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期末試験の翌日、1年A組の教室では。
「「「「……………」」」」
期末テストをパスできなかった芦戸、上鳴、切島、砂藤の4人はこの世の終わりのような顔をしており負のオーラを漂わせていた。
実技試験をクリア出来なかった4人は絶対赤点だろうと思っており、赤点だと林間合宿に行けないので絶望していたのだ。
芦戸に至っては、合宿に行けないのが悲しいのかボロボロ泣いていた。
「皆…土産話っひぐ、楽しみに…うう、してるっ…がら!」
芦戸が泣きながら言うと、緑谷が4人をフォローする。
「まっ、まだわかんないよ! どんでん返しがあるかも知れないよ…!」
「緑谷…それを口にしたらなくなるパターンだ…」
「一級フラグ建築士だなぁデッくん」
(初回の除籍云々もたまたまお父さんがデックくんを気に入ったってだけで、赤点取ったら合宿行けないどころか除籍とか普通にやりそうなんだよなぁあの人。でもさらに追い討ちかけんのは流石に鬼すぎるから黙っておこうかな)
緑谷が明らかにフラグだとわかる発言をしたため、瀬呂とひなたがツッコミを入れる。
ひなたは、“個性”把握テストの件があるので赤点だったら合宿に行けないどころか除籍されても文句は言えないだろうと考えていた。
だがここで追い討ちをかけるような真似をするのは流石に酷だと思い、あえて言わないでおいた。
「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄! そして俺達は実技クリアならず! これでまだ分からんのなら貴様らの偏差値はサル以下だ!!」
「うわぁ悲惨」
「落ち着けよ長え」
上鳴が緑谷に八つ当たりして目潰しを喰らわせると、ひなたと瀬呂がツッコミを入れる。
そう言う瀬呂も、心なしか不安そうな表情を浮かべていた。
「わかんねぇのは俺もさ。峰田のお陰でクリアはしたけど寝てただけだ。とにかく採点基準が明かされていない以上は…」
「同情するならなんかもう色々くれ!!」
瀬呂が『峰田のお陰で』と言うと、後ろで聞いていた峰田がピクピクと耳を動かして得意げな表情を浮かべる。
そして瀬呂が4人に同情すると、上鳴が当たり散らしてくる。
「うーん…じゃあ合宿とは別に皆でキャンプにでも行く?」
「合宿行けない前提で話すのやめてやれよ」
ひなたはその様子を見て、流石に同情を禁じ得なかったのか苦笑いを浮かべながら妥協案を提案し、それに対して心操がツッコミを入れた。
するとその時、相澤がカァンと勢いよくドアを開けた。
「予鈴が鳴ったら席に着け」
相澤が入る頃には、いつの間にか全員座っていた。
相澤が来た時のA組の行動の早さは流石だとひなたは毎度感心していた。
すると相澤が教卓の前に立って話し始める。
「おはよう。今回の期末テストだが…残念ながら赤点が出た。したがって…」
相澤が報告すると、4人は絶望した様子で(上鳴に至っては絶望が一周回って悟りを開いた表情をしていた)身構えていた。
だが…
「林間学校は全員行きます」
「「「「どんでん返しだあ!!」」」」
相澤の発表に、切島、芦戸、砂藤の3人は大喜びし、上鳴は歓喜のあまり何とも言えない表情になっていた。
するとさらに相澤が赤点を発表する。
「筆記の方はゼロ。実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤、あと瀬呂が赤点だ」
赤点の発表に瀬呂がショックを受けるが、合宿に行けると決まった4人は大喜びしていた。
「行っていいんスか俺らあ!!」
4人がワイワイはしゃいでいる中、瀬呂は両手で顔を覆い隠して沈んでいた。
ミッドナイトに眠らされ試験時間はずっと寝ていただけで何もしていなかったため赤点だろうとは思っていたのだが、予想通り赤点だったので深くため息をつく。
「確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな…クリア出来ずの人より恥ずいぞこれ」
「いや、ミッドナイトの“個性”だったら仕方ないよ…」
「心操ぉ…!」
落ち込む瀬呂に対して前の席の心操がフォローすると、瀬呂が心操の両肩を掴んでゆする。
すると相澤が説明を続ける。
「今回の試験、我々
「う…」
相澤が言うと、ひなたは顔を強張らせる。
相澤が手加減していなければ、10:0で詰むと確信していたからだ。
「本気で叩き潰すと仰っていたのは…」
「追い込む為さ。そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点を取った奴こそここで力をつけてもらわなきゃならん。合理的虚偽って奴さ」
「「「「「ゴーリテキキョギィイー!!」」」」」
相澤が意地の悪い笑みを浮かべながら言うと、赤点組はテンションを上げて大喜びし、またしても相澤に騙された飯田は悔しがる。
「またしてやられた…! 流石雄英だ!」
「いや気づこうよ」
飯田が悔しがっていると、ひなたが苦笑いを浮かべながらツッコミを入れる。
すると飯田はさらに水を差すような発言をする。
「しかし! 二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!!」
「わあ水差す飯田くん」
飯田がその場の雰囲気に水を差すと、麗日がツッコミを入れる。
すると相澤が続ける。
「確かにな。省みるよ。ただ全部嘘ってわけじゃない。赤点は赤点だ。お前らには別途に補習時間を設けてある。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツいからな」
(ドンマイ!!)
相澤の発表を聞いた五人は、ピシャリと固まった。
ひなたは、心の中で精一杯赤点組を慰めていた。
「じゃあ合宿のしおりを配るから後ろに回してけ」
ひなたは、貰ったしおりを後ろの席の青山に回すと、ざっとしおりに目を通した。
そして放課後。
「まぁ何はともあれ、全員で行けて良かったね」
「ホントだよ〜! 全くお父さんってばすぐ人をヒヤヒヤさせるんだから!」
尾白は、安堵の表情を浮かべながらクラスメイト達に言った。
ひなたも、とりあえず全員合宿に行ける事になったので胸を撫で下ろしてた。
「一週間の強化合宿か!」
「結構な大荷物になるね」
「暗視ゴーグル」
「何に使う気?」
飯田と緑谷が話しているところへ峰田が割り込むと、ひなたが冷ややかな視線を向ける。
上鳴は、しおりを見て持っていくものを考えていた。
「水着とか持ってねーや。色々買わねえとなぁ」
「水着かぁ。僕もサイズ合うやつ三着しか持ってないんだよなぁ」
「三着もあれば十分なんじゃ…「小、中、高のスクール水着」………」
上鳴が言うとひなたもうんうんと頷いて同意する。
それに対して心操がツッコミを入れようとすると、ひなたがサラッと本当の事を言った。
実は、ひなたは小学校6年生の頃から体格が全くと言っていいほど変わっていないため(小6の頃に最後に身長を測った時は140cmだった)、小学生サイズの水着も普通に着れてしまうのだ。
ひなたが虚しい笑みを浮かべていると、心操が同情のつもりなのかひなたの肩に手を置いた。
すると葉隠が提案をする。
「あ、じゃあ明日休みだしテスト明けだし…………って事でA組皆で買い物行こうよ!」
葉隠が手を叩いてニコッと笑うと、クラスメイト達が盛り上がる。
「おお良い!! 何気にそういうの初じゃね!?」
「いいじゃん行こ行こ!」
葉隠の提案に、上鳴とひなたが上機嫌で乗っかる。
切島は、仲のいい爆豪をショッピングに誘う。
「おい爆豪お前も来い!」
「行ってたまるかかったりィ」
「えー、一緒に行こうよーかっちゃん!」
「かっちゃん言うな殺すぞ」
「ケチ! イガグリ頭! クソ下水煮込み!」
「あ゛あ゛!?」
切島の誘いを断る爆豪をひなたが注意すると、爆豪はひなたに悪態をつく。
それに対してひなたが頬を膨らませて暴言を吐くと、爆豪がキレた。
緑谷は、体育祭以降仲良くなった轟をショッピングに誘う。
「轟くんも行かない?」
「休日は見舞いだ」
「そっか、お見舞いなら仕方ないね」
「てめぇその扱いの差は何だ死ね」
「ノリが悪いよ空気を読めやKY男共ォ!!」
緑谷の誘いを轟が断ると、ひなたは残念そうな表情を浮かべる。
ひなたが轟に対しては食い下がらずにあっさり引き下がると、自分の時はやたらとひなたに食い下がられた爆豪がひなたに悪態をつく。
そして峰田は、爆豪と轟に対してキレた。
◇◇◇
そして翌日。
「ってな感じでやって来ました! 県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端! 木椰区ショッピングモール!」
轟と爆豪以外のA組生徒達は、木椰区ショッピングモールに来ていた。
ひなたはというと、ミントグリーンのノースリーブのブラウスにブラウンのキュロットといった格好だった。
そして心操の私服はというと、半袖シャツとベストにジーンズといった格好だった。
「わあああ、皆とショッピング楽しみだぁ!!」
「すごいはしゃぐね」
ひなたが触角をウキウキさせてキャッキャとはしゃいでいると、心操がツッコミを入れた。
すると、店の店員が自分の店の商品を推してくる声が聞こえてくる。
「腕が6本のあなたにも! 脹脛激ゴツのあなたにも! きっと見つかるオンリーワン!」
「“個性”の差による多様な形態を数でカバーするだけじゃないんだよね。ティーンからシニアまで幅広い世代にフィットするデザインが集まっているからこの集客力…「幼児が怖がるぞよせ」
緑谷がいつものブツブツを披露すると、常闇が止めた。
その後ろでは、ブツブツ言っている緑谷を幼稚園児くらいの男の子が指を差し母親が男の子を緑谷から遠ざけていたりした。
すると、周りの客達がひなた達を指差してはしゃぐ。
「お! アレ雄英生じゃん! 1年!? 体育祭ウェ━━イ!!」
「うおおまだ覚えてる人いるんだぁ…!」
「あはは、有名人だねえ」
ウェイ系がひなた達を指差してはしゃいでいると、麗日が驚きひなたが笑う。
「とりあえずウチ大きめのキャリーバッグ買わなきゃ」
「あら、では一緒に回りましょうか」
耳郎は、八百万の提案で一緒に回る事になった。
「俺アウトドア系の靴ねえから買いてぇんだけど」
「あー私も私も━━!」
上鳴が言うと、葉隠が便乗する。
するとすかさず飯田が口を挟む。
「靴は履き慣れたものとしおりに書いて……あ、いや、しかし成る程、用途に合ったものを選ぶべきなのか…!?」
飯田は口を挟みはしたものの勝手に一人で考え込む。
林間合宿が近いからなのか、何人かはテンションがおかしくなっていた。
「ピッキング用品と小型ドリルってどこに売ってんだ?」
「だから何に使う気?」
峰田が真顔で言うと、ひなたは峰田に冷ややかな視線を向けながら言った。
「目的バラけてっし時間決めて自由行動すっか!」
切島が言い出し、A組はそれぞれ自由行動をとる事になった。
ひなたは、早速心操に声をかける。
「ひー君! 一緒に行こう!!」
「うん」
「やった!」
ひなたが提案すると心操が頷き、二人で一緒に買い物をする事になった。
◇◇◇
「キャラメルフラペチーノのトールサイズ、エスプレッソショット追加で」
「買い物は?」
ひなたがいきなりスタバに入っていって注文をすると、心操がツッコミを入れる。
するとひなたはニカッと笑ってサムズアップをする。
「息抜き息抜き!」
「息抜きも何も、まだ何も買ってないんだけど…っていうかお前ブラックコーヒー派じゃなかったか?」
「フッ、甘いなひー君。スタバといえばフラペチーノでしょーが」
「いや知らんし…早く買い物しようよ」
「ひー君は何飲むの? 僕奢るよ」
「だから買い物…」
ひなたが財布を出しながら尋ねると、心操がツッコミを入れる。
結局ひなただけが飲み物を買って店を後にし、二人で買い物を続ける。
「いやぁやっぱりスタバといえばキャラメルフラペチーノだよねぇ。まず何買う?」
(やっと普通に買い物できる…)
「まずキャリーケース買いたいな」
「うん、じゃあ一緒に買いに行きましょ」
二人でまずは何を買うか話しながらショッピングモール内をぶらぶら歩いていた、その時だった。
突然、何人かの若い男がひなたに声をかけてくる。
「ねぇちょっとそこの君〜」
「今ヒマしてる? 俺らとカラオケ行かね?」
「すみません、友達と一緒に買い物してるんで…」
「いーじゃんいーじゃん、行こうよ」
「いや、ですから…」
ひなたが誘いを断っても、男達はしつこく声をかけてくる。
そして、その中の一人がひなたの手首を掴んだ。
流石にしつこすぎてイラッと来たひなたが手首を掴んできた男を背負い投げてやろうかと構えたその時、心操がひなたの肩に手を回し威圧するような目を向けながら男達に言った。
「俺の彼女に何か用ですか?」
「へぁっ!? かっ、かの…!?」
心操が言うと、ひなたは目を見開いてみるみる顔を赤くしていく。
一方男達は、先程までのハイテンションな態度を一変させ一気に白けた。
ひなたの手首を掴んでいた男も、大きめの舌打ちをしてひなたから手を離す。
「チッ、彼氏持ちかよ」
「シラけるわー」
「ぜってー中古じゃん」
「だからやめとけっつったんだよ。行こーぜ」
リーダー格の男が言うと、男達は文句を言いながら去っていった。
すると心操はホッとため息をつく。
「行ったか」
「…ねぇ、ひー君。僕の事『彼女』って…」
ひなたが俯きながら尋ねると、心操は首を手で押さえながら答える。
恥ずかしくてまともに顔を見れなくなったのか、二人ともそっぽを向いていた。
「ごめん、ああ言えば諦めると思って…騒ぎ起こすのもアレだし、出来るだけ穏便に済ませるにはあれが最善だったろ」
「う、うん…そうなんだけど…」
「…急にあんな事言われて嫌だった?」
「ううん! 全然! ちょっとビックリしただけ!」
心操が気まずそうに尋ねると、ひなたは左手をブンブン振って否定した。
顔を真っ赤にして否定するひなたに対し、心操は何かを言いたげに話しかける。
「…そっか。あのさ…「あ、そうだキャリーケース買わなきゃだったよね!? 行こ行こ!」
「お、おぅ…」
心操が何かを言おうとすると、ひなたは誤魔化すようにキャリーケースの売り場を指差す。
ひなたが先に走っていってしまうと、心操はキョトンとした様子で追いかける。
ひなたは、耳まで真っ赤になった顔を両手で覆って首をブンブンと横に振って走っていた。
(うわああああああああ!!! ひー君のバカバカバカ!! 何であんな事言うのさ!? 本人の前では何とも思ってないフリしなきゃって決めてたのに…! あんな事言われたら…! 言われたら……もうまともに顔見れなくなっちゃうじゃんかぁ!!)
ひなたは、息を荒くし心臓をバクバク鳴らし、目をグルグル回していた。
ひなたは、初登校で同じクラスになってからずっと心操に好意を抱いていた。
受験の時の事もあって入学当初から仲が良かったのだが、期末までは『少し気になる相手』程度にしか思っていなかった。
小学校・中学校と、自分の悩みを何でも打ち明けられる親友がほとんどいなかったひなたにとって、自分の感情が何なのかがわからなかった。
だが、リカバリーガールに『気になるのか』と聞かれた時から明確な恋愛感情を抱くようになった。
ひなたも年頃の女子なので、少女漫画や恋愛小説を読んで『気になる』という感情の意味を何となく理解はしていたのだが、まさかその感情が今の自分に当てはまっているとは思わなかったのだ。
(話をしてるだけで胸が高鳴ったり、一緒にいるだけで顔が熱くなったり…こんなの、漫画や小説の中だけだと思ってた。今まで一度も男の人を好きになった事なんて無かったし…しかも、クラスメイトとなんて……あああどうしよ明日からどんな顔して話せばいいかわかんない…!!)
真っ赤になった顔を隠して走っていたひなただったが、ふと立ち止まると顔を覆っていた手を膝につく。
そしてため息をつくと、フッと笑った。
(………馬鹿だなぁ、僕。僕なんかが人を好きになっちゃいけないんだってわかってたはずなのに。名前を変えて過去にまつわるものを全部消したって、過去そのものが消えるわけじゃない。僕は皆とは何もかもが違う。皆と一緒になんかなれやしない。どこまで行っても
ひなたは笑っていたが、肩は震えており目には涙が溜まっていた。
ひなたはこれまで誰とも仲良く接してきたが、常に一線を引いて誰とも深く関わり合った事は無かった。
表向きは明るく振る舞ってはいたが、未だに過去の事を頭のどこかで抱えており、必要以上に馴れ合えば迷惑をかけるだけだと思っていたのだ。
中学まで男子のような振る舞いをしたり恋愛に無頓着なフリをしてきたのは、自分を戒めるためだった。
ひなたは、目に溜まった涙を服の袖で拭って何でもないように振る舞う。
(………忘れなきゃ。この気持ちは、綺麗さっぱり忘れるんだ。ひー君と僕はただのクラスメイト。『人形』は、恋なんかしない)
「…ひー君に謝らなきゃ。急に逃げ出しちゃった事」
ひなたが急に逃げ出した事を心操に謝るために戻ろうとした、その時だった。
ひなたは、一度感じた事のある悪寒を感じ取って目を見開く。
(…!? 何、この感じ…まさか、
そして気がつくと悪寒のする方向へと走っていた。
「あ、おい! ひなた!?」
心操が呼び止めるのも聞かずに、ひなたは走っていく。
ひなたが向かっていたのは、A組が解散した広場だった。
◇◇◇
数分前、ひなたを含むほとんど全員が各自自由行動をとる中、麗日と緑谷だけが残された。
緑谷は、気まずくなったのか隣にいた麗日に話しかける。
「皆行動早いな。う……麗日さんはどうする? 僕はウェイトリストちょっと重めの欲しいんだけど…」
「私は──…虫除け……」
麗日は、ふと期末試験中に青山に『緑谷の事が好き』と指摘された事を思い出して顔を赤くする。
そして、誤魔化すように顔を隠しながら走り去っていった。
「…む…虫除け━━━━━━!!」
「虫!?」
麗日が叫びながら去っていくと、緑谷は若干ショックを受ける。
麗日まで去っていき、その場には緑谷だけが取り残された。
「せっかく皆で来たのに僕一人……」
緑谷が若干しょぼくれていたその時、フードを深く被った男が気さくに緑谷に話しかける。
「お━━雄英の人だスゲー! サインくれよ」
「へ!?」
男は、いきなり緑谷に肩を組んでくる。
緑谷は、いくら陽気な人物とはいえいきなり絡んでくる男に対して戸惑っていた。
「確か体育祭でボロボロんなってた奴だよな!?」
「わああ…は…はい…」
「んで確か保須事件の時にヒーロー殺しと遭遇したんだっけ? すげえよなあ!」
「よくご存知で……」
男が言うと、緑谷は流石に少し不審がる。
緑谷達がヒーロー殺しに遭遇しそして命懸けで戦った功績は、警察による事実の歪曲によってエンデヴァーの手柄になり、世間では知られずに埋もれたはずだったからだ。
すると男はさらに続けた。
「いや本当信じらんないぜ、こんな所でまた会うとは!」
男が言うと、緑谷は目を見開く。
「───…!?」
「ここまで来ると何かあるんじゃって思うよ。運命……因縁めいたもんが…」
男は、ヒタリと緑谷の首に触れる。
緑谷は、叫んでクラスメイトに知らせようにも声が出せなかった。
「まぁでもお前にとっては、雄英襲撃以来になるか。お茶でもしようか、緑谷出久」
フードを被って緑谷に声をかけてきた人物は、何と死柄木だった。
死柄木は、緑谷の耳元で呟いて指示をする。
「自然に…旧知の友人のように振る舞うべきだ。決して騒ぐなよ? 落ち着いて呼吸を整えろよ。俺はお前と話がしたいんだ、それだけさ。少しでもおかしな挙動を見せてみろよ? 簡単だ。俺の五指が全てこの首に触れた瞬間喉の皮膚から崩れ始め、1分と経たないうちにお前は塵と化すぞ」
緑谷は、恐怖で青ざめ冷や汗をかきつつも冷静に現状を分析していた。
「こっ、こんな人ゴミで…! やったら… すぐにヒーローが…ヒーローが来て捕まるぞ…!」
「だろうな。でも、見てみろよこいつらを」
死柄木は、楽しそうに笑って日常を過ごしているショッピングモールの客達を指差す。
「いつ誰が“個性”を振りかざしてもおかしくないってのに、何で笑って群れている? 法やルールってのはつまるところ個々人のモラルが前提だ。『するわけねえ』と思い込んでんのさ。捕まるまでに20……いや30人は壊せるだろうなぁ…」
「…………」
死柄木が言うと、周りを巻き込むわけにはいかないと判断した緑谷は大人しく話を聞く事にした。
「話って…何だよ……」
「ハハハ、良いね。せっかくだ、腰でもかけてまったり話そうじゃないか……」
死柄木と緑谷は、一緒に近くにあったベンチに座った。
すると死柄木が緑谷に話しかける。
「だいたい何でも気にいらないんだけどさ、今一番腹が立つのはヒーロー殺しさ」
「仲間じゃないのか…?」
「俺は認めちゃいないが世間じゃそうなってる。問題はそこだ、ほとんどの人間がヒーロー殺しに目が行ってる。雄英襲撃も、保須で放った脳無も……全部奴に喰われた。誰も俺を見ないんだよ、何故だ? いくら能書き垂れようが、結局奴も気に入らないものを壊していただけだろう。俺と何が違うと思う? 緑谷」
死柄木は、俯く緑谷の顔を覗き込んで尋ねる。
すると緑谷は、怯えながら答える。
「何が…違うかって…? ……………………僕は……お前の事は理解も納得も出来ない……ヒーロー殺しは、納得はしないけど…理解は出来たよ…僕もヒーロー殺しも…始まりは……オールマイトだったから。僕はあの時救けられた…少なくともあいつは壊したいが為に壊してたんじゃない。徒に投げ出したりもしなかった。やり方は間違ってても理想に生きようとしてた……んだと思う」
緑谷が言うと、死柄木は目を見開く。
その瞬間、不気味な寒気が緑谷の全身を襲った。
「!?」
「ああ… 何かスッキリした、点が線になった気がする。何でヒーロー殺しがムカツクか…何でお前が鬱陶しいか、わかった気がする」
死柄木は、目を細めて引き裂けそうな程口角を上げ不気味な笑みを浮かべながら言い放つ。
「全部、オールマイトだ」
あまりの悍ましさに、緑谷は目を見開き軽く過呼吸を起こす。
「ハッ…」
「そうかあ…そうだよな、結局そこに辿り着くんだ。ああ、何を悶々と考えていたんだろう俺は…! こいつらがヘラヘラ笑って過ごしてるのも、あのゴミがヘラヘラ笑ってるからだよなあ」
死柄木は、緑谷の首を掴む力をさらに強める。
「う゛っ…!」
「救えなかった人間などいなかったかのようにヘラヘラ笑ってるからだよなあ!! ああ、話せて良かった! 良いんだ!」
「ぐっ」
「ありがとう、緑谷! 俺は何ら曲がる事はない!」
死柄木に首を絞められている緑谷は、死柄木の手を掴んで引き剥がそうとする。
「っと暴れるなよ、死にたいのか? 民衆が死んで良いって事か?」
「───…!!」
「皮肉なもんだぜ、ヒーロー殺し…対極にある俺を生かしたお前の理想、信念、全部俺の踏み台となる」
死柄木が言った、その時だった。
「デクくん?」
麗日が、心配そうに緑谷に話しかける。
「お友達…じゃない…よね…?」
麗日は、緑谷と肩を組んでいる死柄木に異質さを感じ恐る恐る話しかける。
「手、離して?」
「なっ、何でもないよ! 大丈夫! だから! 来ちゃダメ…」
緑谷が麗日を自分達から遠ざけようとしたその時、死柄木はあっさり手を離して両手をヒラヒラ振り満面の笑みを浮かべた。
「連れがいたのか、ごめんごめん。じゃあ行くわ。追ったりしてきたら、わかるよな?」
死柄木がそう言って去っていくと、麗日は慌てて緑谷に駆け寄る。
「デクくん!」
「ゲェッホ!! ゲホッ、ゴホッ、待て…死柄木…!! 『オールフォーワン』は、何が目的なんだ」
緑谷が尋ねると、麗日は死柄木の方を振り向く。
「え? 死柄木…って…」
死柄木は、去り際に緑谷の質問に答える。
「…………知らないな。それより気を付けとけな。次会う時は殺すと決めた時だろうから」
そう言って死柄木は人混みの中へと紛れていった。
すると、飯田、上鳴、ひなた、そしてひなたを追ってきた心操が駆け寄ってくる。
「緑谷くん!」
「緑谷!? 大丈夫かよ!?」
「デッくん!!」
「緑谷!!」
「と、とりあえず警察!!」
その後、麗日達が通報した事でショッピングモールには警察が駆けつけてきた。
ショッピングモールは一時的に閉鎖され、区内のヒーローと警察が死柄木を捜したが結局それらしき人物は見つからなかった。
緑谷は、重要参考人という事で警察に連れられ事情聴取を受けた。
◇◇◇
そして休み明けの教室では。
「………とまあそんな事があって
「「「え━━!!」」」
相澤は、しおりを破りながら発表した。
相澤の発表に、ほとんど全員が驚く。
「もう親に言っちゃってるよ」
「故にですわね…話が誰にどう伝わっているのか学校が把握出来ませんもの」
「合宿自体をキャンセルしねえの英断すぎんだろ!」
「確かにね」
瀬呂は動揺した表情を浮かべ、八百万は当然といった様子で言った。
行き先が変更になっただけで合宿自体はやる事になったので峰田は狂喜し、ひなたも頷く。
すると、爆豪が後ろの席の緑谷に向かって言う。
「てめェ、骨折してでも殺しとけよ」
爆豪が悪態をつくと、爆豪の前の席の葉隠が注意をする。
「ちょっと爆豪、緑谷がどんな状況だったか聞いてなかった!? そもそも公共の場で“個性”は原則禁止だし」
「知るかとりあえず骨折れろ」
「クソ下水煮込みが天元突破しすぎだぜかっちゃん!」
「あ゛!? てめーも骨折れろ触角!」
「かっちゃん………」
爆豪が吐き捨てると、ひなたがツッコミを入れ緑谷が顔を引き攣らせる。
こうして1年の前期が終わり、夏休みに突入した。
期末試験結果
相澤ひなた&轟焦凍&八百万百(vsイレイザーヘッド)…合格
爆豪勝己&緑谷出久(vsオールマイト)…合格
蛙吹梅雨&常闇踏陰(vsエクトプラズム)…合格
耳郎響香&心操人使(vsプレゼントマイク)…合格
飯田天哉&尾白猿夫(vsパワーローダー)…合格
障子目蔵&葉隠透(vsスナイプ)…合格
青山優雅&麗日お茶子(vs13号)…合格
峰田実(vsミッドナイト)…合格
瀬呂範太(vsミッドナイト)…不合格
切島鋭児郎&砂藤力道(vsセメントス)…不合格
芦戸三奈&上鳴電気(vs根津校長)…不合格