ひなたが控室から入場ゲートに向かう途中、影山に出くわした。
まさか入場ゲートで待っているとは思わなかったので、ひなたは思わず苦笑いした。
影山は、ひなたに駆け寄るとひなたの手を取って笑顔を浮かべる。
「ひなたちゃん! 次、準決勝ですよね! 応援してます! 絶対勝って下さいね!」
「うん!」
影山がひなたの手を取って応援すると、ひなたはコクリと頷く。
「もし優勝出来なかったらその時は…ひなたちゃんより上の奴等を全員社会的に抹殺します」
「過激!! そういうのやめなホント!! 色んな方面に敵増やすから!!」
影山が黒いオーラを出しながら言うと、ひなたはドン引きして思わずツッコミを入れる。
ドス黒いオーラを漂わせている影山は、完全に堅気の顔ではなかった。
「え? ひなたちゃんが優勝すれば何の問題もありませんよね?」
「そうなんだけど、こう…何というか、気持ち的に!!」
影山が平然と天然発言をすると、ひなたは頭をクシャクシャと掻いて訴える。
確かに優勝すれば何の問題もないのだが、影山の暴走を止めるために優勝するというのは何か違うと思っていた。
だが、呆れ返ってため息をつきつつもニコッと笑顔を浮かべて影山の手を取る。
「ったく…まあでもありがとうね。僕、やれる事やって、そんで勝つから」
影山の過激すぎる対応に呆れつつも、ひなたは応援してくれている友達に礼を言った。
すると影山は、ひなたに『ありがとう』と言ってもらえた事で舞い上がってパァッと笑みを浮かべる。
「はいっ!! 応援してます!!」
影山は、満面の笑みを浮かべて頷くとひなたに抱きついた。
ひなたは、影山のスキンシップの多さに若干距離感を覚えつつも応援してくれている友達の為にも精一杯頑張ろうと心に決めた。
そして拳を強く握りしめて入場ゲートへと向かっていき、ゲートから登場する。
すると、観戦席から歓声が沸き起こった。
ひなたは、若干緊張した様子でリングに上がる。
『さあさあ、いよいよトーナメントも大詰め! 準決勝だ!! 第一試合はこいつらだ!! 今回もヒーローの血筋同士の戦い!! お互いの実力はトップクラスの最強対決だ! ヒーロー科轟焦凍!! 対!! 同じくヒーロー科相澤ひなた!!』
プレゼントマイクが二人の紹介をしている間、ひなたはリングに立つ轟に向かって言った。
「焦ちゃん。言っておくけど僕、遠慮なんかする気ないから。負けたくなかったら本気で来いよ」
ひなたが轟に向かってそう言うと、轟は眉間に皺を寄せる。
ひなたがエンデヴァーに炎を出させるように言われたのだと思い、クラスメイトを巻き込んでまで自分の野望を叶えようとするエンデヴァーに腹が立ったからだ。
「お前……親父に何か言われたか?」
轟がそう尋ねるが、ひなたはあえて答えなかった。
試合中は父親の事を忘れて全力で挑んでほしかったからだ。
「どうだっていいでしょそんな事。今は試合に集中しようよ」
ひなたがそう言うと、轟も試合に気持ちを切り替えてそれ以上は何も言ってこなかった。
「……ああ。そうだな」
するとその直後、プレゼントマイクが試合開始の合図をする。
『START!!!』
轟は、開始の合図と同時に瀬呂の時のような巨大な氷を出してひなたを全身氷漬けにする。
ひなたは、目を見開いたまま氷漬けになり一才身動きが取れなくなっていた。
轟はひなたのノーモーションでの爆音攻撃を警戒し、叫ばれる前に氷漬けにして声を封じようとしたのだ。
『いきなりかましたぁ!! これまともに喰らったらひとたまりもないぞ!? 瀬呂みたいにドンマイコールか!?』
『開幕と同時に封じてきたか。以前戦闘訓練で“個性”を消されたのを警戒してるな』
開始と同時に放たれた氷結攻撃にプレゼントマイクが驚いていると、相澤が冷静に解説を入れる。
「うわ開幕早々ブッパしやがった轟の奴!! 声出される前に凍らされちゃひなちゃんでも無理だろ!!」
「けどいくら何でもやり過ぎじゃね!? まだ開始から1分も経ってねーぞ!?」
「そうか…!! 相澤さんは戦闘訓練の時、轟くんに凍らされた状態から逆転して勝ってるんだ。足を凍らせて動けなくしただけじゃ意味がないから、声を出せないように、完全に全身を氷漬けにした上で分厚い氷で覆って拘束したんだ!」
クラスメイト達も驚きを露わにして次々と口を開き、大半はいきなり氷漬けにされてしまったひなたを心配していた。
だが緑谷は、いきなり凍らせにかかった轟を見てこれも戦略のうちだと分析していた。
「遠慮しないのはこっちも同じだ。戦闘訓練の時は封じ損ねて負けたからな。声出す隙なんか与えないぞ」
轟は、氷漬けになって見開いた目を轟の方に向けているひなたに対して冷たく言い放った。
瀬呂の時同様一瞬にして勝負が決まったと思ったミッドナイトは、勝敗を言い渡そうとリングに上がろうとする。
だがその直後、氷塊にピシッと亀裂が入る。
「……何!?」
そしてその次の瞬間、巨大な氷塊が粉々に砕け散った。
氷漬けにされていたひなたに纏わりついていた氷は全て消え、ひなたは凍えるどころか平然としていた。
ひなたは、氷で散々冷やされてふぅと白い息を吐きながら轟を見据える。
「今のでわかったでしょ? もう僕に氷漬けは効かないよ。どうしても倒したきゃ本気で来いよ」
ひなたは、そう言ってクイクイと手招きをする。
『相澤ノーダメージ!! 流石はここまで勝ち上がってきた猛者といったところか!! やはり一筋縄じゃいかないようだ!! けどマジで今何した!?』
流石に今回ばかりは打つ手無しかと思っていたひなたが平然と氷の壁を破ってきたので、プレゼントマイクは驚いていた。
ひなたは、何をしたのかわからない観客達にも分かるように自信満々に自分の技を説明した。
「言ったでしょ、遠慮しないって。この二週間で僕だって強くなったんだよ。今のは、自分の身体を強制的に振動させて触れた“個性”を壊す技さ!」
ひなたが氷漬けにされた時に試したのは、この二週間で編み出したもう一つの必殺技だった。
ひなたは、開始直後に氷漬けにされて『声』を封じられるのを予測し、あらかじめ先手を打っておいたのだ。
凍らされる直前に自身の『声』で自身の身体を強制的に振動させ、自分の周りの氷を『共鳴』で砕いて氷の壁を打ち破ったのだ。
普段使っている『声』の技とは違って広範囲攻撃はできず触れた直後しか効果が無い上に、一度発動すると普段の『声』を同時に使う事ができなくなるというデメリットがあったが、普段の『声』とは違ってほとんどタイムラグ無しで発動でき触れた“個性”を瞬時に消す事ができるという十分強力な技だった。
「対戦相手の前で手の内ペラペラ喋りやがって…舐め……」
「…てんのはそっちだよ」
「!!」
目の前で堂々と技を説明するひなたに対して苛ついた轟が再び氷結を繰り出してくるが、ひなたは新しい技を発動したまま氷を殴って砕いていく。
そして、わざと轟の目の前でバラバラに壊れるように氷を殴り、氷の影に身を隠して忍び寄り死角から蹴りを放つ。
「くっ……!!」
モロに蹴りを喰らった轟はそのまま吹き飛ばされるが、咄嗟に氷の壁を張って場外を防いだ。
だがいくら小柄な少女の蹴りとはいえ、あの相澤に幼い頃から鍛えられてきたひなたの蹴りが効かないわけもなく、おまけにガードしようとして出した氷も粉々に砕かれて直接蹴りのダメージを喰らった。
『モロ入った━━━━!! 砕けた氷を使った目眩しからの死角から回し蹴り!! これは痛い!!』
「チッ……」
先にひなたに一撃を喰らわされた轟は、舌打ちをして体勢を立て直し、ひなた目掛けて氷結を放つ。
ひなたは、まるで舞い踊るかのように氷の柱を次々と避けていき、そのまま一気に距離を詰め右拳を振りかぶってくる。
轟は咄嗟に氷でガードして相殺しようとするが、ひなたの拳が直前で止まる。
そしてその直後、代わりに左脚の蹴りが飛んでくる。
「っ…!?」
(しまった、フェイント…!!)
ひなたの蹴りを喰らった轟は、先程とは違い吹き飛ばされる事はなかったもののバランスを崩してよろけた。
その直後、轟の眼前にひなたの指が迫る。
轟は、横に飛び退いて咄嗟にひなたの攻撃を避けた。
「さっきから躊躇なく急所狙いやがって…嫌な野郎だな」
「遠慮しないって言ったはずだよ」
そう言ってひなたは、再び接近戦を仕掛けようとする。
轟は、氷塊を出してひなたを近づけまいとするが、ひなたは姿勢を低くして一瞬にして轟の視界の外に忍び込み、一気に至近距離まで近づいて言い放つ。
「なまじ“個性”に恵まれた分、挙動が単純なんだよ」
「……!!」
ひなたが尋ねると、轟は目を見開く。
ひなたの言う通り、攻撃の単純さが原因で緑谷に氷結が看破されたからだ。
『凄いぞ相澤!! あの轟相手に肉弾戦でゴリ押ししてやがる!!』
『轟の氷結を用いた戦術は、大雑把だが拘束と弱体化を兼ねた理に適った戦術。片や相澤は、“個性”が扱いづらい分それを体術と戦略で補ってきてる。“個性”を無効化されて無理矢理相手の得意分野に持ち込まれたらああなるのは当然だ』
プレゼントマイクが驚いていると、相澤が解説を入れる。
ひなたは、相澤に仕込まれた体術と新しく編み出した技で轟の氷を看破していき、逆に距離を詰めて追いつめていく。
流石に氷が通用しないひなた相手なら炎を使うだろうと思っていた観客だが、轟は一向に炎を使う気配がなかった。
「焦ちゃん、もうわかってるんでしょ? 氷結だけじゃ僕に勝てないって。炎を使ってこないならこのまま外に出すけど、いいの?」
「………」
ひなたがそう言って攻撃を繰り出していくと、轟は何を考えているのか黙り込んでしまう。
すると、観客席からエンデヴァーの声が聞こえて来る。
「焦凍!! 左を使え!! 俺の力で捩じ伏せてやれ!!」
「っ………!!」
エンデヴァーが轟に対して激励を送ると、轟は立ち止まった。
ひなたは、轟の氷を蹴りで砕きながら問いかける。
「焦ちゃん、デッくんの時は炎を使ったじゃない。僕じゃ力不足かな? それとも、まだ炎を出せない理由でもあるの?」
ひなたが尋ねると、轟は俯いてポツリと呟く。
「っ……悪い相澤…俺……緑谷と戦ってから…どうするべきか…何が正しいのか…自分でもよくわかんなくなっちまってんだ……」
轟がそう言うと、ひなたは本人に使う気が無いなら仕方ないと思いそのまま場外に押し出そうとする。
エンデヴァーの道具になりたくないという思いを一心にここまで来たが、その思いも緑谷によって砕かれた。
だからどうするべきかわからずに固まってしまい動けなくなっているのだ。
すると、観客席で見ていた爆豪が身を乗り出して轟に向かって叫ぶ。
「てめぇ虚仮にすんの大概にしろよ! ブッ殺すぞ!! 俺が獲んのは完璧な一位なんだよ! 舐めプのクソカスに勝っても取れねえんだよ! デクと触角より上に行かねえと意味ねえんだよ!! 勝つつもりもねえならそこに立つな!!! 何でそこに立っとんだクソが!!!」
爆豪は、轟に向かって発破をかける。
戦闘訓練の時に勝てないと思った相手が、本気を出さずに負けそうになっているのが耐えられなかったのだ。
すると今度は、緑谷も声を張り上げる。
「負けるな頑張れ!!!」
爆豪と緑谷が激励の言葉をかけると、ひなたも負けじと叫ぶ。
「焦ちゃん!!」
「!」
「君は何も間違ってない!! 君が正しいと思った道を突き進めばいい!! 自分の気持ちを大事にしないで強くなれると思うな!! 君が!! 生きたいように生きろよ!!!」
ひなたの言葉を聞いた轟は、わずかに目を見開く。
ひなたは、右だけで戦うと決めた轟を決して否定しなかった。
轟は、自分の生きたいように生きろというひなたに、かつて『なりたい自分になっていい』と言ってくれた母親を重ねた。
「俺が、生きたいように……」
ゴォオオオッ
「…全く……イカレてるよ、お前も、緑谷も………どいつもこいつも本当は勝ちてえクセに、発破なんかかけやがって……」
轟は、左側から炎を出していた。
ひなたの激励のおかげか、轟は僅かに微笑んでいた。
『轟炎を出したァア!! 三人がかりの説教が効いたかァ!!? もう試合とかどうでもいい!! 二人とも頑張れええええ!!!』
『お前は実況やれよ』
プレゼントマイクが実況そっちのけで二人を応援し出すと、相澤が呆れた様子でツッコミを入れた。
だが、そう言いつつもガチガチに固められたギプスの中で拳を握りしめていた。
「すっげぇ……!」
ひなたは、防御するのも忘れて目を見開き笑顔を浮かべてゾクゾクと昂っていた。
「相澤、ありがとな。お前のお陰で吹っ切れた」
轟が炎を放つと、ひなたはさらにニィと笑って髪を逆立ててざわつかせ息を大きく吸い込む。
「それじゃ、こっちも奥の手を出さなきゃね。今の僕にできる最大限だ。君の為に使ってあげるよ」
ひなたが大きく息を吸い込んで構えると、それを見た相澤は嫌な予感がして会場にいる全員に伝えた。
『ひなたの奴、アレをやる気だ。今会場にいる奴、気ィ失いたくなかったら耳塞いどけ。…おいマイク、今すぐ会場のスピーカー全部切れ』
『マジかよ!? アレをやるか!? 体育祭だぞ!?』
「まずい、これは…!」
「くっ…!」
相澤が言うと、プレゼントマイクは驚きつつもすぐに会場のスピーカーを全てオフにした。
セメントスとミッドナイトも、緑谷の時の試合のように二人とも会場を吹き飛ばす勢いの大技を出す気だと判断し、咄嗟に“個性”を発動しようとする。
するとその直後、轟がありったけの炎を出す。
そして、それと同時にひなたは目を見開いて今までとは比べ物にならないほどの大声を張り上げる。
「『
((勝つのは……))
「俺だ!!!」
「僕だ!!!」
ドゴォォォォォオオオオオオオン!!!!
スタジアムが大爆発を起こし、スタジアムは白い煙に包まれ耳を劈く爆発音が鳴り響いた。
セメントスが咄嗟に二人の間にコンクリートの壁を何重にも張ったが、轟の熱膨張爆発とひなたの爆音攻撃によって粉々に砕け散った。
リングには蒸気とコンクリートの粒子が混ざった煙が上がっており様子がわからなかったが、リングは粉々に砕けもはや原型を失っていた。
さらに、爆発と爆音の影響からかスタジアムに設置された映像機器や音声機器が故障しバチバチと漏電して黒煙を上げており、耳を塞ぐのが間に合わなかった何人かの観客が耳から血を流していたり、気を失って泡を吹きバタバタと倒れていたりした。
『嘘だろ……!? 何だ今の……天災じゃねぇかよコリャ…』
『やりすぎだバカ共が。音響壊しやがって…』
プレゼントマイクは椅子から転げ落ちて仰天しており、相澤は呆れ返っていた。
一方リングの方はというと、煙の中から人影が現れるのが見えた。
「はぁ…はぁ……」
リングに立っているのは、ボロボロになったひなただった。
空気の膨張で巻き起こった爆風によって体操服がボロボロになり、頭や鼻から血を流して立っていた。
だが、その直後だった。
ドサッ
ひなたは、力尽きてその場で倒れてしまった。
「………っ!! ……っ!」
ひなたは這いずりながら何かを叫ぼうとしていたが、“個性”の使いすぎで声が出なくなっていた。
そして倒れているひなたの目の前の煙が晴れていく。
辛うじて意識を保っていた観客が目を向けると、その先にはひなたの“個性”によって意識を失いリング上に倒れ込んだ轟がいた。
ミッドナイトは、轟に駆け寄って意識を失っている事を確認すると勝敗を言い渡す。
「とっ…轟くん行動不能!! よって相澤さん、決勝戦進出!!」
『決まったぁああ━━━━━!! 激闘の末最強二人の一騎打ちを制したのは、相澤だぁあああ━━━━━━━━あああああああ!!!!』
ミッドナイトが結果を言い渡すと、プレゼントマイクが唯一無事だったスピーカーを通して締め括った。
ひなたは、ヘトヘトの状態で実況席に目を向ける。
すると、相澤がひなたに向かって口パクで『よくやった』と伝えている事に気がつく。
その直後、気が抜けたのかひなたはリングに横たわったまますやすやと寝息を立てて眠り始めた。
眠ったひなたは担架で医務室へと運ばれていった。
「うおおおおおおおおおおおおおお!! すげーぞお前ら!!」
「やるじゃねぇか!! 俺お前ら気に入ったぞ━━!!」
観客席からは、二人に対する賞賛の声が上がった。
「マジか…ひなちゃん勝っちまったぞ!?」
「ひなた…!!」
A組もまた、激闘の末ひなたが勝ったため驚いていた。
心操は、ボロボロになったひなたを心配しつつもひなたが勝ったのでどこか安心している様子だった。
◇◇◇
「チユ〜〜〜〜!!」
医務室に運ばれたひなたは、リカバリーガールの治療を受けていた。
リカバリーガールが“個性”を使うと、ひなたの身体の傷が元通りになっていく。
「ん、治った。ありがとうございます」
「全く…これ以上は体力奪われて逆に死ぬから処置しないよ。わかったね?」
「はい!」
「ペッツだよ。お食べ」
「ありがとうございます、いただきます」
リカバリーガールが呆れつつもひなたの手にペッツを落とすと、ひなたは触角をピンと立てて返事をした。
「あ、次かっちゃんとふみにゃんの試合だった! 見なきゃ!」
ひなたは、次が爆豪と常闇の試合だった事を思い出し、急いで観戦席へ戻ろうとする。
だが試合で全力を出し切ったのと、治癒で体力を奪われたせいでふらっときてしまう。
「焦るんじゃないよ。今はリングを修復中さね。今からゆっくり戻れば見られるよ」
「はい…!」
リカバリーガールが注意をすると、ひなたは頭を掻いて笑みを浮かべる。
そして、無理しないようゆっくりと観客席に戻っていった。
◇◇◇
そして準決勝二試合目。
「うっぜぇなぁあ━━━━それ!!!」
爆豪は、常闇の
すると八百万や芦戸の時は全く怯む事なく突っ込んできたはずの
常闇は、容赦なく
「修羅め…!!」
『爆豪対常闇! 爆豪のラッシュが止まんねぇ!! 常闇はここまで無敵に近い“個性”で勝ち上がってきたが、今回は防戦一辺倒!! 懐に入らせない!!』
爆豪が容赦なくラッシュをしていくと、プレゼントマイクが実況を挟む。
するとそれを見ていた芦戸と八百万は悔しそうにしていた。
自分達を押していたはずの
「常闇何でぇ!? 私達ん時は超攻撃してきたのに!!」
「何かタネが…?」
「ふみにゃん…これは相手が悪かったね」
常闇は、爆豪の爆発の光のせいで
常闇の“個性”の弱点を知っていたひなたは、こればかりは仕方ないと思っていた。
(“個性”の相性ばっかりは仕方ないよね。ヤオモモも閃光弾とか出してれば勝てたんだろうけどね)
すると、一緒に観戦していた緑谷が言った。
「見たところ常闇くん、光が弱点なのか…?」
「デッくん正解」
「やっぱり…! それがかっちゃんにバレてなければ転機はあるんだろうけど…」
「うん、ていうかデクくんとひなたちゃん普通に見るんだね」
「次はかっちゃんとの試合だからね。ちゃんと見とかなきゃ」
緑谷が言うと、隣にいた麗日がツッコミを入れる。
するとひなたは大好物のサルミアッキを口いっぱいに頬張って養分補給をしながら言った。
「でもさ、気付かれるのも時間の問題じゃない? かっちゃんて変なところで聡いとこあるからさ」
「チッ…!!」
爆豪は、爆発で空中へ移動し上から
「掴め
常闇も爆豪を掴もうとするが、爆豪は空中で身を翻すと爆破の勢いで常闇の背後を取り、両手を前に出して構えた。
するとプレゼントマイクが驚いて実況を挟む。
『裏を取ったあ!!』
「
爆豪は、掌から閃光を放った。
そしてその直後爆発が起こる。
『煙幕ばっかだな…!! どうだどうだ!!?』
リングの上では煙が巻き起こり、リングの上が見えなくなっていた。
プレゼントマイクは、目を凝らしてリングの方を見る。
煙が晴れると、常闇を組み伏せた爆豪が右手を爆発させていた。
常闇は、掌を爆発させる爆豪を悔しそうに睨んでいた。
「…………知っていたのか…」
「数打って暴いたんだバァカ。まァ…相性が悪かったな。同情するぜ。詰みだ」
すると常闇は、悔しそうに絞り出した。
「…………参った…」
「常闇くん降参! 爆豪くんの勝利!!」
『よって決勝は、相澤対爆豪に決定だあ!!!』
ミッドナイトとプレゼントマイクが勝敗を言い渡し、準決勝二試合目は爆豪の勝利で幕を閉じた。
「常闇くん悔しいな……」
「ふみにゃん…」
「常闇…」
「俺絶対常闇いくと思ったわ」
「彼も無敵ではないという事か」
麗日とひなたと心操は、爆豪に敗れてしまった常闇に同情していた。
瀬呂が言うと、常闇に対応できる“個性”を持つ上鳴はカッコつけながら言った。
「光が弱点か? なるほど…あいつそういうとこ突くの好きだな…」
爆豪に敗れた切島は、悔しそうに言った。
「お前とんでもない奴にケンカ売ったな!」
「いやいや、あいつ“個性”の相性運が良いだけ」
「結局A組パラダイスだぜクッソゥ!!!」
B組の席では、拳藤が物間に声をかけ物間が苦笑いを浮かべていた。
鉄哲は、B組から一人も最終種目進出者が出なかったので悔しがっていた。
「あの二人が…どうなるんだろ………」
「しっかり見てリベンジだな!」
「「うん!」」
飯田、緑谷、麗日の三人はひなたと爆豪の試合を見て学ぶ事にした。
するとその時、飯田が激しく振動する。
「「「うわあ何だ!!?」」」
「おっ」
激しく振動する飯田を見て、緑谷、麗日、ひなたの3人は驚いて声を上げ、心操もビクッと肩を跳ね上がらせていた。
「電話だ」
「電話か」
「あ、じゃあ僕も行くね。次決勝だし!」
飯田は、母親から電話がかかってきたという事で席を外した。
ひなたも、次の決勝に備えて控室で準備をする事にした。
「ひなた、絶対勝てよ」
「うん!」
控室に行こうとするひなたに心操が声をかけると、ひなたは握り拳を作って力強く頷く。
するとその時、轟がひなたに声をかける。
「相澤」
「ん?」
轟の声にひなたが振り向くと、轟は微笑みながらひなたに言った。
「…頑張れよ」
轟は、『生きたいように生きろ』と言ってくれたひなたに感謝していた。
そのため、次の試合はひなたを応援する事にしたのだ。
ひなたは、自分を応援してくれている父親二人と、友達の為にも絶対優勝すると心に決めて力強く頷く。
「うん! 勝ってくる!」
◇◇◇
そして決勝戦の直前、ひなたは控え室で気持ちを落ち着けていた。
クラスメイトの前では気丈夫に振る舞っていたが、自分でも決勝まで行けると思わなかったのでかなり緊張していた。
緊張するあまり心臓がバクバク鳴り、呼吸も荒くなっていた。
「落ち着け…落ち着け僕…! こういう時は素数を数えて落ち着くんだ… 『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…僕に勇気を与えてくれる…2、3、5、7、11、13、17、19、23、27…違う29、31、37、41、43、47、49…じゃなくて51、でもなくて53…」
ひなたは、緊張している自分を落ち着けようと胸を押さえながら呪文のように素数を唱えていたが、緊張しすぎて何度も言い間違えていた。
するとそこへ、爆豪が入ってくる。
「59ぅう!?」
ひなたは、いきなり部屋に入られてビックリするあまり肩を跳ね上がらせて大声を張り上げてしまう。
すると、その声に逆に爆豪もビックリしてビクッと肩を跳ね上がらせる。
「あれ? …何でてめぇがここに…? 控え室…ここ2の方かクソが!」
「………」
控室を確認した後、部屋を間違えていた事に気が付いた爆豪は1人で勝手にキレていた。
普段は見せないようなその姿を見て、ひなたは呆気にとられていた。
そして、緊張が解けたのかクスリと笑い出してしまう。
「……ふふっ」
「あ!? 何笑ってんだ触角!! 部屋間違えたのは俺だけどよ!!」
ひなたが急に笑うと、爆豪が逆ギレする。
「いや…ごめん。おかげで気持ちが少し軽くなった。ありがとね」
「は!?」
ひなたが爆豪に礼を言うと、何もしていないのに礼を言われた爆豪は逆ギレする。
するとひなたは、咳から立ち上がって爆豪の前に立つと右手を差し出して握手を求める。
「この試合、どっちが勝っても恨みっこなしだよ。お互い頑張ろうね、かっちゃん!」
「かっちゃん言うな潰すぞコラ!!」
ひなたが笑顔を浮かべて右手を出すと、爆豪はひなたの手を払ってキレ散らかし両手から小さな爆発を起こす。
それは決勝前に相手と馴れ合うつもりは一切ないという意志の現れだった。
ひなたも、それを汲んでか差し出していた右手を引っ込める。
すると、爆豪がひなたに向かって話しかける。
「おい
爆豪が初めてひなたを苗字呼びしてきたので、ひなたはわずかに目を見開く。
爆豪が相手を苗字呼びするのは、相手の事を認めている証拠だった。
爆豪が宣戦布告してくると、ひなたはニカッと笑って拳を前に出す。
「…おう!! 望むところ!!」
ひなたは、爆豪の宣戦布告を快く受け入れると絶対優勝しようと意気込んだ。
最後の試合の開始時刻まで、残り10分を切っていた。