感謝感激雨霰。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。
轟が緑谷の元へ駆けつけた頃、エンデヴァーとグラントリノは脳無と交戦していた。
エンデヴァーに燃やされた脳無は、炎でボロボロになりつつも意識を保っていた。
「虚仮威しの低温とはいえ、意識を保ったままでいられるのは初めてだな」
「あんた気をつけろ! こいつは…」
グラントリノがエンデヴァーに注意を促した直後、脳無は身体から炎を放つ。
脳無がエンデヴァーの炎に耐えたのと同じ炎を放った事から、エンデヴァーは脳無の“個性”を分析する。
「成る程、“吸収・放出”か。だがダメージ有りとは…雑魚“個性”じゃないか!」
「………! おかしいな…違うぞ轟、こいつ“個性”を複数持ってる!」
グラントリノが言った直後、脳無は身体を膨張させ、そのエネルギーを使ってエンデヴァー目掛けて飛び出す。
そして大きく口を開くと口から網のようなものを出した。
グラントリノは、巻き添えを喰らいそうになっていた市民二人が遠くへ逃げたのを確認するとググっと姿勢を低くする。
「んじゃ…」
一方、網を出した脳無が網をブクッと膨張させると、エンデヴァーは右手を前に出す。
「成る程」
そう言って脳無の網を炎で燃やそうとしたその時、グラントリノが目に留まらぬ速度で飛び出し脳無を地面に叩きつけた。
グラントリノの蹴りが命中した脳無は、白目を剥いて気を失う。
グラントリノ
本名 酉野空彦
“個性”『ジェット』
足の裏の噴出口から空気を噴出!!
ただし、噴く空気は呼吸で吸った分だ!
あんま連続で噴くと老体に響きますね。
「道路割っちまった…久々だと加減がなァ…」
グラントリノがやってしまったと言わんばかりに言うと、手柄を横取りされた形になったエンデヴァーは舌打ちをする。
「チッ、何だ…やるじゃないかご老人」
するとその直後、エンデヴァーから見て左手の方から火の手が上がり、同じ方角から街が破壊される音と叫び声が聞こえる。
「あっちはヒーローが集中していたはずだが……………」
「少なくとも2〜3分は経ってるぞ。揃いも揃って…ったく! 早くこいつの拘束・身柄引き渡しを済ませて加勢行くぞ」
「……ムゥ」
エンデヴァーは、ふと轟とひなたが別行動を取った事を思い出した。
そして二人いるなら一人は轟達の方へ向かうべきだと考え、グラントリノに言った。
「そいつは……ウチのサイドキックに任せろ。ご老人は今から言うアドレスへ向かってくれ。加勢はこのエンデヴァー一人で事足りる」
◇◇◇
同時刻、ステインの“個性”で動けなくなった飯田と緑谷の前に、轟が現れる。
ステインは、遅れてきた轟を見て目を細める。
「次から次へと……ハァ……」
「轟くんまで…」
「何で君が…!? それに轟くん…左……!!」
緑谷が尋ねると、轟が答える。
「何でって…こっちの台詞だ。数秒、“意味”を考えたよ。一括送信で位置情報だけ送ってきたから。意味無くそんなことする奴じゃねぇからな、お前は。“ピンチだから応援呼べ”って事だろ。大丈夫だ、数分もすりゃプロも現着する」
そう言って轟は地面を凍らせていく。
するとステインの“個性”で動けなくなっていたネイティヴと緑谷も轟の氷で持ち上がる。
轟の氷を避けようと跳び上がったステイン目掛けて轟が炎を放つと、ステインは壁を蹴って身を翻し炎を避けた。
ネイティヴと緑谷は、溶かされた氷の上を滑りそのまま地面に着地する。
「情報通りのナリだな。こいつらは殺させねえぞ、ヒーロー殺し」
轟が言うと、緑谷が轟に向かって叫ぶ。
「轟くん! そいつに血ィ見せちゃダメだ! 多分血の経口摂取で相手の自由を奪う! 皆やられた!」
「血…それで刃物か。俺なら距離を保ったまま…」
轟が距離を保ったまま攻撃しようとすると、ステインの投げたナイフが轟の頬を掠めステインは轟の眼前まで迫る。
「良い友人を持ったじゃないか、インゲニウム」
ステインが右側から斬りかかってくると轟は氷でガードした。
だがステインがナイフと同時に投げた刀が降ってきて、轟が刀に気を取られた瞬間にステインが轟の頬を舐めようとする。
轟は、左側から炎を出して何とか防いだ。
「っぶねぇ」
轟は、氷で攻撃を仕掛けるがステインは軽々とそれを避けた。
そしてステインは、死角から轟目掛けて刀を振り下ろそうとする。
すると、その時だった。
『やめろ!!!!』
「!?」
突然爆音攻撃が放たれ、ステインの動きが一瞬止まった隙に捕縛武器が巻き付けられる。
「皆!! 大丈夫!? 動ける!?」
ステインが捕縛武器が飛んできた方向を見ると、髪を逆立ててざわつかせ“個性”を発動して目を光らせているひなたがいた。
ひなたは、ステインに巻きつけた捕縛武器を引っ張って睨みつける。
「相澤さん…! そいつの“個性”にかかって動けない…! そいつに血を見せちゃダメだ!」
「えっと…わかった! ちょっと待っててね、今こいつ何とかしてみる!」
緑谷が言うと、ひなたは緑谷の言葉に従って頷いた。
するとステインは、ひなたを睨みつけて深くため息をつく。
「ハァ……また邪魔が入った…」
ステインは、そう言った直後ひなたの捕縛武器を手繰り寄せて苦無を仕込んだブーツでひなたの顔を蹴ろうとする。
するとひなたは咄嗟に身体を反らして避け、轟に向かって叫ぶ。
「焦ちゃん!」
「!」
「エンデヴァーからの伝言! 好きに暴れていいってさ!」
ひなたがエンデヴァーから頼まれていた伝言を伝えると、轟が炎を放ってひなたを援護する。
ステインは、轟の炎を避けるとひなたの捕縛武器を斬って振り解きひなた目掛けて刀を振るう。
ひなたは、腰から短刀を抜いてステインの刀を受けるが、僅かに間に合わず肩に刃が掠る。
「づ…!」
(こいつ…! 全身麻痺させる気でブッパしたのにまるで効いてない!! 化け物かよ!?)
ステインは、ひなたを斬って刀に付いた血を舐め取った。
だがひなたの身体は硬直せず、ひなたはステイン目掛けて蹴りを放つ。
ステインは、身を翻してひなたの蹴りを避けた。
「『消し』やがったか…ハァ…厄介な……だが、悪くない動きだ………誰に習った」
「…お父さんに。僕の一番尊敬するヒーローだよ」
ひなたが正直に言うと、ステインは目を細めてため息をつく。
「ヒーロー……ハァ…本物のヒーローはオールマイトだけだ………お前の父が贋者なら、その背中を見て育ったお前も贋者…粛清対象だ。死ね」
そう言ってステインは、ひなたに刀を突きつける。
ひなたの本質を見極めるため、父親を侮辱して本性を剥き出させようとしたのだ。
だがひなたは、表情を一切変えずに短刀で刀の軌道を逸らして叫んだ。
「嫌だね!!」
「!」
「どんなにお前が強くたって、守らなきゃ…助けなきゃいけない人がいるから! だから立ち向かうんだ! “ヒーロー”が、お前なんかに殺られるかよ!」
ひなたが叫ぶと、ステインは目を見開く。
自分や父親に対する侮辱にも一切動じないのは、周りがどう思おうが自分は父を信じ尊敬するという強い信念を持っており、そして自分が今果たすべき事をちゃんと見ていたからだった。
ひなたの一切迷いのない目を見たステインは、ひなたを生かすべきだと判断した。
「ハァ…良い…その目! お前は生かす価値がある…!」
ステインが目を見開いて言うと、ひなたは腰ポケットから苦無を取り出してステインに投げつけ、ステインはそれを避ける。
すると飯田は、ステインと戦っているひなたと轟に対して言った。
「何故…三人とも…何故だ…やめてくれよ…兄さんの名を継いだんだ…僕がやらなくちゃ…そいつは僕が…」
「継いだのか、おかしいな…」
近づくステインに対し、轟は氷の壁を張って4人に近寄らせないようにした。
「俺が見た事あるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな。お前ん家も裏じゃ色々あるんだな」
「轟くん…」
ステインの“個性”にかかって動けない緑谷だったが、ふと少しずつ身体が動くようになってきた事に気がつく。
だが次の瞬間、ステインが轟の氷を斬り裂く。
「己より素早い相手に対し、自らに視界を遮る……愚策だ」
「そりゃどうかな」
轟が炎を放とうとすると、ステインの投げナイフが轟の腕に刺さる。
「お前も良い…」
ステインが上から轟めがけて刀を振り下ろそうとすると、ひなたが轟の氷を足場にしてステインに飛びかかる。
するとステインは、素早く投げナイフを抜いてひなた目掛けて投げた。
ひなたは、空中で身を翻して投げナイフを避けようとするが、最後の一本が避け切れずに左腿に刺さる。
するとステインは、壁を蹴って方向転換しひなた目掛けて刀を振り下ろす。
ひなたが避けきれないと悟った、その瞬間だった。
「!?」
ステインの“個性”で動けなくなっていたはずの緑谷が壁伝いにジャンプし、ステインの服を引っ掴んでビルの壁面に叩きつけるとそのまま引き摺っていく。
「緑谷!」
「デッくん!?」
「なんか普通に動けるようになった!!」
ステインの“個性”にかかったはずの緑谷が動けるようになったので、轟とひなたは驚いていた。
そして、ステインの“個性”に何かしらの制限がある事に気がつく。
「時間制限か!?」
「いや…あの子が一番後にやられたはず!」
轟が尋ねると、ネイティヴが答える。
ステインの“個性”に最初にかかったネイティヴは、まだ動けずにいた。
(こいつ…Oか)
ステインが緑谷の脇腹に肘を入れて叩き落とすと、ひなたが捕縛武器で緑谷をキャッチして退ける。
「焦ちゃん!」
ひなたが叫ぶと、轟は氷を出してステインを退ける。
ステインに肘を入れられた緑谷は、咳き込みながらステインの“個性”を考察する。
「血を摂り入れて動きを奪う。僕だけ先に解けたって事は、考えられるのは3パターン。人数が多くなる程効果が薄くなるか、摂取量か…血液型によって差異が生じるか…」
緑谷が言うと、ネイティヴと飯田は自分の血液型を明かす。
「血液型…俺はBだ」
「僕はA……」
緑谷が血液型による差異と考察していると、ステインが目を細めて不気味な笑みを浮かべる。
「血液型…ハァ…正解だ」
ステイン
“個性”『凝血』
血を舐める事で相手の身体の自由を最大8分間奪う!
B>AB>A>Oの順で奪える時間は少ない!
ちなみに彼はB型だ!
「相澤さん、血液型何だっけ!」
「B型! ネイティヴさんがまだ動けないって事は、多分一番長い! あいつの“個性”を消してなかったら危なかった…!」
緑谷が尋ねると、ひなたはナイフが刺さってできた傷口を止血しながら答える。
実際ひなたの拘束時間はこの中では一番長いので、ひなたがステインの“個性”を消していなければ今頃命はなかったと思いゾッとしていた。
「さっさと二人担いで撤退してえとこだが…氷も炎も避けられる程の反応速度だ。そんな隙見せらんねぇ。プロが来るまで近接を避けつつ粘るのが最善だと思う」
轟が言うと、ひなたはコクリと頷く。
緑谷は、立ち上がって身体から緑色の火花を放ちながらステインを見据える。
「二人とも血を流しすぎてる。僕が気を引きつけるから、二人は後方支援を!」
「相当危ねぇ橋だが…そだな。三人で守るぞ」
「うん! 奴の“個性”は封じた! 粘りまくって皆で帰るよ!」
「3対1か………甘くはないな」
緑谷が駆け出すと、轟は炎を出しひなたは捕縛武器を投げつける。
するとステインは緑谷の左脚を斬りつける。
「ぎゃ!!」
「止めてくれ……もう……僕は……」
飯田は、涙を流しながら訴えた。
自分が傷つくだけならそれでも良かった。
だが、自分のせいでクラスメイトが傷ついているのをただ見ている事しかできない自分に嫌気が差した。
復讐しか頭になかった自分など見捨てられて当然だと思っていた。
だがそれと同時に、自分を助ける為に危険を顧みずここまで来るほどのお人好しの3人が今更何を言っても自分を置いて逃げるわけがない事はわかっていた。
わかっていたからこそ、これ以上自分のせいで傷ついてほしくなかったのだ。
「止めて欲しけりゃ立て!!!」
轟は、炎を出しながら飯田に向かって叫ぶ。
轟が氷を出すと同時に、ステインは緑谷の右脚に刀を突き立てた。
「ぐぁ…!!」
ステインは、氷の壁を斬り裂くと引き裂けそうな笑みを浮かべて二人に斬りかかる。
「なりてえもんちゃんと見ろ!!」
飯田は、轟の言葉を噛み締めて涙を流しながら拳を握りしめた。
轟が炎を出すと同時に、ステインは炎を避けて間合いを詰めてくる。
「氷に炎。言われた事はないか? “個性”にかまけ挙動が大雑把だと」
「!」
──なまじ“個性”に恵まれた分、挙動が単純なんだよ
ステインが言うと、轟はひなたに言われた言葉を思い出した。
轟が炎を避けて一気に間合いを詰めてくるステインに驚いている間にステインは轟の懐に入り、轟の胴を刀で斬りつけようとする。
「化けモンが…」
するとその時ひなたが音波攻撃を放ち、ステインが避けたと同時にひなたは捕縛武器を使って飛び出しステインの懐に入り込む。
ひなたは、ステインの腹目掛けて肘打ちを放った。
「やめろっつってんだろ!!」
だがステインは、ひなたの肘を軽々と受け止めると刀を振り下ろす。
ひなたは、身を翻して刀を避け、そのまま身体の回転を活かして踵落としを繰り出した。
だが、これもあっさりと受け止められる。
「子供の割にはいい線いってるな……だが…及ばない」
そう言ってステインは、下から刀を振り上げひなたを斬りつけようとする。
「相澤さ……ぐっ!」
緑谷はひなたを助けに行こうとするが、ステインに斬られた脚が痛み思うように走れなかった。
轟も炎でステインを退けようとするが、それよりもステインがひなたを斬りつける方が速かった。
ひなたもこのままでは斬撃を喰らうと悟った、その時だった。
「レシプロ…バースト!!」
DRRRRRRRR!!!
飯田は、猛スピードでステインの刀を蹴り飛ばした。
飯田の蹴りによって、ステインの刀が真っ二つに折れる。
さらに飯田がステインに蹴りを放つと、ステインは折れた刀を握った手でガードするが、飯田はエンジンを使って蹴ったためステインは吹き飛ばされる。
「飯田くん!!!」
「天ちゃん!」
飯田が立ち上がると、緑谷とひなたが目を見開く。
ようやく飯田の“個性”が解けたのだ。
「解けたか、意外と大したことねぇ“個性”だな」
「轟くんも緑谷くんも…ひなた君も、関係ない事で…申し訳ない………」
「またそんな事を…」
飯田が俯きながら言うと、緑谷が言い返そうとする。
「だからもう、三人にこれ以上血を流させるわけには行かない」
飯田は、目に涙を浮かべながらステインに立ち向かう。
飯田に蹴られたステインだが、どこか不機嫌そうな様子だった。
「感化され取り繕おうとも無駄だ。人間の本質はそう易々と変わらない。お前は私欲を優先する贋物にしかならない! 英雄を歪ませる社会のガンだ。誰かが正さねばならないんだ」
「時代錯誤の原理主義だ。飯田、人殺しの理屈に耳を貸すな」
ステインが飯田を貶すと、轟が否定する。
轟の言う通り、一般的な価値観を持つ人間からしてみればステインの言っている事は犯罪者の戯言でしかなかった。
だが飯田は、ステインの言う通り自分の都合で友を傷つけた自分にヒーローを名乗る資格などないと思っていた。
「いや、言う通りさ。僕にヒーローを名乗る資格など…ない。それでも…折れるわけにはいかない…俺が折れれば、インゲニウムは死んでしまう」
「論外」
飯田が決意を固めて言うと、不機嫌だったステインの表情がさらに険しくなる。
すると轟は、炎を放ってステインを退ける。
「馬鹿っ…!! ヒーロー殺しの狙いは俺とその白アーマーだろ! 応戦するより逃げた方がいいって!!」
「そんな隙を与えてくれそうに無いんですよ。さっきから明らかに様相が変わった。奴も焦ってる」
ネイティヴが逃げるよう言うと、轟が答える。
ひなたの“個性”によって“個性”を封じられている上に多対一という圧倒的な劣勢にもかかわらず、ステインは4人を窮地に追い詰めていた。
轟は怯ませる為に伝えた『プロが来る』という情報とひなたの“個性”封じが却ってステインに焦りを与え飯田とネイティヴを殺そうと躍起にさせてしまったのだ。
すると、飯田が轟に話しかける。
「轟くん、温度の調節は可能なのか!?」
「左はまだ慣れねぇ、何でだ!?」
「俺の脚を凍らせてくれ! 排気筒は塞がずにな!」
飯田が轟に指示を出すと、轟は飯田の指示の意味を理解した。
するとその時だった。
「邪魔だ」
ステインが轟目掛けてナイフを投げると、飯田は轟を庇って右肩にナイフが突き刺さる。
「ぐっ…!!」
「天ちゃん!!」
さらにステインがナイフを投げると、ひなたが捕縛武器でナイフを弾く。
ひなたが捕縛武器を使って跳び上がると、ステインはひなたを睨みつける。
ひなたがステインの気を引いている隙に、轟は飯田の脚を氷結で冷やした。
冷気によって飯田のエンジンが復活し、緑谷と飯田は同時に跳び上がった。
「レシプロエクステンド!!」
飯田は、全速力で跳び上がり空中にいるステインに蹴りを放つ。
それと同時に、空中に跳び上がった緑谷が拳を振りかぶる。
「行け」
緑谷と飯田は、それぞれ同時に拳と脚をステインに叩き込む。
一瞬意識が飛んだステインだったが、すぐに目を覚ますとナイフを飯田目掛けて振り下ろそうとする。
するとひなたはすぐさま『
「行って!!」
ひなたは、『
「お前を倒そう! 今度は…犯罪者として──…」
「畳み掛けろ!!」
「ヒーローとして!!」
飯田がステインの脇腹を蹴り、轟がステインの顔を燃やす。
「がっ……」
三人が落下すると、轟は氷を出して三人を受け止める。
「「おおおおお」」
緑谷と飯田が氷の上を滑ってぶつかると、轟は二人に声をかける。
「立て!! まだ奴は…」
ふと轟がステインの方を見ると、ステインは轟の氷の上で気を失っていた。
「………流石に気絶してる…? っぽい…?」
「とりあえず拘束して通りに出よう。相澤、頼めるか」
「うん」
轟が尋ねると、ひなたはコクリと頷く。
「念の為武器は全部外しておこう」
4人は気を失ったステインの武器を全て外し、ひなたの捕縛武器でステインの身体を念入りに縛った。
ひなたがステインを引きずり、ネイティヴが緑谷を抱えて路地裏を後にする。
「ひなた君、やはり俺が引く」
「天ちゃん腕やられたでしょーが。腕をやられてない僕が引くのが合理的」
飯田が女子に引かせるのは忍びないと思いやはり自分が引くと言い出すと、ひなたは相澤のような反論をした。
「悪かった…プロの俺が完全に足手纏いだった」
緑谷をおぶっていたネイティヴは不甲斐なさそうに言った。
本来なら、プロヒーローであるネイティヴが4人を守らなければならなかったにもかかわらず、逆に4人に守られてしまい情けなく思っていたのだ。
「いえ…一対一でヒーロー殺しの“個性”だともう仕方ないと思います…強過ぎる…」
ネイティヴにおぶられている緑谷が言うと、轟が自分達の勝因を話す。
「四対一の上に相澤の“個性”とこいつ自身のミスがあってギリギリ勝てた。両脚斬ったから緑谷が動けないと油断してたんじゃねぇかな。ラスト飯田のレシプロはともかく…緑谷の動きに対応がなかった」
するとその時、グラントリノが物陰から姿を現す。
グラントリノは、緑谷達を見て驚いていた。
「む!? んなっ…何故お前がここに!!!」
「グラントリノ!!!」
「座ってろっつったろ!!!」
「グラントリノ!!」
「まァ…よくわからんが、とりあえず無事なら良かった」
「グラントリノ………」
グラントリノは、緑谷の顔面に蹴りを入れると説教をした。
すると、他のヒーロー達もゾロゾロと出てくる。
「細道…ここか!? あれ?」
「エンデヴァーさんから応援要請承った、んだが…」
「子供…!?」
「酷い怪我だ、救急車呼べ!!」
「おいこいつ…ヒーロー殺し!!?」
プロヒーロー達は、子供が殺人鬼を引きずっているという目の前の光景に驚きつつも迅速に行動をする。
轟は、プロヒーローの一人に尋ねる。
「あいつ……エンデヴァーがいないのは、まだ向こうは交戦中という事ですか?」
「ああ、そうだ脳無の兄弟が…!」
「ああ! あの
すると、飯田がひなた達に頭を下げる。
「………三人とも…僕のせいで傷を負わせた。本当にすまなかった… 何も…見えなく…なってしまっていた……!」
飯田が言うと、ひなたはムスッとして頬を膨らませ、飯田の前に立つ。
「…天ちゃん。覚悟はできてるんでしょうね」
ひなたは、ムスッとした態度のまま飯田に声をかける。
ひなたが威圧するように言い放つと、飯田は覚悟を決めて目を瞑る。
するとその直後だった。
「や!」
「う゛!?」
ひなたは、飯田の腹めがけて思いきり頭突きをした。
思いの外強い力で頭突きされたので、飯田はビックリして間の抜けた声を上げた。
「はい! これでもうチャラ! キリがないからもう謝んのナシ!」
ひなたは、一発頭突きをしてスッキリしたのか満足そうな表情を浮かべて言った。
飯田がどれほどの覚悟でステインに挑んだのか、そして今回の過ちをどれだけ悔いたかを知っているからこそ、何も言わずに許したのだ。
緑谷も、逆に飯田が思い詰めていた事に気付けなかった事を申し訳なく思っていた。
「僕もごめんね、君があそこまで思い詰めていたのに全然見えてなかったんだ。友達なのに…」
「───…!」
飯田は、緑谷やひなたが声をかけてくれていた事を思い出して涙を流す。
すると轟も飯田に声をかける。
「しっかりしてくれよ、委員長だろ」
「……うん…」
轟が飯田を励ますと、飯田は腕で涙を拭った。
すると、その直後だった。
「伏せろ!!」
「え?」
グラントリノが叫んだ直後、翼の生えた脳無が飛んできた。
「!?」
「
その脳無は、緑谷を捕え上空へ逃げていった。
「緑谷くん!!」
「え、ちょ…」
「やられて逃げてきたのか!」
脳無が飛び去ると、脳無の血が女性ヒーローの顔に滴る。
脳無に連れ去られた緑谷は、上空で叫び声を上げる。
「わあああ!!」
「緑谷ァ!!!」
「くっ…!!」
ひなたは、捕縛武器を脳無に投げて緑谷を助けようとした。
だがその時、ひなたの横を何者かが通り過ぎる。
隠し持っていたナイフでひなたの拘束を解いたステインが女性ヒーローの頬に付いた血を舐め、脳無の動きを止めると脳無に飛びかかる。
ステインは、緑谷を抱え上げるとナイフを脳無の脳に突き刺して地面へと叩きつける。
「偽者が蔓延るこの社会も、徒に“力”を振りまく犯罪者も、粛清対象だ…ハァ…ハァ… 全ては、正しき社会の為に」
ステインがひなたの代わりに緑谷を助けたともとれる構図に、プロヒーロー達は動揺していた。
「助けた……!?」
「バカ、人質とったんだ…」
「躊躇なく人殺しやがったぜ」
「いいから戦闘態勢をとれ! とりあえず!」
騒ぎ出すヒーロー達に、別の路地裏から出てきたエンデヴァーが声をかける。
「何故ひとかたまりでつっ立ている!!? そっちに一人逃げたハズだが!!?」
「エンデヴァーさん!! あちらはもう!?」
エンデヴァーが脳無が逃げた方角を指差しながら言うとヒーロー達が驚きひなたも目をパチクリさせる。
エンデヴァーは、ステインが始末した脳無以外の脳無を全て始末して駆けつけてきたのだ。
「多少手荒になってしまったがな! して… あの男はまさかの…」
駆けつけたエンデヴァーは、ステインを発見する。
「うう…放っせ…!」
ステインは、暴れる緑谷を地面に下ろすとエンデヴァーを睨みつけた。
「エンデヴァー…」
「ヒーロー殺し───!!!」
「待て轟!!」
躊躇なく飛び出そうとするエンデヴァーにグラントリノが叫んだ、その直後だった。
「贋物…」
ステインから放たれる殺気に、その場にいた全員が動けなくなる。
ひなたは殺気に怯えながらも、『生かす価値がある』と言われたのを思い出した。
ステインはあの時点でひなたを殺す気など全くなく、子供をあやす感覚であしらわれていたのだと今になって思い知った。
そしてもし本気で殺しに来られていたら今頃命は無かったと思うとゾッとし、全身が硬直して動かなかった。
「正さねば──… 誰かが…血に染まらねば…! “
ステインの眼には、狂気とも呼べる底知れない殺意が宿っていた。
一度かかったら時間切れになるまで解けないはずのひなたの“個性”がいとも簡単に解けたのは、他でもなくその執念によるものだった。
エンデヴァーすらも怯ませる程の殺意が、ひなたの“個性”によって眠らされていた“個性”を強制的に叩き起こしたのだ。
その殺気にその場にいた者全員が後ずさり、腰を抜かすヒーローもいた。
だが…
「気を、失ってる…」
ステインは、立ったまま白目を剥いて失神していた。
轟と飯田は、緊張が解け地面にへたり込む。
ひなたも、目を見開いて滝のような冷や汗を流し、顔を真っ青にして膝をガクガク震わせていた。
誰も血を舐められてはいなかった。
だが、あの場であの一瞬、ヒーロー殺しだけが確かに、相手に立ち向かっていた。