麗日対爆豪の試合が終わり、緑谷、轟、ひなた、飯田、芦戸、常闇、切島、爆豪の8人が勝ち上がった。
二回戦は、
Aブロック
第一試合 緑谷VS轟
第二試合 相澤VS飯田
Bブロック
第三試合 芦戸VS常闇
第四試合 切島VS爆豪
の順で行われる事になった。
ひなたが若干不安そうに試合開始の時を待っていると、治療を終えた麗日が戻ってくる。
「二人はまだ始まっとらん?」
「うら…」
「見ねば」
「うわあ!?」
麗日が声をかけると、振り向いたひなたと飯田が思わずギョッとする。
麗日の両瞼が赤く腫れ上がっていたからだ。
「どったのお茶子っちその目!? 出目金みたくなってるよ!?」
「目を潰されたのか!!! 早くリカバリーガールの元へ!!」
ひなたと飯田は、爆豪に目をやられたのかと思い心配した。
麗日は、目を擦りながら否定する。
「行ったよ、コレはアレ。違う」
麗日が目を擦ると、ひなたはようやく麗日が泣いていた事に気がつく。
両親の為にも何としてでも優勝したかったのに、圧倒的な力の差を見せつけられて敗れてしまったのだ。
麗日の心情を察したひなたは、余計な事は何も言わない事にした。
「違うのか! それはそうと、悔しかったな…」
飯田が麗日に言葉をかけると、飯田の隣に座る麗日の隣の席に座っていた常闇が遮る。
「今は悔恨よりこの戦いを己の糧とすべきだ」
「うん。あの氷結、デクくんどうするんだ…?」
「さぁねぇ。でも、何とかなるっしょ! ここ最近デッくん超いい感じだし!」
常闇が言うと麗日が頷き、ひなたも二人の試合に集中する事にした。
(天ちゃんに勝ったら次はあの二人のどっちかとの試合だもんな…この試合で見て学んでおかなきゃ)
◇◇◇
『今回の体育祭、両者トップクラスの成績!! まさしく両雄並びたち今!! 緑谷対轟!! START!!』
開始直後、轟は巨大な氷を出してきた。
すると緑谷は、腕を振るって衝撃波を起こし氷を砕いた。
(ワンフォーオール・フルカウル…15%…!!)
「SMAAAAAAAAAASH!!!!」
すると、氷の破片や冷気が観客席にまで飛んでくる。
二人とも開始前から速攻をかける事を決めていたため、こうなる事はお互いわかっていた。
「やっぱそう来るか……」
『おオオオ!! 破ったあああ!!』
緑谷が轟の氷を砕くと、プレゼントマイクが驚く。
轟は再び氷を出現させるが、緑谷はまたしても氷を吹き飛ばした。
轟の“個性”は情報が少ないため、戦いの中でそれを見つけていくしかないと考えた緑谷は、頭の中で分析を始める。
「SMASH!!」
『ま━━━た破ったあ!!!』
「ちっ……」
緑谷は、出力を調整しつつ轟の氷を何度も衝撃波で砕いた。
轟の背後には、スマッシュによる風で吹き飛ばされて場外になるのを防ぐためと思われる氷の壁が張られていた。
「耐久戦か。すぐ終わらせてやるよ」
そう言って轟は次々と氷を出すと、緑谷は轟の氷を砕いていく。
『轟、緑谷のパワーに怯む事なく近接へ!!』
轟は、氷の上を駆け上って緑谷の頭上へ移動し、飛び降りて氷での攻撃を仕掛ける。
緑谷は、横に跳んで攻撃を回避した。
「っぶなっ!」
すると轟は、空中の緑谷めがけて氷での攻撃を仕掛けた。
攻撃を喰らった緑谷は、靴を凍らされる。
緑谷は再び氷を吹き飛ばそうとするが、それを見越して既に轟の背後には氷の壁が張られていた。
緑谷は、勝負を決めに行くならここしかないと判断し、出力を上げてスマッシュを放った。
(ワンフォーオール・フルカウル…40%…!!)
「SMAAAAAAASH!!」
その衝撃は観客席にまで及び、冷気と氷の破片が飛んでくる。
轟は、緑谷のスマッシュで身体を飛ばされ場外へ吹き飛ばされそうになるが、次々と背後に氷を出して勢いを殺していく。
緑谷は、負荷なしで扱える許容量をオーバーした出力でスマッシュを放ったせいか、腕がミシッと軋む痛みに顔を歪める。
それだけでなく、緑谷はまだ完全に新しいスタイルを自分のものにできておらず、リングを覆い尽くす冷気も相まって体力が削られていく一方だった。
「………さっきより随分高威力だな。近づくなってか」
「うう゛……!!」
「その様子じゃ、もうそんなに長く体力が保たねえだろ。悪かったな。ありがとう緑谷。お陰で…奴の顔が曇った。終わりにしよう」
轟は、炎を使ってこない轟を不満げに見ていたエンデヴァーの方を見て言った。
試合を見ていたA組の生徒達は、次々と口を開く。
「デクくん…!!」
「やっぱ強すぎるよ轟! ああやってバンバン氷出されたら、いくら緑谷でも勝ち目ないじゃん!」
「そうでもないよ」
芦戸が言うと、ひなたが芦戸の言葉を遮る。
「え?」
「無限に氷を出せるなら、持久戦を避けようなんて発想は出ないはず。ゲームのMPってあるじゃん。多分アレと同じで、氷を出せる量にも限界がある。多分それ以上出したら体温が下がりすぎて動けなくなるとか、何かしらの制約があるんだよきっと。その証拠に見なよ、もう身体に霜が降り始めてる」
ひなたは、冷静に戦局を分析して轟を指差す。
轟の右手は小刻みに震えており、右半身に霜が降りていた。
『圧倒的に攻め続けた轟!! トドメの氷結を───…』
「どこ見てるんだ…!」
「!」
プレゼントマイクが実況をしようとすると、緑谷がエンデヴァーの方を見ている轟に対して言った。
「SMASH!!!」
緑谷は、轟が生み出した氷の上を素早く飛び跳ねて距離を詰めると、そのまま轟を吹き飛ばす。
油断していた轟は突然氷が吹き飛んだことで対応が遅れてしまったが、何とか背後に氷の壁を張って後ろに下がる身体を止めた。
だが、あと一歩判断が遅ければそのまま場外に吹き飛ばされていたところだった。
「てめぇ…何でそこまで…」
「震えてるよ、轟くん。“個性”だって身体機能の一つだ。君自身冷気に耐えられる限度があるんだろう…!? で、それって左側の熱を使えば解決できるもんなんじゃないのか…………? 皆…本気でやってる! 勝って…目標に近づく為に…っ、一番になる為に! 半分の力で勝つ!? まだ僕は君に、傷一つつけられちゃいないぞ! 全力でかかって来い!!」
ひなたや緑谷の言う通り、轟の“個性”には限界があった。
氷を出しすぎると、自分の氷で体温を奪われて身体機能が鈍ってしまうのだ。
その弱点は左側の炎を使って体温を上げる事で解決できるものだったが、轟の『左は絶対使わない』という自分自身に課した制約によってそれができないでいた。
緑谷は、40%のスマッシュで傷んだ右腕の激痛に耐えながら全力で叫んだ。
「何の……つもりだ。全力…? クソ親父に金でも握らされたか…? イラつくな…………!」
轟は、苛立ちを表に出しながら緑谷に接近した。
だが、体温が下がりすぎて身体機能が鈍っているせいか動きが格段に遅くなっており、フルカウルで身体能力を底上げしている緑谷には容易にその動きを目で捉える事ができた。
緑谷は、姿勢を低くすると轟の懐に潜り込み超パワーのボディーブローを叩き込んだ。
その際にわずかに触れていた左腕が凍らされてしまうが、身体が吹き飛んだ事で最低限の被害で済んだ。
『モロだぁ━━━! 生々しいの入ったあ!!』
「ぐぅう!!」
「はっ…くっ…」
吹っ飛ばされた轟は、すぐに起き上がって再び氷を出す。
だが緑谷は、氷を弾かずに横に跳んで回避した。
「氷の勢いも弱まってる!! SMASH!!!」
緑谷は、再び衝撃波を発生させて氷を砕いた。
轟は、わざわざ自分に発破をかけてくる緑谷の事が理解できず、次第に焦りが表情に現れ始める。
「何でそこまで…」
「期待に応えたいんだ…! 笑って、応えられるような…カッコいいヒーローに……なりたいんだ!! だから全力で! やってんだ皆! 君の境遇も君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない………でも…全力を出さないで一番になって完全否定なんて、ふざけるなって今は思ってる!」
緑谷が叫ぶと、轟は過去の記憶がフラッシュバックする。
幼い頃、父親が自分に対し虐待紛いの厳しい訓練を強制し、自分を庇った母親までもがきつく当たられ、母親は次第に精神を病んでいった。
そして夜中に目を覚ました轟は、母親が実家にいる両親に電話で愚痴をこぼしていたところを目撃してしまい、轟の声に反応して振り向いた母親が轟の左半分の赤い髪を見て悍ましいものを見るような表情を向け、積もりに積もっていたものが一気に溢れ出したのか母親は熱湯を浴びせてきた。
「うるせえ…………………」
「だから……僕が勝つ!! 君を超えてっ!!」
緑谷は、ボロボロの右手で轟を殴り飛ばした。
「親父を───…」
「君の! 力じゃないか!!」
轟が何かを言おうとすると、緑谷が叫んだ。
──ヒーローにはなりたいんでしょ? 良いのよ、お前は。血に囚われる事なんかない。なりたい自分になって良いんだよ
轟は、幼い頃母親に言われた言葉を思い出した。
『お父さんみたいな人にはなりたくない』と泣いて縋っていた自分に、母親がオールマイトの映像を見せながら優しく語りかけた言葉だった。
ゴオッ
『これは───…!?』
「使った……!」
轟が左半身から炎を出すと、ひなたは驚いて身を乗り出す。
轟が、戦闘では絶対に使わないと決めていた左側の力を使ったのだ。
「勝ちてえクセに…………ちくしょう…敵に塩を送るなんて、どっちがふざけてるって話だ…俺だって、ヒーローに…!!」
緑谷に胸の内を打ち明けた轟は微笑んでいた。
すると、エンデヴァーが激励しながら観客席の階段を降りていく。
「焦凍ォオオオ!!! やっと己を受け入れたか!! そうだ!! いいぞ!! ここからがお前の始まり!! 俺の血をもって俺を超えていき!! 俺の野望を果たせ!!」
『エンデヴァーさん急に“激励”…か? 親バカなのね』
いきなり轟に対して激励を始めたエンデヴァーに、実況席の二人は呆れ返っていた。
ひなたは心の中で『お前が言うな』とツッコミを入れたが、黙って観戦に集中していた。
一方、間近で轟の炎を見ていた緑谷は目を見開いて笑っていた。
「凄……」
「何笑ってんだよ。その怪我で…この状況でお前……イカレてるよ。どうなっても知らねえぞ」
二人は、同時にフルパワーを出す。
すると危険を察したセメントスが立ち上がった。
「ミッドナイト!」
セメントスがミッドナイトに叫ぶと、ミッドナイトは自身のコスチュームのタイツを破って肌を露出させ、眠り香を出して二人を眠らせようとする。
轟が氷を出すと緑谷が超パワーで駆け抜けて右腕を振りかぶった。
轟は、左手を前に出してありったけの炎を出した。
「緑谷、ありがとな」
ゴォオオオオオオッ
突然、ステージが大爆発を起こした。
セメントスが二人の間にセメントの壁を作って衝撃を殺していくが、その壁をも全て粉々に砕く程の大爆発だった。
マズいと思ったひなたは、声で観戦席にまで届いた爆発の衝撃を全て相殺していく。
一方、実況席にいたプレゼントマイクは驚きのあまり椅子から転げ落ちていた。
『何今の…お前のクラスなんなの……』
『散々冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張したんだ』
『それでこの爆風って、どんだけ高熱だよ! ったくなんも見えねー! オイこれ勝負はどうなって…』
ずっこけているプレゼントマイクに相澤が冷静に解説すると、プレゼントマイクがツッコミを入れる。
蒸気とコンクリートの煙でリング上が見えなかったが、煙が僅かに揺らぐ。
「!」
「っ………はぁ、はぁ……!」
緑谷は、ボロボロになりながらも咄嗟に両足にエネルギーを凝縮させて轟の全力の攻撃に耐えたが、ギリギリ片足がラインを超えていた。
勝利の女神は、轟焦凍に微笑んだ。
「緑谷くん……場外…轟くん───…三回戦進出!!」
二回戦第一試合は、激闘の末轟の勝利で幕を閉じた。
ミッドナイトが勝敗を言い渡した直後、全身ボロボロになった緑谷は力尽きて意識を失い、その場に倒れ込んだ。
煙によって見えていない観客もいたが、ミッドナイトの勝敗を言い渡す声により大きな歓声が上がる。
ボロボロになった緑谷は医務室へと運ばれ、ひなた、心操、飯田、麗日、蛙吹、峰田が代表して見舞いに行った。
「「「「「デ緑ク谷くん!!!」」」」」
リカバリーガールの処置を受けていた緑谷の隣には、八木ことトゥルーフォームのオールマイトがいた。
オールマイトは、いきなり緑谷のクラスメイト達がやって来た事でビクッと肩を跳ね上がらせて血を吐いていた。
「皆…次の試合…は」
「びっくりした…」
「? 初めまして…」
緑谷は、次の試合があるはずの飯田やひなたまで来ている事に疑問を抱き、オールマイトはいきなりひなた達が来た事で心臓をバクバク鳴らし、麗日はオールマイトに挨拶をしていた。
すると、飯田が緑谷に対して説明をする。
「ステージ大崩壊の為しばらく補修タイムだそうだ」
「緑谷…お前、大丈夫…じゃないよな」
「心操くん……」
心操は大怪我を負った緑谷を心配しており、緑谷は一回戦の対戦相手が見舞いに来るとは思わなかったので少し驚いていた。
一方で、峰田が口を挟んでくる。
「緑谷ァ! 何だよアレは!? オイラ達の知らねえ所で強くなりやがって…! チクショウ、お前はオイラの仲間だと思ってたのによぉ…!」
峰田は、二週間の間に急激に強くなった緑谷に妬み嫉みをぶつける。
ついこの前まで自分と同じドベ組だった緑谷が自分を追い抜いてクラスの最強格と肩を並べているのが納得できなかった。
すると、ひなたが峰田の頭を引っ叩き蛙吹が舌で峰田をどつく。
「コラ」
「ここぞとばかりに嫉みをぶつけるスタイル関心しないわ峰田ちゃん」
「でもそうじゃんか」
すると、リカバリーガールが見舞いにきた6人を追い払う。
「うるさいよホラ! 心配するのはいいがこれから手術さね」
「「「「シュジュツー!!?」」」」
リカバリーガールがサラッと言うと、6人は驚いて大声を上げる。
そしてそのまま、リカバリーガールに追い払われる形で医務室を去っていった。
◇◇◇
そして迎えた第二試合。
『さぁさぁリングの補修は完了! 次は何とヒーローの血縁同士の対決だ! さっきはまんまと利用されちゃったが、今回は見せ場を作れるかー!? 眼鏡な爆走野郎飯田!! 対!! ファンクなシャウトで盛り上げろ! ラウドキリングガール相澤!!』
『長い。早よ始めろ』
プレゼントマイクが実況すると、相澤が横からツッコミを入れる。
二人のやり取りを聞いてひなたは心の中で苦笑いを浮かべつつ飯田相手にどう戦うか考えていた。
『START!!』
プレゼントマイクが試合開始の合図をすると同時に、ひなたは音波攻撃を放つ。
飯田に『レシプロバースト』を使われてしまったら純粋な機動力では太刀打ちできないため、先手を打って勝負を決めに行く事にしたのだ。
だが飯田は、上に跳んでひなたの音波攻撃を避けた。
確実に初撃で無力化する為音の範囲を絞って放ったのが仇となり、ひなたの“個性”破壊音波攻撃は避けられてしまった。
「レシプロバースト!!!」
「!」
DRRRRRRRR!!!
飯田は、10秒しか使えない代わりに爆発的な加速を生む『レシプロバースト』をいきなり繰り出してきた。
『飯田いきなりかましてきた━━━!! 速っ速━━━!! っと実況を挟む暇もなく相澤を脇に抱えて場外へ突っ走っていく━━━!!』
飯田は爆速でひなたに向かっていき、ひなたは音波攻撃で迎撃しようとするが間に合わなかった。
そして飯田は、ひなたの身体を掴むとひなたの口を塞いだ。
「んぐ!?」
脇に抱えられたひなたは、暴れながら声を出そうとするが口を塞がれて“個性”を発動出来なかった。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」
(動けなくなるまで残り9秒…)
「それまでに決める!!」
飯田は、“個性”を使えないひなたをそのまま場外へ放り出そうとする。
だが、その時だった。
ガクン
「な…!?」
突然、飯田がバランスを崩して転びかける。
『……あれ!? おいおい、どうなってんだ!? 飯田の奴、突然転倒━━━!? 一体何をした相澤━━━!?』
何もしていないにもかかわらず飯田が突然転倒すると、プレゼントマイクが驚いて瞬きをする。
突然転んだ飯田も、自分の身体に何が起こったのか分からず驚いていた。
いきなり身体が痺れて動かなくなった事と“個性”が使えなくなった事からひなたの“個性”が発動しているのは明白だったが、尚更理解できなかった。
ひなたの“個性”は、ひなたの口を塞いで封じたはずだったからだ。
(何……!? どうなっている!? 身体が、痺れて動かない…!? それだけじゃない、エンジンも動かなくなってる…これは…ひなた君の“個性”…!! 馬鹿な、確かに避けたはず…!!)
すると、飯田に口を塞がれていたひなたが飯田を振り解いて立ち上がった。
「ぷは! ああ、良かったちゃんと効いた。この技、“反射”する度に威力が減るからちゃんと効くかどうか不安だったんだよね」
ひなたが“個性”を発動させてざわつかせていた髪を元に戻すと、飯田がひなたの仕掛けてきた事に気がつき目を見開く。
「“反射”…!? まさか…!!」
飯田がひなたのやった事に気がつくと、ひなたは指鉄砲を作って自分のやった事を解説する。
本来であれば
「うん、そのまさか。掴まれる直前に『声』を弾丸として放って反射させて、君の背後に着弾させた。この技に名前をつけるなら、声の跳弾、『
「な………!」
ひなたが説明すると、飯田は目を見開く。
音を弾丸として放ち跳弾させて背後に当てるなどといった高等技術、ついこの前まで中学生だったひなたに出来るとは思えなかったからだ。
「わかっててもどこから攻撃が来るのかわからないんじゃ対策のしようがないでしょ? この二週間で強くなったのは君だけじゃない。機動力で勝てない相手に対して対策するのは当然さ」
ひなたは、驚いている飯田に対してニコッと笑みを浮かべて言った。
「嘘だろ…? ひなたの奴、いつの間にあんな技術身に付けてたんだ…!?」
「ひなたの“個性”は元々影山みたいなのじゃない限り敵無しなんだよ。威力や音域はお前に劣るが、指向性や音の高さの微調整といった精密さはあいつの方が断然上だ」
プレゼントマイクが驚いて瞬きをしていると、相澤がひなたの“個性”について解説をする。
声で音波攻撃を繰り出すという意味ではプレゼントマイクとひなたの“個性”は似ているが、その性質が大きく違っていた。
プレゼントマイクが音量と声域に長けているのに対し、ひなたは声の方向や高さの精密な微調整に長けていた。
「飯田くん行動不能!! 相澤さん三回戦進出!!」
「天ちゃんごめんね。安静にしてればすぐ治るから」
ミッドナイトが勝敗を言い渡し、ひなたは無邪気な笑みを浮かべて飯田の手を取って立たせ、リングを降りていった。
すると心操がひなたに向かって小さく手を振ってきたので、ひなたは心操の方を向いて大きく手を振った。
◇◇◇
そして続く第三回戦。
『さあてお次はこいつらだー! アグレッシブアシッドガール! 芦戸!! 対! 闇の使徒を従える黒きサムライ! 常闇!! START!!』
開始と同時に、芦戸は酸を使って滑るように移動した。
そして酸のボールを
だが
「嘘、効かない!?」
そして…
「捕まえろ!!」
芦戸は、あっさり常闇の
「へ!?」
「
「アイヨ!!」
「わわわわわ!? ちょっと、どーすりゃいいのこれー!」
芦戸の“個性”では
「芦戸さん場外!! 常闇くん、三回戦進出!!」
「あ━━━ん悔しい━━━━!」
ミッドナイトが勝敗を言い渡し、第三試合は終了した。
「まあひなちゃんとか心操みたいなチート“個性” でもない限り無理ゲーだわな」
「ははは…」
常闇に敗れてしまった芦戸だったが、瀬呂は仕方ないと思いひなたも苦笑いを浮かべていた。
こうして三回戦出場3人目は常闇に決まった。
◇◇◇
そして、最後の四試合目。
最後は切島と爆豪の試合だったのだが、初めは爆発に耐えられる切島が優勢だった。
爆豪が切島を爆破すると、切島は硬化した拳で爆豪を殴りつける。
『カァウゥンタァ〜〜〜〜〜!!!』
切島のカウンターが決まると、プレゼントマイクが実況をする。
少しダメージを負った爆豪は、一度距離を取る。
すると切島は高笑いして頑丈さをアピールした。
「効かねーっての爆発さん太郎があ!!」
爆豪の幼馴染みの緑谷は、少し緊張した様子で試合を見守っていた。
そこへひなたが駆け寄ってくる。
「切島くんとかっちゃん…って事は、相澤さん対飯田くん、芦戸さん対常闇くんは……」
「僕勝ったよー! ちなみに第三試合はふみにゃんの勝ちね」
(やっぱり…見たかった……)
ひなたが試合の結果を報告すると、4人の試合を見られなかった緑谷は残念そうにしていた。
リカバリーガールの手術を受けていたため、第二試合と第三試合、そして第四試合の序盤を見逃してしまったのだ。
『切島の猛攻になかなか手が出せない爆豪!!』
「オラアアア! 早よ倒れろ!!」
切島は、連続攻撃で確実に爆豪にダメージを蓄積させていった。
だが爆豪が切島の脇腹を爆破すると、切島はダメージを負った。
爆破が効かないはずの切島にダメージが入ったため、プレゼントマイクは驚いていた。
『ああー!! 効いた!!?』
「てめェ全身ガチガチに気張り続けてんだろ。その状態で速攻仕掛けてちゃ、いずれどっか綻ぶわ」
そこからは早かった。
爆豪は、切島に連続で爆破を浴びせた。
「死ねえ!!!」
そしてトドメの一撃を入れると、切島はついにダウンした。
すると爆豪はヒーローらしからぬ笑みを浮かべながら切島に言い放つ。
「まぁ、俺と持久戦やらねえってのもわかるけどな」
「切島くん、行動不能!! 爆豪くん、三回戦進出!!」
『爆豪エゲツない絨毯爆撃で三回戦進出!! これでベスト4が出揃った!!』
ミッドナイトが勝敗を言い渡し、プレゼントマイクが実況をして第四試合は終了した。
こうして轟、ひなた、常闇、爆豪の4人が準決勝に進出した。
準決勝は、
Aブロック
第一試合 轟VS相澤
Bブロック
第二試合 常闇VS爆豪
の順で行われる事になった。
◇◇◇
そして第四試合終了後。
(次は焦ちゃんとの試合かぁ…マジでどう戦うか考えとかなきゃ幽華ちゃんの時の二の舞になっちゃうしなぁ)
ひなたが自販機で買ったブラックコーヒーを飲んでそんな事を考えながら廊下を歩いていると、エンデヴァーに出くわした。
「おっ、おぉいたいた」
「ぶふぉあ!!?」
いきなりエンデヴァーに話しかけられたので、ひなたはビクッと肩を跳ね上がらせ触角をピンと立てた。
まさかNo.2にいきなり出くわすとは思わず、ただ驚くだけでなく盛大にコーヒーを吹きこぼす。
ひなたは、何故いきなり話しかけられたのかを理解できずに目をパチクリさせコーヒーで汚れた口元を拭いながらエンデヴァーに尋ねる。
「え…? あ…えっと、な、何かご用でしょうか?」
ひなたがしどろもどろになりながらも尋ねると、エンデヴァーはひなたを指差して言った。
「相澤ひなたくん…だったかな? 君の活躍、見せてもらった。声で“個性”を消す“個性”か、素晴らしい“個性”だね。特に君の“個性”の応用技術は目を見張るものがあった。是非ともウチの焦凍にも見習ってほしいものだ」
「あー…えっと…ありがとうございます」
エンデヴァーが言うと、ひなたは頭を掻いてヘコヘコと頭を下げる。
ここで余計な事を言えば父親である相澤にも迷惑がかかるかもしれないと思い、どう対応すべきか慎重に考えていた。
するとそんな折、エンデヴァーがひなたを指差して尋ねる。
「聞けばあのイレイザーヘッドの娘だそうじゃないか。“個性”の指導は彼が?」
「ええっと…」
(嘘はつかない方がいいよね…)
エンデヴァーの問いかけに対してどう答えようか考えていたひなただったが、今後のためにも嘘はつかない方がいいと考え、自分の素性に直接関係がない程度に正直に答える事にした。
「ええ、まあ…でも教えてもらったのは基礎だけで、あとは独学で…てな感じです。僕の“個性”がその、かなり特殊で…」
ひなたがどう説明しようか考えつつ話をしていると、エンデヴァーがひなたに話しかける。
「君なら“くだらん反抗期”を抜け出した焦凍の相手に相応しいだろう。ウチの焦凍には、オールマイトを超える義務がある。障害物競走と騎馬戦で焦凍に勝った君相手なら、焦凍も必ず本気を出してくるだろう。くれぐれもみっともない試合はしないでくれよ。言いたいのはそれだけだ。失礼した」
そう言ってエンデヴァーが去っていこうとすると、ひなたが口を開く。
「人の真剣勝負を踏み台にするな。僕も轟くんも、あんたの野望を叶える為に勝ち上がって来たんじゃない」
「貴様…」
「だけど、越えられないものを越えようと必死に足掻き続けてるあなたの事は、最高にカッコいいと思ってるし応援してる。これだけは何があっても、絶対に揺るがない」
「!」
「フレイムヒーロー、エンデヴァー。よく覚えておけ。僕は必ず、あんたを、いずれはオールマイトをも超えていく」
ひなたは、この時だけ自分の立場を忘れて率直に自分の意見を言った。
ひなたがエンデヴァーを指差しながら自分の意見をハッキリ言うと、エンデヴァーはわずかに目を見開く。
家族だけでなく他人にまで自分の都合を押し付けようとするエンデヴァーを諌めつつ、激励とも取れる言葉を送った。
「言いたい事はそれだけです。こちらこそ、時間を取らせてしまいすみませんでした」
ひなたは、そう言って頭を下げると控室へ向かっていった。
試合開始まで、あと10分を切っていた。