抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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はい、というわけでお次は2番目に票数が多かったお茶子VSトガ編です。
ではではどうぞ。


麗日お茶子:ライジング

 ひなたが零を倒す数分前、奥渡島では、麗日がトガと対峙していた。

 麗日は、“個性”を使ってトガの前に飛び出すと、トガに向かって訴えかけた。

 

「トガヒミコ! あなたと会ってから、あなたの事考えてた」

 

「私は考えなかったよ、もう! 世界が私を拒むなら、私も世界を拒む」

 

 麗日はトガと対話をしようと試みるが、もはやトガには麗日の声は届かなかった。

 トガは、チューブで繋がった鏢のようなサポートアイテムを飛ばして麗日を追い詰める。

 麗日は、ポーチからピンポン球サイズの特殊弾を取り出して浮かせ、飛んできた鏢を全て防いだ。

 だがその直後、いつの間にか麗日の背後に忍び寄っていたトガが這い寄る。

 

「お茶子ちゃん、かなしいね」

 

 そう言ってトガは、麗日にナイフを突き立てようとする。

 

「あなたなら分かると思ったのに。だってお茶子ちゃんは私と────同じ

 

 

 

 THUMP!!! 

 

 

 

 トガが麗日に話しかけたその時、蛙吹がトガにドロップキックを仕掛けた。

 トガが水面に叩きつけられると、麗日は背後を振り向く。

 

「梅雨ちゃ…フロッピー!!」

 

 麗日が叫ぶと同時に、蛙吹は水面に着地した。

 

「おくれてごめんなさい。お茶子ちゃん(ウラビティ)、怪我は?」

 

「大丈夫、かすり傷。ナイフの回収を。血がついてる」

 

 蛙吹が麗日を心配すると、麗日は傷を押さえながらもナイフを回収するように言い、蛙吹はコクっと頷いて舌でナイフを巻き取って回収した。

 するとその時、水面に浮いていたトガが足をついて立ち上がる。

 

「生きにくい。私はこんなに”好き”なのに。もういい。出久くんもお茶子ちゃんも梅雨ちゃんも、大好きだけどもういいよ。なりたい自分に なりたいの。私は私が当たり前に生きたいだけ」

 

 そう言いながらトガは、腰のポーチの方へ意識を向け、トゥワイスの事を考えていた。

 

「私はトガヒミコ。ヒーローはいらない。だから消えてね。さようなら」

 

「いやだよ! 私も私の当たり前を全うする。麗日お茶子として!」

 

 トガが麗日に突進すると、麗日は構えの姿勢を取った。

 麗日は、特殊弾をトガ目掛けて投げ、ワイヤーで特殊弾を操った。

 トガは麗日の放った特殊弾を避けると、ミスディレクションを使って麗日の意識の外へと消え、背後から麗日を刺しにかかる。

 だがそうはさせまいと、蛙吹が舌で攻撃を放つと、トガは鋭い視線を向けながら今度は蛙吹に斬りかかろうとする。

 するとその時、トガ目掛けて肉片が飛んでくる。

 

「そこ!!」

 

 トガは、肉片を左腕で弾き飛ばし、一旦距離を取った。

 そこには、目だけを分割した取蔭が宙に浮いていた。

 

「リザーディ!!」

 

「あっぶね、見失うとこだった」

 

 目を切り離し、口だけになった取蔭が麗日と蛙吹をサポートした。

 取蔭は、目を分割して視野を広げる事でトガのミスディレクションに対応していた。

 他の感知系の“個性”のヒーロー達も、トガの気配を常に探りながら戦っていた。

 トガが感知系のヒーローに追い詰められて姿を現すと、麗日がトガに向かって叫ぶ。

 

「止まってトガヒミコ!」

 

 麗日はトガに向かって叫ぶが、トガは聞く耳を持たなかった。

 するとその時、ギャングオルカが叫ぶ。

 

「こいつ…! 『超再生』が入ってない!! (ヴィラン)の数も減ってきた!! ニアハイエンドを抑えればいける!! この島でこいつらを制圧する事が、俺達の使命だ!!」

 

 ギャングオルカが叫ぶ中、トガはヒーロー達から逃げ続けていた。

 だが(ヴィラン)の数が減るうちに、ヒーローが正確にトガの居場所を探れるようになる。

 トゥワイスの血液量は30〜40分が限界であり、ここでトゥワイスの血を飲んで数的優位を覆せても、この島だけで終わってしまう可能性が高い事をトガは認識していた。

 トガは、ここにきて大局的な戦術を考え始めていた。

 トガは、自分の為すべき事を果たそうと考え、血の入った瓶を取り出し口を大きく開けて血を飲もうとする仕草をした。

 だがその仕草を、蛙吹は見逃さなかった。

 

(来た! 血のストック! オールフォーワン!? 死柄木!? 誰の血だろうと、それをさせない為の!!)

 

 蛙吹は、トガが取り出した瓶を舌で砕いた。

 だがトガは、それを読んでいたとでもいうのか、不気味な笑みを浮かべていた。

 

「梅雨ちゃんは冷静…そこね、だからそれはフェイク。オールフォーワンさんがくれた、“脳無を引きつけるお薬”です」

 

 トガがそう言った直後、ニアハイエンドが割れた瓶の方を振り向き、ギャングオルカを振り解いて“個性”で攻撃を仕掛けた。

 ニアハイエンドが放った攻撃が降り注ぎ、蛙吹は他のヒーロー達と分断されてしまう。

 

「フロッピー!!」

 

 麗日は、降り注ぐ水飛沫を掻き分けながら、蛙吹に向かって叫んだ。

 麗日の視線の先にいたのは、血を流した蛙吹を横抱きにする蛙吹の姿だった。

 トガは、ニアハイエンドが攻撃を仕掛けた一瞬のうちに蛙吹を刺し、血を吸って変身していたのだ。

 

「ちう」

 

 蛙吹の姿に変身したトガは、瓶の中に入ったトゥワイスの血を啜る。

 するとその直後、トガがトゥワイスに変身し、次々と分身を生み出していく。

 それを見た麗日は、危険を顧みずに咄嗟に蛙吹を助け出した。

 

「フロッピ!!」

 

「ケロ…」

 

 麗日が蛙吹を助け出すと、蛙吹は弱々しくも返事をした。

 トガが生み出した分身は、さらに分身を生み出し、その中にはオールフォーワンや荼毘、死柄木、そして零の分身も混じっていた。

 死柄木の分身は、地面に触れて『崩壊』を起こそうとする。

 だが、トガが生み出した死柄木の分身は、“個性”を使う事ができなかった。

 

「“個性”が…使えない…?」

 

 本来トゥワイスの“個性”は、ひなたのような特殊なケースを除いて、コピーした人間も“個性”を使う事ができた。

 だがトガがトゥワイスの“個性”で生み出した分身には、それができなかった。

 死柄木の分身が“個性”を使えずに苛ついているのを見た麗日は、かつてトガに言われた言葉を思い出した。

 トガは以前、『“好き”な人の血なら“個性”もその人になれた』と話していた。

 逆に言えば、“好き”な相手の“個性”しか使えないのである。

 そしてその性質は、どういうわけか『二倍』で増やしたコピーにも受け継がれていた。

 トガがトゥワイス以外の連合のメンバーの事も『好き』だという気持ちには、嘘偽りは無かった。

 だがトゥワイス以外は“個性”を使えないという事は、死柄木達は“好き”には当てはまらないという事だった。

 しかし、いつトガの気持ちが変化して死柄木の分身が“個性”を使えるようになるかもわからないため、早急に本体を見つけ出さなければならない事に変わりはなかった。

 

 だが、麗日が大量のトゥワイスの中からトガを探し出そうとしたその時、零の分身の近くに見慣れた人物が立っている事に気がつく。

 零の分身は、自分より頭一つ小さなその人物に愛おしそうに後ろから抱きついており、まるでその人物に近づく者を阻むかのようにヒーロー達に殺気を向けていた。

 零の分身が抱きついていたのは、黒いドレスに身を包んだひなたの分身だった。

 

「ひなた…ちゃん……?」

 

 ひなたの分身は、捕縛武器を構えてグッと踏み込んだ。

 すると次の瞬間、ひなたが目の前から消えた。

 

「皆、避けてぇ!!!」

 

 麗日が叫んだ、その直後だった。

 トゥワイスが生み出したひなたの分身は、麗日の後ろにいたヒーローを捕縛武器で八つ裂きにしていた。

 

「感知を怠るな!! 場所さえわかってれば、どうとでも…」

 

 感知系の“個性”のヒーローが指示を出したその直後、ひなたの分身が捕縛武器でそのヒーローの首を刎ねた。

 攻撃の軌道が読めていても、圧倒的なスピードで襲いかかってくる相手にはほとんど無意味だった。

 麗日が振り向くと、トガが涙を流しながらトゥワイスの分身に紛れてひなたの分身を生み出していた。

 

「ひなたちゃんなら私の事わかってくれるはずって思ってた時期もあったなぁ。ひなたちゃん、私、あなたの事“好きだった”よ」

 

 そう言ってトガは、トゥワイスの分身にひなたの分身を作らせる。

 ひなたの分身は、ナイフを片手に次々とヒーロー達に襲いかかる。

 トガは、次々と分身を生み出し、その場にいたヒーローを全員殺しにかかった。

 ひなたの分身は、目に留まらぬ速業で次々とヒーロー達を惨殺していく。

 だが麗日と蛙吹は、ひなたの攻撃を捌くと、次々とひなたの分身を倒していった。

 

「『ゼロ・グラビティ・ミーティア』!!」

 

 ひなたが両腰のナイフを抜いて振り回してくると、麗日は“個性”とG・M・Aでひなたを返り討ちにし、蛙吹は蹴りでひなたを吹き飛ばした。

 

「ごめんね! 私達、()()知ってるから! こんなの、本物に比べたらどうって事、ないっ!!」

 

「ケロ! 私達の知ってるひなたちゃんは、もっと強くて優しい子よ。私のお友達に酷い事なんか絶対しないわ」

 

 そう言って二人は、次々と襲いかかってくるひなたの分身を倒した。

 ひなたの分身は、今の二人で十分に捌き切れるほど弱くなっており、本物の足元にも及ばなかった。

 トガがひなたを増やせば増やすほど、生み出されるひなたは弱くなり、何もしなくても溶ける個体すら出始めた。

 

「明らかに弱くなってるわ」

 

「うん…でも、どうして…」

 

 見るからに弱くなっているひなたの分身を見て、蛙吹と麗日は疑問を口にする。

 蛙吹は、ひなたの分身が弱くなっている理由について、自分の考えを話した。

 

「もしかしたら、ひなたちゃんを“好き”って気持ちも弱くなってるのかも」

 

 蛙吹が言うと、麗日は蛙吹の方を振り向く。

 

「ヒミコちゃんが“好き”なのは、前のひなたちゃんで、今のひなたちゃんじゃないのかも。で、その“好き”って気持ちもここに来て少しずつ迷いが生じてる…そんな状態なんじゃないかしら。あくまで憶測だけれど」

 

「迷い…」

 

 蛙吹が言うと、麗日は全面戦争の際にトガに言われた言葉を思い出した。

 トガがひなたを“好き”という気持ちには、嘘偽りは無かった。

 しかし本物のトゥワイスはひなたの血清で作った“個性”破壊薬で“無個性”にされた挙句ヒーローに捕まったため、トガはトゥワイスがヒーローに捕まる原因を作ったひなたを恨んでおり、純粋な好意を向けられなくなっていた。

 トガが生み出せるのは、自分が“好き”だった頃のひなたの分身だけだった。

 

 麗日がひなたの分身から他のヒーローを救出したその時、麗日はトゥワイスに変身したトガと目が合う。

 麗日は、トガの流した涙を見逃さなかった。

 

「消えろ、ヒーロー!」

 

哀れな死の行進(サッドマンズデスパレード)

 

 トガは、トゥワイスの分身を無限に生やし続けた。

 無限に増え続けるトゥワイスの分身によって奥渡島はものの数分で埋め尽くされ、ヒーロー達は数の暴力に抗えずに押されていく。

 トガは、ヒーローへの憎悪に駆られつつも、ひなたとの戦いで限界を迎えて命を落とした零、そして轟と交戦している荼毘の心配をしていた。

 するとその時、トガの左手首に麗日のワイヤーが巻きつき、麗日が“個性”を使って浮き上がり、ワイヤーを巻き取ってトガを引き寄せようとする。

 

『ゼロ・グラビティ・スペースウォーク』

 

「去年の夏からの付き合いだけど、私けっこう考え変わったよ!」

 

「遅いって言ったでしょ」

 

「遅くてごめん! でも…見つけられた!」

 

「…うるさい」

 

「あなたは泣いてた…!! きっと、トゥワイスにできる事ができなくて、殺意が混ざって、今は純粋な“好き”だけじゃない」

 

 麗日は、トガの涙を見て気がついた事をトガに伝えた。

 するとトガは激昂しながらナイフを右手に持って振りかぶり、顔の右半分の変身が解けて元に戻っていた。

 

「うるさいんだよ麗日お茶子!!! あなたが私の、何を知ってるの!? 何一つ不自由なんか無かったくせに、()()()に合ってただけのくせに!! 生きやすく生まれただけのくせに!!」

 

 そう言ってトガは、大量の分身の中で蠢く何かに向かってナイフを突き立てようとした。

 麗日は、その光景を見て思わず目を大きく見開く。

 そこにいたのは、分身ひなたとトゥワイスに捕まった蛙吹だった。

 

「ケロ…」

 

「フロッピー!!」

 

 トガが蛙吹にナイフを突き立てようとすると、麗日が叫ぶ。

 分身ひなたを倒し続けていた蛙吹だったが、トガに刺された時のダメージと、容赦なく破壊音波を浴びせながら増え続ける分身ひなたによって蛙由来の器官を内側から傷つけられた事によるダメージの蓄積が祟り、トゥワイスの分身から逃げ切れずに捕まってしまったのだ。

 トガは、ワイヤーで麗日に引き寄せられながらも、蛙吹をナイフで斬りつけた。

 

「麗日ぁああああ!!!」

 

 トガは、引き寄せられながらも麗日に敵意を剥き出しにして叫ぶ。

 斬りつけられた蛙吹の血が分身に降り注ぎ、分身は次々と蛙吹の姿に変身した。

 中にはニアハイエンドとの戦いで負傷したヒーローの分身も混ざっており、ヒーローの分身と、分身ひなたによる音波攻撃でヒーロー達は完全にトガに翻弄された。

 蛙吹は、大量の分身に追い詰められながらも、自分の姿に変身した分身に向かって叫んだ。

 

「トガ…ヒミコちゃん…聞いてっ! 私は…! “ルール”を守る事が…ヒーローだと思ってた…!! 外れる事が…(ヴィラン)だと思ってた…! でもねトガヒミコちゃん、私のお友達は今、そんなルールより何より、あなたと向き合おうとしてる。それはただ殲滅するより、ただ確保するより、困難な道だと思う。だから、お茶子ちゃんの事、遅くなったかもしれないけど、少しでいいから…話を聞いて!」

 

 蛙吹は、トガに麗日の話を聞くよう訴えかけた。

 だがトガには、蛙吹の声は届かなかった。

 トガは、麗日の腹にナイフを突き立てようとナイフを振りかぶった。

 

「構造が違う!! お前達が言う祝福も、喜びも、私は何も感じない! そっちの尺度(ルール)で、私を可哀想な人間にするな!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「そういやトガちゃんって、(ヴィラン)名つけねえの?」

 

 ありし日の(ヴィラン)連合の会話で、唐突にトゥワイスが話題を切り出した。

 するとMr.コンプレスとスピナーが同調する。

 

「確かに」

 

「そーいやお前とウチのボスくらいだな。(ヴィラン)名が無いの」

 

「つけよーぜ! いらねーよ!」

 

 トゥワイスは、トガに(ヴィラン)名をつけるよう勧めた。

 だがトガは、首を横に振った。

 

「やです」

 

 トガは、子供っぽく首を振って(ヴィラン)名をつけるのを拒否した。

 だがMr.コンプレス、スピナー、トゥワイスは男子中学生のノリでトガに(ヴィラン)名をつけようとする。

 

「あった方が箔がつくよ」

 

「女吸血鬼『カーミラ』…!」

 

「『血う血う』『ピカちう』」

 

「や!」

 

 Mr.コンプレスはトガに(ヴィラン)名をつけるよう勧め、スピナーとトゥワイスは勝手にトガに(ヴィラン)名をつけようとし、トガは二人がつけた(ヴィラン)名を拒否した。

 するとそこへ、飲み物を取りに行っていた零が参戦する。

 

「トガぁ、僕がカァイイのつけたげよっか。『鏖殺姫』」

 

「「だっせ」」

 

 零がフリップを見せながらドヤ顔でクソダサ(ヴィラン)名を言うと、Mr.コンプレスとスピナーがツッコミを入れる。

 すると何故かそれを皮切りに大喜利のようなノリになり、トガの(ヴィラン)名を決めようの会(※たった数秒前に発足)の参加者達は次々と(ヴィラン)名を提案した。

 

「『エリザベート』」

 

「『ブラッディメアリー』」

 

「『ハイちう』」

 

「『紅蓮地獄悪魔女帝(クリムゾンヘルデビルエンプレス)』「や!!」

 

「「「零ォ━━━!!」」」

 

 零が調子に乗ってフリップを見せながらふざけた(ヴィラン)名を提案すると、零のクソダサネーミングが一番気に入らなかったのか、トガは頬を膨らませながら零の眉間にナイフを投げた。

 トガが投げたナイフが零の眉間に突き刺さって零が血を噴き出しながら倒れると、先程まではしゃいでいた三人が叫び声を上げる。

 すると見兼ねたマグネが、同じ女性としてトガの肩を持つ。

 

「ちょっと男子! あんた達が大喜利みたいなノリで言うからトガちゃん拗ねちゃったじゃないの!」

 

 大喜利のノリで変な(ヴィラン)名をつけられそうになったトガは頬を膨らませて拗ね、マグネがトガを宥める。

 すると黙って聞いていた荼毘が口を開く。

 

「下らねえ。個性届制定前までの名残だろ。客喜ばせるだけだ」

 

「『荼毘』が言うなよ」

 

 荼毘が言うと、Mr.コンプレスがツッコミを入れる。

 すると死柄木も話し始める。

 

「昔は”ヒーロー””(ヴィラン)”に違いなんかなかったんだってな。一説によると、得体の知れねえ敵対者への仮称が始まりだったそうだ。そこから素性隠しに自ら渾名を名乗る者が現れたと…生き抜く為に被った別人の皮が、いつしかコミックに倣った“記号”となった。世界がコミックになったのは、“名乗り”が原因って説さ。俺ぁいいや」

 

 死柄木は、『カッコいいけどな』と言いつつも(ヴィラン)名は名乗らない事にした。

 するとトガは、「きゃっ!」と声を上げながら嬉しそうに椅子から飛び上がる。

 

「だから連合入ったの! 私はトガヒミコとして生きるのです」

 

 そう言ってトガは、満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 トガは、麗日にナイフを突き立て腹に突き刺そうとした。

 だがナイフは、麗日が掴んで止めたため腹には刺さらなかった。

 

「同情なんかじゃ…ない…!」

 

「!」

 

 麗日は、ナイフを掴んで手が切れ血が流れるのもお構いなしにナイフを握りしめた。

 そしてそのままトガを抱きしめて指の腹の肉球で触れる。

 するとトガに“個性”が発動し、トガが浮き上がった。

 だがトガは、麗日を振り解いて激昂した。

 

「耳当たりの良い事言ったって、結局檻に入れて死刑でしょう…!? でなければ殺すだけだ! 勝つか負けるか、生きるか死ぬか、生存競争なんだよこれはもう!!」

 

「それは、お互い“当たり前”だね」

 

 トガが叫ぶと、麗日はナイフで切れて血が流れた手を前に出しながら言った。

 するとトガは、ギリっと歯を食い縛りながら麗日を睨む。

 

「同情じゃないなら、ただのエゴだ…!! 互いにそうなら、死ねよヒーロー」

 

我々は大勢であるがゆえに(サッドマンズレギオン)

 

 トガは、大量の分身を生み出し、麗日にけしかけた。

 その中には麗日や蛙吹、ひなたの分身の姿もあった。

 

「圧し潰れろ!!!」

 

 トガは、大量の分身で麗日を潰そうとする。

 だが麗日は、G・M・Aで捌きながら分身を次々と浮かせていく。

 

「浮かせるだけだ!! なんのダメージもない!!」

 

「そうだよ…『ゼログラビティ』は、人を傷つける為の力じゃないもの…!!」

 

 トガが激昂して叫ぶと、麗日はトガの言葉を肯定した。

 だがその時、麗日の“個性”の発動限界に達してしまい、麗日は激しく嘔吐した。

 自分の“個性”で酔いながらも、麗日は空中を泳ぎながらトガに言葉を投げかけた。

 

「故意に人を殺めた事…!! 無かった事にはしてあげられない…!! ただ…あなたの顔を見て、そうならざるを得なかった理由があったんじゃないかって…! あの日、世界がグチャグチャになった日に、あなたにあまりに悲しい顔をさせたから…!!」

 

「あれがお前だろう!?」

 

「あれ()私! 聞いてトガヒミコ! 初めて会った時、怖かった…! わからなかったから…!! あの状況で何で…あんなにも純粋に笑えるんだろうって!!」

 

「……っ、うるさい…」

 

 トガは、ギリっと歯を食いしばりながら次々と麗日に分身を差し向ける。

 

「死ね! 何で死なないの!!」

 

 トガが叫ぶ中、麗日はトガの分身に触れて接近した。

 だが分身は絶え間なく麗日を攻撃し、麗日はボロボロになっていく。

 

「一度は突き放したけど、あなたの居心地の良い世界ではないけれど、好きなものを好きと言うあなたの顔は、羨ましいくらいに素敵な笑顔だと思うから」

 

 麗日が叫ぶと、トガは涙を流す。

 麗日は、ようやくトガと目が合うまで分身を押し退けると、トガに血塗れの掌を向けた。

 

「私は、あなたの笑顔を見なかった事にはしたくない!!」

 

 麗日が掌を向けたその時、麗日が触れていない分身まで浮き上がっていく。

『無重力』の伝播、麗日の“個性”の覚醒だった。

 トガが生み出した分身が全て宙に浮き上がり、トガと麗日の視界が一気に開けた。

 麗日は、泣いているトガに向かって血塗れの手を差し伸べながら叫んだ。

 

「罪をなかった事にはできない! 全てを肯定はしない!! でも、まだ少しでも話してくれる気持ちがあるなら、血なんて一生くれてやる! あなたと恋バナがしたいのヒミコちゃん!!」

 

 麗日は、自分の周りにいる分身に次々と“個性”を伝播させていく。

 トガは、分身を浮かされる度に次の分身を生み出すが、麗日は本体のトガを見つけ出して腕にワイヤーを巻きつけた。

 

「私は…家が貧乏で…両親がよく暗い表情(かお)してた…だから、楽してほしくて…喜んでもらいたくて、ヒーローを目指した!! でも大きくなるにつれて、世界は両親と家だけじゃなくて、他人(ひと)が存在する事を知った!」

 

 麗日は、トガに自分の思いを語った。

 トガは、腕に巻きつけられたワイヤーを引っ張り、麗日を引き寄せようとする。

 麗日は、トガに引き寄せられながらも自分の思いを語り続けた。

 

「そして緑谷出久を好きになって、今はあなたをとめたい! これが私! だから今私はここにいる!」

 

「あ゛あ゛あ゛!!」

 

 麗日が自分の思いをトガに告げると、トガは空中で揉み合いになりながらも麗日を何度も斬りつける。

 麗日は、トガに斬りつけられながらも、怯まずトガに向かって叫んだ。

 

「教えて…思った事…思ってきた事…全部!」

 

 麗日は、トガに向かって訴えかけた。

 トガは、麗日にナイフを突き刺そうと腕を振りかぶる。

 だがトガが振りかぶったナイフは、麗日に刺さる前に止まった。

 トガは、ボロボロと涙を流しながら語り始めた。

 

「すぐ、好きになっちゃうの…動物でも、(ヴィラン)でも、ヒーローでも、男の子でも、女の子でも、だって、皆キレイな血ィが流れてるんだもん…!」

 

「…うん!」

 

 トガは、泣きながら自分の思いを語った。

 麗日は、トガの思いを拒絶する事なく聞き入れた。

 

「笑うなって言われたもん……! 羨ましかったんだもん…!」

 

「うん…!」

 

「出久くん、好きだった人に似てたの。斉藤くんって言うの。血ィちょうだいって、言えなかったの。だって、人間じゃないって言われちゃうから…!! カァいくないって思われちゃうから。お茶子ちゃんと出久くんみたいに、正しい事言われておしまいだから、だから(ヴィラン)連合なの…! 私が”好き”に生きられる場所だったの!」

 

 そう言ってトガは、再びナイフを持った手を振り下ろそうとする。

 麗日は、無抵抗のままトガを抱きしめて思いを全て受け止めた。

 トガが振り下ろそうとしたナイフは、麗日に刺さる事はなかった。

 

「ずっとサインを出してくれていたのに、気づくのが遅くなっちゃった」

 

 麗日が言うと、トガは涙を流しながら唸り声を上げる。

 すると変身の“個性”が時間切れになり、トガが生み出した分身が崩れていく。

 麗日は、トガと一緒に涙を流しながらも、笑顔でトガに語りかけた。

 

「私も実は、ボロボロで頑張っている姿が素敵だと思うんだ。(ヴィラン)連合の代わりにはなれないけど…あなたの笑顔が素敵だと、伝えなきゃと思ったの」

 

 麗日は、トガを抱きしめながら優しく語りかけた。

 トガは、唸り声を上げながら麗日に尋ねる。

 

「う゛う゛う゛、私…私…カァイイ?」

 

 トガは、涙を流しながら精一杯の笑顔を浮かべた。

 すると麗日は、目を細めて微笑みながら答える。

 

「世界一」

 

 麗日が笑顔で答えると、トガは嬉しそうに微笑んだ。

 そしてついにトガの分身が限界を迎え、全て霧になって消えた。

 トガの分身が消えると、麗日は浮いていたヒーロー達をゆっくりと地面に下ろし、自分もトガを抱えたままゆっくりと地面に降りた。

 地上に戻ってきたトガは、血を流したのと“個性”の使いすぎでぐったりとしている麗日を見下ろす。

 

「“伝わるゼロ・グラビティ”の巻き添えになったヒーロー達も軟着陸させてる…人を介した分、解除も緩やかに進行するのね…お茶子ちゃん…結局、どこまでいっても落としたりはしないのね」

 

 トガが言った直後、トガは“個性”の副作用で全身に激痛を覚え、その場に膝をついた。

 するとその時、麗日が最後の力を振り絞って地面に手をつき、何とか立ち上がろうとする。

 

「ハァ……ハァ……んのっ、私…わっ、まだ………」

 

 麗日は、腕に力を入れて立ち上がろうとするが、出血と“個性”の反動のせいで身体がいう事をきかず、そのまま地面に伏す。

 それでも這いずって動こうとする麗日を見て、トガが声をかける。

 

「お茶子ちゃん、動いたらダメだよ。血が出てる」

 

 トガが声をかけるが、麗日は這いずってどこかへ行こうとする。

 麗日の視線の先では、トガの分身にやられてボロボロになった取蔭が、気を失った蛙吹を安全な場所へ運ぼうとしていた。

 どこまでも仲間の事を第一に考える麗日を見て、トガは全て終わる前に麗日と出会えて良かったと感じていた。

 

「………お茶子ちゃん。(ヴィラン)連合は、全部ぶっ壊すの。壊れた先にあるのは、きっと…私が生きやすい世界」

 

 そう言ってトガは、激痛が走る身体に鞭打ち、麗日の手を取って血を啜る。

 するとトガは、麗日の姿に変身した。

 

「でも、お茶子ちゃんが言ってくれた事、嬉しかった。生存競争だって私言ったけど…お茶子ちゃんがいなくなるの”だけ”は、やっぱり嫌。この気持ちは、本当だから」

 

 そう言ってトガは、サポートアイテムから伸びたシリンジを、自分と麗日の腕に突き刺した。

 するとトガの腕から血が流れ出し、チューブへと血が流れていく。

 

「私の血、お茶子ちゃんにあげる」

 

 トガは、半分だけ麗日の顔になった状態で言った。

 トガの腕から流れた血は、チューブを通って麗日の身体へと流れていく。

 

「前に死にかけた時、仁くんがこうやって助けてくれた。仁くんの“個性()”はもう無いから、私がお茶子ちゃんになる。他者の“個性”が使える以上、血もその人そのものになる」

 

 トガは、麗日に応急処置をしながら言った。

 麗日は、自分の身体の中に温かいものが流れ込むのを感じていた。

 麗日に血を分け与えたトガは、無理が祟ったのか、力尽きてその場に倒れ込んだ。

 

「フ、フフ…身体中がいたい。もう、動けないや……ごめ…んね、みんな…私………」

 

「ヒ…ミコ…ちゃ……」

 

「お茶子…ちゃん……お茶子ちゃんの…大事な人、いっぱい傷つけて…怒鳴ったりして…何度も斬って…ごめんね……お茶子ちゃんが、お話してくれて…心が、軽くなったの…嬉しかったの…本当よ。お茶子ちゃん、ありがとう…ありがとうねぇ……」

 

 トガは、ポロポロと涙を流しながら麗日に謝罪と感謝を伝えた。

 トガは、最後の力を振り絞り、麗日の方へと手を伸ばす。

 

「お茶子ちゃん…最後に、一つだけ…お願いが…あるの……」

 

「なぁ…に……?」

 

 トガが麗日に話しかけると、麗日は弱々しく返事をする。

 トガは、目に涙を溜めながら笑顔で言った。

 

「私と、お友達になって」

 

 トガは、麗日に手を差し伸べながら言った。

 すると麗日は、トガが差し出した手を握って返事をした。

 

「……いいよ」

 

 麗日は、微笑みながらトガの願いを聞き入れた。

 麗日の手の温もりを感じたトガは、涙を流しながら嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとう」

 

 その言葉を最後に、トガは力尽きて意識を失った。

 するとその時、上空からは風を切る音が、そして地上からは大地を駆ける音が聞こえてくる。

 背中にヒーロー達を乗せ医療器具を持ったブルードラゴンとブラックトータスが、トガの分身の巻き添えになったヒーロー達を救出していたのだ。

 二人とも神話生物由来の異形型の“個性”だったので、分身による被害も最小限で済んでいたのだ。

 蛙吹と取蔭を助け出したブラックトータスは、空を駆けるブルードラゴンに向かって叫んだ。

 

「いたぞ!! こっちだ!!」

 

「はいよ!!」

 

 ブラックトータスが叫ぶと、ブルードラゴンは地上へと降りた。

 ブルードラゴンが降り立った先には、地面に伏して眠る麗日とトガがいた。

 ブルードラゴンは、二人を慎重に持ち上げ、二人を繋いだチューブを見て、トガが麗日に何をしていたのかを察する。

 トガが重傷の麗日に血を分け与えた事を悟ったブルードラゴンは、ギリっと歯を食いしばりながら飛び立つ。

 

「どんなクソだろうが、後輩を生かそうとした奴死なせたら、こっちが後味悪いんだよ…! てめぇがやった事はぜってー生きて償わせっから、覚えてろよクソガキ…!!」

 

 そう言ってブルードラゴンは、負傷したヒーロー達を治療できそうな場所へと運んだ。

 奥渡島での戦いは、トガの降参、そして戦闘不能で幕を閉じた。

 

 

 

 

 




えー、本作では分断作戦が機能しているため、トガちゃんが郡訝にトゥワイス攻撃を仕掛けていません。
代わりに分身ひーちゃんによって奥渡がえらい事になってます。
そしてお茶子の出血が原作より少なかったのとヒーロー達が間に合ったのでトガちゃん生存ルート。

ちなみに分断作戦が正常に機能している理由は後に語られます。
今更ですが、梅雨ちゃんと取蔭ちゃん、二人とも悠木碧さんが演じてらっしゃるのに同じ場所に配置してしまった。
しゃーなしやで。



そしてここで捏造技紹介

『ゼロ・グラビティ・ミーティア』
麗日の作中オリジナル技。
ポーチに仕込んだ特殊弾を投げ、“個性”を使って軌道に変化を生み出す技。
速度は無いが、不意打ちにはもってこい。
戦闘訓練でひなたに言われた事を元に生み出した。
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