抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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10が5件、9が22件…だと…!?
感謝感激雨霰。
それに新たに13件のお気に入りが増えたぜ。
やったあ。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。
作者は単純なのでメッサ喜びます。


ひなたと死柄木

 翌日、ひなたと轟は昨日同様エンデヴァーの仕事の見学をした。

 一日目は本格的に活動を始めたのが夜間という事もありあまり声をかけられなかったが、この日は早朝から活動をしていたため通行人に声をかけられた。

 

「あれ? あの子体育祭2位の子じゃね!?」

 

「隣の子は準決勝の子だよな!?」

 

「頑張れよー!」

 

 No.2と体育祭で大活躍した雄英生が並んでいれば注目を浴びないわけがなく、通行人に次々と声をかけられた。

 3人の方を見て目を輝かせている子供がいたので、ひなたは笑顔を浮かべてかなり大袈裟に手を振った。

 

「ヤバ! あの子カッコよすぎ!」

 

「こっち向いてー!」

 

「焦ちゃんも手くらい振ってあげたら? ほら、人を和ませるのも立派なヒーロー活動だし…」

 

 ひなたが轟の肩を軽く突いて黄色い声を上げている女子大生達を指差すと、轟は若干戸惑い笑顔は浮かべなかったものの小さく手を振った。

 するとキャーキャーと歓声が沸き起こり、さらにギャラリーが集まってくる。

 歓声を聞いた轟は、黄色い声を悲鳴と勘違いして深刻な表情を浮かべる。

 

「俺が手を振ったから悲鳴が…!?」

 

「いや…違う、あれは喜んでるんだよ……ブフッククク…」

 

 轟が天然発言をするのがツボに入ったひなたは、顔を逸らして必死に笑いを堪えていた。

 するとエンデヴァーは、少しずつではあるが息子に良い影響を与えているひなたを見て、ひなたに声をかける。

 無駄な事を嫌うイレイザーヘッド、その娘がファンサービスをしている光景は正直想像できず、純粋にひなたに興味が湧いたというのもあった。

 

「クレシェンドモルト、そのファンサービスもイレイザーヘッドに習ったのか」

 

「いえ…知り合いのヒーローに教えてもらいました! 笑ねえ(Ms.ジョーク)流スマイルファンサ!」

 

「そうか」

 

 エンデヴァーが尋ねると、ひなたはサムズアップをしながら答える。

 その時エンデヴァーは、相澤にひなたの無礼の事で謝られた時の事を思い出した。

 

 

 

 ──イレイザー…いや、相澤先生。お宅のお嬢さんには何か特別な訓練を? 

 

 ──いえ、俺は基礎を叩き込んだだけです。あいつが特別な奴に見えたなら、それはあいつ自身の努力の結果でしょう

 

 ──恐れ入りますが、俺があなたに教えて差し上げられるような事は何もありません。子供が自分で決めた道を自分で歩めるよう、背中を押してやる。こんな事、人の親なら誰でも当たり前にやってる事ですので…

 

 

 

(『誰でも当たり前にやってる事』か…人の親になった事も無いのに、言ってくれるな)

 

 エンデヴァーは、相澤に言われた言葉が深く心に刺さっていた。

 自分の行いが原因で精神を病んだ妻、そして自分を憎悪の目で見てくる次男と三男の事が頭を過ぎり、自分は相澤の言う『当たり前の事』すら家族にしてこなかった、相澤との対話でその事に気付かされた。

 

 轟の担任としてエンデヴァーと対話した相澤だったが、かくいう相澤も、親として完璧なわけではなかった。

 自分の受け持ったクラスの誰よりも厳しく指導をし、時には我慢を強いたり痛い思いや苦しい思いをさせた事もあった。

 だがエンデヴァーと決定的に違ったのは、自分の子供を強いヒーローにする為ではなく、自分で生きたい道を掴み取らせる為に厳しい訓練をしてきた事だった。

 相澤は、『自分は当たり前の事しかできない未熟者だ』と謙遜したつもりだったが、図らずもその一言がエンデヴァーの考え方を変えたのだった。

 

 その後は一日目と同様犯罪者の撃退や人命救助をするエンデヴァーを追いかけて仕事ぶりを見学し、事務所に戻ったら“個性”を伸ばすための訓練に勤しんだ。

 事務所は基本的にシフトで回しており、エンデヴァーが事務所にいる間は必ず炎のサイドキッカーズの誰かがパトロールをしているため、どんなに小さな事件や事故も見逃さずに駆けつける事ができるのだ。

 ひなたが訓練をしていると、エンデヴァーが声をかける。

 

「クレシェンドモルト、体育祭で使った技は周りを巻き込まないように発動する事はできないのか?」

 

 エンデヴァーが尋ねると、ひなたは頭を掻きながら答える。

 ひなたは過酷な訓練でボロボロになっており、鼻血まで出ていた。

 

「えっと…あれはまだ調整中で…あ、えっと、あれより威力が低めの『消滅幻想曲(エンテラルファンタジア)』って技ならそれができるんですけど…」

 

「そうか。では職場体験が終わるまでに、周りを巻き込まずに体育祭の時の技を使えるようにしておけ」

 

「あと6日でですか!?」

 

 エンデヴァーがサラッと言うと、ひなたは目を丸くして尋ねる。

 するとエンデヴァーはひなたを挑発で焚きつける。

 

「できないのか?」

 

「…楽勝!!」

 

 エンデヴァーに焚き付けられたひなたは、ニッと笑顔を浮かべながら言った。

 

「焦凍は炎のコントロールを氷に追い付かせろ! だがあまり使い分けに捉われすぎるな!」

 

「ああ…!」

 

 エンデヴァーが轟に“個性”の指導をすると、轟はエンデヴァーのアドバイスを参考に訓練をする。

 普段は憎くて仕方がない父親だったが、やはりNo.2の称号は伊達ではなく指導が的確だと実感していた。

 休憩時間中、ひなたが笑顔で轟に話しかける。

 

「ねえ! 焦ちゃんの“個性”ってさ、体温調節がそのまま強さに直結するんだよね? だったら、血が全身を巡るみたいに“個性”を使うのに必要なエネルギーを循環させたら体温を一定に保ったまま戦えたりしないかな?」

 

「エネルギーを…循環?」

 

「そう! ほら、お風呂入る時、そのままだと上が熱くて下が冷たいから、お湯を混ぜてから入るでしょ? あれと一緒! ただ氷や炎を『出す』んじゃなくて、身体の中で『循環させる』の。まだ氷と炎の同時使用は慣れてないだろうからしばらくは動きが鈍るだろうけど、まあそれは積み重ねだね。って、ごめん。余計なお節介だったかな?」

 

「…やってみる」

 

 轟は、早速ひなたに言われた通り氷と炎を同時に纏い、『巡らせる』イメージを実践した。

 すると、前より楽に、より高威力の氷結と炎熱を操れるようになったのを実感した。

 

「どうだ?」

 

「………」

 

 轟が尋ねると、ひなたは目を丸くしたまま言葉を失う。

 まさか自分の言葉だけで実践できてしまうとは思わなかったので、驚きを隠せなかった。

 

「すごい! すごいよ焦ちゃん! すごいすごいすごい!」

 

「痛え」

 

 ひなたが感激のあまり語彙力を失ったまま轟の肩を叩くと、力を入れすぎたのか轟が痛がる。

 二人のやり取りを見ていたエンデヴァーは、二人の成長を静かに見守っていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその後、エンデヴァーは炎のサイドキッカーズや職場体験に来たひなたと轟を集めて話を始める。

 

「これから保須に出張に行く。お前達にも同行してもらうぞ」

 

「保須…少し遠いな」

 

 エンデヴァーが出張の話をすると、轟が口を開く。

 するとひなたは、保須でインゲニウムが被害に遭った事を思い出してエンデヴァーに尋ねる。

 

「あの…もしかしてヒーロー殺しですか?」

 

「そうだ。我々の他にも、近場で活動しているヒーローが救援に向かう。奴が現れるのはヒーロー事務所が密集している区域で、奴が現れた区域では必ず4名以上のプロヒーローが被害に遭っているが、保須ではまだインゲニウム一人しか被害に遭っていない。前例通りなら保須に再びヒーロー殺しが現れる。しばし保須に出張し活動する!! 市に連絡しろぉ!!」

 

 エンデヴァーが指示を出すと、炎のサイドキッカーズは市に連絡を入れ出張の準備をし始めた。

 エンデヴァーのプロならではの勘の良さと判断力に、ひなたは舌を巻き轟もNo.2ヒーローとしてのエンデヴァーを認めざるを得なかった。

 

「何をボサっとしている、お前達も準備しろ!」

 

「あ、ハイ!」

 

 エンデヴァーに喝を入れられたひなたは、ハッとしてすぐさま出発の準備をし始め30秒程で支度を整えた。

 ヒーロー殺しは夜に現れる事が多いため、日が暮れる前に保須に着くよう出発し新幹線に乗り込んだ。

 小一時間新幹線に乗り、保須に着いたのは夕方だった。

 だがこの日は小規模な事故が少し起こる程度でヒーロー殺しどころか事件すら起こらなかった。

 

「結局何も起こりませんでしたね。まあ街中これだけ警戒モードだったら(ヴィラン)も暴れられませんよね」

 

「気を抜くな。今日現れずとも明日現れるかもしれん」

 

「はい…」

 

 あまりにも平和な街にひなたが拍子抜けしていると、エンデヴァーが気を引き締めるように言いひなたが頭を掻きながら返事をした。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして都内某所のバー、普段は死柄木と黒霧しかいないバーにもう一人の人影があった。

 ボロボロの赤いマフラーと全身に携えた刃物が特徴的な男ステインだ。

 ステインは『ヒーロー殺し』と呼ばれ数々のプロヒーローを襲撃し再起不能にした殺人鬼だった。

 

「なるほどなァ…お前達が雄英襲撃犯…その一団に俺も加われと?」

 

「ああ。頼むよ悪党の大先輩」

 

 ステインが舌舐めずりをしながら言うと、死柄木が答える。

 するとステインが目を細めて死柄木に尋ねる。

 

「…………目的は何だ」

 

「取り敢えずはオールマイトをブッ殺したい。気に入らない物は全部壊したいな。こういう…糞餓鬼とかもさ…全部」

 

 死柄木は、緑谷やひなたの写真を見せて言った。

 するとステインの目つきが鋭くなり、威圧するように二人を睨む。

 

「興味を持った俺が浅はかだった…お前は……ハァ…俺が最も嫌悪する人種だ」

 

「はあ?」

 

「子供の癇癪に付き合えと? ハ……ハァ。信念無き殺意に何の意義がある」

 

 ステインは、そう言って両腰に差した刃物を抜き始める。

 すると危険を察した黒霧がテレビに向かって話しかける。

 黒霧は、破壊衝動のみの死柄木に更なる成長を促す為ステインを呼んだのだ。

 

「先生…止めなくて良いのですか!?」

 

『これでいい! 答えを教えるだけじゃ意味が無い。至らぬ点を自身に考えさせる! 成長を促す! 『教育』とはそういうものだ』

 

 そしてテレビの向こうの男がそう言った直後、両者はぶつかり合った。

 結果はステインの圧勝だった。

 ステインは、死柄木を組み伏せ左手の刃物で死柄木の肩を刺し右手の刃物を死柄木の首に突きつけた。

 

「何を成し遂げるにも信念…想いが要る。無い者、弱い者が淘汰される。当然だ。だからこうなる」

 

 ステインは、死柄木を睨みながら言い放つ。

 死柄木は、ステインの強さに呆れて笑っていた。

 

「ハッハハハ…! いってえええ、強過ぎだろ。黒霧! こいつ帰せ早くしろ!」

 

「身体が動かない…! おそらくヒーロー殺しの“個性”……」

 

 ステインの刃物が肩に掠った黒霧は、その場から動けずにいた。

 ヒーロー殺しの“個性”によって動きを封じられていたのだ。

 

「“英雄(ヒーロー)”が本来の意味を失い偽者が蔓延るこの社会も、徒に“力”を振り撒く犯罪者も、粛清対象だ…ハァ…」

 

 そう言ってステインがそのまま死柄木の首を切ろうと右手の刃物を動かすと、死柄木が刃物を右手で掴む。

 

「ちょっと待て待て…この掌は……ダメだ。殺すぞ」

 

 死柄木がそう言った直後、ステインの刃物がボロボロに崩れる。

 

「口数が多いなァ…信念? んな仰々しいものないね…強いて言えばそう…オールマイトだな…あんなゴミが祭り上げられてるこの社会をめちゃくちゃにブッ壊したいなァ、とは思ってるよ」

 

 そう言って死柄木が不気味な笑みを浮かべると、得体の知れない悪寒がステインを襲う。

 そのまま死柄木がステインに向かって手を伸ばそうとすると、ステインは大きく後ろへ退いて回避した。

 

「せっかく前の傷が癒えてきたところだったのにさ…こちとら回復キャラいないんだよ。責任とってくれんのかぁ?」

 

 死柄木は、不機嫌そうに首をボリボリ掻きむしりながらゆっくりと立ち上がる。

 するとステインは左手の刃物を鞘に収めて口を開く。

 

「それがお前か……」

 

「は?」

 

 突然ステインが矛を収めたため、死柄木は怪訝そうに声を漏らす。

 するとステインは死柄木を見据えながら言った。

 

「お前と俺の目的は対極にあるようだ…だが、『今を壊す』、この一点に於いて俺達は共通してる…」

 

「ざけんな帰れ死ね。“最も嫌悪する人種”なんだろ」

 

「真意を試した。死線を前にして人は本質を表す。異質だが…“想い”…歪な信念の芽がお前には宿っている…………お前がどう芽吹いていくのか…始末するのはそれを見届けてからでも遅くはないかもな…」

 

 ステインが言うと、死柄木は不服そうに首を掻く。

 

「始末すんのかよ…こんなイカレた奴がパーティーメンバーなんて嫌だね俺…」

 

「死柄木弔。彼が加われば大きな戦力になる。交渉は成立した!」

 

 死柄木が気怠そうに不平を言うと、黒霧がステインを引き入れるメリットを話す。

 すると死柄木は渋々納得し、用事が終わったステインは自分をバーに連れてきた黒霧に要求する。

 

「用件は済んだ! さァ“保須”へ戻せ。あそこにはまだ成すべき事が残っている」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして3日目。

 ひなたは、寝癖で髪がボサボサになっており大きなあくびをしながらのそのそとコスチュームに着替えていた。

 

「くぁ……おはようございます…」

 

「遅い! 30秒で支度しろ!」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 ひなたがあくびをしながらサポートアイテムを装備しているとエンデヴァーが喝を入れ、完全に目が覚めたひなたはビクッと肩を跳ね上がらせて返事をした。

 この日も早朝からパトロールをしていたが、やはりヒーロー殺しが現れるどころか街は平和そのものだった。

 いつどこから(ヴィラン)が現れるかわからないためひなたも自慢の耳で慎重に街中の音を探っていたが、特に怪しい動きは見つからなかった。

 結局午前中は何も起こらず休憩時間に入り、そのまま午後のパトロールが行われた。

 

「ヒーロー殺しは夜に現れる。ここからは気を引き締めていけ!」

 

「はい!」

 

「ああ」

 

 ひなたと轟は、気合を入れ直してエンデヴァーと共に午後のパトロールに出向いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして日が落ちて空の色が茜色から暗紫へと変わってきた頃。

 ステインがビルの貯蔵タンクの上で立っていた。

 その横には死柄木と黒霧も居た。

 

「保須市って………思いの外栄えてるな」

 

「この街を正す、それにはまだ…犠牲が居る」

 

 死柄木とステインは、保須市を見渡して口を開く。

 すると黒霧がステインに尋ねる。

 

「先程仰っていた“やるべき事”というやつですか?」

 

「『お前は』話がわかるやつだな」

 

「いちいち角立てるなオイ………」

 

 黒霧の質問に対してステインが死柄木と比べるような発言をすると、死柄木は不服そうに首を掻く。

 

「ヒーローとは偉業を成した者のみ許される“称号”! 多すぎるんだよ……英雄気取りの拝金主義者が! この世が自ら誤りに気づくまで、俺は現れ続ける」

 

 ステインは、背中に差した刀の柄を握りながらタンクから飛び降りた。

 残った死柄木と黒霧は保須を見渡し、死柄木は首を掻きむしっていた。

 

「あれだけ偉そうに語っておいてやる事は草の根運動かよ。健気で泣けちゃうね」

 

「……そうバカにも出来ませんよ」

 

「?」

 

 死柄木の嫌味に対して黒霧が口を開くと、死柄木が黒霧の方を振り向く。

 すると黒霧が事実を説明し始める。

 

「事実、今までに奴が現れた街は軒並み犯罪率が低下しています。ある評論家が『ヒーロー達の意識向上に繋がっている』と分析してバッシングを受けたこともあります」

 

 黒霧が言うと、死柄木は腕を組んでブツブツと文句を言った。

 

「それは素晴らしい! ヒーローが頑張って食いぶち減らすのか! ヒーロー殺しはヒーローブリーダーでもあるんだな! 回りくどい!! やっぱ…合わないんだよ根本的に…ムカつくしな…黒霧、脳無出せ。俺に刃ァ突き立ててタダで済むかって話だ。ブッ壊したいならブッ壊せばいいって話…ハハ」

 

「………」

 

 黒霧がワープゲートを出現させると、中からは三体の脳無が姿を現した。

 

「大暴れ競走だ。あんたの面子と矜恃、潰してやるぜ大先輩」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして日が落ちた頃、ひなた達は保須をパトロールしていた。

 だが、今の所街には異常がなかった。

 

「異常なし、か…やっぱり今日も平和……」

 

 ひなたがそう呟いた直後、ひなたの耳がピクッと動く。

 するとその直後、エンデヴァーが後ろを振り向いて全速力で飛び出す。

 

「焦凍! クレシェンド! 事件だついてこい! ヒーローというものを見せてやる!」

 

 エンデヴァーが二人に対して指示を出すと、二人はエンデヴァーに続けて走り出した。

 だがその時、二人の携帯が同時に震えた。

 二人が携帯を取り出して確認すると、緑谷から位置情報が載った画像だけが送られてきていた。

 これだけでは全く内容がわからないが、緑谷は意味もなくこういう事をする性格ではなかった。

 そのため、何か事件に巻き込まれていて詳細を伝える余裕もないのかもしれないとひなたは考えた。

 

「携帯じゃない! 俺を見ろ焦凍ォ!!」

 

 すると携帯を確認した轟は、踵を返して反対方向へ走っていく。

 

「どこ行くんだ焦凍ォ!!!」

 

「江向通り4ー2ー10の細道。そっちが済むか手の空いたプロがいたら頼む。お前ならすぐ解決できんだろ。友達がピンチかもしれねえ」

 

 エンデヴァーが走り去る轟を止めようとすると、轟は要件だけ伝えて携帯の位置情報が示す場所へと走り去っていった。

 するとひなたも、余計な事を考えている場合ではないと考えエンデヴァーに向かって叫んだ。

 

「ッ……!! エンデヴァー! “個性”の使用許可を!! 僕も轟くんについていきます!! 友達を助けに行かなきゃ!」

 

 ひなたがエンデヴァーに向かって言うと、エンデヴァーは一瞬戸惑いつつも直ぐに判断を下した。

 

「わかった、ではエンデヴァーの名においてショート及びクレシェンドモルトの“個性”の使用を許可する!! その事を焦凍に伝えてくれ!」

 

「了解しました!」

 

 エンデヴァーが指示を出すと、ひなたはコクリと頷いて轟を追いかけに行く。

 こういう時の判断の早さはさすがNo.2だとひなたは思った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 時は遡り数分前、江向通りの路地裏にて。

 保須をパトロールしていた飯田は、プロヒーロー『ネイティヴ』がステインに襲われている所を目撃していた。

 ステインは、ネイティヴの顔面を掴んで壁に叩きつけながら言った。

 

「騒々しい…阿呆が出たか…? 後で始末してやる…今は…俺が為すべき事を為す」

 

「身体が…動かね…クソ野郎が…!! 死ね…!」

 

 ネイティヴが恨み言を吐き捨てると、ステインはその言葉が癇に障ったのか刀を抜いた。

 

「ヒーローを名乗るなら、死に際の台詞は選べ」

 

 するとその直後、ステインの背後から飯田が飛びかかる。

 だが、素早く振り抜かれたステインの刀が飯田のヘルメットに直撃して飯田は吹き飛ばされた。

 ステインは、ヘルメットが外れた飯田の顔を見て目を細める。

 

「スーツを着た子供……何者だ」

 

「ぐっ…!」

 

 吹き飛ばされた飯田は仰向きに倒れ込み、ヘルメットはどこかへ転がっていく。

 

「消えろ。子供の入っていい領域じゃない」

 

「血のように赤い巻物と、全身に携帯した刃物……ヒーロー殺しステインだな! そうだな!? お前を追ってきた。こんなに早く見つかるとはな!! 僕は──…」

 

 ステインが飯田を睨みつけながら言うと、飯田はゆっくりと立ち上がりながらステインに憎しみのこもった目を向ける。

 飯田がステインを睨みつけると、ステインは飯田の眼前に刀を突きつける。

 

「その目は敵討ちか。言葉には気をつけろ。場合によっては子供でも標的になる」

 

 それを聞いた飯田は、歯を食いしばりながら立ち上がる。

 殺すにも値しないと言われた事が悔しかったのだ。

 

「標的ですら……ないと言っているのか。では聞け犯罪者。僕は…! お前にやられたヒーローの弟だ…!! 最高に立派なヒーローの弟だ!! 兄に代わりお前を止めに来た!! 僕の名を生涯忘れるな!! インゲニウム、お前を倒すヒーローの名だ!!」

 

「そうか、死ね」

 

 飯田がステインに対して復讐心を剥き出しにして言うと、ステインは飯田を睨みつける。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、緑谷の職場体験先のヒーロー『グラントリノ』は、死柄木が保須に解き放った脳無と交戦していた。

 腕の長い脳無が周囲のビルを破壊しながら襲い掛かると、グラントリノは“個性”で空を飛んで回避する。

 

「ガチ戦闘は何年振りかな。全く、とんだ巻き添えだ! はっちゃけやがって! 何だお前!?」

 

 グラントリノが脳無に尋ねた直後、脳無はグラントリノの方へ手を伸ばす。

 グラントリノは、足からジェットを噴射して回避した。

 するとグラントリノが避けた脳無が通行人に襲いかかる。

 

「うわっ!? ちょっ…わああ!!?」

 

 脳無が通行人に向かって右腕を振りかぶると、グラントリノは脳無を止めようとする。

 

「やめとけこの…」

 

 すると、その時だった。

 

 

 

 ゴオッ

 

「!?」

 

 突然、脳無めがけて炎が飛んでくる。

 脳無は、飛んできた炎で焼け焦げていく。

 するとその直後、グラントリノの前にエンデヴァーが現れた。

 

「ヒーロー殺しを狙っていたんだが…タイミングの悪い奴だ。存じ上げませんがそこのご老人、俺に任せておけ」

 

「あ! あなたは!! マジ!?」

 

「何でここに────…」

 

 脳無に襲われそうになっていた通行人が尋ねると、エンデヴァーが答える。

 

「ヒーローだからさ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ステインが飯田を睨みつけると、飯田は目を見開いて叫ぶ。

 

「ああああぁ!!!」

 

 そしてエンジンを使って素早く蹴りを放つが、ステインは上に跳んで避けた。

 そして、身を翻して飯田の頭上を舞いながら話しかける。

 

「インゲニウム、ハァ…兄弟か、ハァ…奴は伝聞のため生かした。お前は…」

 

「あ゛っ」

 

 ステインは、小さな苦無を仕込んだブーツで飯田の右腕を蹴る。

 飯田の腕からは血が噴き出て、飯田は痛みで顔を歪めた。

 

「ぐっ…!!」

 

 ステインは、そのまま飯田の背中を右足で踏みつける。

 

「弱いな」

 

 そして、刀を逆手に持ち替えると飯田の頭を踏みつけ左肩を刺す。

 飯田は、肩を刺された痛みで叫び声を上げる。

 

「あ゛あ゛っ!!」

 

「お前も、お前の兄も弱い…贋物だからだ」

 

 ステインが飯田に冷たい目を向けながら言うと、飯田は痛みに顔を歪めながら口を開く。

 

「黙れ悪党…!! 脊髄損傷で下半身麻痺だそうだ………! もうヒーロー活動は適わないそうだ!! 兄さんは多くの人を救け…導いてきた。立派なヒーローなんだ!! お前が潰していい理由なんて無いんだ…! 僕のヒーローだ…僕に夢を抱かせてくれた、立派なヒーローだったんだ!!!」

 

 飯田は、目に涙を浮かべながら叫んだ。

 大切な兄で夢を与えてくれたヒーローであるインゲニウムを、目の前の殺人鬼によって一方的に傷付けられたのだ。

 黙ってなどいられるわけがなかった。

 

「殺してやる!!!」

 

「あいつをまず救けろよ」

 

 飯田がステインに恨みをぶつけると、ステインは自分が傷つけたネイティヴを指差しながら言った。

 

「自らを顧みず他を救い出せ。己の為に力を振るうな。目先の憎しみに捉われ、私欲を満たそうなど……ヒーローから最も遠い行いだ、ハァ……だから死ぬんだ」

 

 ステインが刀を引き抜き血を舐めると、飯田の身体は何かがのしかかったように動かなくなる。

 

「ぐっ…!!」

 

「じゃあな、正しき世界への供物」

 

「黙れ………黙れ!!! 何を言ったってお前は、兄を傷つけた犯罪者だ!!!」

 

 ステインが飯田にトドメを刺そうと刀を背中に突きつけ飯田が叫んだ、その瞬間だった。

 

 

 

「SMASH!!」

 

 

「!!?」

 

 突然緑谷が現れ、ステインを殴り飛ばした。

 突然飛び出してきた親友の姿に、飯田は思わず目を見開く。

 

「緑谷……くん…!?」

 

「救けに来たよ、飯田くん」

 

 緑谷とステインは、互いに距離を取る。

 

「緑谷くん!? 何故…!?」

 

「ワイドショーでやってた…! ヒーロー殺し被害者の6割が、人気のない街の死角で発見されてる。だから…騒ぎの中心からノーマルヒーローの事務所あたりの路地裏を…虱潰しに探してきた!」

 

 飯田が尋ねると、緑谷が答える。

 緑谷は、地面に倒れて動けないでいる飯田に声をかけた。

 

「動ける!? 大通りに出よう、プロの応援が必要だ!」

 

「身体を動かせない…! 斬りつけられてから…おそらく奴の“個性”…」

 

「それも推測されてた通りだ…………斬るのが発動条件って事か…?」

 

 緑谷は、そう言っている間にネイティヴも被害に遭って動けない事に気がつく。

 飯田だけなら連れて逃げられたかもしれないが、二人を助け出そうとなると難しかった。

 緑谷がどうやって飯田とネイティヴを助け出そうか考えていると、飯田が口を開く。

 

「緑谷くん、手を…出すな。君は、関係無いだろ!!」

 

「何……言ってんだよ…」

 

 飯田が悔しそうに言うと、緑谷が口を開く。

 すると、今まで黙って聞いていたステインが動き出す。

 

「仲間が『救けに来た』、良い台詞じゃないか。だが俺はこいつらを殺す義務がある。ぶつかり合えば当然……弱い方が淘汰されるわけだが。さァ、どうする」

 

 ステインが殺気を向けると、緑谷は慄いて身体が竦むがその場から逃げようとはしなかった。

 緑谷は、ステインにバレないよう背中で右手の端末を隠して操作する。

 すると飯田が緑谷に向かって叫んだ。

 

「やめろ!! 逃げろ、言ったろ!! 君には関係無いんだから!」

 

「そんな事言ったら、ヒーローは何もできないじゃないか! い……言いたい事は色々あるけど…後にする…! オールマイトが言ってたんだ。余計なお世話は、ヒーローの本質なんだって」

 

「ハァ……」

 

 緑谷がニッと笑うと、緑谷の態度を気に入ったのかステインは笑みを深くする。

 緑谷は、猛スピードでステインに飛びかかる。

 

「良い」

 

 ステインが刀を振るうと、緑谷は姿勢を低くして懐に入り込む。

 するとステインは、確実に斬りつけるために腰のナイフを抜こうとした。

 

「ダメだ、斬りつけられたら…」

 

 飯田が何かを言おうとしステインがナイフを抜いて振るが、緑谷は猛スピードでステインの股の間を通り抜け、ステインが刀を振るうと真上へ移動して拳を振りかぶる。

 

「15%デトロイト…SMASH!!!」

 

 緑谷は、真上からステインの頭を殴りつけた。

 緑谷は、この調子で畳み掛けようとした。

 だが…

 

「なっ…!!」

 

 ステインがよろけながらも立ち上がり、ナイフを舐めると緑谷も動けなくなる。

 

「良い…口先だけの人間はいくらでもいるが…お前は生かす価値がある…こいつらとは違う」

 

 ステインは、飯田に歩み寄ると刀を突きつける。

 すると緑谷がステインに向かって叫んだ。

 

「ちくしょう!! やめろ!!」

 

「───…うぅ!!」

 

 するとその時、炎と氷が同時に放たれステインは退いた。

 

「次から次へと…今日はよく邪魔が入る…」

 

 ステインは、突然現れた人影を見て不機嫌そうに顔を歪める。

 そこにいたのは、緑谷からのメールを見て駆けつけてきた轟だった。

 

「緑谷。こういうのはもっと詳しく書くべきだ。遅くなっちまっただろ」

 

 

 

 

 

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