抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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はい、皆様アンケートにご協力いただきありがとうございます。
投票の結果、ひーちゃんの戦いを最初に書く事に致しました。
ついにあいつとの戦いに決着がつきます。






ゼロ:ピリオド

「ふぅ………」

 

 ひなたは、零の“個性”を消し、重い一撃を叩き込んで気絶させた。

 ひなたの成長を目の当たりにした拳藤と葉隠は、空高く飛んでいるひなたを見て驚いていた。

 

「何だこれ…」

 

「ひなたちゃん、すご……」

 

 拳藤と葉隠は、零を一瞬で無力化したひなたに見入っていた。

 するとファットガムが二人に声をかける。

 

「二人とも、見惚れるんは後や! クレシェンドが敵さん止めといてくれとる間に確保するで!」

 

「「はい!」」

 

 ファットガムが二人に声をかけると、二人はひなたに無力化された(ヴィラン)を確保し、零に操られていた一般人を保護した。

 (ヴィラン)は、全員もれなく“個性”を失い失神していたため、簡単に確保する事ができた。

 一方で、一瞬で数十kmの範囲内の(ヴィラン)を全員失神させたひなたはというと。

 

(身体への負担が大きい…やっぱりもっと練習が必要だな)

 

「『福音唱歌(ヒーリングシャウト)』」

 

 今日一番の大技を放ったひなたは、身体が鈍くなっていたが、『福音唱歌(ヒーリングシャウト)』で大技発動前の状態に自分を戻して回復させていた。

 ひなたは、常に自分を巻き戻し続ける事で、疲労を感じる事なく常に100%の状態で戦えるというトンデモ戦法を編み出していた。

 自分を回復させたひなたは、捕縛武器を網状に変形させ零を捕らえた。

 だが、その次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 グァッ

 

 

 

 

 

 突然、零が衝撃波を撒き散らしながら覚醒した。

 零をギチギチに拘束していた捕縛武器がいとも簡単に千切られ、ひなたは僅かに目を見開く。

 零は、ここに来てひなたと同じ自己進化能力を目覚めさせ、もはや人ではないナニカと化していた。

 否、相澤零凪としての彼自身が死んだ時点で、もはや彼は人間をやめていた。

 

 発狂モノの痛みを伴う実験を、3年間も笑いながら耐え切り、新たな“個性”にいとも容易く順応した。

 大人になる前に死ぬ運命にあったはずの零を今日まで生かしたのは、自分を裏切ったヒーローへの絶望と、常人には到底計り知れない狂気以外の何物でもなかった。

 

 

 

 ──零凪くんカッコいいなぁ! オールマイトみたい! 

 

 あきちゃんはさぁ…こんな僕を『ヒーローみたい』って言ってくれたんだよ。

 いじめられてた僕に、一人だけ優しくしてくれたんだよ。

 

 ──相澤零凪くんだね、可哀想に。誰も助けてくれなかったんだね

 

 マジで頭おかしい奴だったけど、誰も助けてくれなかった僕を生き返らせてくれたんだよ。

 僕にヒーローに復讐するチャンスをくれたんだよ。

 

 ──ねえ、にぃに! 外の世界って、どんなかなぁ! ぼくもいつか外に出てみたいなぁ! 

 

 あの子は、こんなどうしようもない僕を慕ってくれたんだよ。

 優しいあの子がヒーローのせいで苦しむのが、どうしても許せなかったんだ。

 

 

 

 ──オラァ!! 死ねえ!! ムコセーヤローひっさつパーンチ!! 

 

 ──頼んだぜ、零。お前が、世界を変えてやるんだ

 

 最初はただの癇癪持ちのガキだと思ったけど、死柄木は誰よりも俺の望むものを理解してくれた。

 世界を壊した先にある歪んだ地平線を、あいつの隣で見てみたいと思っちまったんだ。

 

 ──おめーみてーな奴はヴィランになってろ! 

 

 ──零凪くんって、優しいですよね。何だかんだでたすけてくれるから私は好きですよ

 

 トガはああ見えて、誰も見てくれなかった俺をよく見てくれてた。

 “無個性”だと思われて嫌われてた俺を、好きだと言ってくれた。

 

 ──目障りなんだよお前、せいぜい“無個性”に生まれた自分を恨むんだな

 

 ──ありがとな、零凪。お前のおかげで、お父さんの苦しむ顔が見られるよ

 

 荼毘は…燈矢は、誰からも必要とされなかった俺を自分の為に必要としてくれた。

 俺の過去を聞いたら、喜んで俺の背中を押してくれた。

 

 ──ギャハハ、ムコセーのおめーに何ができるってんだよ!? 

 

 ──いいよなお前は。『好きに生きる為に壊す』、ちゃんとしたヴィジョンがあってよ

 

 スピナーは、“無個性”だからって嘲笑われた俺を、嘲笑せずに肯定してくれた。

 ゲームしてる時とか、歳が近い弟みたいでけっこう楽しかったし。

 

 

 

 ──お前、ゼロっつーのか! よろしくな! とっとと失せな! 

 

 トゥワイスは、変な奴だったけど普通にいい奴だった。

 

 ──ゼロちゃん、コレつけてあげるわ。とってもアナタに似合うと思うの! 

 

 マグ姉は、俺の事をよく気にかけてくれて、歳の離れた姉ちゃんみたいだった。

 

 ──零お前、何も知らなさすぎだろ! おじさんが色々教えてやるからちょっとこっち来なさい

 

 ミスターは、世間を何も知らない俺の為に世話を焼いてくれた。

 

 

 

 最初は、自分が笑って生きる為に始めた事だった。

 だけど今は、あいつらが認めてくれたおかげで、俺はここにいる。

 ありがとよ、皆。

 俺は、みんなの笑顔の為に───

 

 

 

 

 

 ボッ

 

 

 

「──────………!!」

 

 ひなたは、ほぼ反射的に捕縛武器を使って自分に襲いかかってきた攻撃を防いでいた。

 ひなたが放った捕縛武器は、鋭い爪を持った二本の腕を絡め取って拘束していた。

 見ると、“個性”を消滅させられたはずの零の背中からは、二本の細長い女性の腕が生えていた。

 零は既にひなたの“個性”で“無個性”化されており、“個性”を使った攻撃ができるはずがなかった。

 つまり今の攻撃は、“個性”によるものなどではなく、ひなたや死柄木と同じ自己進化能力によるものだった。

 

「壊さなくちゃ…あきちゃんが、てんこくんが、ひみこちゃんが、とうやくんが、しゅういちくんが、みんなが笑っていられる世界を…ぼくが、創らなくちゃ…!! 邪魔なやつ、みんなみんな、殺さなきゃ!!」

 

 零は、子供のように何かをブツブツと呟きながら背中から生えた両腕を一直線に伸ばす。

 零が下にいる(ヴィラン)や一般人目掛けて両腕を伸ばしている事に気が付いたひなたは、腕が下にいる人間に届く前に爆速で駆け抜けた。

 零が背中から伸ばした腕は、衝撃波を撒き散らしながら下にいる人間に突進していく。

 だが零が下にいる人間を殺そうと放った突きは、直前で受け止められる。

 

「………あ?」

 

 突きを止められた零は、ピクッと目元をひくつかせる。

 ひなたは、捕縛武器を2本の赤い鞭と巨大な鉤爪に変形させて腕を止めていた。

 

「ぐぁ…!!」

 

 捕縛武器で零の突きを止めたひなただったが、鋭い爪を持った手は、ひなたの超高音圧のバリアと捕縛武器を貫通した。

 それを見た零は、苛ついた表情を浮かべる。

 

「な━━━━に守っちゃってんの?」

 

「げほっ、げほっ…!」

 

 零が苛つきながらもひなたに尋ねると、ひなたは零が伸ばした手を掴みながら血反吐を吐く。

 それを見た零は、呆れたようにため息をついて口を開く。

 

「つくづくわからねえな。そいつらには、お前が命を賭して守る価値なんか無い。そいつらなんかの為に命を削って何になる?」

 

 零は、手にググッと力を込めながら言い放つ。

 するとひなたは、血を吐きながらも言葉を紡ぐ。

 

「別に…命を削ってるつもりなんか無いよ……僕は僕の、生きたいように生きるだけだ!!」

 

 ひなたは、力強く叫びながら零の腕を押し返した。

 するとそれを見た零は、ひなたにゴミを見るような目を向ける。

 もはや零は、あれほど執着していたひなたにさえ失望した様子だった。

 

「ガッカリだぜ、クレシェンドモルト。お前だけは俺をわかってくれると思ってた。こんなもんがあいつの夢の果てだなんて笑わせてくれる。もういい、死ねよお前」

 

 そう言って零は、背中をボコボコと膨らませる。

 その直後、ひなたの背中を突き破って女の上半身が生えてくる。

 浅葱色の長髪を持ち顔を血塗れにした女は、肩から次々と腕の形をした肉塊を生やす。

 ひなたは、零から伸びた腕が下にいる人間を狙う度に、捕縛武器で腕を斬り落として下にいる人間を守った。

 

「『滅葬劇曲(モルテアジタート)』!!!!」

 

 ひなたは、極限まで収束させた大音量を放ち、零を爆音で倒そうとする。

 常人であれば即死は免れない音量で叫んだひなただったが、零は皮膚を波打たせて音を受け流し、鼓膜が破れても平気で攻撃を続けてきた。

 零は、一切勢いを緩める事なく無数の腕を伸ばし続ける。

 ひなたは、零が伸ばした腕を、変形する捕縛武器を駆使して下にいる人間に当たらないよう防ぎ続けた。

 だが、腕の生成速度は次第に速くなっていき、数も増え、ひなたも次第に追いつかなくなってくる。

 ひなたは、無限に迫ってくる腕に追い詰められ、一向に零に近づけなかった。

 

「う゛っ、う゛ぅぅ…!!」

 

「はっはっは、最強の“個性”をお持ちの最高傑作様が“無個性”の出来損ない如きに一方的にやられるなんざ、こりゃあケッサクだなぁ! 下にいる役立たず共を見捨てさえすりゃあ、俺を倒す事なんか簡単だろうに! なぁ、今、どんな気持ちだ? 教えてくれよ、なあ!!」

 

 何とか下にいる人間には近付かせまいと奮闘するひなただったが、無限に迫ってくる零の腕に翻弄され、肌を斬られ、肉を抉られ、血飛沫を上げた。

 ただでさえ腕の成長速度が尋常ではない上に、腕の一本一本が常人の数十倍のパワーを持つため、下にいる人間を守りながら戦うのは、いくらトップヒーローに届く実力を持つひなたといえど、決して容易ではなかった。

 零は、ボロボロになっていくひなたを指差しながら笑った。

 零は、“個性”を無力化された事で正常な意識を失いつつも、正確かつ戦略的にひなたの痛いところを突いてくる。

 素の身体能力ですらハイエンドを優に超え、その上無限に腕を伸ばし、一切の隙を与えず死角を狙ってくる攻撃に、ひなたは対処し切れなくなり、追尾してくる杭が超高音圧のバリアを突き破ってひなたの右肩に突き刺さる。

 

「ぎゃあ!!」

 

「あっははは!! いいザマだなァ! お前を放っぽってどっか行っちまった兄ちゃんにも見せてやりたいよ!」

 

「ぐ……うぅ……!」

 

「安心しろよ、お前が死んだら兄ちゃんもお前のところへ送ってやる。あの世で父娘二人で一家団欒! 最高に心が躍るだろう? そうだ、父親だけと言わずクラスの奴等もお前のもとへ送ってやろうか?」

 

 ひなたに杭が突き刺さると、零が高笑いする。

 かつては自分の命よりもひなたに執着していた零は、もはやひなたの事を殺すべきヒーローの一人としか見ていなかった。

 

「はははははははははははははははは!!!! 死ね!!」

 

 零は、笑いながら腕を伸ばしてひなたを追い詰めた。

 零の背中から生えた女性は、零を守るように覆い被さっていた。

 零が攻撃を仕掛けてくる度に、意識の濁流がひなたの中に流れ込んでくる。

 まるでひなたが近づくのを拒むかのように、無数の女性の手が零を覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 死ね

 

 死ね死ね

 

 死ね死ね死ね

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 死ね死ね死ね死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ

 

 死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ

 

 死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ

 

 死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ

 

 死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネシネシネシネシネシネシネシネシネ

 

 シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ

 

 シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ

 

 シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ

 

 

 

 

 

 ──生まれてきてごめんなさい

 

 

 

 

 

「──────………!!」

 

 

 

 ひなたは、零が心の奥底に閉じ込めたものを目の当たりにし、思わず目を見開いて固まった。

 そこにあったのは、暗闇の中で一人で泣いている幼い少年の姿だった。

 だがその次の瞬間、無数の手が一つになった巨大な手が押し寄せ、ひなたを押し潰してくる。

 ひなたはそのまま地面に叩きつけられ、巨大な手で擦り潰される。

 だがその直後、ひなたを押し潰した手が弾け飛び、一つの束になっていた手がバラバラに崩れる。

 

「!!」

 

 零は、目の前の信じ難い光景に目を見開く。

 そこには、身体中を抉られて血を流し尽くしても立ち上がるヒーローがいた。

 ひなたは、血を流しすぎてよろけながらも立ち上がって零を見据えた。

 

「たった一人の男の子の涙で、世界は変えられる」

 

「お前……」

 

 ひなたは、自分の肩に突き刺さった杭を握りしめると、無理矢理引き抜いた。

 そして、引き抜いた杭に力を込めて握り潰し、零を見据えながら叫んだ。

 

「ヒーローが倒れないのは、たった一人で苦しみに耐えて泣いてる子供を、抱きしめてあげる為だ!!」

 

 ひなたは、拳を握りしめながら叫んだ。

 それを見た零は、忌々しそうに吐き捨てる。

 

「黙れ。お前に何がわかる。19年だぞ!? 19年間、俺は世界を壊す為に生きてきた!! 世界が俺を壊したからだ!! お前らに、“俺”がわかってたまるかよ!!」

 

「わかんないよ!! だから、君を理解(わか)りたいんじゃないか!!」

 

 ひなたは、アコースティックシューズの速度を限界まで引き上げると、零のもとへ駆けた。

 凄まじい速度で駆け出したひなたは、とうとう音をも置き去りにした。

 

「来い!!! つらいものはいくらでも受け止めてやる!!!」

 

「ヒーローを気取るな糞餓鬼が!!」

 

 ひなたが爆速で駆け抜けると、零は目を見開き額に青筋を浮かせて叫びながら無数の手をひなたにけしかけた。

 ひなたは、零の攻撃を全て捌き、身を削られながらも常に最高速度を更新し続けながら突き進んだ。

 だが、その時だった。

 

『皆さん!! マズいです!!』

 

「幽華ちゃん!?」

 

 突然、影山が無線越しに叫んだ。

 その声にひなたが反応すると、影山は事情を説明する。

 

『すみません、ドローンで追ってました。それより私、とんでもない事を突き止めちゃいました! そいつ、脳に核爆弾を仕込んでます!』

 

「何やてぇ!!?」

 

 影山が説明すると、ファットガムが驚く。

 零は、脳波とリンクして起爆するタイプの核爆弾を脳内に仕込んでいた。

 せめて一人でも多くのヒーローを道連れにできるよう、零が蘇生後の改造手術の際に自ら志賀に志願して頭の中に埋め込んだ爆弾だった。

 

『しかも時限式!! 爆弾の大きさと種類から判断して、爆発すれば最低でも周囲10kmが更地になります!! こいつ、初めからヒーローを道連れに死ぬつもりだったんです!! ひなたちゃんが勝とうが負けようが、あと3分もすれば全員もれなく消し炭です!!』

 

「じゃあ、どうすれば…!?」

 

『……方法が、たった一つだけあります。この作戦には、ファットガム、拳藤さん、葉隠さん。あなた方の“個性”が鍵です。ですが確実性が低い上に、一回きりしかチャンスが無いほとんど博打の一手です。それでも実行しますか?』

 

 影山が言うと、三人は驚いた表情を見せたものの、すぐに顔を見合わせて頷く。

 

「やるに決まってんじゃん! それしか方法が無いんでしょ!?」

 

「ああ! どのみち、やるしかないな!」

 

「ん!! よっしゃやったろ!!」

 

 三人には初めから、やらないという選択肢は無かった。

 すると影山は、力強く頷いてインカム越しに指示を出した。

 

『わかりました。10秒経ったら実行します!! いいですね!?』

 

 影山が指示を出すと、三人とも頷いた。

 一方、ひなたは全速力で零のもとへと駆け抜けていた。

 零は、迫ってくるひなたを退けようと無数の腕を生やした。

 ひなたは、全身を抉られながらも、音のバリアを張って零のいる方へと一直線に飛んだ。

 

「友達も、先生も、みんな言うんだよ!! 『お前なんか(ヴィラン)になっちまえ』ってさぁ!! 俺が間違ってるっつーなら、そんな奴等の為に大人しく死ねば良かったのか!? 誰の目にも触れずにひっそりと死んでいく事が、本当に『正しい事』なのか!? それとも、俺なんか初めから生まれてこなきゃ良かったってのか!?」

 

 零は、背中から生やした女性の肩から腕を伸ばしながら激昂する。

 ひなたは何度も音波を放って零を止めようとしたが、零の背中から生えた女の形をした肉塊は、完全に零に癒着して離れず、まるで零を守るかのように無数の手で零を覆っていた。

 

「俺からすりゃあ、間違ってるのは世界の方だ!! 俺を殺した奴等を憎んで、何が悪い!! 自分が笑って生きられる世界を望んで、何が悪い!! 自分の生きたいように生きて、何が悪い!!!」

 

 零は、無数の手をひなたに差し向けて怒鳴り散らした。

 するとひなたは、差し向けられた手に抉られながらも加速しながら口を開く。

 

「…君の言う通り、この世界は間違ってる事だらけだよ。つらい事ばっかりだったけど、生きづらい世界かもしれないけど、でも、つらい事だけじゃなかったよ! 生まれてこなきゃ良かったって思った事もあったけど、『そんな事ないよ』って言ってくれる人に出会えた! 生まれてこなきゃ良かった人なんて、この世に一人だっていないんだよ!!」

 

「うるせえんだよ!! 今更のこのこ現れて、説教垂れやがって!! その気になりゃあ、世界をひっくり返せる力を持ってるくせに!! 甘ったれて何もしてこなかった!! それがお前だろうが!!」

 

「っ…そうだよ…! 自分一人の力すら持て余して、迷いに迷って、皆の期待を裏切ってきた…! それでも、やっと、やりたい事を見つけたんだ!! 馬鹿で、甘ったれで、我儘だけど、そんな自分を貫くって決めた!! それが僕だ!!」

 

「!!」

 

「遅かったかもしれないけど、誰にも望まれない我儘だけど…! 君の抱えてきた痛みと向き合うって、全部受け止めるって決めたから!! 君が苦しんでいる限り、僕は何度だって駆けつけるし、何度だって君を止める!!」

 

「綺麗事抜かすな!! お前なんかヒーローじゃない。ヒーローなんてものは、この世界のどこにも存在しない!!」

 

「だから、来たんだ!!!」

 

 ひなたは、髪を逆立て両眼を光らせながら叫んだ。

 するとその時、影山が無線越しに叫ぶ。

 

『ファットガム!!』

 

「おっしゃあ!! こっちも準備万端や!!」

 

「100発くらい打っといた! いつでもいけるよ!」

 

 ファットガムは、身体中の脂肪をエネルギーに変えて右拳に溜めていた。

 零目掛けて大技を撃つため、拳藤の『大拳』で殴られまくって『脂肪吸着』でエネルギーを溜めていたのだ。

 

「行くでぇぇぇ!!! 『カロリー燃焼バーン』!!!」

 

「『滅葬協奏曲(モルテコンチェルト)』!!!」

 

 ファットガムとひなたは、同時に渾身の一撃を放った。

 二人の攻撃が直撃すると、零を覆っている大量の手が一気に吹き飛び、手で覆われていた零が剥き出しになる。

 すると影山が無線越しに指示を出す。

 

『行きますよ!! 青山くん!!』

 

 影山が指示を出した瞬間、突然どこからか小型戦闘機が現れる。

 セントラル病院付近に待機させていた戦闘機を、影山の“個性”で隠して急接近させていたのだ。

 戦闘機からは、青山が青ざめつつも身を乗り出していた。

 

「Can't stop twinklingだから!!」

 

 そう言って青山は、頭の後ろで手を組んでレーザーを発射する構えを取った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 1週間前。

 相澤は、セントラル病院で青山に作戦の参加について話していた。

 “個性”を使えば命を削られる身体にされていた事が判明した青山だったが、最終決戦に青山の力が必要になる可能性が出てきたので、青山に戦う意志があるかどうかの確認をしていたのだ。

 

「青山。この戦いに参加すれば、お前は死ぬ。もうそれ程までに、お前の“個性”の侵蝕は進行しているんだ」

 

「………」

 

 相澤が言うと、青山は静かに俯く。

 青山は、自分の“個性”の侵蝕がもう引き返せないところまで進んでいる事に気付いていた。

 すると相澤は、避けられない死を目の前に、目から光を失った青山に言葉を投げかける。

 

「だが、お前を救う方法が一つだけある。ひなたの“個性”でお前を“無個性”に戻し、お前の心を弄んだクソが施した改造を無かった事にする。現状これが唯一お前が助かる方法だ」

 

「…………」

 

「もちろん、せっかく手に入れたものを手放すという決断がどれほど残酷かは理解しているつもりだ。そう易々と決められる事じゃないのはわかってる。お前にこんな酷な決断を急がせて、悪いと思ってるよ。だが、もう時間が無い。今すぐ決めろ。残り僅かの命だとしても、それでも“個性”を使い続けるか。それとも、“個性”を捨てて新しい人生を歩むか。お前がどっちを選ぼうと、俺はお前の決断を尊重する」

 

 相澤は、青山の目を見ながら残酷な二択を迫った。

 命を捨てるか、“個性”を捨てるか。

 どちらを選んでも、ヒーローを諦めなければならない、残酷な選択だった。

 だが青山は、そうは思わなかった。

 

「…決めました、相澤先生。いえ、初めから答えは決まっていました。僕を、“無個性”に戻して下さい」

 

 青山は、相澤に自分を“無個性”に戻すよう懇願した。

 すると青山の両親は驚いた表情を見せる。

 

「な…!」

 

「優雅…!!」

 

「いいんだ、パパン、ママン! 僕は、“個性”があれば皆と対等になれると思ってた。だけど皆は、“無個性”だった僕を対等に見てくれてた。どんなに厳しい道だったとしても、僕は皆と同じところへ行きたいんだ!」

 

 青山は、口角を上げながら言った。

 青山の両親は、それで生き延びられるからと言って青山を“無個性”に戻す事を躊躇っていた。

 それは、夢を諦める事と同じだと思ったからだ。

 だが青山は、“無個性”に戻る事が夢を諦める事だとは思わなかった。

 たとえそれが茨の道だったとしても、“無個性”の自分を対等に見てくれた友人達と同じ道を歩む事が青山の望みだった。

 

「もちろん、パパンとママンが僕の為に“個性”を買い取ってくれた事は感謝してるよ。そのおかげで、僕は雄英に入って、皆と出会えた。雄英に入ってから培ってきたものは、“個性”を失くしたとしても、きっと無駄にはならないさ」

 

 そう言って青山は、精一杯の笑顔でサムズアップをした。

 すると相澤は、その言葉を聞いて安心したように微笑んだ。

 

「その通りだ、青山。お前が培ってきたものは、決して無駄にはならない」

 

 そう言って相澤は、待機させていたパワーローダーを呼んだ。

 するとパワーローダーが荷物を持って病室に入ってくる。

 

「悪いね、調整に時間かかった。例のもの、作ってきたよ」

 

「ありがとうございます、パワーローダーさん」

 

 パワーローダーが荷物を持ってくると、相澤がパワーローダーに礼を言った。

 パワーローダーは、ヒーロー科のコスチュームケースに酷似したケースを持ってきたかと思うと、ケースを開けて中身を取り出した。

 それは、青山のヒーロースーツによく似たデザインのパワードスーツだった。

 

「これは…!?」

 

「“個性”に後遺症を負ったヒーローの活動支援用のスーツをお前用に改造してもらったものだ。お前の戦闘スタイルに合わせて、レーザーを出せる仕様にしてもらった」

 

「イレイザーが見せてくれた研究データのおかげで、より君の戦闘スタイルに合ったスーツが作れたよ。半分は(ヴィラン)の、しかも君に“個性”を売った組織の技術で作ったってのが癪だけどね」

 

 青山が驚いていると、相澤とパワーローダーが説明した。

 相澤が青山に『何とかする』と言ったのは、青山が“無個性”に戻っても今まで通りに戦えるようにする事だった。

 実は、相澤達がウロボロスから奪った研究データは、各国の研究機関やサポート会社に提供され、志賀の研究がヒーローのサポートに役立っていた。

 今回パワーローダーがたったの数日で青山の戦闘スタイルを忠実に再現したスーツを作れたのも、半分はウロボロスの技術によるものだった。

 

「元々俺は、お前を“無個性”に戻した後で、出来るだけ今まで通りに戦える方法を探してたんだ。今後お前はこのスーツが無いとレーザーを撃てない身体になる上に、慣れるまでが相当キツいらしいが、それでも構わないか」

 

Volontiers(喜んで)☆」

 

「大丈夫、お前なら必ず乗り越えられる。“無個性”だって、ヒーローになれるんだ。その事を、次の戦いで知らしめてやれ」

 

 相澤は、青山の肩に手を置いて言った。

 その後青山は、ひなたに“個性”を壊してもらい、新しいスーツに慣れる為の訓練を始めた。

 スーツのレーザーは“個性”によるものではないため、相澤やひなたが制御する事もできず、慣れるまでは特設の訓練場でひたすら試し撃ちを続ける他なかった。

 過酷な訓練だったが、青山は何とかレーザーの制御を作戦決行に間に合わせ、作戦に参加する事になったのだ。

 

「青山ぁ! 行けるー?」

 

「ウィ☆見て」

 

 芦戸が声をかけると、青山はスーツの腹の部分からレーザーを発射してみせた。

 だがこのスーツにも、一定時間以上レーザーを放出し続けると体温調節が難しくなり、激しい腹痛を起こしてしまうというデメリットがあった。

 

「三秒以上出すとお腹壊しちゃうんだよね☆」

 

「ちゃんとデメリットまで再現しなくていいよ!」

 

 青山がカッコつけながら言うと、ひなたがツッコミを入れる。

 結局青山は、“個性”を失っても今までとほとんど同じように戦えるようになったのだ。

 すると葉隠は、青山に向かってサムズアップをしながら言った。

 

「やっぱ青山くんは青山くんって感じだね! 頑張ろうぜ、ヒーロー!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

(見てて、パパン、ママン…! 僕だって、ヒーローに!!)

 

「『Can’t stop twinkling スーパーノヴァ』!!」

 

 青山は、新しいスーツを使ってありったけのレーザーを放った。

 青山がレーザーを放った先には葉隠がおり、葉隠は青山が放ったレーザーをキャッチすると身体でレーザーを屈折させた。

 

「これでも…喰らえぇええ!!!」

 

 葉隠は、青山のレーザーを自分の身体で極限まで収束させ、零の頭部目掛けて放った。

 すると、零の頭に仕掛けられた核爆弾が機能を停止し、零自身も脳震盪を起こしてよろめく。

 脳を揺らされた零は、肉体の成長を維持できなくなり、背中に生やした女性や無数の腕が崩壊を始める。

 

「この世界のどこにも“ヒーロー”がいないから!! 僕が、君のヒーローになるんだ!!!」

 

 ひなたは、腕が崩れて剥き出しになった零に向かって叫んだ。

 ひなたが血まみれになりながらも拳を振りかぶって叫ぶと、零は思わず目を見開く。

 零は、ボロボロになりながら自分の心に触れようとしてくるひなたを遠ざけようと、心の奥にしまい込んだものを憎悪で覆い隠した。

 だがひなたは、自らをも顧みず、零の心の中に乗り込んできた。

 自分を遠ざけようとしてくる怨嗟の声に身を裂かれながらも、怨嗟の声を押し退けながら手を伸ばした。

 ひなたが手を伸ばした先には、一人で膝を抱えて泣いている小さな少年がいた。

 伸ばした手は、ついに少年に届いた。

 零の精神に乗り込んだひなたは、少年の腕を掴むと、そのまま憎悪の渦から引き摺り出して抱き留めた。

 

 

 

 ──大丈夫

 

 ──君の助けを呼ぶ声は、ちゃんと聴こえてる

 

 

 

 少年を救い出したひなたは、少年を抱きしめたまま耳元で伝えた。

 ひなたの言葉を聞いた少年は、今まで抱え込んでいたものを爆発させるかのように、ひなたに抱きついて大声で泣いた。

 

 

 

「『クレシェンド・モルト』!! 君を救う、ヒーローの名だ!!!」

 

 ひなたは、ありったけの声で叫びながら、零の顔に右ストレートを叩き込んだ。

 今度こそ全てを出し切った零は、そのまま吹っ飛ばされ、真っ白に変色した髪も本来の黒髪に戻っていった。

 

 

 

 

 

 ──俺が何をしたっていうんだよ…クソッ!! 

 

 ──無理なのよ…! 私、もう耐えられない…!! 

 

 ──やめろよ二人とも! 零凪に聞こえるだろ! 

 

 

 

 父親は、“無個性”の子供を産んだ事が会社に知られてから、理不尽に解雇され、現実から逃げるように酒に逃げた。

 零凪が死んだ後、父親は酒に逃げ続けたのが祟って持病を拗らせて入院し、長男の高校入学を見届ける事なく息を引き取った。

 母親は、“無個性”の子供を産んだ事を親族や近隣住民に責め立てられ、泣きながら長男に縋った。

 零凪が死んだ後、母親は零凪を死なせてしまった自責の念に耐え切れずに心が壊れ、自ら命を絶った。

 兄は、壊れていく家族を支えながら零凪を庇い続けた。

 弟を失った後、両親を失い、親友をも失い、それでもヒーローになった。

 零凪は、家族が壊れたのは自分のせいだと思っていた。

 自分など生まれてこなければ良かったのだと、ずっと自分を責め続けてきた。

 

 

 

 ──お父さん、お母さん、兄ちゃん

 

 ──ぼくが家族でごめんね

 

 

 

 零凪が膝を抱えて泣いていた、その時だった。

 突然、黒髪を腰まで伸ばし白いワンピースを着た少女が目の前に現れた。

 少女は、零凪の手を取ると笑顔で走り出し、視線の先を指差した。

 

 

 

 ──零凪くん! 一緒に遊ぼ! 

 

 ワンピースの少女が指差した先には、零凪がいじめられていた時に一人だけ助けてくれた少女が立っていた。

 そしてその後ろには、ツインテールの少女と幼い少年の姉弟、赤髪の少年、団子頭の少女、トカゲ顔の少年が立っており、皆でボール遊びをしていた。

 

 ──何してんだ零凪! 早く来いよ! 

 

 ──私達、零凪くんがいないとさみしいもん

 

 少年や少女は、零凪を輪に引き入れた。

 すると、後ろに立っていた兄や両親は、笑顔で零凪を見送った。

 

 ──いいよ、行っといで

 

 兄が笑顔で零凪の頭を撫でながら見送ると、零凪は満面の笑みを浮かべて走っていった。

 ふと零凪が振り向くと、自分を連れてきたワンピースの少女は眩しい光の中へと消え、代わりに両手を腰に当てて勇ましく立つヒーローのシルエットが浮かび上がった。

 そこには、満面の笑みを浮かべながら、零凪の幸せを見届けるヒーローの姿があった。

 

 ──もう大丈夫

 

 ──君が泣いてたら、僕はいつでも駆けつける

 

 

 

 ──ただ普通に、誰かを愛せたら良かった

 

 ──ただ普通に、誰かと笑い合っていたかった

 

 ──何処へでも駆けつけて、何度でも助けてくれる、そんなヒーローに出会えていたら

 

 ──与えられた愛情を、誰かに向ける事ができたなら

 

 ──自分の為に、誰かの為に生きる

 

 ──そんな生き方ができてたのかな

 

 

 

 

 

 ひなたは、零を殴り飛ばすと、力を失って落ちていく零のもとへ全速力で駆けつけて抱きしめた。

 すると零は、ボロボロと涙を流して泣き出した。

 

「何だよ……もっと早く来いよぉ…! 今更、もう遅えよぉ……!!」

 

「遅れてごめん。でももう大丈夫。僕がそばにいるから」

 

 全身ボロボロになった零がひなたにしがみついたまま泣くと、ひなたは零を抱きしめたままゆっくりと地上へ降りた。

 零は、髪と目の色が本来の黒に戻り、色が落ちて真っ白だった肌の色も人間味のある色に戻っていた。

 ひなたは、零を抱きしめたまま、ヒーローとしての最後の仕事を果たした。

 

「超常解放戦線幹部、(ヴィラン)名『(ゼロ)』、確保完了」

 

 ひなたは、ボロボロの身体に鞭打ちながら言った。

 すると、ヒーロー達や、零から解放された人々が歓声を上げた。

 特にひなたのインターンを請け負った事があるファットガムや、ひなたのクラスメイトの葉隠は、ひなたの勝利に号泣していた。

 

「屈辱だよ…お前みたいな何も知らないガキに、こんなにあっさり理解されるなんてよ……今更手遅れだってのに、こんなに心が軽くなるなんてよ……!」

 

「………」

 

 ひなたに抱きしめられた零は、力なくポツポツと語った。

 だが、その直後だった。

 

「え…!?」

 

 突然、ひなたの腕の中で零の身体が崩れ始める。

 零の身体の崩壊にひなたが驚いていると、零は力無く笑う。

 

「はは、何驚いてんだ。安心しろよ、お前のせいじゃない」

 

「どうして…!」

 

「いや、そりゃあさ。元々死んでた人間を生き返らせて、未完成の“個性”与えて、改造手術までして、そこまで無茶したらこうならない方がおかしいって話。元々大人になる前に死ぬはずだったのを、気合いで生き永らえてただけだしな。でも、もう永くないのはわかってた」

 

「そんな……」

 

「後悔は無いよ。俺は、俺のやった事が間違ってたとは思ってない。生き返ってから、俺は俺の生きたいように生きた。こんな俺を必要としてくれる奴らの為に戦って死ねて、本望だよ」

 

 零は、最後の力を振り絞って精一杯の笑顔を浮かべて言った。

 そうしているうちにも、零の身体の崩壊は全身へと伝わり塵になっていく。

 

「ただ……死ぬ前に…お前らみたいな、本物のヒーローに…出会えたら…もっと良かった……そう思っちまった事が…心残り……」

 

 そう言って零は、目を閉じようとする。

 するとその時、ひなたが零の手を取って叫ぶ。

 

「零凪くん! お父さんから伝言!」

 

「兄…ちゃん……?」

 

「『お前が一番つらい時にそばにいてやれなくて、兄貴らしい事を何もしてやれなくて、すまなかった。短い間だったが、俺はお前の兄貴でいられて良かった。生まれてきてくれて、今日まで生きていてくれてありがとう』…ちゃんと、伝えたから!」

 

 ひなたが相澤からの伝言を伝えると、零は目から涙を溢す。

 その言葉は、相澤が零凪にずっと言えなかった言葉、そして零自身がずっと誰かに言って欲しかった言葉だった。

 ようやく心を救われた零は、涙を流しながら満足したように笑顔を浮かべた。

 

「…はは、やっぱ…お前らは……本も…………

 

 

 

 そう言って零は、笑顔のまま塵になって消えた。

 ひなたの腕の中には、零の服と、蘇生に使われた零凪の遺骨だけが残っていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 気がつくと、零は誰かに横抱きにされていた。

 そっと目を開けて見上げると、零が零凪だった頃に好きだった少女が零を横抱きにしていた。

 

 ──ごめんね、あきちゃん。思ったより早く来ちゃった。あきちゃんとの約束、守れなかった。僕は、あきちゃんの願いを、何一つ……

 

 零は、『世界を壊して復讐を果たす』という少女との約束を果たせなかった事を謝った。

 明日を捨ててまで零に託した願いを、何一つ果たせなかった事を悔いていた。

 零が背中から生やした女性の形をした肉塊は、ヒーローに裏切られて魂を穢された少女の怨恨などではなく、零自身の自責の念や生まれてきてしまった事への後悔が具現化したものだった。

 

 ──そんな事ないよ。よく頑張ったね

 

 少女は、零を責める事なく優しく抱きしめた。

 零は、少女と身を寄せ合いながら、ゆっくりと目を閉じて眠りについた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 24年前。

 消太と父親が分娩室の前でソワソワしていると、奥の方から産声が聞こえ、看護師が二人に声をかける。

 

「相澤さん! 産まれました! 元気な男の子ですよ!」

 

 その言葉を聞いて、父親と消太は分娩室に駆けつけた。

 母親の腕には、生まれたばかりの小さな赤ん坊が抱かれていた。

 

「可愛いなぁ…まるで天使みたいだ…!」

 

「俺が、お兄ちゃん…! 俺の弟…!」

 

 両親は涙を流しながら零凪の誕生を喜び、消太も自分に弟ができた事を喜んでいた。

 零凪の母親は、感動で涙を流しながら、消太と零凪を抱きしめる。

 

「消太、零凪。生まれてきてくれてありがとう。愛してる」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「!!」

 

 零の死を見届けた後、暗闇の中にいたひなたは、ぱちっと目を見開いてあたりを見渡す。

 見ると、ボロボロだった身体には治療が施されていた。

 ひなたが目を開けると、“個性”を使い果たして痩せたファットガムがひなたの顔を覗き込む。

 

「おぉ!! 良かった!! 目ぇ覚めたか!!」

 

「え───っと……?」

 

「ファットさんや! 結果にコミットしてん!」

 

 痩せたファットガムの事を誰だか分からずにひなたがキョトンとしていると、ファットガムは自分を指差して言った。

 ひなたはふと、他のメンバーや零に操られていた市民はどうなったのか気になった。

 

「他の皆は……? 操られてた人達は…!?」

 

「安心せぇ、ここに残った奴らは全員無事や。操られとった人らも皆元に戻ったしな。他んとこはまだ交戦中。決着は俺らが一番早かったみたいやな」

 

 ファットガムが言うと、ひなたは安心した様子でため息をつく。

 するとファットガムは、ニカッと笑いながらサムズアップをした。

 

「カッコ良かったで、ヒーロー!!」

 

 ファットガムが言うと、ひなたは大きく目を見開く。

 零が連れてきた(ヴィラン)は全員確保され、零の“個性”にかかっていた一般人は、一人も血を流さず保護された。

 それを知ったひなたは、ヒーローという立場も忘れて泣き出した。

 父親のようなヒーローになりたいと、8年間絶やさず積んできた努力がようやく報われたのだ。

 苦痛に耐え忍んだ3年間は、なりたいものになろうともがいた8年間は、決して無駄ではなかった。

 ひなたの生きた11年間が実を結んだ今、ようやくひなたの心は本当の意味で救われた。

 トロイアでの零との戦いは、ひなた達ヒーロー側の勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 




原作以上に過去が重い相澤先生。
いや、別にいじめたいわけじゃないんですよ。
許してつかぁさい。
そんでもってお馴染みプロフィールのコーナー



(ヴィラン)名:(ゼロ)

本名:相澤(あいざわ)零凪(れいな)

性別:男性

年齢:24歳

所属:(ヴィラン)連合→超常解放戦線BLACK隊長

“個性”名:『夢幻』『無効』(右眼と左眼で別の“個性”を所持)

身長:168cm

体重:54kg

誕生日:2月29日

血液型:AB型

出身地:東京都

好きなもの:妹→連合の皆

嫌いなもの:妹→なし

性格:拗らせシスコン

戦闘スタイル:初見殺し&近接格闘

口調:一人称は『僕』又は『俺』。口調はフレンドリーだが、連合メンバー曰く『何故か癇に障る喋り方』。

ICV:緒方恵美



VILLAIN’S STATUS
 
パワー:S
スピード:S
テクニック:S
知力:B
協調性:E



◯概要

(ヴィラン)連合の一員で、自称ひなたの兄。

◯人物

元々はひなたを生み出した組織『ウロボロス』にいたが、施設から姿を消し、(ヴィラン)としての人生を歩んでいる。その後、オールフォーワンの勧誘を受け(ヴィラン)連合に加入。『友達が困っていたら放っておけない性格』を自称しており、(ヴィラン)連合の初期メンバーにはある程度の思いやりを見せ、かつて同じ施設にいたよしみでひなたの事も特別視しているが、それ以外の人間はどうなろうと構わないと考えており、平気で民間人を殺したり仲間を捨て石にしたりする。

その正体は、19年前に事故に巻き込まれて死亡したと思われていた相澤消太の実弟。
遅咲きかつ周囲には影響を及ぼさない“個性”故に“無個性”だと誤解されていじめを受けており、事故で重傷を負った際にヒーローに見捨てられ、表向きでは死んだ事になっていた。
元はヒーローに憧れる純粋な少年だったが、ヒーローに裏切られた事でヒーロー社会そのものに失望している。
その生い立ち故か情緒が5歳で止まっており、精神的な幼さが目立つ。

最終決戦では、ひなたと交戦。
今までに操った人間の“個性”を借りてひなたを追い詰めるも、ひなたの『滅葬零曲(モルテニエンテ)』で“個性”を凍らされて敗北。
しかし、土壇場でひなたと同じ自己進化能力を覚醒させ、“個性”無しでひなたを瀕死まで追い詰めた。
最終的には脳内に仕込んだ核爆弾で自爆を図ったものの、その場にいたヒーロー達の活躍により核爆弾を停止させられひなたに倒され、“個性”が発現する前の状態に戻った。
死に際にひなたや相澤の言葉を聞いた事でようやく心を救われ、最期は満足して塵になって消えた。
 
◯容姿

白髪と白い肌を持っており、所謂アルビノ。目は右が碧、左が紅のオッドアイ。女性的な容姿をしているが、歴とした男性。なお、昔受けた手術により、顔から下の肌がツギハギになっているため、ロングシャツにレギンス、首元のマフラーと露出度の低い格好をしており、上にロングコートを羽織っている。ひなたとの戦いで全ての力を使い果たし、死に際に本体の黒髪黒眼に戻り、肌の色も人間味のある肌色に戻った。

◯特殊能力

『あきちゃん(仮)』
零の背中から生えた女の形をしたナニカ。全長2〜3mくらい。
肩口から無数に腕を生やす事ができ、腕は捥がれてもすぐに再生する。
生やせば生やす程生成速度が上がり、スピードに全振りすれば音速を優に超える速度での攻撃が可能。
腕の一本一本がハイエンドに匹敵する腕力を持ち、尖った爪は鋼鉄を紙のように切り刻む切れ味を持つ。
“個性”ではなくあくまで細胞分裂による成長の延長であるため、『抹消』で消す事はできない。

◯“個性”

右眼と左眼でそれぞれ別の“個性”を所持している。
“個性”を使用する際は、使う“個性”が宿っている方の目が光る。

『夢幻』
零が志賀に与えられた“個性”。“個性”使用中は左眼が青く光る。
元々はとある人物が持っていた“個性”。
以下の能力を自在に使う事ができる。
・強力なマインドコントロール
・強力な幻覚を操る
・他人の“個性”の奪取
・身体能力の強化
・動物の使役
・死体の使役
ただし右眼を開けていないと“個性”を発動できない。

『無効』
左眼側の“個性”。“個性”使用中は左眼が赤く光る。
左眼で見た相手の“個性”を無効化する。
『抹消』に似た“個性”だが、あくまで『効かない』だけで“個性”の発動を妨害する事はできない。
心操の問いかけに答えても洗脳されず、緑谷の『フルカウル』使用時のデトロイトスマッシュもただのパンチになり、爆豪の爆破や轟の炎熱の炎の中でも火傷するどころか熱さすら感じずに動ける。
また、物体に宿す事も可能であり、ナイフに『無効』を宿せば、果物ナイフ一本で青山のネビルレーザーも両断できる。
その性質上、彼の“個性”の前ではエネルギーを放出する系の“個性”は“無個性”に等しくなる。
ただし、異形型の“個性”を無効化する事はできない。
その他、物質を生み出したり物質を変質させたりする“個性”の場合、例えば峰田のボールや竜崎の操る海水などは“個性”由来の効果が継続しているため無効化できるが、八百万の“個性”で生み出した銃弾や麗日の瓦礫攻撃などは、“個性”を既に発動し終えている状態のため無効化できない。
また、お互いの相性の関係からかは不明だが、何故か相澤の『抹消』は無効化できない他、ひなたには力技のゴリ押しで攻略されている。
ちなみに探知機の役割も果たしており、相手が自分に対して何の“個性”を使っているのかもわかる。
今持っている“個性”は殻木の複製で、本物の『無効』は死柄木が持っている。



相澤(あいざわ)零凪(れいな)

性別:男性

年齢:5歳

“個性”名:『無効』

身長:99cm

体重:15kg

誕生日:2月29日

血液型:AB型

出身地:東京都

好きなもの:兄ちゃん、ヒーロー、チョコボール、ハンバーグ、カレー

嫌いなもの:特にないです

性格:優しい



◯概要

19年前に亡くなった、相澤消太の実弟。

◯人物

明るくて兄である消太を慕っている心優しい少年。
同年代の誰よりも才能があり、将来はプロヒーロー確実だと期待を受けていた。
しかし“無個性”だと誤診を受け、心無い周囲から迫害を受けるうちに心が荒んでいった。
事故に巻き込まれて重傷を負い、救助に来たヒーローに見捨てられ、最期はヒーロー社会に失望しながら死んでいった。

…かに思われたが、実は死体を志賀に回収され、蘇生手術により生き返っている。
ヒーロー社会そのものに失望しており、(ヴィラン)として生きていく事を決意した。
 
◯容姿

黒髪で消太と同じ髪型だが、母親譲りでくりっと丸いダークブラウンの目をしている。
小柄で華奢。中性的な造形で、一見すると少女のよう。
死後、髪と肌が白く変色し、瞳も碧と紅に変色している。

◯“個性”
『無効』
上記と同じ。
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