抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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10が5件、9が24件…だと…!?
感謝感激雨霰。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。

※11/7 今更ですが、ひなちゃんの順位を変更しました。
理由は個性把握テストの時と同じです。


期末試験編
備えろ期末テスト


 時は流れ6月最終週。

 夏休みに行われる林間合宿の存在を皆が心待ちにする中、期末テストまで残すところ1週間を切ったのだが…

 

「全く勉強してね━━!!」

 

 上鳴は必死そうな様子で叫んでおり、芦戸は楽観的な様子だった。

 

「体育祭やら職場体験やらで全く勉強してねぇ━━!!」

 

 上鳴 中間テスト21/21位

 

「あっはっはっは」

 

 芦戸 中間テスト20/21位

 

「確かに」

 

 常闇 中間テスト15/21位

 

 ドベ二人の様子を見て、テストの順位があまり高い方ではない常闇も焦っていた。

 すると砂藤が口を開く。

 

「中間はま━━入学したてで範囲狭いし、特に苦労無かったんだけどな━━…行事が重なったのもあるけどやっぱ、期末は中間と違って……」

 

 砂藤 中間テスト13/21位

 

「演習試験もあるのが辛え所だよなぁ」

 

「「中間11位!?」」

 

 峰田 中間テスト11/21位

 

 余裕そうな表情を浮かべている峰田は、21人中11位と意外にも好成績だった。

 峰田をドベ仲間だと思い込んでいた芦戸と上鳴が峰田を非難する。

 

「あんたは同族だと思ってた!」

 

「お前みたいなやつは馬鹿で初めて愛嬌出るんだろが…! どこに需要あんだよ…!!」

 

「世界かな」

 

 峰田は、完全に調子に乗って答えた。

 

「ウゼェ!! ひなちゃん! 何か言ったれ!」

 

「えー…僕に振られても困るんだけど」

 

 相澤 中間テスト2/21位

 

 上鳴がひなたに詰め寄ると、ひなたは頭を掻きながら答える。

 

「何でだよチクショウ!! ひなちゃんも仲間だと思ってたのに!!」

 

「ひなたの裏切り者!」

 

「何でさ」

 

 勝手にひなたを同族だと思っていた二人はひなたを責めた。

 すると心操がひなたに助け舟を出す。

 

「相澤先生に直接教わってて低いわけないでしょ。授業中寝てるお前らと一緒にすんな」

 

 心操 中間テスト8/21位

 

「は……!」

 

「あははは…」

 

 成績優秀な心操が言ったため上鳴はさらにダメージを受け、ひなたは苦笑いを浮かべる。

 普段の言動からしてあまり頭が良さそうに見えないため(実年齢が10歳なので仕方ないところはあるが)、勝手にドベ仲間だと思われていたひなただったが、元々地頭がすこぶる良い上に相澤や山田に直接勉強を教わっているため普通にテストの成績も良かった。

 すると、緑谷が二人に声をかける。

 

「芦戸さん、上鳴くん! が…頑張ろうよ! やっぱ全員で林間合宿行きたいもんね!」

 

 緑谷 中間テスト5/21位

 

「うむ!」

 

 飯田 中間テスト3/21位

 

「普通に授業受けてれば赤点は出ねえだろ」

 

 轟 中間テスト6/21位

 

「言葉には気をつけろ!!」

 

 緑谷がドベ二人を励まし、飯田が頷く。

 さらに轟が追い討ちをかけるような発言をすると、上鳴がさらにダメージを受ける。

 するとひなたは、ニコニコと笑顔を浮かべながら二人に歩み寄る。

 

「電吉、みなっち。僕、1ヶ月くらい前から勉強した方がいいよって言ってたよね?」

 

「「……うん」」

 

「わからないとこあったらいつでも聞きに来てって言ったよね?」

 

「「………うん」」

 

「そしたら二人とも、『大丈夫大丈夫』って言ってたよね?」

 

「「………うん」」

 

「今日の今日まで何もしなかったのは、何でなのかなぁ?」

 

「「うわあああああああああ!!!」」

 

 ひなたがニコニコと笑顔を浮かべながら追い討ちをかけると、二人は膝から崩れ落ちた。

 それを見た緑谷と峰田は、他人事とは思えずガタガタ震えていた。

 

「相澤さん、ずっと笑顔なのに相澤先生みたいな威圧感だ…!」

 

「だから俺は前々から言ってんだ…このクラスで怒らせたら一番ヤバいのは相澤だって…!」

 

 ひなたの笑顔の圧に、二人は夏にもかかわらず冷や汗をかいていた。

 ひなたは、いつも明るくて優しく大抵の事は笑って許す大らかな性格だが、二面性があり、一度怒りのボルテージが振り切れると凶暴な性格に変貌する質だった。

 すると八百万が芦戸と上鳴に声をかける。

 

「お二人共、座学なら私お力添え出来るかもしれません」

 

 八百万 中間テスト1/21位

 

「「ヤオモモ━━━!!!」」

 

 八百万が言うと、二人は狂喜した。

 すると、八百万がポツリと呟く。

 

「演習の方はからっきしでしょうけど…」

 

「「?」」

 

 八百万が落ち込んでいると、轟とひなたは顔を見合わせて首を傾げた。

 すると、耳郎、瀬呂、尾白の3人が八百万に声をかける。

 

「お二人じゃないけど… ウチも良いかな? 二次関数応用ちょっと躓いちゃってて………」

 

 耳郎 中間テスト9/21位

 

「わりぃ俺も! 八百万古文わかる?」

 

 瀬呂 中間テスト18/21位

 

「俺も」

 

 尾白 中間テスト10/21位

 

「え、え」

 

 八百万は、クラスメイトから頼られた嬉しさで打ち震えていた。

 

「良いデストモ!!」

 

 八百万が大喜びで快諾し、5人は八百万の家に勉強をしに行く事になった。

 心操は、隣にいたひなたに話しかける。

 

「ひなたさ、確か理系教科と英語満点だったよな? 出来れば教えてほしいんだけど…」

 

「うん、もちろん! 今週末勉強会やろっか!」

 

 心操が頼むと、ひなたが頷く。

 すると八百万が、ひなたの提案に食いついた。

 

「勉強会…! それは良いアイディアですわ! では週末にでも私の家でお勉強催しましょう!」

 

「まじで!? うんヤオモモん家楽しみー!」

 

「ああ! そうなるとまず、お母様に報告して講堂を開けていただかないと…!」

 

(((講堂!?)))

 

「皆さんお紅茶はどこかご贔屓ありまして!? 我が家はいつもハロッズかウェッジウッドなのでご希望がありましたら用意しますわ!」

 

(((あ!?)))

 

「必ずお力になってみせますわ…」

 

 八百万は、クラスメイトに頼られたのが嬉しかったのか、プリプリと一人で張り切っていた。

 すると上鳴と耳郎は、ナチュラルに生まれの違いを叩きつけられつつも、八百万の態度に和んだ。

 

「なんだっけ? いろはす? でいいよ」

 

「ハロッズですね!!」

 

 上鳴が言うと、八百万は張り切った様子で答える。

 ひなたも、その場の雰囲気に和みつつリクエストを伝えた。

 

「僕は紅茶ならセーデルブレンドがいいんだけど、用意してもらえたりします?」

 

「セーデルブレンド…! ノーベル賞の晩餐会でも振る舞われる北欧紅茶ですわね! かしこまりました!!」

 

「わーいやったぁありがとうヤオモモ」

 

 ひなたがリクエストすると、八百万は上機嫌でリクエストに応えた。

 一方、爆豪の所へは切島以外誰も寄ってこなかった。

 

「この人徳の差よ」

 

 切島 中間テスト16/21位

 

「俺もあるわてめぇ教え殺したろか」

 

 爆豪 中間テスト4/21位

 

「おお! 頼む!」

 

 切島は、爆豪に勉強を教えてもらう事になった。

 

「フフ、皆焦っちゃって☆今更ジタバタしたってどうにもならないのに☆」

 

 青山 中間テスト19/21位

 

「お前はもう少しジタバタした方がいいんじゃないか?」

 

 障子 中間テスト12/21位

 

 青山が余裕ぶっこいていると、障子がツッコミを入れた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 昼休み、緑谷、飯田、轟、心操、麗日、蛙吹、葉隠、ひなたの8人が食堂で一緒に食事をとっていた。

 緑谷はカツ丼を、飯田はビーフシチューを、轟は蕎麦を、麗日と心操は日替わり定食を、蛙吹は洋食セットを、ひなたは味噌ラーメンを、葉隠は醤油ラーメンを注文して食べていた。

 緑谷は、期末試験の話をする。

 

「普通科目は授業範囲内からでまだなんとかなるけど…演習試験が内容不透明で怖いね…」

 

「突飛な事はしないと思うがなぁ」

 

「だといいけど…」

 

 緑谷が言うと、飯田と心操も心配そうに言った。

 

「普通科目はまだ何とかなるんやな…………」

 

 麗日 中間テスト14/21位

 

 緑谷がサラッと『普通科目は何とかなる』と言ったので、麗日はかなりショックを受けていた。

 

「一学期でやった事の総合的内容」

 

 葉隠 中間テスト17/21位

 

「とだけしか教えてくれないんだもの、相澤先生」

 

 蛙吹 中間テスト7/21位

 

「まあ多分午後のヒーロー基礎学でやった事の応用をやらされるんだと思うけど…」

 

「戦闘訓練と救助訓練、後はほぼ基礎トレだよね」

 

 葉隠と蛙吹が言い、ひなたも演習試験の内容を予測して言うと、麗日もヒーロー基礎学の授業内容を思い出しながら話す。

 すると、ひなたなら教師陣から情報を聞き出していないかと思った葉隠が尋ねる。

 

「ひなたちゃん何か聞いてない?」

 

「あー、うん。マイク先生に聞けると思ったんだけど、聞き出そうとしたらマイク先生が相澤先生に干されちゃって…結局聞けずじまいです。お役に立てず申し訳ない…」

 

「まあそりゃそっかー」

 

「逆に聞き出す寸前まで漕ぎつけたの凄いな…」

 

 葉隠が尋ねると、ひなたは頭を掻きながら答える。

 実はひなたは期末試験の情報を集めるために山田にそれとなく尋ねており、ひなたに激甘の山田がうっかり口を滑らせて試験内容を暴露しそうになったのだが、山田が言う前に相澤が山田を干したため結局聞けずじまいとなっていたのだ。

 

「試験勉強に加えて体力面でも万全に…あイタ!!」

 

 緑谷が話そうとすると、突然何者かが緑谷の頭を肘で小突く。

 緑谷が見上げると、後ろには物間が立っていた。

 

「ああごめん。頭大きいから当たってしまった」

 

「B組の! えっと…物間くん! よくも!」

 

「え? モノマー?」

 

「それは単量体だぞひなた君」

 

「あ、そっか」

 

 物間が嫌味を言うと緑谷が頭を押さえながら言い、ひなたが首を傾げながら言うと飯田が指摘しひなたがハッとする。

 すると物間がいきなり緑谷達を煽ってきた。

 

「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね。体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えていくよね、A組って。ただその注目って決して期待値とかじゃなくてトラブルを引きつける的なものだよね」

 

「!?」

 

「あー怖い! いつか君達が呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らにまで被害が及ぶかもしれないなあ! ああ怖い!」

 

 物間が煽りに煽っていくと、ひなたは物間の不謹慎な発言に若干苛立ちつつも口を挟まずにいた。

 だが、ひなたの表情の変化を察した物間がひなたをターゲットにして煽りまくる。

 

「ん? 何だいその顔は? もしかして怒ってるのかい? 君、相澤先生の娘って言ってたけど…君みたいな問題児を抱えた相澤先生が不憫でならないなぁ。ああ、ひょっとしてトラブルを引きつけてばかりで先生に迷惑かけてるって自覚が無いのかな? メディア嫌いなのに身内のせいで悪目立ちしてしまう先生の気持ちとか少しは考えたらどうなんだい?」

 

 物間が煽ると、ひなたは下を向いて黙り込む。

 すると轟と心操がひなたを庇うように反論した。

 

「やめろよ。不謹慎だろ」

 

「あんた、それでもヒーロー科かよ」

 

「あれあれ? 僕は事実を言っているだけだよ? 身内に迷惑かけるとか、ヒーロー科以前に人としてあり得ないよね?」

 

 二人が物間に反論すると、物間がさらに反論で返す。

 すると轟が怒りを露わにして物間に反論しようとする。

 

「お前…!」

 

「焦ちゃん、いいよ。事実だし…」

 

 轟が席から立ち上がろうとすると、ひなたは慌てて轟を止めた。

 ひなたは、物間の言う通り相澤に迷惑をかけている自覚があった。

 自分を助けてくれた相澤に親孝行どころか迷惑しかかけていないと思っているからこそ、物間にそれを指摘されて何も言い返せなかったのだ。

 

「なあんだ自覚があるんじゃないか。って事は、迷惑がかかるのをわかっててトラブルを引きつけてたって事だよね? それって一番タチ悪いんじゃないのか…ふっ!!」

 

 物間がさらにひなたを煽ろうとすると、すぐに背後から手刀が飛んできて物間は気絶した。

 物間の背後には、B組の姉貴分の拳藤が立っていた。

 

「洒落にならん。飯田の件知らないの? あとさっきのひなたへの悪口だけど、あんた相澤先生の事も貶めてるからな」

 

 拳藤は、すかさず物間の食事を預かって近くのテーブルに置く。

 

「ごめんなA組、こいつちょっと心がアレなんだよ」

 

「拳藤くん!」

 

「心がアレって…」

 

 拳藤が物間の代わりに謝ると、飯田が振り向きひなたが苦笑いを浮かべながらツッコミを入れる。

 すると拳藤が緑谷達に期末試験の話をする。

 

「あんたらさ、さっき期末試験が不透明とかって言ってたよね。入試ん時みたいな対ロボットの実戦演習らしいよ」

 

 拳藤が言うと8人全員が驚き、緑谷が拳藤に尋ねる。

 

「え!? 本当!? なんで知ってるの!!?」

 

「私知り合いに先輩がいるからさ、聞いた。ちょっとズルだけど」

 

「ズルじゃないよ! そうだきっと前情報の収集も試験の一環に織り込まれてたんだ。そっか、先輩に聞けば良かったんだ。何で気付かなかったんだ…」

 

「………!?」

 

「ああ…気にしないでいっちん。デッくんいつもこうだから」

 

 拳藤の発言を聞いて緑谷がブツブツ言うと、拳藤がドン引きしひなたが拳藤に言った。

 すると拳藤に引き摺られていた物間が息を吹き返した。

 

「馬鹿なのかい、拳藤? 折角の情報アドバンテージを!! こここそ憎きA組を出し抜くチャンスだったんだ…」

 

「憎くはないっつーの」

 

 物間が言うと、拳藤は再び物間に手刀を叩き込んで気絶させた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、A組の教室では。

 

「んだよロボならラクチンだぜ!!」

 

「やったあ!」

 

 緑谷から試験内容を聞かされた上鳴と芦戸は、呑気に喜んでいた。

 その様子を、障子が呆れながら見ていた。

 

「お前らは対人だと“個性”の調整大変そうだからな……」

 

「ああ! ロボならブッパで楽勝だ!!」

 

「あとは勉強教えてもらって」

 

「これで林間合宿バッチリだ!!」

 

 芦戸、上鳴、瀬呂の3人が盛り上がっていると、ひなたは苦笑いを浮かべる。

 二名ほど浮かれている者がいる中、A組は迫り来るテストに対して緊張感を高めていた。

 中でも、特に心操は試験に対して憂鬱な姿勢だった。

 

「……ロボ演習か。対策練っとかないと」

 

「あ、そっか。心操くんの“個性”、ロボ相手だと効かないもんね」

 

「こればっかりは仕方ないわね。お互い頑張りましょう」

 

「…うん」

 

 心操が憂鬱そうに頭を掻きながら言うと、麗日と蛙吹が心配しつつも励まし、心操は不安がりながら頷いた。

 心操の“個性”はロボット演習には向かない“個性”なので、最悪赤点の可能性もあるのではないかと不安を抱えていた。

 するとひなたが首をコテンと傾げながら口を挟む。

 

「それなんだけどさ。演習って本当にロボなのかな?」

 

「「………え?」」

 

 ひなたが唐突に口を開くと、上鳴と芦戸がひなたの方を振り向く。

 するとひなたは、自分の考えを話し始めた。

 

「だって、今年はUSJの襲撃事件だってあったのに、今更ロボはハッキリ言ってイージーすぎでしょ。入試のロボ無双も、ひー君みたいな“個性”だと実力を正確に測れないから非合理極まりないってお父さんも愚痴ってたし。ま、個人の相性も考慮した上で、そこを突くような試験内容を想定しといた方が賢明だと思うよ」

 

「「……………」」

 

 ひなたが二人のお祭り気分に水を差すような事を言うと、二人は笑顔のまま絶望の表情を浮かべる。

 ただでさえテスト勉強で追い込まれている二人に盛大に追い討ちをかけたところで、ひなたは席から立ち上がって帰ろうとする。

 

「じゃ、そういうわけで。お疲れ様ー」

 

「「待て待て待て待ってええええ!!」」

 

 ひなたが帰ろうとすると、上鳴と芦戸が食い止めた。

 

「……何?」

 

「ロボ演習じゃないならどうしたらいいの!? ねえ!」

 

「助けてひなたぁ!!」

 

「もうすぐ七夕だし、短冊書いたら? ま、お星様が憐んでくれても、先生達が憐れんでくれるかはわかんないけど」

 

「「そんな殺生な!!」」

 

 縋り付く二人に対してひなたが冷たく突き放すような事を言うと、二人はとうとう涙目になる。

 するとひなたは、さすがにいじめすぎたかと思い頬を掻きながら提案する。

 

「冗談だよ。勉強会のついでに期末試験のシミュレーションでもやっとこっか。やらないよりはマシだと思うよ」

 

「ひなちゃああああああん!!」

 

「ひなたああああああああ!!」

 

 ひなたが言うと、二人は感極まってひなたに泣きながら抱きついた。

 その日から一週間、ひなた達はひたすら期末試験の勉強に打ち打ち込んだ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 テスト一週間前の日曜日。

 心操は、八百万の家で勉強をする為、上鳴達と駅で待ち合わせをしていた。

 6人は待ち合わせ時刻の5分前には集まったのだが、ひなただけがなかなか来なかった。

 

「ひなた遅いな…いつもは待ち合わせの10分前には来るんだけど」

 

「まあ別にまだ遅刻って決まったわけじゃないからいいんじゃね?」

 

 心操がスマホで時刻を確認しながら言うと、瀬呂が楽観的に言った。

 瀬呂の言う通り、まだ集合時刻の1分前で、今来ていないからといって遅刻と決まったわけではなかった。

 するとその直後、忙しなくヒールの音が駅に響く。

 

「ごめーん!! 時間ギリギリだぁ!!」

 

 そこには、珍しくきちんとした服装をしたひなたがいた。

 ひなたは、ミントグリーンと白を基調としたブラウスにブルーのスカートといった上品な格好をしていた。

 

「おぉ、ひなちゃん! 今日は何つーか、いつになくフォーマルな…!」

 

「今日すごい気合入ってるけど、どうしたの?」

 

「えへへ…よく考えてみたら、ヤオモモんちお金持ちだしマナーとかも厳しいだろうから、服装とか気にした方がいいのかな〜って…色々考えてたら、気付いたら遅刻ギリギリになってしまって…申し訳ない」

 

 瀬呂と尾白が言うと、ひなたは頭を掻きながら謝る。

 

「……変かな」

 

「いや、似合ってるよ。色合いとかも、今の季節にピッタリだと思う」

 

「っ〜!!」

 

 心操が普通にひなたを褒めると、ひなたは目を見開いて顔を真っ赤にする。

 すると瀬呂と上鳴は、それについてコメントした。

 

「出た、天然ジゴロ」

 

「アレがモテる男の態度か……!」

 

 八百万の家に合わせてきちんとした服装で来たひなたを見て、耳郎は自分の服装が変ではないかと不安がる。

 そんな耳郎を、上鳴が遠目で見ていた。

 その後ひなた達は、八百万の家の前まで行った。

 

「え、ここ……?」

 

「ウソだろ……どっかの大使館じゃねーの……??」

 

「ブルジョワやないかい」

 

 上鳴と瀬呂とひなたが呆然と呟く横で、尾白がスマホで地図を確認して言う。

 

「いや、住所はここで合ってるよ……」

 

「まじか…」

 

「超~豪邸!!!」

 

 心操が唖然とし、芦戸が簡素にそして素直に驚きを口にした。

 7人の前にそびえ立つのは、門。

 首を真後ろに倒させてしまうほどの高さと豪奢な造りをしている。

 門に続いている塀も同じように高く、永遠に続くのかと思うほど果てしない。

 最寄駅で待ち合わせしてやってきた7人は、八百万の家に向かう途中に現れたあまりに延々と続く壁の存在に気づいたとき、最初は何の建物なのかと興味を引かれるくらいだった。

 けれどそれが目的地に近づいても一向に終わってくれないので、じんわりと嫌な予感をつのらせながら歩いてきた。

 上鳴と芦戸は、そうでもなく楽しく会話しながら歩いてきたが。

 とにかく、塀と門だけでも圧倒されるのに十分だ。

 お嬢様だと思っていたが、まさかこれほどとは。

 人間、予想以上の事態には及び腰にもなるというもの。

 耳郎の眉が不安そうにしかめられたそのとき、目の前の門が開いた。

 大きな門のわりにはスムーズに開かれ、よく手入れされているのがわかる。

 

「耳郎様、芦戸様、上鳴様、瀬呂様、尾白様、相澤様、心操様でございますね」

 

 開いた門の先には礼服を着たやや小柄な老人が立っていた。

 七十代前半といったところだろうか。

 柔和な顔立ちに白髪交じり。

 だが背はピンと伸びて若々しい印象を与える。

 

「は、はいっ」

 

 普段年長者から様付けで呼ばれる事のない7人は、あわてて返事をする。

 それに応えるように老人は皺を刻みながら品よく微笑んだ。

 

「よくおいでくださいました。私、八百万家の執事の内村と申します。百お嬢様が首を長くしてお待ちしております。さ、どうぞこちらへ」

 

「は、はいっ」

 

 7人はぎくしゃくと内村のあとについていく。

 

「執事! 本当にいるんだね、執事!」

 

「執事がいるって事は、もしやメイドさんもいるんじゃねえ!?」

 

「でも多分電吉が思ってるのと違うと思うよ」

 

 小声ながらも興奮を抑えきれない芦戸の言葉に、上鳴も小声で同意する。

 ひなたが小声でツッコミを入れた、その時だった。

 

「はい、おりますよ」

 

 執事は三人の会話に、にこやかに答えた。

 三人のぶしつけな会話にも、気を悪くしてはいないようだ。

 森と思うような美しく手入れされた広大な庭を抜けたところに現れた家に、ひなた達は改めて圧倒された。

 大使館どころの話ではなく、城だった。

 もう一度門の外に戻ってここは日本かと確かめたくなるような、立派な西洋建築が威風堂々と建っている。

 

「いらっしゃいませ」

 

 そして通された玄関ホールでひなた達を待っていたのは、多勢のメイド達だった。

 ひなたの言う通り、全員が全員露出度が低く足先が見えない程長い丈のメイド服とホワイトブリムを身につけており、上鳴が想像していたような萌え系のメイドではなかったが、それはそれで唆るものがあった。

 ひなた達がなんと挨拶をしたものかと戸惑っていると、ホールの奥から小走りでやってくる女性がいた。

 

「まぁまぁいらっしゃい……! いつも百がお世話になって……百の母でございます」

 

「あっ、こんにちは」

 

 7人を前にふわりと笑う顔は、八百万を大人にし、やわらかくしたような印象だ。

 

「こんなにたくさんお友達がいらしてくれるなんて、とても嬉しいわ……あら、あなた」

 

「え」

 

 耳郎は思わず自分の服を見た。八百万母の視線がじっと自分の服に注がれていたからだ。

 自分で襟ぐりを大きく切りカスタマイズした肩出しTシャツに、革パン、手首には革に鋲のついたブレスレット。

 自分の中では、おとなしめのセレクトだ。

 やわらかそうなカーブを描いていた八百万母の眉が、わずかに寄せられたような気がする。

 だが、それは繕うような笑みにすぐにうち消された。

 

「あっ、百は今、講堂で準備をしておりますの。さっそくご案内いたしますわね」

 

「それでは……」

 

「いいわ、じいや。私が」

 

 八百万母は執事にそう言うと、「どうぞこちらへ」とひなた達を案内するように家の奥へ進んでいく。

 7人はゆったりとした歩みについていきながら、しげしげと家の中を見回した。

 花と植物の描かれた壁紙に、大理石の床。

 廊下の壁にはどこかで見たことのある絵画や壺が飾ってあったり。

 

「ベルサイユ宮殿だ……行った事ないけど」

 

「だな……行った事ないけど」

 

「同意だよ……」

 

「動きのあるデザイン…豪華絢爛な装飾…! まさにバロック建築って感じだぁ!」

 

「詳しい」

 

「写真撮っても!?」

 

「やめなよ、はしたない」

 

「もちろん、構いませんわ!」

 

 ひなたが目を輝かせながら言うと、心操がツッコミを入れる。

 アホっぽい雰囲気のひなたから放たれる知的なワードは、絶妙なギャップを生み出していた。

 ひなたが写真を撮ってもいいか尋ねると、心操がひなたを窘めるが、八百万の母はとても嬉しそうに了承した。

 ひなたは、目を輝かせながら何枚も写真を撮る。

 するとその時、芦戸が感心したように言う。

 

「ここがヤオモモんちなんだねー。そりゃお嬢様だわ!」

 

「ヤオモモ?」

 

 芦戸の言葉に、八百万母が振り返る。

 耳郎はあわてて口を開いた。

 

「あっ、ヤオモモはヤオモモの……じゃなくて、えっと百さんのあだ名っていうか」

 

「まぁ、百はあだ名で呼ばれているのね! ヤオモモ……ヤマモモみたいで可愛らしいわ。私もつけてもらいたいくらい」

 

「それじゃ、ヤオモモのママだから、ヤオママだ!」

 

「私のあだ名? 嬉しいわ、ヤオママと呼んでくださらない?」

 

「ヤオママー!」

 

「はーい」

 

 無邪気な芦戸の提案に、言葉どおり嬉しそうに笑う八百万母は心からの笑顔に見える。

 けれど耳郎にはさっきの八百万母の視線が喉に引っかかった小骨のように残っていた。

 

「どした? 下ばっか見て」

 

 上鳴に声をかけられ、耳郎は顔を上げる。

 

「……うっさい。別に、きれいな廊下だなって思っただけ」

 

「あ~、だよな。夏とかここで転がりてえよな。涼しそう」

 

「風邪引くぞ」

 

 上鳴が言うと、心操がツッコミを入れる。

 耳郎も、上鳴に若干呆れた様子だった。

 

「転がりたくはない」

 

「あっ、なんだよー」

 

 能天気そうな上鳴の顔に、耳郎はふっと小さく息を吐いた。

 

「あんたが一番がんばんなきゃいけないんだからね。なんせクラス最下位なんだから」

 

「……言うな、言うな。みなまで。すべては八百万先生にかかっているんだからよ」

 

「ヤオモモにすべてを託すな」

 

「だから、みなまでだって言ってんだろー」

 

「電吉ー、僕も手伝うよー」

 

「ひなちゃん大先生!!」

 

「グーグル大先生みたいに言うな!」

 

 それから少しして、やっと7人は講堂に着いた。

 講堂というだけあってさすがに広い。

 その片隅に長いテーブルと椅子が用意されていた。

 

「百、お友達をお連れしましたよ」

 

「みなさん、ごめんなさい。お出迎えもせず……さっきまでどの参考書がいいか迷っていましたのっ」

 

 講堂で待っていた八百万は、メガネをかけ先生仕様だ。

 上気した頰とキラキラとした目が、今日の日を心待ちにしていた事を物語っている。

 

「それじゃ、私はこれで……あとでお茶を持ってまいりますわ。百、しっかり教えて差し上げるのよ」

 

「はい、お母様」

 

 扉を閉め八百万母が出ていくと、耳郎は人知れずホッとしてしまった。

 そんな自分がやる気満々の八百万の前で、少しだけ後ろめたい。

 心操は、どこか後ろめたい様子の耳郎の方に何となく視線を向けていた。

 そんな耳郎には気づかず、八百万は鼻息荒く7人に声をかける。

 

「さっ、おかけになって。さっそく勉強を始めましょう!」

 

「わかんないとこあったら僕も教えるからね!」

 

「おー!」

 

「よろしく」

 

「頼むぜ、八百万先生! ひなちゃん先生!」

 

「先生方の肩に、俺の林間合宿がかかってんだ……!」

 

「だから託すなっての」

 

 皆からの期待に、八百万は感動に打ち震えながらしっかりと答えた。

 

「任せてください! 必ずみなさんのお役に立ってみせますわ……!」  

 

 かくして、勉強会は始まった。

 

 

 

 

 




※ウソ次回予告
・親子喧嘩
・ひーちゃんの父親と彼氏(仮)が大喧嘩
・リカバリーガールのキッスが炸裂

中間順位

1位 八百万百
2位 相澤ひなた
3位 飯田天哉
4位 爆豪勝己
5位 緑谷出久
6位 轟焦凍
7位 蛙吹梅雨
8位 心操人使
9位 耳郎響香
10位 尾白猿夫
11位 峰田実
12位 障子目蔵
13位 砂藤力道
14位 麗日お茶子
15位 常闇踏陰
16位 切島鋭児郎
17位 葉隠透
18位 瀬呂範太
19位 青山優雅
20位 芦戸三奈
21位 上鳴電気

ちなみにひーちゃんは1位のヤオモモとは1点差です。
英語と数学・理科は満点、ヒーロー基礎学と社会は96点、苦手教科の国語は95点です。

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