抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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全てを持って生まれた男の子

 第二競技の騎馬戦はひなた達のチームが他のチームの鉢巻を総取りして圧勝に終わった。

 当然、他のチームの順位をどうするかで教員側で協議が行われたが、相澤が『やり直すのは合理的じゃない』と言い進行役のミッドナイトもそれに納得し、直前の上位4チームが最終競技に参加する事になった。

 

『1時間程の昼休憩挟んでから午後の部だぜ! じゃあな!!! オイイレイザーヘッド、飯行こうぜ…!』

 

『寝る』

 

『ヒュー』

 

 マイクをオフにし忘れていたのか、プレゼントマイクと相澤の会話が会場に響き渡る。

 会場の外へと出たA組の生徒はその結果に悔しがったり、第二種目を突破した者に称賛を送ったりなどで余韻に浸っていた。

 一方ひなたは、昼食をとる為一足先に食堂に行こうとしていた。

 

「さて…お腹すいたしごはん…」

 

 ひなたが会場を去ろうとすると、轟が後ろからひなたに声をかける。

 

「相澤」

 

「ん、焦ちゃん。どったの?」

 

「話がある。少しいいか?」

 

「え…う、うん…いいけど…」

 

 轟の方からひなたに話しかけてくる事はほとんど無かったのでひなたが若干戸惑っていると、轟はひなたに話したい事がある旨を伝える。

 ひなたは、戸惑いつつも断る理由が無いので、人気のないところへ移動する轟の後を追った。

 騎馬戦で落ちてしまった蛙吹は、芦戸に話しかける。

 

「悔しいわ、三奈ちゃんおめでとう」

 

「爆豪、轟の氷対策で私入れてくれてただけで、実力に見合ってんのかわかんないよー。結局最後ひなたに取られたし」

 

 麗日も、飯田に駆け寄って声をかけた。

 

「飯田くん、あんな超必持ってたのズルいや!」

 

「ズルとはなんだ!! あれはただの“誤った使用法”だ!」

 

「ウェ〜〜イ」

 

 電流を使いすぎてアホになった上鳴は、飯田の後ろで変な踊りを披露していた。

 飯田は、いつも通り手を直角に動かして言った。

 

「どうにも緑谷くんとは張り合いたくてな」

 

「男のあれだな〜〜…ていうかその緑谷くん、デクくんは…どこだ?」

 

「……あれ、そういやひなたもいないな。飯誘おうと思ったのに…」

 

 飯田が緑谷の名前を出すと、麗日は緑谷の姿が見当たらない事に気がつく。

 すると心操もひなたがいつの間にかいなくなっている事に気がついた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、緑谷とひなたは轟に人気のないところへと呼び出されていた。

 

「あの…話って…何? 早くしないと食堂すごい混みそうだし…えと…」

 

 いつまでも話を始めない轟に対して緑谷が声をかけるが、轟は冷たい視線を向けるだけだった。

 すると轟が口を開く。

 

「気圧された。てめえの誓約を破っちまうほどによ。飯田も上鳴も八百万も麗日も…感じてなかった。最後の場面、あの場で俺だけが気圧された。本気のオールマイトを身近で経験した俺だけ」

 

「………それ、つまり…どういう…………」

 

 轟が騎馬戦の時の事を話すと、緑谷は心臓をバクバクと鳴らす。

 轟に自分の“個性”の秘密がバレたのではないかと焦っていたからだ。

 すると轟は緑谷に尋ねる。

 

「お前に同様の何かを感じたって事だ。なあ……オールマイトの隠し子か何かか?」

 

「えっ」

 

 それを聞いた緑谷は目を丸くし、ひなたも軽く驚いて緑谷の方を見る。

 オールマイトと似た“個性”を持っておりよく気にかけられているので何か接点があるのではないかと思ってはいたが、まさか自分と同じヒーローの子供だとは思わなかったのだ。

 そして緑谷は、まさか隠し子だと思われているとは思わなかったのかキョトンとしていた。

 

(な…なるほど…そうなるのか…!! 確かに相澤さんだって相澤先生とプレゼントマイクの親戚って言ってたもんな…!!)

 

 だが、現に自称相澤と山田の従姪のひなたが隣にいる時点でそのような結論に行き着くのは不思議な事ではないと考えた。

 そして何とか誤解を解く為に隠し子ではない事を説明しようとする。

 

「違うよ、それは……って言ってももし本当にそれ………隠し子だったら違うって言うに決まってるから納得しないと思うけど、とにかくそんなんじゃなくて……そもそもその…逆に聞くけど…何で僕なんかにそんな……」

 

 明らかにしどろもどろになっている緑谷の隣でひなたが苦笑いを浮かべていると、轟が核心を突くような事を言い出す。

 そして、急に自分の素性を話してきた。

 

「………『そんなんじゃなくて』って言い方は、少なくとも何かしら言えない繋がりがある、って事だな。俺の親父はエンデヴァー。知ってるだろ」

 

「!」

 

「万年No.2のヒーローだ。お前がNo.1ヒーローの何かを持ってるなら俺は……尚更勝たなきゃいけねぇ」

 

「「?」」

 

 轟が言うと、緑谷とひなたはキョトンとする。

 すると轟は自分の父親の話をし始める。

 

「親父は極めて上昇志向の強い奴だ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが…それだけに生ける伝説オールマイトが目障りで仕方なかったらしい。自分ではオールマイトを超えられねぇ親父は、次の策に出た」

 

「何の話だよ轟くん…僕に…何を言いたいんだ…」

 

 いつまでももったいぶった話をしている轟に緑谷が尋ねると、轟は忌々しそうな顔をして言った。

 

「“個性”婚。知ってるよな?」

 

「「………!」」

 

 轟が確認すると、緑谷とひなたは頷く代わりに目を見開く。

 すると轟は、自分の身の上話を始めた。

 

「“超常”が起きてから、第二〜第三世代間で問題になったやつ…自身の“個性”をより強化して継がせる為だけに配偶者を選び……結婚を強いる。倫理観の欠落した前時代的発想。実績と金だけはある男だ…親父は母の親族を丸め込み、母の“個性”を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。鬱陶しい…! そんな屑の道具にはならねぇ。記憶の中の母はいつも泣いている…『お前の左側が醜い』と母は俺に煮え湯を浴びせた。ざっと話したが、緑谷。俺がお前に突っ掛かんのは見返すためだ。クソ親父の“個性”なんざなくたって……いや… 使わず一番になる事で、奴を完全否定する」

 

 轟がそう言うと、ひなたは僅かに目を伏せる。

 光の宿っていない轟の目を見て、生みの親の自分勝手な野望の為だけに生み出され(ヴィラン)になる為の躾をされてきた自分と重ねていた。

 はじめはいつまでも本気を出さない轟に対し苛ついている部分があったが、彼の事情を知って何と言葉をかけたらいいのかわからなくなってしまったからだ。

 すると轟がひなたに話しかける。

 

「相澤、お前もだ」

 

「!」

 

「お前、相澤先生とプレゼントマイクの親戚って言ってたけど…本当にそれだけか?」

 

「え?」

 

 轟がひなたに尋ねると、ひなたは頬にたらりと冷や汗を流す。

 自分の秘密がバレるかもしれないと思ったからだ。

 

「お前…クラスの奴等と仲良く接してる割には自分の話はほとんどしねぇだろ。話振られたら笑って誤魔化そうとするしよ。何か隠してるんじゃねぇのか?」

 

(うわ…存外気付いていらっしゃる)

 

 轟がひなたに尋ねると、ひなたは心の中でツッコミを入れる。

 実際は(ヴィラン)に生み出された二人の実子で元実験体ですとは口が裂けても言えなかった。

 だが『隠し事をしている事そのもの』に対してシラを切ってもどうせ嘘だとバレるだろうと思ったひなたは正直に話す事にした。

 

「…うん。あるよ。隠してる事」

 

 ひなたが表情を一切変えずにキッパリと言い切ると、轟はピクリと反応する。

 まさか全く誤魔化すそぶりすら見せずに隠し事をしている事をあっさり認めるとは思わなかったからだ。

 

「でも何を隠してるかは言えないし、今君に言う理由もない。どうしても気になるなら本人達に直接聞きなよ。まあどうせ同じ答えが帰ってくるだろうけど」

 

 ひなたは、隠し事はしているがそれを轟に言う理由が無いという事を正直に伝えた。

 ひなたが全く怯む事なく言うと、轟もそれ以上は詮索しようとしなかった。

 

「…いや。言えねえなら別にいい。お前らが俺と同じヒーローの血筋だと思ったから話しておこうと思っただけだ。お前が何者であろうと、緑谷がオールマイトの何であろうと、俺は右だけでお前らの上にいく。時間を取らせたな」

 

 轟がそう言って去っていこうとすると、緑谷が話し始める。

 

「僕は…ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ…僕は、誰かに救けられてここにいる。オールマイト…彼のようになりたい…その為には1番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら些細な動機かもしれない…でも、僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人達に応える為にも…! さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも…僕も君に勝つ!」

 

 そう告げる緑谷の目からは、強い意志と覚悟が感じられた。

 ひなたも、それを見て自分の決意を語ろうとする。

 

「…僕は……」

 

 

 

 ぐうううぅぅぅぅぅ…

 

 

 

「………あ」

 

 ひなたの腹の虫が鳴ると、ひなたは目を点にして恥ずかしさからか顔を赤くする。

 

「ごめん、お腹空いてたから…じゃ、もう行くね!」

 

 ひなたは、恥ずかしさを誤魔化すようにそそくさと去っていった。

 二人と話し終えたひなたは、仮眠を取っている相澤を捕まえて一緒に昼食を取った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「いやぁ〜食った食った」

 

 ひなたが頬に米粒をつけて満足げに腹をポンポンと叩いていると、女子達が話しかけてくる。

 女子達は何故かチアガールの格好をしていた。

 

「ひなたさん! 今までどこにいらしたんですの!?」

 

「え…どこって…仮眠室にいたけど。ご飯食べに。ていうかどしたのその格好?」

 

 八百万が話しかけると、ひなたはキョトンとする。

 そして先程からずっと気になっていたチアの格好に触れると、葉隠が事情を説明する。

 

「実はレクリエーションの間、女子は全員チアの格好で応援しないといけないらしくて! 相澤先生が言ってたんだって! もう時間ないからひなたちゃんも早く着替えて…」

 

「ん? お父さんそんな事一言も言ってなかったよ?」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

 ひなたがキョトンとして言うと、女子全員が目を丸くする。

 

「お父さんってばずっと寝っぱなしでご飯も食べてなかったから、僕が捕まえて一緒にご飯食べてたんだよ。まあ結局面倒臭いとか言ってゼリーしか飲んでくれなかったけど」

 

 ひなたが仮眠室で相澤と一緒に昼食をとっていた事を正直に話すと、女子全員の顔が硬直する。

 そして麗日は、食い気味にひなたの肩を掴んで揺すりながら尋ねてきた。

 

「それホンマなん!?」

 

「うん、てか皆は誰から聞いたの?」

 

「峰田と上鳴から。何か相澤先生が伝え忘れたとかで…」

 

 ひなたが尋ねると耳郎が答えたので、ひなたは顎に手を当てて考え込む。

 

「ふーん…あのお父さんが伝え忘れねぇ…でも万が一って事もあるだろうし直接聞いてみるよ。まあ今寝てるだろうから出てくれるかわかんないけど」

 

 合理主義を具現化したような存在の相澤が伝え忘れるなどといった事は到底考えられなかったが、万が一という事もあるので一応確認した方がいいと考えたひなたは、腰ポケットから携帯を取り出して相澤に電話をかけた。

 すると、存外かけてすぐに相澤が電話に出た。

 

「あ、もしもしお父さん?」

 

『……何だひなた』

 

 ひなたが確認すると、相澤は気怠そうに答える。

 その声から本当に先程まで寝ていたのだろうと思ったひなたは、起こしてしまって申し訳ないと思い苦笑いを浮かべていた。

 

「あ、寝てたとこ悪いんだけどさ。レク中女子はチアの格好して応援合戦するって本当? 皆お父さんがそう言ってたって言ってたんだけど」

 

 ひなたが合理主義の相澤の為に端的に質問を投げかけると、携帯の向こうからクシャ、と髪を掻く音とため息が聞こえる。

 ひなたは、呆れているんだろうなと思い再び苦笑いを浮かべる。

 相澤は意外と感情の変化、主に負の感情が表に出やすく、元々人の感情の変化に敏感な上に7年間も相澤と一緒に暮らしていたひなたなら尚更彼の感情を読み取るのは容易い事だった。

 

『何だそりゃ…そんなわけないだろ。皆は誰から聞いたって言ってた?』

 

「峰田と電吉だって。お父さんから伝言頼まれたって言ってたらしいよ」

 

 ひなたが正直に言うと、相澤のため息がさらに深くなる。

 

『あいつら…分かった、俺はそんな事一言も言ってないって全員に伝えとけよ』

 

「はーい」

 

『あと、これは上鳴と峰田に伝えておいてもらいたいんだが…』

 

 そう言って相澤はひなたに伝言を託す。

 それを聞いたひなたは、うんうんと返事をする。

 

「え? ふんふん、ふんふん…わかった! ありがとう!」

 

 相澤は、要件を伝え終わると電話を切った。

 するとひなたは女子達の方を振り向いて報告した。

 

「お父さん『そんな事一言も言ってない』ってさ!」

 

「確認ありがとひなたちゃん。やっぱり最低ね、上鳴ちゃんと峰田ちゃん」

 

「あいつら…やっぱり騙してたのか…!」

 

「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私…」

 

 ひなたが報告すると蛙吹が礼を言い、耳郎が自分達を騙した二人に対して怒りを露わにし、八百万に至っては落ち込んでいた。

 

「けど入場する前にわかってよかったなー!」

 

「あ! そうだよ早く着替えなきゃ!」

 

 芦戸が言うと葉隠が思い出したように言い、ひなた以外の女子達は急いで更衣室に駆け込んだ。

 こうして昼休憩が終わり、午後の部が行われる事になった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

『最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ! 本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げていくぜ!!』

 

 プレゼントマイクの声により多くの生徒たちが喜びの声を上げる。

 だが、約二名絶望の表情を浮かべている者がいた。

 

「ふざけんなぁあああああ!!」

 

「何でお前らチアの格好してねーんだよ!?」

 

 普通に体操服を着て入場した女子達を見て、上鳴と峰田は不満を爆発させていた。

 峰田に至っては、膝をついて涙を流しながらブーイングをしていた。

 女子達は、そんな二人に対して軽蔑と怒りが入り混じった目を向けていた。

 

「騙しましたわね、峰田さん、上鳴さん…!!」

 

「ひなたが相澤先生に確認の電話入れてくれてなかったらあのまま入場するとこだったよ!」

 

 八百万と芦戸は、自分達を騙した二人を責め立てる。

 

「しまった、ひなちゃんが先生の身内って事すっかり忘れてた…!」

 

「畜生ぁあああああ!! あいざわぁあああああああ!!」

 

「ええ…僕のせいなんこれ?」

 

 上鳴は相澤の娘であるひなたの存在をすっかり忘れて相澤の名前を使った事を後悔し、峰田は奇声を上げながら血眼でひなたに詰め寄り胸ぐらを掴む代わりに体操服を掴んでいた。

 完全に自分が悪者にされているという構図に、ひなたは困惑して頬を掻いていた。

 すると、二人の背後に黒いオーラを漏らした耳郎が現れる。

 

「あんたら…覚悟はできてるんでしょうね?」

 

「「ひっ…!?」」

 

 耳郎が低い声で凄むと、二人は弱々しく悲鳴を上げた。

 そしてその直後、耳郎のジャックが二人に突き刺さり、爆音と変態二人の断末魔が響き渡った。

 それを見て誰も助けようとしないあたり、二人の人間性が見て取れた。

 困っている者を助けるのがヒーローだが、それと同時に悪を許さないのもヒーローなのだ。

 

「ははっ…」

 

 ひなたも、耳郎の制裁を喰らって伸びている二人を見て冷ややかな笑みを浮かべていた。

 親子だからか、ひなたの浮かべている笑みは、相澤が時折見せる馬鹿にしたような笑い方と非常によく似ていた。

 だが流石に可哀想だと思ったのか、ひなたは二人に歩み寄って介抱する。

 

「あ、そうだ。電吉、峰田。お父さんが君らに伝言だって」

 

「「…え?」」

 

「『今日中に原稿用紙に反省文を書いて提出しないと除籍』…だそうです」

 

 否、介抱に見せかけた追い討ちだった。

 相澤同様どこか合理主義的で厳しいところがあるひなたが、変態を黙って許すはずがなかった。

 

「「鬼か!!」」

 

 ひなたが冷笑を浮かべながらトドメの伝言を伝えると、二人は絶望の表情を浮かべてツッコミを入れた。

 二人が相澤に女子生徒にチアリーダーの格好をさせる変態教師のレッテルを勝手に貼り付けた事を考えれば、相澤が課した処罰はむしろ温情がある方だと言えるのだが、ひなたはあえてそれを言わないでおいた。

 

『さぁさぁ! 皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目、進出4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!! 一対一のガチバトルだ!!』

 

「トーナメントか…! 毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ…!」

 

 プレゼントマイクが実況をすると、切島が興奮気味に言った。

 

「去年トーナメントだったっけ?」

 

「形式は違ったりするけど、例年サシで競ってるよ」

 

 芦戸が疑問を投げかけると、瀬呂が答える。

 

「例年競技は全部で3つか4つで、最後はサシで闘るってのがお決まりだよね。だから僕も騎馬戦ではあんな無茶できたんだけど」

 

「「あー…」」

 

 ひなたが二人の間から顔を出して言うと、二人は騎馬戦でひなたにしてやられた事を思い出して顔を逸らす。

 ひなたは、第一競技の障害物競走では後の競技が団体戦である事を考慮していたので全員の“個性”を消すというテロのような行為は控えていたが、第二競技が騎馬戦と分かれば後の競技が団体戦である可能性が極めて低くなるため、どうせ後で全員敵になるならと思い切って殲滅作戦を実行したのだ。

 

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります! レクに関しては進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人も居るしね。んじゃ1位チームから順にくじを引いて頂戴!」

 

 ミッドナイトがくじの入った箱を出すと、1位のチームのひなたが最初に壇上に上がってくじを引き、ひなたのチームの他3人もくじを引き終わると轟チーム、爆豪チーム、緑谷チームの順にくじを引いていった。 

 そして最終種目に出場する16人が決まった。

 

「というわけで、組はこうなりました!!」

 

 

 

 Aブロック

 第一試合 緑谷VS心操

 第二試合 轟VS瀬呂

 第三試合 飯田VS発目

 第四試合 相澤VS影山

 

 Bブロック

 第五試合 芦戸VS青山

 第六試合 常闇VS八百万

 第七試合 上鳴VS切島

 第八試合 麗日VS爆豪

 

 

 

「第一試合…俺は緑谷とか」

 

「ひー君!」

 

 心操が対戦表を見て少し考え込んでいると、ひなたが声をかける。

 

「ふみにゃん、ゆー君!」

 

 そしてひなたは、常闇と青山にも声をかける。

 

「皆とは、誰と戦う事になっても恨みっこなしだよ! 決勝で会おうぜ、絶対!」

 

「うん」

 

「…ああ」

 

「スィ☆」

 

 ひなたが満面の笑みを浮かべて拳を軽く突き出すと、心操と常闇はひなたと拳を合わせ、青山は決めポーズをした。

 

「麗日?」

 

(ヒィイー!)

 

 一方、初戦から爆豪と戦う事になった麗日は、顔を真っ青にして怯えていた。

 そして緑谷は、自分が勝って轟も勝ったら第二試合で轟とぶつかる事になるので案外早いと考えていた。

 すると、心操が緑谷に声をかける。

 

「緑谷」

 

「! 心操くん!」

 

「お前、本気で獲りに行くって言ってたよな。悪いけど、俺も必死だ。俺も全力で獲りに行く」

 

 心操が強い意志のこもった目を緑谷に向けて言うと、緑谷はぐっと息を呑む。

 (ヴィラン)向きの“個性”だと言われ、自分と同じ、もしくはそれ以上に自分の“個性”に悩んできたクラスメイトがこうして自分なりのヴィジョンを持って戦いに挑もうとしているのだ。

 ここで遠慮するのは失礼だと思い、緑谷はあえて余計な事は何も言わずに頷いた。

 

「…うん!」

 

 そして一方、発目は飯田の方に駆け寄って声をかけていた。

 

「飯田ってあなたですか!?」

 

「ム? いかにも俺は飯田だ!」

 

「ひょ──!! 良かった、実はですね…」

 

 発目は、初戦の対戦相手の飯田に対して何かを話していた。

 その様子を、ひなたは不思議そうに眺めていた。

 

(天ちゃん何話してんのかなぁ…)

 

 するとその時だった。

 

 

 

「随分とクラスメイトと仲が良いんですね、相澤さん」

 

 突然、ひなたの耳に息がかかるくらいの距離で背後から影山に声をかけられる。

 

「!?」

 

 ひなたは、自分の耳に影山の息がかかるのと同時に反射的に振り向いて左腕を振るう。

 

「きゃっ」

 

 それに驚いた影山は、軽く身体を逸らしてひなたの腕を避ける。

 目を見開いて完全に警戒態勢に入っていたひなただったが、僅かに目を見開いて驚いている影山を見てハッとする。

 

「…! あ、ごめん…ついビックリして…」

 

 ひなたは、目をパチクリさせて影山に謝る。

 驚いている影山を見て警戒態勢を解いたひなただったが、緊張のせいか冷や汗を流し心臓をバクバク鳴らし息も荒くなっていた。

 人一倍人の気配に敏感なひなたが、耳に息がかかるほど接近されるまで全く気付かなかったのだ。

 大袈裟なまでの緊張は、これが実戦だったら殺されていたという恐怖から来る生理的な反応だった。

 

「いえ、お気になさらず。私の影が薄いのが悪いんです。まさか初戦であなたとぶつかる事になるとは思ってもみませんでしたが…私も私の目的の為に勝たせていただきます」

 

 影山がそう言ってニコッと笑うと、ひなたは影山を見上げて言う。

 

「僕だって、お父さん達が見てるんだからカッコ悪いところは見せられないよ。こっちこそ、全力で勝たせてもらう」

 

 ひなたが真正面から影山を見据えて言うと、影山は僅かに目を細めて笑う。

 そして、返事代わりにヒラヒラと手を振るとそのままひなたに背を向けて普通科の観戦席へと戻っていった。

 

『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間! 楽しく遊ぶぞレクリエーション!』

 

 ほとんどの生徒がレクリエーションに参加する中、ひなたは控室で自分の“個性”である喉の調子を整えていた。

 ひなたの“個性”は人一倍消耗が激しく、“個性”を使いすぎると目と喉が疲れるため後の試合のために温存しておく必要があった。

 そうしてあっという間に時は来る。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「オッケーもうほぼ完成」

 

 セメントスは、自身の“個性”でセメントを操ってリングを作る。

 リングの四隅からは炎が上がっており、まさに闘技場のようだった。

 

『サンキューセメントス! ヘイガイズ! アァユゥレディ!? 色々やってきましたが!! 結局これだぜガチンコ勝負!! 頼れるのは己のみ! ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ! 分かるよな!! 心・技・体に知恵知識!! 総動員して駆け上がれ!!』

 

 緑谷がリングに上がろうとすると、後ろからトゥルーフォームのオールマイトが声をかける。

 オールマイトは、緑谷に“個性”についてのアドバイスをする。

 緑谷がそれに対して自信なさげに答えると、オールマイトは緑谷に発破をかけ、マッスルフォームに変身して励ました。

 すると緑谷は、決意を固めてリングに上がる。

 

『一回戦!! 成績の割に何だその顔! ヒーロー科緑谷出久!! 対、騎馬戦では見事な無双を見せた期待の星! 同じくヒーロー科心操人使!!』

 

 緑谷は緊張した様子で、心操は何か思惑がある様子でステージに上がる。

 心操がリングに上がってふとA組の観客席の方を見るとひなたが口パクで『がんばれ』と言っていたので、心操は返事代わりに小さく手を振った。

 

『ルールは簡単! 相手を場外に落とすか行動不能にする、後は『参った』とか言わせても勝ちのガチンコだ!! 怪我上等!! こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!! 道徳倫理は一旦捨てとけ!! だがまぁ勿論命に関わるよーなのはクソだぜ!! アウト! ヒーローは(ヴィラン)を捕まえる為に拳を振るうのだ!』

 

(道徳倫理は捨てちゃあかんやろ)

 

 プレゼントマイクのルール説明に、ひなたは心の中でツッコミを入れつつ二人が立っているリングに目を向ける。

 その間にも、心操は緑谷に話しかけていた。

 

「…緑谷。俺、さっき言ったよな。俺も全力で獲りに行くって。俺は、この“個性”を使ってお前に勝ったところで、それは勝った事にはならないと思ってる。お前を一方的に操って勝つなんてやり方、俺のプライドが許さない。それで勝ったとしても、俺は俺の勝利を素直に喜べそうにない。それに、どうせクラスの皆に後でこう言われるに決まってる」

 

『そんじゃ早速始めよか!! レディィィィィイSTART!!』

 

 プレゼントマイクが試合開始の合図をしてもなお、心操は話を続ける。

 

「『(ヴィラン)みたいな手使いやがった』って」

 

「………っ何て事言うんだ!!」

 

 心操が自分の気持ちを語ると、それに対して頭にきた緑谷はつい心操の言葉に反応してしまう。

 すると、心操の洗脳スイッチが入った緑谷は目から光が消える。

 

「……なんてな。引っかかってくれてありがとよ」

 

 心操は、洗脳にかかった緑谷に強い意志がこもった瞳を向けて言った。

 

「デクくん…!」

 

「心操あいつ、いきなり仕掛けて来やがった…!」

 

 観戦席にいた生徒達は、自分の“個性”に対して悲観的な事を言っていた心操がいきなり洗脳を仕掛けてきた事に驚いていた。

 プレゼントマイクも、驚いた様子で実況をする。

 

『オイオイどうした? 大事な緒戦だ、盛り上げてくれよ!? 緑谷、開始早々────完全停止! アホ面でビクともしねぇ!! 心操、早速騙し討ちを仕掛けてきやがった━━━━━!!』

 

「お人好しなお前なら、こういう事言ったらキレてくれると思ったよ。周りに何と言われようと関係ない。悪いな緑谷、これが俺なりの『全力』だ」

 

 

 

 

 




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