抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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評価上がっとる…!!
感謝感激雨霰
面白いと思っていただけましたら高評価(8・9・10あたり)、感想、お気に入りなどなどよろしくお願いします。


体育祭編
うなれ体育祭


 USJ襲撃の翌日、雄英の会議室では塚内が教師陣に調査結果を報告していた。

 

「死柄木という名前……触れたモノを粉々にする“個性”…………20〜30代の個性登録を洗ってみましたが、該当なしです。『ワープゲート』の方、黒霧という者も同様です。無戸籍且つ偽名ですね……個性届を提出していないいわゆる裏の人間」

 

 塚内が報告すると、スナイプが口を開く。

 

「何もわかってねえって事だな…早くしねえと、死柄木という主犯の銃創が治ったら面倒だぞ」

 

 するとオールマイトが、何か心当たりがあるかのように呟く。

 

「主犯か…」

 

「何だいオールマイト?」

 

 オールマイトの言葉に校長が反応すると、オールマイトが話し始める。

 

「思いついても普通行動に移そうとは思わぬ大胆な襲撃。用意は周到にされていたにも拘わらず! 突然それっぽい暴論をまくしたてたり、自身の“個性”は明かさないわりに脳無とやらの“個性”を自慢気に話したり…そして思い通りに事が運ばないと露骨に気分が悪くなる! まァ…“個性”の件は私の行動を誘導する意味もあったろうが…」

 

「それにしたって対ヒーロー戦で『個性不明』というアドバンテージを放棄するのは愚かだね」

 

 オールマイトの発言に対し校長も同調すると、オールマイトは『死柄木弔』という(ヴィラン)を分析する。

 

「“もっともらしい稚拙な暴論”、“自分の所有物を自慢する”、思い通りになると思っている単純な思考、襲撃決行も相まって見えてくる死柄木という人物像は…幼児的万能感の抜け切らない“子ども大人”だ」

 

「“力”を持った子どもってわけか!!」

 

「小学時の『一斉“個性”カウンセリング』受けてないのかしら…」

 

 オールマイトが言うと、ブラドキングとミッドナイトが続けて言った。

 そしてブラドキングはオールマイトや塚内に尋ねる。

 

「で!? それが何か関係あんのか!?」

 

「先日のUSJで検挙した(ヴィラン)の数72名。どれも路地裏に潜んでいるような小物ばかりでしたが、問題はそういう人間がその“子ども大人”に賛同し付いて来たという事。ヒーローが飽和した現代、抑圧されてきた悪意たちはそういう無邪気な邪悪に魅かれるのかもしれない。まァ…ヒーローのおかげで我々も地道な捜査に専念出来る。捜査網を拡大し引き続き犯人逮捕に尽力して参ります」

 

 塚内が調査結果を報告すると、校長が懸念している様子で口を開く。

 

「“子ども大人”…逆に考えれば生徒らと同じだ。成長する余地がある…もし優秀な指導者でもついたりしていたら…」

 

「………考えたくないですね」

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 USJの(ヴィラン)襲撃事件から2日後、1ーA組は体育祭の話で盛り上がっていた。

 

「体育祭…!」

 

「クソ学校っぽいの来たぁぁ!!」

 

「待って待って! 敵に侵入されたばかりなのに大丈夫なんですか!?」

 

 相澤の言葉によって沸き立つ者もいれば、襲撃事件の事で警戒心を強め心配する者もいた。

 上鳴がツッコミを入れると、相澤がその理由を説明する。

 

「逆に開催する事で雄英の危機管理体制が磐石だと示す…って考えらしい。警備は例年の5倍に強化するそうだ。何より雄英の体育祭は……最大のチャンス。(ヴィラン)ごときで中止していい催しじゃねぇ」

 

「いやそこは中止しよう?」

 

 峰田が恐る恐る言い出すと、緑谷が後ろを振り向いて言った。

 

「峰田くん…雄英体育祭見た事ないの!?」

 

「あるに決まってんだろ、そういう事じゃなくてよー…」

 

 緑谷が言うと、峰田は呆れながら返す。

 すると相澤は、生徒達に体育祭の重要さを説く。

 

「ウチの体育祭は日本のビッグイベントの一つ!! かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。今は知っての通り規模も人口も縮小し形骸化した…そして日本に於いて今、かつてのオリンピックに代わるのが雄英体育祭だ!!」

 

「当然全国のトップヒーローも観ますのよ。スカウト目的でね!」

 

「知ってるってば…」

 

 緑谷と相澤に続けて八百万が言うと、峰田は若干ウンザリした表情を浮かべる。

 

「資格習得後はプロ事務所にサイドキック入りがセオリーだもんな」

 

「そっから独立しそびれて万年サイドキックってのも多いんだよね。上鳴あんたそーなりそう。アホだし」

 

「くっ!!」

 

「ははは…」

 

 上鳴に対し耳郎が辛辣な言葉を浴びせると上鳴は悔しそうに押し黙り、それを見ていたひなたは苦笑いを浮かべていた。

 

「当然名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に一回…計三回だけのチャンス、ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ!」

 

 相澤が話し終わると同時に、チャイムが鳴りHRが終わった。

 そして4限の現代文が終わり昼休み。

 

「あんな事あったけど…なんだかんだテンション上がるなオイ!!」

 

「活躍して目立ちゃプロへのどでけぇ一歩を踏み出せる!」 

 

 クラス中のテンションが上がる中、ひなたもテンションが上がっており触角がピコピコしていた。

 

「楽しみだねぇ、ひー君!」

 

「……まぁね」

 

 ひなたが心操に話しかけると、心操は首を掻きながら答える。

 その様子を、緑谷が遠巻きに見ていた。

 

「デッくん! 今日は皆で一緒にご飯を食べましょ」

 

 ひなたが緑谷に話しかけると、緑谷は頷きクラスメイト達の熱量に少し驚いていた。

 

「うん…皆すごいノリノリだ…」

 

「君は違うのか? ヒーローになる為在籍しているのだから、燃えるのは当然だろう!?」

 

「飯田ちゃん独特な燃え方ね。変」

 

「天ちゃんは平常運転だ」

 

 飯田が手を直角に構えて話すと、蛙吹とひなたがツッコミを入れる。

 

「僕もそりゃそうだよ!? でも何か…」

 

 緑谷が不安そうに言うと、麗日が声をかける。

 

「デクくん、飯田くん、ひなたちゃん、心操くん…頑張ろうね体育祭」

 

「顔がアレだよ麗日さん!!?」

 

「大丈夫か麗日」

 

 麗日は、気合が入りすぎて強張った表情を浮かべていた。

 緑谷と心操は、麗日を心配していた。

 

「どうした? 全然麗かじゃないよ麗日」

 

「生…ぐえっ!?」

 

 芦戸も心配し峰田が言いかけると、蛙吹が舌で頬を引っ叩く。

 

「皆!! 私!! 頑張る!!」

 

「おお━━━━けどどうした、キャラがフワフワしてんぞ!!」

 

「何かわからんけど頑張れお茶子っち!」

 

 麗日が右拳を突き上げながら燃え上がっていると、切島とひなたも若干引きつつ便乗した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「お金…!?」

 

「お金欲しいからヒーローに!?」

 

「究極的に言えば」

 

 麗日が言うと、4人は驚く。

 麗日が雄英に入学した動機は金だった。

 

「何かごめんね、不純で…!! 飯田くんとかひなたちゃんとか、立派な動機なのに私恥ずかしい」

 

 麗日が恥ずかしさで顔を赤くして手で覆っていると、飯田が疑問を投げかける。

 

「何故!? 生活の為に目標を掲げる事の何が立派じゃないんだ?」

 

「飯田……お前それ手の動きどうなってんの」

 

 飯田が明らかにおかしい手の動きをしていると、心操がツッコミを入れる。

 

「全然不純じゃないよ! 動機が何であれ人を救う気持ちがあればヒーローだと僕は思うよ」

 

「うん…でも意外だね…」

 

 ひなたも飯田に続けてフォローし、緑谷が率直に言った。

 すると麗日は頭を掻きながら話し始める。

 

「ウチ建設会社やってるんだけど…全っ然仕事なくってスカンピンなの。こういうのあんま人に言わん方が良いんだけど…」

 

「建設…」

 

「麗日さんの“個性”なら、許可取ればコストかかんないね」

 

「確かに『無重力(ゼログラビティ)』なんてうってつけだよな」

 

 麗日が家庭の事情を話すと、飯田とひなたが考え込み緑谷と心操が言った。

 すると麗日は振り向いて二人を指差す。

 

「でしょ!? それ昔父に言ったんだよ! でも…」

 

 麗日は昔、父親に将来は自分の“個性”で両親の手伝いをしたいと言った事があった。

 だが父親は、麗日の気持ちを汲んで『お茶子が夢を叶えてくれる方が何倍も嬉しい』と言ったのだ。

 

「私は絶対ヒーローになってお金稼いで父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」

 

 麗日は、決意を固めてそう言った。

 彼女の顔には、必ず達成させるという強い思いが込められているのがわかった。

 

「何だよ、全然不純じゃないじゃんか! 親を楽させたいって、すごく立派な動機だと思う!」

 

「麗日くん…! ブラーボー!!」

 

 ひなたは手をウキウキさせて言い、飯田も盛大な拍手を送った。

 するとそこへ、明らかに画風の違うオールマイトが現れる。

 

「おお!! 緑谷少年が、いた!!」

 

「「お」」

 

 オールマイトが緑谷に声をかけると、ひなたと心操はビックリして肩を跳ね上がらせながら同時に声を漏らす。

 

「ご飯…一緒に食べよ?」

 

「「乙女や!!!」」

 

「………!!」

 

 オールマイトが身体に似合わない可愛いウサギ柄の風呂敷に包まれた、身体に似合わないサイズの小さな弁当箱を見せながら言うと、ひなたと麗日が同時に噴き出し心操はオールマイトの意外な一面に目を見開いて固まっていた。

 

「ぜひ…」

 

 緑谷がキョトンとしつつもオールマイトについていき、残った4人で昼食を食べる事になった。

 4人は、食堂で列に並びながら話す。

 

「デクくん何だろうね」

 

「入学してからずっと一緒にいる事多くないか?」

 

「そういえばそーだね」

 

「蛙吹くんが言ってたように超絶パワーも似ているし、オールマイトに気に入られてるのかもな」

 

「いいなぁー」

 

 4人は、緑谷とオールマイトの関係について話していた。

 

「ひなたは何頼んだの」

 

「味噌ラーメン大盛り麺バリカタヤサイマシマシアブラマシマシに味玉チャーシューバタートッピング、角煮チャーハン大盛り、あと酢豚と揚げ餃子と麻婆豆腐に豆花風プリン……よいしょ、重いな……」

 

「そんな頼むからだろ」

 

 心操が尋ねると、ひなたは頼んだ料理を受け取りながら答える。

 その様子を見た心操は、呆れた様子でツッコミを入れた。

 その後ひなたは、食事中に麗日と飯田に話しかける。

 

「ねえ! 放課後さ、僕とひー君体育館で特訓するけど一緒に来る? 体育祭近いしさ!」

 

「うん! 行きたい! 絶対勝ちたいもんね!」

 

「確かに、一人よりも複数人で特訓した方が効率的だな。俺も参加してもいいだろうか」

 

「もちろん!」

 

「後でデクくんや皆も誘おっか!」

 

 ひなた達は、放課後の特訓の話でわいわいと盛り上がった。

 最初の授業以降、ひなたは毎日クラスメイトを誘って授業の予習を兼ねた特訓をしていた。

 特訓の内容は、地力をつけるための筋トレと練習試合を中心とし、他にも“個性”の使い方や戦闘スタイルに関する改善のアドバイスなども行っていた。

 クラスメイトの予定なども考慮し、普段は平日1時間、土日は2時間で終わらせているトレーニングだが、今は体育祭前という事もあるので、反対が無ければ平日は2時間、土日は4時間に増量する予定だ。

 特にトレーニングの一環として希望者にのみ実施している『ひなたちゃんズブートキャンプ』は、ヒーロー科の生徒ですら弱音を吐く程の過酷なものだったが、相澤の娘という事もありアドバイスは的確な上、ひなたが『賄い』と称して提供している特製プロテインドリンクが貰えるため、クラスメイト達には好評であった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして放課後。

 

「うおおお……何事だあ!!?」

 

 と麗日が叫び声を上げていた。

 A組の教室の前には、何故か他のクラスの生徒達が大勢集まっていた。

 

「出れねーじゃん! 何しに来たんだよ」

 

「うー、早く体育祭のための修行しなきゃなのに……」

 

 峰田とひなたが文句を言うと、爆豪が前に出て偵察に来た生徒達を罵倒した。

 

「敵情視察だろ、ザコ。(ヴィラン)の襲撃を耐え抜いた連中だもんな、体育祭の前に見ときてぇんだろ。意味ねぇからどけ、モブども」

 

「知らない人のことをとりあえずモブっていうのやめなよ!!」

 

「そうだよそういうの良くないぜかっちゃん!」

 

「かっちゃん言うな殺すぞ」

 

 敵情視察に来た生徒達を挑発する爆豪に、飯田とひなたが注意をする。

 だが……

 

「あれれぇ〜? ヒーロー科の中に小学生が混じってんじゃん!」

 

「うわホントだ。来るとこ間違えたんじゃねえ?」

 

「あいつ確か、首席で合格したんだっけ? テストの点が高くても、女としての点数は0点だな(笑)」

 

「つーか女装した男じゃねえの?」

 

「あんな絶壁チビがトップとか、いよいよヒーロー科も終わりだなぁ!」

 

 視察に来た生徒達が、軽率にもひなたを外見でバカにし始める。

 自分達が普段から抱いていたヒーロー科への不満を、首席であるひなたを馬鹿にする事で発散した。

 周りの生徒達も、馬鹿にした男子達の発言を聞いて次々とクスクスと笑い出す。

 するとひなたの額にはビキビキと青筋が浮いていき、髪をざわつかせてカスタネットのようにガチガチと歯を鳴らしていた。

 

「あー……来るぞこれ」

 

 それを見た心操は、次に起こる事を予測して身構える。

 するとその直後だった。

 

「誰の体型がそり立つ壁だって!? えぇ!?」

 

「「「言ってねーし!!」」」

 

 ひなたは、漫画でよく見るちゃぶ台返しの要領で机の上にあった勉強道具を全てひっくり返すとひなたを馬鹿にした生徒に飛びつき胸ぐらを掴んだ。

 

「キサマか!? キサマか今言ったの!? 確かに聞いたぞゴルァ!!」

 

「ま、待て! 今のは……「うるせぇ……この体型を馬鹿にする奴は全員女の敵……社会を歪ませる癌だ……! 許さねえ……一匹残らず粛清してやる!!」

 

 ひなたは、馬鹿にしてきた生徒の胸ぐらを掴みながら至近距離で怒号を浴びせた。

 完全に表情が般若になっており、もはや爆豪ですらドン引きして言葉が出ないレベルだった。

 すると、流石に見かねた心操がひなたを羽交締めにして強制的に引き剥がす。

 

「やめとけってひなた。ヒーロー科のイメージ下がるから」

 

「ッゾオラ━━━━ン!! ア゛ォ゛ア゛ー!!」

 

「お前ホント情緒どうなってんだ……」

 

 怒りに任せて心操の腕の中で暴れまくるひなたは、最早ヒーローというより一種の(ヴィラン)だった。

 爆豪の問題発言やひなたの奇行のせいで、むしろヒーロー科じゃなくて(ヴィラン)科ではとツッコミを入れる生徒もいた。

 するとその時、普通科に在籍していると思われる黒髪のミディアムヘアーの美少女が前に出てくる。

 

「あら…… (ヴィラン)の奇襲から生き残ったという国内最高峰のヒーロー科がどんなものかと思って見てみれば……随分と品がない人達ですね。イレイザーヘッドのご息女が在籍していると聞いているのですが……まさかとは思いますけど、今の下品でうるさい人じゃないですよね?」

 

 女子がクスクスと笑いながら言うと、女子の顔を見た心操が目を見開く。

 

「……! 影山……」

 

「おや、これはこれは。久しぶりですね、心操さん。覚えていてくれて嬉しいです。では、用が済んだので私はこれで」

 

 女子がペコリと一礼して去っていくと、入れ替わりでB組の男子が前に出てくる。

 

「隣のB組のモンだけどよぅ!! (ヴィラン)と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!! エラく調子づいちゃってんなオイ!!! 本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」

 

 B組の鉄哲という男子も続けて挑発をする。

 A組へのヘイトが高まる中、爆豪は平然と生徒達を押しのけて帰ろうとしていた。

 

「待てコラどうしてくれんだ! おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか!!」

 

「あ? 今のはどう見ても触角のせいだろが!」

 

「あ……うん……そうね……」

 

 切島や上鳴が文句を言うと、爆豪が珍しく正論を言ったので二人は素直に押し黙る。

 そして、さらに続けて呟く。

 

「それに、関係ねぇよ………」

 

「はあ━━━!?」

 

 爆豪の発言に対してA組が呆れ返っていると、爆豪が言い放つ。

 

「上に上がりゃ、関係ねえ」

 

 爆豪が去っていくと、切島は二人の言う事に納得してしまった。

 

「く…!! シンプルで男らしいじゃねぇか!」

 

「上か…一理ある」

 

「言うね」

 

「騙されんな! 無駄に敵増やしただけだぞ!」

 

 切島に続けて常闇と砂藤も納得すると、上鳴がツッコミを入れる。

 ようやく冷静さを取り戻したひなたは、ひなたを煽ってきた女子について心操に尋ねる。

 

「ねぇひー君、さっきの女の子知り合い?」

 

「……まぁね。影山幽華。俺の中三の頃のクラスメイトだった女だ。何考えてるかわかんない上に、ずば抜けて優秀な割に何故か目立たない奴だと思ってたんだけど……あいつ、入試の時やらかしやがったんだ」

 

「やらかした? 何を?」

 

 心操が不気味そうな表情を浮かべて言うと、ひなたが首をコテンと傾けて尋ねる。

 すると心操は、眉を顰めて言った。

 

「あいつもヒーロー科の入試を受験してたんだけどさ……余裕で合格できる実力があったのに、他の受験生を刺そうとして不合格になったんだと。まあ未遂で終わったらしいけど。あいつ、卒業式の日にそれを自慢げに話してたよ」

 

「え、そうなの? でもそんな事してたら問題になるはずじゃ……」

 

 心操が不愉快そうに言うと、ひなたが怪訝そうな表情を浮かべる。

 国内最高峰の雄英の入試で他の受験生を刺すなどといった(ヴィラン)ですらやらないような凶行に走れば、ヒーロー科入試どころか他の科の合格も取り消され試験会場から摘み出されてもおかしくなかったからだ。

 しかし実際には、試験会場から追放されるどころか普通科に合格して在籍し、大問題になる事もなくクラスメイトとも何のトラブルも無く過ごせている。

 まるで『凶行に走った事そのもの』がなかった事にされているかのような現状に、ひなたは一種の不気味さを覚えていた。

 すると心操も同じ心象なのか気味悪そうに首を掻きながら説明する。

 

「そういう“個性”なんだよ。あいつの前じゃ、何もかもが『なかった事』になるんだ。気をつけないと足掬われるよ」

 

「…………うん」

 

 心操が警戒して言うと、ひなたはコクリと頷く。

 

「絶対負けらんないよ……巨乳なんか要らない!!」

 

「えー……」

 

 大分屈折した燃え方をするひなたに、心操は言葉も出ない様子だった。

 ひなたは、メラメラと闘志を燃やした目をしていた。

 

「絶対!! 優勝!! する!!」

 

 ひなたが燃え上がるオーラを放ちながら息巻いている様子を、心操は少し距離を置いて見ていた。

 その後、A組はいつも通り体育館を借りてトレーニングをしに行った。

 麗日は、仲のいい緑谷を体育祭の特訓に誘う。

 

「デクくんも特訓行かん?」

 

「へっ!? あっ」

 

(相澤先生に7年間指導を受けた相澤さんの特訓、すごく気になる……! でも相澤さん、たまにすごく勘が鋭いとこあるからな……ワンフォーオールの事がバレるのはマズい!!)

 

「ご、ごめん! 僕は用事があるから……!」

 

「そっか……」

 

 緑谷は、特訓に参加したいのは山々だったが、“個性”の秘密がバレるのは何としてでも避けたいため、合同トレーニングへの参加は断念した。

 その日からは、猛特訓の日々の始まりだった。

 ひなたのトレーニングメニューは、身体を壊す事なく最速で身体を鍛えられる合理的なものだった。

 そして普段からひなたと仲の良い心操はというと、『ひなたちゃんズブートキャンプ』の常連であり、心操自身の希望もあって朝4時から学校が始まるまでの時間と、特訓が終わってから門限の夜9時までを身体強化の時間に充てていた。家に帰ってからもひなたの作ったトレーニングメニューをこなし、食事もひなたが相澤の健康管理の為に作っている献立表をコピーしたものを借り、出来るだけ相澤宅での食事と同じものを食べるようにしていた。

 心操が今取り組んでいたのは、低酸素マスクと錘をつけてひたすら体力をつけるトレーニング法だ。

 

「ひー君、お疲れ様っ! お弁当とはちみつレモン作ってきたよ〜!」

 

「ありがとう」

 

 ひなたがはちみつレモンと弁当を持ってくると、心操はひなたのお手製弁当を食べた。

 今日の弁当は、一段目が鶏そぼろの親子丼、二段目がブロッコリーとトマトのサラダ、タコさんウインナー、ささみの大葉チーズ巻きのフライ、凍り豆腐と小松菜のおひたしだ。

 

「んっ、美味い。やっぱひなた料理上手だな」

 

「えへへ、ありがとう! 次はもっと美味しく作るね!」

 

 心操がひなたのお手製弁当を美味しそうに食べると、ひなたはふにゃりと表情を緩める。

 それから数日間は、順調にトレーニングを進めていた。

 だが、ランニングをしている最中に事態は急変した。

 先程まで順調にトレーニングをしていた心操だったが、ゼエゼエと息を切らし、走るペースが次第に遅くなる。

 心操が転びそうになりながらも何とか走っていると、ひなたが振り向いて声をかける。

 

「ひー君、大丈夫? 休憩挟む?」

 

「いや、大丈……」

 

 心配するひなたに対し返事をしようとしたその時、心操は電池が切れたようにいきなり地面に倒れ込んだ。

 

「ひー君っ!?」

 

 心操が倒れると、ひなたは血相を変えて心操に駆け寄り救急車を呼んだ。

 その後、搬送された先の病院で診察を受けた心操が病院のベッドで横になっていると、ひなたが声をかける。

 

「オーバーワークだって。こうならないようにちゃんと君のレベルに合わせてトレーニングメニュー組んでたのに……絶対ちゃんとメニュー守らなかったよね。何でなの?」

 

 ひなたは、若干失望混じりの声で心操に尋ねる。

 すると心操は、震える声で話し始めた。

 

「…………俺は……他の皆より何周も出遅れてるんだ……だったら、何倍も努力しなきゃ追いつけるわけねえだろ……!」

 

「馬鹿っ!!」

 

「痛っ」

 

 心操が話すと、ひなたはいきなり心操の左頬をビンタした。

 すると、ビンタの勢いが強すぎたのか、バチィンっと大きな音が鳴り響き、心操は勢い余ってベッドから転げ落ちた。

 

(えっ、待って。思ったより痛いし、何か耳の近くで嫌な音鳴ったんだけど……)

 

 ひなたのビンタの勢いに心操が混乱していると、ひなたは心操に向かって怒鳴りつける。

 

「それで本番結果出せなかったら意味ないでしょ!? お願いだから二度とこんな事しないで!!」

 

 ひなたが目に涙を浮かべていると、心操は僅かに目を見開く。

 そして首の後ろを手で押さえながら謝った。

 

「……すまなかった」

 

「誰も、他の皆より強くなれなんて言ってないよ。昨日の自分より強くなれればいいんだよ。皆そうやって少しずつ成長してるんだから。地道だけど、お互い自分のペースで頑張ろう?」

 

「ああ」

 

 ひなたが説得すると、心操が頷く。

 その後も、二週間にわたるひなたのブートキャンプは続いた。

 ひなたの指導のおかげか、元々の才能のおかげか、その両方か、真面目にトレーニングに励んだ心操はメキメキと強くなっていき、体育祭の三日前には自重と同じ重さの錘をつけたままトレーニングできるようになっていた。

 

「やった、初めて腕立て伏せ30回できた……!」

 

「え!? ホント!? すごいじゃんひー君っ!!」

 

「…………」

 

 ひなたが軽い感じでポイっと投げたのは、重量300kgのバーベルだった。

 それを見た心操は、いやでもひなたとのレベルの差を思い知り、言葉が出なくなっていた。

 ひたすら心身の強化に明け暮れた二人は、入学時に比べて見違えるほど強くなっていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして二週間後、雄英体育祭当日。

 

「皆準備は出来てるか!? もうじき入場だ!!」

 

「コスチューム着たかったなー」

 

「公平を期すため着用不可なんだってよ」

 

 飯田が注意を促す中、A組の生徒達は本番前に思い思いの行動を取っていた。

 ひなたはというと、持参していたサルミアッキで養分補給をしていた。

 すると突然、轟が緑谷に話しかける。

 

「緑谷」

 

「轟くん……何?」

 

「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」

 

「へ!? うっうん…」

 

 自分でも当たり前だと思っている事を言われた緑谷は、キョトンとしていた。

 すると次第に轟の語気が強まる。

 

「お前オールマイトに目ェかけられてるよな?」

 

「!」

 

 轟が言うと、直接話しかけられていないひなたが目を見開く。

 確かに緑谷は入学時からずっとオールマイトと一緒にいる事が多く、“個性”も似ているのでオールマイトに気に入られているのではないかと思っていた。

 すると轟が緑谷に対して言い放つ。

 

「別にそこ詮索するつもりはねぇが…お前には勝つぞ」

 

「おお!? クラス最強が宣戦布告!!?」

 

「急に喧嘩腰でどうした? 直前にやめろって…」

 

 轟の宣戦布告に、上鳴達はざわつき切島は仲裁に入った。

 すると轟は切島に対して冷たい口調で言った。

 

「仲良しごっこじゃねぇんだ。何だっていいだろ」

 

 すると緑谷は、弱々しい様子で轟に話し始める。

 

「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか…は、分かんないけど…そりゃ君の方が上だよ…客観的に見ても…」

 

「緑谷も、そーゆーネガティブな事は言わねぇ方が…」

 

 緑谷が自分を卑下すると切島がフォローしようとするが、緑谷は前を向いてさらに続けた。

 

「でも…!! 皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって…遅れをとるわけにはいかないんだ! 僕も本気で獲りにいく!」

 

「……おぉ」

 

 そう言った緑谷の目に迷いはなかった。

 緑谷がここまで強く言い返してくると思わなかったのか、轟は目を見開いて頷く。

 すると轟は、ひなたに対しても言った。

 

「相澤、お前もだ。戦闘訓練の時の借りはここで返す」

 

「え? あ、いやぁ……あの時はたまたま“個性“の相性が……」

 

「関係ない。お前には勝つぞ」

 

 轟がひなたに対しても宣戦布告してきたため、ひなたは穏便に済まそうとする。

 だが轟が執念を宿した瞳でひなたを睨みつけると、ひなたもぐっと身体に力を入れて立ち上がる。

 

「……皆、半端な覚悟でここにいるわけじゃないんだ。お父さんが見てくれてるから、僕だって負けてられないよ」

 

「……おう」

 

 その様子を見ていた爆豪もまた、3人を睨みつけていた。

 それぞれの思いを抱え、A組生徒達は入場した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろ!? こいつらだろ!!? (ヴィラン)の襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!! ヒーロー科!! 1年!!! A組だろぉぉ!?』

 

 プレゼントマイクの紹介と共に、A組の生徒達が入場する。

 

「わあああ…人がすんごい…」

 

「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか…! これもまたヒーローとしての素養を身につける一環なんだな」

 

「めっちゃ持ち上げられてんな…なんか緊張すんな爆豪…!」

 

「しねえよただただアガるわ」

 

 緊張のあまりぎこちなくなる緑谷、冷静に上を見上げながら分析する飯田、ソワソワする切島、平常運転の爆豪、反応はそれぞれだった。

 

「わぁぁ、何かこういうのワクワクさんだねひー君!」

 

「うん」

 

 ひなたも触角をピコピコさせて心操に話しかけ、心操は首を手で押さえながら頷く。

 

『B組に続いて普通科C・D・E組…!! サポート科F・G・H組も来たぞー! そして経営科…』

 

 普通科、サポート科、経営科の生徒達もA組とB組に続けて入場する。

 だが、あからさまにヒーロー科ばかりが注目されているので普通科の生徒達は不満そうだった。

 だがただ一人、C組の影山だけは虎視眈々と獲物を狙うような目つきで不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

「選手宣誓!!」

 

 ミッドナイトが、壇上に立ちピシャンと鞭を鳴らした。

 

「18禁なのに高校に居てもいいものか」

 

「いい」

 

 思わず呟く常闇に被せ気味に峰田が肯定する。

 

「静かにしなさい!! 選手代表!! 1ーA爆豪勝己!!」

 

 ミッドナイトがピシャンと鞭を鳴らしながら言うと、爆豪が壇上に上がる。

 

「え〜〜かっちゃんなの!?」

 

「あいつ入試一位通過だったからな」

 

「ひなちゃんも一位だけどな。まあジャンケンだったらしいから仕方ないけど」

 

「ははは……」

 

 緑谷が驚いていると、横から瀬呂が言った。

 切島もひなたの方を見て言うと、ひなたは苦笑いを浮かべる。

 同率1位のひなたと爆豪、どちらが選手宣誓するかで揉めた結果、厳正な選出(ジャンケン)により爆豪が選手宣誓をする事になったのだ。

 すると、普通科の女子生徒が付け足すように言った。

 

「“ヒーロー科の入試”な」

 

「………」

 

 普通科の女子が呆れ返ったように不満を漏らし、影山は貼り付けたような笑みを浮かべてヒーロー科の生徒達に氷のような視線を向けていた。

 

「大丈夫かなぁ……かっちゃんの事だし絶対余計な事言うよ」

 

「あー……うん」

 

 ひなたは、苦笑いを浮かべながら心配していた。

 ひなたの奇行を間近で見ていた心操は、どっちもどっちじゃないかと思いつつもあえて何も言わずに頷いた。

 爆豪は、両手を体操服のポケットに突っ込んだまま壇上に上がると気怠そうに口を開く。

 

『せんせー。俺が一位になる』

 

「「「絶対やると思った!!」」」

 

 思わず、A組の声が揃った。

 ひなたも、「あちゃー」と声を漏らしながら額をペシンと叩いていた。

 するとその直後、案の定会場からはブーイングの嵐が巻き起こった。

 

「調子乗んなよA組コラァ!!」

 

「何故品位を貶めるような事をするんだ!!」

 

「ヘドロヤロー!」

 

 当然B組や他の科の生徒達は怒りを爆豪にぶつけた。

 同じA組の生徒からも、非難の声が上がった。

 だが爆豪は……

 

「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

 

 そう言って親指で首を切る仕草をしてさらに他の生徒達を挑発した。

 

「どんだけ自信過剰だよ!! この俺が潰したるわ!!」

 

「かっちゃん……」

 

 当然B組からも非難の声が上がるが、ひなたは苦笑いを浮かべつつも爆豪の真意がわかっていた。

 全員の前で一位宣言をする事で、自分を追い込んでいたのだ。

 ひなたは、それをわかっていたからこそ呆れて苦笑いはしたものの非難はしなかった。

 

「ああ、良くないなぁ……うん、良くない。ああいうの見るとホント、潰したくなる」

 

 一方普通科の影山は、爆豪の選手宣誓に対してポーカーフェイスを浮かべつつも不満を漏らしていた。

 だが不満に思っていたのは、爆豪本人に対してというよりはブーイングを浴びせている他の生徒や観客に対してだった。

 一方、壇上ではミッドナイトが競技の説明をしていた。

 

「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう!」

 

「雄英って何でも早速だね」

 

「せやね」

 

 ミッドナイトが空中にプロジェクターで画面を表示しながら言うと、麗日とひなたがツッコミを入れる。

 

「いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)!! さて運命の第一種目!! 今年は……コレ!!!」

 

 ミッドナイトが指し示すプロジェクターには、『障害物競走』と書かれていた。

 するとひなた達A組だけでなく、B組や他の科の生徒達も目を見開く。

 

「障害物競走…!」

 

「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周、約4km! 我が校は自由さが売り文句! ウフフフ…コースさえ守れば何をしたって構わないわ! さぁさぁ、位置に着きまくりなさい…」

 

 ミッドナイトの説明が終わると明らかに狭めに設計されたスタートゲートが開き、ゲート上部に設置されたランプが点滅を始める。

 ひなたも、出遅れないようスタートゲートの方へと向かった。

 

「ねえ、明らかにゲート狭くない?」

 

「わざとだと思う。これ、多分……」

 

 ひなたがコソッと隣にいた心操に耳打ちすると、心操は右手で首を押さえながら小声で答える。

 そして、ついにその時はやって来る。

 

「スタ━━━━━━ト!!」

 

 

 

 

 

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