抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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ワンフォーオールについて、個人的な捏造解釈があります。
苦手な方はブラウザバック。


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「そうか、じゃあ死ね」

 

 死柄木は、ヒーロー達に向かってそう告げると、衝撃波を撒き散らしながら“個性”を発動する。

 緑谷は、死柄木を地面に触れさせまいと黒鞭で縛り付けて持ち上げた。

 死柄木は、緑谷目掛けて容赦なく熱線を浴びせる。

 緑谷は、死柄木の浴びせた熱線によって熱される。

 

「う゛う゛…!!」

 

 熱線を浴びた緑谷の動きが止まると、死柄木は黒い棘のような“個性”で緑谷を刺そうとする。

 するとその時、イナズマが死柄木に電撃を浴びせて阻止した。

 

「てめぇ…一旦痺れとけ!!」

 

 イナズマは、ありったけの電気を死柄木に浴びせた。

 死柄木は、イナズマの雷によって身体が痺れつつも、“個性”を発動させて雷から脱出しようとする。

 だが再び“個性”を『抹消』に切り替えた物間によって、死柄木の“個性”が消された。

 ベストジーニストは、死柄木が“個性”を発動できないうちに強靭なワイヤーで死柄木の首を締め、エッジショットは自分の身体を細くして死柄木の身体に突き刺した。

 

「強度MAXカーボンファイバー!!」

 

「忍法“千枚通し”!!」

 

 死柄木が二人の攻撃を喰らうと、天喰は蠍の尾を再現して死柄木を拘束した。

 一方で、波動は、自身の“個性”でねじれるエネルギーを生み出し、死柄木に浴びせた。

 

「はぁああああ…!! 『ねじれる洪水(グリングフロッド)』!!」

 

 波動が死柄木に波動の渦を浴びせると、風華も風袋に溜め込んだ風を全て死柄木に浴びせた。

 風華の生み出した風は、イナズマの電撃を巻き上げ、脱出不可能な雷の竜巻を生み出した。

 ヒーロー達は、今自分にできる全力を死柄木に浴びせた。

『超再生』を発動できない死柄木は、ヒーロー達の攻撃を受け続ける一方だった。

 ヒーロー達の攻撃を受けて死柄木がよろけたところを、緑谷と爆豪が一気に畳み掛けようとした、その時だった。

 

 

 

「うるさい」

 

「!」

 

 死柄木は、決して大きくはなく、しかし何故かハッキリと聴こえる声で呟いた。

 立ち上がる死柄木と目が合った緑谷は、思わず目を見開く。

 するとその直後、死柄木は右腕を振りかぶって地面目掛けて強烈なパンチを放った。

 死柄木が放ったパンチは、地面を大きく放射状に割り、衝撃波を発生させた。

 死柄木のパンチによって発生した衝撃波は、空気を激しく振動させ、土煙を巻き上げた。

 

「ぐぁ…!!」

 

 死柄木のパンチによって起こった土煙のせいで、物間は死柄木を目視できなくなり、死柄木に発動していた“個性”が解けた。

 するとその瞬間、死柄木は周囲数百メートルに渡って大爆発を起こし、周囲にいたヒーロー達を吹き飛ばした。

 緑谷は、死柄木に黒鞭を巻きつけて何とかしがみついていたが、死柄木は不気味な笑みを浮かべながら緑谷の方へ手を伸ばす。

 その直後、緑谷の目の前で死柄木の掌がカッと光った。

 次の瞬間、死柄木の掌から膨大なエネルギーが放たれ、あたり一面が白い光に包まれ視界を潰される。

 死柄木の放ったエネルギー弾は緑谷に直撃し、緑谷は防御が間に合わずに吹き飛ばされる。

 

「……………」

 

 数秒後、ようやく光が晴れたかと思うと、そこには頭から血を流して地面に横たわっている緑谷と、それを見下ろしている死柄木がいた。

 緑谷のボロボロの姿を見て、爆豪は思わず目を見開いて叫ぶ。

 

「デク!!!」

 

 爆豪が緑谷に駆け寄ろうとしたその時、死柄木は顔面をガリガリと掻きながら叫んだ。

 

「うるさい…うるさいうるさいうるさい!! お父さんも、お母さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、華ちゃんも、みんなみんな、大嫌いだ!!」

 

「………!」

 

 死柄木が叫ぶと、通形は目を見開いて言葉を失う。

 今の死柄木は、先程通形がデリケートな話題を持ち出してしまった際に剥き出しにした“志村転弧”としての人格が表に出始めていた。

 

「こんな世界(もの)、全部全部、ぶっ壊れちゃえばいいんだ!!」

 

 そう言って死柄木は、“個性”を発動した状態で緑谷に触れようとする。

 するとベストジーニストは、ワイヤーをグンっと引いて緑谷に触れられるのを阻止した。

 

「やめろ!!」

 

 ベストジーニストのワイヤーで掴まれた死柄木は、そのまま引っ張られる。

 だが死柄木は、不気味な笑みを浮かべるとワイヤーに触れて崩壊させた。

 ベストジーニストは、自分も崩壊させられないよう“個性”を解いてワイヤーを捨てた。

 

「っらぁああああああ!!!」

 

 風華は、後輩を傷つけられた怒りに駆られ、ありったけの暴風を死柄木に浴びせた。

 イナズマ、爆豪、波動の三人も、風華の起こした風にありったけの攻撃を乗せ、天災の檻に死柄木を閉じ込めた。

 だが死柄木は、無傷のまま薄ら笑いを浮かべており、たった一薙ぎで4人の攻撃を消し飛ばした。

 

「嘘…どうして……!」

 

 ありったけの攻撃を浴びせたにもかかわらず、まるでダメージを負っていない死柄木を見て、波動は思わず目を見開く。

 死柄木は、左拳を高々と天に突き上げ、平然とそこに立っていた。

 

「考えてもみろよ…全盛期のオールマイトが、こんなもんで死ぬか!? なぁ!?」

 

「バケモンが…!」

 

 死柄木が言うと、イナズマはギリっと歯を食い縛る。

 

「いい加減現実見ろよお前ら…ワンフォーオール(緑谷)を失ってなお、俺に勝てると本気で思ってんのか?」

 

 死柄木は、ボリボリと顔面を掻きながら、ヒーロー達を睨みつける。

 死柄木の目には、自分の夢を否定した家を生んだ世界に対する怨みが強く宿っていた。

 

「お前らに待ち受けているのは、崩壊。確実な死だけだ」

 

 そう言って死柄木は、オールフォーワンから受け継いだ“個性”を片っ端から発動させた。

 そこからは、一方的な蹂躙だった。

 死柄木は、ヒーローを殲滅させるのに最適な“個性”を組み合わせ、周囲にいたヒーロー達を蹴散らしていった。

 死柄木が宿った“個性”とオールマイト並みのパワーをフルに使いこなし、ものの数秒でヒーロー達を全滅させた。

 死柄木が暴れた場所には、ボロボロになって倒れているヒーロー達がいた。

 そのまま地面に触れて全てを終わらせようとする死柄木だったが、地面に触れる前に身体がぐらつく。

 

「…っぐ……がはっ」

 

 死柄木は、ヒーローから浴びたダメージが蓄積し、『超再生』がダメージの蓄積に追いつかなくなっていた。

 だがそれでも、全てを終わらせるのに十分な余力はまだ残っていた。

 

「…ここまで長かった。でも、やっと終わる。やっと、俺の嫌いな奴がみんないなくなる」

 

 そう言って死柄木は、地面に向かって手を飛ばした。

 するとその時、死柄木の攻撃が直撃して意識を失ったはずの緑谷の指がピクッと動く。

 緑谷の中では、生死の境を彷徨っている自分を、歴代継承者達が引き留めようとしていた。

 

 

 

 ──起きて、出久くん

 

 ──立って。あの子を、救って

 

 

 

 7代目継承者の志村菜奈が、暗い水の底に沈んでいく緑谷を引き上げた。

 すると次の瞬間、緑谷は目を見開いて立ち上がり、死柄木の地面に触れようとする手を空気砲で吹き飛ばした。

 致命傷を負ってもなお立ち上がる緑谷を見て、死柄木は大きく目を見開く。

 

「デク…!」

 

 死柄木に片腕をへし折られ、ボロボロになった爆豪は、ググッと身体を起こしながら緑谷に目を向ける。

 誰よりも長く緑谷を見てきた爆豪は、ワンフォーオールに変化が生じている事に気がつく。

 緑谷が纏っていた緑色の光は、白い光へと変わり、少しずつ光が強くなっていた。

 フラフラの状態で立ち上がった緑谷は、俯いたまま何かをブツブツと呟いていた。

 爆豪は、ブツブツと呟く緑谷のもとへ歩み寄り、緑谷の発言を聞き取った。

 

「かっちゃん……ひとつだけ、方法があるんだ…救けて勝つ方法……」

 

 緑谷は、爆豪に自分の考えを話した。

 緑谷の考えを聞いて、爆豪はまず緑谷の身を案じた。

 緑谷の考えていた策は、失敗すれば死柄木の前に緑谷が死にかねない諸刃の剣だった。

 

「…そんな事して、てめぇは大丈夫なんかよ」

 

「わからない…だけど、どうしても救けたいんだ。だって、あの子が、救けを求める顔してた。きっと、オールマイトが僕の立場だったら…こうしてたと思う…だから、これしかないんだ……」

 

 緑谷は、ふらつきながらも自分の考えを変えるつもりはなかった。

 どんなにボロボロになっても救ける事だけを考えている緑谷を見て、爆豪は呆れたような表情を浮かべる。

 

「っとに…どこまでイカレとんだてめぇはよ」

 

 爆豪は、呆れながらも緑谷の言った策を試す事にした。

 するとその時、ようやく『超再生』で回復した死柄木が超音速で飛び出してくる。

 

「終わったか」

 

 そう言って死柄木が緑谷に触れようとしたその時、緑谷は『変速』で速度を最大まで引き上げて死柄木の腹を蹴り上げた。

 

「『セントルイススマッシュ』!!」

 

 死柄木を空高く蹴り上げた緑谷は、『黒鎖』で死柄木を拘束し、空中で『浮遊』を発動した。

 その状態で『煙幕』を発動させて死柄木の視界を封じると、緑谷は下にいたヒーロー達に向かって叫ぶ。

 

「今だ!!」

 

「行くぜ!! 『三日月蹴(ルナシックル)』!!!」

 

 緑谷が叫ぶと、ミルコが蹴りで衝撃波を放った。

 三日月型の衝撃波は、死柄木に、そして死柄木を拘束していた緑谷に直撃する。

 

「ぐぁあああ…!!」

 

 緑谷は、全身ボロボロの状態で何とか死柄木を空中に留め、連打を浴びせる。

 だが死柄木が片手で放った“個性”によって、緑谷は再び大ダメージを負う。

 

「がぁ!!」

 

 するとその直後、イナズマと風華が互いの手を合わせて合技を放つ。

 

「「『疾風迅雷』!!!」」

 

 イナズマと風華は、互いの“個性”を合わせて雷の竜巻を生み出し、死柄木を閉じ込めた。

 二人の攻撃を喰らった死柄木は、暴風と雷撃によって身動きが取れなくなる。

 緑谷は、二人の攻撃の余波を喰らいながらも、死柄木に喰らいついた。

 しかし死柄木は、またしても二人の攻撃を超パワーで打ち消し、緑谷に黒い槍のような“個性”と黒い靄のような“個性”を浴びせる。

 

「『ねじれる双嵐(グリングツンストーム)』!!」

 

 波動は、死柄木の両脇から挟み込むようにねじれる波動を浴びせた。

 死柄木は、波動の渦に挟まれて身動きが取れなくなる。

 するとその隙に、天喰が攻撃を浴びせる。

 

「『波動電磁砲(プラズマレールガン)』!!!」

 

 天喰は、イナズマと風華の“個性”を『再現』して生み出した電磁砲を死柄木に浴びせた。

 だが死柄木は、またしても“個性”を使ってダメージを最小限に抑え込んだ。

 死柄木は、『黒鎖』を引っ張って緑谷を引き寄せると、今度は緑谷を盾にした。

 すると、先程まで死柄木に攻撃を浴びせていた波動と風華は、死柄木への攻撃を一瞬躊躇してしまう。

 だがその瞬間、通形が『透過』の応用で死柄木の目の前に現れ、緑谷に出来るだけ当たらないよう死柄木に何十発もパンチを浴びせた。

 

「POWERRRRRRRRRR!!!!」

 

 通形は、『透過』を使ってひたすら死柄木に攻撃を続ける。

 だが死柄木は、通形が“個性”を解いたタイミングを察知すると、掌からエネルギー弾を放つ。

 通形は、『透過』でエネルギー弾を回避するのが間に合わず直撃を喰らった。

 

「がはっ…!!」

 

「どいつもこいつも…しつこいぜ」

 

 通形をエネルギー弾で吹き飛ばした死柄木は、不機嫌そうな表情を浮かべる。

 通形がエネルギー弾を浴びたその直後、何者かが死柄木に急接近した。

 

「爆速…『ジェットターボ』!!」

 

 爆豪は、全身から爆破を放ち、亜音速で死柄木に迫った。

 死柄木は、指からレーザーを放ち、爆豪を撃ち落とそうとする。

 だが爆豪は、死柄木のレーザーを爆破で避け、死柄木のいる方へと爆走した。

 

「俺は、気に入らないものを全部壊すまで止まらない。邪魔だよ、ヒーロー」

 

 死柄木は、レーザーと黒い棘で爆豪を追い詰めつつ、目を細めながら言った。

 だがその時、爆豪が死柄木に向かって叫ぶ。

 

「おい()()()()!!」

 

 爆豪が叫ぶと、死柄木は僅かに目を見開く。

 爆豪は、ニィッと笑みを浮かべたまま、空中を飛び回りながら叫ぶ。

 

「てめぇが何でイラついてんのか知らねえけどよ…てめぇの抱えてるもんなんざ、俺達が余裕で受け止めてやるっつってんだよ!!」

 

 爆豪は、大胆不敵に笑みを浮かべながら、死柄木に向かって爆破を浴びせた。

 そして緑谷も、死柄木からの攻撃を浴び続け、味方の攻撃に巻き込まれながらも、死柄木を離す事なくしがみついた。

 

「う゛う゛、う゛う゛う゛う゛…!!」

 

 緑谷は、死柄木の攻撃を浴び続けながらも、『黒鎖』を使って死柄木にしがみついた。

 死柄木が緑谷を殺そうと浴びせ続ける攻撃を、避ける事はしなかった。

 緑谷は、死柄木に喰らいつきながら叫んだ。

 

()()()()!!」

 

「!」

 

「全部壊す事が君の望みだっていうなら、それを叶えてあげる事はできない!! だけど、君が泣いて助けを求めているように見えたから…!! 感じてきた事、思ってきた事、全部、僕達にぶつけろ!!」

 

「うるさい!!」

 

 緑谷が叫ぶと、死柄木は“個性”を使って緑谷を吹き飛ばした。

 するとその直後、爆豪が死柄木に爆破を浴びせる。

 死柄木は、爆豪の爆破を軽く手で払いつつ、オールマイト並みのパワーで衝撃波を放った。

 緑谷を援護しようとした爆豪だったが、死柄木の放った衝撃波に押される。

 

「クソが…!!」

 

「う゛う゛…!!」

 

 緑谷は、死柄木の攻撃が直撃し、全身血まみれのボロボロになっていた。

 死柄木は、それでもしがみついてくる緑谷を、冷めた目で見下ろす。

 

「気持ち悪いんだよ、お前。俺の邪魔をするなら、お前は俺の敵だ。お前に俺は救えない」

 

 そう言って死柄木は、全身からエネルギーを発生させて緑谷に浴びせた。

 だがその直後、緑谷の身体に異変が起こる。

 死柄木が浴びせたエネルギー弾が、緑谷の身体を覆っている白い光に吸収され始めていたのだ。

 

「何だそれ」

 

 緑谷が死柄木の浴びせたエネルギーを吸収していると、死柄木がポカンとした表情を浮かべる。

 ワンフォーオールにストックされていた“個性”は全て出し切っており、エネルギーを吸収する“個性”は歴代継承者が持っている“個性”の中には無いはずだった。

 だがワンフォーオールが『力をストックし、他者に譲渡する“個性”』であった事を思い出した死柄木は、ある一つの可能性を思い浮かべる。

 

「『ワンフォーオール』の進化…」

 

 死柄木が思い浮かべた一つの可能性、それは『ワンフォーオール』そのものが進化したという可能性だった。

 生死の境を彷徨った事で『ワンフォーオール』が急成長し、『力のストック』という性質が拡大解釈されたのだ。

 ひなたの生みの親である志賀は、“個性”終末論について、ある一つの仮説を立てていた。

 それは、“個性”が人格を形成するように、“個性”もまた持ち主が望む形へと進化していくという説だった。

『助けを求めて泣いている男の子の苦しみを受け止めたい』と願った緑谷は、自分にぶつけられた力を全て蓄積できるようになっていた。

(ヴィラン)を倒す事』ではなく、『困っている人を救ける事』を選んだ緑谷だからこそ辿り着いた、ワンフォーオールの進化の形の一つだった。

 緑谷が死柄木の攻撃を避けずに全て受け止めたのは、死柄木の放った攻撃を蓄積する為だった。

 無論、力を蓄積できるといってもダメージを無効化できるわけではないため、力を蓄積している途中で力尽きれば死んでしまう諸刃の剣でもあった。

 

「俺の憎しみを全部受け止めようってか。やれるもんならやってみろ」

 

「うぅ、ううう…!!」

 

 エネルギー弾を全て吸収した緑谷は、身体の中に膨大なエネルギーが溜まっていく感覚に顔を歪ませていた。

 まるで“個性”を使いこなせていなかった頃のように、全身からバキバキと音を立てる。

 その様子を見た死柄木は、緑谷を嘲笑った。

 

「ほら見ろ。吸収した側から身体が壊れてるぞ。俺の憎しみは、お前一人で受け切れる程チンケなものじゃない」

 

「だから、一人じゃない」

 

 死柄木が緑谷を嗤ったその時、通形が現れた。

 通形は、死柄木の反撃を喰らいながらも、必死に死柄木喰らいついた。

 

「さっきはデリカシーの無い事言ってごめんよ。でもね、周りを見てみろよ! 君の我儘に付き合う為に命を懸けてる奴等が、こんなにもいるんだ! 苦しかった事、腹が立った事、全部俺達が受け止めるからさ!! 好きなだけぶつけてみろよ!!」

 

「うるさい…!!」

 

 通形は、死柄木に『友達がいない』と言い放った事を謝りつつ、死柄木に憎しみを全て吐き出すよう言った。

 何度殺しても立ち上がってくるヒーロー達に痺れを切らした死柄木は、やたらめったらに“個性”を組み合わせて襲いかかる。

 

「ぶっ壊れろォ!!!」

 

 死柄木は、ヒーローに対して憎しみをぶつけながら片っ端から“個性”を組み合わせていった。

 通形は、死柄木の攻撃をいなしつつ、カウンターを放った。

 

「さっきより強い…けど、素直で分かりやすい。そんなに苦しくて腹が立った事、いっぱいあったんだね」

 

「うるさい、うるさいうるさいうるさい!!」

 

 通形が死柄木の心に寄り添おうとすると、死柄木は“個性”を浴びせて通形を振り払った。

 死柄木は、父親に叩かれ家族に夢を否定された忌々しい記憶を思い出し、激しく嘔吐した。

 

「オエ゛ッ、ゲホッ…ゲェッ」

 

 心の奧底に隠したものに触れられて激しく嘔吐した死柄木だったが、忌々しい記憶ごとヒーローを葬ろうと、やたらめったらに“個性”を撒き散らす。

 

「消えろ、皆消えろ!!」

 

 死柄木は、“個性”を撒き散らして叫ぶが、緑谷は死柄木が放った“個性”を吸収して蓄積した。

 その度に身体がミシミシと嫌な音を立てるが、それでも緑谷は死柄木に喰らいついた。

 緑谷は、死柄木の攻撃を受け止めながら、周りのヒーロー達に向かって叫ぶ。

 

「皆あ゛!!」

 

 緑谷が叫ぶと、ヒーロー達は一斉に攻撃を浴びせた。

 死柄木は暴れながら次々と“個性”を出すが、周囲のヒーロー達は緑谷をも巻き込む範囲攻撃で死柄木の攻撃を相殺した。

 風華は、緑谷の事まで攻撃するのを躊躇していたが、これも死柄木を止める為だと自分に言い聞かせ、緑谷ごと風で攻撃した。

 

「出久くん、ごめんな! ちょっと痛いけど我慢してや!」

 

 ヒーロー達は、自分に今できる全力を、緑谷と死柄木に浴びせた。

 爆豪は、まだ無事な片腕と両脚で爆破を放ち錐揉み回転をすると、最大威力の爆破を放った。

 

「喰らえや…『榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)クラスタァアア』!!!」

 

 爆豪が二人を爆破すると、周囲数百メートルが爆炎に包まれる。

 爆豪の渾身の爆破を喰らった死柄木は身体に穴が開き、緑谷にも決して軽くはないダメージが入った。

 

「なぁにが『全部受け止める』だ。仲間の攻撃で死にかけてるじゃないか」

 

「ゲホッ…ゲホッ……!!」

 

「もういい、死ねよお前。後で他の奴等も同じところへ送ってやる」

 

 そう言って死柄木が緑谷の顔面に手を伸ばした、その時だった。

 緑谷は、上半身を起こすと死柄木の腕を掴み、崩壊されるのを阻止した。

 ヒーロー達の攻撃を蓄積し続けた事により、膨大なエネルギーが白い光となって緑谷の身体を輝かせていた。

 

『ワンフォーオールを手に入れろ、弔!! 魔王としての物語はここから───…』

 

「うるさい…! あんたは黙ってろよ先生!!」

 

 死柄木の中にいるオールフォーワンが緑谷のワンフォーオールに反応すると、死柄木はオールフォーワンを押さえつけて黙らせた。

 死柄木にとっては緑谷は壊すべきヒーローの一人で、ワンフォーオールなどどうでも良かった。

 死柄木は、ただ目の前にあるものを壊す事だけを考えて、“個性”を発動させる。

 

「皆…嫌いだ…俺を否定した家族(みんな)も、救えなかった人間なんていなかったかのようにヘラヘラ笑ってるオールマイト(ゴミ)も、そのゴミを祀り立ててるお前らも、全部!!」

 

 死柄木は、憎しみのままに怒鳴り散らしながら“個性”を発動させた。

 “個性”を発動させた時の死柄木の表情を見て、緑谷は、かつて夢を否定されずっと燻っていた頃の自分と同じ目をしている事に気が付いた。

 そして目の前にいる(ヴィラン)が、オールマイトに出会えなかった自分の未来の姿だという事を理解した。

 死柄木が憎悪に身を任せて“個性”を放つと、緑谷はそれを正面から受け止めた。

 

「やっと“見え”た。君の事」

 

「…あ?」

 

「僕だって同じだったのに、ずっと助けを求めてたのに、気付けなくてごめん」

 

 緑谷は、かつて自分と同じ苦しみを抱えていた死柄木の苦しみに気付けなかった事を謝った。

 だがそれだけで死柄木の心が救われるわけもなく、死柄木は触れられたくない部分に触れられた事に激怒し衝撃波の“個性”を放つ。

 

「俺の何が見えたって? ええ!?」

 

 死柄木が激昂しながら衝撃波を放つと、緑谷は蓄積した力に『発勁』のエネルギーを乗せて解き放ち、死柄木の攻撃を相殺した。

 緑谷は、エネルギーを解放し続けながら死柄木に歩み寄り、自分の過去を語った。

 

「僕は…っ、オールマイトが笑顔で人を救ける姿に憧れて、ヒーローを夢見た…! だけど、僕は“無個性”だったから…『ヒーローになれるわけがない』って嗤われて、否定された…!!」

 

「!」

 

「本当は、『ヒーローになれる』って誰かに言ってもらいたかったんだ…! 泣いている君が、あの頃の僕と同じ目をしているように見えたから…!!」

 

「うるさい…」

 

「もし君が同じように苦しんでいるなら、僕が救けたい!!」

 

「お前が、嫌いだ!!!」

 

 緑谷と死柄木は、同時に叫びながら渾身の一撃を放った。

 二人の放った攻撃は、ちょうど中間地点でせめぎ合い、バチバチと火花を散らしていた。

 緑谷は、死柄木の“個性”を全開にした攻撃を受け止めつつ、死柄木の中の悲しみや憎しみに目を向け続けた。

 死柄木の心の奥底には大量の手に囲まれた転弧がおり、死柄木の中に植え付けられたオールフォーワンの人格が緑谷からワンフォーオールを奪おうと暴れていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその頃、オールフォーワンと対峙していたひなた達はというと。

 無敵状態のオールフォーワンに対し、クラスト達や(ヴィラン)陣営が苦戦を強いられていた中、治崎と共にオールマイトの蘇生をしていたひなたが現れる。

 ひなたが“個性”を纏った状態で現れると、瀬呂達が目を見開く。

 

「ひなちゃん…!」

 

「…溜めるのが遅くなってごめん。でももう大丈夫。僕が来た」

 

 ひなたは、大切なものを傷つけられた怒りを表情に表しながら、オールフォーワンの前に立ちはだかった。

 ひなたと目が合ったオールフォーワンは、遅れて来たひなたを嘲笑う。

 

「誰かと思えば…僕の親友の娘じゃないか。人を殺す為だけに生み出された肉人形が、今更ここに何をしに来た?」

 

「お前を止めに」

 

 そう言ってひなたが飛び出すと、オールフォーワンは指先から“個性”で弾丸を放ち弾幕を張った。

 だがひなたは、オールフォーワンが放った弾丸を全て回避すると、爆速でオールフォーワンのもとへと駆け抜けていく。

 オールフォーワンが巨大な顔面を持つ怪物を差し向けると、ひなたは“個性”を纏った捕縛武器で怪物を吹き飛ばして木っ端微塵にした。

 オールフォーワンは、ひなたを撃ち落とそうと次々と遠距離系の“個性”を出すが、悉く消し飛ばされていく。

 次々と繰り出す“個性”が効かないひなたに、流石のオールフォーワンも苛立ちが表情に表れ始める。

 ひなたは、オールフォーワンに急接近すると、“個性”を使って叫ぼうとする。

 だがその時、オールフォーワンが黒い靄のようなものでひなたを包み、そのまま圧縮した。

 

「その物質は“個性”を遮断するんだ。その檻に閉じ込められたら最後、二度と外には出られないよ」

 

 オールフォーワンは、“個性”を遮断する物質でひなたを閉じ込め、そのまま手元へ引き寄せた。

 黒い壁を内側から叩くひなたに対し、オールフォーワンはニタァと不気味な笑みを浮かべる。

 

「君が零を殺したんだってね。出来損ないを処分するのは、さぞ心が晴れただろう? やはり、君の力は人を壊す為の───…」

 

 オールフォーワンがそう言ったその瞬間、突然黒い檻が粉々に砕け散った。

 そして次の瞬間、オールフォーワンは檻から飛び出したひなたによって顎をアッパーで殴られる。

 オールフォーワンは、柄になく大きくのけぞると、予想外のひなたの成長に思わず目を見開く。

 

「何か言った?」

 

 ひなたは、そのままオールフォーワンの目の前に迫ると、左の拳を握り締めてストレートパンチを叩き込む。

 

「皆の邪魔して…幸せを壊して、そんなに楽しい?」

 

「ああ、愉しいさ。僕は、コミックに出てくる悪役に憧れた。世界を阻む事、それが僕の夢だ」

 

「……じゃあ、僕と同じだね」

 

 ひなたは、バングル型の武器を鞭状に変形させ、オールフォーワンを拘束すると顔面にキックを叩き込んだ。

 

「僕は、僕を助けてくれたヒーローに憧れた。ありふれた話の中で、憧れて、抗って、突き進む。お互い、ただ普通に、生きたいように生きていくだけだ」

 

「笑わせるな!!」

 

 ひなたが言うと、オールフォーワンは激昂しながら“個性”を発動させた。

 だがオールフォーワンが発動させた“個性”は、悉くひなたの『声』で壊された。

 ひなたの反射神経では対応し切れない攻撃に関しても、オールフォーワンの“個性”の波長を読み取る事で事前に封じ、既に発動されている“個性”に関しては声のバリアで消した。

 ひなたは、死線を乗り越えた事で“個性”と肉体両方が急激に成長していた。

 追い詰められたオールフォーワンは、『“個性”感知』と『高速演算』の“個性”を使ってひなたの数秒先の動きを予知し、ひなたの動きを事前に封じる事で対策しようとする。

 

(『反転』、『転送』、どれもダメージを与える事すらできないか…『電波』の“個性”で脳波をジャックするか? いやダメだ、発動できたとしても通用しない。なら“個性”を奪って…ダメだ、結局奪う段階で弾かれる)

 

 ひなたの動きを予知して蹂躙しようと考えるオールフォーワンだったが、何度予知しても結局全ての行動をひなたに殺される未来しか見えず、何度試してもひなたに勝てる確率が0%を超える事はなかった。

 ひなたの“個性”を奪おうにも、結局“個性”を奪う段階で弾かれてしまう未来しか見えなかった。

 他人から“個性”を奪ってストックするオールフォーワンにとって、全ての“個性”を平等に無力化させるひなたはこれ以上ない天敵だった。

 勝てる可能性を全て潰されたオールフォーワンは、目を見開いて絶句した。

 その時オールフォーワンの中にあったのは、オールマイトに敗れてもしつこく嫌がらせを続けたオールフォーワンが久しく抱いていなかった感情、絶望だった。

 

「来いよ」

 

 ひなたがオールフォーワンを挑発すると、オールフォーワンは志賀が死ぬ前に最後に交わした会話を思い出した。

 

 

 

 ──え? 君に私の最高傑作を制御できるかって? ははは、無理だね。だってあの娘は、君や私よりイカれてる

 

 

 

「終われない…僕の夢は、こんなところで…こんな小娘に…!! 終わってなるものか!!」

 

 半ばヤケを起こしたオールフォーワンは、やたらめったらに“個性”を組み合わせ、巨大な瓦礫の怪物をひなたに差し向ける。

 だがひなたは、オールフォーワンの瓦礫の怪物をたった一撃で吹き飛ばし、オールフォーワンを見下ろしてみせた。

 この時オールフォーワンは、『周りの人間を味方にしてしまう奴が一番恐ろしい』という心操の言葉の真の意味にようやく気がついた。

 事実、ひなたが心操と出会いさえしなければ、オールフォーワンの想定を超える速度で成長する事も、“個性”が覚醒する事もなかったのだ。

 オールフォーワンにとっての不運は、オールマイトの存在、そしてよりによって出会ってはいけない二人が出会ってしまった事だった。

 

「『滅葬終曲(モルテフィナーレ)』」

 

 ひなたは、TPキャノンから渾身の一撃を放ち、オールフォーワンに浴びせる。

 するとオールフォーワンの身体に緑色の亀裂が走り、ひなたの“個性”によって身体の内部まで侵食される。

 

「お前が他の人達から奪った“個性”、全部返してもらうよ」

 

 オールフォーワンが“個性”を無理矢理引き剥がされる痛みに悶えていると、ひなたがオールフォーワンの中に入り込みながら言い放つ。

 オールフォーワンの中では、ひなたがオールフォーワンの中にある“個性”を引き剥がしていた。

 

「ぐぁぁあああああ!!!」

 

 オールフォーワンは、“個性”を奪われまいと必死に抵抗していたが、“個性”を壊された状態では何もできず、呆気なくひなたに奪われ元の持ち主に返された。

 ひなたがオールフォーワンから奪った“個性”は、まるで元いた場所を探し求めるかのように元の持ち主のもとへ戻っていった。

 さらには、生まれ持った『オールフォーワン』の“個性”さえも、ひなたの侵蝕によって消えかかっていた。

 ひなたが『オールフォーワン』に噛みついて喰らい尽くそうとすると、弟の初代ワンフォーオールが目の前に現れる。

 

「兄さん…」

 

 初代ワンフォーオールこと与一は、ひなたに首を噛みつかれるオールフォーワンをただ静かに見ていた。

 ひなたの手で消滅させられそうになっていたオールフォーワンは、与一に見られている事に気がつくと、与一の憐れむような視線を拒絶するかのように叫んだ。

 

「与一…! 何を見ている、そんな目で見るな…!」

 

「兄さん、あんたは僕が『やめろ』って言った時、一度でも聞いてくれた事はあったか? あんたが今までしてきた事が、今になって返ってきたんだよ。言っただろう、悪者は最後には必ず敗けるんだ」

 

「待て!! 行くな与一!! 僕はこんなところで終われないんだ!! 僕を置いて行くなぁぁ!!」

 

 与一は、オールフォーワンに悲しげな目を向けると、オールフォーワンの目の前から消えた。

 オールフォーワンは、何とか与一を引き留めようとするが、結局失敗に終わった。

 一方で、現実のオールフォーワンは、ひなたに“個性”を壊されまいと必死に抵抗していた。

 

「ぐぁあ…あ゛あ゛あ゛あ゛…!!」

 

 3、4歳児くらいになったオールフォーワンが頭を抱えて暴れていると、ひなたはオールフォーワンにトドメを刺そうと小さく息を吸う。

 するとその時、後ろから何者かがひなたの肩に手を置いた。

 

「ありがとう、相澤少女。でもここから先は、私の役目だ」

 

「オールマイト…!!」

 

 ひなたの後ろにいたのは、治崎の『オーバーホール』によって蘇生を果たし、グラントリノに運ばれて空を飛んでいるオールマイトの姿だった。

 復活を果たしたオールマイトを見て、オールフォーワンは忌々しそうに額に青筋を浮かべていた。

 

「貴様…何故生きている!?」

 

「貴様を打ち砕く為に、地獄から戻ってきてやったよ。弟子の前でカッコ悪い死に様は見せられないものな!!」

 

 オールフォーワンが尋ねると、オールマイトは高笑いしながら答えた。

 グラントリノは、オールマイトの乗せて高速飛行しながら話しかける。

 

「俊典、回復したとて『エルクレス』が無い今のお前さんじゃあ奴相手に長期戦は出来ん! 一撃だ! 一撃に全てを懸けろ!!」

 

「…はい、グラントリノ!」

 

 グラントリノが声をかけると、オールマイトは右腕をグッパッと握っては離しを繰り返しながら答える。

 オールマイトの復活を目の当たりにしたオールフォーワンは、まだ残っていた“個性”を使ってオールマイトを撃ち落とそうとする。

 ひなたの“個性”でほとんどの“個性”を失ったオールフォーワンだったが、持ち主が既に亡くなっている“個性”に関してはまだかろうじて手元に残っていた。

 

「ゴミクズが…僕の夢を阻むなァ!!!」

 

 オールフォーワンは、衝撃波と黒い槍のような物質でオールマイトとグラントリノを攻撃しようとする。

 だがオールフォーワンの攻撃は、素早く不規則に飛び回るグラントリノには当たらなかった。

 するとオールフォーワンは、巨大な顔面を持つ怪物を使い、背後からグラントリノに攻撃を仕掛ける。

 怪物の顔面がグラントリノに迫ったその時、コンクリートでできた槍が怪物の頭に突き刺さった。

 

「治崎!!」

 

 ひなたが振り向くと、そこには、オールマイトと一緒に安全圏にいたためかろうじてオールフォーワンのインパクトの直撃を免れていた治崎がいた。

 治崎は、ビルの上に着地すると、“個性”でビルを崩して槍を生み出し、怪物の頭に突き刺した。

 オールマイトとグラントリノを撃ち落とそうとするオールフォーワンだったが、治崎とひなたによって阻まれ、オールマイトとグラントリノの接近を許した。

 オールフォーワンの攻撃が掠るオールマイトだったが、笑顔を浮かべながらオールフォーワンに接近した。

 オールフォーワンは、オールマイトが腑を撒き散らしながら立ち向かってきた日の事を思い出し、憎悪と恐怖のあまり表情を歪める。

 するとその時、ひなたの“個性”によって、残った“個性”も次々と壊されていく。

 そしてついに、オールフォーワンの中の“個性”のストックはゼロになった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃緑谷は、死柄木とぶつかり合い、死柄木の心の中に触れていた。

 本物のオールフォーワンがひなたの“個性”で無力化されたのに連動するかのように、死柄木の中にいるオールフォーワンもまた、もがき苦しみのたうち回りながら呻き声を上げていた。

 

「ぐぉおお!! 何がどうなっている…!?」

 

 オールフォーワンは、全身にエメラルドグリーンの亀裂が入り、身体の端から光の粒になっていった。

 するとそこへ、ワンフォーオールの歴代継承者達が現れる。

 

「『オールフォーワン』自体の力が弱まったから、死柄木弔の中にいるお前の“異能”も弱まってるんだ」

 

「貴様ら…!」

 

 二代目継承者が言い放つと、オールフォーワンはヒビ割れた顔面を押さえながら歴代継承者達を睨みつける。

 志村は、死柄木を操り人形にして支配しようとしているオールフォーワンに目を向けて顔を顰めながら言い放った。

 

「そこにいるんだろ。転弧を…私の孫を返してもらうぞ、オールフォーワン」

 

 志村は、オールフォーワンを睨みながら言い放った。

 どこまでも自分に歯向かう弟と、それに連なる者達に業を煮やしたオールフォーワンは、身体を末端から光の粒に変えられながらも暴れながら激昂した。

 

「黙って操られていればいいものを、どいつもこいつもゴキブリ並みにしつこいんだよ!! 貴様らは、どこまで僕の夢を阻めば気が済む!?」

 

「黙れ」

 

 オールフォーワンが怒鳴り散らしたその時、オールフォーワンの身体を引き裂いて内側から死柄木が現れる。

 オールフォーワンを引き裂いて這い出てきた死柄木は、どす黒い液体に塗れたままオールフォーワンを見下ろした。

 

「自分は人の夢を阻んできたくせに、自分が阻まれた途端それか。見苦しいぞ先生。いいから黙って見てろよ。俺は、俺のやりたいように、ただ壊すだけだ」

 

 そう言って死柄木は、目の前にいる緑谷に向かって手を伸ばす。

 すると緑谷は、全身から発していたエネルギーの光を右腕に集中させ、右腕を振りかぶった。

 互いが右腕を振り抜いた瞬間、強大な力同士がぶつかり合った。

 死柄木は、悍ましい程の狂気と執念で、緑谷を押した。

 死柄木に押された緑谷は、両腕からバキバキと嫌な音が響く。

 

「う゛う、う゛う゛う゛う゛…!!」

 

 緑谷の両腕が壊れ、死柄木が緑谷に触れて『崩壊』を発動させようとした、その時だった。

 突然、緑谷の内側から膨大な力が湧き上がる。

 力を湧き上がらせる緑谷の後ろには、歴代継承者達が立っていた。

 

「頑張って、出久くん。大丈夫、私達がついてるよ」

 

「皆さん…!」

 

「そんだけじゃねェぞ」

 

 緑谷が振り向くと、後ろには歴代継承者達だけでなく、爆豪やビッグ3、プロヒーロー達の姿があった。

 緑谷が受けたエネルギーの蓄積、緑谷に託した者達の思いの凝縮だった。

 緑谷の後ろに立っていた者達は、一斉に緑谷の背中を押した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその頃、“個性”を全て失ったオールフォーワンは、目を見開いて動揺していた。

 

「“個性”が…」

 

「これでお前も“無個性”同然だ。“無個性”同士、拳で語り合ってみるかァ、親友!?」

 

 “個性”を全て失って呆然としているオールフォーワンに対し、オールマイトはニカッと笑いながら右の拳を振りかぶった。

 オールフォーワンは、笑顔で拳を振りかぶっているオールマイトを見て、かつて自分を二度も追い詰めたオールマイトの姿を重ねる。

 否、オールマイトだけではなかった。

 オールフォーワンに奥の手を使わせるまで追い詰めたエンデヴァーやホークス、奥の手を使ってなおオールフォーワンを追い詰めた常闇や士傑高校の生徒達、彼等に加勢する為に駆けつけたMt.レディ達、ヒーローや(ヴィラン)の心を突き動かし限界を乗り越えさせた心操、オールマイトに加勢する為駆けつけたステイン、そしてここに来てオールフォーワンを徹底的に追い詰めたひなた達、ここに来るまでにオールフォーワンを阻んだ全てがたった一つの未来を紡いだのだ。

 

「いやだ…終わりたくない…! 僕は、こんなところで……!!」

 

 オールフォーワンが“個性”を失った絶望のせいか、まるで極寒の中にでも放り出されたかのようにガタガタと震える。

 グラントリノは、オールフォーワンに殺された志村の事を思い出し、オールフォーワンを睨みながら言い放つ。

 

「いっぺん死んで志村に詫びてこい、ガキンチョ」

 

 そう言ってグラントリノがオールフォーワンに向かって一直線に飛ぶと、オールフォーワンはさらに目を見開き冷や汗をかく。

 力を全て失った今のオールフォーワンは、もはやただの3歳児だった。

 この状況から逆転する術を全て失ったオールフォーワンは、子供のように喚き散らす。

 

「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 世界を阻む魔王の姿などどこにもなく、ただどうにもならない現実に泣き喚く子供の姿がそこにあった。

 オールマイトは、血を吐きながらも拳を振りかぶり、腹の底から叫んだ。

 

 

 

「喰らえや…UNITED STATES OF SMASH!!!!!!!」

 

 

 

 オールマイトは、渾身の一撃をオールフォーワンの腹に叩き込んだ。

 重い一撃を喰らったオールフォーワンは、そのまま隕石のように墜落し、地面に激突した瞬間にドゴォと音を立てながらクレーターを形成した。

 やがて膨大な土煙が晴れ、小さなクレーターが形成された地面が露わになる。

 そこには、白目を剥いて仰向けに大の字に横たわり、大きく開いた口から血を流したオールフォーワン、そして血を吐きながらも拳を突き立てているオールマイトがいた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃緑谷は、今まで緑谷に思いを託してきた者達に背中を押され、ありったけのエネルギーを右腕に凝縮させていた。

 それを見た死柄木は、半ば呆れた様子で笑った。

 

「ははっ、プルスウルトラってやつか」

 

「僕は、泣いている君を救うって決めた。力尽くでも、殴ってでも、君を受け止めてやる」

 

「お前と話す事なんか何も無い」

 

 緑谷は力尽くで死柄木に歩み寄ろうとしたが、死柄木は緑谷を拒絶した。

 そのまま死柄木が緑谷を押し返そうとすると、緑谷は、身体に溜め込んだエネルギーを放出し、死柄木を押し返した。

 100%のさらに上を行く、緑谷だけの『ワンフォーオール』が炸裂した。

 

「『ワンフォーオール・フルカウル』…1000%……!!」

 

 緑谷が蓄積したエネルギーを全て解き放つと、緑谷の身体が白く激しく光る。

 それに呼応するように、死柄木は渾身の力で腕を振りかぶり、衝撃波を放った。

 

「ぶっ壊れろォ!!!!」

 

 死柄木が全身の力を込めてオールマイトの『UNITED STATES OF SMASH』を再現すると、緑谷は死柄木の衝撃波を受けて押されながらも、全てのエネルギーを右拳に込めて放った。

 

「『ユナイテッド・ステイツ・オブ・スマァアアアアアッシュ』!!!!」

 

 二人が同時に攻撃を放つと、二人の渾身の一撃がせめぎ合う。

 だが、緑谷のスマッシュは少しずつ威力を増していき、死柄木が少しずつ押されていく。

 そしてついに、死柄木は白く眩い閃光と共に吹き飛ばされた。

 すると緑谷は、ボロボロの身体で死柄木のもとへ駆けつけ、死柄木に組みついた。

 死柄木は緑谷に触れて“個性”を発動しようとし、緑谷は両手で死柄木の手を掴んでそれを止めた。

 緑谷は、死柄木と取っ組み合いになったまま、死柄木に尋ねる。

 

「教えてよ、君が何を思って、どう生きてきたのか!!」

 

「消えろ…俺は、お前も、この世界も、全部嫌いだ!!」

 

 緑谷に死柄木が尋ねると、死柄木は激昂した。

 それでも緑谷は、死柄木に歩み寄った。

 そこにはかつて“無個性”だった頃、中学生の緑谷と、同い年くらいの死柄木の姿があった。

 

「何もかもが嫌いになるくらい、苦しくて、腹が立って、悲しかったんだね。全部投げ出したくなっちゃうような、ヒーローを憎むような何かがあったんだよね」

 

「ヒーローってのはなぁ…他人を助けるために家族を傷つけるんだ。俺は、ヒーローが生んだあの家に全てを否定された。だから俺も否定する」

 

『ヒーローになれるわけがない』と嗤われ、理解者に恵まれなかったかつての緑谷は、ずっと燻っていた。

 “無個性”というだけで全てを否定されてきた緑谷には、社会に全てを否定された死柄木が重なって見えた。

 そこには、『死柄木弔』としての人生を歩み始めた死柄木と、同い年くらいの緑谷がいた。

 

「誰も、理解してくれる人がいなかったんだね。ずっと独りぼっちで、つらかったね」

 

「みんな言うんだ。『いつかヒーローが来てくれる』って。でも、誰も助けになんか来なかった」

 

 “無個性”故に周りから見放され、孤独に生きてきた緑谷は、唯一オールマイトだけが心の救いだった。

 誰からも理解されず、ずっと画面の中のヒーローにだけ憧れて生きてきた緑谷には、出会った全てに見捨てられた死柄木が重なって見えた。

 そこには、“無個性”だと知らされた頃の緑谷と、“個性”が発現する前の転弧がいた。

 

「痛くて、苦しくて、本当は、誰かに助けてほしかったんだよね」

 

「お父さんも、お母さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、みんなヒーローになるなって言うんだよ…! 華ちゃんも、ウソついて僕が悪いって言うんだ…! みんな、みんな、大っ嫌いだ…!!」

 

 緑谷が歩み寄ると、転弧は泣きながら恨み言を吐いた。

 緑谷がさらに歩み寄ろうとすると、転弧は緑谷を睨みながら砂を撒いて遠ざけようとした。

 だが緑谷は、それでも転弧に歩み寄った。

 転弧は、緑谷を遠ざけようと、緑谷に掴みかかって突き飛ばそうとした。

 だが緑谷は、突き飛ばされそうになりながらも、転弧の目を見ながら言った。

 

「誰かに言って欲しかったんだよね、『君はヒーローになれる』って」

 

 緑谷は、転弧に本心を尋ねた。

 すると転弧は、ボロボロと涙を流しながら話し始めた。

 

「みっくんとともちゃんがさぁ…! 『転ちゃんはオールマイトだ』って言ってくれたんだよ…! 華ちゃんは僕と一緒にヒーローになるって言ってくれてさぁ…! 認めてほしかったんだ…! 僕だって…オールマイトみたいなヒーローになりたかった!!」

 

 転弧は、泣きながら緑谷に本心を語った。

 “無個性”と診断されて母親に泣いて謝られた緑谷は、本当はあの時気休めでも『ヒーローになれる』と言ってほしかった。

 父親にヒーローになる夢を否定され、父親以外の家族にも理解されなかった転弧も、本当は誰かに認めてほしかったのだ。

 緑谷は、仲間外れにされていた友達と一緒に遊んだ転弧を見て、かつていじめられていた友達を助けようとした自分の姿を思い出した。

 

 

 

 ──ひどいよかっちゃん…! 泣いてるだろ…!? これ以上は、僕が許さゃなへぞ!! 

 

 いじめられていた友達を庇った緑谷だったが、爆豪から爆破を浴びせられて他のいじめっ子にも暴力を振るわれた。

 いじめられてボロボロになった緑谷が地面に蹲っていると、一人の少年が緑谷に歩み寄って手を差し伸べた。

 

 ──だいじょうぶ…? 

 

 

 

 緑谷の中で、手を差し伸べた少年が目の前の転弧と重なったが、目の前の転弧は助けを求めるかのように泣いていた。

 転弧が泣きながら恨み言を吐き捨て、まるで家族への恨みを晴らすかのように緑谷を拳で何度も叩くと、緑谷は転弧の苦しみを全て受け入れ、優しく抱きしめた。

 

「困ってる人を助けるヒーローになりたいって、ずっと思ってたんだ」

 

 転弧が緑谷に当たり散らしながら泣いていると、緑谷は笑顔を浮かべながら本心を伝えた。

 

「カッコいいよ、ヒーロー」

 

 緑谷が本心を伝えると、転弧は緑谷を叩くのをやめ、目を見開いて大粒の涙を流した。

 するとその瞬間、転弧の周りを覆っていた大量の手が、塵になって消えた。

 

 

 

 

 

「ハッ……ハッ………」

 

 緑谷は、“個性”を限界まで使った事で、まるで『ワンフォーオール』を制御できていなかった頃のように全身ボロボロになり、もはや立っているのがやっとの状態だった。

 緑谷の足元には、力を全て出し切り、仰向けに大の字に倒れ気を失っている死柄木がいた。

 髪で顔が隠れ表情はわからなかったが、頬には涙が伝っていた。

 とうとう限界を迎えた緑谷は、身体がふらついて倒れそうになる。

 それを見た爆豪は、緑谷に駆け寄ろうとした。

 

「デ……」

 

 だがその直後、爆豪は唐突に足を止めた。

 そこには、ボロボロの姿で右の拳を高々と突き上げ、瓦礫の上に立っているヒーローの姿があった。

 

 

 

 

 




やっと決着。
でめたしでめたし。
次回、最終話でございます。
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