抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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評価バー赤維持し続けるのって難しいんですね。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。

※一部不快に思われる表現があったので編集しました。
ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。



爆豪VS麗日

 私は、物心ついた時から『いらない子』だった。

 私が物心つく前に両親は交通事故で亡くなって、奇跡的に助かった私は里親に引き取られた。

 私を引き取ってくれたのは、裕福だけれど子供が出来なくて悩んでいた夫婦だった。

 けれど私が引き取られてすぐに義両親の子供、私の義弟が生まれた。

 その頃から私はいないものとして扱われるようになった。

 

 私が両親から受け継いだ『否定』は、母親から受け継いだあらゆる存在をキャンセルする“個性”と、父親から受け継いだ自分の存在を忘れ去られる常時発動型の“個性”の複合“個性”だった。

 私に対して特別な感情を抱かない限り、誰も私を覚えていてくれない。

 

「父さん、母さん! 私、全国模試一位だったんです! だから、今日は…」

 

「あらぁ! すごいじゃない輝紀! 今日のテスト、クラスで二番目だったのね! よく頑張ったわね!」

 

「うん! お父さん、お母さん! 僕、頑張ったんだよ! だから約束のゲーム買ってよ!」

 

「クラスで三番目に入ったら買ってやる約束だったな。よし、じゃあ明日買いに行こう!」

 

「やったぁ!」

 

『だから今日は褒めてほしい』、その一言は誰にも届かなかった。

 引き取られた身の分際で贅沢な望みなのかもしれないけれど、たった一度でいいから私を見て欲しかった。

 誰かに認めてほしい、そんな平凡な願いを望む事すら私には許されなかった。

 誰かに見てもらいたい一心で、努力してあらゆる分野で一番になった。

 けれど、それでも私の願いは叶わなかった。

 

 だったらどうすれば気付いてもらえるのだろうか、そう考えていた私の目に映ったのは、英雄(オールマイト)が崩れる建物の中から多くの住民を助け出している動画だった。

 そうだ、トップヒーローになれば、誰かが私を必要としてくれるかもしれない。

 そう思ったから、私はヒーローになる事にした。

 雄英のヒーロー科で一番になって、いつかはトップヒーローになろうと心に決めた。

 

 実技入試では、常に一番でいる為に磨き続けた技術を総動員させギミックを倒していった。

 そして0ポイントギミックが現れた時、私はチャンスだと思った。

 このギミックを倒せば、多くの受験生の印象に残るはずだ。

 幸い私の“個性”なら、うまく使えば0ポイントギミックを倒す事ができる。

 そう思って0ポイントギミックの方へ行こうとしたその時、他の受験生の攻撃で吹き飛んだギミックが私の方に飛んできた。

 すると、私の方へギミックを吹き飛ばした受験生が私に駆け寄ってきた。

 吹き出しのような顔をした小柄な男の子だった。

 

「あっ、ごめん! いるの気付かなかった! 大丈夫!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが壊れた。

 自分で言うのもなんだが、私は受験生の中では頭ひとつ抜けていたと思う。

 そんな私が、この人の前でギミックを倒して回っていたのに。

 この時、私は完全に絶望した。

 私はきっと、ヒーローになったところで誰にも必要とされずに一生を終えるのだろうと。

 

 今思えば、この人は全く悪くなかったと思う。

 試験に集中していたんだろうし、元々私は極端に影が薄いから気付けないのも無理はない。

 だけどこの時の私には、そんな事を考える余裕はなかった。

 きっと、小さな負の感情の積み重ねがここにきて爆発したんだ。

 気が付けば、私はカッターを左手に飛び出していた。

 誰にも気づかれずにひっそりと死んでいくくらいなら、ここにいる全員を道連れにしてこのクソみたいな人生を終わらせてやる。

 もう引き返せないくらいに、堕ちるところまで堕ちてやる。

 

 

 

「いきなり何すんだ…!!」

 

 気がつくと、私は横から大きな手で身体を掴まれていた。

 私を掴んでいたのは、オレンジ色のサイドテールの女の子だった。

 すると、監視用のドローンが私達の方へ飛んでくる。

 

『受験番号6803番!! 他ノ受験生ヘノ攻撃ニヨリ失格!! 武器ヲ捨テテ即刻会場カラ立チ去リナサイ!!』

 

 ドローンが私の不合格を知らせ、私はその場で膝をついた。

 

「………ったと思ったのに……」

 

 殺ったと思ったのに、そう呟く私の目からはいつの間にか涙が溢れていた。

 

 その後、私は当然ヒーロー科入試は不合格となった。

 今回の件で他の科の合格も取り消され、(ヴィラン)として通報されるのだろうと思っていた。

 別にそれでもいいと思った。

 どうせ元々堕ちるところまで堕ちるつもりだったんだ。

 こうなったら(ヴィラン)として好き放題暴れ回って、何もかもメチャクチャにブチ壊してやる。

 そうすればきっと、誰かに私を見てもらえる。

 そう思っていた矢先だった。

 

 私の元に、普通科の合格通知が届いた。

 私は目を疑った。

 どうやら誰も私の事を通報しなかったらしい。

 そのおかげで、私が傷害未遂で失格になった事は誰にも知られなかった。

 けれどそれだと納得が出来なかったから、私は先生に相談した。

 

「先生…私、入試の時に他の受験生と喧嘩して、相手に手を出しかけたんです。でも皆、その事を知らないんです。だから先生に相談しようと思って…」

 

「…お前なぁ。俺が一体何人の受験生を審査してたと思ってるんだ。受験生同士の喧嘩なんていちいち覚えてられるか」

 

「え…」

 

「時間は有限。そんな事に時間を割いてる暇があるなら、これから自分がどうすべきか考えろ。ここはヒーロー育成機関だ。愚痴を吐く場所じゃない」

 

 私が相談しに行ったイレイザーヘッドは、そう言って私を突っぱねた。

 今思えば彼に相談をしたのは、ヒーロー科に私と同い年の娘がいる彼なら私の事を見てくれるかもしれないと心のどこかで期待していたからだろう。

 でも結果、突っぱねられた。

 ああ、そうか。

 この人も私を覚えてないんだ。

 私はこの人に一体何を期待していたんだろう。

 今までの教師も皆そうだった。

 誰も私を見てなんかいない。

 結局、誰の世界にも『私』は存在しないんだ。

 何者にもなれないまま誰にも気付かれずに消えていくだけ。

 …ああ、そういえば私は『何』になりたかったんだっけ。

 私は………

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 ひなたに殴られた影山は、場外付近まで吹き飛ばされた。

 だが、悪運が強いのか、ギリギリラインの内側に留まった。

 

「あ…!」

 

「あんなギリギリのところで留まるなんて…!」

 

 それを見たA組は、悔しがっていた。

 一方、ひなたは腕の激痛に顔を歪めながらも一歩前に踏み出す。

 

「絶っ対…勝つんだから…!」

 

 ひなたが近づいてくるのを一瞥した影山は、空をぼんやりと見上げて小さくため息をつくとボソッと呟いた。

 

 

 

「……参りました。私の負けです」

 

「………は?」

 

 影山が負けを認めると、ひなたは目を点にする。

 するとミッドナイトが勝敗を言い渡す。

 

「影山さん、ギブアップ!! よって二回戦進出、相澤さん!!」

 

 勝負が決まったと同時に、盛大な拍手が起こる。

 主にA組は、ひなたの勝利を喜んでいた。

 

『二回戦進出、相澤ひなただぁあ━━━━━━!!! よっしゃあああああああ!!! よくやったひなたあああああ!!!』

 

『だから私情を挟むなって…』

 

 プレゼントマイクが号泣して相澤に抱きつきながら私情ダダ漏れの実況をすると、相澤は鬱陶しそうな表情を浮かべてため息をつく。

 試合に負けた影山は立ち上がって満足げな表情を浮かべており、逆に勝ったひなたの方が納得いかない様子だった。

 

「……え、何で…?」

 

「ったく…そんな状態で何が『絶対勝つ』、ですか。場外にしようとしたって留まるし、酸欠起こしても気絶なんかしちゃくれないし、戦意喪失させようとしても諦めるどころか逆に追い詰めてくるし、挙句の果てに『私の為』なんて言われたもんだからこっちが戦意削がれちゃいましたよ。ここまで根性見せて私を助けようとしてくれてる人に対してトドメ刺したって、こっちが気持ち良く勝てないんですよ」

 

 そう言って影山はリングを降りていき、ひなたは医務室へと運ばれる。

 影山が会場を出て行こうとすると、普通科の生徒達が影山に賞賛と拍手を送る。

 

「あーあ、あいつ負けちゃったよ。やっぱすげえなヒーロー科」

 

「ヒーロー科もだけど、影山もすげえよ。ヒーロー科をあそこまで追い詰めるなんてさ。俺達、あんなすげー奴が隣にいて何で今まで気付かなかったんだろうな」

 

「影山ー! ウチら、あんたの事地味って言ったけどあれ、取り消すからー!」

 

 影山のクラスメイト達が影山に声援を送ると、影山は目を大きく見開いて大粒の涙を溢す。

 ひなたの“個性”によって、自分の存在を認識されなくなるという影山にとっての呪いが消え去り、生まれて初めて自分を見てもらえたのだ。

 そして、いつもの不敵な笑みとは違い心からの笑顔を浮かべて涙を拭いながら会場を去っていった。

 

「…相澤さん。私の事、『壊して』くれてありがとう」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして、医務室に運ばれたひなたはというと。

 

「チユ〜〜〜〜〜!!」

 

 リカバリーガールが治療をすると、ひなたの折れた腕はすっかり元通りになり、熱もすっかり引いた。

 するとひなたは目を輝かせて右腕をブンブン振る。

 

「うわ、凄い凄い! もう腕が治った!」

 

「全く…何て回復力だい。ちゃんと綺麗にくっつくように折ってくれてたから治ったけどね。まだ治りたてなんだから無茶はしなさんな」

 

「はーい!」

 

 リカバリーガールが呆れつつもひなたの手にペッツを落とすと、ひなたは触角をピコピコさせて左手を挙げながら返事をする。

 すると、ひなたに殴られて右頬を腫らした影山も医務室にやって来る。

 

「あ、幽華ちゃん」

 

「相澤さん…」

 

「ひなたでいいよー」

 

「あ、はい…ひなた、ちゃん? 腕、もう大丈夫なんですか?」

 

「うん! ほらこの通り!」

 

 影山が心配すると、ひなたは治ったばかりの右腕を動かしてみせる。

 その後影山も治療を受けて完治すると、ひなたは観戦席に戻る途中に試合中ずっと気になっていた事を影山に尋ねる。

 

「…ねぇ幽華ちゃん、君はなんか僕の事一方的に嫌ってるみたいな口振りだったけど…僕、ヒーローの娘だからって理由で注目された事なんて一度も無いよ?」

 

「ああ…気にしないで下さい。あれはただの八つ当たりですから。私、一度イレイザーヘッドに突っぱねられた事があるんです。私が他の受験生を攻撃しようとしたって言ったら、『そんなの覚えてない』って…私、すごくショックだったんです。ああ、この人も私の事なんか見てないんだなって…それがずっと心のどこかで引っ掛かってて…だから、あなたに彼の姿を重ねて、苛ついて仕方なかったんです。今になって後悔してます。…本当に申し訳ありませんでした」

 

「それは違うよ!」

 

 影山が俯いたまま事情を話し始めてひなたに頭を下げて謝ると、ひなたはいきなり否定してくる。

 そして、しどろもどろになりつつも真実を話し始めた。

 

「あっ…えっと……僕、君の事が気になって…それで昼休み、お父さんに直接聞いてみたんだ。そしたらその時の事、色々教えてくれたんだけどね。君が他の受験生を攻撃しようとしたのを誰も知らないのは、皆が君の事を覚えてなかったからじゃない。お父さん達がなかった事にしたからだよ」

 

「…え?」

 

「幸い君は他の受験生に止められた時点で踏み留まれたし、君が攻撃仕掛けた生徒も君がした事をもう気にしてない。君が他の受験生を攻撃しようとした事は教師陣と一部の生徒しか知らない。だから汚い話、君の“個性”のせいにして見なかった事にしてしまえるって……君が入試の日の帰りに泣いてたから、君が本当に助けが必要な時にその手を取れるように…君がもう一度ヒーローになりたいと思った時、過去に犯しかけた過ちが足枷になってしまわないようにって…」

 

 ひなたは、影山に真実を話し始めた。

 元々相澤は影山に一目置いていたのだ。

 それは娘のひなたと似た“個性”を持ち独学で戦闘向きの“個性”を持つ者以上の結果を出していたからだった。

 いくら優秀な受験生とはいえ他の受験生を攻撃しようとした事実がある以上流石にヒーロー科に入れるわけにはいかなかったが、相澤は、有用な“個性”やヒーローとしての優れた才能を持つ影山に対し、あとはヒーローとしての心さえあれば必ず立派なヒーローになれると確信していた。

 彼の徹底した合理主義に基づいても、優秀な人材を確保しておくという意味でも、入試の時に泣いていた彼女のメンタルケアを行うという意味でも、この雄英高校という最高峰のヒーロー育成機関が最適だという結論だった。

 そこで相澤は、影山が今の彼女自身に足りないヒーローとしての心を身につけてもう一度ヒーローになりたいと彼女自身が望んだ時にその手を取れるよう、彼女の普通科への入学を進言したのだ。

 幸い影山は中学時代特に何の問題も起こしておらず、筆記試験も非常に優秀な成績を収めていたため、許可はあっさり下りた。

 教師陣も、彼女が入学してから傷害未遂の事を掘り返されて肩身の狭い思いをしないよう、彼女のした事を忘れた事にしていたのだ。

 

 ひなたが真実を話すと、影山は目を見開く。

 そして、もしあの時影山の望み通り入試で傷害事件を起こしかけた事を問題視されて通報されていたら、今頃後戻りできないところまで堕ちて凶悪(ヴィラン)として悪事を働く生活を送っていただろうと考えた。

 実際、当時はそれを自ら望んでいた。

 踏み留まる事ができたのは、受験生を刺そうとした自分を止めてくれた人、そして陰で自分を守ってくれていた人がいたからだった。

 皮肉にも、影山自身が自分を見てくれていた人を見ようとしていなかったのだ。

 

「見てくれてたんだ、ずっと…あの人は……なのに私、何て事を……! ごめんなさい…ごめんなさい……!!」

 

 影山は、自分のした過ちに気がついて涙を流して手で顔を覆いながら謝罪する。

 するとひなたは、影山の手を取って話し始める。

 

「その話を聞いて、納得したんだ。何で君の事がずっと気になってたのか。僕にはずっと、君が助けを求めてるように見えてた」

 

 ひなたがそう言って笑顔を浮かべると、影山が僅かに目を見開く。

 そして、ひなたは思い出したように影山に提案する。

 

「あのさ! 体育祭のリザルトによっては、ヒーロー科への編入も検討してもらえるんだって! だからさ、やり直そうよ! やり直すのに遅すぎるなんて事はないんだ! 君はまだ、ヒーローになれるんだよ!」

 

 ひなたが提案すると、影山は僅かに目を見開く。

 相澤が影山に対して言った言葉は、影山は突っぱねられたという捉え方をしていたが、実際は『悪いと思ってるなら愚痴吐いてないで反省しろ。ヒーロー科に編入できる機会は限られてる。まだヒーローになる気があるんだったら態度を改めて努力しろ』と言っていたのだ。

 だが影山は、静かに首を横に振る。

 

「…いいえ。未遂だろうと、私は道を踏み外しかけた。今更あなた達と同じ道を歩む資格はありません。それに…私のヒーローなら、ここにいるから」

 

 それを聞いたひなたがキョトンとしていると、いきなり影山がひなたに抱きついてくる。

 ひなたに抱きついた影山は、満面の笑みを浮かべていた。

 

「ありがとう。私、ひなたちゃんのおかげでやっと自分を好きになれた。私を救けてくれたひなたちゃんはもっと大好き」

 

(発育の暴力……)

 

 影山に抱きつかれて胸に顔を埋められていたひなたは、心のどこかでそんな事を考えていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして第五試合。

 

『さっきはちょいと血生臭い試合になっちゃったが! 盛り上げて行こうか! そのツノからなんか出んの? ねえなんか出んの!? ヒーロー科芦戸三奈! 対!! 何なんだこいつ!! 同じくヒーロー科青山優雅!』

 

「フフフ…僕のネビルレーザーは威力も派手さもプロ並み☆一瞬で勝負つけちゃうよ☆」

 

(何だこいつ)

 

 青山がウインクしながらナルシスト発言をすると、芦戸が心の中でツッコミを入れた。

 

『START!!』

 

 プレゼントマイクが試合開始の合図をすると、それと同時に青山がネビルレーザーを放つ。

 

「キラめけ! 僕のネビルレーザー☆」

 

『青山、試合開始と同時にぶっ放してきたァア!! 対する芦戸、避け切れるか━━━!?』

 

「当たらないよー!」

 

 だが芦戸は、酸でリング上を滑ってレーザーを回避した。

 そして、リング上を酸で動き回る芦戸に連続でレーザーを放っていた青山は、ついに限界を迎える。

 

「ぅぐ…ぉ、オナカイタ…」

 

「今だ!!」

 

 青山が腹を壊して蹲りかけたその時、芦戸が青山のレーザーに酸のボールを当てる。

 すると青山のベルトが溶けて故障し、青山はレーザーを使えなくなった。

 

『芦戸の酸ボールが炸裂! ベルトを壊して無力化! これは痛い!』

 

「青山と芦戸の“個性”が逆だったらどんなに良かったか…!!」

 

 プレゼントマイクが実況をし、上鳴と峰田は、青山と芦戸の“個性”が逆だったら芦戸の服が溶けるところを見られたのにと悔しがっていた。

 そして…

 

「えい!」

 

「んぐぇ☆」

 

 芦戸が青山の顎に強烈なアッパーを叩き込むと、青山は気絶してリングに倒れ込んだ。

 

『瞬殺!! あえてもう一度言おう! 瞬・殺!!!』

 

「青山くん、ダウン! 二回戦進出芦戸さん!!」

 

「やったあ!」

 

 プレゼントマイクが青山に対して死体蹴りをし、ミッドナイトが勝敗を言い渡して第五試合は終了した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 第六試合。

 

『さぁさぁどんどん行くぜ! 影のモンスター使い! ヒーロー科常闇踏陰! 対! 万能創造! A組もう一人の推薦入学者! ヒーロー科八百万百! START!!』

 

「押し出せ、黒影(ダークシャドウ)!!」

 

「創造!」

 

 プレゼントマイクが試合開始の合図をすると同時に、常闇は黒影(ダークシャドウ)を出し八百万は盾と槍を出す。

 だが八百万の出した槍と盾は、黒影(ダークシャドウ)に弾き飛ばされてしまう。

 

黒影(ダークシャドウ)が八百万の武器を弾いた! さあどうする八百万!?』

 

「くっ…」

 

 八百万は次の武器を出そうとするが、黒影(ダークシャドウ)に力で押し切られて場外へと押し出されてしまった。

 

「あっ!」

 

「八百万さん場外!! 二回戦進出、常闇くん!!」

 

 ミッドナイトが勝敗を言い渡し、第六試合は終了した。

 八百万は、回避しようのないゼロ距離攻撃を仕掛けてくる影山を追い詰め降参させたひなたと自分を比べてしまい、圧倒的な力の前に手も足も出せなかった自分を恥じ、自信を無くしてしまっていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 第七試合。

 

『さぁてお次はこいつらだ! スパーキングキリングボーイ! ヒーロー科上鳴電気!! 対! 男気一筋ド根性! ヒーロー科切島鋭児郎!! START!』

 

「悪いが野郎相手に手加減する気はねえ! 痺れるのが嫌なら場外に逃げとけよ!」

 

 プレゼントマイクが試合開始の合図を出すと、上鳴はそう言ってありったけの電撃を放った。

 

『上鳴、開始早々ブッ放してきたぞ! これは切島、打つ手無しか!?』

 

 プレゼントマイクの解説通り、切島の“個性”では無差別放電に対して打つ手がないと思われた。

 だが切島は、全身を硬化させて何とか電撃に耐えていた。

 

「逃げるかあああああ!!」

 

 切島が電撃に耐えると、上鳴はギョッとして目を見開く。

 

「はあああ!?」

 

 切島に電撃が効いていないのかと思い驚いていた上鳴だったが、実はかなり効いていた。

 切島が電撃に耐えていたのは、硬化で防御力を高めていたからというよりは根性によるものだった。

 切島は、全身を硬化したまま踏ん張って一歩ずつ上鳴に近づいた。

 

『切島、上鳴の電撃を耐えてやがるぞ!? 地味にすげえ!!』

 

「だったら…最大電力!!」

 

 上鳴は、さらに電力を上げて切島を感電させにかかる。

 

『上鳴、ここで本気を出してきたぁ!! 流石にこれはヤバいか!?』

 

 上鳴が放ったのは、USJでチンピラ達を一気に感電させた技だった。

 流石の切島も倒れるかと思いきや。

 

「があああああああああああああ!!」

 

 切島は感電して倒れそうになるが、拳を打ち付けて硬度を上げて何とかギリギリ耐えた。

 

「俺は!! 倒れねえ!!」

 

「嘘でしょおお!?」

 

『これも耐えた切島ァ!! ここまで来ると逆にすげえというか怖え!!』

 

「ぬおおおおおおおおおおお!!」

 

 切島は、何度も拳を打ち付けて硬度を上げて電流に耐え続ける。

 そして切島が倒れるよりも前に、上鳴の方が限界を迎えた。

 

「ウェーイ」

 

 上鳴は電気を使い果たしてショートし、アホになっていた。

 すると切島は、アホになった上鳴を場外へと突き飛ばす。

 

「ガァ!!」

 

「ウェ?」

 

 切島に突き飛ばされた上鳴は、アホになっているため踏ん張りが効かずそのままリング上のラインを超えた。

 するとミッドナイトが勝敗を言い渡す。

 

「上鳴くん場外! 切島くん二回戦進出!!」

 

「ぐっ……流石にかなり効いたぜ」

 

 硬化でギリギリ耐えていたとはいえずっと感電し続けていた切島は、全身痺れながらも笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして、一回戦最終試合となる第八試合。

 次は麗日と爆豪の試合だった。

 治療を終えたひなたは、観戦席に戻っていた。

 

「うー、次見るのやだなー…」

 

「だな。いくら何でも実力差がありすぎる。爆豪の圧勝だな」

 

「そんなの誰が決めたの?」

 

「え?」

 

 A組が爆豪の圧勝だと予想していると、ひなたが首を傾げながら口を挟む。

 すると、ひなたの一言にクラスメイトが反応する。

 

「ねえ、試合が始まってもないのに何で圧勝って決めつけるの? どうなるかなんて最後までわかんないよ?」

 

「ひなちゃん、お前なぁ〜…あれ見てもそんな事言えんのかよ」

 

 ひなたが純粋な疑問を投げかけると、瀬呂がひなたの頭に手を置いてリングの方に顔を向かせる。

 リングの上には、今回対戦する麗日と爆豪が立っていた。

 

『一回戦最後の組だな…中学からちょっとした有名人!! 堅気の顔じゃねぇ、ヒーロー科爆豪勝己!! 対…俺こっち応援したい!! ヒーロー科麗日お茶子!』

 

 プレゼントマイクが私情ダダ漏れの実況をすると、ひなたは苦笑いを浮かべる。

 

「お前浮かす奴だな、丸顔。退くなら今退けよ。『痛ぇ』じゃ済まねぇぞ」

 

 爆豪は、試合開始前に麗日に忠告した。

 だが…

 

『START!!』

 

「速攻!! 退くなんて選択肢無いから!」

 

 麗日は、開始と同時に走り出した。

 すると爆豪は容赦なく爆撃を浴びせる。

 

「じゃあ死ね」

 

 そう言って次の攻撃を仕掛けようとすると煙幕の中で動く影があったので、爆豪はそれを爆破しに行く。

 

「舐めっ…」

 

 だが、爆豪が見つけたのは麗日の上着だった。

 麗日は、煙幕の中から飛び出して爆豪の背後を取る。

 

『上着を浮かせて這わせたのかぁ! よー咄嗟にできたな!』

 

 麗日は、爆豪に触れようとした。

 だが、反応した爆豪は咄嗟に爆発を放って麗日を吹き飛ばす。

 

「わ゛っ! たっ」

 

 麗日は吹き飛ばされてリング上を転がるが、すぐに立ち上がると再び爆豪に立ち向かう。

 

『麗日間髪入れず再突進!!』

 

「おっせぇ!」

 

 だが、再び爆豪に吹き飛ばされた。

 

「おらあああああ!!」

 

 爆豪は、何度でも立ち向かう麗日を吹き飛ばす。

 

「まだまだぁ!!」

 

『休む事なく突撃を続けるが…これは……』

 

 観客達は、麗日がやけを起こしていると思っていた。

 すると、プロヒーローの一人が立ち上がって声を荒げた。

 

「おい!! それでもヒーロー志望かよ! そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!! 女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!!」

 

「そーだそーだ!」

 

 プロヒーローの一人の声を皮切りに、他のプロヒーローも声を荒げ、会場の一部がブーイングで埋め尽くされた。

 ブーイングを聞いていた心操は、不愉快そうな表情を浮かべていた。

 

「あいつら、自分達があそこで戦ってる二人を侮辱してるって気付かずにあんな事言ってんのかよ。プロの世界があんなのばっかだと、正直幻滅しちまうよな。なあ、ひなた…」

 

「暇な人もいるんだね」

 

 心操がひなたの方を振り向くと、ひなたはリング上で戦っている二人を真っ直ぐ見据えていた。

『そういう考え方をする人もいる』と捉え、ブーイングをしているヒーローには一切目もくれずに今見るべきものを見ようとしているひなたを見て、心操もリングに目を向ける。

 すると、その時だった。

 

『一部から…ブーイングが! しかし正直俺もそう思…わあ肘っ! 何SOON…』

 

 今まで黙って見ていた相澤がプレゼントマイクを肘で突き、ガヤ達に対して説教を始める。

 

『今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ? シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ。ここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろう。本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断も出来ねぇんだろが』

 

 突然今までほとんどコメントしなかった相澤が急に説教を始めたので、観客達はポカンとしていた。

 相澤の説教を聞いてガヤ達がブーイングを止めると、ひなたも心の中で相澤にサムズアップを送りながら席に座ってリングに目を向ける。

 すると、麗日が再び立ち上がった。

 

「そろそろ…か…な… ありがとう爆豪くん… 油断してくれなくて」

 

「あ…?」

 

 

 

 麗日は、両手の指を合わせて“個性”を解除した。

 すると、大量の瓦礫が降り注ぐ。

 ひなたは、隣に座っている心操の肩をバシバシ叩きながら触角をブンブン振って麗日を指差す。

 

「ね、だから言ったでしょ!? 最後までわかんないって! お茶子っち、何度も突撃して武器を集めてたんだよ!」

 

「痛い痛い」

 

 麗日は、絶対に勝つという強い思いを胸に力強く叫んだ。

 

「勝あアアァつ!!」

 

『流星群ー!!!』

 

『気づけよ』

 

 プレゼントマイクが驚いていると、相澤が横からツッコミを入れる。

 麗日は、瓦礫の雨を避けながら爆豪に接近を試みる。

 だが…

 

 

 

 

 

 BOOOM!!! 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 爆豪は、降ってくる瓦礫を全て吹き飛ばした。

 

「デクの野郎とつるんでっからなてめぇ。何か企みあるとは思ってたが…」

 

「…………………一撃て…」

 

 爆豪が言うと、渾身の攻撃が通用しなかった麗日は絶望感からか顔をグシャグシャにする。

 

『会心の爆撃!! 麗日の秘策を堂々───正面突破!!』

 

「危ねぇな…」

 

「うう゛…」

 

「いいぜ! こっから本番だ! 麗日!」

 

 爆豪もやる気を出し、麗日は最後の力を振り絞って立ち向かっていく。

 だが、突然麗日が倒れた。

 

「ハッ、ハッ…んのっ…身体言う事…きかん…」

 

 すると、ミッドナイトが駆け寄ってくる。

 

「まだ…〜〜〜〜…父ちゃん…」

 

 麗日は這いつくばって向かっていこうとするが、もはやとっくに限界を超えていた。

 これ以上の試合の続行は不可能と判断したミッドナイトは、勝敗を言い渡す。

 

「………麗日さん…行動不能。二回戦進出、爆豪くん───!」

 

 倒れた麗日は、担架でリカバリーガールの元へ運ばれる。

 

『ああ麗日…ウン、爆豪一回戦とっぱ』

 

『やるならちゃんとやれよ』

 

 応援していた麗日が負けたので、プレゼントマイクはあからさまにテンションが下がっていた。

 

『さぁ気を取り直して、一回戦が一通り終わった!! 小休憩挟んだら早速次行くぞー!』

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 爆豪が観客席に戻ると、瀬呂が声をかける。

 

「おーう、何か大変だったな悪人面!!」

 

「組み合わせの妙とはいえ、とんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん」

 

「うぅるっせぇんだよ黙れ!!」

 

 蛙吹が言うと、爆豪がキレ出した。

 

「まぁーしかしか弱い女の子によくあんな思い切りのいい爆破できるな。俺はもーつい遠慮しちまって…」

 

 上鳴が言いかけると、ひなたが上鳴の頬を軽く小突く。

 

「えっ、ひなちゃん!? 俺なんで今殴られたの!?」

 

「ごめん、何となく」

 

「ひでえ!」

 

 上鳴が何故殴られたのか理解出来ずに困惑していると、ひなたは若干ムスッとした様子で答え、いつひなたを不機嫌にするような発言をしたのか自覚がない上鳴はさらに困惑する。

 

「フンッ!!」

 

 爆豪は、偉そうに踏ん反り返ってドカッと席に座った。

 

「…どこがか弱ぇんだよ」

 

「………」

 

 爆豪がポツリと呟いたのを、ひなたには聞こえていた。

 こうして二回戦出場者が8人出揃い、いよいよ二回戦が始まろうとしていた。

 

 

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ここでお馴染み解説コーナー

・影山幽華(旧姓:希薄幽華)
実質体育祭編の主人公。自分の存在が周りに気づいてもらえないのがコンプレックスで、気づいてもらうために血の滲むような努力をしてきたが、結局誰にも気づいてもらえない事で一時期は精神を病んでいた。
ひなたの事はプロヒーローの娘という理由で毛嫌いしていたが、影が薄いという“個性”を壊された事で初めて自分を見てもらう事ができ、長年の願いを叶えてくれたひなたに好意を寄せるようになった。

希薄(きはく)幽人(ゆうと)
影山の実父。故人。影山が4歳の頃に事故で亡くなった。“個性”は『希薄』。自分の存在を認識されなくなる常時発動型の“個性”。ただし、相手が自分に対して思い入れがある場合は記憶に残る事がある。

希薄(きはく)霊華(れいか)
影山の実母。故人。影山が4歳の頃に事故で亡くなった。“個性”は『キャンセル』。“個性”以外のあらゆる物をキャンセルする事ができる。
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