抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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高評価とお気に入りと感想はいくら貰っても嬉しいですからね、ええ。



奮え!チャレンジャー

『緑谷完全停止!? アホ面でビクともしねぇ!!』

 

 試合開始早々、緑谷は心操の洗脳にかかって固まってしまった。

 リング上の心操は、緑谷に話しかける。

 

「悪いな。あいつは…こんな(ヴィラン)向きの“個性”でも、ヒーローになれるって言ってくれたんだ。だから俺は『全力』でお前に挑む。卑怯だ何だと言われようが、これが俺の戦い方だ。振り向いてそのまま場外まで歩いていけ」

 

 心操がそう言うと、緑谷は踵を返して歩いていく。

 

『ああ━━━! 緑谷ジュージュン!!』

 

 緑谷が心操の洗脳にかかって歩いていくのを見て、切島は心操に対して不満を漏らしていた。

 

「何だよ、心操の奴!! 騙し討ちなんて男らしくねえ!!」

 

「何で? 僕はカッコいいと思うけど」

 

「え!?」

 

「だって、それだけ本気で勝ちたいって事だもん。どんな手段を使っても、卑怯だ何だって言われても、本気で勝とうとしてる人の方が僕はカッコいいと思うけどなぁ」

 

 ひなたが真っ直ぐな目をリングにいる二人に向けて言うと、反論しようとしていた切島が感動する。

 

「くっ…ひなちゃんおめーいい事言うじゃねえか!! そうだあいつは漢だ!!」

 

「どっちだよおめー」

 

「しかし、緑谷くんはあのままではマズいぞ!?」

 

 飯田の言う通り、このまま緑谷がリングのラインを超えてしまえば緑谷の負けが確定してしまう。

 そして言っているそばから、緑谷が場外のラインを踏もうとしていた。

 

「試すようなマネして悪かったよ。けどな…俺だって…立派なヒーローになる為に、こんな俺でもヒーローになれるって言ってくれた奴に応える為に、ここで負けるわけにはいかないんだ」

 

 だが、その時だった。

 

 

 

 バキッ

 

 

 

「!!?」

 

 突然、緑谷の左指から衝撃波が放たれる。

 すると緑谷は痛みで意識を取り戻し踏み留まった。

 

「っ……!!! ハァ! ハァ…!」

 

『──────これは…緑谷!! 留まったああ!?』

 

 それを見ていた心操は目を見開く。

 

「っとに……何したんだ、お前…!」

 

「…………」

 

 心操が緑谷に尋ねるが、緑谷は答えずに黙って心操の方へ歩いていく。

 衝撃波によって洗脳を解かれた心操だったが、ひなたの目には心なしか彼が喜んでいるように見えていた。

 

「騙されてショックかよ、ええ!? おい! けど、仕方ねぇだろ! この“個性”で勝つにはこうするしかないんだからよ!」

 

「………!!」

 

 心操は、再び緑谷を洗脳しようと言葉を投げかける。

 だが緑谷は、黙って心操の方へと歩いて行く。

 すると心操は、強めに緑谷の肩を押した。

 

「何だよその目、怒ってんの? だったらやり返せよ、ほら!」

 

 心操は、自分の方へ歩いてくる緑谷を押して煽る。

 すると緑谷は、無言のまま緑色の光を纏い、心操目掛けて衝撃波を放った。

 緑谷が放った衝撃波が容赦なく心操を襲い、心操は危うく場外へ吹き飛ばされそうになる。

 だが心操は、咄嗟に受け身を取ってリングの上にギリギリ留まっていた。

 

『耐えたぁあああ━━━━━━!!! ヘイガイズ見たかスーパー人使くんの華麗な身のこなし!!』

 

『おいコラ』

 

 プレゼントマイクが心操に勝手に某番組から取ったと思われるあだ名をつけると、相澤がツッコミを入れる。

 

「なああああ!? あいつらこの二週間で強くなりすぎだろ!!」

 

「ひー君…!」

 

 緑谷が放った衝撃波に心操が耐えると、二週間前の非力だった二人を知っていたクラスメイトは驚きを隠せず、ひなたは感動のあまり身を乗り出した。

 この二週間での緑谷の急激な成長に、心操は目を見開いて言葉を失っていた。

 

「何…っだよそれ…! そんなのアリかよ…!」

 

「うう゛っ…!」

 

 心操が思わず笑みをこぼす一方で、緑谷も指の激痛で顔を歪めながらも真っ直ぐに心操を見据えていた。

 

「今のはビビったぜ。さっきはお前をキレさせる為にああ言ったけどな…真正面からぶつかって勝ちたいのは本心なんだよ。緑谷ァ!! 俺と、戦おうぜ!!」

 

「………!!」

 

 心操が言うと、緑谷は返事代わりに黙って心操に向かっていく。

 心操は、それに応えるように緑谷に向かっていき、緑谷目掛けて拳を振り抜きながら話しかける。

 当然洗脳する為の『問いかけ』だったが、最初に言った嘘とは違い全部本心だった。

 

「この前蛙吹も言ってたけどさ! お前の“個性”ってオールマイトに似てるよな!?」

 

「………」

 

 心操が緑谷に話しかけながら組み付こうとすると、緑谷はそれを避け、スマッシュを打とうとする。

 だが心操は、それを片手でいなして防ぐと、緑谷にカウンターを仕掛ける。

 この二週間で、緑谷はエネルギーを纏ってパワーを調整する技を身につけ、パワーやスピードで心操を圧倒していた。

 だが心操も、二週間ひなたに修行をつけてもらって格闘術を身につけており、そういった技術面でフィジカルの不利を補っていた。

 

「俺、お前の事をずっと羨ましいって思ってたんだよ! そんなヒーロー向きの“個性”持っててよ!」

 

「…………!」

 

 心操が横から蹴りを放つと、緑谷はそれを咄嗟に防御した。

 だが完全には防ぎきれずに体勢が崩れてしまい、それを見逃さなかった心操が一気に畳み掛ける。

 

「けど、障害物競走の時のお前を見てよ、“個性”抜きにすげえお前に憧れたんだよ!! 緑谷ぁ!! 俺は、お前に勝つぞ!! 勝って、お前を超える!!」

 

(ワンフォーオール・フルカウル…8%…!)

 

「くっ…!」

 

 そう言って心操が緑谷を場外へ突き飛ばそうとすると、緑谷は轟の時同様超パワーで薙ぎを放って心操をよろけさせる。

 そしてそのまま、心操の右手首と胸ぐらをを掴む。

 

(僕だって…君の方がすごいって思ってる! だからこそ、僕も君を超える!!)

 

「ぁあああああああ!!!」

 

 そしてそのまま心操を背負い投げた。

 リングに叩きつけられた心操の両足は、わずかにラインを越えた。

 

「心操くん場外!! 緑谷くん、二回戦進出!!」

 

『二回戦進出!! 緑谷出久━━━!!』

 

 ミッドナイトとプレゼントマイクが勝敗を言い渡し、一回戦第一試合は終了した。

 

「っつ………クソ…やっぱすげえよお前…」

 

 惜しくも負けてしまった心操は、リングに横たわって悔しそうに目を瞑っていた。

 

『IYAHA! 案外白熱した戦いだったな!! とりあえず両者の健闘を讃えてクラップユアハンズ!!』

 

 プレゼントマイクが言うと、ひなたは拍手をし始める。

 するとそれを皮切りに、他の観客達も拍手をした。

 拍手が鳴り響く中、緑谷はゆっくりと立ち上がる心操に頭を下げる。

 

「心操くん…ごめんね。僕、あの時一瞬だけ本気で怒っちゃって…」

 

「…いや、いいよ。俺もお前にスイッチ入れる為にわざと言ったし、お互い様だ」

 

 緑谷が謝ると、心操は首を手で押さえて答える。

 

「緑谷、次はお前に勝つぞ」

 

「…うん!」

 

 心操が言うと、緑谷が返事をする。

 すると緑谷の目から光が消える。

 

「あっ」

 

「っとに、お前って奴は…何でさっきまで操ろうとしてた奴の言葉に警戒せずに答えられるんだよ」

 

 心操は、試合が終わった途端あっさり『洗脳』にかかった緑谷に対していたずらっぽく笑うとすぐに“個性”を解除した。

『洗脳』という“個性”の特性上人と話すと必ず警戒されてしまう心操にとっては、緑谷が全く警戒せずに馬鹿正直に問いかけに応じてくれた事が純粋に嬉しかったのだ。

 それを見ていたひなたは、この戦いを通して二人の間により強い絆が芽生えたように思えて思わず笑みが溢れていた。

 心操がリングを去っていくと、ひなたは早速心操に声をかけに行く。

 

「ひー君、惜しかったな!」

 

「…うん」

 

「大丈夫? リカバリーガールに治してもらおうね。あ、そうだ。サルミアッキをお食べ。元気出るよ「要らん要らん要らん」

 

 ひなたが心操を心配して常備していたサルミアッキを口に運ぼうとすると、心操は顔を逸らして拒絶する。

 小学生のようなやり取りをしていると、唐突に心操がひなたに話しかける。

 心操は、体育祭の一ヶ月以上前から修行をつけてくれていたひなたの期待に応えられる結果を出せず、悔しさが溢れ返りそうになっていた。

 

「…ごめんな。せっかく修行つけてもらったのに…」

 

「何言っとるんだ! 僕はひー君がここまで頑張ってきた事が嬉しいんだよ!」

 

 ひなたは、ニコッと笑うと心操に片手を差し出す。

 

「来年は決勝で会おうぜ!」

 

「ああ」

 

 ひなたが笑いながら手を差し出してくると、人使はひなたの手を握った。

 

「…ひなた」

 

「うん?」

 

 ひなたがコテンと首を傾げると、心操が軽く拳を前に出して言った。

 

「頑張れよ」

 

 心操がひなたを応援すると、ひなたは力強く頷いた。

 

「うん!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして第二試合。

 

『お待たせしました!! 続きましては〜、こいつらだ! 優秀!! 優秀なのに拭い切れぬその地味さは何だ! ヒーロー科瀬呂範太!!』

 

 プレゼントマイクが若干瀬呂に対して失礼な実況をすると、瀬呂は苦笑いを浮かべる。

 

『対! 4位・2位と強すぎるよ君! 同じくヒーロー科轟焦凍!! START!!』

 

「まぁ━━━…勝てる気はしねーんだけど…つっても負ける気はね━━━!!!!」

 

 瀬呂は、いきなり轟にテープを巻きつける。

 そしてそのまま場外目掛けて投げ飛ばそうとした。

 

『場外狙いの早技!! この選択はコレ最善じゃねぇか!? 正直やっちまえ瀬呂━━━━!!!』

 

 だが…

 

 

 

「悪ぃな」

 

 轟は、スタジアムからはみ出す程の巨大な氷を出し、瀬呂とミッドナイトを氷漬けにした。

 秒殺された瀬呂は、信じられないといった表情で轟を見ていた。

 

「…………や………やり過ぎだろ…」

 

「…………瀬呂くん………動ける?」

 

「動けるはずないでしょ…痛えぇ……」

 

 氷漬けになったミッドナイトは、ガタガタ震えながら瀬呂に尋ねる。

 瀬呂がなす術なくギブアップすると、ミッドナイトは勝敗を言い渡す。

 

「瀬呂くん行動不能!! 轟くん二回戦進出!!」

 

「すまねぇ…やり過ぎた。イラついてた」

 

 勝敗が決すると、轟は瀬呂の氷を溶かす。

 すると観客席からはどんまいコールが浴びせられた。

 

「どーんまい」

 

「どーんまい」

 

 ひなたは、どんまいコールをされる瀬呂を見て引き攣った笑みを浮かべていた。

 そして、確かに“個性”の相性的に仕方ないなと瀬呂に対して同情していた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして第三試合。

 

『ステージを乾かして次の対決!! ザ・中堅って感じ!? ヒーロー科飯田天哉! 対! サポートアイテムでフル装備!! サポート科発目明!!』

 

 サポートアイテムをフル装備していた発目…だったが、何故か飯田までサポートアイテムをフル装備していた。

 するとミッドナイトが飯田に対して注意をする。

 

「ヒーロー科の人間はそういうの原則禁止よ? 無いと支障をきたす場合は事前に申請を」

 

「は!! 忘れておりました!! 青山くんもベルトを装着していたので良いものと…!」

 

「彼は申請しています!」

 

 ミッドナイトの注意に対して飯田が言い訳をすると、ミッドナイトは突っぱねる。

 すると飯田は、自分もサポートアイテムを装着している理由を語り始める。

 

「申し訳ありません! だがしかし! 彼女のスポーツマンシップに心打たれたのです!! 彼女はサポート科でありながら、『ここまできた以上対等だと思うし対等に戦いたい』と俺にアイテムを渡してきたのです! この気概を俺は!! 無下に扱ってはならぬと思ったのです!」

 

「そういう青臭いのはさぁ…」

 

 飯田が熱弁すると、ミッドナイトは何か言いたげな様子で鞭を振り上げる。

 そして…

 

 

 

「好・み!!! OKよ!!」

 

『いいんかい…』

 

『まァ双方合意の上なら許容範囲内…でいいのか?』

 

 ミッドナイトが上機嫌でピシャンと鞭を鳴らしながらOKを出すと、プレゼントマイクが呆れた様子でツッコミを入れ、相澤は無理矢理納得した。

 双方合意の上での装着という事もあり、反論はなかった。

 

『START!』

 

 開始と同時に、飯田は早速発目に突進した。

 だが…

 

『素晴らしい加速じゃないですか飯田くん!!』

 

『は?』

 

「マイク?」

 

 発目が小型マイクで自分の声を大きくして喋り始めるとプレゼントマイクがキョトンとし、飯田も頭に疑問符を浮かべていた。

 

『普段よりも脚が軽く上がりませんか!? それもそのはず!! そのレッグパーツが着用者の動きをフォローしているのです! そして私は『油圧式アタッチメントバー』で回避も楽々!』

 

 発目は、飛び回りながら小型マイクで自分の作ったアイテムを堂々と宣伝していた。

 そして、自身の“個性”で観客席の方を隈なくチェックする。

 大企業の人間が食いついているのをその目で確認した発目は、一人で勝手に盛り上がっていた。

 

 

 

 発目明

 “個性”『ズーム』

 本気出せば5km先のものもクッキリだ!! 

 

 

 

「どういうつもりだ…」

 

 飯田は、発目の意図が理解できずに呟く。

 だが発目は、聞く耳を持たずに宣伝を続けていた。

 

『飯田くん鮮やかな方向転換!! 私の『オートバランサー』あってこその動きです!』

 

 この試合は、発目の宣伝と共に10分間続いた。

 そして…

 

「ふ━━━…全て余す事なく見て頂けました。もう思い残す事はありません!!」

 

「騙したなあああ!!!」

 

 発目が満足げな表情でリングを去っていくと、完全にいいように利用された飯田は憤慨して叫ぶ。

 

「発目さん場外!! 飯田くん二回戦進出!!」

 

「すみません。あなた、利用させてもらいました」

 

「嫌いだぁああ君━━━!!」

 

 ミッドナイトが勝敗を言い渡し、第四試合が終わった。

 結局、完全に発目の宣伝のためだけの茶番試合だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして第四試合。

 

『さぁーどんどんいくぞ! 頂点目指して突っ走れ!! お次は華の女子同士の対決! 絶対に負けられない女の戦いが今ここに!!』

 

『熱量おかしくないか?』

 

『うるせぇこちとらむさ苦しい野郎同士の試合なんざもう腹一杯なんだよ! やっぱたまには華が無えとな華が!』

 

『お前なぁ…』

 

 明らかに前の三試合よりハイテンションなプレゼントマイクに対して相澤がツッコミを入れると、プレゼントマイクがそれを無視して多方面に敵を作りそうな発言をしたので相澤は呆れ返ってため息をつく。

 

『さぁー盛り上げていくぜYEAH! 人形みたいに可愛い顔して3位・1位と強すぎだろ君!! ヒーロー科相澤ひなた!! 対! 予選1位通過の意外すぎるダークホース! C組からの刺客! 普通科影山幽華!!』

 

 プレゼントマイクが実況をしている間にも、ひなたは臨戦態勢を取る。

 だが…

 

『START!!』

 

 スタートと同時に、影山がクスリと笑った。

 ひなたは、影山の態度に違和感を覚えつつも、“個性”を発動しようと息を吸おうとする。

 すると、その直後だった。

 

「か…は……!!」

 

 ひなたは、突然リング上にバタリと倒れる。

 それを見た影山は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 

「私の勝ちです」

 

『おいおいちょっと待て、まだ開始数秒だぞ!? 1ーA相澤、いきなりダウン!? つーか今何した!?』

 

『酸欠だ』

 

『は?』

 

『言っただろ、影山の“個性”は目に映った無生物を消す事ができる。今のは、“個性”で相澤の周りの空気から酸素を抜いて酸欠を起こしたんだ』

 

『ナイス解説!』

 

 プレゼントマイクが驚いていると、相澤が冷静に影山の戦い方を解説をする。

 するとプレゼントマイクがサムズアップをする。

 ひなたが目眩を起こしながらも何とか立ちあがろうとしていると、影山がクスクスと笑いながらひなたに歩み寄り、何度もひなたを踏みつける。

 

「“個性”を消せると言っても、そのザマじゃ全然意味無いですね」

 

「っ………」

 

 影山がひなたを踏みつけてくると、ひなたはリングの上で何とか受け身を取った。

 ひなたが一方的にやられているのを観客席から見ていた心操は、思わず身を乗り出す。

 

「ひなた…!」

 

「マジかよ、ひなちゃんこのまま負けちまうのかよ!?」

 

 クラスメイトは、一方的に踏みつけられているひなたを心配しており、中には耐えられずに目を背ける者もいた。

 もうひなたは戦う事ができないと判断したミッドナイトは、リングに上がって勝敗を言い渡そうとする。

 

「相澤さん、行動不の──「待って下さい」

 

 突然、影山がミッドナイトの言葉を遮った。

 影山は、クスッと笑いながら自分の足元に倒れているひなたを指差した。

 

「ダメじゃないですか、ミッドナイト先生。ちゃんと()()()()()()()()()()()()()。相澤さんはまだギブアップしてませんし、気絶もしていません。ほら、息止めて悪あがきなんかしてますよ。きっと今頃、どうやって私に勝とうか酸欠で動かない頭を捻って考えてるんじゃないですかね?」

 

 影山は、ヘラヘラ笑いながら言った。

 ひなたは、これ以上体内の酸素を減らさないよう鼻と口を左手で押さえて息を止め、この状況をどう覆そうか必死で考えていた。

 この状況でもまだ、ひなたの目は死んでいなかった。

 影山は、そんなひなたを一瞥すると、ニヤリと不気味な笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「確か、ギブアップか、戦闘不能か、場外でしたよね? 相澤さんはどの条件もまだ満たしていません。わかりますか? まだ勝負は終わっていないんですよ」

 

 影山が無機質な笑みを浮かべながら言うと、いやでも影山の異常性を感じ取ったミッドナイトは、思わず冷や汗をかく。

 影山の目的は、ひなたに敗北感と屈辱を味わせ、『ヒーロー科を屈服させた』という事実を手に入れる事だった。

 影山は、その場でしゃがみ込むとひなたの前髪を掴んで持ち上げ、顔を覗き込みながら話しかける。

 

「ねぇ、相澤さん。別にこのまま気絶させてフィニッシュでもいいんですけど…それだと私の目的を果たせないんです。私はね、出来るだけあなたに強烈な敗北感を味わってほしいんですよ。あなたのプライドをズタズタにへし折って、完膚なきまでに叩きのめさなきゃ気が済まないんです。でも私も鬼じゃないので、二択にしてあげます。このまま降参して下さい。じゃないとどうなるか知りませんよ? どうします? ギブアップしますか?」

 

「っ……!!」

 

 影山が意地の悪い笑みを浮かべながら尋ねると、ひなたは弱々しく首を横に振って拒否する。

 それを見ていた相澤は、ボソッと呟く。

 

『これは…相手が悪かったな』

 

『?』

 

 相澤が言うと、プレゼントマイクがキョトンとする。

 影山の提案をひなたが拒否すると、影山は不気味な笑みを浮かべてひなたの右腕を掴む。

 

 

 

 バキッ

 

 

 

「………っっっっっ━━━━━━━━━━━━━!!!!」

 

 ひなたは、あまりの激痛に目を見開いて声にならない悲鳴を上げる。

 ひなたの右腕は、完全に折れて内出血で腫れ上がっていた。

 

「はい、折っちゃいました。あなたが降参しないからです。どうします? 左腕もいっときますか?」

 

 影山は、クスクスと馬鹿にしたような笑みを浮かべながら言った。

 それを見ていた心操は、血相を変えてひなたに向かって叫ぶ。

 

「っ……ひなたぁあああ!!」

 

「嘘だろ…!? もう勝負はついてたのに何であんな事すんだよ!?」

 

「やだもう無理ウチ見てらんない…!」

 

 A組も、影山のやった事に完全に引いており、顔を真っ青にしていた。

 上鳴は影山の行動が理解できず、耳郎は耐えられなくなって手で顔を覆っていた。

 

「なあ、ミッナイ先生! もう止めてくれよ! あいつイカレてる! ひなちゃんが死んじまうよ!」

 

 瀬呂が影山を指差してミッドナイトを向かって叫ぶと、流石にミッドナイトもこれ以上の続行は危険だと判断する。

 そしてそれは、ひなたの父親であるプレゼントマイクも同様だった。

 

『んのやろ……やりやがった……!!』

 

 プレゼントマイクは、大きく目を見開いて顳顬に青筋を浮き上がらせ、愛娘を傷つけられた事に怒り狂うあまり実況役という立場も忘れて手元にあったマイクを引っ掴んで大声で叫ぶ。

 

『おい!!! てめぇふざけんなコラァ!!! 影山っつったか!? このイカレ女の親、これ見てんなら今すぐここに来い!! まとめてブチ殺『やめとけ。多方面に敵増やすぞ。それに見ろ、あいつの目はまだ死んでない』

 

 プレゼントマイクが怒りのあまりヒーローらしからぬ暴言を吐こうとすると、相澤が横から割り込んで止めた。

 あくまで解説役という立場上冷静を装う相澤だったが、よく見るとプレゼントマイク同様怒りで震えていた。

 だが、腕を折られて激痛に苦しみながらも影山を見据え続けるひなたを見て、決着がつくまでは見届けてやるのが筋だと思い黙って試合を見ていた。

 すると影山は、ひなたの耳元で囁くように語り始める。

 

「相澤さん。私、地味なのがコンプレックスなんです。影が薄すぎて、誰にも覚えてもらえない。誰かに覚えててもらいたくて、勉強もスポーツもずっと1番を取って、目立つ為の努力だってしてきたのに、皆私の事を覚えてくれないんです。それで、気付いたんです。並の目立ち方じゃダメなんだって。だから少しでも注目を集めようと、国内最高峰たる雄英のヒーロー科入試で傷害事件を起こしてやる事にしたんです。でも結果はどうでしょうか。結局事件を起こした事自体を忘れ去られ、私はただの一生徒として扱われてるだけ」

 

「っ……!!」

 

 影山が話している間にも、ひなたは腕の激痛で顔を歪めていた。

 だが影山は、そんな事はお構いなしに話し続ける。

 

「ヒーローの娘としていやでも注目を集めてるあなたにはわからないでしょうね。認識すらされない人間の気持ちなんて。だから私は、全国の皆さんが見ているこの体育祭という場を利用して、あなたを徹底的に痛めつける事にしたんです。…それでもきっと、私があなたを負かした事は、翌日になればほとんどの人が忘れてるでしょうね。でも少なくとも、あなたの脳裏には、今日の事が屈辱的で絶望的な敗北として一生刻み込まれる。恨まれようが呪われようが別にいいんです。私が誰かの脳裏に一生残る存在になれればそれで」

 

「っ…」

 

「これが最後のチャンスです。今度こそ降参して下さい。じゃないと、次は喉潰します。流石に、ヒーローへの道を断たれれば降参してくれますよね?」

 

 影山がさらに追い討ちをかけようとすると、ミッドナイトはこれ以上はひなたが危ないと判断し試合を中断しようとする。

 

「やめなさい影山さん!! これ以上は反則行為と見做し…「っあ゛ぁああああああああ!!!」

 

 ミッドナイトが言いかけたその時、ひなたが大声を上げながら立ち上がり、影山の顔目掛けて蹴り上げた。

 完全に不意を突かれた影山は、バランスを崩してその場で尻餅をついた。

 その隙にひなたは、後ろに飛んで影山の“個性”の範囲から逃れた。

 

「っ……!?」

 

「ぶは!!」

 

 息を吸えるようになったひなたは、大きく息を吸っては吐いて脳に酸素を巡らせる。

 ようやく本調子を取り戻したひなたは、肩で息をしながらも笑顔を浮かべてみせた。

 

「はぁー…はぁー…降参? 笑わせんな。()()()()でするわけないだろ。先に言っとくけど、喉潰されようが両手両足折られようが絶対降参しないから」

 

 右腕を折って戦意を喪失させたはずの筈のひなたが立ち上がるのを見て、影山は動揺する。

 するとひなたは、尻餅をついて自分を見上げている影山に向かって左手で口を拭いながら言った。

 

「こっちは命懸けてきてんだよ。御託はいいから本気でかかってこい」

 

「………!」

 

 ひなたが僅かに口角を吊り上げながら言うと、影山は思わずゾッと背筋を震わせる。

 誰から見ても、ひなたは絶望的に劣勢だった。

 だが影山を見据えるひなたの目に宿った戦意はむしろ腕を折られる前より強くなっており、優勢なはずの影山が気圧されていた。

 

『ああなりゃ普通の奴なら戦意喪失する。諦めさせるって意味じゃ、合理的な判断だ。だが影山は、それをやる相手を間違えた。死んでも諦めない奴にやったところで却って逆効果だ。初手で気絶させるべきだった』

 

 相澤は、絶対に勝つという強い想いを持って立ち上がったひなたを見て言った。

 影山が取った行動によって却ってひなたの戦意に火がついてしまい、もはや誰にも止められなくなっていた。

 ひなたは、腕を折られてもなお笑みを浮かべて影山に歩み寄る。

 すると先程まで怯んでいた影山は、ニィと口角を吊り上げる。

 

「…気が変わりました。あなたの身を案じて降参を提案した私が馬鹿でしたね。ここからは私も全開でいきます」

 

 影山は、“個性”で気配を消してひなたに接近し、今度こそひなたを気絶させようとする。

 するとひなたは、何を考えたのか左脚を振り上げ、そのまま勢いよくリングを踏み抜いた。

 

「!」

 

 ひなたが全力でリングを踏み抜くと、リングがバカッと放射状にひび割れ、コンクリートの煙幕が巻き起こる。

 突然煙幕で視界を奪われた影山が動揺していると、煙の中で何かが動くのに気付いた。

 その次の瞬間だった。

 

 

 

『わ゛!!!!!!』

 

 

 

 ひなたは、“個性”を発動させて大声で叫んだ。

 するとひなたの『声』が直撃した事で影山の“個性”が強制的に解除され、自分にかけていた透明人間化が解けてひなたが認識できるようになる。

 

「これでもう、ものを消す“個性”は使えないぞ…!」

 

「あなた…まさか、私の“個性”の弱点を見破ったっていうの!?」

 

「それだけ得意げに見せびらかしてくれれば、バカでも気付くよ。君の“個性”の弱点一つ目、『視えるもの』にしか“個性”を発動できない。僕の声に怯んだのがその証拠。二つ目、自分以外の生物は発動の対象外。三つ目、“個性”の発動には限界距離がある。騎馬戦の時の間合いから、ざっと10mってとこだよね? それ以上離れると、“個性”が届かない。君がどんな手を使ってこようと、視界を封じてひたすら叫び続ければいつかは攻撃が当たる」

 

 ひなたは、酸欠で倒れた時点で影山の“個性”の弱点を見破っていた。

 リングを踏み抜いたのも、煙幕を起こして影山の“個性”を思うように使わせない為だった。

 ひなたは、笑顔を浮かべながら左手で手招きをしてみせる。

 

「全開で行くんだろ? 来いよ、まだ勝負は終わってないぞ」

 

(こいつ…!)

 

 ひなたが笑ってみせると、影山は思わず冷や汗をかく。

 ひなたの狂気とも呼ぶべき執念に、影山は完全に気圧されていた。

 影山は、ギリっと歯を食いしばるとひなたに特攻を仕掛ける。

 

「舐めるな!!」

 

 影山がひなたの頭目掛けて回し蹴りを放つと、ひなたはそれを左手で受け止めてみせた。

 影山の蹴りを受け止めたひなたは、真っ直ぐに影山を見据える。

 

「舐めてなんかないよ。君は全力で僕に挑んできた。だったら僕も、君に全力で挑戦するだけだ!」

 

 そう言ってひなたは、片腕で影山を押し返した。

 ひなたに押し返された影山が態勢を整えようとすると、ひなたがさらに追撃を仕掛ける。

 

「やぁっ!!」

 

「っ……!?」

 

(こいつ、何の躊躇いもなく急所を狙った…!? ヒーロー志望のくせに、どうかしてる…!)

 

 ひなたが何の躊躇いもなく顎を狙いに行くと、影山はゾッと背筋を震わせる。

 影山も独学で武術を身につけており、両者の実力はほぼ互角だったが、少しずつひなたが影山を押し始めた。

 

『おおっと1ーA相澤、これはすごい!! 右腕を折られてなお影山を押してるぞ!!』

 

『だから言ったろ。相手が悪かったって』

 

『っし…!! いいぞひなたー!! 顎だ!! 顎を狙えええ!!』

 

『お前は私情を前面に出しすぎ』

 

 プレゼントマイクが上機嫌になって実況すると、相澤が呆れてツッコミを入れる。

 影山は、いくらねじ伏せようとしても倒れないひなたに痺れを切らし、感情を剥き出しにして叫んだ。

 

「っ…いい加減にしてよ!! あなた、私が怖くないの!?」

 

「僕は、いつだって命懸けで戦ってるヒーローを知ってる…!! それに比べれば…こんなの、怖くもなんともない!!」

 

 ひなたがそう言って激痛で歪んだ笑みを浮かべると、影山は目を見開いて一歩退く。

 

「どうして、そこまでして…」

 

「君に勝つんだ。応援してくれてるお父さんやひー君の期待に応えるために…そして、君のために!!」

 

 ひなたがそう言って強い意志を持った瞳を向けると、影山は怯む。

 ひなたの言葉には、迷いや偽りは一切無かった。

 

「はぁ!? 意味がわからない!! 私の為を思うなら降参してよ!! 私は、あなたに勝って誰かに覚えててもらいたいの!!」

 

「僕の力は!! たった独りで助けを求めて泣いてる女の子の檻を壊してあげる為の力だ!! 幽華ちゃん!! 君の痛みも、苦しみも、全部僕がブチ壊す!! その為に僕はヒーローになるんだ!!」

 

 そう言ってひなたは、ありったけの声で叫びながら拳を振りかぶる。

 

 

 

「ぁあああああああああああ!!!」

 

 

 

 ひなたは、怯む影山を左アッパーで殴りつけた。

 ひなたに殴り飛ばされた影山は、そのまま場外付近へと飛ばされた。

 

 

 

 

 




芦戸ちゃんが去年トーナメントだったっけ?って言ってた事から、多分最終競技がリーグ戦の年もあったんじゃないかなぁと予想してみたり。
でもリーグ戦だと試合数多くなるから、その分最終競技に進める人数減るんすかね。
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