抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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10が4件、9が22件…だと…!?
感謝感激雨霰。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。



職場体験編
名前をつけてみようの会


 体育祭後、ひなたは体育祭で疲弊し切った身体と精神を連休を利用して目一杯休めていた。

 そして登校日の午前5時、ひなたは布団からモゾモゾと手を出すと携帯のアラームを止めて朝の支度をした。

 ひなたが眠い目をシパシパしながら料理をしていると、相澤がゼリー飲料を飲み干して先に学校に行こうとしていた。

 

「あ! お父さんまたゼリー飲んでる! しかも賞味期限1ヶ月も過ぎてるやつ! ったく…そんな事だろうと思ったよ。ホラ、お弁当作ったからちゃんと食べてね。ご飯残したら許さん」

 

「ああ、ありがとな」

 

(こうやって古いやつ飲んでたら何も言わなくても飯用意してくれるからわざとやってるだけなんだがな)

 

 賞味期限切れのゼリーを飲んでいる相澤を心配してわざわざ昼食を持たせるひなただったが、ひなたの手料理に味を占めた相澤がわざとやっているという事には全く気付いていなかった。

 食事と片付けが終わった後、ひなたと相澤は仏壇の前に正座し、チンとりんを鳴らして手を合わせる。

 仏壇には、ひなたに似た4、5歳くらいの少年の遺影が立てかけられていた。

 

「行ってきます」

 

 ひなたは、少年の遺影に向かってニコッと笑顔で話しかけた。

 相澤が出発した後、ひなたも準備をして出発した。

 すると…

 

「あ、おはよーございま…「あらぁ! ひなたちゃ〜ん! 今日も小動物ねぇ」

 

「ぐえっ!」

 

「体育祭見たわよ、すごかったわねぇ」

 

「そうだ、昆布飴あるけど食べる?」

 

「いただきます」

 

 ひなたは、家から出てきた途端に近所の主婦達に揉みくちゃにされた。

 すると騒ぎを聞きつけて他の住民も出てきて、いつの間にか通学路に人だかりができていた。

 

「おい見ろよ、あれ雄英の…」

 

「マジか!? ねえちょっと君写真撮らせてよ!」

 

「サインくれサイン!」

 

「えっ、ちょっ待っ…ふぎゃ━━━━━!!」

 

 体育祭で準優勝したひなたを一目見ようと大勢の人々が押し寄せ、ひなたは散々揉みくちゃにされいつの間にか持ち上げられて通行人の頭上をゴロゴロ転がっていった。

 

「ああああああ待ってストップ!! ストップ!! ちょっ…濡れる!! パンツ脱げる!!」

 

 命懸けの思いをして登校したひなたは、何とか学校に着いた。

 だが揉みくちゃにされすぎて着いた頃には既にボロボロになっていた。

 外が悪天候だった事もあり、雨に晒され続けてビショビショになっていた。

 

「し、死ぬかと思った…」

 

(下着までビショビショ…こんな事になるならレインコート着ていけばよかった…いや、結局ローリング御神輿に遭うんだから焼石に水だったかも)

 

 散々人の波に揉まれてボロボロになったひなたは、フラフラの状態で校門を潜っていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 連休明け、A組では登校中の話で盛り上がっていた。

 全国民が熱狂する体育祭という事もあり、A組は特に持ち上げられており通学中も通行人に話しかけられていたのだ。

 特に芦戸や切島といったクラスでも明るく積極的な生徒達が集まってワイワイ話していた。

 

「超声かけられたよ、来る途中!!」

 

「私もジロジロ見られて何か恥ずかしかった!」

 

「俺も!」

 

「とおるんは見えないでしょ」

 

 芦戸と葉隠と切島が興奮気味に言うと、ひなたが葉隠にツッコミを入れる。

 

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

 

「ドンマイ」

 

「あはは…」

 

 瀬呂が呆れ顔で言うと、蛙吹が瀬呂を慰めひなたは苦笑いを浮かべた。

 すると、唐突に上鳴が心操に話を振る。

 

「心操は? 何かそういうのあった?」

 

「いや…あ、そういや何か中学生くらいの女の子にサインくれって頼まれたな」

 

「それ凄くね!?」

 

「モテる面してるからなてめーはよぉ!!」

 

「自慢か!? 自慢かよ!? オイコラァ!! 逆剥けろ!!」

 

「やめなバカ二人」

 

 心操が首を手で押さえながら言うと切島が驚き上鳴と峰田が嫉妬を爆発させ、醜い嫉妬を曝け出す二人を耳郎が止めた。

 すると今度は葉隠がひなたに尋ねる。

 

「ひなたちゃんは? ってか今更だけどどしたのその格好!?」

 

「あはは…近所のおばちゃん達に揉みくちゃにされまして…そのままローリング御神輿状態で人混みの上を転がってって気がついたら学校に…」

 

(((しゃんとせい!!)))

 

 ひなたが苦笑いを浮かべながら事情を説明すると、ほとんど全員が心の中で同時にツッコミを入れた。

 ひなたは、雨の中散々揉みくちゃにされたせいで服も髪もグシャグシャに乱れていた。

 通行人のひなたに対する扱い方は、MVPとして讃えるというよりは子猫を可愛がるあまりベタベタ触りまくる感覚に近かった。

 ひなたは小柄なため、一度持ち上げられたらそのまま人の頭上をゴロゴロと転がってしまうのだ(現実的に考えれば何でそうなるのかが謎なのだが)。

 ちなみに爆豪は2日経ってもまだひなたに対して根に持っているらしく、ひなたを睨みながらガチガチとカスタネットのように歯を鳴らしていた。

 それを見たひなたは、スススと心操の後ろに隠れる。

 

(やっぱ2日じゃ収まらなかったか…)

 

 ひなたは、心操の後ろで苦笑いを浮かべながらため息をつく。

 

「たった一日で一気に注目の的になっちまったよ。やっぱ雄英すげぇな…」

 

 するとチャイムが鳴り、それと同時に相澤が教室に入ってくる。

 相澤は、包帯が取れていつもの調子に戻っていた。

 相澤が挨拶をすると、A組の生徒達は元気良く返事を返した。

 

「おはよう」

 

「「「「おはようございます!!」」」」

 

「相澤先生、包帯取れたのね。良かったわ」

 

 蛙吹が言いひなたも安心したような笑みを浮かべると、相澤が少し面倒臭そうに顔を掻く。

 

「婆さんの処置が大袈裟なんだよ。んなもんより今日のヒーロー情報学…少し特別だぞ」

 

 それを聞いて、テストが苦手な切島と上鳴は身構える。

 ひなたも、何があるのかと身構えていた。

 だが…

 

 

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

 

「「「「「胸膨らむやつきたああああ!!」」」」」

 

 相澤の発表を聞いた途端にクラス中のテンションが一気に最高潮になる。

 だが、相澤が睨むとすぐに全員大人しくなった。

 騒ぐと相澤が睨むというのを知っていたひなたは、すぐに黙るクラスメイトを見て苦笑いを浮かべていた。

 全員が黙ると、相澤が話を始める。

 

「というのも先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み即戦力として判断される2、3年から…つまり今回来た『指名』は将来性に対する『興味』に近い。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんて事はよくある」

 

「大人は勝手だ!」

 

 相澤が言うと、プロの世界の厳しさを知った峰田は机をガンっと叩く。

 それを見たひなたは、顔を引き攣らせて笑っていた。

 すると葉隠が相澤に尋ねる。

 

「頂いた指名がそのまま自身へのハードルになるんですね!」

 

「そ。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

 相澤は、葉隠の質問に対して頷き指名の集計結果を表示する。

 

 

 

 相澤 4937

 轟  4123

 爆豪 3556

 常闇 760

 緑谷 311

 飯田 301

 心操 295

 上鳴 272

 八百万 108

 切島 68

 麗日 20

 瀬呂 14

 峰田 1

 

 

 

「例年はもっとバラけるんだが、3人に注目が偏った」

 

 相澤の言う通り、指名の数は体育祭の上位3人に偏っていた。

 

「だ━━━白黒ついた」

 

「見る目ないよね、プロ」

 

「あはは…」

 

 指名のなかった青山が不満そうに言うと、ひなたは苦笑いを浮かべた。

 青山に指名がなかったのはひなたにしてみれば思い当たる節があり、ひなたと協力して騎馬戦で1位を掠め取った後下痢で全てを台無しにしたのと、トーナメントでは芦戸に簡単にやられたせいだった。

 だが、それよりもまさか自分が一番指名を多く貰えるとは思わなかったので嬉しそうにしていた。

 

「体育祭1位3位の轟より少ないじゃん」

 

「表彰台で拘束された奴とかビビるもんな…」

 

「ビビってんじゃねーよプロが!!」

 

 切島と瀬呂が、爆豪が指名の数で体育祭2位のひなた、そして3位の轟にすら負けている事を指摘すると、爆豪が怒鳴り散らした。

 確かに特に麗日戦とひなた戦では見事なヒールっぷりを見せ、最後はひなたが技を引っ込めて一方的に爆破を浴びせて勝つという誰も納得いかない勝ち方をしそのせいで暴れて拘束されたため、プロがドン引きするのも無理はなかった。

 

「やっぱりクソ凄いね轟くん!」

 

「ほとんど親の話題ありきだろ…」

 

 葉隠が轟に対して言うと、轟が謙遜した様子で言った。

 

「わあああ…!」

 

「良かったですわね、緑谷さん」

 

 一方で、ヒーローオタクの緑谷は、指名が貰えたので涙を浮かべながら喜んでおり、あまりの狂喜っぷりに八百万が少し引きつつも声をかけた。

 ひなたは、麗日の指名に気がつくと触角をピンと立てて隣の席の麗日に話しかけた。

 

「あ! お茶子っち指名来てる! 良かったね! そりゃそうだ、カッコよかったもん!」

 

「わあああ」

 

 麗日は、両親の為に死力を振り絞って爆豪に挑んだ甲斐あって指名をもらえていたので大層喜んでいた。

 

「良かったわね飯田ちゃん」

 

「うむ」

 

 そして、騎馬戦では圧倒的なスピードを見せひなた相手にも善戦した飯田も、表情は崩さなかったが内心嬉しそうだった。

 するとひなたの隣の席の麗日がひなたに話しかける。

 

「ひなたちゃん指名の数ブッチギリやね!」

 

「あはは…正直指名貰えるか不安だったんだけど…まあ多分お父さんの名前ありきかな」

 

「それにしたって!!」

 

 元々(ヴィラン)っぽい“個性”を気にしており、(ヴィラン)っぽい必殺技まで見せてしまったひなたは爆豪同様怖がられているのではないかと思っていたが、体育祭での頑張りをきちんと評価してもらえていたのとイレイザーヘッドの娘という事もあってか、指名の数ではダントツ1位だった(2割程は見た目が可愛いからという理由だったりしたが)。

 そして1件だけ指名を貰えた峰田はというと。

 

「よっしゃああああああ!!! 指名!! 指名ェエィイイイイ!!!」

 

「あははは…」

 

 指名を貰えた事に狂喜するあまり人間とは思えない奇声を発していた。

 それを見ていたひなたは、顔を引き攣らせて冷笑を浮かべていた。

 

「指名ィイイイ「静かにしろ。まだ途中」

 

 峰田が奇声を発していると、相澤が“個性“を発動しながら睨みつけて黙らせる。

 するとA組は全員ビクッと肩を跳ね上がらせて黙り込み、静かになったところで相澤が話を始める。

 

「これを踏まえ…指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう。お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りある訓練をしようってこった」

 

「それでヒーロー名か!」

 

「俄然楽しみになってきたァ!」

 

「ね!」

 

 砂藤と麗日が興奮気味に言い、ひなたもようやく本格的な活動ができるとワクワクして触角を振り回していた。

 すると相澤が忠告しようとする。

 

「まぁ仮ではあるが適当なもんは…」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 相澤が忠告しようとすると、聞き覚えのある声が響く。

 ひなたがこの声はもしやと思い入口の方を見ると、ミッドナイトが立っていた。

 

「この時の名が! 世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!」

 

「「「「ミッドナイト!!」」」」

 

 ミッドナイトは、登場と共に妖艶なポーズを取りながら言った。

 するとひなたを含むA組の生徒達が驚く。

 

「まぁそういう事だ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。将来自分がどうなるか名を付けることでイメージが固まりそこに近付いていく。それが『名は体を表す』って事だ…オールマイトとかな」

 

「確かにオールマイトのヒーローネームが『筋骨隆々マン』とかだったら嫌だしね」

 

「ブファ!!」

 

 相澤が言うと、ひなたも腕を組んでうんうんと頷いて言い、隣にいた麗日がひなたの何気ない発言に対して爆笑する。

 相澤は、どこからか取り出したフリップを全員に配る。

 ヒーローネームの考案という、ヒーローを目指す子供なら誰でもひとつやふたつは考えた事がある事にひなたも含め生徒全員のテンションが上っていたが、相澤の言葉に表情を変えて配られたボードを前に真剣に悩み始める。

 ひなたも、マーカーで頭を掻きながらどんなヒーロー名にしようか頭を捻る。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてフリップが配られてから15分後。

 

「じゃ、そろそろできた人から発表してね!」

 

 ミッドナイトは、相澤の隣に立ってA組に発表を促す。

 それを聞いた生徒達は、顔を引き攣らせていた。

 

(発表形式かよ!?)

 

(え〜これはなかなか度胸が…!)

 

(まあ一生使っていく名前なわけだから発表できないくらい恥ずかしい名前じゃダメって事だよね。それにしたって何か公開処刑っぽいけど…)

 

 ミッドナイトの発言にざわつくクラスメイトだったが、ひなたは若干公開処刑のようなやり方に疑問を抱きつつも一生使っていく名前だから胸を張って名乗れるような名前にしなくてはならないのだと考えた。

 トップバッターは青山だった。

 

「行くよ。輝きヒーロー『I can not stop twinkling』(キラキラが止められないよ☆)」

 

「「「短文!!!」」」

 

 青山が自信満々に発表すると、ほぼ全員が同時にツッコミを入れる。

 

「英語か仏語どっちかに統一しろよ…」

 

「『Brilliant』とかのが良くない? 短いし、フランス語だし」

 

「いや、相澤…お前それは…いや、何でもない」

 

「え、何が?」

 

 切島は、青山のヒーローネームがフランス語ではなく英語の短文だったため思わずツッコミを入れる。

 そんなやり取りをしている中、ひなたがポツリと呟くと、ひなたのネーミングに峰田がツッコミを入れかけるが結局指摘せずに終わった。

 単に光を出す“個性”であればネーミング的に悪くないのだが、青山の場合“個性”を使いすぎると腹を下してしまうというデメリットがあるため、『ブリリアント』という音の響き的にネットのおもちゃになる可能性が高く、この場に関してだけ言えば良いネーミングではなかった。

 あちこちからツッコミが飛んでくるが、意外にもミッドナイトからの評価は悪くなかった。

 

「そこはIを取ってCan’tに省略した方が呼びやすい」

 

「それね、マドモアゼル☆」

 

「「「「いいのかよ!」」」」

 

 ミッドナイトが短文をスルーして普通にアドバイスをすると、ひなたを含めたほとんど全員がツッコミを入れる。

 そして次は芦戸の番となった。

 芦戸は、自信満々にフリップを見せてヒーローネームを発表する。

 

「じゃあ次アタシね! リドリーヒーロー『エイリアンクイーン』!!」

 

「2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? 止めときな!!」

 

「ちぇ〜」

 

「あとみなっち、そこはリドリーじゃなくてキャメロンだと思うよ」

 

 芦戸が劇中で撃退される悪役の名前をヒーローネームにしようとすると、ミッドナイトが止めた。

 そして、ほぼ全員が心の中で確かにそれはないとツッコミを入れていた。

 ミッドナイトに止められると、芦戸は渋々席に戻った。

 普通ならああいうのはダメだと反面教師として参考にするのだが、もはや全員それどころではなかった。

 

(((ばかやろー! 最初に変なのきたせいで大喜利っぽい空気になったじゃねーか!!)))

 

 青山と芦戸のせいで大喜利のような空気になってしまい、他の生徒達は発表する勇気が出なかった。

 するとそんな中救世主が現れる。

 

「じゃあ次私いいかしら」

 

「梅雨ちゃん!!」

 

 蛙吹は手を挙げて前に出ると、フリップを全員に見せた。

 フリップには可愛らしいサインが書かれていた。

 

「小学生の時から決めてたの。梅雨入りヒーロー『フロッピー』」

 

「カワイイ!! 親しみやすくて良いわ!! 皆から愛されるお手本のようなネーミングね!」 

 

「「「「フロッピー!! フロッピー!!! フロッピー!!!!」」」」

 

 蛙吹のお手本のようなネーミングにミッドナイトも高評価をし、周りの生徒達も一斉に盛り上がった。

 蛙吹のおかげで場の空気が変わり、そこからはテンポ良く名前が考案されていった。

 そして次は切島が発表した。

 

「んじゃ俺!! 剛健ヒーロー『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』!!」

 

「『赤の狂騒』! これはアレね!? 漢気ヒーロー『紅頼雄斗(クリムゾンライオット)』のリスペクトね!」

 

 切島のヒーロー名は、『紅頼雄斗(クリムゾンライオット)』をリスペクトしたヒーロー名だった。

 ミッドナイトがそれを言うと、切島は上機嫌で答える。

 

「そっす! だいぶ古いけど俺の目指すヒーロー像は(クリムゾン)そのものなんす!」

 

「フフ… 憧れの名を背負うってからには相当の重圧がついてまわるわよ」

 

「覚悟の上っす!!」

 

 ミッドナイトが妖艶な笑みを浮かべながら言うと、切島は力強く頷く。

 切島のネーミングに、ひなたは腕を組んでうんうんと頷いていた。

 

(クリムゾン)かぁ、僕も好きなんだよな。何かそういうの良いよね」

 

「うあ〜、考えてねんだよなまだ俺」

 

 上鳴が考え悩んでいると、耳郎が耳朶でマーカーを回しながら上鳴の肩を叩く。

 

「つけたげよっか、『ジャミングウェイ』」

 

「『武器よさらば』とかのヘミングウェイもじりか! インテリっぽい!」

 

「〜〜〜いやっ、折角強いのにブフッ! すぐ…ウェイってなるじゃん…?」

 

 上鳴は耳郎のネーミングを気に入っていたが、耳郎は上鳴のアホ状態を思い出して笑いを堪えていた。

 その様子を見たひなたは、そんなに面白いのかと思い「あはは…」と笑っていた。

 だが、耳郎本人のヒーローネームは“個性”名から取ったヒアヒーロー『イヤホン=ジャック』という無難なものだった。

 

「耳郎お前さぁ! ふざけんなよ!」

 

 上鳴が文句を言うと、ひなたは再び苦笑いを浮かべる。

 その後も次々とヒーローネームが考案された。

 障子は触手ヒーロー『テンタコル』、瀬呂はテーピンヒーロー『セロファン』、尾白は武闘ヒーロー『テイルマン』、砂藤は甘味ヒーロー『シュガーマン』、芦戸は『ピンキー』、そして上鳴は迷った挙句スタンガンヒーロー『チャージズマ』、葉隠はステルスヒーロー『インビジブルガール』に決まった。

 

「まあ言って僕もまだ決まってないんだけどさ…」

 

 ひなたがマーカーで頭を掻きながら考えていると、峰田が声をかけてくる。

 

「なあ相澤ァ…まだ決まってないならつけてやろうか?」

 

「んふぇ?」

 

「永遠のゼ「ふざけんのもいい加減にしろ」

 

 峰田がゲスい笑みを浮かべながら代わりにひなたのヒーローネームを提案しようとすると、いきなり峰田が捕縛武器で拘束されて天井から吊り下げられる。

 峰田の手元からはフリップが落ち、フリップには『絶壁ヒーロー 永遠の0』*1と書かれていた。

 相澤は“個性”を発動して髪をざわつかせながら睨みつけ、フリップを見たひなたは相澤に対してサムズアップをした。

 

「うわぁ…」

 

 娘のコンプレックスを弄られた事で相澤の目つきはいつにも増して鋭くなっており、ほとんど全員がその視線を見て戦慄していた。

 そしてひなたはそんな相澤に対してニコニコと笑みを浮かべながらサムズアップをしており、相澤親子の黒い部分を目の当たりにした心操は、ヒーローネームを書く手を止めてドン引きしていた。

 

「良いじゃん良いよ、さぁどんどん行きましょー!!」

 

 ミッドナイトが言うと、次は八百万の番になった。

 八百万は、綺麗な字で書かれたフリップを見せる。

 

「万物ヒーロー『クリエティ』。この名に恥じぬ行いを」

 

「クリエイティヴ!!」

 

 そして次は轟の番になった。

 轟は、控えめにヒーローネームが書かれたフリップを見せる。

 

「『ショート』」

 

「名前!? いいの!?」

 

「ああ」

 

 常闇は漆黒ヒーロー『ツクヨミ』、峰田はモギタテヒーロー『グレープジュース』に決まった。

 そして心操はというと。

 

「『ヒトシ』」

 

「あなたも名前!?」

 

 轟に続けて心操も本名だったため、ミッドナイトが驚く。

 

「はい。俺は雄英に入ってからずっとおんぶに抱っこだったんで…自分で自分に胸を張れる時が来たら、その時ちゃんとしたヒーロー名を発表します」

 

 心操は、まだ自分がヒーローを名乗れる器ではないのを自覚していたため、自分の力でヒーローになるまではヒーロー名を自分の中で取っておく事にしたのだ。

 

「まあでもええんやない? 心操くん、プレゼントマイクに『スーパー人使くん』言われてたもんね!」

 

「やめて恥ずい」

 

 麗日が体育祭の時の話を持ち出すと、心操は恥ずかしがる。

 そして爆豪はというと…

 

「『爆殺王』」

 

「そういうのはやめた方がいいわね」

 

「何でだよ!!」

 

 爆豪の見るからに(ヴィラン)っぽいヒーローネームに、クラスメイト達はドン引きする。

 問題ありすぎなヒーローネームを発表する爆豪を当然の如くミッドナイトが止めると、爆豪が荒れた。

 

「『爆発さん太郎』は!?」

 

「黙ってろクソ髪!!」

 

「あ、じゃあ『爆弾魔(ボマー)』は!?」

 

「ハンタネタに走んなクソ触角!!」

 

 切島とひなたがふざけにふざけまくったヒーローネームを代わりに提案すると、爆豪はさらにキレ散らかした。

 すると今度は麗日が立ち上がる。

 

「じゃ、私も…考えてありました。『ウラビティ』」

 

「シャレてる!」

 

 麗日のヒーローネームは、重力を表す英単語の『グラビティ』から重力加速度を表す『G』を取った洒落たネーミングで、ミッドナイトやA組の生徒達からも好評だった。

 こうして、ひなた、飯田、爆豪、緑谷以外の全員のヒーロー名が決まった。

 

「思ったよりずっとスムーズ! 残ってるのは再考の爆豪くんと…相澤さん、飯田くん、そして緑谷くんね」

 

 飯田は、最初は兄から受け継いだヒーローネーム『インゲニウム』にするつもりだったが、迷った挙句『天哉』にした。

 自分はまだ到底兄のヒーローネームを受け継ぐ資格のある器ではないと自覚していたからだ。

 

「あなたも名前ね」

 

「あはは…」

 

 轟や心操に続けて自分の本名をヒーローネームにする飯田に、ひなたも内心それでいいんかいとツッコみながら笑っていた。

 すると次は緑谷が前に出てヒーローネームを発表した。

 それを見たクラスメイト達は、思わず目を見開く。

 

「!?」

 

「えぇ緑谷、それでいいのか!?」

 

「うん。今まで好きじゃなかった。けど、ある人に意味を変えられて…僕には結構な衝撃で嬉しかったんだ…これが僕のヒーロー名です」

 

 緑谷のフリップには、少し自信なさげな文字で『デク』と書かれていた。

 緑谷は、幼い頃から爆豪に『デク』とあだ名をつけられていじめられていたが、麗日に『頑張れって感じがする』と言われたのが嬉しかったのだ。

 ひなたは、顳顬をマーカーで掻きながら考えていた。

 

(うーん…一生背負っていく名前となると、こうも思い浮かばないもんなんだなぁ。小学生の頃はポンポン出てきたもんなんだけどな)

 

 ひなたは、小学生の頃からヒーローネームをいくつも考えていた。

 だが、いざこうして正式に自分のヒーローネームを決めようとなるとペンが全く進まなかった。

 ひなたが小学生の頃から温めていたヒーローネームはどれもひなたの憧れであるイレイザーヘッドやプレゼントマイクをもじったもので、憧れるヒーローの名前をリスペクトしたヒーローネームを考案した切島を見てひなたも自分もそうしようと一度は考えていた。

 だが兄であるインゲニウムを尊敬している飯田やオールマイトの熱狂的なファンの緑谷が自分の憧れるヒーローの名前をもじったヒーローネームにしなかったのを見て、自分が果たして憧れている二人の名前を背負えるだけの器なのだろうかと考え直した。

 

 まずヒーローネームを考えるにあたってひなたは、ガール、レディ、マダム、Ms.などといった名前は避けようと考えた。

 ガールは学生の頃ならまだ通用するが例えば30半ばあたりにもなってガールがついたヒーローネームは流石に痛すぎて名乗れないのではないか(リカバリーガールのような愛嬌のある老け方をすればネタとして通用するが)、そして逆にマダムやマムなどといったヒーローネームは30超えたあたりであれば通用するが学生の頃にヒーローネームとして使うのは流石に痛いと考えた。

 年齢や未婚・既婚関係なく使える『レディ』や『Ms』も、Mt.レディやMs.ジョークのような美人系ヒーローであれば全く問題ないのだが、ひなたの場合は自身の中性的な見た目のせいで名前負けするのが目に見えているので避けるべきと考えた。

 

(あーダメだ思い浮かばない。こういう時パパがいてくれればなぁ…)

 

 相澤のヒーローネームを考えたのは山田なので、こういう時に山田がいてくれたらどんなに良かったかとひなたは思っていた。

 ひなたが頭を抱えて悩んでいると、相澤がひなたに声をかける。

 

「まだ考えてなかったのか」

 

「おと…先生」

 

「まあマイクに決めてもらった俺が言えた事じゃないが…お前、自分で必殺技の名前考えたりしてるだろ。ああいう感じで決めればいいんだよ」

 

「そう言われましても……」

 

 ひなたは、相澤に言われてヒーローネームを絞り出そうとする。

 すると、隣に座っていた麗日がひなたに話しかける。

 

「ひなたちゃん、最後の大技何か技名叫んどったよね? あれとかどうやって決めとるん?」

 

「ああ、えっと…あれは音楽用語とかを組み合わせて……あ、それだ!」

 

 ひなたがそこまで言いかけると、ひなたは突然閃いたように目を見開く。

 そして急いでフリップに書き殴り、教壇へと向かっていった。

 

「相澤さん、そろそろいけるかしら?」

 

「はい!」

 

 ミッドナイトが訪ねると、ひなたは元気よく返事をする。

 するとフリップに別の名前を書いている爆豪以外の視線がひなたに集まる。

 ひなたは、フリップに書いたヒーロー名を見せて発表する。

 ひなたのフリップには、筆記体で『Cresc.molto』と書かれていた。

 

「共鳴ヒーロー『クレシェンド・モルト』…これが僕のヒーローネーム…です!」

 

「サインオシャレ! これはアレ? 『急激に強く』って意味の音楽用語の?」

 

「はい! 僕、実は楽器が趣味で…それで技名とか音楽用語から引っ張ってきたりとかしてるんです。だからヒーロー名も音楽用語縛りで決めようと思ってて…それで僕の尊敬するヒーローの名前と共通点があって、意味的にも何か僕の“個性”に合ってるなって思ったんでこの名前にしました!」

 

 ひなたは、自信満々に自分のヒーローネームを公開した。

 ひなた自身、実は楽器の演奏が趣味で、音楽用語から引っ張ってきた技名もあった。

 ひなたが自信を持って言うと、ミッドナイトが燥ぐ。

 

「ステキ! ちゃんと考えてて偉いじゃない! ちなみに尊敬してるヒーローっていうのは相澤くん? それともマイク?」

 

「両方です!」

 

 ミッドナイトが尋ねると、ひなたは触角をピンと立てて答えた。

 一部の生徒達は、ひなたが『両方』と言ったのと同時に相澤が照れ隠しなのか頬を掻いていたのを見逃さなかった。

 そして最後は書き直した爆豪の番になる。

 

「じゃ、最後は爆豪くんね。いける?」

 

「『爆殺卿』!!!」

 

「違うそうじゃない」

 

 爆豪のネーミングに、再びミッドナイトがツッコミを入れる。

 結局爆豪が(ヴィラン)名としか思えない名前ばかり挙げたせいで、ヒーロー名決めはなかなか終わらなかった。

 

 

 

 

 

*1
元ネタ:暗殺教室




計算したら原作の倍近く指名来ててビックリ。
まあそこは、本作では指名できるのが3人までだっていうのと、原作よりもヒーロー事務所が多いっていうのと、B組が最終種目に進出しなかった分A組に注目が偏ったって事で。

ひーちゃんのヒーロー名は、『二文字目がレ』、『発音が8文字』という相澤先生とマイク先生のヒーロー名の共通点をそのまま引き継ぐ形で決めました。
峰田の指名先は次回明かされます。

ちなみにA組のヒーロー名

相澤…共鳴ヒーロー『Cresc.molto』
青山…輝きヒーロー『Can't stop twinkling.』
芦戸…『Pinky』
蛙吹…梅雨入りヒーロー『FROPPY』
飯田…『天哉』
麗日…『ウラビティ』
尾白…武闘ヒーロー『テイルマン』
上鳴…スタンガンヒーロー『チャージズマ』
切島…剛健ヒーロー『烈怒頼雄斗』
砂藤…甘味ヒーロー『シュガーマン』
障子…触手ヒーロー『テンタコル』
耳郎…ヒアヒーロー『イヤホン=ジャック』
心操…『ヒトシ』(仮名)
瀬呂…テーピンヒーロー『セロファン』
常闇…漆黒ヒーロー『ツクヨミ』
轟…『ショート』
葉隠…ステルスヒーロー『インビジブルガール』
爆豪…不明(仮名:バクゴー)
緑谷…『デク』
峰田…もぎたてヒーロー『GRAPE JUICE』
八百万…万物ヒーロー『クリエティ』
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