抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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面白いと思っていただけましたら高評価(特に9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。



ひなたVS爆豪

 体育祭もいよいよ決勝戦となり、ここまで勝ち上がってきたひなたと爆豪は同時にリングに上がる。

 するとプレゼントマイクがノリノリで実況する。

 

『さぁいよいよラスト!! 雄英1年の頂点がここに決まる!! 決勝戦!! 相澤対爆豪!! どちらも凄まじい戦いを見せてきたトップクラスの実力者だ!! どちらが勝ってもおかしくねーが、優勝するのはどっちだ━━!!! 俺は正直相澤に勝ってほしい!!』

 

『おい』

 

 プレゼントマイクが私情ダダ漏れな実況をすると、相澤が冷めた目を向けてプレゼントマイクを小突く。

 だが相澤自身も、実は娘のひなたに勝ってほしいというのが本心だった。

 

『まあ途中色々とハラハラさせられたが!! 体育祭もこれでいよいよ最後だァ!! 思い起こせば7年前、あんなに小さくて弱々しかったひなたがまさか決勝まで勝ち上がるなんて…よくぞここまで立派に育ってくださいまして…『泣くな。あと長い』

 

 プレゼントマイクが途中から娘自慢をしハンカチを片手に泣き始めると、相澤が横からツッコミを入れる。

 唐突な娘自慢に会場全体が白け、ひなたも苦笑いを浮かべていた。

 だが相澤がツッコミを入れると、プレゼントマイクは立ち所に気持ちを切り替えていつもの調子に戻った。

 その切り替えの速さは流石プロヒーローだな、とひなたはある意味尊敬すらしていた。

 

『シヴィ━━━━!! こいつぁ失礼!! そんじゃあ行くぜー! トーナメント決勝戦!! STAAAAAAAAAAAAAAAART!!!!』

 

(かっちゃん相手じゃ初撃で攻めにいかなきゃ負ける…!! 守備は捨てて先手を打つ!!)

 

 ひなたは、爆豪の機動力と戦闘力の高さを警戒し、一瞬で勝負を決めなければ負けると判断し轟の時の防御技ではなくいきなり音波攻撃を放つ事にした。

 ひなたは、髪をざわつかせて爆音攻撃を放とうとする。

 だがひなたが爆音攻撃を仕掛けてくるであろう事は爆豪には読まれており、爆豪はひなたに対して先手を打ってきた。

 

「『閃光弾(スタングレネード)』!!!」

 

 爆豪が爆破で閃光を放つ技を放つと、ひなたはその眩しさに一瞬目を瞑ってしまう。

 すると爆豪は、その一瞬の隙を突いて爆煙に隠れながら一気に距離を詰めるとひなたを爆破してきた。

 ひなたは、受け身を取ろうとするが爆破の光で目がチカチカしているのと爆煙のせいで一瞬反応が遅れてしまう。

 

「オラァ!!」

 

「わっ!?」

 

『爆豪いきなり容赦ね━━━!! そして相澤、何とか避けたぁ!! よー避けれたな今の!』

 

 ひなたがギリギリ爆破を回避すると、プレゼントマイクが驚いて目を見開く。

 その後も、爆豪の容赦ないラッシュがひなたを襲い、ひなたは反撃に移れずに避けるので精一杯だった。

 ひなたが一旦距離を取って反撃しようとすると、爆豪が両手を爆発させて間合いを詰める。

 

「爆速ターボ!!」

 

「くっ…!!」

 

 爆豪が容赦なく爆破を繰り出してくると、ひなたは上着を盾にして爆破を防ぐ。

 そしてその一瞬の隙を突いて懐に入り込み爆豪に爆音攻撃を浴びせようとする。

 すると爆豪は、アッパーでひなたの下顎を殴りつける。

 

「ぎゃっ!!」

 

 アッパーが下顎に入ったひなたは軽く吹き飛ばされ、リング上に倒れ込む。

 

『うおお下顎に入ったぞ!? いきなり勝負アリか!?』

 

 ひなたが脳を揺らされて思うように動かない身体を何とか立たせようとすると、爆豪が容赦なく爆破を繰り出してくる。

 ひなたは、咄嗟にリング上をゴロゴロと転がって避けた。

 

「おい触角、遠慮しやがったらブッ殺すっつったよなぁ!? あぁ!?」

 

「っ………!!」

 

 爆豪が掌から小さな爆破を繰り出しながらひなたを挑発すると、ひなたは口から流した血を握り拳で拭きながらキッと爆豪を睨む。

 すると爆豪がひなたを蹴り飛ばして爆破を浴びせてきた。

 

『爆豪のえげつない猛攻の前に相澤、なす術なしか!? しっかしまあ女の子相手によーこんなエグい攻撃できるな!! ヒーロー科らしからぬ見事なヒールっぷりだぁぁ!!』

 

「ひなた…!!」

 

「そんな、相澤さんが攻撃に移る隙も無いなんて…!」

 

 ひなたが爆豪に押されていると心操が目を見開いて身を乗り出し、尾白が驚いた様子で口を開く。

 すると芦戸と八百万がひなたの劣勢に疑問を抱いた。

 

「でも何で!? ひなた、轟と飯田の時はバンバン攻めに行ってたじゃん!」

 

「何かカラクリがあるのでしょうか…」

 

 ひなたの動きをよく見ていた緑谷は、ひなたの“個性”の弱点に気がつく。

 緑谷は、ずっと引っかかっていたものが解けたかのように口を開く。

 

「…そうか、わかった!」

 

「えっ、何?」

 

「相澤さん、“個性”を発動する時に必ずコンマ数秒タイムラグがあるんだよ。多分、楽器でいうところのチューニングが必要な“個性”なんじゃないかな。対してかっちゃんは、攻撃、防御、移動、その全てが『爆破』の一工程で済むんだ。だからどうしても接近戦ではかっちゃんに先手を取られる。それに、相澤さんは今までの試合で消耗してるんだ。かっちゃんに決定打を与えるには、隙を突いて最大出力を浴びせるしか…「こえーよ」

 

 緑谷がブツブツ言うと、瀬呂がツッコミを入れる。

 緑谷の言う通り、ノーモーションで攻撃や防御に移れる爆豪とは違い、ひなたの場合は相手の“個性”の波長と同じ波長の音波を出すという工程が必要なため、どうしても接近戦では遅れを取ってしまうのだ。

 それだけでなく、爆豪はこれまで相性運に恵まれてさほど体力を消耗せずに勝ち上がってきたのに対し、ひなたは特に影山戦と轟戦で消耗して体力がほとんど残っていなかった。

 今のひなたにとって、爆豪は相性最悪の天敵だった。

 

「死ねェ!!!」

 

 爆豪がひなた目掛けて爆破を放ってきた、その時だった。

 ひなたは、いつの間にか口の中に含んでいたセメントの破片を爆豪目掛けて吹き出す。

 すると、予想外の攻撃をされた爆豪は一瞬怯む。

 その一瞬の隙をついて、ひなたは音波を浴びせようとする。

 だが…

 

 

 

 BOOOM!!! 

 

 

 

「ぎゃっ……!!」

 

 爆豪は、至近距離で音波を浴びせようとしたひなたの顔に爆破を浴びせた。

 顔面に直接爆破を浴びたひなたは、その場に膝をつく。

 

「がはっ…! げほっ、げほっ…!!」

 

 ひなたは、リングに膝をついて喉元を押さえながら激しく咳き込んだ。

 顔の近くで爆破を浴びて煙を吸ってしまったせいで、喉をやられてしまったのだ。

 それだけでなく、爆破の際に脳を揺らされふらついていた。

 

「調子に乗んなよクソチビ。こっちはてめぇの弱点くらい分かってんだよ。声が“個性”なら、叫ぶ前に爆煙で喉潰しちまえばいいだけの話だ」

 

「う、うぅ……」

 

 ひなたが脳震盪を起こしてふらついていると、爆豪がラッシュを浴びせてくる。

 わざと煙が多く発生するように爆破を繰り返し、ひなたの体力を確実に削っていく。

 だがひなたは、爆豪の攻撃を捌き切っていた。

 

「チッ……」

 

 次第に攻撃がひなたに当たらなくなってきたため、爆豪は舌打ちをする。

 何度も攻撃を受けているうちに、ひなたの目が慣れてきたのだ。

 爆豪がひなたを爆破しようとするとひなたが見切って攻撃を捌き、逆にカウンターを叩き込む。

 

「接近戦が御所望なら、望むところ!!」

 

「こいつ…!」

 

 ひなたが跳び上がって踵落としを仕掛けてくると、爆豪は腕でガードする。

 するとひなたはそのまま空中で一回転し、背中側からフックを放つ。

 それに対し、爆豪は爆破で身体を回転させて回避した。

 

『すごいぞ相澤、さっきまでの圧倒的劣勢から巻き返してきたァ!!』

 

 二人の攻防に、プレゼントマイクが驚く。

 ひなたの“個性”が防がれてからというもの、二人は目に留まらぬ攻防を繰り広げており、驚くべき事にひなたはほとんど体力が残っていない状態で粘っていた。

 ひなたは、迷わず爆豪に突進する。

 すると爆豪は、掌から爆破を放ってひなたに浴びせる。

 

「くたばれェ!!」

 

「ぎゃ!!」

 

 爆豪の爆破を浴びたひなたは、軽く吹き飛ばされる。

 するとプレゼントマイクが実況を挟む。

 

『えげつねー爆豪の野郎!! 奴の爆撃をモロに喰らった相澤、またしても可愛い顔が痛々しく…『違う』…Huh!?』

 

『よく見ろ。服や髪はボロボロになっているが、相澤自身はほとんどダメージを負っていない。うまくいなしてダメージを最小限に抑えたんだ』

 

『ナイス解説!』

 

 プレゼントマイクが実況をすると、横から相澤が遮って状況を解説した。

 実は持久戦に持ち込まれてからというもの、ひなたは爆破によるダメージはほとんど負っていなかった。

 爆豪は、ひなた目掛けて爆破を放つ。

 だがひなたは、姿勢を低くして爆豪の視界の外に入り込み、死角から顎目掛けてフックを放つ。

 それを目で見て察知した爆豪は、爆破で無茶苦茶な方向転換をしてからひなたにカウンターを放つ。

 

「さっきから急所攻撃が好きだなァ、えぇ!?」

 

「っ……」

 

 爆豪が挑発するように爆破を放つと、ひなたはふらっとよろける。

 だがその直後、ひなたはよろけるフリをしながら無茶な方向から目潰しを放った。

 爆豪は、それを咄嗟に避けると、逆にひなたの顔面に爆破を叩き込む。

 だがそれすらもひなたの想定内で、ひなたは顔を爆破されたまま回し蹴りを放ち、爆豪の側頭部に蹴りを叩き込む。

 

「ぐっ…!」

 

 側頭部を蹴られた爆豪は、一瞬視界が歪み、そのまま場外に押し出されそうになる。

 だが爆破で勢いを殺して場外を免れると、再びひなたに掴みかかって爆破した。

 何度も上から爆破を喰らうひなただったが、爆豪が右の大振りを繰り出した瞬間に爆豪に掴み掛かり、回復しかけた喉から声を出して爆豪の“個性”を一時的に消し、そのまま勢いよく爆豪の身体を背負い投げ、背中からリングに叩きつける。

 ひなたが馬鹿力を発揮して繰り出した背負い投げは、いとも容易くコンクリートのリングを放射状に叩き割り、爆豪に決して軽くはないダメージを負わせる。

 

「がはっ…!!」

 

 背中から叩きつけられた爆豪は、目を見開いて血反吐を吐く。

 ひなたは、爆豪に態勢を立て直す隙すら与えずにマウントポジションを取ると、何の躊躇いもなく顔面を殴りつけた。

 そのまま気絶するまで爆豪を殴り続けようとするひなただったが、“個性”が回復した爆豪がひなたの顔面に爆破を放ち、ひなたを突き飛ばして脱出したついでに爆破付きのストレートパンチを叩き込む。

 

「クソが…てめぇ相当キてんなァ!?」

 

「………!」

 

 爆豪がハッと笑いながら言うと、ひなたは目を見開いて無邪気な笑顔を浮かべる。

 ひなたは何度も爆破されて表皮に火傷を負い顔も鼻や口から流れ出た血で汚れており、爆豪もひなたに何度も殴打や蹴りを叩き込まれて痣だらけになっていた。

 両者共にボロボロだったが、二人ともどういうわけか笑っていた。

 

『しかしこいつらよーバンバン攻めに行けるな! 相手の攻撃が怖くねえのか!?』

 

『それで怯むような奴はここまで上がって来れねえよ。こいつらが望んでるのは、誰にも文句を言わせない完璧な勝利だけだ。だから二人とも必死に攻めにいってるんだ』

 

 間髪入れずに攻め続ける二人を見てプレゼントマイクが実況をすると、相澤も解説を挟んだ。

 誰にも文句を言わせない完璧な勝利、それだけが二人の望む勝ち方だった。

 

「何笑ってやがんだ」

 

「いや、ね…僕、こんな(ヴィラン)みたいな“個性”のせいで怖がられてばっかだったから…怯まずにあっさり破られて逆にちょっと安心したんだ。そうこなくっちゃってやつさ。次でケリつけようぜ、かっちゃん…いや、()()ィ!!」

 

 ひなたは、鋭い眼光で爆豪を見据えながら笑っていた。

 その目つきは完全に獲物に狙いを定めた獣の目だった。

 ひなたが笑いながら立ち上がると、爆豪はそれに応えるかのように不敵な笑みを浮かべる。

 

「いいぜ、来いよ相澤ァ!!」

 

 爆豪は、走りながら空高く飛び上がり両手を左右逆方向に向けて爆発を連続発生させ、その反動で錐揉み回転しながら突撃してその勢いを乗せたまま特大火力の爆発を叩き込む大技を仕掛ける。

 

「『榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)』!!!」

 

 ひなたも、それに応えるように髪を逆立ててざわつかせ、轟との戦いで使った技を放とうとする。

 

「『滅葬歌(モルテカンター)…」

 

 爆豪の大技と同時にひなたが大技を放とうとした、その瞬間だった。

 

 

 

 ──お前の力は人を壊す力だ

 

「………っ!?」

 

 突然、ひなたの脳内に忌々しい生みの親の声が響き渡る。

 そしてそれを皮切りに、次々と忌々しい記憶がフラッシュバックする。

 

 ──痛い!! 痛い!! ごめんなさい…ごめんなさいお父様(マスター)!! 

 

 ──いいか、お前は人を壊すためだけに生み出された道具だ。お前に拒否権なんて無い。私が叫べと言ったら叫べ。黙れと言ったら黙れ。殺せと言ったら殺せ

 

 ひなたは『101号』だった頃、思い出すだけで吐き気を催すほどの仕打ちを受けてきた。

 兵器として完成させるための苦痛を伴う実験を幾度となく受け、命令に逆らえば死ぬよりつらい拷問を受け、目の前で同じように命令を拒否した被験体が惨殺される光景を見せられた。

 奇しくも血の繋がった父親二人に助け出されたひなたは、自分もかつての自分のように苦しんでいる人がいたら助けるヒーローになるんだと心に決めた。

 生みの親と同じような(ヴィラン)にだけはなりたくなかったから、『101号』としての自分を完全に消した。

 父親が常に前だけを見てどんな理不尽をも覆すようなヒーローを求めていたから、ひなたは無意識のうちに父親が思い描くヒーロー像を追い求めるようになり、それまでの暗かった性格が嘘のように強く明るい性格になった。

 

 だが、気がつくと自分の左手首に消したはずの数字が浮かび上がっており、髪も施設にいた頃のように長く伸びきっていた。

 そして振り向くと、山田と相澤、そしてひなたにとっての一番の親友の心操が立っていた。

 三人は、悍ましい物を見るような目をひなたに向けると、寄ってたかってひなたに罵声を浴びせてきた。

 

 ──お前みたいな(ヴィラン)がヒーローになれるわけねぇだろ

 

 ── (ヴィラン)のくせに娘面するな。お前なんか生まれてこなきゃ良かったんだ

 

 ── (ヴィラン)を友達だなんて思ってた俺が馬鹿だった

 

 それを聞いたひなたは涙を流し、爆豪に放とうとしていた技を引っ込めてしまう。

 その直後だった。

 

 

 

 

 

 ドゴォォォォォォオオオオオオオン!!! 

 

 

 

 

 

 爆豪は身体を勢いよく回転させ観客席にまで及ぶ大爆発を放った。

 爆豪の爆発によって、会場には爆音が鳴り響き全員の視界が光と煙に包まれる。

 

『麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!! 一方相澤は、轟戦で見せた爆音攻撃を出さなかったようだが、勝敗の行方は果たして……』

 

 最初に気がついたのは爆豪だった。

 大技を打ったことでコントロールを失い地面に伏せていたが、自分に向かってくるはずの衝撃が一切無かったため呆然としていた。

 

「………は?」

 

 ひなたは、壁に打ち付けられて気を失っていた。

 爆豪は、“個性”を使いすぎて上手く動かない身体に鞭打って立ち上がると、ボロボロになって気絶して動かないひなたの胸ぐらを掴んでひなたを責める。

 

「オイっ…ふっ、ふざけんなよ!! 完全勝利…完璧な一位っつったろうが!! こんなの、こんなのっ…!! おい、何とか言えよコラァ!!」

 

 今にもひなたに殴りかかりそうな爆豪だったが、胸ぐらを掴んだ拍子にひなたの顔が目に映る。

 ひなたの顔を見た爆豪は、一瞬目を見開いて言葉を失い、そして悔しそうに歯を食いしばりながら、ひなたに振り下ろそうとした拳を下ろした。

 

「っ………そがぁ…!!」

 

 するとその時、ミッドナイトがタイツを破りながら歩み寄り、眠り香を出す。

 ミッドナイトの眠り香を嗅いだ爆豪は、その場に倒れ込んで眠った。

 

 

 

 ミッドナイト

 本名 香山睡

 “個性”『眠り香』

 身体から放たれる香りで強制的に眠らせる!! 

 女性より男性の方が効きやすいぞ! 

 

 

 

「相澤さん場外!! よって爆豪くんの勝ち!!」

 

『以上で全ての競技が終了! 今年度の雄英体育祭1年優勝はA組爆豪勝己!!!!』

 

 ミッドナイトとプレゼントマイクが勝敗を言い渡すと、会場には今まで以上の歓声が湧き上がった。

 だが一部の者達は、素直にクラスメイトの優勝を喜べなかった。

 

「ひなた…!」

 

「ひなたちゃん…悔しいな……」

 

 担架で運ばれていくひなたを見て、心操は観客席から身を乗り出して心配し、麗日もひなたを心配していた。

 担架でスタジアムを後にするひなたの頬は、涙で濡れていた。

 こうして体育祭一年ステージは全ての競技が終わり、爆豪の優勝で幕を閉じた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 気絶していたひなたや眠らされていた爆豪も目を覚ました事で、表彰式の準備が始まる。

 

「それではこれより!! 表彰式に移ります!」

 

 体育祭の終わりを知らせる花火が打ち上げられ、スタジアムの地面が開き下から表彰台が現れる。

 ミッドナイトが表彰台を指し示すとクラスメイト達がドン引きして呆れた顔を見せる。

 表彰台には爆豪、ひなた、轟、常闇が立っていたのだが、一位の場所には爆豪がミッドナイトの拘束具で拘束された状態で立っていたのだ。

 

「何アレ…」

 

「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしま━━━…締まんねー表彰式だな」

 

 耳郎が露骨に引き、切島が苦笑いを浮かべていた。

 

「あの爆発下水煮込み野郎……よくも私のひなたちゃんを…!! 卒業するまでヘドロ事件の事を事あるごとにネットに書き込んで徹底的に蒸し返してやる…」

 

「うわぁ粘着質…」

 

 影山が顔中に青筋を浮かべながらギリギリと歯を鳴らして一位の表彰台を睨んでいると、隣にいたクラスメイトがドン引きしていた。

 

「ん゛ん゛〜〜〜〜!!」

 

「もはや悪鬼羅刹」

 

「あはは…」

 

 拘束を振り解こうと暴れ回り、猿轡をされているせいで何を言っているのかはわからなかったが少なくともひなたに対する罵声という事だけはわかった。

 三位の表彰台でそれを見ていた常闇は、呆れ返ってため息をつく。

 自分のせいで暴れていると思われる爆豪を見たひなたは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていたが、その表情はどこか暗かった。

 

「あれ? そういや飯田は?」

 

「ああ……ちょっと家の都合で早退するって…」

 

「そっかー」

 

 芦戸に尋ねられた緑谷は適当に誤魔化して答えたが、飯田が早退した本当の理由を知っていた。

 飯田の兄インゲニウムが(ヴィラン)に敗れ重傷を負ったのだ。

 緑谷は、飯田とインゲニウムの無事を祈っていた。

 

「メダル授与よ!! 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

「私が、メダルを持って来t「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」

 

 せっかくの登場シーンでの台詞がミッドナイトの声にかき消されたためオールマイトが少ししょげて震えていると、ミッドナイトが手を合わせて苦笑いを浮かべながら謝罪する。

 オールマイトは、三位の常闇の首に銅メダルをかける。

 

「常闇少年おめでとう! 強いな君は!」

 

「勿体無いお言葉」

 

「ただ! 相性差を覆すには“個性”に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば取れる択が増すだろう」

 

 オールマイトは、常闇を抱きしめ軽く背中を叩いた。

 すると常闇は、自分へ言い聞かせるように銅メダルを見つめた。

 

「……御意」

 

 オールマイトは、次に轟の首に銅メダルをかけた。

 

「轟少年、おめでとう。最後は全力で戦えたようだな」

 

「…ええ。緑谷戦できっかけを貰って…わからなくなってしまいましたが、相澤に『生きたいように生きろ』と言われて吹っ切れました。ただ…俺だけが吹っ切れてそれで終わりというわけにはいきません。精算しなきゃならないものがまだある」

 

「……以前と全然顔が違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと精算できる」

 

 オールマイトは、轟を抱きしめて背中を叩く。

 そして次は二位のひなたの番となった。

 ひなたが小さく頭を下げると、銀メダルを持ったオールマイトがひなたの前に立つ。

 

「相澤少女、おめでとう! きっと相澤くんも鼻が高いだろうね」

 

「…ありがとうございます」

 

 オールマイトがひなたの首に銀メダルをかけるが、ひなたの顔はどこか暗かった。

 

「最後は結局大技を引っ込めてしまったようだが…何かワケがあるのかい?」

 

 オールマイトが尋ねると、ひなたは唇を噛み締めて拳を握り締める。

 負けた事が悔しいのではなく、試合とは関係ない幻覚に惑わされて本気を出せなかった自分を許せなかったのだ。

 ひなたは、悔し涙を目に溜めて震える声で話し始める。

 

「いえ……ただあの一瞬、昔の自分を思い出してしまったんです。…ホント情けないです。焦ちゃ…轟くんにはあんな偉そうな事言ったくせに、過去のトラウマに邪魔されて動けなくなるなんて……僕、弱いって事がこんなに悔しい事なんだって初めて思い知りました」

 

「……うむ。自分でわかってるなら何も言う事はあるまい! その涙はこれからもっと強くなれる証だ! 君なら次はきっと優勝できる!」

 

「…はい。来年は必ず金メダルを取ってみせます」

 

 オールマイトは、ひなたを励ますとひなたの小さな身体にハグをし背中を軽く叩く。

 ひなたは、悔し涙で潤んだ目を拭ってコクリと頷く。

 そして最後は一位の爆豪の番となった。

 

「さて爆豪少年!! っと、こりゃあんまりだ…見事な伏線回収だな!」

 

 オールマイトは、若干呆れつつ爆豪の猿轡を外した。

 すると爆豪は怒りで顔を歪めながら恨み言を吐いた。

 

「オールマイトォ、こんな一番何の価値もねぇんだよ…世間が認めても俺が認めなきゃ…触角チビに本当の意味で勝てなきゃゴミなんだよ!!」

 

「顔すげぇ…」

 

 爆豪は、ひなたが技を引っ込めた事で収めた勝利に全く納得しておらず、主に自分に屈辱的な勝ち方をさせたひなたに怒りをぶつけていた。

 爆豪の怒りの形相に、流石のオールマイトも引いていた。

 

「うむ! 相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。受け取っとけよ! 傷として! 忘れぬよう!」

 

「要らねぇっつってんだろが!!」

 

 オールマイトは、嫌がる爆豪の鼻に金メダルの紐を引っ掛けそのまま滑らせるように下の歯に紐を引っ掛けた。

 

「さァ!! 今回は彼らだった!! しかし皆さん! この場の誰にもここに立つ可能性はあった!! ご覧頂いた通りだ! 競い! 高め合い! さらに先へと登っていくその姿!! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!! てな感じで最後に一言!! 皆さんご唱和ください!! せーの…」

 

「「「プルス…「お疲れ様でした!!!」」」」

 

 オールマイトが空気を読まず叫ぶとブーイングが巻き起こった。

 

「そこはプルスウルトラでしょ、オールマイト!!」

 

「ああいや…疲れたろうなと思って……」

 

 ミッドナイトがオールマイトに対して言うと、オールマイトは申し訳なさそうにしていた。

 こうして雄英体育祭は幕を閉じた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後のホームルームにて。

 

「おつかれっつう事で、明日明後日は休校だ。プロからの指名等をこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけ」

 

 相澤が言うと、ひなたは暗い表情で頷く。

 緑谷は、空席の飯田の席を見て不安そうな表情を浮かべていた。

 ホームルームが終わり、ひなたが荷物をまとめていると、心操が声をかける。

 

「ひなた」

 

「ひー君…」

 

 ひなたは、心操に声をかけられるとビクッと肩を跳ね上がらせる。

 幻覚で散々貶され、不安を煽られたせいだった。

 

「2位なんて凄いな。おめでとう」

 

「…うん。ありがとう」

 

 心操がそう言うと、ひなたはやはりさっきのは幻覚だったのだと確信し、ホッと胸を撫で下ろす。

 心操は、ずっと元気が無いひなたを心配して話しかける。

 

「大丈夫か? 決勝終わって目が覚めてからずっと元気無かったから…俺で良ければ話聞くよ」

 

「……ありがとう。ひー君は優しいね。でも大丈夫。もう吹っ切れたから。えっと、僕、後でお父さん達と会う約束してるから。じゃあね」

 

「うん」

 

 ひなたはそう言って笑顔を浮かべると手を振って去っていった。

 自分を慰めようとしてくれた友達に対して、当の本人に貶される幻覚を見たなどと言うわけにはいかなかった。

 ひなたは、隠し事をしてしまった事を申し訳なく思いつつも逃げるように走り去った。

 すると、正面から声をかけられる。

 

「ひなた」

 

 低く威圧感があり、しかしひなたにとっては安心感のある声にひなたが見上げると、待ち合わせの約束をしていた場所に相澤と山田がいた。

 

「お父さん、パパ…」

 

『HEYひなた! 準優勝なんてすげーじゃねーか! お前がここまで頑張るとは思わなかったぜ!』

 

 山田が決勝まで行ったひなたを賞賛するが、ひなたの心情を察した相澤が山田を止める。

 準優勝で満足せずに悔しがっているのは向上心の高さからくるものだと思っていたが、『向上心』の一言では済まされないほどひなたは落ち込んでいた。

 するとひなたは、両手でスカートを握りしめながら肩を震わせる。

 

「……ごめんなさい。優勝したら二人とも喜んでくれると思ったから頑張ったけど僕、結局ダメだった。やっと親孝行できると思ってたのに…ごめんなさい…」

 

 ひなたが俯いて震えた声で話し始めると、相澤はひなたに歩み寄って尋ねる。

 

「最後に技を直前で消したのは何か訳があるんだな。言ってみろ」

 

 相澤が尋ねると、ひなたはポロポロと涙を流しながら話し始める。

 

「…かっちゃんに大技を放とうとした時、幻覚が見えたの。…あんな幻覚今まで見た事なかったのに、急に出てきて、お父さん達の幻覚が僕を散々貶してきて…お父さん達があんな事言うわけないのはわかってたのに、僕、どうしたらいいのかわかんなくなって…僕、あんな幻覚に惑わされるほど自分が弱いと思わなかった…! 弱いって事が、こんなにも許せない事なんだって知らなかった…!!」

 

「ひなた…」

 

「うわあああああああああん!!!」

 

 ひなたは、何を言えばいいのかわからなくなり、ひなたの視線に合わせて姿勢を低くしていた山田の胸に顔をうずめて大声で泣き出した。

 山田は、くぐもったひなたの泣き声を聞きながら左手でひなたを抱き寄せて右手でひなたの頭を撫でた。

 

「ひなた、俺達は絶対お前を貶したりしねえ。お前が悪夢に魘されてたらどこにいたって駆けつけて助けてやる。また今回みたいな事になったら、俺達を信じろ」

 

 山田がそう言うと、ひなたは肩を震わせて山田の背中に両手を回してジャケットを掴む。

 目を腫らしたひなたが泣き疲れて眠ると、山田は近くにあったベンチにひなたを寝かせて自分のジャケットを肩に被せる。

 自分ではどうする事も出来なかった事に対して疲れて眠るまで泣き喚いている姿は、まるで幼い子供のようだった。

 どんなに強くなろうと、ひなたがまだ10歳の少女である事には変わりないのだ。

 ひなたが寝息を立てて小さく丸まって眠っていると、山田が相澤に話しかける。

 

「…消太」

 

「ああ。ひなたが今までこんな事を言い出した事は一度もなかった。できれば大技の反動か何かだと思いたいが…今回の大会、裏でクソ共が動いてたのかもな。幻覚を見せる“個性”か……」

 

「考えたくねえが…俺達の娘を泣かせやがったクソ野郎がいるなら、絶対ぶん殴ってやる」

 

 二人は、ひなたが見た幻覚は誰かの“個性”によるものかもしれないと考えた。

 そしてその仮説が正しくて、ひなたを傷つける事が目的で“個性”を使ったのだとしたら絶対に捕まえてやろうと心に決めたのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその晩、都内某所のアパートでは。

 

「あー疲れた。まあでも可愛い妹の顔も見れたし、成果は上々ってとこかな」

 

 プロヒーローが気怠そうにコスチュームを脱ぐと、長い白髪で全体的に女性的な見た目の美青年が現れる。

 青年は、上半身だけコスチュームを脱いで半裸の状態でタバコを吸いながら後ろを振り向く。

 

「いやー、入場審査があるって聞いたから一応身分証パクっといて正解だった。まああんなザル審査、その気になれば僕の“個性”でどうとでもなるんだけどさ」

 

 そう言って青年が振り向いた先には、首を掻っ切られて大量の血を流した男の死体が転がっていた。

 その死体はこの部屋の住人で、青年が着ているコスチュームの持ち主のプロヒーローだった。

 青年は、ポケットからヒーロー免許を取り出して指先でクルクル回す。

 

「さて…この部屋ももう用済みだし、お掃除するとしますか」

 

 そう言って青年は、一斗缶に入った液体を部屋にばら撒く。

 

「101号、お前にはあんな平和ボケした世界は似合わない。お前は僕と同じだ。必ずお前を連れ戻してみせるよ。だってお前は僕にとってたった一人の妹なんだから」

 

 青年は、ピンッと指先でタバコを弾いて床に広がった液体に火をつけ、そのまま窓から飛び出して闇夜へと消えていった。

 

 

 

 

 

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