抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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今回はひー君が頑張る回です。
10が6件、9が25件…だと…!?
感謝感激雨霰。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。


むけろ一皮

 ひなたと緑谷は、リカバリーガールの出張診療所でクラスメイトの試合を観戦していた。

 すると緑谷がリカバリーガールに尋ねる。

 

「あの……今回テストと言いつつも、意図的に各々の課題をぶつけてるんですよね?」

 

「そうさね。例えばあんたの場合なら爆豪とのチームワーク、この子の場合ならイレイザーに倣いすぎた挙動の改善っていったところかね」

 

「やっぱり……」

 

 リカバリーガールが言うと、ひなたは苦笑いを浮かべながら頭を掻く。

 自分でも相澤や山田を尊敬するあまり二人の挙動を意識しすぎている自覚があり、相澤が対戦相手だったのも柔軟さを身につけさせるためだろうと予測していたのだ。

 緑谷は、モニターを見て少し考え込んでいた。

 

「あの、何となくわかる組もあるんですが…中には『何が課題なんだろう』って組も……例えばその…常闇くんと蛙吹さんとか…エクトプラズム先生の“個性”が二人に天敵だとも思えないし…」

 

 モニターを眺めていると、エクトプラズムが“個性”を使って口から煙のようなものを吐く。

 すると煙がエクトプラズムの形になる。

 

 

 

 エクトプラズム

 “個性”『分身』

 口からエクトプラズムを飛ばし、任意の位置で本人に化けさせられる! 

 一度に出せる人数はだいたい30人! 

 しかし、カラオケで2〜3曲歌った後とか36人くらい出るらしいぞ! 

 

 

 

「いや、天敵だと思うよ。ふみにゃんにはね。USJと体育祭の騎馬戦で一緒になってわかった事だけど、ふみにゃんは射程範囲が広いのと攻撃速度が速いのが強みだけど、間合いに入られたら結構キツい。だから間合いに入られないように僕達がそこら辺考えてフォローに回ってたわけ」

 

 ひなたは、戦局を見てそう呟く。

 常闇は、エクトプラズムの分身攻撃を黒影(ダークシャドウ)でいなしていくが、突然間合いに分身が現れる。

 すると蛙吹が舌を伸ばしてエクトプラズムの分身を叩き常闇をフォローする。

 

「なる程、それで数と神出鬼没のエクトプラズムか…ほとんど無敵だと思ってた……」

 

「そゆこと」

 

 緑谷が感想を言うと、ひなたは両手の人差し指で緑谷を指差しながら同意する。

 

「一方で蛙吹梅雨。課題らしい課題のない優等生さね。故にあんたが今言ったように、強力な仲間の“わずかな弱点”をもサポート出来るか否か、あの子の冷静さは人々の精神的支柱となりうる器ね」

 

「思えばUSJじゃ蛙吹さんが冷静でいてくれたおかげでずいぶん助けられた」

 

 リカバリーガールが言うと、緑谷が頷く。

 その時、蛙吹と常闇が脱出ゲートとエクトプラズム本人を発見する。

 するとエクトプラズムが口から巨大な分身『強制収容ジャイアントバイツ』を繰り出す。

 二人は逃げようとするが、ジャイアントバイツに捕まってしまった。

 すると常闇は、黒影(ダークシャドウ)だけでも脱出させようとする。

 だが、エクトプラズムは義足で黒影(ダークシャドウ)の攻撃をいなし退けていく。

 エクトプラズムの強烈な蹴りが決まると、黒影(ダークシャドウ)は仰反る。

 すると黒影(ダークシャドウ)は、何かを掴んでエクトプラズムを殴りつける。

 エクトプラズムは、黒影(ダークシャドウ)の拳を蹴りで受けた。

 だが…

 

「あ!」

 

 ひなたが目を見開いてモニターを指差す。

 エクトプラズムの義足には、カフスがかかっていた。

 蛙吹が咄嗟に飲み込んだカフスを胃袋ごと吐き出し、黒影(ダークシャドウ)に渡したのだ。

 

「カフスをかける事さえできればクリアだ! 『黒影(ダークシャドウ)』と『蛙』、双方の“個性”を上手く使い合った!」

 

『蛙吹・常闇チーム条件達成!』

 

 緑谷が両手でガッツポーズをしながら言うと、リカバリーガールが二人の条件達成をアナウンスする。

 

「これであとは7組!」

 

「そうだね。この二人にも少しはふみにゃんと梅雨ちゃんを見習ってもらいたいんだけど…」

 

 そう言ってひなたが苦笑いを浮かべ頬を掻きながら眺めていたのは、芦戸ペアのモニターだった。

 芦戸と上鳴は、校長相手に苦戦していた。

 建物を崩されて次々と道を閉ざされ、校長からもゲートからもどんどん遠ざかっていく。

 校長は、邪悪な笑みを浮かべ高笑いしながら紅茶を飲んでいたが、二人をいびるのに興奮するあまり紅茶をこぼしていた。

 

 

 

 根津

 “個性”『ハイスペック』

 “人間以上の頭脳”という“個性”が発現した動物! 

 世界的にも例を見ない唯一無二の存在だ! 

 

 

 

「上鳴くんと芦戸さん、大丈夫かな…!? キッツイぞ……」

 

「根津は昔人間に色々弄ばれてるからね…こういう時うっかり素が出るね」

 

「あはは…」

 

 緑谷は恐ろしいものを見るような表情を浮かべ、リカバリーガールが呆れ返る。

 ひなたも、顔を引き攣らせて苦笑いを浮かべていた。

 そして、ふと耳郎ペアの方に目を向ける。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ゲートの前で待ち伏せしていたプレゼントマイクは、一人で愚痴を言っていた。

 

「速く終わらしてくれよ〜〜〜俺ったらこういう森モリしたとこ好きじゃないワケ」

 

 一方、耳郎と心操は、だいぶ遠回りではあったが少しずつゲートに近づいていた。

 

「大回りしてちょっと近付けた。けど、手錠を掛けるにしろゲートをくぐるにしろ、多分ゲート前にいるから対峙は不可避……」

 

 耳郎が言いかけた、その時だった。

 

 

 

『まァだですかああああああ!!!!?』

 

 

 

 爆音攻撃が二人に直撃し、二人とも耳を塞いで顔を歪める。

 

「なのに! …コレ! もうっ……ムリ……!」

 

「これだけ離れてんのに声が届くとかふざけてんだろ…!!」

 

 耳郎と心操は、耳を塞ぎながら耳の激痛に耐える。

 だがその時、心操はふとある事に気がつく。

 

「……そうだ、声!」

 

 心操が目を見開いて言うと、耳郎が聞き返す。

 

「え、何!?」

 

「こんだけの爆音だから考えもしなかったけど、結局『声』なんだよ! だから息継ぎも必要だし、お前の“個性”と違ってずっと同じ強さで出せるわけじゃない! それをうまく突けばいけるかもしれない!」

 

 心操がそう言うと、耳郎が目を見開く。

 もしかしたら何か作戦を思いついたのかもしれないと思ったのだ。

 

「……! 何か考えがあるの!?」

 

「ああ…! 絶対失敗は許されないが、多分成功確率は高い!! っていうかもうこれしか無い!!」

 

「聞かせて!」

 

 耳郎が言うと、心操は作戦を話し始める。

 作戦はこうだった。

 プレゼントマイクの声が不安定になってきたタイミングで耳郎が心音で相殺し、その間に心操が声が聞こえる距離まで接近する。

 そして、プレゼントマイクの“個性”のインターバル中に『洗脳』を使ってありったけの大声を張り上げる。

 心操の声に反応してプレゼントマイクが声を出せば洗脳スイッチが入り、洗脳を警戒して無視をすればそのまま『問いかけ』を連発しながら接近するという二段構えの作戦だった。

 

「確かに…それならクリアできるかもしれない! っていうかそれしかない! でもその作戦、あんたの負担大きすぎない!? 万が一失敗したら…」

 

「でもこれ以外無いだろ!? 大丈夫、絶対成功させる! 俺を信じろ!!」

 

 耳郎は、心操の『絶対成功させる』という言葉を信じ、靴に仕込んだ指向性スピーカーにジャックを差し込んで心音を爆音で放つ。

 するとプレゼントマイクの声が耳郎の心音で相殺されて弱まり、その間に心操が全速力で接近する。

 

 

 

 耳郎響香

 “個性”『イヤホンジャック』

 プラグを挿す事で自身の心音を爆音ボリュームでお届け!! 

 他にも繊細な音をキャッチしたりとか! 

 

 

 

「ぐっ……!!」

 

 全速力でプレゼントマイクに接近していた心操だったが、声が弱まっている状態の上に耳郎が相殺しているとはいえ、やはり近づきすぎると鼓膜が破れそうな爆音に晒される。

 だが心操の読み通り、声が震えて弱くなったかと思うとパッタリと爆音が止んだ。

 その瞬間に心操は、耳の激痛に顔を歪めながらも大きく息を吸い込む。

 

「安い音だなァ……ん?」

 

 プレゼントマイクは、耳郎の放った爆音を聴いて鼻で笑っていた。

 だが息継ぎをして次の攻撃を仕掛けようとしたその時、森の奥から声が聴こえてくる。

 

 

 

「あああああああああああああ!!!!」

 

「!!」

 

 突然森から心操の声が聞こえてきたので、プレゼントマイクは叫ぶのをやめて森の方を振り向く。

 

「ッ、ハァ…ハァ…」

 

 大声を張り上げた心操は、耳の激痛に耐えながら息を切らしていた。

 一方、プレゼントマイクは心操の叫び声を無視して考えていた。

 下手に声を出して洗脳スイッチが入ってしまうのを警戒していたのだ。

 

(心操の野郎、耳郎の音で相殺してる間に接近してきたか。あっぶねぇ、今叫んでたら洗脳されちまうとこだった。あいつ、『問いかけ』をやられるとこっちは声を出せないのをいい事に連発しながら接近してゲートをくぐる気だな…)

 

 そう考えていたプレゼントマイクだったが、邪悪な笑みを浮かべていた。

 

(……馬鹿が。俺の所に来る頃にはとっくに声が枯れてるっつーの。声が止んだ瞬間ブッパでフィニッシュだ)

 

「降参するなら今ですよ!!? 既に倒す算段はついてます!!! 痛い目に遭いたくなかったらそこをどいて下さい!!」

 

 心操は、ありったけの声で叫んでプレゼントマイクを洗脳しようとする。

 だがプレゼントマイクは、心操の声が枯れるのを狙っていたため挑発を無視した。

 プレゼントマイクが口笛を吹いて知らんぷりをする。

 すると、プレゼントマイクの読み通り心操の声が少しずつ枯れてくる。

 

「どかないならホントにやりますよ!!? …ゲホッ、いいんですか!? ゴホッゴホッ、これをやったら…ゴホッ、あんたタダじゃ済みませんよ!!?」

 

(もうそろそろ限界だな、こりゃ)

 

 プレゼントマイクがそう考えていると、早速心操が激しく咳き込んで問いかけをやめる。

 するとその瞬間を狙っていたプレゼントマイクが爆音攻撃を浴びせようとする。

 だがその時、突然森から耳郎が現れる。

 

「!?」

 

「すいません先生!!」

 

 突然現れた耳郎にプレゼントマイクが驚いた瞬間、耳郎は爆音をプレゼントマイクに浴びせた。

 声を放つ前に爆音を喰らったプレゼントマイクは、著しく動きが鈍る。

 耳郎が足音も立てずにいきなり現れたので、プレゼントマイクは動揺していた。

 

(馬鹿な…!? 足音なんかほとんどしなかったぞ!? どうやってここまで近づいてきたんだ!?)

 

 耳郎は、プレゼントマイクの動きが鈍り動揺している間にゲートに向かって突っ走る。

 だが流石はプロと言うべきなのか、プレゼントマイクは耳郎の背後から詰め寄りそのまま耳郎の手首を力強く掴む。

 錘をつけている上に動きが鈍っているとは思えないほど素早く無駄のない動きだった。

 

「痛!?」

 

「惜しかったなロックガール。ゲームオーバーだ」

 

 そう言ってプレゼントマイクが耳郎を睨みつけて組み伏せようとした、その時だった。

 突然プレゼントマイクの身体が、心操が投げつけてきた捕縛武器で拘束される。

 

「何!?」

 

 突然イレイザーヘッドと同じ捕縛術で拘束されたので、プレゼントマイクは目を見開く。

 イレイザーヘッドの捕縛術を間近で見てきたプレゼントマイクなら、心操のまだ習いたての捕縛武器を避けられないわけがなかった。

 だが爆音で動きが鈍っていたのと、耳郎を掴んだ時に一瞬だけ大きな隙ができた事で、捕縛武器を避ける間もなく拘束されたのだ。

 すると耳郎は、器用にジャックを使ってプレゼントマイクの腕にカフスをはめた。

 

(! ああ…そういう事)

 

 プレゼントマイクは、自分の身体に巻きついた捕縛武器を見て、ようやく耳郎がどうやって足音を立てずに接近したのかに気がつく。

 耳郎は、捕縛武器で心操に引っ張ってもらって空中を移動していたのだ。

 それでも発生する僅かな音に関しては、心操が風向きなどを計算して捕縛武器で木々を揺らし、葉擦れを起こして耳郎の移動音を誤魔化していた。

 そのためプレゼントマイクは、挑発を繰り返してくる心操にばかり気を取られて耳郎が接近している事に気付かなかった。

 プレゼントマイクは、自分の腕にはめられたカフスを見て観念したかのように目を細めてフッと笑いため息をつく。

 

「………あーあ。確かにこりゃゲームオーバーだな」

 

 するとその直後、リカバリーガールの声が鳴り響く。

 

『耳郎・心操チーム条件達成!』

 

 試験をクリアすると、心操はやっと緊張が解けたのか大きなため息をつく。

 

「っ…ハァ、先生がゲート前で待ち構えてる状況で逃げるのは無理ゲーだし、やっぱりこっちにしておいて正解だった…」

 

「か━━━…最後の最後にイレイザーの技使ってくるとはな。合格だ、おめでとさん」

 

 心操が呟くと、プレゼントマイクはしてやられたと言わんばかりにケタケタ笑った。

 試験の時のヒールっぷりはすっかり消え去り、いつものプレゼントマイクに戻っていた。

 すると耳郎は、嬉しそうに心操に駆け寄って話しかける。

 

「心操! ありがとう! あんたの作戦、上手くいったよ! ……心操?」

 

 試験に合格したというのに心操は顔色が悪く返事が無かったので、耳郎は心操を心配する。

 心操が左耳を覆っていた手をどけると、耳郎は目を見開いてギョッとする。

 

「………っ!!!」

 

 心操の耳は血で真っ赤に汚れており、鼓膜が破れた激痛で顔を歪めていた。

 

「心操、あんた…耳……!!」

 

 耳郎が心配そうに話しかけると、心操は耳の激痛に耐えながら話し始める。

 

「どのみち声が届く距離まで近づくなら耳は犠牲にしなきゃいけなかった…息継ぎのタイミングが分からなかったから、鼓膜破れたと同時に叫んだ。先生を挑発したのも洗脳を仕掛けてると思い込ませて叫ぶのをやめさせるためだけで、ただひたすら叫んでただけだ」

 

 心操がひたすらプレゼントマイクに叫んでいた時の事を話すと、プレゼントマイクは若干呆れ気味に笑った。

 

「最初からこうする気だったってか…ははっ、お前優等生のくせに中々クレイジーだな。婆さんのとこ行って早よ治してもらえ」

 

「………え? 何て?」

 

 プレゼントマイクが言うと、聞こえていない心操が聞き返す。

 自分では割とカッコいい事を言ったつもりだったので、プレゼントマイクはガクッと肩を落とす。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後二人は、リカバリーガールの出張診療所に寄って心操の耳を治療してもらった。

 

「やりすぎだよこのお馬鹿!!」

 

「痛ってえ! カンベンだぜ婆さん!」

 

 リカバリーガールは、呆れ返ってプレゼントマイクの脛を杖でどつきながら叱る。

 すると追い討ちをかけるかのようにひなたがプレゼントマイクのそばへ行き、ボソッと呟く。

 

「パパ、ひー君の鼓膜破った事絶対許さないから」

 

「シヴィ!!」

 

 ひなたは笑顔だったが、本人の言葉通り怒りが表情に現れていた。

 愛娘に嫌われたプレゼントマイクは、かなりショックを受けていた。

 モニターで二人の試合を見ていた緑谷とひなたは、二人に声をかける。

 

「凄いよ耳郎さん、心操くん! あの状況でプレゼントマイク相手に作戦勝ちするなんて!」

 

「ひー君、きょーちん! おめでとう! でもひー君、あんま無茶しちゃダメだからね!!」

 

「そうだよ、あんた無茶しすぎ! 耳犠牲にして特攻仕掛けるなんて聞いてなかったんだけど!?」

 

 ひなたと耳郎が自分の耳を犠牲にした心操を叱ると、心操は手で首を押さえながら答える。

 

「…いや、無茶くらいするね。友達の合否がかかってるんだから」

 

 心操が言うと、耳郎はわずかに目を見開く。

 この試験が一対一の試験方式なら、心操も自分の耳を犠牲にするといった無茶はしなかった。

 だが今回は自分だけではなく耳郎の合否もかかっており、友達を合格させたいという思いが躊躇いを消し去ったのだ。

 

「すごいや、着々とクリアしてく…皆決して諦めない、立派な雄英生徒なんだ……!」

 

「いや…あいつめっちゃ諦めとるよ」

 

 緑谷が言うと、リカバリーガールがモニターを指差す。

 

「やってられっかこんなクソ試験〜〜〜!!!」

 

 峰田は、泣き言を言いドバドバと涙を流しながら逃げ回っていた。

 

「峰田くん…!?」

 

「えぇ…」

 

 逃げ回る峰田を見て、緑谷とひなたはドン引きしていた。

 その頃切島と砂藤は出てくるセメントの壁を次々と壊していたが、いくら壊しても出てくる壁に苦戦していた。

 砂藤は、“個性”の発動限界が来て動きが鈍っていた。

 切島がセメントの壁を破壊する間にも、次々と壁が出てくる。

 

 そして、飯田と尾白がいる鉱石地帯を模した会場では、パワーローダーが作った穴で足場が悪くなっており、飯田は落とし穴に嵌まって身動きが取れなくなっていた。

 だがその間に尾白がゲートをくぐり、飯田と尾白のチームは条件を達成した。

 するとリカバリーガールが二人の条件達成を報告する。

 

『報告〜〜〜飯田・尾白チーム…条件達成!! 残り時間あと約5分さね』

 

「天ちゃんとまっしーがクリア! これであと5組だ!」

 

 飯田と尾白がクリアすると、ひなたは両腕をウキウキさせて喜ぶ。

 そして一方青山と麗日は、せっかくゲート前まで辿り着いたはいいもののあと一歩のところで13号の攻撃射程に入ってしまい、吸われそうだったので柵に掴まって何とか耐えていた。

 何とかしようと青山が膝からレーザーを放つが、レーザーも吸われてしまう。

 何か手は無いかと考えていた麗日だったが、青山が麗日に何かを言うと、麗日は赤面して両手で顔を覆う。

 するとうっかり手を離してしまった麗日はそのまま13号に吸われていき、流石に生徒を吸うわけにはいかない13号は“個性”を止めてしまう。

 そしてそれと同時に、障子と葉隠が条件を達成した。

 するとするとリカバリーガールが二人の条件達成を報告する。

 

『報告〜〜〜障子・葉隠チーム……条件達成!』

 

「やった、めぞりんととおるんもクリアだ!」

 

 リカバリーガールが報告すると、ひなたが触角を立てて喜ぶ。

 緑谷は、二人の試合を分析していた。

 

「障子くん達は対スナイプ先生…索敵対決…かくれんぼって感じだったのかな」

 

「残るは切島・砂藤チーム、上鳴・芦戸チーム、麗日・青山チーム…」

 

「まだ全然チャンスはありますよね!!」

 

 リカバリーガールが言いかけると、緑谷がまだ残っているチームをフォローする。

 するとリカバリーガールはため息をつきながら言った。

 

「どうかねえ、やる気が途切れぬ者ならともかく……」

 

「ファッ◯だ!! 圧倒的ファッ◯!! こんな理不尽試験やってられるか━━━━━━!!」

 

 そう言ってわんわん泣きながら逃げる峰田を見て、リカバリーガールは呆れ返る。

 

「ああなると厳しいかもねえ」

 

「あれだけ林間合宿楽しみにしてた峰田くんが、何故……」

 

「まァ、あんたのとことマイク…セメントス、そしてミッドナイトは特に難易度高いからねえ。人によっちゃ詰む…『詰んだ』と認識しても仕方ないよ」

 

 緑谷が不安そうに言うと、リカバリーガールが答える。

 ミッドナイトはゲート前で座り込み、爆睡する瀬呂に膝枕をしていた。

 

「瀬呂ォ、畜生がぁ! 許っ羨!!」

 

「羨ましさで血涙が!!」

 

「試験中に何考えてんだあいつ」

 

 峰田が血涙を流しながら瀬呂に向かって叫んでいると、緑谷とひなたがツッコミを入れる。

 

「瀬呂がオイラを助けてなきゃ、今頃オイラがあの場に……」

 

「なんて刹那的なんだ峰田くん!!」

 

「ただのド変態でしょうが」

 

 峰田は、瀬呂が自分を庇ってミッドナイトの眠り香を浴びた時の事を思い出して血涙を流していると、緑谷がすかさずツッコミを入れ、ひなたが辛辣なコメントをする。

 するとリカバリーガールが半ば諦めた様子でため息をつきながら言った。

 

「ああいう子はここで生き抜くには辛いかもねえ」

 

「「?」」

 

「雄英は絶え間なく壁を用意し、それを超えさせるって方針。そこを息切れせず乗り超えていくには、“具体的な目標”を見据えている必要があるのさ。『なんとなくヒーローやりたい』で登れる程易しい道じゃないんでね。仮にヒーローになれたとして、“ヒーローになる事”がゴールの人間に先はない。果たしてあの子の心に見据える目標が存在するのか…」

 

 リカバリーガールは、そう言いながら画面を眺める。

 すると峰田は、膝に手をついて息を整えながら呟く。

 

「女体触りたい…モテたい…」

 

「直球だね」

 

「不潔」

 

「相澤さん!?」

 

 峰田の問題発言に対してリカバリーガールがツッコミを入れ、ひなたが手で口を覆ってゴミを見るような目でモニターを見ながら辛辣な言葉を浴びせると、緑谷がひなたの方を振り向く。

 そしてその時、リカバリーガールが報告をする。

 

『あっとここで麗日・青山チーム……条件達成!!』

 

 麗日は、ガンヘッドから教わった格闘術で13号を組み伏せて左手にカフスをかけた。

 青山と麗日もクリアし、まだクリアしていない峰田は自分のもぎもぎを握って涙目になる。

 峰田は、ヒーローになればモテると思ってヒーロー科に入った。

 だが、自らの危険を顧みず震えながらも強敵に立ち向かう緑谷を見て、自分もこうなりたいと思ったのだ。

 するとそこへミッドナイトの鞭が飛んでくる。

 

「時間いっぱいゲート前で鎮座…と思ってたけどやっぱりそれじゃあんまりだよね……ピーピー喚いて逃げられちゃうとあたし、嗜虐心が疼いちゃって仕方ないの」

 

「顔がアウトだよミッナイ先生!!」

 

 ミッドナイトが興奮して舌舐めずりをしながら峰田に近づくと、ひなたは目を丸くしてツッコミを入れる。

 ミッドナイトの顔を見て思わず震え上がる峰田だったが、ミッドナイトが眠り香を放つと慌てて口を塞ぐ。

 鞭で叩かれながらも逃げ続け、近くにあった大岩の影に隠れた。

 だが、泣き喚いて逃げていたのは、ミッドナイトの嗜虐心を煽ってゲートから遠ざける為の峰田の作戦だった。

 峰田は、瀬呂のテープを口に巻いて飛び出す。

 

「そんな窒息状態で戦えるのかしら!?」

 

 そう言って鞭を振り下ろすミッドナイトだったが、峰田がもぎもぎを大量に投げて動きを封じた。

 すると緑谷、ひなた、リカバリーガールの3人が歓声を上げる。

 

「ゲートから離れたとこに貼りつけた事で、眠り香が届かないように…!」

 

「やるじゃん峰田!!」

 

「器用な子だね…! すっかり騙されちまったよ、私ぁ…! “モテたい”も突き詰めれば、見据えるべき一つの“目標”ね」

 

 リカバリーガールはそう言って感心し、ひなたも頷く。

 そして峰田はそのままゲート前で寝ている瀬呂の方へと走っていき、瀬呂を抱えてゲートをくぐった。

 

「今回ばかりはオッパイお預けだぜ」

 

「カッコキモい!!」

 

 峰田がカッコつけて言うと、ひなたがツッコミを入れる。

 するとリカバリーガールがアナウンスをする。

 

『峰田・瀬呂チーム条件達成!! そして…タイムアップ!! 期末試験、これにて終了だよ!!』

 

 一歩進んだ者、壁に阻まれた者。

 悲喜交交の中期末実技試験が終了する一方、三度動き出そうとする者がいた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、死柄木がバーで緑谷とひなたの写真を眺めているとドアをノックする音が聞こえる。

 

「死柄木さん、こっちじゃ連日あんたらの話で持ちきりだぜ。何かデケェ事が始まるんじゃねえかって」

 

「で、そいつらは?」

 

 眼鏡をかけマフラーを巻いた男“義爛”が煙草を吹かしながらドアから顔を覗かせると、死柄木は写真を握り潰して消し炭にする。

 男は、下顎から下が焼け爛れた青年とベージュ色の変わった髪型をした少女を連れてきた。

 

「生で見ると…気色悪いなァ」

 

「うわぁ手の人、ステ様の仲間だよねえ!? ねえ!? 私も入れてよ! (ヴィラン)連合!」

 

 すると、死柄木は不機嫌そうに二人を指差す。

 

「…………黒霧。こいつらトバせ。俺の大嫌いなモンがセットで来やがった。餓鬼と礼儀知らず」

 

「はあ?」

 

 死柄木の言葉に少女が疑問符を浮かべると、黒霧が死柄木を宥める。

 

「まァまァ…せっかくご足労頂いたのですから、話だけでも伺いましょう死柄木弔。それに、あの大物ブローカーの紹介。戦力的に間違いはない筈です」

 

 黒霧が言うと、義爛がタバコを吸いながら二人を紹介する。

 

「何でもいいが手数料は頼むよ黒霧さん。紹介だけでも聞いときなよ。まずこちらの可愛い女子高生。名も顔もしっかりメディアが守ってくれちゃってるが、連続失血死事件の容疑者として追われてる」

 

「トガです! トガヒミコ。生きにくいです! 生きやすい世の中になってほしいものです! ステ様になりたいです! ステ様を殺したい! だから入れてよ弔くん!」

 

「意味がわからん。破綻者かよ」

 

 義爛が紹介すると、トガヒミコと名乗る少女が上機嫌で語り出す。

 上機嫌になっているトガを見て、死柄木は呆れた様子でため息をつく。

 すると今度は義爛が下顎から下が焼け爛れた青年を紹介する。

 

「んでこちらの彼。目立った罪は犯してないが、ヒーロー殺しの思想にえらく固執してる」

 

 すると青年は、いきなり文句を言い出す。

 

「不安だな…この組織、本当に大義はあるのか? まさかこのイカレ女を入れるんじゃねえよな?」

 

 青年が言うと、死柄木が青年を指差して口を挟む。

 

「おいおい、その破綻JKですら出来る事がお前は出来てない。まず名乗れ。大人だろう」

 

「今は荼毘で通してる」

 

「通すな。本名だ」

 

「出すべき時になったら出すさ。とにかく、ヒーロー殺しの意志は俺が全うする」

 

 荼毘と名乗る青年が言うと、死柄木は不機嫌そうに椅子から立ち上がった。

 

「聞いてない事は言わないでいいんだ。どいつもこいつもステインステインと…………」

 

「いけない死柄木…」

 

「良くないな…気分が良くない。ダメだお前ら」

 

 黒霧が止めるが、死柄木は二人を殺そうと両手を伸ばす。

 すると、黒霧がワープゲートで死柄木の両手と荼毘の右手、そしてトガのナイフを持った右手をワープさせた。

 

「落ち着いて下さい死柄木弔。あなたが望むままを行うのなら、組織の拡大は必須。奇しくも注目されている今がその拡大のチャンス。排斥ではなく受容を。死柄木弔」

 

 そして黒霧が死柄木の耳元で何かを耳打ちすると、死柄木はワープゲートから手を引っこ抜いた。

 

「…………うるさい」

 

「どこ行く」

 

「うるさい!」

 

 義爛が尋ねると、死柄木は悪態をついて去っていく。

 そしてそのまま苛ついた様子でバーを出て行った。

 

「取引先にとやかく言いたかないが…若いね。若すぎるよ」

 

 義爛が呆れ返ると、二人もそれぞれ口を開く。

 

「殺されるかと思った!」

 

「…………気色悪りぃ…………」

 

 すると今度は黒霧が口を開く。

 

「返答は後日でも宜しいでしょうか? 彼も自分がどうすべきかわかっている筈だ…わかっているからこそ何も言わずに出て行ったのです。オールマイト、ヒーロー殺し…もう二度鼻を折られた。必ず導き出すでしょう。あなた方も自分自身も納得するお返事を…」

 

 

 

「うっす、ただいま。そっちは終わった?」

 

 死柄木が去っていくとほぼ同時に、バーの奥からアルビノの青年が現れる。

 左眼が前髪で隠れていて、右眼からは青い光を放つ不気味な雰囲気の青年は、みすぼらしいロングコートを着ていた。

 以前ヒーローに変装して体育祭に潜入していた青年だ。

 青年が現れると、黒霧が声をかける。

 

「彼らと会わなくて良かったのですか、()?」

 

「うん。わざわざ僕が会いに行く必要無いっしょ? 近々仲間になるだろうし。ま、あいつらを仲間にするかどうかは死柄木次第だけどさ」

 

 零と呼ばれた青年は、カウンターに手をついて近くにあった椅子に腰掛ける。

 零は、コートのポケットからチョコバーを取り出すと、銀色の包装を開けて貪り始めた。

 

「何かお飲み物でも?」

 

「ミルクセーキ。とびっきり甘いやつ。お代はこれで」

 

 黒霧が声をかけると、零はもう片方のポケットを漁り、カウンターの上に何かを置いた。

 零が置いたのは、自分の尾を噛んだ蛇が描かれた黒いUSBだ。

 零が飲み物の代金代わりにUSBを差し出すと、黒霧はそれを受け取る。

 

「……かしこまりました」

 

「先生によろしく伝えといてよ。僕の妹は必ず連れ戻してみせるから」

 

 黒霧が零の飲み物を差し出すと、零は顎の下で手を組んで不気味な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

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