て”を分断する」

 

 オールマイトは、作戦の説明に使っていたホワイトボードを叩きながら言った。

 

「敵主力全てを分断し、各個撃破。その為には敵を誘き寄せる事が条件!」

 

「ですが、そう簡単に行くものなんですかね…」

 

「ですからこの条件を成立させる為に、重要な人物が4()()います」

 

 オールマイトの作戦に対してインゲニウムが不安を示すと、ちょうど会議室にやってきた相澤が口を開く。

 相澤は、手に持っていた端末を操作しながら説明する。

 

「まず緑谷。あいつが一人でいたら狙わない手はありません。俺が奴等ならそうします。そして二人目が…こいつです」

 

 相澤は、端末の画面を見せながら言った。

 そこに映っていたのは、プログラミングコードのスクリーンショットだった。

 

「何だこれ…プログラミングコードか? かなり高度なもののようだが…」

 

「ああっ!! 『シエスタ』だ!!」

 

 警察の一人が画面を覗き込んだその時、会議に参加していたサイバー犯罪捜査官の一人が声を上げる。

 

「4年前くらいに突然現れた天才ハッカーだよ! 年齢も性別も、国籍すら分からないが、世界中の(ヴィラン)組織にサイバー攻撃を仕掛けて潰してて、ホワイトハッカーの間じゃ『サイバーヒーロー』って呼ばれて崇拝されてるんだ! 1年前に姿を消して以来ずっと姿を見せなかったのに、どうして今になって…!?」

 

 捜査官が相澤の方を見ると、相澤は頭を掻きながら答える。

 

「ついさっき、そいつと会ってきました」

 

「会ってきたって…じゃあ日本人だったのか!!」

 

「はい。今回の作戦はこいつの協力が大前提です。…説得に苦労しましたよ。思いの外意固地でね」

 

 捜査官が驚いた様子で相澤に詰め寄ると、相澤が答えた。

 するとオールマイトが、雄英から直接会議室に来た相澤に尋ねる。

 

「相澤くん! 少年達は、今……」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃ひなたは、サポート科でコスチュームの改良をしてもらっていた。

 ひなたのコスチュームは大幅に改良されており、新しく使えるようになった技に合わせたサポートアイテムも装備していた。

 発目は、ドヤ顔を浮かべながらひなたのコスチュームの具合を尋ねる。

 

「相澤さんの“個性”に合わせて新しくコスチュームを作り直してみました! どうでしょう!?」

 

「うん! すっごくいい感じ! ありがとうめいめい!」

 

 発目がコスチュームの調子を尋ねると、ひなたは触角をフリフリさせながら頷く。

 コスチュームの調整を終えたひなたは、準備を進めているクラスメイトのもとへ戻っていく。

 

「お待たせーひー君!」

 

 ひなたが心操のもとへ走っていくと、心操がひなたに声をかける。

 

「調子どう?」

 

「バッチリ!」

 

 心操が尋ねると、ひなたが答える。

 ひなたが来ると、既にそこにはA組やプロヒーローが集まっていた。

 Mt.レディは、A組の生徒達に向かって声をかける。

 

「行くよ、緑谷くんを中心に展開! 雄英高校1年A組ヒーロー科! 捜索隊合流!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、トガヒミコこと渡我被身子の実家では。

 トガは、ボロボロになった実家を訪れていた。

 家中に下品な落書きされ、まるで(ヴィラン)を生んだ渡我家を見せしめにするかのように家の塀にもトガの家族を責めるような罵倒の数々が書かれていた。

 

 

 

 ──頑張ったけど、駄目だったんです

 

 ──あの子は…悪魔の子なんです

 

 

 

 柱に書かれていたトガの成長記録も、刃物で切り付けられていた。

 

 ──やめなさい!! 

 

 ──お前のソレは…誰にも受け入れらない! 誰も好きには生きられない! 

 

 ──ヒミコちゃんの顔コワーイ! 

 

 ──我慢しなさい! 

 

 ──お前の為を思って言ってるんだ! 

 

 

 

 トガの自室には、家具の代わりに落書きや汚物が散乱していた。

 トガは、かつてその部屋のベッドに横たわりながら見た心地の良い夢を思い出した。

 

 

 

 ──小鳥さんになりたい

 

 ──チュンチュン、ピョンピョン

 

 ──カァイイの

 

 ──ケイちゃんになりたい

 

 ──ニコニコえくぼが

 

 ──素敵なの

 

 ──毎晩夢を見ているの

 

 ──赤いスズメが踊ってる

 

 ──私のお腹でタップを踏むの

 

 ──そのうちおへそをついばみだして

 

 ──私の中で踊り出す

 

 ──私もまっかにそまっていって

 

 ──とってもとっても カァイくなるの

 

 ──キモチイイ夢ヨ

 

 ──ウレシイナ

 

 

 

 トガは、自分の部屋に私物が何も残っていないのを確認すると、口元に笑みを浮かべる。

 

「全部捨てたんだね」

 

 トガは、そのまま家を出て行こうとする。

 するとその時、聴き覚えのある声が聴こえてくる。

 

「やっほー♪ ヒミコちゃん大丈夫?」

 

 見ると、袖をヒラヒラと振っている零と、家の窓枠に座り込んでいる荼毘がいた。

 荼毘は、窓枠からトガを見下ろしながら声をかける。

 

「てめェのよーなイカレ女にも、感傷に耽ける心があるとはね」

 

「ちょっとお家気になっただけです。フツーです」

 

「ハッ」

 

 荼毘が話しかけると、トガはいつもの調子で返事をし、荼毘が若干呆れたような笑みを浮かべる。

 零は、軽い足取りでトガに近寄りながら話しかける。

 

「早く戻ろ、ヒミコちゃん。僕達、ヒミコちゃんがいないとサミシィもん」

 

 零は、自分の両頬を指差しながらニコッと笑った。

 荼毘は、窓枠から飛び降りると、トガに尋ねる。

 

「覚悟は決まったか?」

 

「何のですか」

 

「仕様もねぇ世界を、終わらせる覚悟」

 

「今更です」

 

「いいね。誰が泣こうが笑おうが、明日は平等にやって来る。それなら笑おうぜ、トガヒミコ。人は、笑う為に生きている!」

 

 そう言って荼毘は、トガの実家に蒼炎を放った。

 すると蒼炎が家に燃え移り、激しく音を立てながら燃えた。

 トガは、目を見開いて燃える家を眺めていた。

 

「………見つかっちゃうよ、燈矢くん。─────…優しいんだね」

 

「今の体制に俺らを追及できる体力は無ぇ。優しいのはっ───エンデヴァーに苦労して欲しいからさ! 使えるんだよ、”変身”。心から好意を寄せた 対象に限り、その”個性”を使えるようになったてめェの”血”と、哀れな行進を続けさせてやろうぜ。マキアにさらわれる前に俺が本物から採っておいたその───トゥワイスの血がよ」

 

 荼毘が言うと、トガは微笑みながらトゥワイスの血の入ったケースを取り出す。

 荼毘は、トゥワイスの力をトガに引き継がせるため、トゥワイスがホークスに撃たれる前にどさくさに紛れて血を採取しておいたのだ。

 

「その果てに笑うのは、俺達だ」

 

 荼毘は、そう言って不気味な笑みを浮かべる。

 トガ、荼毘、零の三人は、燃える家を背に自分達の戻るべき場所へと戻っていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその頃、死柄木とスピナーはというと。

 死柄木は、洞窟の奥で呻き声を上げていた。

 

「あ゛あ゛…」

 

「死柄木」

 

「あ゛あ゛あ゛」

 

「大丈──」

 

 スピナーが声をかけようとしたその時、死柄木の膨れ上がった腕のようなものが引っ込む。

 死柄木は、地面に横たわって肩で息をしていた。

 スピナーが死柄木に歩み寄って声をかけようとしたその時、オールフォーワンが背後からスピナーに声をかける。

 

「心配いらない。弔は順調に回復している。“個性”終末論を超克しつつある」

 

「死柄木…なんだよな?」

 

「ああ、もちろん」

 

 スピナーが不安そうに尋ねると、スケプティックが答える。

 スケプティックは、不安そうな表情を浮かべるスピナーに声をかける。

 

「スピナー。犯罪の内、異形の占める割合がどれだけか、貴様も知っていよう。これまでどれ程国とヒーローが照らそうとも、光の及ばなかった闇。ヒーローと呼ばれる者共に怨恨を抱く異形は少なくない。我らが残党が動線を引いた。(ヴィラン)連合初期、貴様は姿形を衆目に晒し、只の真似事だったその装束は今や異形を導く星となりつつある」

 

「…神輿が軽すぎるよ。そんな仰々しい大義は無いんだ。俺はただ…」

 

「賽は投げられたのだ。ダツゴクはともかく、暴徒たちは貴様を待っている。リ・デストロにかわり貴様が引き金を引くのだ」

 

 スケプティックが言うと、スピナーはスケプティックの言葉を否定しようとしたが、スケプティックはスピナーにリモコンを手渡す。

 するとオールフォーワンも、スピナーを担ぎ上げる。

 

「君の一歩が、皆の勇気になるんだ」

 

「ぶっ壊してやる」

 

 オールフォーワンと死柄木を見たスピナーは、考えるのをやめた。

 ただ死柄木の為に、その思いだけを胸に、スケプティックからリモコンを受け取った。

 するとオールフォーワンは、不気味な笑みを浮かべる。

 

「そうさ伊口くん。誰もが誰かの、ヒーローになれるんだ!」

 

 その頃街の外では、異形型の暴徒達が集結していた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、ひなた達はというと。

 

「つ…疲れた…!」

 

 オールフォーワンと死柄木の捜索をしていたA組が、疲れ果てた様子で寮に戻ってきた。

 青山が倒れた日から数日間、A組はどこかに隠れて力を蓄えている二人を捜索しつつ、途中で出会した(ヴィラン)を退治し、避難を拒否した市民の安全を確保したり必要な物資を届けに行ったりしていた。

 上鳴に至っては、帰ってくるなり疲労のあまり床に倒れ込んだ。

 

「捜索範囲が広すぎるぜ…」

 

「僕の“個性”でも見つけられないなんて…!」

 

 切島とひなたも、死柄木とオールフォーワンを見つける事ができずに疲労が溜まっていく一方だった。

 フルフェイスヘルメットを被っていた飯田は、顔のヘルメットを外しながら口を開く。

 

「こうもヒーローが減ってるとは……深刻だ。速やかに就寝しよう。俺達の強みは若さだ。一挙手一投足全て力に繋がる。歯磨きは忘れずにな」

 

 飯田は、早く寝て体力を回復させるようクラス全員に言った。

 すると峰田が緑谷の近くまで歩み寄ってポツリと愚痴る。

 

「ちょっとくらい猥談する時間ほしいよな」

 

「猥談はいいや。でもそうだね」

 

 峰田が愚痴をこぼすと、緑谷はこんな状況でもエロの事で頭がいっぱいな峰田の愚痴を聞きつつ頷いた。

 緑谷は、ワンフォーオールの秘密を話してもなお今まで通りでいてくれただけでなく、自分を雄英から追い出そうと暴動を起こしかけた避難民から庇い説得してくれたクラスメイト達に感謝していた。

 クラスメイトの助けがなかったら、今頃自分は一人でヴィジランテのように悪人を裁くためだけに街を徘徊していただろうと考える。

 緑谷は、クラスメイトへの感謝を伝えたくても伝え切れなかった。

 するとその時、寮の扉が勢いよく開いてオールマイトと塚内、そして塚内の肩に乗った校長が入ってくる。

 あまりにもうるさい音を立てて入ってきた三人に、上鳴は思わず身体を跳ね上がらせて起き上がる。

 

「私が!! 毎日のように来た!!」

 

 オールマイトが大声を上げながら登場すると、耳郎は疲れ切った表情で苦笑いを浮かべながら話しかける。

 

「ちゃす、元気っすね…」

 

「逆にな!」

 

 耳郎が話しかけると、オールマイトが元気良く答えた。

 ひなた達をはじめとしたヒーロー達が少しずつ活動を再開して前を向き始めているのを見て、疲労が溜まっているひなた達とは裏腹に逆に元気を貰っていたようだ。

 オールマイトだけでなく塚内と校長まで来ていたため、砂藤と八百万は疑問を抱く。

 

「塚内さんに校長まで…?」

 

「青山さんの件でしょうか」

 

「更にその先だ。現在、限られた者にのみ概要を伝えている。第二次決戦の最終プラン。その協議を行う」

 

 二人が尋ねると、オールマイトが本題を話し始め、A組全員が注目する。

 それから数日間、ひなた達はオールマイトから聞かされたプランの成功確率を少しでも上げる為、水面下で少しずつ準備を進めていた。

 そして作戦決行日前日。

 

「「「皆さん、ありがとうございました!!!」」」

 

 ひなた達は、雄英の避難民達に頭を下げていた。

 最終決戦のプランが固まり、ひなた達は雄英を出ていく事になった。

 雄英に避難している大勢の避難民達の安全を考慮しての判断だった。

 洸汰は、前に出て緑谷に尋ねる。

 

「兄ちゃん! 雄英(ここ)を出るって本当!?」

 

「うん」

 

 洸汰が尋ねると、緑谷が頷く。

 すると壊理も、緑谷とひなたに話しかける。

 

「デクさん、クレシェンドさん。ぶじ、戻ってこれるよね?」

 

 壊理は、不安そうな表情を浮かべつつもひなた達を見送った。

 するとひなたは、壊理の目の前でしゃがみ込んで笑顔を浮かべる。

 

「大丈夫! この戦いが終わったら、絶対戻ってくるから!」

 

 ひなたは、笑顔を浮かべながら壊理を抱きしめた。

 それを見た峰田は、空気を読まずに要らん事を言おうとする。

 

「おい相澤ァそれ死亡フラg…」

 

 峰田が要らん事を言おうとすると、蛙吹が舌で峰田の頬を引っ叩いた。

 雄英を後にしたひなた達は、雄英から30km離れた地点にある仮設要塞トロイアに移動した。

 外観はハイツアライアンスに寄せており、内装も生徒達の要望を出来るだけ忠実に再現したものになっていた。

 スナイプは、移動してきた生徒達に声をかける。

 

「各自、部屋に荷物を運び準備を」

 

「ハイツアライアンスリスペクトだね」

 

「親切」

 

「終の棲家にならねーといいけど」

 

「やめィ」

 

 葉隠と耳郎は、ハイツアライアンスを再現した施設に安心感を覚えており、瀬呂が縁起でもない事を言うと砂藤がツッコミを入れる。

 他のクラスメイトが荷解きをしている中、麗日は崖の上から街を眺めていた。

 すると後ろから緑谷が声をかける。

 

「麗日さん!」

 

「おお! デクくん!」

 

「荷ほどき終わったの?」

 

「うん、ほとんど何も持ってきてない」

 

「僕も着替えだけ」

 

 緑谷は、ふと麗日が何をしていたのか気になり尋ねた。

 

「外で何してたの」

 

「んー、街見てた。私さ、変なんだよね」

 

「変じゃないよ。強いし勇敢だし髪型も似合ってるしとても優しいし素「いや違くて、思わぬ…」

 

 緑谷が咄嗟に麗日を褒めちぎると、麗日がツッコミを入れる。

 麗日は、自分の思いを緑谷に伝えた。

 

「私ね、ギガントマキアの進行中にトガヒミコと一対一になって、私は自分が”当たり前”だと思う事を言葉にして返したんだ。とても悲しそうな顔をしてた。街をこんなにして、沢山の命と幸せを奪った(ヴィラン)だよ。もう許す許さないの次元じゃない。わかってる…けれど、私はあの“人”の“当たり前”を知らない。トガヒミコの事何も知らないって…考えてしまう。だから街を見てた。悍ましい光景を忘れないように、余計な事は考えないように」

 

 麗日は、トガの事で自分なりに考えた事を話した。

 すると緑谷も口を開く。

 

「僕も───なんだ…」

 

「へ?」

 

「僕も、死柄木の中に小さな少年が泣いてるのを見た。戦いは避けられなくても、その奥にあるものを無視はしたくない」

 

「じゃあ…2人とも変だね」

 

 緑谷が言うと、麗日は笑顔を浮かべる。

 その頃轟は、飯田と話をしていた。

 

「気ィ遣わせちまってわりィ。大丈夫だ」

 

「俺も兄がいるからな」

 

「お前んとこと比べられると堪んねぇよ。俺は燈矢兄の好きなモンも知らねぇ」

 

 轟が飯田に気を遣わせてしまった事を申し訳なく思うと、飯田は自分の兄の事に触れる。

 5歳の時に長兄を失い、家族との繋がりを絶たれてきた轟は、兄の事を何も知らなかった。

 すると爆豪が口を挟む。

 

「ぜってーうどんだな。煮えたぎったやつ」

 

「ハッ…だったら、一緒に食ってやるさ」

 

 爆豪が言うと、轟が笑った。

 その頃、ひなたはというと。

 ひなたがぼんやりと丘の上から空を見上げていると、心操が声をかける。

 

「ひなた、何してんだ?」

 

「んー…いや、ちょっとね。考え事してた。ひー君何持ってきた?」

 

「服だけだよ。ジジは母さん達に預けたし」

 

「僕もね、着替え持ってきただけ」

 

 心操が声をかけると、ひなたはぼんやりと空を見上げながら口を開く。

 ひなたは、風に靡く髪を耳にかけながら、ポツリとつぶやいた。

 

「僕、(ヴィラン)も救けたい」

 

 ひなたが呟くと、心操はひなたの方を見る。

 ひなたは、空を見上げながらポツポツと自分の話をし始めた。

 

「施設を脱走した後の事なんだけどね、運悪く(ヴィラン)に襲われてさ。叫んで抵抗しようとしたんだけど、パニックになって“個性”が出ちゃって……気がついたら、目の前にぐちゃぐちゃになった肉塊が散らばってた。頭が真っ白になって、どうする事もできなかった。そしたら、ヒーローが来て、僕を攻撃してきたの。僕はどうしたらいいかわかんなくて、ひたすら逃げた。逃げて、逃げて、もう逃げる場所がなくなって、結局施設に逆戻り。困ってる人を助けてくれるヒーローなんて、どこにもいなかった」

 

 ひなたは、かつて脱走を図った時に外の世界で経験した事を心操に話した。

 ひなたは、自分に施される改造手術の内容に勘づいて施設から脱走した後、しばらく安心して眠れる場所を探し求めて街を彷徨っていたのだが、運悪く(ヴィラン)に捕まって襲われてしまったのだ。

 本能で危険を感じ取ったひなたは、必死で叫んで抵抗したのだが、それが凶と出てしまった。

 それまで施設内の制御装置で“個性”を押さえ込んでいたひなたは、施設の外ではうまく“個性”を制御できず、“個性”を暴走させて(ヴィラン)を殺してしまったのだ。

 そしてさらに不運な事に、ひなたが(ヴィラン)を殺す決定的瞬間をヒーローに目撃されてしまい、凶悪(ヴィラン)と見做されて追い回される羽目になった。

 実害が出ている以上、たとえ悪気のない“個性”事故でも、ヒーローに捕らえられて刑事施設に収容されてしまうのが当時の社会の規則だった。

 

「…わかってる。僕みたいな凶悪な“個性”を持った人を放置しておいたら社会の秩序が乱れるから、排除しようとするのは“正しい事”なんだって。社会にとって僕は人を殺した(ヴィラン)で、ヒーローに倒される側だった。あのヒーロー達は、“正しい事”をしただけなんだって。だけど僕は、あの時、痛くて、怖くて、目に映るもの全部が涙で歪んで見えた。歪んだ世界に明確な殺意を抱いた自分が確かにいたんだ。あの時の気持ちを、無かった事にはしたくない」

 

 ひなたは、心操に自分の思いを打ち明けた。

 自分を殺そうとしたヒーローに、自分を排除しようとした世界に明確な殺意を抱いたひなたは、もし自分を引き留めてくれるヒーローに出逢えなかったら、あのまま殺意に飲まれてしまっていたら、今頃自分は迷う事なく(ヴィラン)として世界を壊す道を選んでいただろうと考えていた。

 (ヴィラン)に堕ちる一歩手前だったひなただったからこそ言える、説得力のある言葉だった。

 

「僕は、自分の為に生きるって決めた。戦いには絶対勝つし、街の人達は何が何でも救ける。だけどこれ以上、あの時泣いていた子供(じぶん)を殺してたまるか。もしどこかに涙で世界が歪んで見えている人がいたとしたら、いつ何処へ何度でも駆けつけて、救けたい。そんなヒーローになって、心の底から笑っていたい。僕はただ、当たり前に、わがままに、生きたいように生きていくの」

 

 ひなたは、両手を広げながら、胸を張って言った。

 涙で世界が歪んで見えている誰かと、心の底から笑い合えるヒーロー。

 それがひなたのなりたいヒーローの在り方だった。

 心操がひなたの話を聞いていると、ひなたは昔の事を思い出しながら話を続ける。

 

「…昔ね、クラスの子にいじめられたの。先生にも怒られたの。『異常だ』って。“普通”の“正しい事”してる人達にそうやって怒られてきたのが僕。大勢の人の命を奪った(ヴィラン)を、この期に及んで救けたいって思ってるのが僕。僕って、皆が思ってるよりずっと悪い子でしょ?」

 

 ひなたは、心操の方を向いてニッと笑いながら言った。

 (ヴィラン)とも仲良くなりたいと願うひなたの価値観は、ヒーローが職業になった事で勧善懲悪が当たり前となった世間からは、到底受け入れられるものではなかった。

 小学生の時、(ヴィラン)扱いされてクラスメイトにいじめられ、担任教師や“個性”カウンセリングの担当教員に頭ごなしに否定され、価値観を矯正された事もあった。

 すると心操は、ひなたに向かって笑いかける。

 

「異常でも悪い子でもいいよ」

 

 心操が言うと、ひなたは僅かに目を見開いて振り向く。

 

「お前はさ、誰よりも自分勝手で、大馬鹿で、狂ってるよ。でも俺は、そんなお前だから好きになったんだ」

 

「じゃあ、変わり者はお互い様だね」

 

 ひなたが笑顔を浮かべながら言うと、心操も微笑んだ。

 ひなたと心操が互いに向ける愛情は、どこか歪んでいた。

 だがひなたにとっては、その歪んだ愛情が、何よりも心地良かった。

 ひなたが頬を赤らめつつ見上げると、心操が口を開く。

 

「絶対、勝とうな」

 

 その頃、緑谷と麗日は、街を眺めながら決意を固めていた。

 

「必ず止めよう」

 

 その頃、雄英の寮では。

 影山は、栄養ドリンクの缶にストローを刺して飲み干しながらデスクトップ型のパソコンを操作していた。

 するとその時、普通科のクラスメイトが声をかける。

 

「影山ァそろそろ」

 

「はーい」

 

 普通科のクラスメイトが声をかけると、影山は間延びした返事をした。

 4月上旬、作戦決行当日。

 

「行こうか」

 

 オールフォーワンは、不気味な笑みを浮かべながら言った。

 

 

 

 

 

 

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