抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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緑谷出久:ライジング

「死柄木!! 今度こそ、お前を止める!! 僕の全てを懸けて!!」

 

 緑谷は、死柄木に接近すると、死柄木にスマッシュを放った。

 緑谷が死柄木に向かって叫ぶと、爆豪が爆破で緑谷の横を通り過ぎ、死柄木に爆破を浴びせた。

 全身の汗を一極集中させた攻撃が死柄木に放たれ、死柄木の指が何本か吹き飛ぶ。

 

「俺が風穴ブチ開ける。てめェ懐に入り込め」

 

「かっちゃん…!」

 

「『てめェの全て』じゃねェ! 全員で勝つんだよ!!」

 

「っうん!!」

 

 爆豪が言うと、緑谷は力強く頷く。

 死柄木は、緑谷を捕まえようと大量の指を伸ばす。

 

「僕の元へ還れ、弟よ」

 

 死柄木が緑谷を掴もうとしたその時、天喰がキメラ化した腕で死柄木の指を破壊した。

 波動と風華も、“個性”を使って指をいなした。

 ベストジーニストは、大量の繊維を操って死柄木の指を食い止めながら指示を出した。

 

「総員、デクを援護しろ!! オールフォーワンの体力を少しでも削れ!!」

 

 ベストジーニストが指示を出すと、エッジショットは死柄木の指の中に入り込み、死柄木の巨大な指の大群を切断した。

 だがすぐに指が元通りに再生する。

 

「これが“個性”じゃなく只の成長と言い張るのは無理があるぞ」

 

「オールフォーワンの“個性”が定着すればする程、内に蓄積された“個性”群や多様な外的環境に見合うよう、身体が最適な形態を模索しているんだ、紙原伸也。この身体と力で、全てが僕の掌の上となる。『僕』か『それ以外』の世界が生まれる。姿も形も能力も、規格を失う程に分かたれたこの世界……行き着く先は断絶と崩壊だ。大きすぎる差異は不理解を生む。不理解は畏れと排斥を生む」

 

 エッジショットの発言に対し死柄木が反応して口を開くと、爆豪は汗を流しながら死柄木の発言に反応する。

 死柄木は、不気味な笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「その結果が今じゃあないか。僕が統括すれば、皆等しく被搾取側だ! ヒーローの望む平和な世界に一歩近づくとは、考えられないか!?」

 

 

 

 

 

 BOOOOM!!!! 

 

 

 

 

 

 突然、死柄木の指が大爆破によって弾け飛んだ。

 死柄木の目の前には、全身から爆破を放ちながら進む爆豪がいた。

 

「てめーが今死柄木かオールフォーワンか知んねーけどよぉ…聞くに堪えねーんだよ。神野ン時から! 一言一句!!」

 

 そう言って爆豪は、サポートアイテムを駆使して全身から大規模の爆破を放って死柄木の指を片っ端から消し飛ばした。

 死柄木が指を伸ばせば伸ばす程、爆豪が気化させて四方八方に散らした汗が伝い、一つの爆発が次の爆発を引き起こして連鎖的に指が爆破されていく。

 その事に気が付いた死柄木は、指を切り離して再生し直し本体が爆破されるのを回避しようとしたが、再び生やした指はイナズマとミルコによって消し飛ばされた。

 

「死ィ、柄ァ、木ィ!!」

 

 ミルコは、目に留まらぬ速さで飛び回りながら、死柄木の指を片っ端から吹き飛ばしていく。

 一方で爆豪は、次々と死柄木の指を爆破しながら、膨大なエネルギーを身体の中に溜め込み、キィィィと身体の中心部を発光させていた。

 

「大きすぎる差異も、不理解も、オソレも、とっくに飲み込んだんだよ俺ぁ」

 

 爆豪は、エネルギーを溜め込みながら爆速で死柄木に接近する。

 自分が知っている頃よりも何倍も強くなった爆豪を見て、ベストジーニストは思わず目を見開く。

 

「爆豪…!」

 

「そういうの全部、一歩進んだとこ、もう見てンだよ。時間食っても進もうとしてる連中がいる事、知ってんだよ。よって余計なお世話だ指金玉野郎!!!」

 

 そう言って爆豪は、『クラスター』によって何倍も強化された『榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)』を放ち死柄木を覆う指を全て吹き飛ばした。

 死柄木は、オールマイトをも凌駕する圧倒的なパワーで周囲にいるヒーロー諸共吹き飛ばそうとするが、爆豪の爆破によって衝撃波を相殺される。

 爆豪の放った爆破は、威力こそ凄まじかったが、周囲にいるヒーロー達を吹き飛ばさないよう綿密に制御された爆破だった。

 爆豪は、“個性”で加速して死柄木に近づこうとする緑谷を爆破で後押しした。

 

「行け!!!」

 

 爆豪の爆破で押された緑谷は、一気に加速する。

 六代目の“個性”の『煙幕』で死柄木の目を眩ませつつ、超音速で詰め寄り歴代継承者の“個性”を総動員させて拳を振りかぶる。

『危機感知』で死柄木の動きをコンマ数秒先まで予測し、『黒鞭』のエネルギーを腕に纏って『発勁』で強化し、『変速』と『浮遊』で空気抵抗を極限まで減らしつつ速度を限界まで上げた。

 そして誰かの“個性”が発動しているのか、緑谷の右腕だけが透けていた。

 

「スカしといた! 俺達も全力でサポートするよ、デク!!」

 

 そう言って通形は、『透過』の“個性”で死柄木の指の大群から飛び出しながら言った。

 通形は、2学期のインターン後も“個性”を鍛え続けた事により、触れたものにも『透過』を付与できるようになっていた。

 緑谷は、全てのエネルギーを込めて死柄木の腹にスマッシュを叩き込んだ。

 

「『デトロイトスマァアアアアアアッシュ』!!!!」

 

 緑谷がスマッシュを放つと、死柄木は防御も虚しく内部破壊を喰らい、緑谷の放った衝撃波が背中側に突き抜ける。

 緑谷の渾身の一撃を喰らった死柄木は、大きく目を見開いて血反吐を吐き白目を剥いた。

 緑谷が死柄木の背中に風穴を開けたのを見たマニュアルは、死柄木の方を見る。

 

「やったか!?」

 

 緑谷が死柄木を見ると、緑谷の全力を喰らって一瞬気を失っていた死柄木は、すぐに意識を取り戻すとぐるん、と瞳を緑谷に向けて睨みつける。

 そしてすぐに背中に開いた穴を塞ぐと、大量の指を放つ。

 緑谷は、歴代継承者の“個性”を総動員させて死柄木を倒そうと試みるが、死柄木は次第に緑谷の攻撃を目で捉え始めていた。

 死柄木は、緑谷の攻撃を衝撃波で相殺して防ぎつつ、不気味な笑みを浮かべた。

 

「もう目が慣れた。全てを懸けてなおその程度か、緑谷出久」

 

 そう言って死柄木が緑谷目掛けてグァっと指を伸ばした、その時だった。

 爆豪が足裏から爆破を放って駆けつけると、爆破で死柄木の指を破壊した。

 

「っらァ!!!」

 

 爆豪が爆破を放つと、死柄木の指が弾け飛ぶ。

 爆豪は、再び緑谷を死柄木の懐へ送り込もうと、今自分にできる全力をかけて活路を切り拓こうともがいた。

 普通なら即死を免れない攻撃を喰らったにもかかわらず何事もなかったかのように起き上がる死柄木に対し、緑谷が攻められずにいると、爆豪が死柄木の指を吹き飛ばしながら叫んだ。

 

「怯んでんじゃねー!! 『抹消』が効いてるうちにさっさとぶっ倒せ!!」

 

 爆豪は、緑谷を掴もうと無数に伸びる指を爆破で片っ端から吹き飛ばした。

 だが死柄木の伸ばした無数の指から生えた歯が脇腹と頬を擦り、血が噴き出た。

 ベストジーニストは、咄嗟に爆豪の傷の対処をした。

 

「大・爆・殺・神ダイナマイト!!」

 

「ぐっ…!」

 

 これまで習得した全てを総動員させて死柄木に挑む爆豪だったが、死柄木の圧倒的な力の前ではほとんど無意味に等しかった。

 死柄木は、薄ら笑いを浮かべながら指を伸ばし続けて爆豪を追い詰める。

 

「爆豪勝己。凡夫の分際でここまでやったのは褒めてやるが、所詮君はワンフォーオールの金魚のフン。君がここでどう足掻こうと、状況は何一つ変わらない」

 

 死柄木は、どう足掻いても本体の自分に傷一つつけられない爆豪を嘲笑った。

 死柄木にボロボロにやられプライドまでもへし折られた爆豪は、目に涙を浮かべながら悔しそうに表情を歪めるが、まだ目は死んでいなかった。

 爆豪は、両手からボボボボッと爆破を放ちながら死柄木を睨んだ。

 

「うるっせンだよ…余計なお世話だっつってんだろが指金玉野郎…!! てめェが何を言おうが俺は!! オールマイトを超えるNo.1ヒーローになるンだよ!!」

 

 爆豪は、爆破で死柄木の指を吹き飛ばしながら啖呵を切った。

 次々と指を伸ばし続け予測不能な攻撃を繰り出してくる死柄木だったが、爆豪は死柄木が繰り出してくる攻撃を目で見てから回避し、避け切れない攻撃は攻撃箇所からの爆破で対応した。

 相手の挙動から攻撃を予測して回避行動を取るのではなく、攻撃を見てから回避に移る爆豪を見て、ベストジーニストは爆豪の驚異的な反応速度に思わず目を見開く。

 

「あいつ…見てから防御を…!?」

 

 爆豪は、死柄木の攻撃をいなしつつ、緑谷をサポートした。

 死柄木は、指で自分を包んで防御しつつ、軽く腕を振るって衝撃波を放った。

 衝撃波の直撃を免れた爆豪だったが、攻撃を殺し切れずにダメージを負う。

 

「っそがァアア!!!」

 

 爆豪は、ボロボロになりながらも緑谷の為に活路を切り拓こうとした。

 だが無情にも、背後から大量の死柄木の手が押し寄せる。

 大量の死柄木の手に掴まれ潰されるイメージを脳裏に思い浮かべた爆豪は、咄嗟に爆破で対応しようとするも、追いつかなかった。

 するとその時、ミルコが飛び出し爆豪を助ける形で死柄木の手を片っ端から吹き飛ばした。

 

「『満月乱蹴(ルナラッシュ)』!!」

 

 ミルコは、自慢の蹴技で爆豪に押し寄せていた手を吹き飛ばしニカッと笑った。

 

「いいねェお前!! 生意気だ!!」

 

 そしてビッグ3と風華も、攻撃をいなしつつ緑谷のサポートに徹した。

 波動は、槍状にした波動を何度も死柄木目掛けて打ち込み、死柄木の腕を破壊した。

 

「『捻れて穿つ槍(グリングパイク)』!!」

 

 そして風華も、波動の槍に風を乗せて強化しつつ、死柄木の腕を風で逸らした。

 だがその時、風華の方へ死柄木の腕が伸び、衝撃波を放ってくる。

 風華は、波動のサポートで手一杯で死柄木の攻撃に対し反応が遅れてしまう。

 するとその時、イナズマが電光石火で駆けつけ雷で死柄木の腕を焼き切った。

 

「姉ちゃん…!」

 

 イナズマが風華を助け出すと、風華は目を見開く。

 イナズマの攻撃を喰らった死柄木は、一瞬ピリッと身体が痺れる感覚を覚える。

 

「雷か」

 

 死柄木は、鬱陶しそうな表情を浮かべながら自身を進化させた。

 電撃に耐性のある肉体へと自分を進化させた結果、常人であれば全身が炭になる程の電流を浴びても少し身体が痺れる程度で済んでいた。

 一方でイナズマは、死柄木の指から生えた歯に噛みつかれ、血を噴きながらも叫んだ。

 

「何が何でも切り拓けェ!!!」

 

 イナズマは、死柄木の指にありったけの電気を流し込んで感電させた。

 今の自分の身体ではイナズマの電力に耐えられないと判断した死柄木は、再び進化を始める。

 

「ダメだな」

 

 そう言って死柄木は、電気に弱い元の触手を切り離し、新しい触手を生やした。

 すると通形は、死柄木の攻撃を片っ端から透かしながら尋ねる。

 

「何で壊す?」

 

「失敗しているからさ。今の構造が」

 

「そっか、お前は友達がいなかったんだな」

 

 通形は、死柄木に対して同情の言葉をかけた。

 すると死柄木は、ピクッと反応する。

 

「あ?」

 

「いればわかるはずだ。壊しちゃいけないものがあるって!!」

 

 そう言って通形は、透かしていた攻撃を全て死柄木に当てた。

 だがその時、通形の言葉に反応した死柄木がポツリと呟く。

 

「いるもん…」

 

 死柄木がポツリと呟くと、通形は死柄木の言葉に反応する。

 すると死柄木は、感情を剥き出しにして叫んだ。

 

「みっくんとともちゃんが転ちゃんは優しいからって言ってくれたもん! モンちゃんだって僕と散歩したがるもん!! 僕ちゃんと友だちいるもん!!」

 

「…ごめん」

 

 死柄木のあまりの剣幕に、通形はドン引きしながら謝った。

 するとその時、死柄木は突然頭痛に顔を歪める。

 死柄木の中には、“死柄木弔”でも“オールフォーワン”でもない人格、“志村転弧”が存在していた。

 

「だらぁあああああああああ!!!!」

 

 そしてその頃、波動は死柄木の触手に何本も波動の槍を打ち込んでいた。

 その後ろでは、天喰が食べたものを“個性”で再現し、巨大な砲身を生み出していた。

 今までに食べたもの全てを“個性”で再現した天喰は、死柄木目掛けて大砲を撃とうとする。

 それに気付いた死柄木は、大量の触手を伸ばして阻止しようとした。

 

「小賢しい!」

 

 死柄木は大量の触手を伸ばして天喰を押し潰そうとするが、その場にいたヒーロー達が片っ端から触手を壊して阻止した。

 そしてそれだけではなく、緑谷のスマッシュと爆豪の爆破によるダメージが今になって現れ、死柄木は身体がふらつき足元がおぼつかなくなる。

 爆豪の攻撃を無傷で防いでいたように見えた死柄木だったが、爆豪の気化爆破によって気化した燃料が身体に入り込み、確実にダメージを与えていた。

 死柄木は、先程まで小物と嘲笑っていた爆豪が自分にダメージを与えた事に苛立ちを覚えていた。

 

「あいつ……!」

 

 死柄木は、二人に与えられたダメージが響いてふらつきつつも、ヒーローを殲滅する為触手を伸ばし続けた。

 だが死柄木が触手を伸ばした時には、既に天喰は大砲の発射用意をしていた。

 天喰は、巨大な砲身からありったけのエネルギー弾を放つ。

 

「『混成大夥波動砲(プラズマキャノン)』!!」

 

 天喰がエネルギー弾を放つと、死柄木を守る触手が全て吹き飛んだ。

 するとその隙に、緑谷が音速を超える速度で死柄木目掛けて突進した。

『変速』の“個性”が新たに発動した際、近い“個性”を持つ飯田に速度の制御を習った緑谷は、その事を思い出しながら『変速』を発動していた。

 

『2NDトランスミッション インゲニウムスタイル』

 

 緑谷は、空中で速度を一気に引き上げ、超音速で死柄木に突進した。

 再び反応もできないまま殴り飛ばされると予測した死柄木は、衝撃波で対応しようとした。

 だが『危機感知』でその事を予測していた緑谷は、速度を落として軌道を逸らしていたため、死柄木の攻撃の直撃を免れた。

 似た“個性”を持つひなたに教わった技術を駆使して死柄木の動きを予測していく。

 

『4TH クレシェンドスタイル』

 

 死柄木が緑谷を目で追って追撃しようとすると、緑谷は今度は煙幕を死柄木の顔に噴射して目眩しをした。

 芦戸の『アシッドショット』のように指で噴射口を作って噴き出すように煙幕を死柄木の顔にのみ当てた。

 

『6TH ピンキースタイル』

 

 死柄木の目眩しをした緑谷は、今度は電磁バリアの電気を黒鞭に纏わせ、黒鞭を死柄木の周りに伸ばし、衝撃波に電気を乗せて死柄木を攻撃した。

 衝撃波と電気の相乗効果により、死柄木の身体は一瞬硬直する。

 

『5TH セロファン+イヤホン+チャージズマ』

 

 死柄木の身体が硬直すると、緑谷はその隙に『黒鞭』を腕に纏い、『発勁』で強化した拳で死柄木を殴りつける。

 さらには、『黒鞭』で作った触手で死柄木の死角から殴りつける。

 緑谷の超音速の攻撃に慣れてきた死柄木だったが、『変速』で触れられて動きを遅くされているのと、緑谷が予測不能な攻撃を繰り出してくるせいか反応が追いつかなくなってくる。

 

『3RD シュガーマンスタイル』

 

『5TH レッド+テンタコル』

 

 死柄木は、緑谷の攻撃を対処し切れなくなり、緑谷に吹き飛ばされる。

 死柄木が空中で態勢を立て直そうとすると、緑谷が死柄木に尋ねる。

 

「オールフォーワン…まだそこに死柄木はいるのか?」

 

 緑谷は、死柄木の中にいるオールフォーワンの人格に語りかけた。

 すると死柄木は、不気味な笑みを浮かべながら答える。

 

「何を言うかと思えば……死柄木弔だと? そんな人間はもういない。2つが融け合い()()()()()()()()。だが長く生きた分かな…主はオールフォーワンだ。君が何を考えているか知らないが、全てが理想通りになると思うなよ」

 

 死柄木の中のオールフォーワンが言うと、緑谷は冷や汗を浮かべる。

 だがその時、『透過』で緑谷をサポートしつつヒットアンドアウェイを繰り返していた通形が口を開く。

 

「いや…そうは…見えなかったけどな……」

 

「!」

 

「俺がデリカシーのない発言をしてしまった時────…まるで取り憑かれたかのように、突然めっちゃもんもん怒り出して…子供のようだった。“完全に統合された人”のソレにはとても見えなかったけど……皆が喰らいつく程、不安定になっているように見えた」

 

 通形は、死柄木が突然怒り出した時の事を話した。

 通形の話を聞いた緑谷は、死柄木の手に目を向ける。

 死柄木の手からは、死柄木が志村転弧だった頃の家族の顔が生えていた。

 緑谷の中にいる七代目継承者は、その中から転弧の存在を感じ取っていた。

 

 

 

 ──出久くん。まだそこにいる! 

 

 

 

 一方で死柄木は、腕を変形させながら緑谷の方へ突進していた。

 

「御託はいい、ワンフォーオール(おとうと)を返して貰おう!」

 

 そう言って死柄木は、巨大な腕で緑谷を攻撃した。

 だが緑谷が速度を制御しつつ上へと浮き上がったため、死柄木の攻撃は空振りに終わった。

 

『7TH ウラビティスタイル』

 

 緑谷は、死柄木の攻撃を『浮遊』で回避すると、空中で『黒鞭』で二本の巨大な腕を作り出し、そこに『発勁』のエネルギーを乗せて死柄木を殴りつける。

 死柄木は、緑谷の攻撃に反応できずに吹き飛ばされる。

 

『5TH ツクヨミスタイル』

 

 緑谷の攻撃を受けた死柄木は、緑谷の生み出した『黒鞭』の腕を吹き飛ばそうとするが、死柄木の思惑とは裏腹に、緑谷は『黒鞭』でできた腕をすぐに消滅させた。

 そして『発勁』のエネルギーを貯めた空気砲を放つと、速度と射出角度を制御する事によって空気砲を曲げ、死角から死柄木に見えないエネルギー砲を放った。

 

『3RD トゥインクリング+インビジブル』

 

 死柄木が見えないエネルギー砲によって空中に浮く足場に叩きつけられると、緑谷も死柄木を追う形で足場から飛び上がった。

 死柄木が態勢を立て直そうとすると、緑谷はマントを翻し、マントの内側から『煙幕』に『発勁』を纏わせた煙弾を放つ。

 

『6TH クリエティスタイル』

 

 死柄木の視界が煙弾で封じられると、今度は『エアフォース』で『黒鞭』を砲丸のように放つ。

 

『5TH グレープスタイル』

 

 そして今度は今度は『黒鞭』で尾を作り、『発勁』のエネルギーを貯めて死柄木を尾で殴りつけた。

 

『5TH テイルマンスタイル』

 

 全面戦争の際、緑谷はまだワンフォーオールに身体が追いついたばかりで力を制御できずに死柄木に翻弄されてしまった。

 だが歴代継承者の“個性”を全て使いこなし全面戦争の時より格段に強くなった今の緑谷を見て、死柄木は焦りを覚える。

『抹消』が切れるまで粘ろうとしても、“個性”を使えずダメージが蓄積した状態ではその前に緑谷に完封されてしまうのが目に見えていたため、早々に決着をつけなければならないと判断していた。

 

(伊口は…失敗したか。応援は期待できそうにない。なら…)

 

 作戦に必要なワープゲートが開かない事からスピナーが失敗したと判断した死柄木は、今の状況を打開する為、自分を見て“個性”を消している物間に目を向ける。

 そして、緑谷と交戦しつつも、背中から触手を生やして衝撃波を放つ。

『危機感知』でその後起こる事を予知した緑谷は、血相を変えて叫んだ。

 

「物間くん!!」

 

 緑谷が叫んだその直後、死柄木の放った衝撃波が電柱に直撃し、倒れた電柱が物間の方へ倒れる。

 それを見たイナズマは、咄嗟に電柱の前に飛び出し、物間の方へ飛んできた電柱を金棒で弾き飛ばした。

 イナズマのアシストによって助かった物間だったが、自分の方へ飛んできた電流の光によって一瞬“個性”が弱まってしまう。

 するとその隙に死柄木は、脱皮をして腹から新たな胴体を剥き出しにすると、自分を中心に雄英全体を揺らす程の威力の衝撃波を放った。

 死柄木の放った衝撃波によって、電磁バリアを維持していた電柱が全てへし折れた。

 

 その頃雄英の地下では、唐突な緊急事態にサポート科の生徒達が狼狽えていた。

 

「“電柱”がやられた!! スペアが射出できねえ、ガタがきてる! 超突貫のツケが回ってきた!」

 

「電磁バリアは!?」

 

「残存部で張れるが出力が…」

 

 発目とパワーローダーは、電磁バリアの電力が維持できなくなっている事に焦りを覚えていた。

 するとその時、マンダレイから全体通信がかかってくる。

 

『こちらマンダレイ! 浮上制御が効かなくなった! コントロールが奪われかけてる!!』

 

 マンダレイの通信を聞いた緑谷は、死柄木と対峙しながらも目を見開く。

 死柄木を見て“個性”を消す任務を請け負っていた物間は、死柄木が放った“個性”のせいでダメージを負い、『抹消』を維持できなくなる。

 マンダレイは、物間の『抹消』が切れた事を確認すると、全体通信でその事を伝えた。

 

物間くん(ファントムシーフ)、任務継続困難! 『抹消』が潰された! このままじゃ、最凶の(ヴィラン)が野に放たれる!! 雄英が()()()()…日本が──いえ、世界が、彼一人の掌で壊されてしまう!』

 

()が…いたとして……何をしたかった…? ショッピングモールで…話でも? 無駄だ緑谷(ヒーロー)。俺はお前の(ヴィラン)だ」

 

 腹から新たな胴体を生み出した死柄木は、緑谷に尋ねる。

 緑谷の目の前にいる死柄木は、オールフォーワンではなく死柄木本人の人格だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃スケプティックは、高笑いしながら雄英のシステムに侵入していた。

 

「雄英のシステムなど、私の手にかかればこの通りだ。地下の避難システムも既に我が手中にある!! 旧態に縋った愚衆も、ヒーローも!! 解放の名の下に散るがいい!!」

 

 そう言ってスケプティックが雄英のシステムをハッキングし避難民達を混乱に陥れようとした、その時だった。

 突然、スケプティックのパソコンのモニターのうち一台にノイズがかかる。

 

『見っけ! やっっとシッポ出したわね!! 見つけるのに苦労したんだから!』

 

「あ?」

 

『でもでも私、ちっとも苦じゃないの! ジェントルの為だもの!』

 

 スケプティックが雄英のシステムに侵入していた頃、セントラルにいたラブラバは、笑顔を浮かべながらスケプティックのパソコンをハッキングしていた。

 

『引きこもり時代を思い出すわ…練習でFGI社のサーバにお邪魔して、関連広告全部『GANRIKI☆NEKO』にしたっけ。長ったらしい関数に、広すぎる変数のスコープ。あの頃とコーティングの癖がちっとも変わってない!』

 

「貴様ァアアア━━━━━!!!」

 

 ラブラバが言うと、スケプティックが叫ぶ。

 するとその時、別のモニターに人を馬鹿にしたようなふざけた羊の顔をした紳士が映る。

 

『HAHAHA、ボクもお邪魔してるのサ!』

 

 羊の顔をした紳士は、スケプティックを馬鹿にしたように笑う。

 紳士の顔を見たスケプティックは、羊顔の紳士の正体に気がつく。

 

「貴様ァ…“シエスタ”か!!」

 

Asi es(ご名答)!』

 

 スケプティックが尋ねると、羊顔の紳士のキャラクター、“シエスタ”がゲラゲラ笑いながら答える。

 突然SNSに特徴的なマークが描かれた予告状がアップされ、予告状の通りにターゲットのコンピューターがふざけた顔の羊の紳士に乗っ取られ、後日証拠映像がSNSにアップされるというのが、『サイバーヒーロー』と呼ばれるシエスタの犯行手口だった。

 取引先の会社がシエスタの被害に遭って重要な取引をおじゃんにされたスケプティックは、ラブラバだけでなくシエスタにも恨みを抱いていた。

 ラブラバとシエスタがスケプティックのパソコンを乗っ取って嫌がらせを仕掛けると、スケプティックは発狂しつつも雄英のシステムと避難システムを乗っ取ったコンピュータを人形に変えて逃げ出した。

 

「“雄英”と“避難システム”!! 最も忌むべきこの2つは譲らんぞ!!! 居場所を特定されたとて、逃げれば済むお話よ! 革命の火は絶えぬのだ!!」

 

 そう言ってスケプティックは、隠れ家にしていた洞窟から脱出し逃走を図った。

 だが外には、ハウンドドッグと、Ms.ジョーク達傑物学園のヒーロー達が集結していた。

 

「居場所はもう共有されてるぜ、Mr.スケプティック。一番近くにいた私達が捕まえに来た!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃ラブラバと影山は、セントラルのパソコンでスケプティックに嫌がらせを仕掛けつつ、雄英のシステムを取り戻そうとしていた。

 

「あなたがシエスタだったとはね。日本人だとは思ってたけど、当時まだ中学生だったとは思わなかったわ」

 

「ラブラバさんの方こそ、あのFGI社に喧嘩を売るとはねぇ。貴女のような方と一緒に仕事ができて光栄です」

 

 ラブラバと影山は、お互い凄腕ハッカーである事と、好きな相手の為に戦っている事など共通点があるため、共にハッキングをしているうちに意気投合していた。

 するとその時、警官の一人が叫ぶ。

 

「塚内さん!! 雄英の高度、更に低下!! 陸地に向かってます! 止まりません!!」

 

「相場!! 影山!! 早く何とかするんだ!!」

 

「今やってます!」

 

「ダメね、間に合わなーい!!」

 

 警官の一人が早くシステムを元に戻すよう言うと、影山は苛ついた様子で叫ぶ。

 影山は、作戦の初動に“個性”を酷使したのと、ここ数日寝る時間を削ってシステムを構築していたのが祟り、目は血走り鼻血を流していた。

 ラブラバと影山は、何とかシステムを構築し直して雄英の落下を止めようとするが、想像以上に落下速度が速く、システムの構築が追いつかなかった。

 

「やはり…間違いだったんじゃ…要の最終防衛ラインを…服役中の(ヴィラン)に頼るなんて…!」

 

 警官が絶望の表情を浮かべながら言うと、塚内が呟く。

 

「罪は罪…過去は消えない……だが、そこに“何が”“在る”かだ」

 

 その頃、マンダレイ達は、雄英から脱出し墜落に対応する準備をしていた。

 だがその時、空中で何者かが跳ねながら現れる。

 空中で跳ねている人物に対し、塚内が指示を出した。

 

「頼んだぞ、飛田」

 

 セントラルのモニターに映っていたのは、かつて文化祭中に雄英に侵入しようとしてひなたに倒された(ヴィラン)、ジェントル・クリミナルの姿だった。

 ジェントルが到着したのを確認した影山は、ふぅとため息をつく。

 

「間に合ったぁ……」

 

「頑張ってえええ〜〜〜ジェントルゥ!! ♡♡」

 

 ラブラバは、頬を紅潮させながら全力でジェントルを応援した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 塚内からの通信を聞いたジェントルは、雄英を止める役目を喜んで引き受けた。

 

「もちろん。今はただ、明るい未来を示してくれた彼女に報いたい」

 

 そう言ってジェントルは、“個性”を発動させる。

 数週間前まで水葛刑務所に収監されていたジェントルだったが、タルタロス襲撃によって脱獄したマスキュラーが刑務所を襲った際、他の受刑者が脱獄しようとしていた中、ジェントルはたった一人で他の受刑者に立ち向かい、脱獄を阻止した。

 7ヶ所襲撃を受けた刑務所の中で、ジェントルが収監されていた刑務所だけが、脱獄囚を一人も出さなかった。

 他の受刑者の脱獄を阻止したジェントルに対し、塚内が手を差し伸べたのだ。

 ジェントルは、落伍者の自分を唯一愛してくれたラブラバに会う為、そして今まで出会ったヒーローの中で唯一自分を小物と馬鹿にせず明るい未来を守る為に全力で立ちはだかったひなたに報いるため、雄英を止める任務を請け負った。

 

『あなたといられたら幸せと思ってた。私ったらごうつくばりよ……だって、ジェントルが幸せだと私、もっと幸せなんだもの』

 

 ラブラバが無線越しにジェントルに愛を伝えると、ジェントルがパワーアップする。

 今のラブラバは、普段であれば不可能なパワーアップをも可能にしていた。

 ジェントルに会えなかった分の時間が、ラブラバの“個性()”を強くしていた。

 ジェントルは、雄英の周囲の空気に弾性を付与し、雄英を止めた。

 

「『ジェントリースーパーラヴァー』!!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその頃緑谷達は、死柄木を止めていた。

 

「死んでも地面に触れさせるな!!」

 

 ベストジーニストは、死柄木の触手を大量の繊維で縛って地面から引き剥がしながら、他のヒーロー達に向かって叫んだ。

 エッジショットも、自分の身体を細くして死柄木の触手を次々と切断していく。

 死柄木が地面に向かって触手を伸ばそうとすると、爆豪は広範囲の爆破によって阻止した。

 

「チッ…『気化爆弾(FAEBショット)』!!!」

 

 一方で、イナズマも、電磁バリアの電力を共有しつつ、死柄木の触手を片っ端から雷で焼き切った。

 

「っら゛ァ!! 『霹靂神』!!!」

 

 一方でミルコは、触手に触れないよう蹴りの衝撃波で死柄木の触手を吹き飛ばしていた。

 

「『三日月蹴(ルナシックル)』!!」

 

 ミルコが蹴りで三日月状の衝撃波を放つと、死柄木の触手が消し飛ぶ。

 一方で風華は、ありったけの風を使って嵐を発生させて死柄木の触手が地面に触れるのを防いだ。

 

「『威・風・堂・堂』!!」

 

 風華が触手を風で浮かせると、波動と天喰が“個性”を使って触手を破壊した。

 通形は、自分は“個性”で身体を透かせて触れられるのを回避しつつ、緑谷のもとまで駆けつけて緑谷の周囲の触手を片っ端から透かしていった。

 

「緑谷くん!!」

 

「止まれぇえええ!!! 死柄木!!!」

 

 通形が“個性”を使って道を作ると、緑谷は通形の作った道を通って一直線に駆けつけ、死柄木目掛けて今できる最大威力のスマッシュを浴びせた。

 ヒーロー達が浴びせた攻撃が死柄木の本体にダメージとして蓄積し、緑谷のスマッシュがトドメとなって、触手が全て吹き飛び死柄木の意識を刈り取った。

 だが死柄木は、すぐに意識を取り戻すと、再び衝撃波を放ってヒーロー達を吹き飛ばし、そのまま地面に触れようとした。

 すると、その時だった。

 

 

 

 

 

 ドッ

 

 

 

 

 

 突然、どこからか飛んできた弾丸によって死柄木の右手が吹き飛ぶ。

 それを見た緑谷は、思わず目を見開く。

 モニター越しにセントラルで見守っていた塚内は、その様子を見て口を開いた。

 

「どこまでいこうが、(ヴィラン)も一人の人間だ。俺達は、そこを見ていかなければいけないんだ。友の言葉を借りるなら──彼らの心の奥底に在る──…『原点(オリジン)』って奴を」

 

 そう言って塚内が見守っていたモニターには、死柄木目掛けてライフルを構えるレディナガンが映っていた。

 レディナガンは、緑谷達に倒された後、全ての情報を警察に話し、自分の心を救ってくれた緑谷達に報いる為に共に戦う事に決めた。

 レディナガンに右腕を撃たれた死柄木は、左腕を振りかぶりながら激昂する。

 

「ン゛ン゛ン゛ナガアアアン!!」

 

 死柄木が激昂して喚き散らすが、その直後、左腕をもレディナガンに撃たれる。

 死柄木の中に巣食うオールフォーワンは、レディナガンの裏切りに激怒していた。

 

「使い捨てのゴミが!! 同胞殺しが被害者ぶって正義面か!? 流れるままの弱者が!」

 

 オールフォーワンが激怒したその時、オールフォーワンの口の中からゴポォと大量の手が現れる。

 

「ハハッ! 感情と繋がりを利用する筈が、見苦しいな! いい加減その手をどけてよ。あんたが俺を育てたのもそうだ。志村───オールマイトとの繋がりを使った嫌がらせだ。あんたはそのまま俺の心と身体を乗っ取る計画を進めた。俺の憎しみを取り込んで、ワンフォーオールを手に入れようとした。俺は混ざり合って、あんたの一部になった。でもね、先生。俺はそれが嫌だったから、“原点(かく)”は心の奥底に隠したんだ。あんたが気付かないように、“原点(かく)”は内側から自身を取り戻していった。“原点(おれ)”が歩んできた道程を」

 

「〜〜黒霧ィ!! 身体の自由が効かん! 僕をオールフォーワンの元に…クソッ、肝心な時に何をしているあの役立たず!!」

 

「俺はワンフォーオールなんていらない。全てを支配してたつもりか!? 俺の心は奴等のように遷ろいはしない。この世の目に移るもの全てが、あの家の原因だ。俺の望みは唯一つ。あの家から連なる全ての崩壊だ。それだけが俺を救うんだ、ヒーロー」

 

 死柄木がそう言って笑みを浮かべる中、緑谷は死柄木を『黒鞭』で拘束しながら雄英から飛び降りた。

 緑谷は、『浮遊』を使って死柄木を浮かせながら口を開く。

 

「そうはさせない──でも…! 泣いていた君を、見なかった事にはしない」

 

 

 

 

 




【速報】次回、心操くんの本作でのヒーローネーム公開
心操くんがヒーロー科に合格した設定の話とか二次創作でよく見かけるんですが、いかんせんヒーローネーム公開まで続いてる作品のまぁ少ねえ事。

ミリオ先輩何気にマッパ克服。
本作のデクは、歴代継承者の“個性”でクラスメイトの戦闘スタイルをパク…参考にしながら戦います。
歴代継承者の“個性”総動員させればほとんどのクラスメイトの戦闘スタイル再現できんじゃね?という発想から生まれたアイディアです。
原作オールマイトが技術を使ってA組の“個性”を再現するなら、デクは“個性”を使ってA組の技術を再現するという対比にもなっています。
『黒鞭』は、デクが一番最初に目覚めた“個性”で一番使い慣れているので、ちょっと原作以上の汎用性を持たせてみました。

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