抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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高評価が入っとる…!
ありがとうございます。
面白いと思っていただけましたらお気に入り・感想・高評価(特に8・9・10あたりは大歓迎です)などなどよろしくお願いします。


2023/4/11 がっつり編集しました。
冷静に考えたらほぼ“無個性”状態であれだけ立ち回れる子が順位低いのおかしくね?って事で。
ここまで大幅に工事するならリメイクしたほうがいいのでは?と自分でも思いましたが、乗りかかった船という言葉がありましてですね。


今僕にできる事を

「最下位除籍って…!! 入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても…理不尽過ぎる!!」

 

 あまりにも理不尽な決定に、麗日はクラスメイトを代表して声を上げた。

 そして、それに続けてひなたも抗議した。

 

「お父さん、それは流石にちょっとアレじゃないの? いや、言わんとしてる事はわかるけどさ。対人用とかサポート用の“個性”の子とかどうすりゃいいのさって話じゃん」

 

「校内で『お父さん』はやめろ」

 

「ごめん」

 

 ひなたが疑問を投げかけると、相澤がひなたに注意をしひなたは素直に謝った。

 

「相澤、お前は実戦でも同じ言い訳をするつもりか? 『不向きだから』だなんて言い訳はプロになったら通用しない。どんな“個性”であれ、いざって時に結果を出せないような奴はヒーローにはなれないよ」

 

 相澤の言う通り、“個性”の相性が悪いからというのは、プロの世界では所詮言い訳でしかなかった。

 当たり前の話だが、“個性”で及ばないのであれば周りの十倍、百倍もの努力でそれを補いしがみついていかなければならないのだ。

 先日まで中学生だった子供達にそれを求めるのは多少酷な部分もあったが、ヒーロー育成機関の最高峰である雄英であればこの程度の理不尽はあって当然だとひなたは思い直し素直に納得した。

 

「確かに」

 

「納得するんかい……」

 

「だってやっぱりお父さ……先生の言う事は正しいもん。ヒーローって、綺麗事だけでやっていけるものじゃないしさ。これはヒーローになる為に越えなきゃいけない最低ラインだって事じゃないのかな」

 

 相澤の正論に対しひなたが納得すると、近くにいた瀬呂がツッコミを入れる。

 するとひなたは、クルリと振り向いて相澤同様正論を言った。

 無邪気で底抜けのお人好しのひなただったが、この親にしてこの子ありと言うべきなのか、こう見えて意外にも合理主義的な部分が根底にあり、相手の方が自分の意見より理に適っていると判断すれば素直に間違いを認める潔さを持ち合わせていた。

 

「相澤の言う通りだ。自然災害…大事故…身勝手な(ヴィラン)達…いつどこから来るか分からない厄災。日本は理不尽に塗れてる。そういう理不尽(ピンチ)を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったなら御生憎様。これから三年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。Puls Ultraさ。全力で乗り越えて来い」

 

 相澤は、麗日やひなたの反論に対して挑発で返して焚きつける。

 

「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ。相澤、お前も最下位になったら除籍するからな。親子だからとか変な期待は抱かない事だ」

 

「う、うるさいなぁわかってるよ!」

 

 相澤がひなたに対して念押しするように言うと、ひなたは馬鹿にされたと思ったのかイラッとした様子で返した。

 すると相澤は、早速テストの準備を始める。

 

「最下位は除籍か……他の奴等は“個性”使ってくるだろうし、これ俺下手したら最下位かもな……」

 

「うーん……でもせっかく合格したんだもん、当たって砕けよ!」

 

「砕けちゃダメだろ」

 

 体力テスト向きの“個性”ではない心操は不安を抱くが、ひなたはニコッと笑みを浮かべて心操を励ます。

 ひなたが満面の笑みを浮かべて言うと、心操はツッコミを入れつつ気持ちを切り替えた。

 こうして、“個性”把握テストが始まった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 第一種目 50m走

 

『3秒04!!』

 

 飯田が脹脛のエンジンを使って全力疾走すると、その驚異的な記録にクラスメイトは湧き上がる。

 

 

 

 飯田天哉

 “個性”『エンジン』

 見たまんまだ! 

 足が速い! 

 

 

 

「うわぁぁ……速……」

 

「無理ゲーでしょこれ」

 

 飯田のあまりの速さに、ひなたと心操は驚愕していた。

 二人が驚いている間に、蛙吹も続けてゴールした。

 蛙吹の記録は5秒58だった。

 

「ケロ…」

 

 次は麗日と尾白の番で、麗日は服と靴に触れて軽くして走り、尾白は尾を使って麗日より早くゴールした。

 

『7秒15』

 

 測定器が麗日のタイムを発表する。

 中学の時よりタイムが上がっていたらしく、麗日は息を切らしながら喜んでいた。

 

 

 

 麗日お茶子

 “個性”『無重力(ゼログラビティ)

 触れたものにかかっている引力を無効化する! 

 ただし、キャパオーバーすると激しく酔う! 

 

 

 

 そして次はひなた、青山、芦戸の番となった。

 

「フフ…皆工夫が足りないよ。“個性”を使っていいってのは、こういう事さ!」

 

 見るからにナルシストな男子青山は、後ろを向いてジャンプするとスタートの瞬間に腰のベルトからビームを噴射した。

 だが途中でビームが切れて背中から地面に着地し、もう一度ビームを射出する頃には隣で走っていたひなたと芦戸に抜かれていた。

 

『4秒12!!』

 

「ふー……つかれたぁ!」

 

 最初に走り終わったひなたは、両手を膝について息を整えていた。

 

『5秒51!!』

 

「1秒以上射出するとお腹壊しちゃうんだよね」

 

((何だこいつ))

 

 青山は、何故かドヤ顔しながらベルトを整えていた。

 隣で青山を抜いたひなたと芦戸は、変なものを見るような目で青山を見ていた。

 

 

 

 青山優雅

 “個性”『ネビルレーザー』

 臍からレーザーが出る! 

 持続時間がネックだ! 

 

 

 

 ひなたが青山に若干不思議な目を向けつつ息を整えていると、心操が声をかける。

 

「凄いなひなた」

 

「んー……お父さんと訓練してたし、もうちょいいけると思ったんだけどね」

 

(((いや十分速いんだって……)))

 

 ひなたが頭を掻きながら言うと、何人かは心の中でツッコミを入れていた。

 そして次は爆豪と緑谷の番となった。

 

「爆速!!」

 

「へ?」

 

「ターボ!!」

 

「どあ!!」

 

 両者駆け出しは普通だったが、爆豪は途中で手を後ろに向けボボボボッと掌から爆発を起こしてそれを推進力に駆け抜けた。

 隣を走っていた緑谷は、爆豪の爆発に驚いて一瞬足を止めてしまった。

 

『4秒13!!』

 

 ロボットが爆豪のタイムを発表すると、もっと速く駆け抜けられると思っていた爆豪はやや不満そうにしていた。

 

 

 

 爆豪勝己

 “個性”『爆破』

 掌の汗腺からニトロのような汗を出し爆発させる! 

 溜まれば溜まる程、その威力は増していく! 

 

 

 

『7秒02!』

 

 走り終わった緑谷は息を切らしており、自分は他のクラスメイトとは違って“個性”を使いこなせないため焦っていた。

 心操は“個性”を使えないのを不安がってはいたものの、この時点では何とか最下位を免れていた。

 50mの1位は飯田の3秒04で、ひなたは“個性”を使わなかったにもかかわらず上位に食い込む好成績だった。

 

 相澤ひなた 4秒12(3位)

 

 

 

 第二種目 握力

 

「540キロて!! あんたゴリラか!? タコか!!」

 

「タコってエロいよね………」

 

「………」

 

 腕が6本ある男子障子が540kgwという驚異的な記録を出すと、瀬呂と峰田が声をかける。

 一方八百万は工業用の万力を使って1トン以上を記録し、この種目では圧倒的1位だった。

 

「んー……ぅぎぎぎ……」

 

 ひなたも握力計を思いっきり握って少しでもいい記録を出そうとする。

 日頃のロープを使った特訓で握力を鍛えられていたお陰か好記録だった。

 

「すげぇ! こっちもゴリラだ!」

 

「えへへ……」

 

 小柄で見るからに力が無さそうなひなたが好記録を叩き出したためひなたもまた注目の的となっており、ひなたは照れ臭そうに頭を掻いていた。

 

 相澤ひなた 206kgw(4位)

 

 

 

 第三種目 立ち幅跳び

 

 ひなたは勢いよく腕を振るい、相澤に鍛えられた驚異的な脚力で高く跳び上がり、自身の身長の3倍以上のところで着地した。

 

『508.2cm!』

 

「やった!」

 

 “個性”を使って桁外れの記録を出すクラスメイトがほとんどだったため順位でいえば微妙だったが、それでも“個性”を使っていない事を考えれば十分驚異的な記録だった。

 この種目では、主に青山がネビルレーザーで、爆豪が爆破で好記録を叩き出していた。

 ちなみに轟が巨大な氷山の上を滑って1位となり、得意種目だった瀬呂が『嘘だろ』と言いたげな表情を浮かべていた。

 

 相澤ひなた 508.2cm(11位)

 

 

 

 第四種目 反復横跳び

 

「ひゅううう!!!!」

 

「うわぁ…」

 

 峰田が頭からもいだブニブニの球体で作ったクッションを使って回数を稼ぎ、周りが引いていた。

 峰田は他の種目であまり良い記録を残せなかっため、1位になったのが嬉しかったのか調子に乗っていた。

 一方ひなたもこれに関しては得意種目だったようで、短時間でかなりの回数を稼いでいた。

 

「ほ! ほ! ほ! ほ! ほ!」

 

「おおお速い速い!」

 

「ひなちゃんヤバくね?」

 

「揺れるものが無いから速いんだ「殺すぞ」ウス」

 

 上鳴の発言に対し峰田が失礼な答えを言うと、ひなたは普段の温厚な態度からは考えられないほどドス黒いオーラを放って強制的に黙らせる。

 

 相澤ひなた 103回(2位)

 

 

 

 第五種目 ハンドボール投げ

 

「ていっ!」

 

 ひなたは身体を後ろにそらしてからボールを投げ、100m近い記録を叩き出していた。

 一方、八百万は大砲でボールを撃ち出して10km以上を記録していた。

 それを見たひなたは、“個性”を使えないため仕方ないとはいえ自分の出した記録が馬鹿馬鹿しくなり苦笑いを浮かべていた。

 

「セイ!!」

 

 麗日がボールを投げると、『無重力(ゼログラビティ)』によってボールは上へと舞い上がっていく。

 相澤が見せた端末には、『∞』と表示されていた。

 

「∞!!? すげえ!! ∞が出たぞ━━━!!!」

 

「マジかお茶子っち」

 

 ∞という規格外の記録にクラスメイト達が一斉に沸き、ひなたも驚いていた。

 一方、“個性”を生かせる種目が無い心操、葉隠、緑谷の3人と単純に身体能力が低い峰田がドベ争いをしている状態となっていた。

 すると、飯田が心配そうに口を開く。

 

「緑谷くんはこのままだとマズいぞ……?」

 

「ったりめーだ。“無個性”のザコだぞ!」

 

 飯田に対して爆豪が悪態をつくと、飯田は驚いた様子で返す。

 

「“無個性”!? 彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」

 

「は?」

 

 緑谷は、今まで使えなかった“個性”を使って今度こそ好記録を出そうとする。

 だが緑谷が投げたボールは、50m弱のところでポトリと落ちた。

 

「46m」

 

「な…今、確かに使おうって…」

 

「……?」

 

 緑谷の発言を聞いたひなたは、頭上に疑問符を浮かべていた。

 

(あれ? てっきりいずっ君、僕やひー君みたいに体力テスト向きじゃない“個性”なのかと思ってたけど、使おうとしたって事は別にそういうわけではないって事だよね? だったら何で今まで使わなかったんだろ。爆発頭くんの“無個性”発言も気になるしなぁ。うーん……頭がこんがらがってきたぞ)

 

 緑谷が“個性”を使えない事に驚いている中、ひなたは緑谷の様子を見てうんうんと頭を捻っていた。

 すると相澤が頭を掻きながら口を開く。

 

「“個性”を消した」

 

「!?」

 

「つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。お前のような奴も入学出来てしまう」

 

 冷たくそう言い放つ相澤の目は、赤く光っていた。

 

「消した…!! あのゴーグル…そうか……! 視ただけで人の“個性”を抹消する“個性”!! 抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』!!!」

 

 緑谷は、相澤の正体に気がつく。

 すると他のクラスメイト達は、顔を見合わせてザワザワし出す。

 

「イレイザー? 俺…知らない」

 

「名前だけは見たことある! アングラ系ヒーローだよ!」

 

「そうなの? ひなたちゃん」

 

「え? あ、うん。お父さんってば『仕事に差し支える』とか言ってメディアへの露出を嫌ってるからね。でもそのおかげで僕も周りにヒーローの子供だって気づかれなかったからフツーに過ごせてたんだけどさ」

 

 クラスメイト達がひなたに尋ねると、ひなたは正直に答える。

 ひなたが相澤に引き取られたのは“個性”の暴走を止められるという理由の他に、もう一つ理由があった。

 それは相澤のメディア嫌いだった。

 徹底してメディアを避けている相澤のもとで暮らしていれば素性をマスコミに詮索される事もなく平穏に暮らす事ができ、二重の意味で合理的な判断だった。

 

「見たとこ…“個性”を制御出来ないんだろ? また行動不能になって、誰かに助けて貰うつもりだったか?」

 

「そっ、そんなつもりじゃ…!」

 

 相澤が緑谷を睨みつけながら脅すように尋ねると、緑谷は反論しようとする。

 すると相澤は、首に巻かれた布を緑谷の身体に巻き付けて引き寄せる。

 

「どういうつもりでも、周りはそうせざるをえなくなるって話だ。昔、暑苦しいヒーローが大災害から一人で千人以上を救い出すと言う伝説を創った。同じ蛮勇でも…お前のは一人を助けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久、お前の力じゃヒーローにはなれないよ」

 

 相澤は、緑谷に対して冷たい言葉を投げかけた。

 厳しい言い方ではあったが相澤の言う通り、“個性”を使う度に身体がボロボロに壊れるようでは多くの命を救う事も、安心して命を預けてもらう事もできない。

 人を笑顔で救う事ができない者には、ヒーローを名乗る資格はないのだ。

 相澤は、緑谷に忠告をすると“個性”を解除し拘束を解いた。

 

「“個性”は戻した…ボール投げは2回。とっとと済ませな」

 

 緑谷は、何かをブツブツと呟きながらボール投げの円へと戻っていく。

 

「彼が心配? 僕はね……全っ然」

 

「ダレキミ?」

 

「指導を受けていたようだが」

 

「除籍宣告だろ」

 

「うーん……お父さん何か怒ってたっぽいけど大丈夫かなぁ、いずっ君」

 

 緑谷を心配する麗日に青山が声をかけ、飯田が麗日同様緑谷を心配し爆豪が悪態をつく。

 ひなたも、指導中に相澤が不機嫌そうにしていたため僅かながら緑谷が心配になり不安そうに見守っていた。

 相澤は、緑谷は“個性”を暴走させてボロボロになるか萎縮して最下位になるかどちらかだろうと考えながら目薬を点す。

 そして、どちらにせよ見込み無しと思い緑谷を除籍する気でいた。

 クラスメイト達に不安そうな目を向けられる中、緑谷は二球目を振りかぶる。

 

「見込みゼロ」

 

 相澤は、緑谷の構えを見てそう呟く。

 だが、その直後だった。

 

 

 

「SMASH!!!」

 

 

 

 緑谷が“個性”を発動して投げると、ボールは遥か彼方へと飛んでいった。

 

「はぁあ!!?」

 

 それを見ていたひなたは驚愕して目を見開き、思わず叫び声を上げていた。

 相澤の端末には、『705.3m』と表示されていた。

 

「あの痛み…程じゃない!!」

 

 緑谷は、ボールを投げた右手の人差し指だけがボロボロになっていた。

 緑谷は、激痛に耐えつつ精一杯の笑顔を浮かべる。

 

「先生……! まだ……動けます!」

 

「こいつ……!」

 

 それを見た相澤は、面白そうに笑みを深くした。

 すると他のクラスメイト達もドッと湧き出した。

 

「705m!?」

 

「やっとヒーローらしい記録出したよ━━!」

 

「指が腫れ上がっているぞ! 入試の件といい…おかしな“個性”だ……」

 

「スマートじゃないよね」

 

 ひなたは爆豪を超える記録に驚き、麗日は緑谷がようやく好記録を出したので喜び、飯田と青山はむしろ緑谷の壊れた指の方を心配していた。

 

「………………!!!」

 

 隣で見ていた爆豪は、目を見開いて口をあんぐりと開けていた。

 ボール投げで僅かに緑谷に負けた爆豪は、怒り散らして掌を爆発させながら緑谷の方へ突進する。

 

「どーいう事だコラ! 訳を言え! デクてめぇ!!」

 

「うわああ!!!」

 

 爆豪が緑谷を脅しながら詰め寄ると、緑谷は驚いて叫び声を上げる。

 

「やめ……!」

 

 流石にマズいと思ったひなたは、“個性”を使って爆豪を麻痺させようとする。

 すると、次の瞬間。

 

「んぐぇ!!」

 

 相澤の布が爆豪の顔と身体に巻き付き、爆豪の“個性”が消えた。

 それを見たひなたは、安堵してほっとため息をつく。

 

「ぐっ…!! んだ、この布、固っ…!!」

 

 ただ布で巻き付けられただけなのにもかかわらず、爆豪は一歩もその場から動けなかった。

 ふと相澤の方を見ると、相澤は髪をざわつかせていた。

 

「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ『捕縛武器』だ。ったく、何度も“個性”を使わすなよ……俺はドライアイなんだ」

 

 そう言って相澤は“個性”を発動しながら爆豪を睨みつける。

 

(((“個性”凄いのにもったいない!!)))

 

 ひなたも含め、全員がそう思っていた。

 すると相澤は“個性”を解除し爆豪を解放し、そのついでにひなたを呼びつける。

 

「時間がもったいない、次準備しろ。ああ、それと相澤」

 

「ハイ?」

 

 相澤のもとに来たひなたが首を傾げると、相澤がひなたの頭を掴んで凄んでくる。

 

「お前どういうつもりだ? 今、“個性”使おうとしたよな?」

 

「え、いやだって……「『だって』じゃない。“個性”は必要な時以外安易に使うなと再三言ったはずだ」……ハイ、すみませんでした」

 

 相澤が言うとひなたは言い訳をしようとし、相澤はさらにひなたを睨みつけて黙らせた。

 するとひなたは、顔を真っ青にしてガタガタ震えながらコクコクと頷く。

 

(((何か脅されてる!!?)))

 

 ひなたが脅されているところを目の当たりにしたA組は、全員目を丸くしていた。

 脅されたひなたがトボトボと次の種目の準備を始めると、心操がひなたに声をかける。

 

「……ったく、“個性”把握テストなのに“個性”使っちゃダメとか何!? イジメ!? イジメなの!?」

 

「大丈夫か?」

 

「あ、うん平気。いつも通りコッテリと絞られただけですよ……トホホ」

 

 ひなたは、相澤に叱られた事で見るからにテンションが下がっており、がっくりと肩を落としていた。

 

「それよりひー君の方こそ大丈夫?」

 

 ひなたは、心操を心配して尋ねる。

 緑谷が好記録を出したので最下位は自分だと自信を無くしてしまっているのではないかと思い、心操を元気づける為に言葉をかけようとしたのだ。

 

「……ああ。あんな記録突きつけられたからって諦められっかよ。もう後が無えけど、死ぬ気でお前にもあいつにも負けないくらいいい成績取ってやる」

 

「うん、その意気だ!」

 

 だが、心操の反応はひなたの予想とは真逆で、緑谷の驚異的な記録を目の当たりにした事でむしろ負けてたまるかとやる気を出していた。

 ひなたは、余計な心配だったと思いニッと笑って握り拳を突きつけた。

 

 相澤ひなた 96.3m(10位)

 

 

 

 第六種目 上体起こし

 

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 ひなたは、ハイペースで身体を起こしては倒しを繰り返す。

 普段のトレーニングのお陰か、短時間でかなりの回数を稼いでいた。

 

「うぉお!? 速え!!」

 

「胸に重みが無いからだ!」

 

「よし、あいつ殺す」

 

 瀬呂に続けて峰田が失礼な発言をすると、ひなたは真顔で右腕を回す。

 この種目は“個性”を生かして記録を稼げる者が少なかったため(強いて言うなら尾白くらい)、何とひなたは上位に食い込む事ができた。

 

 相澤ひなた 71回(2位)

 

 

 

 第七種目 長座体前屈

 

「ちょっと先生!! これどう考えても僕に不利でしょ!! こんなんで順位決めるとかそれこそ合理性に欠けると思いません!? ノーカン! ノーカン!」

 

 ひなたは上半身と脚がピッタリくっつくくらいに伸ばし、60.2cmと平均より少し上くらいの記録を出したものの、小柄な体格が災いし下から数えた方が早い結果となった。

 ちなみにこの種目では複製腕を伸ばして押し出した障子、手から棒を伸ばして前に押し出した八百万や両耳のジャックを使って前に押し出した耳郎、そして常闇や尾白などが好記録を出していたが、1位は舌を使って20m以上を記録した蛙吹だった。

 ひなたが相澤に抗議すると、相澤はギロリとひなたの方を睨んできた。

 

「ハイ! ノーカ……「何か言ったか」いえ何でもございません先生様!!」

 

 相澤に睨まれたひなたは、肉食獣を前にした小動物のように震え上がっていた。

 自身の強みを活かせない種目だったため、ひなたは歯を食いしばって悔しがっていた。

 

「ぐぬぬ……ひー君に負けた! いいなぁひー君は。背高いもんねぇ」

 

「いや複雑な気分だよ。唯一お前に勝てたのがこれって……」

 

「何だそりゃ自慢か!? なぁオイ心操ォ!? いいよなぁおめーは背ェ高いからよぉ!!」

 

 いきなり下の方から嫉妬丸出しの声が聞こえてきたので二人が下の方を見ると、号泣しながら心操に当たり散らしている峰田がいた。

 小学生のような体型のひなたが最下位にならずに済んだのは、指の痛みで散々な記録となった緑谷と、マスコット体型のせいで20cmというダントツ最下位の記録を出した峰田がいたからだった。

 

「ああ、うん……」

 

「何かごめん……」

 

「ぬおほっほぉうぉぉおぉおぉあああああ!!!」

 

 峰田が血眼で恨み言を言うと、ひなたと心操は憐れむような目を向けた。

 すると峰田は膝から崩れ落ちて泣き出す。

 ひなたは下には下がいるという事を学び、またひとつ賢くなった。

 

 相澤ひなた 60.2cm(19位)

 

 

 

 最終種目 持久走

 

「ぬぉおおおおおおぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 ひなたは、長座体前屈での散々な記録を挽回すべく、鬼のような表情を浮かべてトラックを爆走していた。

身体に抵抗がないため驚異的な速度を出し次々とクラスメイト達をごぼう抜きして疾走していくひなたを見てクラスメイト達は驚いており、記録は2分4秒とかなりの好記録だった。

 

「はぁ……はぁ……貧乳で良かった……」

 

 駿足で駆け抜けていき驚異的な記録を叩き出したひなたは、ゼエゼエと肩で息をしながら恥もプライドも捨て去って喜んでいた。

 一方心操も、ボール投げでヒーローらしい記録を叩き出した緑谷に負けまいと全力を出し切りドベ争いをしていた3人を抜いた。

 この競技では50m同様八百万と飯田がトップ争いをしていたが、ひなたも何とか上位に食い込んだ。

 

 相澤ひなた 2分4秒(6位)

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 こうして全ての種目が終わり、成績発表の時間が来た。

 

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので、一括開示する」

 

 相澤が端末を操作して空中に投影する。

 すると全員が自分の名前を探し始める。

 

 

 

 1位 八百万百

 2位 轟焦凍

 3位 爆豪勝己

 4位 飯田天哉

 5位 常闇踏陰

 6位 障子目蔵

 7位 相澤ひなた

 8位 尾白猿夫

 9位 切島鋭児郎

 10位 芦戸三奈

 11位 麗日お茶子

 12位 砂藤力道

 13位 蛙吹梅雨

 14位 青山優雅

 15位 瀬呂 範太

 16位 上鳴電気

 17位 耳郎響香

 18位 葉隠透

 19位 心操人使

 20位 峰田実

 21位 緑谷出久

 

 

 

 ひなたは“個性”を全く使わなかったにもかかわらず上位におり(立ち幅跳び、ボール投げ、長座体前屈が足を引っ張ってはいたが)、女子の中では何と2位だった。

 自分の順位を見て、緑谷は絶望の表情を浮かべる。

 緑谷は、ボール投げで高得点を出せたはいいものの指の激痛のせいで残りの3種目が壊滅的な記録となってしまい、ドベ争いをしていた3人に差をつけられてしまったのだ。

 

「緑谷……」

 

 心操は、最下位になってしまった緑谷に声をかけようとしたが留まった。

 同じようにヒーロー向きでない“個性”を抱える者として緑谷に同情していたが、自分が頑張った事で彼の除籍が決まってしまったため何と言葉をかけていいのかわからなかったのだ。

 すると相澤は、表示されていた順位表を消しながら言った。

 

「ちなみに除籍は嘘な」

 

「「「!?」」」

 

 ほとんど全員が放心する中、相澤は意地の悪い笑みを浮かべて言った。

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

「「「は━━━━━━!!!!??」」」

 

 クラスメイト達は、声を大にして叫んだ。

 緑谷に至っては、驚きすぎてもはや蒸発寸前だった。

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない…ちょっと考えれば分かりますわ…」

 

 八百万は、声を大にして叫ぶ他のクラスメイトを見て呆れ返っていた。

 初日から生徒を除籍するなどといった学校の地位を下げるような横暴な指導を仮にも国立高校である雄英が一教師に認めるわけがない、八百万はそこまで考えていた。

 心操も、緑谷の除籍が嘘だったので安堵していた。

 するとひなたが口を挟む。

 

「それは違うよ」

 

「え?」

 

「お父さ……相澤先生さ、去年の1年生全員除籍にしちゃったんだって。何でそんな事したのか聞いてみたけど教えてくれなかったし、その人達がその後どうなったのかは僕も知らないんだけどさ。今回先生が除籍は嘘だって嘘ついたのは、やっぱりいずっ君は見込みがあると思い直したからじゃないのかな」

 

「マジか……」

 

 ひなたがそう言うと、クラスメイト達はざわついていた。

 せっかく除籍は嘘という事にしたにもかかわらずひなたに全部バラされた為、相澤は内心『余計な事喋りやがって』と思いながら生徒達に言った。

 

「今日はこれにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ。緑谷、婆さんのとこ行って治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ」

 

 そう言って相澤は緑谷に保健室の利用許可書を渡して校舎裏へと去っていった。

 ひなたがやれやれと言った様子でため息をつくと、蛙吹がひなたに話しかける。

 

「ねえ。ひなたちゃん」

 

「ん? なあに梅雨ちゃん?」

 

「私、思った事は何でも言っちゃうの。あなた、結局一回も“個性”を使わなかったわよね? それであなたの“個性”が何なのか気になっていたのだけれど……相澤先生の娘って事はひょっとして、ひなたちゃんも“個性”を消す“個性”を持ってるのかしら?」

 

「あー……うん。まあそんなとこかな」

 

 蛙吹が尋ねると、ひなたは頭を掻きながら答える。

 結論から言って、蛙吹の予想は半分当たっていた。

 相澤同様ひなたも相手の“個性”を消す力を持っていたのだが、相澤の『抹消』とは異なる性質を持っていた。

 相澤の『抹消』が目視した相手の“個性”を消す力であるのに対し、ひなたの“個性”はひなたの持つ特殊な声を聴いた者の“個性”を一時的に『揺らし』、“無個性”に変えてしまうという力だった。

『抹消』と違って自分の意思で解除する事が出来ず、一度かかってしまったら解除は相手の回復力に委ねるしかないため、下手したら意図せず相手の“個性”を破壊してしまい一生“個性”が使えない身体にしてしまう事すらあり得るのだ。

 それどころか、悪意を持って無理矢理限界を引き出せば“個性”どころか相手の身体をも内側から破壊して殺す事もできる力だった。

 “個性”を壊せるという力は“個性”社会において脅威以外の何物でもないため、小学校では“個性”が原因でいじめられた事もあり、ひなたも自ら自分の“個性”を明かす事を控えていたのだ。

 

「おいコラ触角チビ」

 

 ひなたが蛙吹に自分の“個性”について説明していると、爆豪が割り込んでくる。

 

「……え?」

 

「てめぇ何舐めプしてんだ」

 

 爆豪は、ひなたがテストを舐めて“個性”を使わなかったのだと思い詰め寄ってきた。

 確かにひなたは仮にも実技入試一位で、ひなたがレスキューポイントを大幅に稼いで一位になった事を知らない爆豪にとっては、一切“個性”を使わずテストを受けてその結果自分からしてみれば微妙な成績になった事に納得がいかないのも無理はなかった。

 ひなたは、誤解されたままというのも気分が悪いと思い弁解した。

 

「僕は相澤ひなただよ? 舐めプじゃないし……単純にこういう競技じゃ僕の“個性”は役に立たないってだけさ。僕の“個性”は数値とかで測れるようなものとはちょっと違うんだ」

 

「あぁ!? じゃあ今ここで“没個性”じゃねぇって事証明してみろや」

 

「それはできない。使う理由がないからね。まあその内使う時が来るって事だよかっちゃん」

 

「かっちゃん言うな殺すぞ!!」

 

 爆豪が掌を爆発させながらキレ散らかすと、ひなたは上手い事スルーして手を振り校舎へと戻っていった。

 実はひなたは競技中の緑谷と爆豪の会話を小耳に挟んでおり、その時の緑谷が言っていた爆豪のあだ名を使う事にしたのだ。

 こうして初日の試練は無事終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、家に帰ったひなたは、夕食を食べ終わった後福門と山田にリモートで初登校の事を報告していた。

 二人ともひなたが雄英に入れるよう全力でサポートしてくれていたので、真っ先に二人に報告しようと決めていたのだ。

 

『ひなたぁ〜お疲れ〜! 最初の授業どうだった?』

 

「それがさぁ、聞いてよ笑ねえ! あのヒゲ面、今年も入学式すっぽかしたんだよ!」

 

『ブハ!! またかよ! 相澤らしいな!!』

 

「笑い事じゃないよ〜! 入学式出たかった〜!」

 

 ひなたがぷぅと頬を膨らませながら愚痴ると、福門が笑い飛ばした。

 相澤が入学式をすっぽかした事を愚痴るひなただったが、その声色は心なしか明るかった。

 

『ひなたお前、やけに声明るいな! もう友達できたのか? ……あ、それとももう早速好きな奴が出来たとか?』

 

「ひい!!?」

 

 福門が笑いながら冗談を言うと、ひなたはビクッと肩を跳ね上がらせる。

 ひなたは、そのまま顔を赤くして黙り込んでしまった。

 

『なーんつってな、冗談冗談……あれ? ひなた?』

 

「…………」

 

『え? おい、嘘だろ? 嘘だよな?』

 

「…………」

 

 黙り込むひなたに対し、山田が尋ねると、ひなたは耳まで顔を真っ赤にして髪をいじった。

 すると娘に好きな人ができた事を知った山田は、ショックのあまり発狂する。

 

『AHHHH!!! ウソだウソだウソだぁぁぁ!!! ひなたがそんな……ウソだぁああああ!!!』

 

『うるせ』

 

 山田が画面越しに発狂すると、福門がうるさがる。

 山田がうるさすぎて隣の部屋で作業をしている相澤の耳にも叫び声が聴こえ、後でお説教を喰らう羽目になったのであった。

 

 

 

 

 




相澤ひなた

“個性”把握テスト:総合7位(女子2位)
50m走 4秒12(3位)
握力 右203kg/左206kg(4位)
立ち幅跳び 508.2cm(11位)
反復横跳び 103回(2位)
ハンドボール投げ 96.3m(10位)
上体起こし 71回(2位)
長座体前屈 60.2cm(19位)
持久走(1500m) 2分4秒(6位)
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