抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

139 / 153
筆が乗ったから連日投稿だぜイェイイェイ


The beginning

「やあ、元気にしているかい?」

 

『ええ、変わりなく! そちらも変わりありませんか、社長!』

 

 オールフォーワンは、雄英内に侵入させた内通者達と連絡を取り合っていた。

 オールフォーワンに嘘は通用しない。

 昔奪った男の“個性”を掛け合わせる事によって嘘を見抜く事ができ、オールフォーワンはこの時の為に蒔いた種がついに実を結んだと喜んでいた。

 内通者とは取引相手という体で馬鹿げたやり取りをしつつ、その中に仕込まれた暗号から本当の情報を聞き出していた。

 

(傍受対策に間抜けなやり取りをしてきたが、それも今日で最後だ)

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、緑谷は何者かに呼び出されてトロイアを離れていた。

 緑谷が自分を呼び出した人物の方を向くと、かつてオールフォーワンに緑谷とひなたを呼び出すよう言われ襲ってきた内通者が立っていた。

 緑谷は、内通者に歩み寄って話しかける。

 

「皆さん、来てくださったんですね」

 

「…ああ、君にはまだちゃんと謝れていなかったからね」

 

 緑谷が声をかけると、内通者の一人が気まずそうに口を開く。

 二人に奇襲を仕掛けた内通者は、雄英の地下に閉じ込められた後警察に引き渡され事情聴取を受けていたはずだったが、オールフォーワンに脅されたという事以外裏切りに繋がるものは出てこなかったため釈放されたのだ。

 内通者は、青ざめてブルブルと震え冷や汗をかきながらさらに続ける。

 

「…あの人は悪魔さ。日本が壊滅的な状況に陥った今、その影響が世界各地に広がりつつある。株価の大暴落、日本の企業の倒産、それに伴った(ヴィラン)活性化…これがここ数日で各国で起こった出来事だよ。世界大恐慌や超常発現に似た流れが訪れてるんだ。そんな状況の中、誰かが手を差し伸べてきたらどうなると思う? それがたとえ悪魔だろうと、差し伸べられた側からすりゃあキリストにでも菩薩にでも見えるだろうさ。メディアが報じないだけで、既にもうオールフォーワンに傾倒している国も少なくない。超常黎明期、あの人はそうやって混沌と化した社会を牛耳ったんだ」

 

「あの…何の話をして…」

 

「恐ろしいんだよ…! そんな奴に手綱を握られてる今、この現状が!! だから…!!」

 

 緑谷がいまいち状況を理解できずにいると、内通者の男はブルブルと震えながら自身の懐に手を突っ込む。

 そしてそのまま懐から銃を取り出すと、銃口を緑谷に向けた。

 

「え」

 

「すまない…!! 私は、どうしても家族を守りたいんだ!!」

 

 緑谷が目を見開く中、男は泣きながら謝罪の言葉を口にした。

 他の内通者も、緑谷の逃げ場を塞ぐ形で立ちはだかると銃を抜いて緑谷に突きつけた。

 するとその時、内通者の男の背後からオールフォーワンが現れる。

 

「よくやった! 素晴らしい決断だよ」

 

 オールフォーワンは、大袈裟に拍手をしながら一歩ずつ歩み寄った。

 

「君達は、家族を守る為にヒーローを売った。ヒーローが守るべき民間人に裏切られるなんて、これを皮肉と呼ばず何と呼ぶんだろうね。おめでとう! これで君達の家族は晴れて自由の身だ」

 

 オールフォーワンは、笑いながら内通者達に告げた。

 すると内通者の一人が、緑谷に銃を向けながら指示を出す。

 

「両手を上に挙げるんだ、緑谷くん! 頼む、言う通りにしてくれ!」

 

 内通者の一人が訴えかけるように言うと、緑谷は動揺した表情を浮かべつつも指示通りに両手を上に挙げた。

 家族の安全を保証する代わりに裏切るよう言われていた事を知らされた緑谷は、信じられないものを見る目を内通者に向けた。

 

「そんな…! どうして…!!」

 

「すまない…!! あんたらを裏切るしか道はなかったんだ…!!」

 

 緑谷が疑問を投げかけると、内通者は泣きながら答えた。

 

 

 

「………なあ、()()!!」

 

「!」

 

 その瞬間、内通者達は一斉に銃口をオールフォーワンに向けると、一斉に発砲した。

 オールフォーワンは、咄嗟にバリアのようなものを出して銃弾を防いだ。

 内通者達が撃ったのは、公安が製造した“個性”抹消弾の改良版だった。

 

「危険な立ち回りさせてすみません、皆さん! でも危ない橋を渡るのはここまでです!」

 

 緑谷は、オールフォーワンを撃った内通者達を庇う形で立ちはだかりながら言った。

 すると内通者達は、緊張の糸が切れたのか一斉にどっと泣き出した。

 

「見たかオラあああああ!! やった、やったぞ!! ざまあみろオールフォーワン!!」

 

「お父ちゃあああん!! うち、うち…! うわあああああん!!」

 

「生きてる…生きてる!! おれ、生きてるよな!?」

 

「ごわがっだあああ!! 母ちゃんおで真面目に働くよ!!」

 

 内通者達は、自分がかの巨悪目掛けて発砲したという事実に慄いて泣き喚き、中には腰を抜かして失禁している者もいた。

 オールフォーワンは、何故内通者達の裏切りが感知できなかったのかと頭の中で疑問を巡らせる。

 だが、それよりも今はワンフォーオールを手に入れる事が先だと頭を切り替える。

 

「まあいい。使い捨ての駒がそっちに転んだところで、状況は何一つ変わりはしないさ。君一人で足手纏い5人を抱えてどうするつもりかな、緑谷出久くん」

 

 オールフォーワンは、笑いながら緑谷を煽った。

 緑谷は、オールフォーワンを睨みつつも腰のポーチに手を伸ばそうとする。

 だがそれを見透かしてか、オールフォーワンがさらに続ける。

 

「応援は呼ばせないよ。ああ、それとも…後ろの役立たずが悲鳴を上げれば、残りのヒーローが来てくれるのかな」

 

「ひぃ!!」

 

「残念、もう手遅れだ」

 

 オールフォーワンが緑谷の方へ手を伸ばすと、内通者達は悲鳴を上げた。

 オールフォーワンは、一歩ずつ、確実に緑谷へ接近する。

 オールフォーワンが自身の間合いまで近付いた、その瞬間だった。

 

 

 

「今だ!!!」

 

「!?」

 

 緑谷は、叫び声を上げると同時に『黒鞭』で内通者を抱えて大きく飛び退く。

 するとその瞬間、突然オールフォーワンの足元からぐにゅっと何かを踏み潰す音が聴こえた。

 オールフォーワンの足元には、いつの間にか峰田のもぎもぎボールや瀬呂テープが張り巡らされていた。

 さらに次の瞬間、機関銃や散弾銃の弾丸、大量の矢、トゲ付きの砲丸、火炎弾、強酸弾などの殺傷能力の高い飛び道具が雨のようにオールフォーワンに降り注ぐ。

 オールフォーワンは、普段の自分なら簡単に見破れたはずの大量の罠が突然出現した事に疑問を抱いていた。

 

(馬鹿な…罠なんかどこにも設置されていなかった。一体どうやって…?)

 

 オールフォーワンは、“個性”を使って罠を防ぎつつも、誰がどこからどうやって罠を出したのか“個性”を使って探そうとした。

 だがその時、突然何もないところから黒い渦が現れ、中からヒーローが大勢出てくる。

 それはオールフォーワンの手下だった黒霧の“個性”だった。

 

「だから、ここまで近付けた!! 手遅れじゃないか!!」

 

 まんまとヒーローの接近を許したオールフォーワンに、緑谷が告げる。

 ヒーローが到着したのと入れ替わりで、内通者達が黒霧のワープゲートの中に引っ込んでいった。

 そしてその頃影山は、サイバー犯罪捜査官と行動を共にしていた。

 

「ウフフ、ウフフ、ドンピシャ♪ イヒヒヒヒ♫」

 

 影山は、不気味な笑みを浮かべながら罠の発射装置を操作していた。

 オールフォーワンを罠に嵌めた緑谷は、『浮遊』で浮き上がって構えながらオールフォーワンを睨む。

 

「オールフォーワン、今度こそここでお前を倒す!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 数日前。

 ヒーロー達は、オールフォーワンの捜索に難航していた。

 だがそれは、今回の作戦を考えた相澤の想定の範囲内だった。

 捜索隊が必死にオールフォーワンを探している姿を見せる事で『焦燥』と『疲弊』を前面に出し、オールフォーワンを気持ち良くさせた上で誘き寄せ、満を持して総攻撃を仕掛けるという作戦だった。

 実力が未知数のオールフォーワンに対し、確実に罠に嵌める為に出来れば身動きを封じたいところだったが、普通に罠を張るのでは罠が発動する前にオールフォーワンにバレて長距離戦に持ち込まれるのは目に見えていた。

 そこで活きてくるのが、ひなたと緑谷が考えた作戦だった。

 

「あのね、デッくんとも話し合った事なんだけど…やっぱり幽華ちゃんにも協力してもらう事ってできないかな」

 

 相澤から作戦を聞かされたひなたは、相澤に相談していた。

 二人の作戦はこうだった。

 作戦決行日までに大量の武器や罠を用意しておいてそれを影山の“個性”で隠し、緑谷がオールフォーワンを目標ポイントに最大限引き付けたところで一斉に罠を発動し、罠で弾幕を張っている間にヒーロー達が現れ総攻撃を仕掛けるというものだった。

 

「騎馬戦であの子と組んだデッくんが言ってたの。多分、あの子の力が必要になるんじゃないかって。僕もそう思う。あの子の“個性”なら、オールフォーワンに一泡吹かせる事だって不可能じゃない。だからさ、今からでも公安に申請して“個性”許可証を発行してもらう事ってできないかな」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、相澤は、影山に作戦への参加の承諾を得るべく影山を呼び出した。

 

「1年C組影山幽華」

 

「はい?」

 

 相澤が声をかけると、影山は椅子に座りながら返事をする。

 すると相澤は、早速本題に入った。

 

「お前が『シエスタ』だな」

 

「何の事でしょう? 生憎私、未成年なのでアダルトゲームは詳しくないんです」

 

 相澤が尋ねると、影山はもはや狙っているとしか思えないとぼけ方をする。

 すると相澤は、タブレットの液晶画面を影山に見せる。

 

「お前の両親から預かった私物の中に、過去の犯行を記録したデバイスが隠してあった。狡猾で用意周到。その一方で、リスクをリスクと思わない勝負師気質。そして自分の犯行が注目されたくて仕方ない自己顕示欲の塊。警察が奴の性格をプロファイリングした結果だ」

 

 相澤は、タブレットの画面を見せながら影山を問い詰める。

『サイバーヒーロー』と呼ばれ世界中のホワイトハッカーから崇拝されていた天才ハッカー『シエスタ』の正体は、影山だった。

 影山は、これ以上シラを切るのは時間の無駄だと判断し、素直に認める事にした。

 

「…あーあ、それを見せられちゃ認めるしかないですね。でももう捨てた名です。それで、だったら何だというんです?」

 

「単刀直入に言う。二次決戦の初動でお前の能力を借りたい。協力してくれ」

 

 相澤は、今考えている作戦に影山の力が必要である事を影山に伝えた。

 すると影山は、顎に手を当てながらうんうんと頷く。

 

「ふむふむ、なるほど。つまり、私のハッキング技術と隠密向きの“個性”が欲しいと」

 

 影山は、相澤から作戦の参加を依頼されると、ニコッと微笑む。

 そして、親指で自分の首を切る仕草をした。

 

「答えはノーです。他を当たって下さい♪」

 

「な…!!」

 

「まあ、理由くらいはお教えしますよ。ざっくりシンプルに噛み砕いて一言で言うと、『知るかよw』、です」

 

 相澤以外の教師陣が口をあんぐりと開けて呆然とする中、影山は貼り付けたような笑みを浮かべながら自分の考えを伝える。

 

「どうして私を無視した人達の為に戦わなければならないのでしょうか? IQの低いガヤがいくら死のうと興味ないです。あはっ☆」

 

『こいつ…!』

 

「そもそもの話ですよ。こうなったのはあなた方ヒーローの失敗が原因ですよね。それを、無関係の人間に尻拭いしろって言ってるんですよあなた方。私はそんな重苦しいものを背負うのは絶対嫌なので、余生は悠々自適に終末を満喫しますね」

 

 影山は、淡々と自分のスタンスを伝えた。

 ヒーロー科でもない自分が、かつて自分を蔑ろにした者達の為に力を使うなんて馬鹿げている。

 そんな無益な事をするくらいなら世界の破滅に巻き込まれた方がマシだ、それが彼女の言い分だった。

 ヘラヘラ笑いながら重箱の隅を突いて雄英生らしからぬ利己的な理屈を捏ねる影山に対し、山田は苛立ちのあまり目元と口元をひくつかせる。

 だが相澤は、一切焦りや苛立ちを表情に出さずに口を開く。

 

「…わかってる。だから来たんだ」

 

 そう言って相澤は、影山に頭を下げた。

 その気になれば、ひなたを餌にして釣る事も、脅して無理矢理協力させる事もできた。

 だが、相澤にはわかっていた。

 自分達は今、ヒーローとして試されているのだと。

 

「先日の戦いで、ただそこに暮らしていた人達が血を流した。俺達が失敗したからだ。だからこそ、これ以上血を流させるわけにはいかないんだ。恥知らずは百も承知だ。頼む、不甲斐ない俺達を助けてくれ。誰かの為に戦うのが難しいなら、自分の為に戦え。お前の力を世に示す為に、俺達を利用するんだ」

 

 相澤は、教師と生徒という立場も忘れて誠心誠意影山に頼み込んだ。

 この場での唯一の正解、それは自分達の非を認め、誠意を示す事だった。

 それを見た影山は、クスクスと笑いながら口を開く。

 

「…ちょっと意外。簡単に頭下げちゃうんですね。私、ヒーローってもっと気高い存在だと思ってました。まあ、社会から信用を失った時点であなた方をヒーローと呼べるかは怪しいところですけどね」

 

「だから、失ったものを取り戻す為に戦うんだ」

 

「失ったものを取り戻す? あの戦いで亡くなった方は戻ってきませんよ」

 

「これ以上犠牲を出さない為に、今いる(ヴィラン)を全員確保する。助けを求めている人を全員助け出す。今いる遺族には、傷が癒えるまで何度でも謝るよ」

 

「助けを求めてる人をヒーローが助けるのは当然の事です。そんな事聞きたいわけじゃありません。あなた方ヒーローは、声が大きい人は助けるけれど、声も出せずに一人で抱え込んで耐えてる人には見向きもしない。世の中には、どんなに苦しくても、助けを呼ぶ声も、差し伸べられた手を掴む手も無い人が大勢いるんですよ」

 

「だったらこの手で掴めるまで、何度でも手を伸ばすさ」

 

「手を振り払われたとしても? 『余計なお世話だ』って拒否られて、唾を吐きかけられても、手を伸ばすんですか?」

 

「そうだ」

 

 自分達を嘲笑うかのように薄ら笑いを浮かべながら腹の内を探ってくる影山に対し、相澤は一切取り繕わずに答えた。

 すると、先程までヘラヘラ笑っていた影山の顔から貼り付けたような笑みが消え、影山は真剣な表情で言った。

 

「その答えが聞きたかった」

 

 そう言うと影山は、椅子から立ち上がって相澤に尋ねる。

 

「作戦は?」

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

「元々断るなんて選択肢はありません。…これでも、一度はヒーローに憧れた身ですから」

 

「……試したな」

 

「すみませんね。本当にヒーローというものが()()()()()に値するかどうか、どうしても確かめておきたかったんです。()()には手を貸しませんから、1%でも勝てる確率上げられるよう煮詰めていきましょう」

 

「ああ」

 

 影山が髪を後ろで束ねながら言うと、相澤が頷く。

 その後相澤は、公安に影山の“個性”の使用許可を申請した。

 後日、無事公安から良い返事を受けた相澤は、新たに発行された“個性”使用許可証を持って雄英に戻ってきた。

 相澤は、作戦の準備をしている影山に“個性”使用許可証を渡しながら声をかけた。

 

「影山。公安から“個性”の使用許可が下りた。急拵えだが大目に見てくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 影山は、ふぅと一息つくと“個性”使用許可証を受け取った。

 

「ハッキングは独学か?」

 

「…最初は、ヒーローへの憧れでした。でも誰にも気付いてもらえない私はプロヒーローになれないので、別の方法でヒーローになる事にしたんです。それで、独学でハッキング技術を身につけました。コンピューターの中にまでは私の“個性”は及びませんから。中学に上がった頃、ちょっとした正義感とスリル欲しさに悪徳企業にハッキングを仕掛けて成敗してみたんです。そしたらどうでしょう。不特定多数の人達が、私をこぞってヒーローだの神様だのと讃えたんです」

 

「…………」

 

「おかしな話ですよね。生身の時は見向きもされない人間が、仮想空間でヒーローごっこをやった途端に英雄になれるなんて。当時の私は、それでも認めてもらえたのが嬉しくて、次々と悪党にハッキングを仕掛けてたんです」

 

 影山は、薄ら笑いを浮かべながら自分の過去を打ち明けた。

 犯行動機を一切明かさず、誰とも手を組まずに孤高の存在として崇拝されていたシエスタだが、そこに大層な信念や大義は無く、ただただ誰かに“見て”もらいたい、たったそれだけの事だった。

 彼女の才能に嫉妬して『注目されたいだけの愉快犯』と非難する声もあったが、奇しくもそういった非難をする人間の指摘の方が的を射ていたのだ。

 

「でも、ある時気付いちゃったんです。皆が讃えているのは私じゃない。仮想空間にいる顔も名前も知らない『誰か』なんだって。それに気付いた途端、何だか虚しくなっちゃって。そんな時、オールマイトの映像を見て、やっぱり本物のヒーローになりたいっていう気持ちが芽生えたんです。それで、今までやってた悪人の成敗に終止符を打って、雄英に入る事にしました。だけど、やっぱり私は誰にも気付いてもらえなくて、もう何もかも嫌になっちゃって。一度は(ヴィラン)に堕ちる事も考えました。結局、何もかもが中途半端。私って、しょうもない人間なんですよ」

 

 影山は、自分のしてきた事を自虐的に語った。

 悪人の成敗が目的とはいえ、違法な手段に訴えたのだからこの件が終わったら逮捕されるのは当然だと考えていた。

 だが相澤が口にしたのは、非難ではなく提案だった。

 

「お前、行く宛が無いなら公安に行ったらどうだ」

 

「え?」

 

「あそこには、経歴不問の部署がある。何より、あの手のすぐ腐敗しやすい組織にはお前のような優秀で正義感のある若者が必要なはずだ。現にお前、悪人以外には手を出してないだろ?」

 

「………」

 

「誰かに認めてほしいというなら、その力を人の為に活かせ。今度はちゃんと法に許された上で正規の活躍をしろ」

 

 相澤は、影山の肩に手を置いて言った。

 影山は、頬を掻きながら自分の進路について今一度考え直していた。

 

「…公安か。考えた事もなかったな。まあ別に他に行きたいとこも無いけど」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして、相澤の考えた作戦の鍵となる人物は他にもいた。

 ひなたは、心操と作戦の準備を進めている相澤に声をかける。

 

「おと…あ、じゃなかった。先生! ひー君の“個性”が必要っていうのは?」

 

 ひなたが尋ねると、相澤が心操を指す。

 すると心操が代わりに作戦を話した。

 

「俺が内通者の人達を強制的に喋らせる役をやるんだよ。俺に操られてる間は、その人の意思が介入しないからな」

 

 心操は、ひなたに今回の作戦を話した。

 相澤の考えはこうだった。

 内通者とオールフォーワンは今まで音声通話で連絡を取っており、オールフォーワンは音声通話を介して嘘を見破るシステムを持っているはずなので、心操が内通者を操って喋らせれば内通者の意思が介入せず裏切りも露見しないという作戦だった。

 だがひなたは、作戦を聞いてもまだ不安が拭いきれない様子だった。

 

「でも、内通者の人達大丈夫かな。こんな事言うのも何だけどさ、土壇場で怖気付いて裏切ったり…しないかな? それに、市民の方々の中にもオールフォーワン派の人が混じってるって聞くし…たまたま見つかったのがあの5人ってだけで、裏切りを画策してる人はいるんじゃ…」

 

「それなら心配要らない。俺の“個性”の特性が関係してるんだ」

 

 そう言って心操が手招きすると、何者かがドアからヌゥッと顔を出す。

 その顔を見たA組は、ギョッとしていた。

 そこにいたのは、かつて心操が“個性”で仲間にしたハイエンド、おはぎだった。

 

「は、ハイエンド!? 何でここに!?」

 

 A組は、ハイエンドが平然と自分達の前にいるという事実に驚きを隠せなかった。

 だが次の瞬間、ひなたは嬉し泣きしながらおはぎに抱きついた。

 

「おはぎ───!! あんた生きてたの!? あの時は助けられなくてごめんねぇ!!」

 

「「「え゛!?」」」

 

「『崩壊』に触れる前に身体を切り離したからギリギリ助かったんだと。『超再生』があるから傷の治りも早かったそうだ」

 

「「「は!!?」」」

 

 ひなたと心操が平然とハイエンドを交えて話していると、A組が口をあんぐりと開けて二人とおはぎを交互に見る。

 緑谷は、わなわなと震えつつおはぎを指差しながら心操に尋ねる。

 

「心操くん…これ、どういう事…?」

 

「俺の“個性”の第二段階だ。どうやら、病院で戦った時に“個性”が深化したみたいでさ。本人ですら知らないような無意識の領域にまで踏み込む事ができるようになったんだ。俺は、この“個性”で生前のこいつの抱えていた『痛み』に、自分を肉人形にしたオールフォーワンやドクターへの『憎悪』に『触れた』。普段から人の精神に触れてきたからか、そういう事もできるようになったみたいだ」

 

「す、すげえ…」

 

 心操がおはぎを従えながら言うと、クラスメイト達は目を丸くする。

 心操は、おはぎが覚えているはずのない、自分の素材となった人間が感じた痛みや、自分を殺したオールフォーワンや殻木に対する憎悪を『洗脳』によって呼び起こさせ、オールフォーワンや殻木に対する敵対心を植え付けたのだ。

 だが心操の“個性”の真価は、それだけに留まらなかった。

 

「本題はここからだ。無意識下にまで洗脳の効果を及ぼすって事は、俺に操られた奴は、自分が操られている事に気付く事すらできないって事だ」

 

「!?」

 

「俺が()()()()()()()()、相手の脳が勝手に記憶を補完して、自分の意思で行動したと思い込む。衝撃を与えても『洗脳』の影響は残り続けるし、『洗脳』は俺が何もしなくても勝手に伝播する」

 

 以前心操は、ひなたにこう話した事があった。

『自覚できない洗脳が一番怖い』と。

 心操は、相手の潜在意識さえも自分の支配下に置き、自分で気付く事ができない洗脳をかける事に成功していた。

 さらに恐ろしいのは、この“個性”は人に伝播するという点だ。

 洗脳された者が別の誰かに問いかけを行い、相手が答えた時点で、心操が直接何もしなくても『洗脳』が成立する。

 そうやって洗脳されている人間が無自覚で他人に洗脳を伝染させていき、心操の洗脳にかかった人間を無限に増やしていくというわけだ。

 

「もちろん、抵抗力が強い奴にはこの方法だと洗脳をかける事はできない。でも少なくとも、オールフォーワン派だった人達は、一旦俺の“個性”が伝播したら途端に寝返ってくれた。もうオールフォーワンに従おうなんて考える奴はいないよ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、物間は黒霧の収監されている独房に連れて来られた。

 相澤とブラドキングは、物間に話しかける。

 

「オールマイト達からの要請だ」

 

「最も肝心な役だぜ。いけるか? 物間(ファントムシ―フ)

 

「…数日でこの人の”個性”をコピーで使いこなせるように…って、冗談言ってます?」

 

 相澤とブラドキングが言うと、物間が苦笑いを浮かべる。

 

「悪いな。俺の声は届かなかった。次の戦い、お前が頼りだ物間」

 

「ハハッ、僕が…ねえ。昔からよく言われましたよ。『その”個性”じゃスーパーヒーローになれない』って。脇役の”個性”だって」

 

 相澤が物間に頼むと、物間は自虐気味に語った。

 するとブラドキングが物間の肩に手を置いて言った。

 

「物間。この作戦は、誰が欠けても成り立たない。脇役なんていない。これまでもこれからも、お前が主役だ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

「ハーッハッハハハハハ!! フィクサァアアアアアア!!!」

 

 物間は、高笑いしながらワープゲートを展開した。

 するとワープゲートの中から大勢のヒーローが出てきた。

 その頃影山は、相澤に言われた言葉を思い出していた。

 

 

 

 ──俺達ヒーローは、その場にいる人しか救えない。だがお前は、顔も名前も知らない、どこにいるかもわからない大勢の人を救ったんだ。だから───…世界一のヒーローはお前だ

 

 

 

「キタキタキタキタキタキタァアアアアア!!!」

 

 監視カメラで状況を把握していた影山は、興奮のあまりキャラ崩壊して思いっきりガッツポーズをしていた。

 だがその頃、ヒーロー達が集結していた駐車場では。

 オールフォーワンは、泥のワープで解放戦線の者達を召喚していた。

 するとオールマイトが叫ぶ。

 

「予想通りだ! 大軍を率いて来た!」

 

「各班動け!!」

 

「奴はワンフォーオールさえ奪えば逃げ隠れする必要もなくなる!! ここで終わらせ ここから始めるつもりだ!」

 

 オールマイトと塚内が叫ぶ一方で、死柄木は次の行動に出ようとしていた。

 

「荼毘」

 

「指図するなよリーダー。ここで会えるとは思ってなかったぜお父さん、まずはお仲間の葬式かぁ!?」

 

 死柄木が荼毘を呼ぶと、荼毘は大規模の蒼炎を放つ。

 だが荼毘の蒼炎は、同じくらいの大規模の氷塊によって相殺された。

 

「ハハァ…!!」

 

 荼毘は、ワープゲートから飛び出してきた人物を見て口角を吊り上げる。

 ワープゲートからは、白い炎と赤い炎を纏った轟が出てきた。

 

「させやしねぇよ、馬鹿兄貴!!」

 

「焦凍ォオ!!」

 

 轟が叫ぶと、荼毘は感極まって笑顔で叫んだ。

 一方で零は、ワープゲートから出てきたヒーローをまとめて操ろうと目を見開く。

 

「わざわざ操られにご苦労なこった!」

 

 零は、“個性”を発動させて右眼と左眼を同時に光らせた。

 だが、その瞬間だった。

 

『ROCK ON!!!!』

 

 ひなたが叫ぶと、(ヴィラン)達の“個性”が破壊されて身体がビリビリと痺れる。

 何人かの(ヴィラン)は、そのまま鼓膜が破裂して意識を刈り取られた。

 だが、こうなる事は想定内と言わんばかりに幹部達が懐から何かを取り出そうとした、その瞬間だった。

 

『システム“誘導牢(トロイア)”ON!!』

 

 オールマイトがインカムを通して叫んだ瞬間、地面から檻が現れ展開していく。

 (ヴィラン)達は、瞬く間に檻に閉じ込められて身動きが取れなくなった。

 物間は、(ヴィラン)達を閉じ込めた檻の後ろにワープゲートを展開する。

 するとオールマイトは、ワープしてきたヒーロー達に向かって叫んだ。

 

「皆今だ!! 押し込め!!!」

 

 

 

 

 




心操くんの“個性”の覚醒の詳細が明らかになりました。
原作読んでる時、これ『洗脳』っていうか『操作』じゃね?ってなったので、本当の意味で洗脳できる“個性”に進化させてみました。
心操くん強化の二次創作で、自分を操れるようになったりだとか、何故か人の“個性”借りられるようになったりだとか、そういう覚醒は二次で見た事あるんですが、この手のタイプの覚醒の仕方は逆に珍しいんじゃないかなと思ってみたり。
トランペットの完全上位互換“個性”に成長してて草。
ちなみに覚醒後の“個性”も心操の意思で解除可能です。
解除後も洗脳されてた時の記憶は残るので、洗脳前の状態に戻る人もいればそのまま心操の味方を続ける人もいます。
にしても自我を保ったまま洗脳されるとか敵からしたら嫌すぎる…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。