抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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とある委員長の一日

 8月某日。

 ひなたは、下校しながら考え事をしていた。

 

「ん〜…悩ましい」

 

「わかる」

 

 ひなたが唸り声を上げると、心操も同意した。

 すると、今日は珍しく二人と一緒に下校していた轟が尋ねる。

 

「どうした二人とも」

 

「いやぁ〜、プレゼントどうしようかと思ってさ」

 

「…? プレゼント? 誰に贈るプレゼントだ?」

 

 ひなたが頭を掻きながらニシシと笑うと、轟はきょとんとした表情で尋ねる。

 するとひなたは、逆にきょとんとした表情を浮かべながら轟に聞き返す。

 

「あれ? 焦ちゃん、8月22日が何の日かご存知でない?」

 

「……さぁ」

 

「実はその日、飯田の誕生日なんだよ。だからプレゼントどうしようかって今ひなたと相談してたの」

 

「飯田の……そっか、俺も何か用意しないとな」

 

 心操が言うと、轟は普段から何かと世話になっている飯田に何か礼をしなければと考えていた。

 ひなた達が言うまで飯田の誕生日を知らなかった轟だったが、無理もなかった。

 入学してすぐに半ば強引に聞いたひなたは知っていたが、そうでもなければ自分の誕生日など頭にないであろう飯田がクラスメイトに自分から誕生日を教えるはずがなかった。

 ひなたと心操は、コソッと顔を見合わせ、何かを考えている様子だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 飯田の誕生日前日。

 飯田が寝静まったのを確認すると、飯田の誕生日を知っているメンバーは、他のクラスメイトに声をかけて談話スペースで作戦会議を開いた。

 爆豪に関しては、「クソかったりぃ。寝る」と言って部屋に戻って寝てしまい、結局集まったのは飯田と爆豪を除く19人だった。

 全員が注目する中、緑谷が口を開く。

 

「飯田くん、いつも僕達の事を第一に考えてくれていて…そんな飯田くんに対して、思えば僕って何も返せてないなって…ふと思ったんだ」

 

「だから明日、天ちゃんにサプライズパーティーしてあげたいなって思ったの」

 

 緑谷が言うと、ひなたも緑谷に続けて言った。

 すると八百万をはじめとした他のクラスメイトも、二人の意見に頷く。

 

「確かに…私達も、飯田さんにお世話になってばかりではいけませんものね」

 

「あいつ、俺達の事は気にかけてくれるくせに、自分の誕生日すら忘れてんだもんなぁ〜。あれ? そういうの、何つぅんだっけ?」

 

「紺屋の白袴」

 

「そう、それ! たまには俺達が目一杯世話焼いてやろうぜ!」

 

「いいじゃん! やろやろ!」

 

「私ビックリさせるやつやりたーい!」

 

「俺達で世界一楽しい誕生日パーティーにしてやろうぜ!!」

 

 上鳴や芦戸など、ノリが良い生徒達を中心に、次々とクラスメイトが賛成した。

 自分達の提案を快く受け入れ積極的に企画を考えようとするクラスメイトを見て、緑谷とひなたは感激していた。

 

「皆…ありがとう!」

 

「良かったなぁ、デッくん!」

 

 翌日に飯田の誕生日パーティーを開催する事になったひなた達は、早速パーティーの準備を始めた。

 パーティーの食事を用意する料理班と、企画を準備する企画班、飾り付けを用意する装飾班に分かれて準備を進める事になった。

 話し合いの結果、それぞれの班のメンバーが決まった。

 

 企画班:青山、芦戸、上鳴、切島、耳郎、葉隠

 装飾班:尾白、障子、瀬呂、常闇、轟、緑谷、峰田、八百万

 料理班:ひなた、蛙吹、麗日、砂藤、心操

 

 企画班はノリの良いメンバー、装飾班は装飾に適した“個性”やパワー系のメンバー、料理班は料理がある程度できるメンバーで固められた。

 料理班のひなたは、心操や砂藤、蛙吹や麗日といったメンバーと一緒に料理を作っていく事になった。

 

「まず、飯田の好き嫌いと、体質とかの関係で食べられないもの。これは把握しとかないとな」

 

「そういえば私達、普段あんなに世話焼いてもらっとるのに、飯田くんの好き嫌いとか知らんかったなぁ」

 

「あ、はーい! 僕知ってる! えっとね、ビーフシチューとオレンジジュース! これは絶対天ちゃん喜ぶよ!」

 

 心操と麗日が言うと、ひなたが自信満々に答える。

 ビーフシチューとオレンジジュース。

 ひなたがそう断言したのは、飯田がメシ処でいつも注文している定番のメニューだからだ。

 だが、それをそのまま出すだけでは普段の食事と何も変わらない。

 砂藤はその事について言及した。

 

「けど、ビーフシチューとオレンジジュースのスイーツだけってのもなぁ。もっと脇固めてこうぜ」

 

「う゛……確かに。仰る通りでございます」

 

「じゃあやっぱり好き嫌いとかアレルギーとかを聞いてくるのは必須ね。飯田ちゃんの食べられないものを作って、変に気を遣われるのが一番ダメだもの」

 

「少なくとも、りっきーの作ったケーキは好き嫌いせずに食べてたから、ケーキの食材で食べられないものがあるって事はないと思うけど…」

 

 砂藤の的確なツッコミにひなたが顔を引き攣らせると、蛙吹が冷静に正論を言った。

 すると砂藤は、料理班全員に明日のプランを確認する。

 

「じゃあ、明日の昼メシの時に好物を聞いて、授業終わったらすぐ戻ってメシ作るって感じでいいか?」

 

「異議なし!」

 

 砂藤が尋ねると、麗日が答えた。

 するとひなたも頷いて口を開く。

 

「それが良さそうだね。ケーキ作りはりっきーと僕でやるから、ひー君、お茶子っち、梅雨ちゃんはパーティー料理をお願い」

 

「うん」

 

「わかったわ」

 

「任せて」

 

 ひなたが言うと、三人は頷いた。

 ひなたと砂藤は、早速ケーキの構想を考え始める。

 

「やっぱりケーキは、天ちゃんの好きなオレンジジュースを感じられるものがいいと思うんだ」

 

「そうなると、ムースとかゼリーとかが良さそうだな。ちょうど最近暑いし」

 

「だね。じゃあその方向でケーキの構想考えよっか」

 

 二人が作る事にしたのは、オレンジジュースたっぷりのムースケーキだ。

 細かく砕いたビスケットをバターと混ぜて型に入れて固め、マーマレードを塗ってから、ココアパウダーを入れて作ったココアスポンジを置く。

 オレンジジュースをふんだんに使ったムース生地を流し入れた。

 一方で、オレンジジュースのゼリーを作っていたひなたはというと。

 

「これでいいのか?」

 

「ありがとう! 冷凍庫で凍らせてたら間に合わないから、焦ちゃんがいてくれてて良かった!」

 

 ひなたは、装飾班の轟を呼び出してケーキに使うゼリーを凍らせてもらっていた。

 凍らせたゼリーを乗せて、残りのムース生地を流し入れる。

 そこまで終えて、二人はようやく就寝する事ができた。

 飯田が寝静まってからの準備だったため、気付けば時刻はとっくに夜中の2時を超えていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 翌日。

 

「ふわぁ〜あ……」

 

 ひなたは、枕元で充電した携帯のアラームの音で目を覚まし、手探りで携帯を手に取るとアラームを切った。

 あくびをしながらベッドから起き上がると、洗面用具と制服と鞄を持って1階の脱衣所に行った。

 寝癖で髪は鳥の巣のようになっており、顔も眠たげだった。

 ひなたが脱衣所にある洗面所で顔を洗っていると、脱衣所に耳郎と八百万が入ってくる。

 

「ふわああああ〜…あ、ひなたおはよー」

 

「おはようございますひなたさん」

 

「うん、おはようきょーちんにヤオモモ。眠いねえ」

 

「昨日遅くまで準備してましたものね…」

 

「飯田に何て言い訳しよ」

 

 三人とも昨日の誕生日パーティーの準備が長引いて睡眠時間を十分に確保できず、あくびをしたり目を擦ったりと眠たげだった。

 ひなたは、二人と会話をしながら歯を磨き、髪を濡らして寝癖を直しヘアセットをした。

 ヘアワックスで毛先を遊ばせ、お気に入りのヘアピンを前髪につけて鏡で確認した。

 

「よしっ」

 

 ヘアセットを終えたひなたは、着ていたパジャマを脱いで見事なコントロールで洗濯機へ投げ入れ、丁寧に畳んで持ってきた制服に着替えた。

 すると耳郎がひなたに話しかける。

 

「ひなた制服持ってきたんだ」

 

「うん! そうすれば部屋に戻らなくて済むしねー」

 

「それは良い考えですわね。私も今度からそうしようかしら…」

 

「ただめんどくさがりなだけじゃ…」

 

 八百万がひなたの作戦に感心していると、耳郎がツッコミを入れる。

 はじめから制服と通学鞄を持って脱衣所に行けば、脱衣所で着替える事ができ、パジャマもそのまま洗濯機に入れる事もでき、部屋に戻らなくて済む。

 合理的な作戦だ。

 朝の支度を終えた三人は、ガールズトークに花咲かせながら食堂へ向かった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 食堂に行くと、既に飯田が朝食の味噌汁を配膳しており、障子と常闇も来ていた。

 ランチラッシュが朝早くから作ってくれた朝食は、早朝にそれぞれの寮に配達される仕組みだ。

 朝食は、和食と洋食を選ぶ事ができるのだ。

 挨拶をすませ、それぞれ好きな方を選びテーブルについた。

 ちなみによく食べるひなたは、和食と洋食両方選んでいた。

 洋食は、クロックマダム、人参のグラッセ、コーンポタージュ、サラダといったメニューで、和食は白米に味噌汁、紅鮭、卵焼き、ほうれん草のお浸しなどといった日本人に馴染み深いメニューだ。

 

「ふあああ~……ねむ……」

 

「ええ……あふ……」  

 

「くぁぁぁ………ねみー…」

 

 飯田の前に座った耳郎、八百万、ひなたが三人揃ってあくびをする。

 

「どうしたんだ、寝不足か?」

 

「ん ー……昨日ちょっとさ…」

 

「僕、夜遅くまで“個性”伸ばしやってたらすっかり時間忘れちゃって」

 

 飯田に尋ねられた耳郎が答えると、ひなたは飯田に勘繰られる前に話に割り込んで言い訳した。

 ひなたのフォローに合わせて、八百万と耳郎も言い訳した。

 

「私は、遅くまで本に夢中になってしまったものですから……」

 

「あー……ウチは音楽聴いてて……」  

 

 どこかぎこちない二人に、飯田はわずかに首をかしげる。

 その隣で常闇が、んんっと咳払いをしたあと、困ったようにしかめた顔で口を開いた。

 

「……やはり、朝食は和食だな」

 

「……あぁそうだな、常闇くん。こんなに美味しいごはんが朝から食べられるなんて、ランチラッシュ先生に感謝しなくては!」  

 

 唐突な話題に、飯田は突然どうしたんだろうかと一瞬思ったが、目の前の美味しい朝食に感動するのも当然かと納得する。  

 一粒残らずごはんを平らげ、飯田はご馳走様をして「それじゃあお先に」と一人、一足早く寮を出た。

 すると耳郎と八百万は、肩の荷が降りたかのように大きなため息をついた。

 

「焦った〜…!!」

 

「ナイスフォローでしたわひなたさん」

 

「皆肩に力入りすぎ。それだと天ちゃんだって怪しいって思っちゃうよ」

 

「だよね〜…」

 

 安心し切った様子の二人に、ひなたがツッコミを入れると、耳郎が苦笑いを浮かべた。

 その近くでは、障子と常闇も冷や汗を浮かべており、表情が引き攣っていた。

 どうやら二人も、冷静そうに見えて、実は飯田に勘繰られないかとかなり焦っていたようだ。

 ひなた達は、ちゃっちゃかと朝食を済ませると、昨晩の続きをした。

 しばらく5人で作業をしていると、遅起き組も合流し、飯田と爆豪を除く19人で準備を進めた。

 ひなたと砂藤は、食堂でケーキ作りの続きをした。

 昨日作ったケーキの生地に、オレンジジュースをふんだんに使ったゼリー液を流し込み、冷蔵庫に入れて固めるところまで進んだ。

 だが時間を忘れて作業していたせいで、すっかり登校時間ギリギリになってしまった。

 

「やっべ、もうギリギリじゃん!」

 

「早よ行かな、先生に怒られちゃう!」

 

 ふと時計を見た上鳴が飛び上がると、麗日も慌てて切り上げる。

 高校生にもなって『先生に怒られる』などといった理由で遅刻を回避しようとするなどおかしな話だったが、相手が鬼の相澤なので無理もなかった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ま、間に合った……っ」

 

「ちょ……朝から全力ダッシュはキツイ~ッ」  

 

 肩で息をしながら言葉を吐き出す切島と芦戸。

 ひなた達は、全力ダッシュをして何とかギリギリ時間内に登校する事ができた。

 すると、教室で掃除をしていた飯田が、怪訝そうな表情を浮かべながら尋ねる。

 

「何をしてたんだ? もう少しでホームルームが始まる時間だぞ!?」  

 

 心配したあまり、腕を大きく左右に振りながら訊く飯田に、全員が一瞬ピタッと止まった。

 

「それは、ほら」

 

「ねえ……?」

 

 そしてぎこちなく言いよどむ。

 すると麗日が飯田の前に出た。

 

「そ、それはねえ……! ……Gが出たんよ」

 

「Gとは……?」

 

「キッチンとかによく出る黒いあいつ……」

 

「あぁ! ゴキ……」

 

「やめて名前も聞きたくない思い出したくもない!!」

 

「名前を口に出すのもおぞましいあいつが出て……皆で退治してたんだよ……!」  

 

「で、ひなたが泡吹いちゃって、てんやわんやでさぁ…」

 

 スナイパーのような麗らかじゃない顔つきで、飯田をじぃぃっとみつめる麗日。

 その後ろでは、ひなたが全身に蕁麻疹を発生させて悲鳴を上げており、心操も首の後ろに手を置きながらそれっぽい言い訳をした。

 寝不足なのか、心操の目元の隈はいつも以上に濃くなっていた。

 麗日の迫力に飯田は一瞬たじろぐが、その肩をしっかとつかんだ。

 

「それは手伝えなくてすまなかった! 皆も大変だったな!」  

 

 飯田がそう言うと、全員ホッとしたようにそれぞれ席へと移動する。

 緑谷と轟が飯田にどこか疲れたような声で挨拶をした。

 

「おはよう、飯田くん」

 

「おう」

 

「おはよう、緑谷くん、轟くん。二人とも、朝からお疲れだったな」

 

「へっ、いやあそんな事……ねっ、轟くん!」

 

「……まあな」  

 

 そう言って自分の席へ向かう二人。

 飯田はそんな二人を見ながら、わずかな違和感を覚えた。

 だが、そんな違和感を心の中で言葉にする前に、自分の席へと移動しようした麗日の髪に気づく。

 

「麗日くん! 寝癖がついているぞ」

 

「へっ? うわ、ほんと? 昨日、遅かったからなぁ」  

 

 あわてて手ぐしで髪を直しながらそう言う麗日に、飯田は引っかかる。  

 確か、八百万、耳郎、ひなたの三人も昨日は夜遅かったと言っていた。

 

「何をしていたんだ?」

 

「それはき……っ」  

 

 麗日はバッと自分の手で自分の口を塞いだ。

 

「麗日くん?」

 

「……な、なんでもない! なんとなくだよ、なんとなく寝れなかったんだ!」

 

 その時、時間ピッタリにドアが開き、相澤がやってきた。

 全員、瞬時に席に着き姿勢を正す。  

 飯田はいろいろ引っかかる事があったが、考えるのは後回しにすることにした。  

 ホームルームが終われば、すぐに一限目の授業が始まる。授業が始まれば、授業に集中しなければならないのだ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 あっという間に4時限目も終わり、昼食の時間になった。  

 飯田はいつものように緑谷と轟と連れ立って食堂ランチラッシュのメシ処へ行く。

 今日は、そこにひなたと心操も一緒だった。

 

「しかし、寮生活が始まって、ランチラッシュ先生は大忙しだろうな」

 

「あぁ、ランチどころじゃねえな」  

 

 飯田と轟の会話に、緑谷がう~んと首をひねる。

 

「そうなるとヒーロー名、改名したりするのかな? オールタイムラッシュ先生とか?」

 

「んー…あっ、ミールラッシュ先生とか!」

 

「いや、そこはきちんとブレックファースト、ランチ、ディナーを採用するべきなんじゃないのか? 略してBLDラッシュ先生とか」

 

「おお、新しいサンドの名前みたいだね」

 

「BLTサンドみたいなノリか」

 

「いや、そもそもそう簡単に改名できねえだろ」  

 

 そんな事を話している5人の少し前には、三年生がいる。

 

「ああ……どうしていつもこんなに混雑してるんだ……辛い……帰りたい。せめて教室の隅で食べたい……」  

 

「それ一年のときから言ってるよね! どうして慣れないのか不思議! ね! 通形、何にするか決めた? 私はねー、朝から冷やし中華の気分だったの! 知ってた?」

 

「俺はラーメンだよね! よし、チャーシュー大盛りだ! 環、一枚やるよ!」  

 

「ありがとう……豚か……鼻が強いんだよね」

 

「天喰くん、ねえねえ! メニュー決めた? もう順番だよ! わからなかった?」

 

「あ……う……どうしよう……」

 

「環、ボンゴレあるぞ! アサリ!」

 

「それにする……」  

 

 目の前の三年生は、個性的な会話をしながらそれぞれ注文したものを受け取り、緑谷達の横を通り過ぎていく。

 緑谷達の順番になり、それぞれ注文したものを受け取る。

 メニューは豊富にあるのだが、いつも自分の好きなものに落ち着いてしまうのだ。

 飯田はビーフシチュー、緑谷はかつ丼、轟はせいろそば、ひなたは中華、心操は日替わり定食だ。

 ちなみに飯田はオレンジジュースもつける。

 心操の頼んだ日替わり定食は、白米と味噌汁にその日のメインメニューがついてくるというもので、毎月月曜日から土曜日まで曜日固定方式で違うメニューが出てくる。

 つまり1年間で72種類ものバリエーションが楽しめるのだ。

 ちなみに今日のメインはアジフライだ。

 

「なぁ俺も一緒にいいか?」  

 

 轟、飯田、緑谷の順に座り、その向かいにひなたと心操が座った。

 するとその時、砂藤もやってきた。

 

「も……」

 

「もちろん! ね、飯田くん!」

 

「あぁ……」  

 

 飯田が答える前に、食い気味に緑谷が答えた。

 砂藤は心操の隣に座る。  

 飯田はビーフシチューを食べながら、今朝の事を思い出した。

 

「そうそう、皆! 脱衣所をもっとキレイに使うにはどうしたらいいと思う? 朝、顔を洗いにいくと、どうしても散らかっているのが気になってね」

 

「そんなに散らかってるかぁ?」  

 

 首をひねる砂藤に、飯田は頷く。

 

「あぁ、籠の置き方が曲がっていたりしているんだ。一人一人気をつければすむ話なんだが……」

 

「う~ん、注意書き貼ってみるとか?」

 

「籠の下に磁石でもくっつけときゃ、自然に元の位置に戻るんじゃねえか?」  

 

「あっ、ちゃんとキレイに使わないと罠が飛び出るようにしたりとか!」

 

「この前のゲームに引っ張られすぎ…」

 

 緑谷達も食べながら、意見を出す。

 ああでもない、こうでもないと話していると、砂藤が改まったように飯田に向かって口を開いた。

 

「そ、そういえばよー。飯田って食べられないものってあんのか……?」

 

「嫌いな食べ物という事か? いや、好き嫌いは特にないが」

 

「……それじゃあアレルギーとかは?」

 

「いいや、そういうのも特にない」

 

「そうか! よかったぜ!」  

 

 満面の笑みを浮かべた砂藤に飯田もつられて笑顔になる。

 

「あぁ、ありがとう! ところでなぜそんなことを訊くんだい?」  

 

 すると砂藤と緑谷がビクッと固まった。

 不思議に思っていると、隣でそばをズゾーッとすすっていた轟が顔を上げる。

 

「それはお前の──」

 

「轟くんっ……!!」

 

「んぶっ」  

 

 轟が何かを言いかけた瞬間、即座に緑谷が飛び出し口元を覆うように押さえた。

 勢いあまり倒れそうになる二人を飯田がとっさに支える。

 

「ど、どうしたんだ、緑谷くん!?」

 

「な、なんでもないよっ? ほら、口元にネギがついてたから気になっちゃって……ね、轟くん!」

 

「あぁ……わりィ、そば食ってたからうっかりしちまった……」

 

「? うっかりって何をだい?」

 

「ななななんでもないよ! ね、轟くん……!」

 

「あ、あぁ……うっかりネギつけちまってた……」

 

「………………」  

 

 あきらかにぎこちない緑谷と轟に、飯田は眉をひそめた。

 その向かい側の席では、心操とひなたが『ダメだこりゃ』と言わんばかりにため息をついていた。

 

「あー…実はさ。ひなたがな? 最近珍しいコンセプトのカフェ見つけたらしくてさ。今度の週末一緒に行かないかって誘われてたんだ。それで、飯田も誘おうって話になったんだけど、俺達お前の嫌いなものとか把握してなかったからさ」

 

(心操くん、上手い…!)

 

 心操が自然な会話に持っていくと、緑谷が感心する。

 すると心操の話を聞いたひなたが、慌てて口裏を合わせる。

 

「う、うん! エチオピアの郷土料理をコンセプトにした店でさぁ! 割と好き嫌い分かれる店らしいから、天ちゃんはどうかなーって考えてたとこだったんだよ! だよねりっきー?」

 

「あ、ああ! もし飯田が食えねえもんあるなら別の奴誘った方がいいかと思ってよ」

 

「うん!」

 

「……? ああ」

 

 心操とひなたが砂藤、緑谷、轟にも同意を求めると、砂藤と緑谷が頷き、轟もワンテンポ遅れて頷いた。

 心操とひなたが咄嗟に思いついた作り話に、飯田も納得した。

 

「うむ。そういう事なら、是非とも同行させてもらおう。俺も丁度アムハラ文化に興味があって文献で調べていたところだからな」

 

「良かった…!」

 

 飯田が言うと、ひなたがホッとため息をつく。

 飯田を騙すのは心苦しかったが、今日一日を乗り切れば全てが丸く収まると自分に言い聞かせた。

 だがどこかぎこちない5人に、飯田はもしかしたら自分が何か気に障る事をしてしまったのではないかと考えていた。

 

「飯田くん? あの……大丈夫?」

 

 ふと黙りこんでしまった飯田を緑谷が心配そうに覗きこんだ。

 飯田はその顔を見て、ハッとする。

 

「……いや、なんでもない。大丈夫だ!」  

 

 本気で心配してくれている友人の顔くらいはわかる。

 だから飯田は頷いて、ビーフシチューを食べ終えた。

 

(ごめん、天ちゃん…)

 

 飯田の表情を見て、もしかしたら飯田が自分がクラスメイトに嫌われていると考えているのではないかと勘付き、心の中で飯田に謝った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後、午後の授業が終わり、ひなた達は寮に戻った。

 飯田の事を緑谷に任せ、料理班は早速キッチンで料理を作り始めた。

 

「…てなわけでよぉ。結局心操のお陰で何とか乗り切れたんだけど、相澤が話ややこしくしちまってよ」

 

「ひなたちゃん、どうしてそんな深掘りされたらすぐバレるような嘘を?」

 

「だって〜! パッと思いついたのがそれだったんだもん!」

 

「咄嗟に思いついた嘘がエチオピアの郷土料理のカフェて…」

 

「いいでしょ別に! 今日を乗り切れば全部丸く収まるんだし!」

 

 ひなたが咄嗟についた嘘に、蛙吹と麗日がツッコミを入れながら笑う。

 するとひなたは、ぷぅと頬を膨らませながら反論した。

 パーティー料理作りのメンバーは、早速料理を始めた。

 パーティー料理は、飯田の好物を考慮した結果、

 

 ・ビーフシチュー

 ・ガーリックトースト

 ・マッシュポテト

 ・アボガドサラダ

 

 の4品に決まった。

 ひなたと砂藤は、早速ケーキ作りの続きをした。

 昨日から少しずつ準備を進めていたおかげで、あと少しでケーキが完成するというところまで終わっていた。

 オレンジゼリーの表面にオレンジスライスジャムを乗せ、透明なゼリー液を流し込み、冷やして固めた。

 あとはケーキを型から外してゼラチンとオレンジジュースで作ったコーティング液でサッとコーティングし、ホワイトチョコのプレートにチョコペンでメッセージを書いて乗せたら完成だ。

 

「よし、出来た!」

 

 ケーキを完成させた二人は、思わず笑顔を浮かべた。

 ちょうど時を同じくして、他の三人も料理が完成したようだ。

 ひなたが談話スペースに行くと、バルーンや紙で作った花などで彩り鮮やかに飾られていた。

 そして、向かいの窓に下ろされたロールスクリーンには、大きな文字が貼られていた。  

 

「ジャ〜ン、ケーキができましたよ〜!」

 

 ひなたが声をかけると、談話スペースで準備をしていたクラスメイト達がババッと振り向いて注目する。

 砂藤が持っていた皿には、鮮やかなオレンジ色のケーキが乗っていた。

 それを見たクラスメイトは、思わず目を輝かせる。

 

「おー、すげえ! 売ってるヤツみてえ!」

 

「うわ~美味しそう! 流石砂藤くん!」

 

「いやぁ、相澤にも手伝ってもらったし…」

 

「えへへ…」

 

 ひなたが何気なくエレベーターの方に注意を向けると、「ゲッ」と小さく声を上げる。

 何と、緑谷が追い出したはずの飯田が1階に降りてきてしまったのだ。

 ひなたがヤバイヤバイと慌てていたが、何やら飯田は爆豪と口論になっているようだ。

 

「てめェが一階にいると邪魔なんだよ。クソメガネは部屋で勉強でもしてやがれ」

 

「!」

 

 エレベーターの方から聞こえてくる爆豪の声を聞いて、ひなたは僅かに目を見開く。

 爆豪は、クラスメイトが飯田のサプライズパーティーをやろうとしているのを察して、気を利かせて時間稼ぎをしていたのだ。

 

(口悪いけどありがとうかっちゃん…)

 

 飯田がそのまま自分の部屋へ行くと、ひなたはホッと胸を撫で下ろし、爆豪に感謝した。

 

 全ての準備が終わると、上鳴達が寮のブレーカーを落とし、非常用電源に切り替えた。

 ひなた達は、事前の打ち合わせ通り、談話スペースで静かに飯田を待っていた。

 すると、ひなた達を心配したであろう飯田が降りてきたのか、エレベーターの駆動音が聴えてくる。

 ひなたが麗日に合図を送ると、麗日はコクっと頷いた。

 

「キャア!!」

 

「麗日くんか!? どうした!?」

 

「た、助けて飯田くん! 早く! こっち!」

 

「待ってろ! すぐ行く!」

 

 麗日が芝居をすると、飯田の声と足音が聴こえてくる。

 しばらくして、談話スペースのソファーに足が当たったのか、飯田が足を止めた。

 

「麗日くん、どこだ!?」

 

「ここだよ」  

 

 普段の明るい麗日の声がした瞬間、パッと一階の電気がついた。

 

「皆……!?」

 

 目の前の光景に、飯田は目を見開いて立ち尽くしていた。

 談話スペースで待機していたひなた達が、笑顔を浮かべながら飯田を迎え入れたのだ。

 ひなた達は、ロールスクリーンに貼られた文字を一斉に叫んだ。

 

「飯田くん、お誕生日おめでとう~!!」

 

 全員が、手にしていたクラッカーを一斉に鳴らした。

「お」と音に驚いた轟が、一人遅れてクラッカーを鳴らす。  

 啞然としている飯田に、鮮やかな紙吹雪が舞い落ちる。

 飯田はポツリと呟いた。

 

「誕生日……そうか、すっかり忘れてた……」

 

 そんな飯田に皆が駆け寄る。

 麗日が嬉しそうにへへっと笑った。

 

「やった! サプライズ成功だね!」

 

「もう朝からヒヤヒヤしましたわ。飯田さんが出かけてから、皆で段取りの確認をしていたら遅刻しそうになってしまいますし……」  

 

「ほんとだよ」

 

 やっと安心したように胸を撫でおろす八百万を見て、耳郎がと苦笑いをする。

 

「飾りつけ、私達で昨日の夜から準備しててさ!」  

 

 芦戸の言葉に、蛙吹がにっこりと笑う。

 

「間に合ってよかったわ、ケロッ」

 

「飯田が部屋に戻ってから、皆で超特急で飾ったんだ」  

 

 そう言う尾白の隣で、上鳴が飯田に両手を合わせて謝った。

 

「だからごめんな! 風呂場で変な雰囲気にしちゃってさー」

 

「も~、こんなの飯田だけの特別だかんな? いつも委員長としていろいろやってくれてるから、そのお礼って事で!」

 

 ニヤリと笑む瀬呂。

 切島が残念そうに頭を搔きながら言った。

 

「ったく、爆豪もいりゃいいのになぁ。部屋戻っちまった」  

 

 飯田はさっきの爆豪を思い出した。

 飯田はもう少し他に言い方が……と思いつつ、爆豪の新たな一面を知った気がしてわずかに微笑んだ。

 そこに緑谷と轟も声をかける。

 

「食堂で轟くんが言いそうになるんだもん。焦っちゃったよー」

 

「……俺も焦った」

 

「あの時の二人には俺も驚いた。あれでおかしいなと気づいたんだ」  

 

 飯田がそう言うと、緑谷が申し訳なさそうな顔をする。

 すると心操が呆れながら話す。

 

「だから俺が話を合わせる為に咄嗟に嘘ついたの。それをひなたがややこしくするから…」

 

「だって〜…」

 

「では、ひなた君が見つけたカフェというのは…」

 

「ごめ〜ん、嘘!」

 

 飯田が尋ねると、ひなたは「てへっ」と戯けながら言った。

 

「……ごめんね、さっき本当の事言えなくて」  

 

 飯田は緑谷の笑顔に、皆を見回した。

 サプライズが成功して、皆ワイワイと盛り上がっている。

 自分のために、今日一日そわそわしてくれたのかと思うと、あたたかい気持ちで胸がいっぱいになった。

 

「飯田くん、お腹空いてるでしょ? こっちこっち!」

 

 そう言って麗日が食堂へと飯田を引っ張っていくと、飯田は思わず目を見開く。

 そこには、洒落た装飾がされたテーブルに、全員分の食事が並べられていた。

 

「これは…!」

 

「ケロケロ、私とお茶子ちゃんと心操ちゃんで用意したのよ」

 

「好き嫌いもアレルギーも無いって聞いたからな。飯田の好物のビーフシチューをメインに食事を作らせてもらった」

 

 驚く飯田に対し、蛙吹と心操が言った。

 すると飯田は、目頭が熱くなり、思わず目を押さえる。

 

「……ありがとう、皆」

 

 思わず涙が溢れそうになる飯田を、麗日と蛙吹が席に座らせた。

 もちろん、お誕生日席にだ。

 その後、切島が爆豪を呼んで席に座らせ、全員でパーティー料理を食べた。

 全員パーティー料理を食べ終わり、雑談をしていると、キッチンの方から声が聴こえてきた。

 

「おい、早くメインを呼んでくれよ!」  

 

 その声に振り向くと、砂藤がキッチンから顔だけ出していた。

 全員思い出したようになり、八百万のかけ声に合わせてバースデーソングを歌いだす。  

 歌声に合わせて、砂藤がケーキを飯田の前に持ってくる。

 鮮やかなオレンジ色のケーキの上には、火のついた蠟燭が刺してあり、チョコレートで『お誕生日おめでとう! いつもありがとう委員長 A組一同』と書かれたプレートが乗っていた。

 

「100%オレンジジュースをたっぷり使った、特製オレンジケーキ飯田スペシャルだ」

 

「……こんな立派なものを……ありがとう」  

 

 感激している飯田に麗日と蛙吹が急かすように言う。

 

「飯田くん、早く蠟燭消さんと!」

 

「吹き消すときに心の中でお願い事をするのよ、飯田ちゃん」

 

「願い事……」  

 

 早く早くと皆に迫られ、飯田はよしっと息を吸いこむ。

 

「俺はこれからもA組委員長としてがんばる所存だ!」  

 

 そしてフーッと勢いよく蠟燭を吹き消した。

 

 

 

 

 

もっとひーひーカップルのイチャイチャを書いてほしいとのお声を頂いたので、R18バージョンの執筆を検討しております。R18バージョンいる?いる派が過半数なら書きます

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