感謝感激雨霰。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。
ヒーロー名決めの後は、職場体験の行き先を決める事になった。
相澤は、指名が来た生徒には指名リストを、指名が来なかった生徒には受け入れ可の事務所40件がリストアップされたプリントを渡した。
「職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリスト渡すから、その中から自分で選択しろ。指名の無かった者は、あらかじめこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中から選んでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」
各自、配られたプリントに目を通す。
「俺ァ都市部での対・凶悪犯罪!」
「私は水難に関わる所がいいわ。あるかしら」
切島と蛙吹は、既にある程度絞っている様子だった。
ひなたも、それを見て早く自分の行き先を決めなければと考えていた。
「今週までに提出しろよ」
「あと二日しかねーの!?」
相澤がさらっと言うと、瀬呂がギョッとした。
「うわ…多いな」
ひなたは、受け取ったリストの重さに思わずウンザリする。
それもそのはず、ひなた宛ての指名は何と約5000件もあったのだ。
ひなたが今週中にこの中から選ばなければならないのかと憂鬱な気分になっていると、耳郎が話しかける。
「読むの手伝おうか? っていうかぶっちゃけ見たいし」
「いいの!? やった! ありがときょーち…」
「ウワァアアアアアアアア!!!」
ひなたと耳郎が話していると、いきなり後ろから峰田の悲鳴が聞こえてくる。
「チクショウ…何で…何でよりにもよってこの事務所からの指名なんだよチクショウ!!」
峰田は、血涙を流しながらガンッと自分の机を叩いていた。
ひなたが峰田宛ての指名の紙を覗いてみると、一件だけオネエヒーロー『プリンセスプリティハニー』事務所からの指名が来ていた。
ヒーローネームだけ見れば可愛らしいが、実物は筋骨隆々で強面の大男で、可愛い男子が大好きでサイドキックに自分を『姫』と呼ばせ、さらには気に入った男子ならたとえ
「あー…うん。良かったね」
「指名貰えただけ有難いでしょ」
峰田の指名を見たひなたと心操は、フォローの言葉をかける。
すると峰田が二人に対する嫉妬を爆発させて八つ当たりし始める。
「相澤ァ!! 心操ォ!! おめーら何他人事のようにほざいてんだコラァ!! 特に心操!! おめー宛ての指名に関しては6割方女ヒーローじゃねーか!! いーよなおめーはモテるツラしてっからよぉ!! 行き先持て余してんなら分けろ!! Mt.レディからの指名をオイラに寄越せ!!」
峰田は、約180件もの女性ヒーローの事務所から指名を貰っている心操に当たり散らした。
確かにヒーローが女性比率の少ない職業である事を考えれば、6割というのは極めて女性比率が高いといえる。
女性ヒーローからの指名がここまで多かったのは彼自身のルックスが主な理由であったが、血生臭い戦闘が苦手な女性ヒーローが相手を傷付けずに無力化できる心操の“個性”を欲しがったというのもあった。
だが心操からしてみれば、自分のせいではない事でキレられているので『理不尽』の三文字がピッタリな状況に戸惑っていた。
「いや、あの…」
「指名が来た奴は指名を頂いた事務所の中から選べと言ったろ」
峰田が心操に詰め寄って喚き散らしていると、相澤が心操に助け舟を出す。
相澤は、威圧するような口調で峰田に言った。
「そしてお前に来た指名はプリンセスプリティハニー事務所からの1件だけだ。わかるな? お前はそこに行くしかないんだよ」
「そんな!! せ、先生!! 先生様!! お願いします、どうかオイラにも選択の余地を…「俺の一つ上の先輩でミッドナイト先輩の同期だが、あの人は教育熱心で面倒見がいい。あの人の指導は地ご…多少キツい部分があるが学べる事が多いのは確かだ。この機会にヒーロー云々の前に人としての在り方を手取り足取り教わってこい」
峰田が土下座をして40件の事務所リストから選ばせるよう懇願したが、相澤は峰田の要望を却下した。
相澤が言いかけた『地獄』の一言に、峰田はさらに絶望する。
そして相澤は去り際に追い討ちの一言を言い放つ。
「淑女の事務所にお邪魔するんだ、くれぐれも失礼のないようにな」
「嫌だあああああああああああああ!!!」
相澤がトドメを刺すかのように言うと、峰田は絶望のあまり膝をついて血涙を流しながら喚き散らした。
ひなたは、絶望の表情で喚き散らす峰田を見て顔を引き攣らせて笑っていた。
「あははは…」
すると、ひなたのリストを読むのを手伝っていた耳郎がギョッとして目を見開く。
「うわすごっ!? オールマイト以外のトップヒーローほぼ全員から指名貰ってんじゃん!!」
「ホントだ!! ひなたちゃん凄いねぇ!」
「えへへへ…」
耳郎に続けて葉隠もひなたのリストを見て驚いていると、ひなたは表情をふにゃりとさせて喜んだ。
ひなたは、No.2の『エンデヴァー』やNo.3の『ホークス』、『ベストジーニスト』、『エッジショット』、『ミルコ』などの実力派ヒーローから指名を受けていた。
同じ超音波を放つ“個性”の『ギャングオルカ』やそのライバルの『シシド』、相澤と交流がありひなたとも面識がある『プッシーキャッツ』や『ファットガム』や『Ms.ジョーク』、企業の広告塔として活動している『ウワバミ』、女好きで有名な魔法ヒーロー『マジェスティック』などからも指名が来ていた。
「それでひなたちゃんはどこにするの!?」
「えっと、僕は……ここにしようと思ってる」
葉隠が尋ねると、ひなたは自分のリストを指差した。
ひなたが指差した名前を見て、二人は思わず目を見開いた。
◇◇◇
そして職場体験当日。
「心操ォオオ!! キサマどういうつもりだ!?」
峰田は、血眼で心操を指差して言った。
何故かというと、心操が相澤の隣に立っていたからだ。
それもそのはず、心操は300件近く来ていた指名を全て蹴ってイレイザーヘッドの元で職場体験をする事にしたのだ。
「イレイザーヘッドの元で職場体験がしたくて必死に頼み込んだら特例で許可が降りたんだよ」
「何じゃそりゃあ!! 何でオイラがダメでお前がオッケーなんだよ!? こちとらデコから血ィ出る勢いで土下座したのに許可降りなかったんだぞ!? そうかわかった、さては賄賂だな!?」
心操が峰田に事情を説明すると、峰田が怒り狂う。
プリンセスプリティハニーの元で職場体験をするのが死ぬほど嫌で指名が来なかった生徒用のリストの中から選べるよう相澤に土下座までして直談判したにもかかわらず一蹴され、自分には来なかった女性ヒーローからの指名を蹴った心操の希望が通ったのが納得いかなかったからだ。
峰田が納得いかないあまり賄賂を疑い始めると、ひなたが間に入って事情を説明する。
「色々と厳しい条件クリアしないとダメらしいよ。例えば知人からの紹介とか、体育祭での一定以上の成績とか…」
峰田は賄賂を疑っていたが当然そんなわけはなく、ひなたの言う通り指名を受けたヒーロー事務所以外のヒーローの元に職場体験に行くのには主に5つほど条件があった。
一つ目は体育祭での一定以上の成績(具体的にはトップ10圏内)、二つ目は希望のヒーローの知人からの紹介、三つ目は志望動機の提出、四つ目は指名数が1000件未満である事、そして五つ目は希望のヒーローと校長の許可だった。
知人からの紹介についてはひなたとプレゼントマイクからの紹介という形で条件を満たし、その他にも普段の成績や希望のヒーローの都合など厳しい条件があったのだが心操の場合は全ての条件を満たしていた。
さらに相澤が心操を指名しなかったのも教職員だからという正当な理由があるため、その点を考慮し校長が特例で許可を出したのだ。
(でも良かったぁ、ひー君が女性ヒーローのところ選ばなくて。……あれっ? 僕、何で今『ひー君が女性ヒーローのところ選ばなくて良かった』って思ったんだろ…)
ひなたは、心操が女性ヒーローからの指名を蹴ったのを喜んでいる自分がいる事に気がついた。
心操が尊敬するヒーローのところに職場体験に行くなら素直に喜ぶべきなのだろうが、不純な動機で彼を指名したプロヒーローのところに行ってしまうのだけはどうしても不愉快だったので、その可能性が潰えた事に安心していた。
「ひー君いいなぁ、お父さんの元で職場体験なんて。来週話聞かせてね!」
「うん。ひなたも頑張れよ」
「おいそこぉ!! 人の気も知らねーで何イチャイチャしてんだ!!」
ひなたと心操が仲良さそうに話していると、峰田が血涙を流して二人を指差す。
相澤は、嫉妬に狂う峰田を無視して全員に話し始める。
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ、落としたりするなよ」
「はーい!」
「伸ばすな『はい』だ芦戸。くれぐれも失礼のないように! じゃあ行け」
相澤が言うと、生徒達は一斉に解散した。
ひなたは、何か抱え込んでいる様子の飯田に声をかける。
「天ちゃん…大丈夫? 元気ないみたいだけど…」
「いや、俺は大丈夫だ。心配かけたならすまない」
飯田は、ひなたの前では何でもないように振る舞うが、ひなたは飯田の中で何かが軋む音を聞き逃さなかった。
そしてふとある事を思い出し、ひなたは飯田に尋ねる。
「天ちゃんの職場体験先って保須だよね?」
ひなたが言うと、飯田はピクリと反応する。
ヒーロー殺しと呼ばれる
「その…さ、だから何って言うわけじゃないけど、何かあったら言ってね。もし僕じゃアレならほら、他に相談できる人はいるわけだし…」
ひなたがそう言った直後、緑谷と麗日が飯田を心配して駆け寄ってくる。
「飯田くん!」
「ね?」
「…ああ、ありがとう」
ひなたがニコッと笑みを浮かべて言うと、飯田も笑顔を浮かべて自分を心配してくれたひなたに礼を言った。
そしてひなたは、同じ職場体験先のクラスメイトの元へ走っていく。
「焦ちゃん! 一緒に行こ」
「おう」
ひなたがブンブン手を振りながら後ろから声をかけると、轟が振り向いて返事をする。
後ろの方から聞こえる嫉妬に狂った葡萄の呻き声を無視して、二人は一緒に電車のホームへ歩いていった。
電車で隣同士の席に座ると、ひなたは轟に尋ねる。
「それにしても意外だね。焦ちゃんがエンデヴァー事務所選ぶなんてさ。僕、てっきり絶対行かないものかと…」
「………」
「あ! ごめん、今のは流石に無神経すぎたわ」
「いや、いいよ。お前の言う通り、お前や緑谷に救けてもらう前の俺だったら親父の事務所なんて絶対選ばなかっただろうからな」
ひなたが慌てて口を塞いで謝ると、轟は指名先を選んでいた時のひなたとクラスメイトのやり取りを思い出した。
◇◇◇
「僕、エンデヴァーのとこに行くよ」
ひなたがそう言うと、リストを読むのを手伝っていた耳郎と葉隠が驚く。
「へー、意外。ひなたって相澤先生みたいなヒーロー目指してるから、てっきり似た感じのヒーローのとこ行くと思ってた」
耳郎が言うと、ひなたは頭を掻きながら答える。
「うーん…そうなんだけどね。エンデヴァーって万年二番ってイメージあるけど、逆に言えば毎回二番を維持し続けてるって事じゃん。ほとんどのヒーローはさ、何だろう…オールマイトを神格化してるっていうかさ、絶対敵わないと思ってるから張り合ったりしなくて…本気でオールマイトを越えようと努力してるのって多分プロの中ではエンデヴァーだけだと思うんだよね。だから他の事務所ではできないような経験とか積めるんじゃないかって思って」
ひなたがそう答えるのを後ろで聞いていた轟は、僅かに目を見開いていた。
◇◇◇
「俺もお前と同じ理由だ。あいつはお母さんに酷い事をしたクズ野郎だが、オールマイトを越えようとする執念とヒーローとしての実力は本物だ。最高のヒーローを目指すなら、プロとしてのエンデヴァーを間近で見て学ぶべきだと思った」
「そっか!」
轟が言うと、ひなたは触角をピンと立てて返事をする。
事務所の最寄り駅に到着し、二人で話しながら改札を抜けようとすると正面に人影が現れる。
その人物を見て轟は若干ウンザリした表情を浮かべ、ひなたも苦笑いを浮かべていた。
するとエンデヴァーは、轟に歩み寄って声をかけた。
「…よく来た、焦凍。お前が俺のところに来るとは思わなかったぞ」
「言っておくが、俺はまだあんたを許したわけじゃない。最高のヒーローになる為に、プロヒーローとしてのあんたに教えを乞いに来た。あと最寄り駅まで迎えに来んのやめろ。友達が一緒に来てんだから」
「しょ…焦凍!?」
(あれっ…? エンデヴァー、この前見たのと何か雰囲気が違う気が…)
エンデヴァーが轟を迎えに来ると轟が鬱陶しそうな表情をしながら言い、エンデヴァーは息子に振られてショックを受けていた。
二人の間に流れる気まずい空気が伝染するかのようにひなたも気まずくなり、とりあえず通行の邪魔にならないところに立って愛想笑いをしておいた。
するとエンデヴァーがひなたに気付き、ひなたに歩み寄って声をかける。
「相澤ひなた君。ようこそ、エンデヴァー事務所へ。君のような逸材が来てくれて喜ばしく思う」
エンデヴァーは歓迎の言葉をかけるが、表情を一切変えておらずいつもの厳格な雰囲気のままだった。
そのせいか余計に緊張してしまったのか、ひなたは全身に力を入れてガチガチに固まった状態で挨拶をする。
「あっ、えっと…ごっ、ご指名頂きありがとうございます! 一週間よろしくお願いしまてゅ!!」
(か、噛んじゃったんだけど…死ぬほど恥ずかしい)
緊張のあまり盛大に噛んでしまったひなたは、羞恥のあまり耳まで真っ赤にしてプルプル震えていた。
そんなひなたを他所に、エンデヴァーは表情を一切変えずに駅の出口の方を向いた。
「二人共、行くぞ」
「あ、ハイ…」
盛大に噛んだ事に対してノーコメントノーリアクションだったため逆に調子を狂わされ、ひなたはキョトンとした様子でコスチュームの入ったケースを抱えてエンデヴァーと轟についていった。
三人で事務所へ向かっていた、その時だった。
「キャー!! 誰か捕まえて!! ひったくりよ!!」
女性の声が響き渡り、エンデヴァーが一足先に気がつき、ひなたと轟も同時に反応する。
するとその直後、エンデヴァーが身体から炎を放出して飛び出していった。
ひなたがその場で立ち尽くしている間に、エンデヴァーが瞬く間にひったくり犯を捕らえてしまった。
ひったくり犯の襟を掴んで取り返した鞄を被害者の女性に返すエンデヴァーを見て、ひなたはポカンとしていた。
(え……? 何もせずに事件解決しちゃったんだけど…え? もしかしてこれ、もう体験始まってますよパターン…?)
突っ立っている間にあっさり事件が解決してしまったため、二人は呆然としていた。
その後ひったくり犯を警察に引き渡し、警察がひったくり犯を拘束して連行している間にエンデヴァーが二人に話しかける。
「焦凍、相澤。今日から一週間、プロヒーローとしての活動を見せてやる。だが今のを見てわかったと思うが、お前達の出る幕は無い。学びたければ後ろで見ていろ」
(えっと…言い方アレだけど、要は振り落とされずについて来いって言ってくれてんのかな?)
「…はい!」
「おう」
エンデヴァーが二人に対して言うと、ひなたはエンデヴァーの言葉の意味を自分なりに解釈して返事をし、轟も返事をした。
◇◇◇
一方で、No.4ヒーローのベストジーニストの事務所を選んだ爆豪はというと。
「正直、君の事は好きじゃない」
「は?」
出会い頭にいきなり心外な事を言われた爆豪は、思わず間の抜けた声を漏らす。
ベストジーニストは、櫛で自分の髪を梳かしながら爆豪に品定めするような目を向ける。
「
「指名入れたのあんただろが…」
ベストジーニストが爆豪のみみっちい本性を見透かしたような発言をすると、イラっときた爆豪が反論しようとする。
するとベストジーニストは、爆豪をビシッと指差す。
「そう! 最近は『良い子』な志望者ばかりでねえ。久しぶりにグッと来たよ。君のように凶暴な人間を“矯正”するのが、私のヒーロー活動。だが、私が君を指名した理由はそれだけじゃない」
「!」
「君のクラスメイトの相澤ひなた、あの子はウチの業界じゃ注目株なんだ。だからこそ、彼女を破った君に興味が湧いた。君を指名したのは、それだけ君の持つ戦闘技術に可能性を感じたからだ」
ベストジーニストは、謎の決めポーズをしながら爆豪に告げた。
技巧派ヒーローであるベストジーニストは、イレイザーヘッドの娘で稀代の天才と囁かれているひなたの事も当然知っていた。
そして、どんなに強い“個性”を持っていようと技術が無ければひなたと同じ土俵に立つ事すらできないという事も十二分にわかっていた。
だからこそ、類稀なる戦闘技術でひなたを追い詰めた爆豪に興味が湧いたのだ。
爆豪は、ひなたを基準にされた事にイラつきつつも、直前までのベストジーニストへの認識を改める。
「『完全無欠の一位』だったな。この機会に教えてやるよ。何が人をヒーローたらしめるのか」
◇◇◇
その頃、轟とひなたはというと。
二人はエンデヴァーに連れられて事務所へ向かったが、向かう途中に発生した事件を解決していたため到着したのは夕方だった。
二人が事務所に到着すると、エンデヴァーのサイドキック達が出迎えてきた。
「ようこそエンデヴァー事務所へ!」
「「「俺ら炎のサイドキッカーズ!」」」
エンデヴァーのサイドキック『バーニン』が二人を出迎え、それに続けて他のサイドキック達も息を合わせて言った。
炎のサイドキッカーズが挨拶をしてくると、ひなたは熱気に圧されてわなわな震えていた。
(うおおすごい熱気…)
「一週間よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!!」
轟が挨拶をすると、ひなたも緊張でガチガチになりながらも挨拶をする。
だが今度は緊張するあまり思ったより大きな声が出てしまったのと声が裏返ってしまったのとで恥ずかしくなり顔を赤くして縮こまってしまった。
するとサイドキックの一人『キドウ』がひなたに声をかける。
「イレイザーヘッドの娘さんのひなたちゃんだったね。この機会にプロの仕事をちゃんと勉強して帰りなよ! エンデヴァーが焦凍くん以外に興味持つ事なんてそうそう無いから!」
「…はい!」
キドウが言うと、ひなたは目をパチクリさせつつもピシッと敬礼して元気よく返事をした。
「それじゃあ二人ともコスチュームに着替えて! 着替え終わったら早速仕事の説明をするよ!」
バーニンが言うと、二人は早速コスチュームに着替えた。
ひなたのコスチュームが戦闘訓練の時とほとんど変わっていないのと対照的に轟は戦闘訓練の時と比べて大分様変わりしており、一番の変化は左半身を覆っていた氷塊が無くなっている事だった。
体育祭の前までは右の氷の力だけでトップヒーローになるつもりでいたので左を封印するという意味で左半身を氷で覆っていたが、緑谷やひなたに発破をかけられた事で左側の炎も自分の力だと受け入れ封印するのをやめたのだ。
二人が着替え終わると、炎のサイドキッカーズは早速活動の説明をする。
「それじゃあ、ヒーロー活動について説明するよ。って言ってもひなたちゃんはイレイザーヘッドに教えてもらってるかもしれないけど…ヒーローは一応公務員だけど、一般的な公務員とは根本的な所が異なるんだ。ヒーローは通常
「ふむふむ」
(やっぱりNo.2ってすごいんだなぁ…!)
バーニンが説明すると、ひなたはどこからか取り出したメモに仕事内容をメモしていく。
ひなたの父親であり師でもあるイレイザーヘッドの基本方針は対
ひなた自身も救助向きの“個性”ではないため
そのため、
「事件発生時には警察から地区ごとに一括で応援要請が来るんだ。そして逮捕協力や人命救助等の貢献度を報告。そして専門機関の調査を経て給料が振り込まれる!」
「歩合制なんですね」
「ああ!」
バーニンが説明をすると、ひなたが頷いて感想を言った。
するとエンデヴァーが事務所の扉を開けながら締め括る。
「説明は以上だ。これからパトロールに向かう。ついてこい」
(説明が終わるタイミングちゃんとわかってる!! さすがNo.2…!)
ひなたは、エンデヴァーがバーニンの説明が終わるタイミングをわかっていて締め括った事に驚く。
パトロールをしに外に出ると、既に日は落ちて外はすっかり暗くなっていた。
すると、パトロールに出て早々エンデヴァーが炎を出して爆速で飛び出す。
「は!? え、ちょ……!」
エンデヴァーがいきなり飛び出したので、ひなたは大きく目を見開く。
轟がエンデヴァーを追って走り出すと、ひなたも慌てて飛び出す。
ひなたと轟は高校生の中ではかなり足の速い部類に入るが、それでも炎を使って爆速で移動しているエンデヴァーには到底追いつけなかった。
(うおおおおおおおおおお!!!)
ひなたは、足元に氷を出して爆走している轟と全速力で並走した。
二人がエンデヴァーに追いついた頃には、エンデヴァーはブレーキが故障して暴走した車に轢かれそうになっていた通行人を助け出していた。
「クソ……」
「遅い。本番だったら『間に合わなかった』じゃ済まされないぞ。常に的確に状況を把握し迅速に動け」
「は…はひ……!」
エンデヴァーが二人にアドバイスをすると、ひなたはゼエゼエと息切れしながら返事をした。
その後も迅速に事件を解決していくエンデヴァーを二人が全速力で追いかけ、プロとしてのエンデヴァーの活躍を見に行く、という繰り返しだった。
遅れればプロの仕事を間近で見るまでもなく事件が解決してしまうため、二人ともエンデヴァーの仕事を見るだけで精一杯だった。
1日目のパトロールを終えた頃には、ひなたは疲れ切ってへばっていた。
「はっはっはっ!! お疲れさん!! その様子じゃさてはずっと振り切られっぱなしだったね!?」
ひなたがへばっていると、バーニンが笑いながら声をかける。
「はぁっ、はぁっ…実戦で学ぼうなんて甘かった…! お父さんとの訓練で割と自信ついてたんだけど…ついていくだけで精一杯だ……」
結局ひなたは今日一日、エンデヴァーについていくのに必死でプロの仕事を観察する余裕も無かった。
ひなたがゼエゼエと息を切らしながら言うと、轟がエンデヴァーの代わりに謝る。
「悪い相澤…これじゃ思ってたのと違うよな。大丈夫か」
「ありがと…でも大丈夫だよ。それに遅いっていうのも事実だし…追い込みが足りない証拠だ」
疲れ切って床に座り込むひなたを遠目で見ていたエンデヴァーは、今日一日のひなたの動きを振り返っていた。
(遅い。…が、ついて来れてはいる。実戦じゃまだまだ戦力にはならんが、流石はイレイザーヘッドの娘といったところか)
「最初に言ったな。今日から一週間、プロヒーローとしての仕事を見せてやる。明日は早いぞ。今日のうちにしっかり身体を休めておけ」
(どひぇ〜〜〜!!)
エンデヴァーが言うと、ひなたはどっと冷や汗をかいた。
初日でこれだけ疲れる事をあと6日も続けるのかと思うと気が遠くなったからだ。
その夜、ひなたと轟はエンデヴァー事務所の宿泊施設で寝泊まりをする事になった。
事務所には宿泊施設が設備されており、炎のサイドキッカーズと寝食を共にするのだ。
「そういや焦ちゃん、お母さんに会ってきたんだよね?」
ひなたは、寝る前にふと電車の中で話していた話を思い出して轟に尋ねる。
電車内で連休中に何をしていたかという話になり、その話がまだ途中だったのだ。
轟は、連休中に入院中の母親に会いに行っていた。
「ああ。今までは、親父の力を継いだ俺が行ったらお母さんを追い詰めてしまうんじゃないかと思って会いに行けなかった。でもお母さんは泣いて謝ってくれて、驚くほどあっさり笑って許してくれた。俺が何にも捉われずに突き進む事が幸せであり救いだと言ってくれたよ」
「…そっか。良かったね」
轟が言うと、ひなたはふふっと微笑む。
そして窓の外の景色を眺めながら呟く。
「……いいなぁ、いいお母さんに恵まれて」
「え?」
「僕ね、お母さんを知らないの。あ、えっと……小さい頃に本当のお父さんとお母さんがいなくなっちゃって、顔も覚えてないから…だからね、軽々しくこういう事言うのもどうかと思うけど…正直、僕は君が羨ましい」
ひなたは、そう言ってぼんやりと窓の外の景色を眺めた。
周りには『相澤と山田の従姪で実の両親はひなたが物心つく前に交通事故で亡くなって相澤に引き取られた』という嘘をついているが、実際は
そのため、ひなたはずっと母親という存在に強く憧れていた。
ひなたが話しているのを轟が真剣な表情で聞いているのに気がついたひなたは、ハッとして触角をピンと立てる。
この機会に色々話すつもりだったのにいつの間にか暗い話になってしまった、失敗したと思い慌てて話を切り上げる。
「あ! ごめん! 暗い話になっちゃったね」
ひなたは、話を切り上げようと笑顔を浮かべる。
すると轟が唐突に口を開く。
「この前、相澤先生がうちに来た」
「………え?」
轟が言うと、ひなたはキョトンとした様子で振り向く。
すると轟は、体育祭の後の休みの日にあった事をひなたに話した。
「お前が親父に好き勝手言った事を謝りに来たらしい。何の話してたのかは詳しく知らねえけど…先生が帰った後、親父に謝られたよ」
(あ、それでさっきの…)
轟が話すと、ひなたは先程エンデヴァーが轟に対して気まずそうにしていた理由に納得が行った。
休日の間、相澤はひなたがエンデヴァーに無礼を働いた事を謝りに行っており、教師として、一人の少女の父親としての相澤の言葉に、エンデヴァーは今までどれだけ家族を苦しめていたのかをようやく気付き、彼なりに考えを改めて家族に謝罪をしたのだ。
「俺は、あいつがお母さんや姉さん達にした事を許したわけじゃない。…けど、あいつなりに償おうとしてるんだと思う。今更あいつのやった事がなかった事になるわけじゃねえが、俺はこれからのあいつを見ようと思ってる」
「そっか、良かったねぇ」
(すごいなぁ、焦ちゃんは。…それに比べて、僕は…いまだに生みの親の呪縛から抜け出せないでいる。僕だって、なりたいよ。困ってる人を笑顔で助けられるようなヒーローに…!)
轟が自分の意見を言うと、ひなたは笑顔を浮かべる。
だがひなたの表情は、どこか暗かった。
するとそれを察してか、轟がひなたを心配した。
「どうかしたか」
「ううん! 何でもない! それじゃ、明日も早いしおやすみ!」
「…おう」
ひなたは、かなり強引に話を切り上げて手を振ると用意された部屋に引っ込んでいった。
轟は、いきなり話を切り上げて部屋に引っ込んだひなたに若干戸惑いつつも頷いた。
◇◇◇
「きゅぅ………」
ひなたは、用意された個室のベッドにボスっと身体を預ける。
やはりNo.2ヒーローの事務所という事もあり、サイドキック用の宿泊施設にもかかわらず高級ホテルのような造りになっていた。
ひなたが横になっているベッドも、身体の小さなひなたに似合わない大きなサイズで、質感も自分が普段使っているベッドの何倍の値段なのだろうかと考え思わず目が¥になってしまう程だった。
「疲れたぁ……でも誰かから何かライン来てるかもしんないし確認しなきゃ…あ。そうだ。ひー君今頃何してんのかなぁ…」
ひなたは、ベッドの上で毛布に包まって携帯を確認していた。
その時にふと相澤の元へ職場体験に行った心操の事を思い出し、今何をしているのだろうかと考えた。
「……って、ふわぁあ…もうこんな時間。明日も早いし早く寝なきゃ」
ひなたは、携帯で時間を確認しとっくに日付を超えているのに気がつくと、携帯を充電器に繋ぎベッドサイドランプの灯りを消して瞼を閉じる。
初日から走り回った事もあってか、ひなたはものの数秒で眠りについてしまった。
◇◇◇
そして、イレイザーヘッドの元で職場体験をしていた心操はというと。
「う………ぐぅ………」
心操は、初日からボロボロになって捕縛武器で吊し上げられていた。
イレイザーヘッドやひなたの戦闘スタイルを参考に捕縛武器を使う事にし、扱いづらい捕縛武器の使い方を本人に直接教わる事になった心操だったが、まず身体づくりの段階で散々いじめ抜かれてボロボロになっていたのだ。
あまりの過酷なトレーニングに心操が苦しそうな表情を浮かべていると、イレイザーヘッドこと相澤が追い討ちと言わんばかりに心操を吊し上げていた捕縛武器をギチギチと引っ張る。
「まだ筋繊維が切れてないじゃないか。追い込みが足りない証拠だ」
そう言って捕縛武器を引っ張る相澤は、まさに鬼の表情をしていた。
(これと同じ事をひなたは小学生の頃からやってたのかよ…あいつやっぱ人間じゃねえ……そういやひなたで思い出したけど、あいつ今何してんのかな)
初日からスパルタ教育を受けた心操は、相澤の元で修行を受け捕縛武器を自分の手足のように使い熟しているひなたを思い出した。
そして、エンデヴァーの元で職場体験をしているひなたは今頃何をしているのだろうかと考えていた。
するとそんな心操の考えを見透かすかのように相澤が喝を入れる。
「余計な事考えてないで全身に意識を集中させろ!」
「は、はい…!」
◇◇◇
そしてプリンセスプリティハニーの元へ職場体験に行った峰田はというと。
「今日一日お疲れ様、峰田ちゃん♡明日は朝早いから今日はしっかり休んでおきなさいね。それじゃ、お、や、す、み♡」
「…………………」
見事に真っ白に燃え尽きていた。
解説コーナー
プリンセスプリティハニー
本名:
性別:心は乙女
年齢:31歳
“個性”名:『蜜』
身長:198cm
体重:イチゴ3個分
誕生日:9月6日(乙女座)
血液型:A型
出身地:栃木県
趣味:男狩り男子とのデート
好きなもの:お菓子、可愛い男子
性格:姉御肌。意外とお茶目
戦闘スタイル:リンチ乙女の嗜み
ICV:小野坂昌也
HERO’ S STATUS
パワー:A
スピード:A
テクニック:A
知力:B
協調性:B
峰田の職場体験先のアブナイ香りがするプロヒーロー。
体育祭の時に峰田と上鳴を指名し見事峰田をゲット。
自身の事務所のサイドキックを好みの男性ヒーローだけで固めてハーレムを築いており、彼らに自分を『姫』と呼ばせている。もはやオタサー状態。
年下の男性を『男子』と呼んで追っかける日々を送っているが、女嫌いというわけではなく恋愛感情を抱かないだけで、普通に女友達は多い。
なお、プロヒーローでありながらエステサロンを経営しており、かなり繁盛している。
雄英のOGで相澤や山田の1学年先輩。ミッドナイトの元クラスメイト。
ちなみにA組3バカは何が彼女の琴線に触れたのか、在学中の2年間ずっとロックオンされていた。
◯能力
基本的には『乙女の嗜み』と称したバレエの動きに因んだ格闘術で戦う。
本人曰く戦闘向きの“個性”でないため13号のような救助活動に重きを置いた方針を取っているらしいが、救助メインのヒーローとは思えないほど素の戦闘能力が高く、対人戦闘専門のイレイザーヘッドをして『人間じゃない』と言わしめるほど。
前述の趣味もあってか、彼女と目が合っただけで自首した
◯“個性”『蜜』
身体から回復・健康・美容効果などあらゆる効能のある粘液を出す事ができる。
主に経口摂取か経皮摂取により効果を得る事ができる。
・プリティハニー・ア・ラ・モード
彼女の最終奥義。
増強効果のある蜜を経皮摂取によって補給する事で自身の肉体を強化する技。
銃火器や爆弾・毒ガスなどにも無傷で耐え倒壊したビルを片手で持ち上げるほどの増強効果を誇るが、効果が切れた途端に一気にツケが回ってきて半日はまともに動けなくなる。
なお、普通の服を着ていると何故か溶けてしまい、少年誌ではとてもじゃないが載せられない事になるというか見たくないものを晒して周りのSAN値を根こそぎ削ってしまうため、ヒーローコスチュームは自身の髪の毛で作られた繊維を使ったものを着用している。