とある夜、葉隠の叫び声が寮の一階に響きわたった。
「キャー! 覗き魔がいるー!!」
「えっ、何!? もしかして峰田!?」
「えっ、峰田は風呂だぞ!?」
その叫びにあわてて駆けつけたのは、談話スペースで談笑していたひなた、上鳴、尾白、砂藤。
覗きや痴漢やセクハラといえば、歩く性犯罪者予備軍といっても差し支えない峰田。
だが、その峰田はちょうど風呂の真っ最中だった。
「峰田くんじゃなかったよ! 一瞬だったんだけど、なんかニヤけた顔があそこの窓から中を覗いてたんだ……!」
風呂上がりの葉隠のTシャツの袖部分が、玄関側の窓を指差している。
怒り半分、怖がり半分の声はとても冗談には思えない。
上鳴達は顔を見合わせる。
峰田ではないという事は、A組ではないという事だ。
他のA組は全員、寮の中にいる。
──もしや
上鳴達が瞬時に連想してしまうのも無理はない。
「どうしたの?」
緊張感の漂う面々の空気に、風呂へ行こうとしていた切島、そのあとからやってきた緑谷、飯田、轟、心操がなにごとかと寄ってくる。
覗き魔の事を言うと、やはり全員がもしかして
「一応、相澤先生に伝えておこう」
飯田が言ったその時。
ドンドンドンッ!
激しくドアを叩く音に、全員が身構えた。
どうやら先生に伝える時間もなさそうだ。
皆がアイコンタクトして、玄関を取り囲む。
「──どなたですか」
ドア越しに飯田が緊張した面持ちで問いかける。
だが、その問いかけに反応はない。
少し考えて飯田が全員に目で確認をとる。
無言で頷く一同の顔にも緊張感が増し、いつでも“個性”で迎え撃てるように戦闘態勢をとった。
だがひなたは、ある事に気がつくと全員に小声で話した。
「あっ、待って皆。
「えっ、
「じゃあ誰なの?」
「それは……」
ひなたがドアの向こう側にいる人物が
するとその直後。
「ハァア〜!? 客人がやってきたのに、敵でも迎え撃とうとするその出迎え!? さっすがA組、もうヒーロー気取りってワケ!?」
HAHAHAHAHAと続く高笑い。
ある意味、
啞然とする一同に構うことなく当然のように中に上がってくる。
「……ちょっ、さっき窓から覗いてたのって物間くんっ?」
ハッとする葉隠に、興味深そうにあたりを見回していた物間がフッとシニカルな笑みを浮かべた。
「人聞き悪いこと言わないでくれよ。誰かいるかなって見ただけだよ」
「それを覗いてたと言うのでは?」
「人様のプライベートな部分に首突っ込もうとするなよ」
「最低。警察呼ぶね」
指摘する飯田や心操と、真顔で携帯を取り出すひなたにも物間はどこ吹く風だ。
このままでは埒があかないと緑谷が声をかける。
「それで……何の用があって来たの?」
「用がなくっちゃ来ちゃいけないって?」
「いやっ、そういう意味じゃなくてっ」
ああ言えばこう言う物間。
だが、ひとしきりA組をいじって満足したのか、面々に向かって口を開く。
「視察に来たんだよ。A組とB組の寮に差があるかもしれないだろう?」
物間の言葉に全員がきょとんとする。
上鳴がそれを代表するように言った。
「違いも何もねーだろ? 皆一律で建てたんだから」
寮はどの棟も見かけも作りも同じだ。
唯一の違いといえば、玄関の上にでかでかと表示されているクラス名くらいだろう。
だが、物間はその言葉を「ハッ」と一蹴する。
「君達、他のクラスの寮に行ったのかい?」
全員、ふるふると首を横に振る。
「じゃあ違いなんてわからないじゃないか」
「それは確かに……」
「じゃあ! 確かめさせてもらってもいいよね!? ね!! ね!!!」
物間は、強引にA組に詰め寄って、無理矢理入寮許可を取った。
◇◇◇
「オタク!」
「あ、うん」
「目が痛い!」
「メルシィ ☆」
2階の緑谷と青山の部屋を見た物間が一刀両断する。
緑谷の部屋は入寮初日にオタクと評されていて今さら驚かない。
青山にとっては「目が痛いくらい眩しい」とは誉め言葉だ。
強引に視察許可をとった物間は、一階の共有スペースを見て回ったあと、「じゃあ部屋も見せてよ」と男子部屋を見て回っているのだ。
しかたなしに、その場に居合わせた全員がぞろぞろとついてきている。
ちょうど青山は部屋で鏡を見て自分チェックに勤しんでいたところだった。
ちなみに、峰田、常闇、爆豪、障子、瀬呂はのんびりと風呂に浸かっていて、部屋に鍵をかけているので入る事はできない。
「はぁ ~、わかりやすくておもしろくないね」
自分で見たいと言っておきながら、つまらなさそうな顔をする物間に飯田が尋ねる。
「部屋におもしろいもおもしろくないもないだろう。部屋は必要なものが機能的に並べられていれば十分じゃないか?」
そう言われた物間は、わかってないなぁと言わんばかりに肩をすくめてみせる。
「それは違うよ。部屋は自分だけの極めて個人的なパーソナルスペースだろ? つまりその人の本性を現しているんだよ。その部屋を見れば、その人の本質がわかるってワケ」
「つまり僕の本質も眩いってわけだね☆当たってる☆」
満足そうな青山の隣で、緑谷がちょっと複雑な顔をして言った。
「じゃあ僕の本質ってオタク……?」
「うん」
「当たってるぞ」
緑谷が複雑そうな表情を浮かべながら言うと、ひなたと心操が頷く。
オタクとはある意味自分の道を究める事。
だからそう呼ばれる事はなんの抵抗もないが、本質がオタクと言われるとなんだか微妙だ。
好きなもの、つまりヒーローを一途に追い求める姿は立派なオタクだ。
今度は3階に上がり、上鳴と飯田と尾白と心操の部屋だ。
「じゃあ俺の部屋見てくれよ!」
上鳴はワクワクと期待してドアを開けた。
スケボーやダーツにオーディオなどが置かれ、お気に入りの小物もキレイにディスプレイされている。
個性的な照明器具もこだわって選んだものだ。
だが初日のお部屋披露大会では女子には受けなかった。
このセンス、女子にはわからなくても、性格はともかく、観察眼のありそうな物間だったらわかってくれるかもしれないと上鳴は思ったのだ。
だが──。
「ん ー、ごちゃっとして落ち着きがない! 面白そうなものにはとりあえず手を出す節操なしタイプだね」
「ハァァ!?」
またも一刀両断していく物間。
心操も同じ事を思っていたらしく、小さく頷いていた。
続いて飯田も過剰な数のメガネ以外は「ザ・真面目でおもしろくない」とばっさり切られた。
そして続いて尾白の部屋。
余計な主張はいっさいない、生活に困らない最低限のものが置かれた部屋。
誰かが突然来てもあわてない、普通の見本のような室内に物間がどこかもの珍しそうに言う。
「……ここまで普通だと逆に珍しいんじゃない?」
「……そこまで普通なの? 俺……」
お部屋披露大会でも女子たちに散々普通だと言われた尾白が、がっくりと落ちこんだ。
次は心操の部屋だ。
「…………」
文句のつけようのない部屋に、物間の顔が引き攣る。
グレーを基調とした落ち着いた配色で統一され、猫をモチーフにした小物が置かれていた。
上鳴の部屋のようにゴチャゴチャしているわけでも、尾白のようにありきたりすぎるわけでもなく、むしろ女子ウケする部屋だ。
部屋の隅には猫用のベッドやトイレ、猫草などが置かれており、部屋の角には簡易式のキャットタワーも置かれていた。
物間がふと上を見上げると、キャットタワーの最上階を陣取っているジジと目が合った。
何とかして文句を捻り出したい物間が考え抜いた挙句に捻り出した言葉はというと。
「僕、猫アレルギーなんだよねぇ!」
「何とか悪く言いたいだけだろお前」
まさかの猫批判だった。
それしか悪口が出てこなかったのである。
これには、心操も真顔でツッコミを入れた。
続いて4階へ。この階で入れるのは切島の部屋だけだ。
「お前みたいな男にもわかんねえだろうな……この部屋の男らしさは!」
サンドバッグや熱いポスターや標語が張ってある切島の部屋を見て、物間は黙ってポケットから携帯を取り出すとなにやら操作して切島に見せた。
それは、サンドバッグなどの筋トレグッズがあり、熱い標語などが張ってある部屋の画像だった。
「俺の部屋……?」
「鉄哲の部屋だよ」
「部屋までカブってんのかよ……!」
「どこで張り合ってんのさ…」
B組の鉄哲とは“個性”も性格も、そして新たに部屋までカブっている切島だった。
「でもよく見てごらんよ。鉄哲の部屋のカーテン、金属性の重いヤツだから!」
「……! カーテン開けるときも筋トレしてんのか……!」
驚く切島達を見た物間がニヤリと悪そうに笑う。
「B組はねぇ、陰でそういう努力をしてるわけ! 調子乗っちゃってるA組はどうせ部屋で寛ぐ事しか考えてないんじゃないのぉ!? そういうとこだよ、そういうとこ! やっぱりA組の寮を見にきてよかったよ! 遠慮なく自堕落な生活をして僕らB組の足元に跪いて──」
「跪くのはお前だ」
ご乱心が平常モードな物間の首に、シュッと手刀が振り下ろされた。
「あうっ」と膝から崩れ落ちる物間を「ったく」と拾い上げたのはB組の委員長、拳藤だ。
その後ろには真剣な顔で心配している鉄哲と大きな角の生えた外国人、角取がいる。
「何やってんだよ、物間!」
「物間クン、A組行ッテくるッテ出テ行キマシタノ、ビックリしィマシタ」
角取から話を聞いた拳藤が物間を連れ戻しにきたのだ。
寮は隣だが、夜だし女子だけでは危ないだろうと鉄哲もついてきた。
◇◇◇
「本当に毎度、物間がごめんな」
1階談話スペースで、謝ろうとしない物間の代わりにそう言う拳藤。
そんな拳藤に頭を下げさせられながらも、物間が異議を唱える。
「……ちょっと拳藤、邪魔しないでよ。せっかくどこかボロが出ないか偵察してたのに」
「おい、さっき視察って言ってたろ」
「あーあ、墓穴掘ったな」
つい本音をもらした物間に上鳴がツッコみ心操が呆れ返る。
視察は現状を確認すること。偵察はこっそり敵の内情を調べることだ。
物間は開き直り、拳藤の手を退けて顔を上げる。
「フン、せっかくB組代表として遊びに来たのにお茶も出ないのかなあぁ!? まったくこれだからA組は!」
「おいおい、今度は遊びに来たことにしたぜ」
「鋼のメンタル……」
「ごめんねモノマー言われてみればそうだね。お茶菓子に僕のサルミアッキ食べる?」
呆れる上鳴と感心する緑谷の近くで、八百万が「あぁそうですわね!」とハッとして食堂のほうへ砂藤とともに向かった。
ひなたは、屁理屈ではあったものの確かに客人である物間に対し配慮が足りていなかった事を自覚し、なけなしのサルミアッキを差し出した。
そんななか、切島は鉄哲と興奮したようにしゃべっている。
「カーテンでも筋トレなんてすげ ーな! さすがだぜ!!」
「切島こそ、ずいぶん使いこまれたサンドバッグだったじゃねーか! さすが俺が認めた男だぜ!!」
ガツンと拳を合わせる二人だった。
そうこうしている間に、八百万と砂藤がお茶とケーキを持ってやってきた。
「砂藤さんのケーキと私がブレンドしたお紅茶ですわ。お口に合うといいのですけれど」
「今日のケーキはレモンシフォンケーキだぜ。ホイップクリームは蜂蜜入れてみたんだ。皆、授業で疲れてるかと思ってよォ」
優しい黄色の柔らかそうなケーキには、ほわっほわのホイップクリームが添えられている。
来客用のティーセットに淹れられた紅茶は紅色に透き通って、余計な雑味がないのが見ただけでもわかる。
「これ本当に砂藤が作ったのかよ!?」
「とってもオイシソウデース!」
目を丸くして驚く鉄哲とポニーの横で、拳藤が少し申し訳なさそうな顔をA組の面々に向けた。
「なんかごめんな、物間が勝手に言いだした事なのに……」
「いえ、本当に初めてのお客様ですもの。当然ですわ。さ、どうぞ遠慮せず」
「そう? それじゃあ……いただきます」
八百万に促され、拳藤達がケーキを口にする。
「……うまっ!」
「甘いもんそんなに食わねえけど、これはうめえわ!」
「この紅茶もピッタリデス!」
美味しいケーキセットを素直に堪能する拳藤たちの横で、物間が苦虫を嚙み潰したような顔をして口を開いた。
「……ちゃんとしたおもてなししないでくれる……」
「そんなに美味しかった? 良かったぁ!」
嫌味も言えないケーキセットを憎々しげにみつめながらも、物間の手は止まらない。
どうやら美味しかったようだ。
その様子に部屋をけなされた上鳴が、お返しとばかりにニヤリと笑いながら言った。
「砂藤のケーキの前じゃ、お前も完敗だな!」
「フン、あんな部屋のキミに言われても何も悔しくないね」
その言葉に、再びカチンとくる上鳴。
「そんなに言うくらいだから、お前の部屋はさぞかしセンスいいんだろうな!? これでだっせえ部屋だったら大笑いしてやる!」
「おいコラ上鳴」
上鳴が売り言葉に買い言葉と言わんばかりにヒートアップすると、嫌な予感がした心操は上鳴を止めようとした。
すると物間は、自信満々に上鳴に言った。
「ダサくなかったら何してくれる?」
「電気で茶を沸かしてやる……いいや、B組の風呂を沸かしてやるよ!」
スッと携帯の画面を上鳴に見せる物間。
「これ、僕の部屋」
「……っ!?」
その画面に上鳴が言葉をなくす。
なんだなんだと画面を覗いた尾白達も、思わず目を疑った。
「なにこれ、超オシャレ!!」
葉隠が驚きの声をあげるほどの洒落た部屋の画像だった。
パステルカラーの壁にしつらえたような趣のある白いアンティーク家具。
完璧に調和されていながら、どこか抜け感もある絶妙な配置とカラーコーディネート。
窓の外にエッフェル塔が映っていてもおかしくなさそうな、フレンチスタイルの部屋だった。
「可愛い!」
「まぁこういう部屋もステキですわね」
「うむ…モノマーなのに見惚れざるを得ない」
盛り上がる葉隠と八百万とひなたの前で、上鳴がいちゃもんもつけようがないほどのオシャレな部屋にどーんと沈んでいた。
そんな上鳴に向かい、物間が鼻息を荒くする。
「で、いつ沸かしてくれるのかなぁ!? でも勢い余って感電なんかさせないでよ!? あぁ怖い怖い!!」
「いい加減にしろ」
「うっ」と再び拳藤の手刀を食らう物間だった。
やはり物間は物間である。
「ねえねえ、拳藤さんの部屋ってどんな感じなの?」
葉隠が興味津々の声で訊くと、「私?」ときょとんとする拳藤に代わり角取が答える。
「拳藤サンの部屋、トッテモカッコいい! ユーズドな木のテーブルに黒いスティールの家具アリマス。それとバイクの写真モ」
「拳藤の部屋は、ヘタしたら俺らより男っぽいよな」
うんうんと頷く角取と鉄哲に、拳藤は恥ずかしそうに顔をしかめた。
「悪かったね、あんまり可愛らしいのは落ち着かなくてさ」
「えー見てみたーい!」
拳藤が言うと、ひなたは目を輝かせる。
興味津々な様子のひなたに対し、逆に拳藤が聞き返す。
「そう言うひなたの部屋は?」
「ワタシもひなたサンの部屋気になるデス!」
「んっとね、僕の部屋はこんなだよ」
B組の女子二人が尋ねると、ひなたがスマホの画面を見せる。
スマホには、レトロ調の和洋折衷な部屋の画像が映っていた。
落ち着いた色合いの緑色の壁に、ダークブラウンのアンティーク家具が揃えられた、大正浪漫風の部屋だ。
ピアノや蓄音機などが置かれている事から、音楽好きな一面が窺え、日本人心をくすぐる紐を引っ張るタイプの照明が設置されていた。
「へー、意外。ひなたってレトロなの好きなんだ」
「うん! アンティークとかけっこう好き!」
「very cuteデス! こういうの、タシカ日本語デ、ワヨォセッチューって言うんデシたヨネ?」
「へへへ、ありがとう。うん、そう」
拳藤と角取がひなたの部屋をほめると、ひなたは頭を掻きながらはにかむ。
すると今度は、葉隠が角取に尋ねる。
「それじゃ角取さんの部屋はどんななのー?」
「ワタシの部屋……コンナ感じデス」
角取が少し恥ずかしそうにしながら、携帯の画面を皆に見せる。
そこに映っていたのは、アニメのポスターやフィギュアなどがところ狭しと飾られている部屋だった。
それを見たひなたは、ピコピコと触角を揺らして興奮する。
「わぁぁ! アニメだ! クールなジャパンだ!」
「ワタシ、ジャパニーズアニメーション、大好きデス! クールジャパン最高デスネ!」
その中のポスターの一つに気づいた葉隠が「あっ」と声をあげる。
「このアニメ、私も好きだったよ! 美少女忍者シノビちゃん!」
「本当デスカ! ワタシ、子供の頃、よくシノビちゃんゴッコしてマァシタ! ──抜きィ足、差しィ足、シィノビ足!」
角取のワクワクしているような視線とポーズを受けて、葉隠も見えないがキラッと目を光らせる。
「──あなたの心にシノビます!」
「「美少女忍者シノビちゃん、ただいま参上! ニンニン!」」
「おおっ! 息ぴったし!」
決めゼリフを合わせ、盛り上がる角取と葉隠、そして息ぴったりな二人に感心するひなたの横で、その画面をじーっと見ている緑谷に飯田と轟が気づく。
「どうしたんだい、緑谷くん! そんなに画面に近づいて」
「目ェ、悪くなっちまうぞ」
そんな二人の心配にも気づかないように、緑谷は凝視していた目を角取に向けた。
「……ここに写ってるの、もしかして日本未発売のカウボーイバージョンオールマイトフィギュアじゃない!?」
「あ、ソウデスヨ。オールマイトもモチロン好きデス!」
「うわああ、いいなぁ! 発売されてたのは知ってたけど流石に手に入らなかったんだ……! あっ、あのっ今度、本物、写真撮らせてもらってもいいかなぁ……!?」
「モチロンデス!」
「あああありがとう~!!」
感激しながら感謝する緑谷は立派なオタクだ。
A組とB組の微笑ましい交流を、一人苦い顔で見ていた物間がサッと立ち上がる。
「ほらもう帰ろうよ。こんなとこに長居は無用」
そう言う物間のケーキセットはきれいに空っぽだ。
だが、用はすんだとばかりに玄関へ向かう物間の前に上鳴と尾白が立ちはだかった。
「ちょっと待てよ。勝手に来て、部屋けなして、ケーキ食って帰る……? ずいぶんやりたい放題じゃねーか。このまますんなり帰れると思うなよ……? なぁ尾白」
「うん、言われっぱなしなのはちょっとね……」
「いやいや僕はけなしたんじゃないよ、見たままを言っただけだけど?」
しれっとそう言う物間に、上鳴と尾白が反論する。
「ナチュラルにけなされてたとなると、もっと傷つくんですけどォ!?」
「普通の何が悪いんだ。だいたい、普通があるから基準がわかるんじゃないか……!」
「すごい二人とも根に持ってる……」
要はこのままでは気が収まらないのだ。
プライドを傷つけられた男子達は手負いの獣だ。
獣といってもひっかき傷をつけるのが精いっぱいの子猫かもしれないが。
だが、物間はA組のほうからからまれるという珍しい状況を理解すると、即座に全力でからみまくった。
「えええ!? それじゃあどうするの!? 帰さないって言ったからには、何かあるんだろうねぇ!? 勝負!? 勝負する!? どっちが上かはっきり決めちゃううう!?」
ふだんこっちからしかからまない相手がからんできたのだ。
可愛さ余って憎さ百倍ならぬ、憎さ余って可愛さ百倍な気分なのだ。
妙ななりゆきに拳藤が止めに入ろうとするが、物間たちの耳には届かない。
「おう、勝負しようじゃねーか! 逃げんなよ!」
「こっちが勝つのに逃げるわけないだろう!?」
このままではいけないと飯田が二人の間に割って入る。
「君達、いいかげんにしないか! 寮内で勝負など許されるわけがないだろう!?」
真面目な飯田にせっかくの勝負を止められてはたまらないと、物間がキラリと目を光らせる。
「ちょっとA組の委員長、ここをどこだと思ってるのさ。雄英だよ? プルスウルトラ、常に壁を越えていかなきゃいけないんだ」
「ムゥ、つまりこの生活空間の中でも、その気持ちを忘れてはならない……常に競い合って互いを高めていかなければならない……という事か!」
「乗せられてんじゃないよ飯田」
飯田を簡単に丸めこみ、心操がツッコミを入れる。
だが物間は、そんな心操をも丸め込もうと、心操に向かって言い放つ。
「ああ、そうそう、心操くん。そうやって大事な勝負から逃げるのは勝手だけどね。そこの女としての魅力ゼロの低身長筋肉ゴリラはどう思うだろうね?」
「…あ? お前、もういっぺん言ってみろ。二度と減らず口利けなくしてやろうか」
物間がひなたを馬鹿にするような発言をすると、心操が我慢ならないとばかりに席から立ち上がる。
ひなたは、自分の為に怒ってくれた心操を見て、『ポッ』と頬を染めて目をハートマークにしていた。
「ひー君、そんなに僕の事を…」
「いや、『ポッ』じゃなくね?」
好きな相手を馬鹿にされて安っぽい挑発に乗る心操に惚れるひなたに対し、拳藤がツッコミを入れる。
心操をも丸め込んだ物間は、上鳴達に再び高揚した視線を向ける。
「それより何で勝負するのさ! 何でも受けて立つけどね!!」
「えっ……えっと……どうする?」
何も考えていなかった上鳴。
尾白にアイディアを求めるが、尾白も何も考えていなかったので戸惑いながら答えた。
「え……腕相撲とか……?」
「ハァア〜!? 林間合宿のリベンジってワケ!? 芸がなさすぎるんじゃないの!?」
「じゃ、じゃあ相撲!」
「腕とっただけじゃん。それに僕、そういう力自慢じゃないから」
「さっきなんでも受けて立つって言ってたじゃねえかっ。それじゃそっちが決めろよ!」
「……そっちから勝負挑んできたのに投げるなよ」
「いやお前が挑んできたんだろ!? つーか、お前も何も思い浮かばねーんじゃねーか!」
啞然として見守る出久たちの前で、話し合いはどんどんヒートアップしていく。
アレはダメだ、これはダメだと一向に決まらない。
そんななか、事のなりゆきを見ていた轟が、「あ」と思い出したような声をあげた。
「どうしたの、轟くん」
「勝負が決まりゃいいんなら、いいもんがある」
轟が自室から持ってきたのは、黒ひげくん危機一髪だ。
大ヒットしたおもちゃなので、大人から子供までよく知られている。
「おー、海賊が危機一髪的なヤツだ!」
「轟さん、意外なものをお持ちですのね」
懐かしいおもちゃに皆が顔を綻ばせる中、八百万に聞かれ轟は簡潔に答える。
「もらった」
「誰に?」
「でもこんな大きかったっけ?」
八百万の質問に答える轟に心操が尋ね、そのおもちゃを見て尾白が首をかしげる。
記憶の中では確か、片手でつかめるほどの大きさぐらいだったはずが、目の前にあるのはバスケットボールくらい大きいのだ。
だが、そんな疑問も降ってわいたおあつらえ向きのおもちゃの登場に流される。
「デラックス版だろ、デラックス版。もうこれでいいんじゃね!?」
「そうだね、A組とB組、どちらに時の運が味方するのか、勝負しようじゃないか!!」
とりあえず早く種目を決めたかった上鳴と、とにかく早く勝負したい物間の意見が一致した。
A組とB組一人ずつ交互に剣を刺していき、海賊を飛び出させた組が負けというルールにする。
B組は男女二人ずつなので、公平を期してA組も男女二人ずつ選出する。
部屋をけなされた上鳴、尾白に面白そうだからやりたいと手を上げた葉隠だった。
「ひなたちゃんもやろーよ!」
「…僕、多分“個性”でどの穴がアウトかわかっちゃうけど、それでも大丈夫?」
「じゃあダメだ!」
「あー、じゃあ私やるやるー!!」
ひなたが参加できない理由を言って棄権したその時、ちょうど風呂から上がった芦戸が立候補した。
順番決めのじゃんけんは上鳴と物間で、物間が勝った。
「ハハハハハ!! どうやら運はB組に向いているみたいだねぇ!!」
鬼の首をとったような物間は、自信満々に先行を選択する。
「ねー、いいから早くやろ ーよ!」
芦戸がわくわくしながら言う。
周りでそれを見ているひなた達も、物間に巻きこまれた拳藤達にも緊迫感はこれっぽっちもない。
勝負とはいえおもちゃでゲームするだけなのだから当然だ。
「じゃ、僕からいくよ。B組の勝利への一刺し目だ!」
物間が樽の穴に剣を刺す。
カチッと音がしたかと思った次の瞬間、電流が物間の体に流れた。
声にならない悲鳴をあげ、テーブルにプスプスと突っ伏す物間。
突然のことにいったい何が起こったのかわからず、皆啞然とするしかない。
だが、鉄哲がハッとする。
「物間っ、大丈夫か!? 物間ー!! 気をしっかり持て!!」
「……いや死んでないから」
「とりあえず冷やしたほうがいいよね…焦ちゃん氷出してあげて」
「俺か」
ひなたが言うと、轟は右半身から冷気を出して物間を冷やした。
感電でボロボロになりながらも、なんとか顔を上げ物間が上鳴を見た。
「やってくれるね、不意打ちの放電なんて……さすがA組やる事が大胆だねえ!?」
「ちょっ、俺なんもしてねーって!! 皆見てたろ!?」
疑われ、助けを求める上鳴に尾白とひなたが驚きながらも頷く。
「うん、電流は樽から出てきたよ……」
「“個性”の波長は出てないから電吉じゃないよ」
「じゃあ、今のが負けって事?」
「え、こういうゲームだったっけ?」
「海賊飛び出してないけど」
「どういう事!?」
負けの証になるはずの海賊の人形は樽に入ったままだ。
ワケがわからず混乱する面々。
緑谷が隣の轟に話しかけた。
「説明書を見ればわかるんじゃないかな? 轟くん、説明書は……」
「ない」
いつものように簡素に答えた轟だったが、その顔には多少の動揺があった。
心操は、呆れた表情を浮かべつつ、轟に尋ねる。
「…で? 誰に貰ったんだ?」
「ああ。それ、サポート科のヤツからもらったんだ。たしか発目とかいう名前の。……自分で作ったヤツで、やったら感想教えてくれって……」
「……えええ〜!?」
「なんかわりィ……」
「…はぁ、こんな事だろうと思った」
発目のサポートアイテムの被害にあったことのある緑谷や飯田達が思わず叫ぶ。
発目の発明品への情熱は半端ではない。
轟にはお礼も兼ねて、敵攪乱アイテムとして作ったベイビーのアンケートを頼んだのだ。
轟もまさかこんな事になるとは思わず、小さく謝る。
心操は、呆れた様子でため息をついていた。
「ねえ、もうやめておいた方がいいんじゃないかな……? 発目さんの事だから、色々仕込んでそうな気がするんだけど……」
「あ〜、わかる気がする。安全第一の対義語がめいめいだもんねぇ」
おずおずと提案する緑谷とひなたに、飯田も全力で同意する。
「その通りだ! 何かあってからでは遅いぞ!」
発目を直接知らなくても、その名前となんかヤバいらしいのは全員が知っている。
「そうだね、わざわざ危ない目にあう事もないだろうし……勝負は一旦休止って事で……」
「ハァァァ!?」
拳藤がそう言いかけた時、物間が声を挟む。
「冗談だろ、こんなのちっともなんともないんだけど……?」
「いや、けっこうダメージ受けてたろ」
「ホント心配。リカバリーガール呼んでこようか」
物間はボサボサに乱れた髪を手で直しながら、少し心配そうに突っこんできた上鳴とひなたを粘りつくような半眼で見据えて言った。
「──逃げるんだ?」
「!」
「こんなおもちゃのゲームからも逃げるんだ、A組はぁ!? ごめんねぇ! 弱いA組に勝負なんかもちかけてさ、受けたはいいけど内心ブルブル震えてたんだよね!? 早く部屋に戻って、ベッドの中で泣いてもいいんだよぉ!?」
「んなわけねーだろ! ゲーム続行だよ!!」
わかりやすい挑発の大安売りを、どーんと買ってしまう上鳴を周りが心配そうに止めるが、一度買ってしまった言葉は返品できない。
物間も自分だけが被害にあって、はいおしまいとは到底納得できない。
痛みよりプライド。
そして死なばもろともなのだ。
「尾白、やってやろうぜ!」
「あ、うん」
物間の感電ですっかり冷静になっていた尾白だったが、上鳴のやる気に水を差すのもためらわれ、つき合う事にした。
「でも、葉隠さん達は無理しなくても……」
「なーに言ってんの、尾白くん! こうなりゃ最後までつき合うよ!」
「罰ゲームつきってちょっと面白そうだし!」
ノリのいい葉隠と芦戸に上鳴が感激して目を潤ませた。
「お前ら……いいヤツ!!」
それを見た角取も、グッと拳を握りしめてにこっと鉄哲達に笑う。
「ワタシもヤリマス! このゲームアニメでミテやってミタカッタデスノデ!」
「なら私もつき合うよ。人数足りなくなっちゃうし」
拳藤もそう言うと鉄哲が感激し、物間の肩をガシッとつかんで揺さぶる。
「よかったなぁ! 正々堂々勝負しようぜ!!」
鉄哲のストレートなもの言いに、物間はわずかに照れくさそうに顔をしかめていたが、腕を振りほどきA組に向かって剣を差し出す。
「ほら、次はそっちの番だよ! 次の犠牲者は誰かなぁ!?」
「俺だ!」
そう言いながら剣を奪い取る上鳴。
物間が訝しそうな顔をする。
「キミは電流に耐性あるよね? ズルイんじゃない、それ!?」
「何とでも言え、こういう“個性”なんだからしょうがねーだろ!」
上鳴も内心ではそう思っていた。
多少の電流ならどんとこいだと。
そして剣を樽に刺す。
だが、予想していた電流はやってこなかった。
もしかしたらさっきの電流は何かの間違いだったんじゃ……と皆が淡い期待を浮かべた一瞬後、突如樽の一部が変形し、上鳴の腕を拘束した。
「は? これ、なん──」
ペシィッ!!
拘束された腕に二本の指をかたどったものが、思いきり振り下ろされた。
「ってええ!?」
痛みに叫ぶ上鳴。
啞然とする皆の目の前で、樽はウィィンとまた元の樽の形に戻っていく。
「今のって……シッペだよな……?」
「変形した! 変形ロボだ!!」
そう言う砂藤。
ひなたは、グッと拳を握り、どこか興奮気味だった。
緑谷が考えこみ、ブツブツと呟きだした。
「電流、シッペ……この二つの共通点は罰ゲームでよく使われるという事だよね。やっぱり発目さんは剣が刺さるごとに、なんらかの定番罰ゲームを仕掛けたということか……この穴全部、違うものなのかどうかはまだわからないけど、あの発目さんが二種類くらいの罰ゲームで満足するとは考えにくいし……」
「じゃあ、マジでこの穴全部違う罰ゲームなのかよ!?」
「だからこんなに大きかったのか」
緑谷の分析に上鳴が思わず泣き言をもらす横で、尾白は妙に納得しながら樽をみつめる。
穴の数だけ罰ゲームを用意しているという事だろう。
しかし、だからといって今さらやめられない。
次は鉄哲だ。
「かかってこい、罰ゲーム! おりゃあ!!」
気合を入れ、鉄哲が剣を樽に刺した瞬間、長い棒が飛び出し、ついていた幅広のゴムを鉄哲の正面で後ろへグーンと引っ張る。
そしてすぐさま外されたゴムがバチーンッと勢いよく鉄哲の顔へヒットした。
ゴムパッチンだ。
「フンッ」
しかし鉄哲には、なんのダメージもない。
当たる直前に“個性”のスティールで顔を固くさせたのだ。
「あっ、ズリィ!」
思わずそう言った上鳴に物間がシニカルに笑う。
「さっきキミが言ってたろ? こういう“個性”だからしかたないじゃないか!!」
「くうっ」
「じゃあ次は俺だね……」
悔しがる上鳴の横で、尾白が恐る恐る剣を刺した。
すると、ウィーンと棒が出てくる。先についているペラペラした紙のようなものに気づいて緑谷が首をかしげた。
「ガムテープ? でも何に──」
棒が尾白に近づいたかと思ったら、前に出していた尾白の尻尾の先にそのガムテをつけた。
尻尾の先のふさふさとした毛の部分だ。
「えっ、ちょ、ま……! っっっ!!」
べったりとついたガムテープを一気にはがされ、尾白は尻尾を抱え身悶えする。
「ガムテープすね毛はがしか……」
「痛そう…」
その惨状を見て、緑谷と心操は戦々恐々とした。
すねでも十分な衝撃なのに、尻尾という未知の器官。
地味だがその威力は、計り知れない。
「それじゃあ次は……」
覚悟を決めた顔で、拳藤が剣を刺す。
直後、何が来てもいいように身構えていたが、樽はピクリともしない。
何もないのかとそっと樽に顔を近づけたそのとき、プシュッと何かが発射されたような音がした。
「? …………臭っ!!!」
生ごみが熟成に熟成を重ね、さらに牛乳が沁みこんだままロッカーに忘れられた雑巾に包まれたような悪臭に拳藤が顔を思いっきりしかめる。
臭いから逃れたい一心でとっさに“個性”の大拳を出し、ブンブンと振る。
当然、臭いは一気に広まった。
「おええええっ」
「いっちん、それ逆効果!」
「あっ、ごめん!」
あまりの悪臭にえずく一同。
ひなたがツッコミを入れると、拳藤は申し訳なさそうに謝った。
「じゃあ次は私だね……!」
気を取り直し、葉隠が剣を刺す。
「えっ……っ……うひゃひゃひゃ!! あはははは!!」
今度は二本のアームが出てきて、葉隠を丹念にくすぐった。
笑い悶える葉隠のTシャツと短パンがアグレッシブな動きを見せる。
「次はワタシデスネ……」
ドキドキしながら角取が剣を刺す。
すると、先端に緑色の何かがついたアームが角取の口めがけ、その緑色の何かを放りこんだ。
「っ!?」
みるみるうちに、目からポロポロ涙を零しながら鼻を押さえる角取。
「ツーンとシマス……!!」
「……ワサビですわ!」
ハッと気づいた八百万の言葉に、角取はツーンとなりながらも感激する。
「オゥ、これがワサビ……!」
「ポニーっちがワサビに目覚めてしまった…!!」
「それじゃ次はアタシか……」
芦戸が生唾を飲みこみながら剣を刺す。
すると透明な小さな塊が、芦戸の背中に入れられた。
「ひゃあああ!? 冷たい〜!!」
透明な塊は氷だった。じたばたする芦戸から葉隠が氷を取り出す近くで、出久が呟く。
「すごい……! 痛みを与えるものから、嗅覚に味覚まで罰ゲームに取り入れている……しかも一度もカブらない……やっぱりこれは全部違う種類の罰ゲームが用意されているんだ!」
「感激する事じゃないと思うぞ緑谷」
「あっ、ごめん…! でもこれ、負けた人の罰ゲームって一体……?」
緑谷の疑問に、全員がハッとした。
ハズレじゃない穴でさえ、容赦のない罰ゲームなのだ。
これでハズレの穴に当たってしまったら──。
嫌な予感に全員の緊張感が増す。
「物間、リタイヤしてもいいんだぜ……?」
「ハッ、冗談。そっちがリタイヤするならどうぞ?」
上鳴と物間は意地をはり合う。危険だとわかっていても引き返せないのが若さだ。
そして再び物間から順番に剣を刺していく。
デコピンや金ダライ落下、熱湯噴射、パイ投げ、巨大風船爆破などを経て、穴はどんどんふさがっていき、あらゆる罰ゲームをくらって、皆のダメージは増えていく。
そしてこれ以上の罰ゲームが待ち構えているという不安もどんどんと増えていった。
やっとたどり着いた残った穴2つ。
そのどちらかがハズレだ。
「……ええい!」
順番の芦戸が勇気を出し、剣を刺す。
その途端、伸びてきたアームが芦戸をつかみ、ぐるんぐるんと振り回す。
「ひゃああ〜!?」
芦戸はされるがままだ。
「みなっち!」
「大丈夫ですかっ?」
「ブレイクダンスみたいでちょっと楽しかったー」
「Oh……」
解放された芦戸に八百万達が心配して声をかけるが、当の芦戸はあっけらかんとしている。
海賊の人形はまだ樽に入っている。
つまり、最後に残った穴がハズレだと確定した。
そして、次の順番は物間だ。
「勝負はA組の勝ちだな!」
「くッ」
勝ち誇る上鳴に、悔しそうに顔をしかめる物間。
「さぁ刺してもらおうか」
上鳴に迫られ、屈辱を露にしていたが。
「それがヒーロー志望のやる事!? もう負けが決定してる事実は覆らないんだから、それでいいだろォ!? これ弱い者イジメだよねぇえ!? キミ達
「うわ、そう来たか」
「罰ゲーム受けたくないから開き直りやがった」
「ここまで潔くないと、かえって潔く見えてくる不思議……」
「これぞモノマークオリティ」
呆れを通り越して感心する心操、上鳴、尾白、ひなたの4人。
しかし、そうまでして物間が罰ゲームを避けたい気持ちもわかる。
ここにくるまでの罰ゲームの集大成が待ち構えているのだから。
「ねえそれでもやらせるってワケ!? あぁそれとも謝ればいいって事!? ごーめーんーなーさーいー。ほらこれで十分だろ!? まったくこういう時に A組の本性が出たね! もっと広い心を持ちなよ!!」
「いいかげんにしろ」
拳藤が立ち上がり手刀をお見舞いする。
「うっ」と倒れこんだ物間の隣の鉄哲が、怒りの顔で物間をつかみ上げた。
「男らしくねえぞ、物間!」
「嫌なものは嫌だ!! 僕は絶対に何があっても罰ゲームなんかしたくない!!」
「駄々っ子か」
物間が駄々をこねると、心操がツッコミを入れた。
きっぱりと言いきる物間はある意味男らしい。
「そんなに嫌なら俺が代わりにやってやる!!」
「え、いいの?」
「男に二言はねえ!」
「男の中の男だな……!」
物間のあまりの情けなさに業を煮やした鉄哲が剣を取る。
切島がそんな鉄哲を見て、感動し目を潤ませた。
「──刺すぞ」
鉄哲が覚悟を決め、剣を穴へとあてがう。
ゲームとは思えない緊張感のなか、全員が何が起きてもいいように身構えた。
その集中力は授業のときをはるかに凌駕し、まるで未知の敵と対峙するような雰囲気だ。
……カチャ。
剣が奥まで刺さった音が周囲に響く。
全員が息を飲んだ一瞬後。
パァン!!!
乾いた音と共に、海賊の人形とカラフルな紙吹雪が舞ったかと思うや、樽から妙にハキハキとした発目の声がした。
「おめでとうございます!」
「…………え?」
啞然とする全員。
出久がハッとした。
「……発目さん、海賊を飛ばした人が勝ちって設定にしてたんだ! そういえば、このゲームの発売当初はそういう設定だったって聞いた事ある……」
「あ、それ知ってる。確かクイズ番組がきっかけで、海賊を飛ばした人が負けってルールが定着したんだよね」
「はぁあ〜!?」
緑谷とひなたの言葉に、啞然としていた皆が憤る。
葉隠が言った。
「じゃあどっちが勝ち……?」
「B組に決まってるだろう!? 海賊を出したんだから!」
「ふざけんな! 最初に出した方が負けって決めただろーが!」
「っていうかさ、延々罰ゲーム受けただけじゃん……」
再びヒートアップしそうな物間と上鳴だったが、拳藤のその言葉に我に返った。
罰ゲームの数々を思い出すだけで、どっと疲れた。
「……今日はこれで帰るよ」
よろりと帰っていく物間達B組を見送るA組。
嵐のような隣人が去り、A組の面々は安堵の息を吐いた。
「……ご近所づき合いって大変なんだな」
「いや、物間が大変なだけじゃない?」
しみじみと言う上鳴に、冷静につっこむ尾白。
「…でも、楽しそうだった」
ひなたは、去っていく物間の背中を見ながら言った。
これからB組も雄英の敷地内で一緒に暮らしていくお隣さんだ。
きっとまたやってくるだろう隣人に、A組は苦笑いした。
もっとひーひーカップルのイチャイチャを書いてほしいとのお声を頂いたので、R18バージョンの執筆を検討しております。R18バージョンいる?いる派が過半数なら書きます
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