抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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10が8件9が30件だと…!?
感謝感激雨霰。
面白いと思っていただけましたら高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。


ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ

 そしてバスに揺られる事一時間後。

 A組は見晴らしのいい空き地に辿り着いた。

 

「休憩だ━━…」

 

「おしっこおしっこ…」

 

 全員がバスから降りる中、峰田は股間を押さえてモジモジしていた。

 先程バスで猥談をしていた際、調子に乗ってジュースを飲み過ぎたせいで、尿意を催してしまったのだ。

 

「つかここパーキングじゃなくね?」

 

「ねえあれB組は?」

 

「ウワア虫」

 

「お…おしっこ…トトトトイレは…「何の目的も無くでは意味が薄いからな」

 

 相澤は、トイレを探してソワソワする峰田を見事にスルーして話をする。

 ひなたは、峰田が不憫だとは微塵も思わなかったが、相澤のスルースキルは流石だと内心感心していた。

 するといきなり女性の声が聞こえてくる。

 

「よ━━━うイレイザー!!」

 

「ご無沙汰しています」

 

 相澤が頭を下げると、三人の人物がA組の前に立つ。

 

「あ!」

 

 ひなたは、三人の人物を見て目を丸くする。

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

 猫をモチーフにしたアイドルのようなコスチュームに身を包んだ女性ヒーロー二人、そして角の生えた帽子を被った5、6歳くらいの男の子が現れる。

 女性ヒーロー二人は、登場するなり猫のようなポーズを決めた。

 相澤は、ポーズを決める女性ヒーロー二人を紹介する。

 

「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

 

 二人は、『プッシーキャッツ』と呼ばれるプロヒーローチームで、赤いコスチュームを着た暗めの茶髪ボブの女性が『マンダレイ』、水色のコスチュームを着た金髪ポニーテールの女性が『ピクシーボブ』だ。

 するとひなたが触角をピコピコさせて二人に駆け寄って挨拶をする。

 

「マンダレイさん、ピクシーボブさん! ご無沙汰してます!」

 

「おお、久しぶりひなたちゃん!」

 

「元気してた?」

 

「はい! ラグドールさんと虎さんは? 今日は一緒じゃないんですか?」

 

「「「「知り合い!!?」」」」

 

 ひなたが二人と親しげに話していると、A組がひなたを二度見する。

 どう見ても、プロヒーローと一般人の距離感ではない。

 目の前のそれは、まるで姉妹のような距離の近さだ。

 すると相澤がため息をついてプッシーキャッツがひなたを知っている理由を話し始める。

 

「俺の仕事の関係でな…こいつも何度か会った事があるんだ」

 

 相澤がひなたのはしゃぎっぷりに呆れながら言うと、A組はほとんど全員驚く。

 実はひなたは相澤の仕事の関係でプッシーキャッツに何度も会っており、もはやご近所付き合いに近い関係だった。

 プッシーキャッツは相澤の娘であるひなたを可愛がっており、ひなたもまたプッシーキャッツの大ファンだったので、互いに久々の再会を喜んでいた。

 すると勝手に盛り上がっているひなたに対して相澤が注意をする。

 

「おい相澤、お前もここじゃ一生徒なんだ。立場を弁えろ」

 

「あ、すいませーん…」

 

 相澤が睨みをきかせながら言うと、ひなたは恥ずかしそうに頭を掻いてペロッと舌を出しながら謝罪をし、元の場所に戻っていった。

 すると緑谷がお約束のヒーロー解説をし始めた。

 

「相澤さん、プッシーキャッツとも知り合いだったんだ…! 連盟事務所を構える4名1チームのヒーロー集団! 山岳救助等を得意とするベテランチームだよ! キャリアは今年で12年にもなる…「心は18!!」へぶ!!」

 

 緑谷が言い終わる前に、ピクシーボブに顔面を掴まれ鬼のような形相で睨まれる。

 ピクシーボブに年齢の話題は禁句だと学んでいたひなたは、今のは緑谷が悪いと思い苦笑いを浮かべていた。

 

「ここら一体は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」

 

「「「「「遠っ!!」」」」」

 

 マンダレイが遠くに見える山を指差すと、生徒達は一斉にツッコむ。

 

「え…? じゃあ何でこんな半端な所に…………」

 

「いやいや…」

 

「バス…戻ろうか……な? 早く…」

 

 麗日が疑問を抱き、砂藤がまさかと言いたげな表情を浮かべて笑い、瀬呂が苦笑いを浮かべながらバスを指差す。

 何かを察したのか皆が焦り始めバスに戻ろうとする。

 だが…

 

「今はAM9:30。早ければぁ…12時前後かしらん」

 

「ダメだ…おい…」

 

「戻ろう!」

 

 マンダレイが言うと、切島と芦戸が絶望する。

 

「バスに戻れ!! 早く!!」

 

 切島は、A組を先導してバスに戻ろうとする。

 だが既に遅かった。

 

「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

 

「悪いね諸君、もう合宿は始まってる。おい、逃げんな相澤。お前も行くんだよ」

 

「ですよねぇ!!」

 

 A組の前方にピクシーボブが現れ地面に手をつくと、土砂が盛り上がり全員が森の中に落ちていく。

 忍者のような無駄のない動きで落下を免れ忍び足で逃げようとしていたひなたも、相澤に背中を蹴飛ばされて土砂に巻き込まれていった。

 マンダレイは、落ちていった生徒達に向かって叫ぶ。

 

「私有地につき、“個性”の使用は自由だよ! 今から3時間! 自分の足で施設までおいでませ!! この…魔獣の森を抜けて!!」

 

 マンダレイの声が響く中、A組は真下の森へと落ちていった。

 真下の森は、木々が生い茂っており、9時台だというのにどこか薄暗くて不気味だ。

 

「魔獣の森…!?」

 

「なんだそのドラクエめいた名称は……」

 

「ぺっ、ぺっ! 口の中に土入った…! あんのクソ親父覚えとけよ…!」

 

 緑谷が口に入った土を吐き出しながら言い、上鳴がツッコミを入れる。

 一方でひなたは、口の中に入った土を吐き出しながら自分を蹴飛ばした相澤に対し悪態をついた。

 

「雄英こういうの多すぎだろ…」

 

「文句言ってもしゃあねぇよ、行くっきゃねぇ」

 

「耐えた…オイラ耐えたぞ」

 

「あっ、峰田! そっちは…」

 

 峰田が股間を抑え、茂みに向かっていく。

 ひなたが峰田を呼び止めようとするが既に遅く、木の影から巨大な化け物がでてきた。

 

 

 

「「マジュウだ━━!!?」」

 

 上鳴と瀬呂は同時に叫び、峰田は事切れたのか解放されたような表情を浮かべていた。

 どうやら、魔獣が現れた時に驚いたせいで事切れてしまったようだ。

 するとひなたが前に出て髪をざわつかせ“個性”を発動する。

 

「ホンット…こういうの多いよね雄英!」

 

「でやぁっ!!」

 

「ふっ!!」

 

「『レシプロバースト』!!」

 

「死ねや!!」

 

「SMASH!!!」

 

 ひなたは、“個性”破壊音波で魔獣を攻撃する。

 するとそれと同時に心操、轟、飯田、爆豪、緑谷が前に出て、ひなたは音波で、心操は近くにあった木の棒で、轟は氷結で、飯田はエンジンキックで、爆豪は爆破で、緑谷はパンチで6人同時に魔獣を蹴散らす。

 

「楽勝!!」

 

 ひなたは、“個性”を発動して髪を逆立てながら言った。

 6人が攻撃をするとあっさり崩れた魔獣を見て、他のクラスメイトは目を見開く。

 

「な…崩れた!?」

 

「これ、ピクシーボブの“個性”だよ! こうやって土を操って攻撃してくるんだ! 気をつけて!」

 

 ひなたは、“個性”で周囲を感知しながら叫んだ。

 その頃ピクシーボブは、上機嫌な様子で土の魔獣を操っていた。

 一方でマンダレイは、相澤に話しかけていた。

 

「しかし無茶苦茶なスケジュールだね、イレイザー」

 

「まあ通常2年の前期から習得予定のものを、前倒しで取らせるつもりで来たので、どうしても無茶は出ます。緊急時における“個性”行使の限定許可証、ヒーロー活動認可資格、その“仮免”。(ヴィラン)が活性化し始めた今、彼らにも…」

 

 マンダレイと相澤が話していると、ピクシーボブの付けていたスカウターのような機能を持ったサングラスが反応する。

 

「あっ!?」

 

 ピクシーボブの視線の先には、魔獣を容赦なく蹴散らすひなた達がいた。

 そんなピクシーボブに、相澤が話しかける。

 

「──自衛の術が必要だ。では、引き続き頼みます。ピクシーボブ」

 

「く〜っ、お任せー! 逆立ってきた〜っ!」

 

 相澤に生徒達を任されたピクシーボブは、いじめがいのある粒揃いの生徒達に思わず興奮する。

 ひなた達が魔獣を圧倒すると、砂藤と瀬呂が轟に話しかける。

 

「あの魔獣を瞬殺かよ!」

 

「やったな」

 

 一方で峰田は、近くにあった木に手をついて泣いていた。

 

「やった…オイラやっちまった…」

 

「ああ…うん……」

 

 峰田がズボンから異臭を放ちながら泣いていると、心操は憐れむような視線を向ける。

 切島は、近くにいた爆豪に話しかけていた。

 

「流石だぜ、爆豪」

 

「まだだ。おい、触角」

 

「今やってる!」

 

 爆豪がひなたに声をかけると、ひなたは地面に両手をつき、その状態で『千里音(ダウジングシャウト)』を放つ。

 すると超音波による振動が空気を伝う音よりも何倍も速く地表を伝っていき、宿泊施設までの索敵を可能にした。

 ひなたが目を瞑って反響音を聞き取ると、『千里音(ダウジングシャウト)』の範囲内にいる全ての魔獣の位置と移動速度、強さが読み取れる。

 

「…うん、うん、うん! 魔獣の総数、287…288…293…! どんどん増えてる!」

 

「マジか!? 増えてんのかよ!」

 

「ピクシーボブの“個性”なら、魔獣を増やす事が出来ても不思議じゃない…!」

 

「じゃあ尚更急がねえとだな!」

 

 ひなたが言うと、上鳴が驚き、緑谷が分析をし、砂藤がグッと拳を握った。

 すると八百万が前に出て指示を出す。

 

「ならここを突破して、最短ルートで宿泊施設を目指すしかありませんわ! ひなたさん、最短ルートの模索を!」

 

「うん、今やってる!」

 

 八百万が指示を出すと、ひなたは反響音を聴き取りながら答える。

 ひなたがふぅと一旦息をつくと、障子と耳郎も索敵に加わった。

 

「接近してくる魔獣の探知は俺達が」

 

「ありがとう!」

 

 二人も索敵に加わると、ひなたが礼を言った。

 三人が索敵を始めたのを確認した飯田は、他のクラスメイトにも声をかける。

 

「よし、行くぞA組!!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

 飯田の掛け声と共に、A組の生徒達は一致団結した。

 ひなたは、大きく息を吸うと、特殊な超音波を最大威力で放った。

 

「『千里音(ダウジングシャウト)』!!!」

 

 ひなたが超音波を放つと、周囲の様子がより鮮明に脳内に思い浮かぶ。

 超音波による広範囲の索敵で、最短ルートを導き出す。

 

「こっち!」

 

 マンダレイの指差した宿泊施設の方角を覚えていたひなたが、音を聴き分けてより短いルートを選択していた。

 そして障子と耳郎も、周囲にいる魔獣の気配を探る。

 

「前方から3匹、左右に2匹ずつ」

 

「総数7! 来るよ!」

 

「っしゃ!!」

 

 二人が報告すると、瀬呂は周囲にいた魔獣をまとめてテープで拘束した。

 

「砂藤! 切島!」

 

 瀬呂が声をかけると、砂藤が糖分を摂取してパワーアップし、切島は両腕を硬化する。

 

「オラァ!!」

 

「ウォオオオオオオオ!!!」

 

 切島は、硬化したまま瀬呂テープにぶら下がって飛び上がると、そのまま魔獣の顔面に拳を叩き込んだ。

 そして砂藤は、パワーアップした状態で竜型の魔獣の尾を掴んで振り回し、周りにいた魔獣をもまとめて倒した。

 魔獣を纏めて倒した三人に、ひなたはグッとサムズアップを送る。

 

「いい調子!」

 

「どんどん来るよ!」

 

 三人が魔獣7体を一瞬のうちに倒した間にも、次々と魔獣が襲いかかってくる。

 すると今度は、常闇が黒影(ダークシャドウ)を出して差し向ける。

 

黒影(ダークシャドウ)!!」

 

「アイヨ!」

 

 常闇は、巨大化させた黒影(ダークシャドウ)で現れる魔獣をちぎっては投げた。

 だがその時、背後から飛行型の魔獣が襲いかかり、常闇の間合いに入ってくる。

 するとその時、尾白が魔獣を尾で殴った。

 

「ふっ!!」

 

 尾白が魔獣を尾で殴ると、魔獣はバランスを崩して後ろに倒れる。

 

「青山!」

 

「任せて☆」

 

 尾白が叫ぶと、青山はウインクをしながら周囲にいる魔獣をネビルレーザーで焼いて倒した。

 一方で峰田はというと。

 

「チクショオ!! お前らのせいでズボンビチャビチャじゃねえか!!」

 

 峰田は、泣きながらも大量のもぎもぎを魔獣目掛けて投げつけた。

 魔獣数匹が峰田のもぎもぎで身動きが取れなくなると、上鳴がそのうちの一匹に飛び乗る。

 

「離れてろ峰田!!」

 

「伝導を用意しましたわ、上鳴さん!」

 

「サンキュー八百万! 行くぜ、200万ボルト!!」

 

 上鳴が電流を放つと、八百万が創造した伝導を通って電流が流れ、周囲にいた魔獣が纏めて感電する。

 だが電流を放ちすぎた上鳴は、脳がショートしてアホになっていた。

 

「ウェ〜イ…」

 

 一方で心操は、芦戸や葉隠と連携して魔獣を倒していた。

 心操は、自らが囮になって魔獣を誘き寄せる。

 

「そりゃあ!!」

 

 芦戸は、木からぶら下がってアクロバティックな動きをしながら、魔獣目掛けて酸を撒き散らし魔獣を一箇所へと集めていく。

 心操と芦戸の陽動によって魔獣が一箇所に集められると、心操は葉隠に向かって叫ぶ。

 

「今だ、葉隠!」

 

「はーいっ!」

 

 いつの間にか裸になっていた葉隠は、身体が見えないのをいい事に魔獣に接近し、八百万に造ってもらった小型爆弾を魔獣の群れに投げ込むと近くの木に飛び移って距離を取った。

 するとその直後、小型爆弾が炸裂し、一箇所に集められた魔獣は一斉に吹き飛んだ。

 一方麗日は、魔獣に忍び寄って指先の肉球で触れ、次々と魔獣を浮かせていた。

 

「梅雨ちゃん!」

 

「ケロ!!」

 

 麗日が声をかけると、蛙吹は浮いた魔獣を舌で巻きつけ、そのまま勢いよく投げる。

 そのタイミングで、麗日は“個性”を解除した。

 

「解除!」

 

 すると蛙吹の舌による勢いに重力が上乗せされ、魔獣は勢いよく地面に落下する。

 地面に叩きつけられた魔獣は、全身がバラバラに砕け散った。

 

「さらに多数出現!!」

 

 障子が言うと、爆豪は爆破で空中に浮き上がり、飛行型の魔獣を躊躇なく爆破した。

 

「死ねェ!!」

 

 一方で轟は、氷と炎で地を這う魔獣を一掃した。

 

「ふっ」

 

 二人が魔獣を倒していくが、魔獣はさらに出現する。

 さらに魔獣が5体現れると、飯田が緑谷に声をかける。

 

「行くぞ、緑谷くん!」

 

「うん!」

 

 飯田が声をかけると、緑谷は頷き、二人で連携して魔獣を倒していく。

 その様子をパーキングエリアから見ていたピクシーボブは、魔獣を出現させては操りA組を追い詰めていく。

 

「うわっ、私の魔獣達がエグいスピードで倒されてる! なら…!」

 

「俺達もそろそろ移動しましょう」

 

「そうね。洸汰、行くよ」

 

 相澤が声をかけると、マンダレイは洸汰に呼びかける。

 洸汰は、不愉快そうに顔を顰めながら森を睨んでいた。

 

「くだらん。バカじゃねえの。ヒーローになりてえなんて」

 

 洸汰は、そう言い捨てて去っていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして12時28分。

 

「お〜、早いね」

 

 プッシーキャッツの宿泊施設『マタタビ荘』では、相澤とマンダレイと謎の少年、そしてピクシーボブが待機していた。

 A組の生徒21人は、ボロボロになって施設に辿り着いた。

 ひなたは“個性”を酷使した事で体力が尽きかけており、同じくボロボロの心操の肩を借りていた。

 そして何故か峰田だけはむしろ清々しい表情を浮かべており、ズボンから異臭を放っていた。

 

「腹減った…死ぬ」

 

「あの、もしかして『三時間』って…」

 

「あー、アレね。私達ならって意味だったんだけどね、うん」

 

「実力差自慢の為か……やらしいな…」

 

 瀬呂と切島が弱音を吐き、心操が尋ねると、マンダレイは少し気まずそうに言った。

 砂藤は、マンダレイの発言に対して不満を漏らす。

 だが、思うところがあるのは彼等だけではなかった。

 

「ゲホッ…せめてもう少し“個性”の配分考えて使ってればここまで体力消耗しなかったと思う。悔しいな…」

 

「俺も、最後もっと早く動けた。まだまだ修行が足りないな」

 

「ねこねこねこ…でも正直、誰も間に合わないと思ってた。まさか全員3時間で辿り着けるとはね。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら……特に、そこの6人。躊躇の無さは経験値によるものかしらん? 三年後が楽しみ! ツバつけとこ──!!!」

 

「うわっ! 汚ねっ!!」

 

 ピクシーボブはひなた、飯田、心操、轟、爆豪、緑谷の6人を褒めると、ひなた以外の5人に唾を飛ばし始めた。

 唯一唾を免れたひなたは、それを見て引き攣った笑みを浮かべていた。

 

「マンダレイ…あの人あんなでしたっけ」

 

「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」

 

「適齢期的なアレ…!」

 

 相澤がピクシーボブを指差しながらツッコミを入れマンダレイも呆れていると、ひなたはマンダレイの発言に対して目を点にしながら反応する。

 すると緑谷が思い出したように言った。

 

「適齢期と言えば──…」

 

「と言えばて!!」

 

 緑谷が言い終わる前に、ピクシーボブが緑谷の顔面を掴む。

 その様子を、ひなたは半笑いで見ていた。

 すると緑谷が謎の少年を指しながら話し始める。

 

「ずっと気になってたんですが、その子はどなたかのお子さんですか?」

 

「ああ違う。この子は私の従甥だよ」

 

「!」

 

 マンダレイが言うと、ひなたは僅かに目を見開く。

 すると、ひなたの隣にいた麗日がひなたに尋ねる。

 

「あれ? ひなたちゃん知り合い?」

 

「うん、マンダレイさんの親戚の洸汰くん。何回か会ってるんだけど…まだ小さかったから覚えてないかなぁ」

 

 麗日が尋ねると、ひなたは頬を掻きながら答える。

 

「洸汰! ホラ挨拶しな。一週間一緒に過ごすんだから…」

 

 マンダレイが洸汰に手招きすると、緑谷とひなたは洸汰に歩み寄った。

 

「あ、えと、僕雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」

 

「えっと…一応お久しぶり? ひなただよ。このお兄ちゃんのクラスメイトで、プッシーキャッツ達の友達なんだ」

 

 二人が自己紹介をすると、洸汰は緑谷に金的を喰らわせた。

 すると緑谷は気を失って倒れる。

 

「きゅう」

 

「緑谷くん!!」

 

「デッくん!?」

 

 緑谷が気絶すると、飯田とひなたが緑谷を心配する。

 

「とりあえず冷やすもの! 焦ちゃん氷嚢作るから氷出して!」

 

「あ、ああ…」

 

「おのれ従甥! 何故緑谷くんの陰嚢を!!」

 

 飯田が尋ねると、洸汰はA組の生徒達を睨みながら言い放った。

 

「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねぇよ」

 

「つるむ!!? いくつだ君!!」

 

「コラ! 謝んな洸汰!!」

 

 洸汰が冷たく言い放ちながら去っていくと、飯田が洸汰に対して注意をする。

 マンダレイは緑谷に謝るよう洸汰を叱るが、洸汰は黙って去っていく。

 ひなたは、泡を吹いて倒れている緑谷を介抱しつつも心配そうに洸汰を見た。

 爆豪は、洸汰を見て鼻で笑う。

 

「マセガキ」

 

「お前に似てねえか?」

 

「あ? 似てねぇよつーかてめぇ喋ってんじゃねぇぞ舐めプ野郎」

 

「悪い」

 

「いや…割と事実だろ」

 

「あ!?」

 

 爆豪に対して轟が率直に言うと、爆豪がキレ出す。

 さらに心操が轟に同意すると、爆豪はさらにキレた。

 するとその時、マンダレイがA組に声をかける。

 

「皆お腹空いたでしょ? これからお昼にするから準備して!」

 

「おお…飯だ飯…!」

 

 マンダレイが声をかけると、空腹で死にそうになっていたA組は安堵の声を漏らす。

 マンダレイとピクシーボブがA組を連れた先には、鉄板と肉や野菜などの山積みになった食材が置いてあった。

 

「キャンプの醍醐味といえばバーベキュー!」

 

「食材は山ほどあるから、食べれるだけ食べときな!」

 

「「「「おお〜…!」」」」

 

 元気なピクシーボブとマンダレイとは反対にA組は疲れ切っており、ただでさえ空腹で死にそうなのに自分達で食材を焼くという手間に疲弊を隠せなかったが、食べ物にありつけるだけありがたいと思い鉄板に食材を乗せて焼き始めた。

 A組は、次々と鉄板に食材を乗せ、焼けては取り皿に取ってかき込み口に胃に流し込んだ。

 鉄板で焼いた肉や野菜に、あらかじめ用意してあった白米とワカメスープというシンプルな食事だったが、苦労してようやくありつけた食事に、何人かは涙していた。

 

「美味え!! お肉が美味えよぉ!!」

 

「ご飯おかわり!!」

 

 魔獣との戦いで体力を消耗していたA組は、あっという間に外に出してあった食材を平らげた。

 食材が大方片付くと、比較的体力が残っているメンバーが残りの食材で焼きそばを焼いた。

 

「ヘラの先制攻撃だべ!!」

 

「死ねコラアアアアア!!」

 

 ひなたと爆豪がどっちがより美味しい焼きそばを作れるか競争していたりしていたが、何だかんだでシメの焼きそばが完成した。

 

「さあここで登場しますは菓子粉砕機グルメスパイザー! バーベキュー味のスナック菓子を砕いて振りかければ…」

 

「こんなところで伏線回収しなくていいから」

 

 ひなたが完成した焼きそばに持ってきたおもちゃで菓子を振りかけようとすると、心操がツッコミを入れる。

 その後、全員で片付けをしていると、相澤がA組に向けてアナウンスをした。

 

「お前ら、片付け終わったらバスから荷物を下ろせ。部屋に荷物を置いたら自由時間だ。18時に夕食、その後風呂に入って就寝だ。本格的なスタートは明日からだ、さぁ早くしろ」

 

「イエスユアハイネス!」

 

 相澤が指示を出すと、ひなたはビシッと敬礼をした。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 午後6時。

 A組とB組は、食堂に集まって全員で夕食を食べた。

 

「いただきます!!」

 

 テーブルの上には沢山の食べ物が並べられており、全員がっつきながら食べていた。

 

「へえ、女子部屋は普通の広さなんだな。じゃあ」

 

「男子の大部屋見たい! ねえねえ見に行ってもいい後で!」

 

「おー来い来い」

 

「魚も肉も野菜も…贅沢だぜえ!!」

 

 瀬呂と葉隠が楽しそうに話し、峰田はあまりの美味しさに涙しながら食事をかきこんでいた。

 切島と上鳴は、あまりの食事の美味しさに涙しながら白米をかきこんでいた。

 

「美味しい! 米美味しい!」

 

「五臓六腑に染み渡る!! ランチラッシュに匹敵する粒立ち!! いつまででも噛んでいたい! 土鍋…!?」

 

「土鍋ですか!?」

 

「うん…つーか腹減りすぎて妙なテンションになってんね」

 

 上鳴と切島が尋ねると、食事を運んでいたピクシーボブがA組のテンションに呆れながら答える。

 

「まー色々世話焼くのは今日だけだし、食べれるだけ食べな」

 

「ありがとうございます! お料理どれも美味しいですね! 後でレシピ伺っても!?」

 

「ああ、そんなに気に入ったんだったら後で聞きにきな」

 

「わぁい!」

 

 ピクシーボブが言うと、ひなたはパアッと笑みを浮かべた。

 

「嬉しそうだなひなた」

 

「お料理のレパートリーが増える! お父さん喜ぶぞ〜!」

 

 心操が話しかけると、ひなたは目を輝かせながら食事を頬張った。

 その頃マンダレイは、食事を運びながら洸汰に声をかけていた。

 

「あ、洸汰! そのお野菜運んどいて」

 

「フン……」

 

 不満そうに野菜の入った箱を運ぶ洸汰を、緑谷とひなたはがっつきながらも心配そうに見ていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 食事が終わると、A組は一斉に風呂に入った。

 ひなた達が入ったのは露天風呂で、温泉がここに来るまでの疲れを癒した。

 

「気持ちいいねえ」

 

「温泉あるなんてサイコーだわ」

 

「くっ……!」

 

 ひなたはというと、視線だけで殺せそうなくらい他の女子達を凝視していた。

 他は発育がいい女子がほとんどな中、ひなたは自分の幼児体型にコンプレックスを抱いていた。

 

「ひなたちゃん…女の子だったんだね…」

 

「今更!?」

 

 葉隠がひなたを見ながらいうと、ひなたがツッコミを入れる。

 自分の貧相な身体に嫌気がさしたひなたは、俯いて泣きそうになるのを堪えていた。

 

「うっうっ、悔しくない…悔しくないもんっ……今は一次関数だけど3回積分して立派な四次関数になってやるんだから……!」

 

「一人で何言ってるのひなたちゃん」

 

 ひなたが目元をゴシゴシ擦っていると、蛙吹がツッコミを入れる。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、男湯では。

 

「まぁまぁ…飯とかはね…ぶっちゃけどうでもいいんスよ…求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺分かってるんスよオイラァ…求められてるのはこの壁の向こうなんスよ…」

 

「1人で何言ってんの峰田くん…」

 

 女湯との仕切りの前に立ち何かをブツブツ言う峰田に対し緑谷がツッコむ。

 

 

 

「気持ちいいねえ」

 

「温泉あるなんてサイコーだわ」

 

「ひなたちゃん…女の子だったんだね…」

 

「今更!?」

 

 男子達が耳を澄ませると、女子の声が聞こえてくる。

 他の女子達が純粋に温泉を楽しんでいる中、ひなたはコンプレックスを爆発させているようだった。

 

「うっうっ、悔しくない…悔しくないもんっ……今は一次関数だけど3回積分して立派な四次関数になってやるんだから……」

 

「一人で何言ってるのひなたちゃん」

 

 

 

「ホラ…いるんすよ…今日日男女の入浴時間ずらさないなんて事故…そう、もうこれは事故なんスよ…」

 

「「「…………!!」」」

 

 仕切りの向こうから聞こえる声と峰田の独り言に、何人かの男子は生唾を飲み込む(温泉で泳いで遊んでいた上鳴に至っては温泉から顔を出して分かりやすく振り向いていた)。

 

「峰田くんやめたまえ! 君のしている事は己も女性陣も貶める恥ずべき行為だ!」

 

「峰田お前さぁ…いい加減にしないと相澤先生に言うよ」

 

 当然、A組男子の中でも特に真面目な飯田と心操が峰田を止めてきた。

 すると峰田は悟りを開いたような笑みを浮かべる。

 

「やかましいんスよ…壁とは超えるためにある!! “Plus Ultra”!!!」

 

「速っ!!」

 

「校訓を穢すんじゃないよ!!」

 

 峰田は頭の球体を使って引くほど軽い身のこなしで仕切りを登っていき、緑谷と飯田がツッコミを入れる。

 だが、仕切りから突然洸汰が顔を出す。

 

「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」

 

 そう言って洸汰は峰田を突き飛ばした。

 

「クソガキィイイィイ!!?」

 

 峰田は、洸汰へ恨み言を吐き捨てながら落ちていった。

 

「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」

 

「とりあえず峰田は焼き土下座」

 

「ありがと洸汰くーん!」

 

 蛙吹とひなたが峰田に対して辛辣なコメントをし芦戸が礼を言うと、洸汰はふと女湯の方を振り向く。

 子供とはいえ男子にとっては刺激的な光景に、洸汰は固まり顔を真っ赤にして鼻血を垂らす。

 

「わっ…あ…」

 

 そして、そのまま気を失って仕切りから落ちてしまった。

 

「「「洸汰くん!!?」」」

 

 するとそこへ緑谷が飛び出し何とか洸汰をキャッチした。

 ちなみに峰田の方はというと飯田の顔面に落ちた。

 顔を真っ赤にし鼻血を垂らしたまま気を失った洸汰を、緑谷はマンダレイの元へと連れて行った。

 マンダレイは、洸汰をソファーに寝かせる。

 

「落下の恐怖で失神しちゃっただけだね、ありがとう。イレイザーから『一人性欲の権化がいる』って聞いたから見張って貰ってたんだけど…最近の女の子って発育良いからねぇ」

 

「とにかく何ともなくて良かった…」

 

「よっぽど慌ててくれたんだね」

 

 緑谷は、初めて会った時に洸汰が言っていた事が気になり、マンダレイに尋ねる。

 

「洸汰くんは…ヒーローに否定的なんですね」

 

「ん?」

 

「僕の周りは昔からヒーローになりたいって人ばかりで…あ、僕も…で、こんな歳の子がそんな風なの珍しいな…って思って」

 

 すると、マンダレイが洸汰の額に冷水にさらしたタオルを乗せながら答える。

 

「そうだね。当然世間じゃヒーローをよく思わない人も沢山いるけど…普通に育ってればこの子もヒーローに憧れてたんじゃないかな」

 

「普通…?」

 

 緑谷が尋ねると、部屋に入ってきたピクシーボブが答える。

 

「マンダレイのいとこ… 洸汰の両親ね、ヒーローだったけど殉職しちゃったんだよ」

 

「え……」

 

「二年前…(ヴィラン)から市民を守ってね。ヒーローとしてはこれ以上ない立派な最期だし、名誉ある死だった。でも物心ついたばかりの子供にはそんな事わからない。親が世界の全てだもんね。『自分を置いて行ってしまった』のに、世間はそれを良い事・素晴らしい事と誉め称え続けたのさ…私らの事もよく思ってないみたい…けれど、他に身寄りも無いから従ってる……って感じ。洸汰にとってヒーローは、理解できない気持ち悪い人種なんだよ」

 

 マンダレイが言うと、緑谷は黙り込む。

 立て続けに聞く価値観の相違に、何も言えなくなってしまったのだ。

 

「それより君…服、着てきな?」

 

 マンダレイは、タオル一枚で話を聞いていた緑谷にツッコミを入れる。

 ひなたは、ドアの前に立ってマンダレイとピクシーボブの話を聞いていた。

 洸汰の事が心配で様子を見に来たのだが、二人の話を聞いて何と言葉をかけていいのかわからなくなり、かけようとしていた言葉を全て飲み込んで部屋から去っていった。

 周りのクラスメイトとは正反対の価値観に戸惑いつつも、ひなた達は合宿の一日目を終えたのだった。

 

 

 

 

 

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