抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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林間合宿編
ゲーム・スタート


 期末テスト後。

 ひなた達女子は、夏休みの予定について話し合っていた。

 というのも、学校側から夏休みの長期の外出の自粛要請が出たという話を耳郎がしていたのだ。

 

「夏休みの間長期の外出を控えろ!?」

 

 麗日が目を見開きながら言うと、耳郎が答える。

 

「学校側からの要請だって」

 

「残念ですわ。両親とベネチアに旅行に行く予定でしたのに」

 

「田舎のばあちゃん家に帰省する感覚で言わんといてや…」

 

 八百万が残念がると、ひなたが苦笑いを浮かべながらツッコミを入れる。

 

「せっかくおニューの水着買ったのにぃ! どっか行きたい~!」

 

「仕方ないよ。ウチらは一度(ヴィラン)連合に襲われてるし」

 

「そりゃ当然学校側も警戒してるよね」

 

 芦戸が悔しがると、耳郎とひなたが宥める。

 すると、葉隠が提案してきた。

 

「だったら夏休み学校のプールに集まらない?」

 

「そうね、学校のプールだったら先生も許可してくれると思うわ」

 

「いいね。お金もかかんないし」

 

「さんせー!! 何気にこういうの初だしね!!」

 

 葉隠の提案に他の女子達も賛成し、女子全員でプールに行く事になった。

 その会話を、峰田が自分の席で突っ伏しながら聞き耳を立てていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして夏休み当日。

 ひなたは、早朝に相澤と一緒に近くの墓地まで足を運んでいた。

 二人は供物とバケツを持って墓の前に立ち、二人で墓を掃除した後ひなたが杓子で墓にバケツの水をかけ、相澤が花立に花を、水鉢に水を入れ、最後にオールマイトのイラスト付きのゼリーとオレンジソーダの缶を置いて火のついた線香を立てる。

 

「零凪。お前は昔から暑いの苦手だったからな。これ食って涼むといい」

 

 そう言って相澤は、持ってきたゼリーの袋を開けた。

 相澤とひなたが来たのは、十何年も前に幼くして亡くなった相澤の弟の墓だった。

 相澤が墓の前で手を合わせると、ひなたも一緒に手を合わせた。

 するとその時、どこからか突き刺すような視線を感じる。

 二人は咄嗟に後ろを振り向くが、後ろには誰も立っていなかった。

 

「気のせいか…?」

 

「ね。今、確かに誰かに見られてた気がしたんだけど…」

 

 一瞬背筋が凍った相澤とひなたは、しばらく腑に落ちない様子であたりを見渡していた。

 ちょうどその頃、他の墓石の影から一匹のネズミが飛び出す。

 

 ネズミが一直線に走っていった先には、タバコに火をつけている零がいた。

 ネズミは、零の身体をチョロチョロと駆け上がっていくと、零の耳元で鳴いた。

 それを聞いた零は、どこかへ向けて突き刺すような視線を向けた。

 

 一方、墓参りを終えたひなたと相澤は、それぞれ次の用事をしに最寄駅へ向かっていた。

 

「今日は心操の家で勉強会やるんだろ。俺はこのまま仕事行くから、行ってきなさい」

 

「うん!」

 

 相澤が言うと、ひなたが頷く。

 この日、ひなたは心操の家で夏休みの宿題をやりに行く事になっていた。

 ひなたは、筆記用具の入ったリュックをガチャつかせて心操の家の最寄駅まで行くと、途中で買ったソーダ味のアイスキャンディーを齧りながら心操を待っていた。

 すると、1分と待たずに心操がひなたを迎えに来た。

 

「よっ」

 

「あ! ひー君!」

 

「ごめん、待った? 女子待たせるなんて論外だよな…」

 

「ううん! てか僕が勝手に早く来ただけだから!」

 

 心操が声をかけると、ひなたはピョンと飛び上がって腕をブンブン振った。

 心操は、そのままひなたを家に案内した。

 

「ただいま」

 

「お邪魔します!」

 

 心操が靴を脱ぎながら母親に声をかけると、ひなたも頭を60°下げて挨拶をした。

 すると、奥の方から心操と同じ髪の色をした美女が現れる。

 

「あら〜、いらっしゃいひなたちゃん。来てくれて嬉しいわ」

 

 出てきたのは、心操の母親の人美だった。

 30代後半のはずなのに下手したら20歳以下にも見える容貌を持つ美魔女で、初めて会ったひなたが心操の姉と間違う程に若々しかった。

 

「まさか人使が女の子を家に連れてくる日が来るなんて…お母さん泣けてきちゃった」

 

「や、やめろよ母さん、友達の前だしさ…」

 

 人美が目に涙を浮かべながら言うと、心操が恥ずかしそうに言った。

 ひなたもサンダルを脱いで綺麗に揃えると、心操の家に上がった。

 ひなたは、早速心操の部屋に上がらせてもらって部屋をキョロキョロと見渡した。

 余計なものが散らかっておらず、部屋は全体的に落ち着いた雰囲気だった。

 

「えへへ、ひー君ち上がらせてもらうの何回目かなぁ。もうどこに何があるのか覚えちゃた」

 

 ひなたが触角をピョコピョコさせていると、心操がジュースを持ってくる。

 

「はい」

 

「あ、ありがとう!」

 

 心操がジュースを持ってくると、ひなたはジュースを受け取って一気に飲み干した。

 ひなたは、心操に教えたり教えられたりしながら宿題を解いていった。

 

「で、ここがこう…」

 

 ひなたが宿題を解いていると、心操が唐突に尋ねる。

 

「…ちょっと気になったんだけどさ」

 

「うん?」

 

「ひなたってどういう人が好きなの?」

 

「えっ!? な、何でそんな事…」

 

「いや、純粋に気になっただけ。別に言いふらしたりしないし、言いたくなかったら言わなくていいよ」

 

 心操が首を手で押さえながら言うと、ひなたは恥ずかしそうに頬を掻きながら答えた。

 

「えっと…優しくて、クールで、カッコよくて、ストイックで、でも何か猫みたいで可愛いとこもあって、僕をすぐそばで見てくれてる…僕にとってのヒーロー、かな」

 

「それって相澤先生の事?」

 

「えっ?」

 

「俺、likeじゃなくてloveの方のつもりで聞いたんだけど」

 

 心操が言うと、ひなたは数秒間ポカンとした様子で固まり、そしてピンと触角を立てて慌てて取り繕った。

 

「…あ、ああ! そっちか! ごめん、早とちりしちゃった」

 

「ひなたってたまに抜けてるよな。天然っていうか、アホっていうか…」

 

「何だよそれ! ひどいやひー君!」

 

「おまけにファザコンだし」

 

「むぅ…だってお父さんの事大好きなのはホントだもん!」

 

 心操が言うと、ひなたは何故かぷぅと頬を膨らませて近くにあったクッションを軽く心操にぶつけた。

 するとその時、ドアをノックする音が聞こえ、人美が部屋に入ってくる。

 

「ひなたちゃん、お昼ご飯まだでしょ? これから作ろうと思うんだけど、何食べたい?」

 

「えっと、冷やし中華…あ、手伝いますよ!」

 

「あら、いいの? じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら」

 

 ひなたが宿題をやっていた手を止めて立ち上がると、人美は笑顔を浮かべる。

 すると心操も立ち上がり、昼食の準備を手伝おうとした。

 

「だったら俺も何か手伝うよ」

 

「なら近くのコンビニで食器用洗剤買ってきてくれる? もうすぐ切れそうなの。お金多めに渡しておくから、余ったら何か好きな物買いなさい」

 

「わかった」

 

 人美が心操に千円札を渡すと、心操はすぐに家を出て近所のコンビニに洗剤を買いに行った。

 その間に、ひなたは人美と一緒に台所で昼食を作った。

 ひなたが具材を包丁で細く切っていると、隣で卵を焼いていた人美が唐突に口を開く。

 

「優しくてカッコよくて可愛くて、いつもそばで見てくれてるヒーロー…ねぇ」

 

「え?」

 

「ごめんなさいね、聞こえちゃったの。…それにしても、あの子ったら本当に鈍いんだから。ひなたちゃんがあんなにヒント出してくれてたのに気付かないなんて…」

 

「あの、何を…」

 

 人美が呆れたように言うと、ひなたがキョトンとした様子で尋ねる。

 すると人美は、ニヤニヤしながら尋ねた。

 

「ひなたちゃん、人使の事好きなんでしょ」

 

「……………はい!!?」

 

 人美が言うと、ひなたは目を丸くして顔をみるみる赤くしていく。

 

「えっ、い、いやいやいや!! ち、違いますって!! そ、そんな、ひっ、ひーく…人使くんとそ、そんな…無いですよ!!」

 

「分かりやすい子ね」

 

 ひなたが耳まで真っ赤にして否定しながらひたすら具材を細切りにしていると、人美がツッコミを入れる。

 

「そんなに否定する事ないじゃない、私はひなたちゃんの事を応援したくて言ってるのよ?」

 

「えっ、だ、だって、『私の可愛い息子をこんな馬の骨に渡さないわ! ふじこふじこ』的な…」

 

「昼ドラの見過ぎじゃないかしら」

 

 ひなたが偏見まみれの発言をすると、人美が冷静にツッコミを入れた。

 一度ドロドロした昼ドラを見た事があり、そのせいで影響を受けすぎてしまったのだ。

 ひなたの知的好奇心と感受性の高さは彼女の長所だが、それと同時に一度覚えた情報はどうでもいい事まで間に受けてしまうのは彼女の悪癖だった。

 人美は、少し俯きながら心操の昔の話をし始める。

 

「…人使ね、中学まではあんまりクラスの子と上手くいってなかったの。本当はこういう事あんまり言わない方がいいんだけど…理想と現実の差に打ちのめされる度に惨めな思いをしてきたあの子があまりにも気の毒で、望む“個性”に産んであげられなかった事を何度も後悔したわ。あの子は優しいから…私達親の前でさえ弱音を吐かなかったけど、本当は誰かに救けてほしかったんだと思う。だからね、ひなたちゃんにとっては何気ない一言だったかもしれないけど、あなたがあの子をヒーローだって言ったのは、きっとあの子にとっては救いだったのよ」

 

 そう語る人美の眼は、少しずつ潤んでいく。

 心操は、その“個性”を気味悪がられ、ずっと家族以外の味方がいなかった。

 幼稚園で初めてできた友達も、心操の“個性”が発現した途端に掌を返したように警戒心を剥き出しにして無視してくるようになった。

 それを機にひなたに出会うまでは気を許せる友達が一人もできず、クラスメイトから『犯罪し放題』『私らには使わないでよね』などと無神経な言葉をかけられてきた。

 特に一部の女子からは、性犯罪者を見るような目を向けられてきた。

 “個性”を暴走させた女子生徒を助ける為に“個性”を使ったところ、当の本人に感謝されるどころか襲われたなどと言いがかりをつけられ、それに同調するように他の女子からも嫌われ、そのせいでずっと燻っていた事もあった。

 

 彼にとって人生の大きな転機となったのは、入試会場でのひなたとの出会いだった。

 ひなたの今後の人生が懸かった大勝負を台無しにしかけたにもかかわらず、彼女は心操を責めるどころか彼を救い出し、彼をヒーローと呼んだのだ。

 一切飾らない本心でヒーローと呼んでくれたのは、ひなたが初めてだった。

 彼女の言葉は、心操にとっては間違いなく救いだった。

 

 すると人美は、ひなたの手を握って言った。

 

「…ひなたちゃん。人使と友達になってくれて…あの子を選んでくれて、本当にありがとう」

 

「いえ…そんな……」

 

 人美がひなたの手を握ると、ひなたの目からは何故かポロポロと涙が溢れ出す。

 すると人美は、若干驚いた様子でひなたを心配する。

 

「あら!? どうしたの!? 何か変な事言っちゃったかしら!?」

 

「いえ…すみません、何だろこれ…泣きたいわけじゃないのに止まんないや…」

 

 ひなたは、次々と溢れてくる涙をしきりに拭った。

 ひなたからしてみれば、拒絶された方がまだ良かった。

 人美に優しい言葉をかけられた事で、心操への恋を忘れようとする気持ちとどうしても結ばれたい気持ちが混ざり合い、感情を抑え切れなくなってしまったのだ。

 

 人美が言うと、ひなたは謙遜した。

 そもそも付き合う気もないのに変に期待をさせてしまっているようで、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 すると人美は、少し頬を赤らめながら話し始める。

 

「そんな話してたら、悟使さんとの初夜思い出しちゃった。人使は若い頃のあの人にそっくりだから…」

 

「やめて下さい生々しい」

 

 人美が一人でキャッキャとはしゃぎながら話すと、ひなたは顔を引き攣らせながらツッコミを入れた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその頃、心操は頼まれていた洗剤を買って家に帰ろうとしていた。

 

(結局あいつの好きなタイプ聞きそびれた…普通あの流れから恋愛的な意味での好きな人聞かれてるってわかるでしょ)

 

 心操は、結局ひなたの好きなタイプを聞きそびれてしまったため、ため息をついていた。

 ひなたが心操の事を好きなように、心操もひなたの事が好きだったのだ。

 

(…俺の事気になってるんじゃないかって期待してた事もあったけど、そんなわけないか。ひなたは俺の事親友としか思ってないんだろうし、俺とじゃ釣り合わないもんな)

 

 心操は、ひなたが自分に気があるわけがないと半ば諦めていた。

 ひなたと心操の間には、絶望的な程に実力の差があり、そもそも元はといえば出会い頭にひなたの足を引っ張ってしまった事もあり、自分ではひなたとは釣り合わないと思っていた。

 だがその時、ふとひなたの言葉が頭をよぎる。

 

 

 

 ──僕をすぐそばで見てくれてる…僕にとってのヒーロー、かな

 

 ──僕を助けてくれたヒーローだもん! 

 

 

 

「……あっ」

 

 心操は、ひなたが自分の事をヒーローだと言ってくれた事を思い出した。

 思い返してみれば、ひなたに好きなタイプを尋ねた時に返ってきた答えは、どれもひなたにかつて言われた事がある言葉だった。

 

(……もしかしてアレって、あいつなりの告白だったのか…!? もしそうだとしたら俺、あいつに恥かかせちまったんじゃ…)

 

 心操は、ひなたの言葉を勝手に勘違いしてファザコンだのと言った事を猛烈に後悔する。

 不器用ながらに自分に想いを伝えようとしていた女の子の気持ちを無碍にしてしまい、あろう事かいつもの調子で揶揄って怒らせてしまったのだ。

 心操は自分の取った態度を猛省し、深くため息をついていた。

 

「自己嫌悪…アホなのはどっちだって話だよ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、心操が洗剤を買って帰ってきたと同時にひなた達が昼食を作り終わり、三人で昼食をとった。

 その後も二人で宿題を進めていると、突然心操の携帯が鳴る。

 携帯を確認すると、緑谷からメールが送られてきていた。

 

『上鳴くんと峰田くんからトレーニングの一環で学校のプールに誘われたんだけど、明日来ない?』

 

「…プール?」

 

 心操がメールを見て呟くと、ひなたが横からメールを覗き込みながら言った。

 

「へー、奇遇だね。僕達も明日女子みんなで日光浴しに行こうって話になってたんだよ」

 

「日光浴で許可取れたんだ…」

 

「あはは…まあね。でも電吉と峰田が一緒かぁ…」

 

「嫌?」

 

「…なんかヤダ」

 

 心操は女子が日光浴でプールの使用許可を取れた事に若干驚き、ひなたもそれに関しては自分でもツッコミどころがあったのか苦笑いを浮かべていた。

 偶然にも二人とも目的は同じだったので、翌日一緒にプールに行く事になった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして翌日。

 プールサイドには、爆豪と切島、そして言い出しっぺの二人以外の男子が集まっていた。

 飯田は、早速フルスロットルでクラスメイトに指示を出す。

 

「皆!! プールに入る前にしっかり準備運動をしよう!!」

 

「それにしても上鳴くんと峰田くんが体力強化したいなんて驚いたよ」

 

「まああいつらの事だから淫らな事を考えているのだろうがな…」

 

「…あ、噂をすれば何とやら」

 

 緑谷と常闇の発言に対して、心操がプールの入り口を指差しながら言った。

 入り口からはドタドタと二つの足音が聞こえ、何やら『いざ行かん! 俺たちの楽園へ~!!』などと変態二人が叫ぶ声が聞こえた。

 

 

 

「遅かったじゃないか!」

 

 飯田が声をかけると、上鳴と峰田はズコォォォっと同時に転んで勢いよくプールサイドを滑っていく。

 二人がずっこけたのは、自分達と緑谷しかいないはずのプールサイドに男子達が集まっていたからだった。

 

「おいおいおい、なんでお前らがここにいんだよ!?」

 

「プールで体力強化するからみんなも一緒にどう? ってメールしておいたんだ」

 

 緑谷が答えると、上鳴と峰田が悔しがる。

 

「そういう事か、真面目かよ緑谷!」

 

「落ち着け上鳴。ここに水着姿の女子がいるのは間違いねぇ」

 

「この目に焼きつけるぜ!」

 

「新しく買った水着を!」

 

 そう言って二人が血眼で振り向くと、女子達はプールサイドで準備運動をしていた。

 女子達が着ていたのは、学校の指定のユニスクだった。

 

「あら峰田ちゃん」

 

「上鳴も来てたんだ」

 

 女子達は二人に声をかけるが、期待を大きく裏切られた上鳴は絶望していた。

 

「なんだよその水着は。ビキニ着ろよビキニ」

 

 だが、峰田にとってはこれはこれでアリだったのか爽やかな表情を浮かべていた。

 

「スク水もええですなぁ」

 

「何でもいいんじゃねぇか!」

 

 峰田が満足げな表情を浮かべていると、上鳴がツッコミを入れる。

 すると飯田が上鳴と峰田に近寄ってくる。

 

「上鳴くん、峰田くん。学校内で体力強化とは見事な提案だ! 感心したよ! さぁ、みんなと一緒に汗を流そうじゃないか! ハッハッハッハッ」

 

「いや、ちょっと…」

 

「ま、待って…」

 

「「待ってくれぇぇぇぇぇぇぇ…」」

 

 飯田が笑いながら二人を担ぐと、二人は涙目で暴れる。

 ひなたは、それを見て引き攣った笑みを浮かべていた。

 

「ははっ、ご愁傷様」

 

(よりによってあいつらとダブルブッキングするかー…体型モロバレするから嫌だったんだよなぁ)

 

 準備体操を終えたひなたは、憂鬱そうにため息をついていた。

 というのも、身体のラインが見えてしまうのが嫌だったのだ。

 女子だけなら何の問題も無かったのだが、男子がいる前で泳ぐとなると話は別だった。

 すると、準備体操を終えた心操がひなたの方に歩いてくる。

 

「あいつら…やっぱそういう事だろうと思ったよ」

 

「あっ、ひー君!」

 

 心操が声をかけてくると、ひなたが目を丸くする。

 というのも心操の身体は、受験当初は若干血色が悪く弱々しそうだったのが、普段の訓練とイレイザーヘッドのもとでの職場体験により短期間で見違える程に鍛え上げられていたのだ。

 ひなたは、心操の身体つきに興奮して耳や首まで真っ赤にして心臓をバクバク鳴らし鼻血を垂らしていた。

 ひなたが心操に顔を見られないよう蹲って顔を覆い隠していると、心操がひなたを心配する。

 

「…どうした? 具合悪いのか?」

 

「いや…何でもない」

 

(ひー君の身体がエロすぎて興奮したなんて気色悪い事、口が裂けても言えないよ!!)

 

 心操がひなたを心配すると、ひなたは全力で首を横に振って否定した。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、ひなた達はビーチボールで目一杯遊んだ。

 

「行くよー!」

 

「ほい!」

 

「ケロッ」

 

「ん」

 

「それ〜!」

 

「はい!」

 

「えいっ!」

 

 麗日、芦戸、蛙吹、耳郎、葉隠、八百万、ひなたの順にビーチボールを回していく。

 一方、一部を除く男子達は真面目に水中訓練をしていた。

 疲れ果てた上鳴と峰田は、ゾンビのようになってプールサイドに寝転がっていた。

 

「よし! 15分休憩しよう! 俺からの差し入れだ。飲んでくれ!」

 

 飯田が持参したクーラーボックスを開けると、中にはオレンジジュースが入っていた。

 

「おおっ!」

 

「流石委員長!」

 

「生き返るー、サンキュー!」

 

 男子達は、クーラーボックスに入っていたオレンジジュースを飲んだ。

 ひなた達が遊んでいると、上鳴と峰田は不服そうにその様子を見ていた。

 

「なんで女子は遊んでんだよ」

 

「あいつら日光浴でプールの使用許可を取ってるからな」

 

「峰田、なんで体力強化なんかで申請したんだよ!」

 

「そうじゃなきゃ許可取れないかもしんねぇだろ!」

 

 一方、障子、尾白、常闇の三人は日陰で話をしていた。

 

「流石に鍛えてるな」

 

「夏休みに入ってからずっとトレーニングしてたから」

 

「奮励努力」

 

 その頃、飯田と緑谷は休憩がてら二人で話していた。

 

「僕は色んな人に助けられてここにいるんだ、だからもっと頑張らないと…」

 

 緑谷がそう自分に言い聞かせたその時、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「ッたりめーだ! でなきゃこの俺がてめェみてーなクソナードに負けるわけねぇだろ!」

 

「か、かっちゃん!」

 

 突然現れた爆豪がキレ散らかすと、切島が苦笑いを浮かべながら止める。

 

「メールくれたのに遅れてわりぃ。爆豪連れ出すのに手間取っちまって」

 

「そういう流れか…」

 

「おいクソデクゥ! なんなら今すぐ白黒つけるかぁ? あぁ!?」

 

 爆豪が手を爆発させながら煽るが、緑谷は乗り気ではなかった。

 

「いや、そんな…」

 

「確かに、訓練ばかりじゃつまらないな」

 

 だが、飯田は存外乗り気だった。

 飯田は、何か閃いた様に顎に手を置く。

 すると、ビーチボールで遊んでいた女子達も手を止めてプールから上がる。

 飯田は、男子にとある提案をする。

 

「皆! 男子全員で誰が50mを一番早く泳げるか競争しないか?」

 

「おおっ!」

 

「面白そう!」

 

「やろうぜ!」

 

 飯田が提案すると、上鳴、瀬呂、砂藤が返事をした。

 すると、女子達が飯田に話しかける。

 

「飯田さん、私達もお手伝いしますわ」

 

「ありがとう!」

 

「“個性”は? 使っていいの?」

 

「学校内だから問題はないだろう。ただし人や建物に被害を及ぼさない事」

 

 飯田が言うと、爆豪は緑谷と轟を睨みつける。

 

「ブッ潰してやるよデク。もちろんお前もな! 半分野郎!」

 

 ひなたは、荒れる爆豪を見て苦笑いを浮かべる。

 

「相変わらずだなぁかっちゃんは…」

 

「とりあえずさ、男子達の組み合わせ決めようよ」

 

「うん、かっちゃんとデッくんは別にした方がいいんじゃないかな? かっちゃんデッくんが絡むとヤバいし。あと焦ちゃんも別の方がいいと思う。バランス的に」

 

「そうだね」

 

「私も参加したかったわ」

 

「確かに梅雨ちゃんうってつけやもんなぁ」

 

「泳ぎ方はどうする?」

 

「“個性”使ってOKなら自由形じゃない?」

 

 こうして女子達は男子達の組み合わせを決め、公平を期すという理由で泳ぎ方は自由形に決まった。

 上鳴、爆豪、心操、常闇、峰田の順番に並び、八百万が“個性”で創造したホイッスルを持って掛け声を出す。

 

「それでは位置について! よーい…」

 

 ホイッスルの音を合図に競泳が始まった。

 ただ一人を除いて、4人が水に飛び込んでいく。

 

「爆速ターボ!!」

 

 爆豪は、両手を爆発させて空中を爆速で進み泳がずにゴールしてしまった。

 

「どうだこのモブ共!!?」

 

 爆豪が自信満々に言うと、切島と瀬呂が抗議する。

 

「どうだじゃねぇ!」

 

「泳いでねぇじゃねぇか!」

 

「自由形っつっただろうが!」

 

「意味が違う!」

 

 爆豪が両手を爆発させながら二人の抗議に対し逆ギレすると、ひなたがツッコミを入れる。

 すると八百万が呆れながらも話し始める。

 

「ですが確かに一理ありますわ。きちんとルールを説明しなかったこちらの不手際でした。そういうわけなので、後の方々も同じで構いません」

 

「「いいのかよ!!」」

 

「趣旨…」

 

 八百万がOKすると、上鳴、峰田、ひなたがツッコミを入れる。

 二組目の切島、砂藤、轟、青山、瀬呂が順に並び、ホイッスルを合図に全員が一斉に飛び出す。

 切島と砂藤は“個性”の関係上普通に泳がざるを得なかったが、青山はネビルレーザーで、瀬呂はテープで空中を移動する。

 だが、轟は氷を出してその上を滑っていき、見事一着でゴールした。

 

「「だから泳げって!!」」

 

「やめとこうよ。言うだけ無駄だから」

 

「わあひー君大人」

 

 真面目に泳いだ上鳴と峰田が、再びツッコミを入れた。

 荒れる二人を心操が冷静に宥めると、ひなたが感心する。

 そして三組目の障子、尾白、緑谷、飯田が順に並び、ホイッスルを合図に全員が一斉に飛び出す。

 障子、尾白、緑谷は普通に泳ぐが、飯田はコースロープの上をエンジンで爆速を生み出し滑っていく。

 

「飯田もかよ!!」

 

「うわあ天ちゃん汚い」

 

 言い出しっぺの飯田がいきなりズルをしてきたので、上鳴とひなたがツッコミを入れる。

 すると、それを見て緑谷が負けじと水中でフルカウルを発動し超速で泳いでいく。

 そして、タッチの差で緑谷が一着、飯田が二着となった。

 

「「「「おおー!!」」」」

 

 真面目に泳いで一位になったのは緑谷が初めてだったため、クラスメイト達は歓声を上げる。

 

「やられたよ、緑谷くん」

 

「飯田くんも凄かったよ」

 

「いや、飯田お前…」

 

 緑谷と飯田がまるで名勝負だったかのように熱い握手を交わすと、心操が『でもお前ズルしたじゃん』と言いたげな目で飯田を見る。

 こうして、それぞれの組で一位となった爆豪、轟、緑谷の三人の中で一位を決める事になった。

 

「各予選の勝者、爆豪くん、轟くん、緑谷くんの3人で優勝者を決める。それでいいか?」

 

 飯田が提案すると、一部納得いかない者がいたものの全員が了承する。

 今まで審判をしていた八百万が観戦し、代わりに飯田が審判をする事になった。

 3人が並ぶと、飯田が掛け声を上げる。

 

「それでは50m自由形の決勝を始める!!」

 

(一気に駆け抜ける!)

 

(滑り抜く…)

 

(全力で泳ぎきる!)

 

(デッくんだけ正解)

 

 3人は、それぞれの思いを胸に準備をする。

 3人の心の声に対し、ひなたが心の中でツッコミを入れる。

 

「よーい!」

 

 掛け声が上がった直後、ホイッスルが鳴る。

 3人はスタートと同時に“個性”を発動するが、その直後突然“個性”が消え、轟、緑谷、爆豪は水に落ちる。

 ひなたがもしやと思い振り向くと、入り口付近には“個性”を発動し目を光らせている相澤がいた。

 

「17時、プールの使用時間はたった今終わった。早く家に帰れ」

 

「お父さん!?」

 

 相澤が睨みをきかせながら言うと、ひなたは目を丸くする。

 

「そんな、先生!」

 

「せっかくいいとこなのに!」

 

 上鳴と瀬呂がいちゃもんをつけると、相澤が威圧感たっぷりに睨みつける。

 

「何か言ったか…?」

 

「「「何でもありません!」」」

 

 相澤に睨まれたA組は、一斉に帰る準備をする。

 ひなたは、それを見て苦笑いを浮かべつつ一緒に帰る支度をした。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、ひなたは心操と一緒に下駄箱で靴を履き替えた。

 ひなたは、脱いだ上履きを下駄箱にしまってバタンと乱暴に扉を閉めながら文句を垂れた。

 

「あーあ、せっかくいいところだったのに! タイミング悪すぎ! ケチ! 鬼軍曹! ヒゲ面芋虫男!」

 

「しつこいな…」

 

 ひなたが怒り狂っていると、心操が呆れながらツッコミを入れる。

 するとその時だった。

 

「誰がケチだって?」

 

「ヒィッ!!」

 

 相澤が後ろからひなたの触角を掴んで睨みつけてくると、ひなたは全身に冷や汗をかいて震え上がる。

 ひなたが顔を真っ青にしてガタガタ震えていると、心操が僅かに目を見開いて相澤に話しかける。

 

「あ、相澤先生…!」

 

「心操、この所訓練の進捗はどうだ? 順調か?」

 

「あ、はい! おかげさまで…」

 

「そうか」

 

 相澤が尋ねると、心操が緊張気味に答える。

 そんな中、相澤に野菜のような持ち方をされていたひなたは、触角を引っ張られる痛みに涙を浮かべながら訴える。

 

「いだだだだだ!! お父様お父上様ごめんなさいそろそろ離して下さい!! 痛い痛い、毛根持ってかれる!! もうそれ野菜の持ち方!!」

 

「お前はまだ訓練が足りないらしいな。来い。帰って鍛え直してやる」

 

「ウワアアアアアア!!!」

 

 相澤が捕縛武器でひなたを捕縛してズルズルと引きずっていくと、心操は何とも言えない表情で去っていく二人を見送った。

 この時ひなたは、水面下で(ヴィラン)達が虎視眈々と牙を研いでいる事は知る由も無かった。

 

 

 

 

 




心操ファミリー(捏造)の設定
原作には登場していない(はず)ので、完全にオリキャラです。
そのうち家庭訪問編があるのでそん時出てきます。



心操(しんそう)悟使(さとし)

誕生日:5月23日(45歳、双子座)
身長:182cm
血液型:A型
好きなもの:妻、人使、妻の手料理
性格:穏やか

心操パパ。
三白眼。若い頃は息子そっくりだった。
ひなたとは一度しか会った事が無いが、妻同様ひなたの事を気に入っている。
ちなみに人美とは妻氏婚で、旧姓は(まこと)
優秀で人望も厚いが、“個性”が“個性”なのでストレスを溜め込んで胃に穴が空いた事がある。

“個性”『読心』
会話をした相手の心を読める。
ただし読めるのは会話中だけ。
自分の意志でオンオフを切り替えられない。



心操(しんそう)人美(ひとみ)

誕生日:1月3日(39歳、山羊座)
身長:162cm
血液型:AB型
好きなもの:夫、人使、ひなたちゃん、流行りのもの
性格:ミーハー

心操ママ。
息子と同じ髪色。10代後半にしか見えない美魔女。20年近く見た目が変わっていない。巨乳。
おっとりした淑女だが、実は天然で割とミーハーなところがあったりする。
自身も“個性”による迫害を受けた経験から、一人息子の人使の一番の理解者となっている。
なお、よく家に勉強をしに来るひなたをたいそう気に入っており、家に招くたびに甘やかしている。
合気道の段持ち。怒ると怖い。

“個性”『洗脳』
相手の身体を意のままに操る事ができる。
せいぜい人型ロボットを操作するときのような単純な動作の命令が限界。



心操(しんそう)人使(ひとし)

誕生日:7月1日
身長:178cm(現時点)
血液型:AB型
好きなもの:猫、サイクリング
性格:ストイック

本作の準主人公兼ヒロイン(暴論)。
原作では普通科に所属していたが、本作ではひなたの介入によってヒーロー科に合格している。
ひなたに考え方を変えられたため性格が若干丸くなっており、原作に比べてフランクで協調性が高く、A組の常識人枠に収まっている。
なお、現時点でひなたや相澤に体術や“個性”の使い方を叩き込まれているため、フィジカルも強い。

“個性”『洗脳』
母親の人美の“個性”の完全上位互換。
相手の身体を意のままに操る事ができる。
“個性”を発動するには、洗脳したい相手に意識を集中させて問いかけを行い、それに相手が返答する必要がある。
心操の意思で自由に解除が出来る他、操られた本人にある程度の衝撃を与えると解除される。
意識を集中させる必要があるため、本人の意思に関係無く“個性”が発動する事はない。
なお、現時点で原作よりも複雑な命令ができるようになっており、さほど難しくなければ頭を使った命令も可能になった。
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