抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

151 / 153
抹アカもこれにて完結です。
ご愛読ありがとうございました。
なお、後日談あります。



僕達が最高のヒーローになるまでの物語

 ヒーロー“デク”の勝利。

 その知らせは、すぐさま全てのヒーローに知れ渡り、歓喜する者もいれば、肩の荷が降りて力が抜ける者もいた。

 全身に重傷を負いながらも右腕を挙げて立っていた緑谷は、救助班が到着すると、安心して全身の力が抜けたのか、気を失ってその場に倒れ込んだ。

 次に目が覚めたのは、セントラル病院の病室で、時間にして戦いが終わってから丸一日経ってからの事だった。

 緑谷は、死柄木との戦いでワンフォーオールの中に眠る力のストックを消耗し、一時的にほとんど“無個性”と変わらない状態になってしまったが、ワンフォーオールの覚醒によって他から力を吸収してストックできるようになったため、1ヶ月も経たないうちに“個性”が回復した。

 その後、オールフォーワンと死柄木は無事逮捕された。

 残っていた残党も一人残らず逮捕され、負傷したヒーロー達の救助活動が行われた。

 

 オールフォーワンの手で殺害されたと思われていたステインは、ヒーロー達の懸命な救助の甲斐あってか、辛うじて一命を取り留めていた。

 ヒーロー側に加担し、重軽傷を負った(ヴィラン)、ジェントル、レディナガン、ステイン、オーバーホール、トゥワイス、Mr.コンプレス、マグネの7人は、怪我の治療を優先しなければならなかった事から、一旦再逮捕を見送られた。

 今回の戦いで負傷したヒーローや(ヴィラン)は、全員治療を受け大事には至らずに済んだ。

 

 ヒーロー・民間人の死者0名。

 オールフォーワン及び元超常解放戦線の残党、全員確保完了。

 最終決戦は、激闘の末、ヒーロー側の完全勝利に終わった。

 ヒーロー達が救助活動を行う中、塚内はナイトアイに話しかけた。

 

「『誰も死なせず我々の完全勝利』、だったか。見事に的中したな」

 

「………ああ。ようやく、私の予知が当たった」

 

 塚内が言うと、ナイトアイは眼鏡を外して目頭を押さえる。

 ナイトアイが全面戦争時に見た『ヒーロー側が完全勝利する未来』は、長い時間を経てようやく現実になった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 後日、ヒーロー達は、(ヴィラン)によって破壊された街の復興活動に尽力した。

 破壊され尽くした街を元通りにするのは決して簡単な事ではなかったが、ヒーロー校に避難していた民間人の協力もあり、復興活動は思いの外順調に進んだ。

 そして、治療期間を経て退院し、逮捕された(ヴィラン)はというと。

 ステインの退院の日、オールマイトは松葉杖をついた状態でステインに立ち会った。

 

「ステイン」

 

「オールマイト……」

 

 腕に手錠をかけられて警察に連行されていくステインだったが、オールマイトが声をかけると、足を止めてオールマイトの方を振り向く。

 オールマイトは、まだ完全には回復しておらずボロボロの身体に鞭打ってステインのもとへ歩み寄ると、ステインの腹に軽く拳を突きつけた。

 ステインの、『お前の手で俺を終わらせに来い』という言葉を果たしたオールマイトは、ニッと笑みを浮かべる。

 

「約束は、果たしたぞ」

 

 オールマイトが拳を軽く突きつけながら笑みを浮かべると、ステインは微笑みながらオールマイトに最後の言葉を告げた。

 

「ハァ……さらばだ、マイホープ」

 

「時間だ。行くぞ」

 

 ステインは、警察に連行されそのまま刑務所へと移送されていった。

 そして治崎も、病院での治療を終えた後に逮捕された。

 治崎が連行されたその時、死穢八斎會の組長と壊理が治崎を見送りに来た。

 壊理に関しては、また昔のトラウマを思い出す事になるからと組長や雄英の教師達が止めたのだが、壊理はどうしても治崎に伝えたい事があると言って大人達の制止を振り切り、最後は組長が折れて一緒に見送る事になったのだ。

 

「オヤジ…」

 

 治崎が組長の方を振り向くと、組長が黙って治崎の方を見ていた。

 すると治崎は、組長に向かって深々と頭を下げた。

 

「オヤジ、すまねぇ。俺はどうしても、オヤジが築いてきたものを守りたかったんだ。なのに俺のせいで全部奪われて、世界がメチャクチャになって、組の復興からどんどん遠ざかっていった。本っ当に、何やってんだろうな、俺…」

 

 治崎は、自分の計画のせいで組の復興どころか連合に研究の成果を奪われて世界が混乱に陥る要因を作ってしまった事を、自分でも愚かしく思っていた。

 自分の愚行を止めようとした組長を植物人間にした事、そして何の罪もない幼い少女を巻き込んだ事を、今になって心の底から反省していた。

 何もかもが、呆れる程に遅すぎた。

 だが、日本が窮地に陥る事がなければ、治崎がこうして自分の罪と向き合う日は永遠に来なかった。

 皮肉にも、大勢の民間人やヒーローの死が、再び治崎と組長を引き合わせたのだ。

 

「壊理。お前には俺のくだらない計画に長い事付き合わせて、悪かったと思ってるよ。安心しろ、俺はもう二度とお前の前に現れる事はない」

 

 治崎は、自分の計画に壊理を巻き込み傷つけた事を謝罪した。

 あまりにも遅く、どこまでも自分本位で、一方的な謝罪だった。

 だが壊理は、治崎を責めるわけでも、許すわけでもなく、ただ自分を省みてヒーロー側の勝利に貢献した事への感謝を伝えた。

 

「クレシェンドさんを、みんなを守ってくれて、ありがとう」

 

 壊理が治崎に礼を言うと、組長も治崎に前から言おうと思っていた事を伝える。

 

「治崎。死穢八斎會は、解体する事にした。日本中が混乱に陥って、組どころじゃなくなっちまったからなぁ。もう俺の事は組長と呼ぶな。世間様に迷惑かけた落とし前をつけてこい」

 

 組長が言い放つと、治崎は自分の行動がいかに愚かだったかを今一度思い知らされた。

 だが組長は、俯く治崎に対してさらに続けて言った。

 

「けどなぁ……俺達を守る為に戦ってくれて、ありがとな」

 

 組長が治崎に感謝を伝えると、治崎は下を向いていた顔を上げた。

 治崎がどこまでも組の事を考えていたのは、きちんと組長に伝わっていた。

 ようやく組長に報いる事ができた治崎は、そのまま警察に連行されていった。

 

 

 

 そして、元(ヴィラン)連合及び超常解放戦線の幹部達はというと。

 幹部達は、緊急手術が必要な荼毘を除き、全員逮捕され刑務所に収監された。

 

 スケプティックに関しては、他の元解放軍幹部達と同様、タルタロスと遜色ないセキュリティを誇る施設へと移送された。

 ラブラバとシエスタこと影山のハッキング技術を駆使して建てられた堅牢で、独自の技術で世界を混乱に陥れたスケプティックを持ってしても脱出は限りなく不可能に近かった。

 

 “個性”の複数付与によって精神を破壊された状態で逮捕されたスピナーは、ひなたの“個性”をもってしても侵された精神までは元通りにする事ができず、看守による介護が必要な状態となっていた。

 彼の抱えてきた苦しみに触れた障子や口田達が時々様子を見に来たが、相変わらず焦点が合わず意味を為さない言葉をブツブツと呟いていた。

 スピナーは、最後の最後まで流され続けた挙句、自我を失い一人では何もできない身体になるという、連合の中ではある意味最も悲惨な末路を辿った。

 

 

 

 全身が炭化し緊急手術を受けていた荼毘こと轟燈矢は、結局セントラルの医療技術をもってしても数週間の延命が精一杯だった。

 ひなたの“個性”による再生治療も医師から提案されていたが、本人がこれを拒否した。

 全身が少しずつ炭化し、最終決戦の一月後に家族全員に看取られながら死んでいった。

 修行の成果を見に来なかった事を何度も謝罪しながら泣き崩れる父親の顔を見るなり、まるで苦しみから解放されたかのように静かに息を引き取った。

 燈矢を看取った轟は、燈矢の葬儀で、燈矢も含めた家族6人で最後の食事をとった時の事をクラスメイトに話した。

 

「俺、燈矢兄が辛いうどん好きだなんて知らなかったよ。お母さんは辛いの苦手だったから、涙目になりながら食っててさ…」

 

「轟くん…」

 

 轟が目に涙を浮かべながら語ると、飯田は隣で話を聞いた。

 幼い頃から他の兄弟と関わらずに生きてきた轟は、燈矢との思い出はほとんど無かったが、大事な家族だった事には変わりなかった。

 それでも最後に燈矢に言いたい事は伝えられたのか、どこか憑き物が落ちたような表情を浮かべていた。

 

 

 

 そしてMr.コンプレス、マグネ、トゥワイス、トガヒミコの4名に関しては、ヒーロー側の救助に貢献した事から、温情ある措置が取られた。

 タルタロス並みの警備を誇る刑務所に収監されたのは他のメンバーと同じだったが、復興支援の為に“個性”を使う事を条件に、行動の規制は緩和され、割と気軽に外部の人間と接触する事もできた。

 

「わぁ! お茶子ちゃんにひなたちゃん! 梅雨ちゃんまで! 皆来てくれたんですね! こっちですよ!」

 

 麗日、蛙吹、ひなたの三人がトガの収監されている施設へ面会に来ると、トガはパァッと表情を明るくして自分が普段使っている自習スペースへ三人を招き入れた。

 テレビや本などの娯楽の類が置かれている事から、室内にも監視カメラがあるのと、外に出るのに許可が要る以外は割と自由に暮らせている事が伺えた。

 

「はい、今週分の血。大事に飲んでね」

 

「わぁい、ありがとうひなたちゃん!」

 

 ひなたが成分調整をした血の入った水筒を渡すと、トガは嬉しそうに笑いながら水筒に入ったひなたの血を飲んだ。

 トガに自習スペースに招かれた麗日は、早速トガのもとを訪ねた用件を話す。

 

「ねえヒミコちゃん。またお手伝い、お願いできる?」

 

「いいですよ! 私、みんなといっぱい恋バナしたいです!」

 

 麗日が尋ねると、トガは満面の笑みを浮かべて答えた。

 トガは施設に収監されてから、週に一度の復興支援を義務付けられていた。

 トガにとっては、“個性”を使う為に血を飲めるのと、親友と話ができる唯一の機会だったので、退屈な刑務所暮らしでの数少ない楽しみだった。

 トガに与えられた仕事は、セントラルに入院中の患者の血を飲んで変身し、トゥワイスの“個性”で分身を増やして血液や臓器を提供する事だ。

 トガとトゥワイスの“個性”により、重傷や大病によりセントラルに運ばれた人々の治療は驚くほど急速に進んだ。

 

 

 

 そして、世界を混乱に陥れた元凶である死柄木こと志村転弧はというと、さらに厳重な刑事施設へと送られた。

 あれから転弧は、オールフォーワンから与えられた“個性”を全て失い、本来の“個性”である『崩壊』も以前のようには使えなくなっていた。

 罪が罪なので死刑は確実と思われていたが、彼を倒した張本人である緑谷は、何とか死刑を阻止しようとしていた。

 緑谷とオールマイトは、たびたび死柄木の収監されている施設を訪れては顔を見せた。

 死柄木との面会を終えたオールマイトに、塚内が声をかける。

 

「オールマイト。死柄木…いや、志村転弧は?」

 

「『失せろ』の一点張りだったよ…」

 

「やはり、そう簡単に人の心は変わらないか」

 

「…そうだね。だが彼はあの日、少年の言葉で立ち止まれた。立ち止まる事ができたのなら、いつか交われる時が来るはずだ」

 

 オールマイトは、顔を上げると前を向いて塚内に自分の考えを伝えた。

 その頃転弧は、緑谷に言われた言葉を思い出しながら、刑務所の窓をぼんやりと見つめていた。

 転弧は、自分が壊す為に生きた事を後悔はしていなかった。

 だが、もし全てを捨てる前にどこかで立ち止まる事ができたのなら、かつて自分が憧れていたヒーローのように、誰かの為に力を使えたのだろうかと、今になって考え始めていた。

 

 

 

 そして、世界をその手で牛耳ろうとしていたオールフォーワンはというと。

 オールフォーワンが収監されたのは、本土から500km南西に位置する無人島に新たに建てられた刑事施設だった。

 監視カメラや生体反応センサーなどが設置され、何か問題を起こしても把握できるよう見晴らしの良い丘に建てられてはいたものの、内装はまるで幼稚園のような施設だった。

 施設の女性職員は、笑顔を浮かべながら施設の窓のカーテンを開けた。

 

「今日は良い天気ですね。ほら、風が気持ちいいでしょ。たまには空気入れ替えないと」

 

 職員は、にこやかに笑いながら窓を開けた。

 職員が顔を向けた先には、ガタガタと震えているオールフォーワンがいた。

 ひなたに“個性”を壊され三度もオールマイトに敗れたオールフォーワンは、二人の顔が一生モノのトラウマとして脳裏に刻み込まれ、もはや再起不能の状態だった。

 

「いやだ…いやだ、いやだ…! やめろ、僕をそんな目で見るな…!」

 

 オールフォーワンは、オールマイトに敗れ、一人では何もできない身体となった。

 離島で孤独に生き、世間から忘れられ、魔王として散る事すら許されない。

 ある意味、オールフォーワンにとって最も残酷な罰だった。

 

 

 

 ギガントマキアとおはぎに関しては、もう暴れる心配がなくなったため、監視が緩和され公安の管理する施設に引き取られた。

 おはぎに関しては改造前の姿を復元する手術を提案されたが、おはぎ自身が今の姿でいる事を望んだため、そのままの姿で引き取られた。

 二人も破壊された街の復興作業を手伝ったおかげで、街の復興は当初の予定よりも早く進んだ。

 黒霧から現れた白雲の遺体に関しては、相澤と山田の希望で、火葬された後雄英の敷地内に埋葬された。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 復興活動も終盤に差し迫った5月頭。

 混沌と化した街で暴れていた(ヴィラン)も、ヒーロー達の手でほとんど一掃され、街にも平和が戻った。

 ヒーロー科の学校に避難していた避難民達も、少しずつ元いた場所に帰り、経済も少しずつ回復していった。

 そして、校舎の修復が終わった雄英では、通形達元3年生の卒業式が行われた。

 通形達は、ひなた達下級生に門出を祝われながら学び舎を去っていった。

 

 雄英の卒業式の翌日、今度は新入生の入学式が行われ、進級を止められていたひなた達も無事2年生に進級した。

 卒業式の翌日に入学式が行われるというのは異例の事態だったらしく、教師陣もバタバタと慌てていた。

 今年度は、相澤が繰り上がりで2年A組の担任を請け負ったため、担任の都合で一クラス丸ごと入学式を欠席するという事態も起こらず、全員入学式に出席した。

 

「今年は一年生全員入学式出たんだってね」

 

「いいなぁ〜、僕も入学式出たかったなぁ」

 

「そういやウチら入学式ブッチしたもんね」

 

 ひなた達は、相澤の独断によって入学式を欠席したため、今年は全員入学式に参加できたと聞いて安心していた。

 だが、ふと緑谷が窓の外を見ると、新しい1年A組の生徒20名がグラウンドに並ばされていた。

 1年A組の生徒達の前には、仁王立ちしたイナズマが立っており、イナズマは鬼教官のようなノリで1年A組の指導をしていた。

 

「ええかお前ら!! 返事は!!」

 

「「「「ハイ!!!」」」」

 

「声が小っさい!!!」

 

「「「「ハイ!!!!」」」」

 

「何や自分ら、まだまだ腹から声出るやないかい。ほな、グラウンドもう10周走って来い!」

 

「「「「イエッサ…!!」」」」

 

「何アレ!!?」

 

 下級生達がかなり古めのスパルタ教育を受けているのを見て、緑谷は思わずツッコミを入れた。

 同じ光景を窓から見下ろしていた心操とひなたは、思わず顔を引き攣らせる。

 

「あー…今年の1年A組の担任、よりによってイナズマかぁ」

 

「お父さんもアレだけど、アレはアレでキツそうだね。御愁傷様」

 

 ひなたは、スパルタ教育を受けている下級生達を窓越しに見ながら、鬼教官のイナズマが担任になってしまった下級生に同情していた。

 するとその時、飯田が相変わらずのフルスロットルでクラスメイトに声をかけた。

 

「皆! そろそろ予鈴が鳴るぞ!! 席に着こう!!」

 

「天ちゃん張り切ってるねぇ」

 

「飯田くんのお兄さん、今年から雄英で先生やる事になったからと違うかな」

 

「1年B組の担任だったっけ」

 

 ひなたが飯田の熱量に押されて苦笑いを浮かべていると、隣の席の麗日が答える。

 イナズマ同様、先代インゲニウムも今年から雄英に教師として勤める事になり、新しく入ってきた1年B組の担任を受け持つ事になったのだ。

 するとその時、カァン! とドアが開き、相澤が教室に入ってくる。

 

「予鈴がなったら席に…」

 

 相澤がA組の生徒達に声をかけようとすると、既にA組の生徒は全員席について静まり返っていた。

 

「よし。じゃ、これからホームルームを始める」

 

 そう言って相澤がホームルームを始めると、ひなたはグッと拳を握り締めて気合いを入れた。

 その日から、1ヶ月分の遅れを取り戻す為、2年生からの授業は異常な程のハイスピードで進んだ。

 

 

 

 入学式の2週間後、5月下旬に体育祭が行われた。

 1年次とは違った競技が行われ、激闘が繰り広げられたが、結局優勝者は決まらなかった。

 体育祭が終わった後もすぐに中間テストやインターンなどの行事が目白押しで、7月中旬に期末テストが行われ、怒涛の勢いだった前期もついに終わりを迎えた。

 

 2年次の夏休みは、常夏の島での7泊8日の強化合宿が行われた。

 1年次同様ほとんどの時間は訓練の時間に充てられたが、1年次は(ヴィラン)による襲撃のせいで思い出作りが出来なかった分、今年は海水浴や花火大会などの楽しいイベントの時間が用意されていた。

 水鉄砲を当てられた爆豪がブチ切れて爆破を放ってきたり、水着姿の女子を峰田が犯罪者の目つきで凝視していたのがバレて罰としてスイカ割りの的にされたり、全員で浴衣に着替えて花火大会をしたりと、濃い一週間を過ごした。

 

 後期はインターンに加えて文化祭というイベントがあり、ひなた達は自分達で考えた出し物をし、それに対抗するかのようにB組も物間が先導してハイクオリティな出し物をしてきた。

 そしてこの年のミスコンはというと、“個性”が成長して屈折率を自在に操れるようになった葉隠がエントリーし、絶世の美貌で2位以下に大差をつけて優勝した。

 その後の後期の授業もハイスピードで進み、あっという間にひなた達も3年生になった。

 

 

 

 3年の体育祭は、激闘の末ひなたが優勝を果たした。

 その年の体育祭は大勢のプロヒーローがひなた達目当てに観に行き、観客席のチケットは1分と待たずに完売した。

 準決勝に進出した4人はもちろんの事、ベスト8に名を連ねた心操も、喧嘩殺法で右に出る者がいない爆豪相手に死ぬ気で喰らいつくというタフネスを見せ、観客席を沸かせた。

 

 強化合宿を兼ねた修学旅行は、ヒーローの本場アメリカで1週間過ごした。

 班ごとに分かれて自由行動を取る時間もあり、ひなた達の班は途中で銀行強盗を発見し、現地のヒーローと協力して事件を解決した。

 

 そして迎えた後期の最初の授業。

 ひなたは1年生の担任に頼まれ、インターンの話をしに行く事になった。

 ヒーロー科3年生の中でもトップに君臨するひなた、轟、爆豪、緑谷の4人、通称ビッグ4が1年生にインターンの説明をし、ひなたと轟のインターン先のエンデヴァー事務所にも有望な後輩が来た。

 

 文化祭では、ひなた達3年A組は“個性”を使ったテーマパークを出し物として提供し、見事成功を収めた。

 今年度はひなたがミスコンに出場し、得意の演奏スキルを活かした圧巻のパフォーマンスで優勝を掻っ攫った。

 優勝したひなたにはティアラと花束が贈られ、大勢の拍手喝采を受けながら笑顔で手を振った。

 その一件でひなたのファンも増え、『ひなたちゃん親衛隊』なる団体の会員数が倍以上に急増した。

 

 

 

「…この教室で過ごすのも、今日で最後か」

 

「あっという間だった〜」

 

 ひなたは、自分の席に置かれた卒業アルバムの写真を見て3年間の雄英での学生生活を振り返りながら呟いた。

 ひなたの胸には、卒業生全員に配られたコサージュが付けられていた。

 この日はひなた達3年生の卒業式で、生徒の私物がすっかり片付けられた教室に、3年A組の生徒が集まっていた。

 ひなた達が教室で過ごしていると、飯田がクラスメイトに声をかける。

 

「皆、入場の時間だ。廊下に出て、列に並ぼう」

 

 飯田が声をかけると、ひなた達は廊下に並んだ。

 そのまま体育館まで歩いていき、先頭から順に入場していくと、会場が拍手に包まれた。

 会場には、生徒の保護者だけでなく、インターン先のプロヒーローや記者達も出席していた。

 A組とB組が入場すると、次は普通科、サポート科、経営科が入場し、K組の最後の生徒が入場し着席し終わると、国歌斉唱や校歌斉唱といったありふれた段取りで式が進行し、卒業証書授与の時が来た。

 

「卒業証書授与」

 

 根津校長の掛け声と共に、ひなたは席から立ち上がって教師陣に一礼をし、壇上へ上がっていく。

 

「ヒーロー科A組、相澤ひなた」

 

「はい!」

 

 名前を呼ばれたひなたは、満面の笑みを浮かべながら返事をし、校長の前まで歩いていく。

 事前に練習した作法で卒業証書を受け取ったひなたは、相澤と山田の方に視線を向けて小さく手を振った。

 すると山田が号泣しながら席から立ち上がり、仕舞いにはヴォイスを放って式の進行の妨げになっていたため、相澤が“個性”で山田を睨みつけて黙らせた。

 その後も、次々と卒業生達が出席番号順に卒業証書を受け取ったのだが、心操の時は、普段は大人しい母親が涙を溢しながら口元にハンカチを当てていた。

 麗日の時は両親が目いっぱい目に涙を溜めており、耳郎の時はビデオを撮りながら娘に向かって叫ぶ父親の隣で母親が恥ずかしそうにしており、轟の時はエンデヴァーが大声で『焦凍ォオオ!!!』と叫んだのを妻の冷が抑え、兄姉が他の生徒の保護者に申し訳なさそうに頭を下げるという光景が繰り広げられた。

 爆豪の時は、勝ち気な母親の光己が珍しく涙ぐんでおり、緑谷の時は、母親の引子が大洪水を起こす程の大量の涙を流した。

 

 その後も式は順調に進み、来賓の挨拶や在校生送辞、卒業生答辞、卒業の歌斉唱などのありきたりな段取りが進んだ。

 だが閉会の言葉が告げられた途端、卒業生が浮かれるあまり一斉に“個性”を放ち、相澤が“個性”を使って睨みつけ黙らせるというお約束的なやり取りで卒業式は幕を閉じた。

 

 その後、ひなた達卒業生は、一足先に退場し、教室へ戻っていった。

 卒業式の片付けを終えた後、相澤が教室へ戻ると、教室の外からでも中で生徒達が騒いでいるのが聴こえてきた。

 最後の最後まで、つくづく非合理的だ、と心の中で呆れながら、教室のドアを開けた。

 

「お前ら、早く席に───…」

 

 相澤が教室のドアを開けるとそこには、相澤へのプレゼントを持った飯田と八百万、そしてその後ろに他のA組の生徒達が立っていた。

 ふと黒板に目を向けると、生徒一人一人から相澤へのメッセージが黒板の端から端までびっしりと書かれていた。

 飯田と八百万は、一歩前に出て、クラス全員で資金を出し合って買ったプレゼントを相澤に渡した。

 

「相澤先生」

 

「「「「3年間、ありがとうございました」」」」

 

 二人がプレゼントを渡し、21人全員が相澤に向かって頭を下げると、相澤は僅かに目を見開く。

 誰よりも立派なヒーローに成長し、旅立っていく教え子達の姿に、相澤は思わず目頭を押さえた。

 相澤は、いつになく穏やかな笑顔を浮かべながら、教え子達の門出を祝福した。

 

「卒業おめでとう」

 

 相澤が珍しく笑顔を浮かべながら言うと、特に賑やかし組の生徒達は感動のあまり一斉に相澤に飛びついた。

 その後、相澤も含めた22人で黒板の前に立ち、最後の記念撮影をした。

 相澤が初めて出会った時のひなたは、心も身体も傷だらけで、何も映さない死んだ目をしていた。

 クラスメイトに囲まれて写真に写るひなたは、相澤と初めて会った時の表情が嘘のように満面の笑みを浮かべていた。

 

 その後、他のクラスメイトが家族のもとへ戻り話をしている間、ひなたは心操と一緒に雄英の校舎を見上げていた。

 入試で訪れた時にはその大きさのあまり圧倒された校舎も、今ではすっかり日常の一部になっていた。

 

「この校舎とも、もうお別れかぁ」

 

「怒涛の3年間だったな」

 

「…うん。でも、楽しかった」

 

 二人は、最高のヒーローを目指して切磋琢磨した学び舎を眺めながら、入学してからの3年間を振り返った。

 するとその時、芦戸と葉隠がブンブンと手を振りながら走ってくる。

 

「ひなた、心操! これから打ち上げにディズニー行くけど二人も来るよね!?」

 

「え、今から?」

 

「いいじゃん、行こ! ねえ、お父さん!」

 

 芦戸が打ち上げに二人を誘うと、キョトンとする心操とは対照的に、ひなたは乗り気で相澤の方を振り向く。

 普段なら『非合理の極みだ』と一蹴したであろう相澤も、ひなたの楽しそうな顔を見て、今日だけは目一杯甘えさせる事にした。

 

「いいよ、行っといで」

 

 そう言って相澤がひなたを見送ろうとしたその時、ひなたは相澤の腕を掴んで言った。

 

「何言ってんの、お父さんも一緒に行くんだよ!」

 

 ひなたは、相澤の手を取って笑顔で走り出した。

 相澤はふと、かつてひなたが自分に投げかけた問いを思い出した。

 

 

 

 ──こんなぼくでも、ヒーローになれますか? 

 

 

 

「…ああ。なってるよ。最高のヒーローに」

 

 

 

 相澤は、走っていくひなたの背中に向かって呟いた。

 生まれてからずっと苦しみの中にいた人生だったが、自分の力で望む未来を勝ち取ったひなたは今、満面の笑みを浮かべていた。

 これは、禁忌によって生み出された少女が、最高のヒーローになるまでの物語だ。

 

 

 

 

 

 Fin

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。