感謝感激雨霰。
念願の赤バーを維持し続けてるぞおおおおおお!!!
やったああああああああああああああああああ!!!
面白いと思っていただけましたら高評価(特に8・9・10あたり)お気に入り、感想等よろしくお願いします。
相澤が呼ぶと、金髪で体格が良くマスコットキャラクターのような目をした男子生徒、水色のウェーブのかかったロングヘアーをした女子生徒、黒髪で若干目つきが悪く耳が尖った男子生徒が入ってきた。
この3人は、通称ビッグ3と呼ばれる3年生の上位3名だった。
すると、A組の生徒達は騒然とする。
「雄英生のトップ…ビッグ3…!!」
「あの人達が…的な人がいるとは聞いてたけど…!」
「びっぐすりー」
「めっちゃ綺麗な人いるし、そんな感じには見えねー…な?」
A組が口々に感想を漏らしていると、相澤がビッグ3に自己紹介を促す。
「じゃ手短に自己紹介いいか? まずは天喰から」
指名された天喰は目を見開き、ひなたを含む全員が威圧感に襲われ震え上がっていた。
(一瞥だけでこの迫力──!! おおおおお!!!)
だが…
「駄目だミリオ…波動さん…ジャガイモだと思って臨んでも…頭部以外が人間のままで依然人間しか見えない。どうしたらいい、言葉が……出てこない。頭が真っ白だ…辛いっ…! 帰りたい………!」
そう言って天喰はA組に背を向けて黒板と向き合った。
その様子を見たA組は唖然とし、尾白が恐る恐る尋ねる。
「雄英…ヒーロー科のトップ…ですよね…」
「あ、聞いて天喰くん! そういうのノミの心臓っていうんだって! ね! 人間なのにね! 不思議! 彼はノミの天喰環。それで私が波動ねじれ。今日はインターンについて皆にお話して欲しいと頼まれて来ました。けどしかしねえねえところで君は何でマスクを? 風邪? オシャレ?」
波動は、いきなり障子に質問してきた。
「これは昔に……「あらあとあなた轟くんだよね!? ね!? なんでそんなところを火傷したの!?」
「………!? それは──…「芦戸さんはその角折れちゃったら生えてくる? 動くの!? ね? 峰田くんのボールみたいなのは髪の毛? 散髪はどうやるの!? 蛙吹さんはアマガエル? ヒキガエルじゃないよね? どの子もみんな気になるところばかり! 不思議」
「天然っぽーい、かわいー」
「カァイイ」
「幼稚園児みたいだ」
「オイラの玉が気になるってちょっとちょっと━━━!!? セクハラですって先パハァイ!!」
「違うよ」
波動が矢継ぎ早に聞いてくると、何人かの生徒達は波動の言動に癒されていた。
中には、セクハラ発言をしてくる者もいた。
「ねえねえ尾白くんは尻尾で身体を支えられる? あ! あなた相澤さんだよね!? その耳どうしたの!? 怪我したの!?」
ひなたの右耳が少し欠けているのが気になった波動は、ひなたに質問した。
悪気が無いとはいえ波動はひなたにとってデリケートな質問をしてしまったので、相澤と心操はピクリと反応する。
だがひなたは、何でもないように笑顔を浮かべて答えた。
「昔事故に遭っちゃって! 今は全然痛くないですよ! ご心配いただきありがとうございます」
ひなたは、自分の気にしている事を笑い話にした。
ひなたが満面の笑みを浮かべながら言うと、相澤と心操は僅かに目を見開く。
ひなたは、波動の質問癖を『心配してくれた』と解釈する事で、轟や障子に波動に悪気がなかった事を伝えつつ、波動本人にも『気にしている人もいる』という事を遠回しに伝えた。
「ごめんなさい、皆緊張しちゃってうまく質問に答えられなかったみたいで! えっと、まずは通形先輩のお話も聞きたいので、後でゆっくりお話しませんか?」
「あらやだ、私ったら一人で勝手に喋っちゃってた!? ごめんなさい!」
ひなたは、あくまで先輩の面子を潰さないよう遠回しに伝えつつ、話が早く進むよう促した。
すると波動は、ようやく一人で勝手に喋ってしまっていた事に気づいたのか素直に謝った。
ひなたは、黒板に向き合って体調不良を起こしている天喰に話しかける。
「天喰先輩も、まずはゆっくり深呼吸すると頭に酸素が回って少しずつ考えがまとまりますよ! あ、でも調子が優れないなら無理をなさらず」
「し、深呼吸……」
ひなたは、緊張で考えがまとまらない様子の天喰にアドバイスした。
すると三人目の上級生、通形が慌てた様子でひなたに謝る。
「ごめんよ相澤さん! 俺が言わなきゃいけない事だったよね!」
「大丈夫ですよ。こちらこそ話の腰折っちゃってすみません」
通形が慌てて謝ると、ひなたはペコっと会釈をした。
あくまで先輩である三人を肯定しながら気になった点をそれとなく注意する事で、クラスメイトが先輩に話しかけやすい空気を作った。
ひなたのプロヒーロー顔負けの対応には、先程まで不機嫌だった相澤も感心し、クラスメイトも内心盛大に感謝していた。
「いやぁ俺よりよっぽどしっかりしてるもんだから度肝抜かれたよ! てなわけで大トリは俺なんだよね! 前途━━━━!!?」
通形はA組に振るが、全員キョトンとして何も答えなかった。
「多難ー! っつってね! よぉし掴みは大失敗だ」
(ダメじゃないですか!!)
掴みが失敗した通形が元気良く笑っていると、ひなたが心の中でツッコミを入れる。
何が面白かったのか爆笑している通形の様子を見ていたクラスメイトは、またしても唖然としていた。
すると砂藤が前の席の切島に耳打ちした。
「………3人とも変だよな? ビッグ3という割には…何かさ…」
「お、おう…ぽくねぇっつぅか…」
「風格が感じられん…」
「あれでフツーに話しに行けたひなちゃんすげえよ…」
砂藤、切島、常闇、上鳴が話していると、通形が話し始める。
「まぁ何が何やらって顔してるよね。必修ってわけでもないインターンの説明に、突如現れた3年生だ。そりゃわけもないよね。1年から仮免取得…だよね。フム、今年の1年生ってすごく…元気があるよね…そうだねぇ…何やら滑り倒してしまったようだし…」
「ミリオ!?」
すると、通形はA組が誰も予想していなかった事を言い出した。
「君達まとめて俺と戦ってみようよ!!」
「「「え……ええ〜〜!?」」」
いきなりの通形の提案に、A組は騒然としていた。
「俺達の経験をその身で経験した方が合理的でしょう!? どうでしょうねイレイザーヘッド!」
「……………好きにしな」
(お父さァァァん!! 丸投げすなぁ!!)
相澤が通形の提案を承諾すると、ひなたは心の中で盛大にツッコミを入れた。
◇◇◇
A組は、体操着に着替えて体育館γに集合した。
「あの……マジすか?」
「マジだよね!」
「ミリオ…辞めた方がいい、形式的に『こういう具合でとても有意義です』と語るだけで十分だ」
「遠」
通形に対して瀬呂が恐る恐る聞くと通形は自信満々に答え、天喰が壁と向き合いながら言うと峰田がツッコミを入れた。
「皆が皆上昇思考に満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」
「あ、聞いて知ってる? 昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子がいたんだよ。知ってた? 大変だよねぇ。通形、ちゃんと考えないと辛いよ。これは辛いよー」
天喰が壁と向き合いながら通形を止めようとし波動が芦戸の角を興味津々な様子で見ながら話すと、ひなたは遠回しに『これから地獄を見る事になる』と言っている二人に対して顔を引き攣らせる。
すると、常闇と切島が不満そうに言った。
「待ってください…我々はハンデありとはいえプロとも戦っている」
「そして
二人が言うと、ひなたは“個性”を発動して通形の方を見る。
自信満々な通形の態度と手加減するよう言っている天喰や波動の発言を受け、通形の実力が気になったからだ。
すると何かに気がついたのか、ひなたは僅かに目を見開く。
「さてと。いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」
「俺「僕……行きます!」
通形が尋ねると、切島が前に出ようとしさらに意外な人物が前に出た。
「意外な緑谷!!」
「問題児!! いいね君やっぱり元気あるなぁ!」
通形は、余裕そうに準備運動をしていた。
すると緑谷がワンフォーオールを使って構える。
ひなたも、“個性”を使って通形を迎え撃とうとする。
すると相澤は、“個性”を使ってひなたを睨む。
「おい。お前は見学してろ」
「え、でも…」
相澤がひなたに見学するよう言うと、ひなたはキョトンとする。
せっかく先輩の実力をこの身で体感できる機会だというのに、自分だけは参加させてもらえないという理不尽に納得がいかなかった。
すると相澤は、不機嫌そうにひなたを睨みつけながら言った。
「お前がやったら試合の意味がなくなるだろうが。仮免試験で赤点ギリギリだった罰だと思って大人しくしてろ」
「ぐぎぎ…!」
相澤が仮免試験の事を蒸し返すと、ひなたは反論できずに黙り込む。
どんな“個性”でも壊して強制的に“無個性”にしてしまうひなたが参加してしまうと、通形が“個性”をA組に体験させる前にひなたに“個性”を消されてしまい、試合をする意味がなくなってしまうため、ひなたは強制見学となった。
その様子を見ていた心操は、ひなたに同情の目を向ける。
「ひなた…」
「ふーんだ、いいもん! しっかり見て勉強するもん! 焦ちゃん一緒に見て学んで今後に生かそうね!」
「おう」
ひなたは、拗ねながら体育館の隅へと歩いていき、既に体育館の隅にいた轟に声をかけた。
ひなたは、轟の隣に立って一緒に見学した。
「近接隊は一斉に囲んだろぜ!!」
「よっしゃ先輩、そいじゃあご指導ぉー」
「「「よろしくお願いしまーっす!!」」」
緑谷が飛び出した、その瞬間だった。
「「「!!?」」」
突然、通形の服が落ちて通形は全裸になった。
「あ━━━!!」
「いやああああああああ!!!」
男性の裸体に免疫がない耳郎とひなたは、顔を真っ赤にして叫んだ。
「今服が落ちたぞ!」
「ああ失礼、調節が難しくてね!」
そう言って通形がいそいそとズボンを履いている間に、緑谷が通形の顔面に蹴りを入れた。
だが、緑谷の足は通形の顔をすり抜けた。
「──…!!」
「顔面かよ」
すると直後、青山のレーザー、芦戸の酸、瀬呂のテープが飛んでくるが全て通形の身体をすり抜けた。
そして次の瞬間には、通形は姿を消していた。
「いないぞ!!」
「まずは遠距離持ちだよね!!」
通形は、全裸で耳郎の背後に現れた。
すると振り向いた耳郎が悲鳴を上げる。
「ギャアアア!!」
「ワープした!! すり抜けるだけじゃねえのか!? どんな強“個性”だよ!」
A組全員が驚いていると、相澤が声をかけた。
「お前ら、いい機会だ。しっかり揉んでもらえ。その人…通形ミリオは俺の知る限り最もNo. 1に近い男だぞ。プロも含めてな」
相澤が言っている間に、通形は18人中10人を倒してしまった。
「POWERRRR!!!」
すると、戦いに参加してなかった轟も目を見開く。
「一瞬で半数以上が…! No. 1に最も近い男…」
「………………お前行かないのか? No. 1に興味無いわけじゃないだろ」
「俺は仮免取ってないんで…」
轟が当然のように言うと、相澤は心の中で「丸くなりやがって」とツッコミを入れた。
その隣では、ひなたが試合中のA組と通形に背を向けて蹲り、真っ赤になった顔を両手で隠していた。
「うう、サイアク…ひー君のだって見た事ないのに…! もうお嫁行けない……」
「見て学んで今後に生かすんじゃなかったのか」
「ナニを見て学んで今後に生かせっていうんだよ!! 知ってて実戦とか許可したなクソ親父!! 教育委員会に訴えるぞ!!」
ひなたが試合から目を背けていると、相澤がツッコミを入れ、ツッコミを入れた相澤に対しひなたはごもっともな反論をした。
ひなたは、通形が“個性”を使えばああなる事を知っていながら女子も混ざっているクラス全員での試合を許可した相澤に対し、もはや殺意を抱いていた。
「で、お前から見てどう思う?」
「…………」
相澤が尋ねると、ひなたは顔を上げて真剣そうな表情を浮かべる。
試合から全力で目を逸らしていたひなただったが、試合前から超音波のドームを張って試合の様子を全て把握していた。
「…わかったかもしれないです。先輩の“個性”。正直、僕の仮説通りだとしたら、『有り得ない』としか言いようがないんですけど…流石はNo.1に最も近い男っていわれてるだけの事はありますね。多分、僕があの場にいても勝てないと思います」
「何だ、意外と謙虚じゃないか」
ひなたが言うと、相澤は意外にも冷静なひなたの分析に感心する。
通形の“個性”の正体に気付いたひなたは、通形の“個性”の応用力、それを可能にする判断力、そして純粋な戦闘力、その全てで到底通形には及ばないと実感していた。
そして、もし自分が通形を“無個性”化して戦っていたとしても勝てないだろうとも考えていた。
ひなたが分析していると、轟が話しかける。
「お前でも勝てないのか」
「うん。単純にクソ強い。それに、“個性”の使い方が上手い。まあ実際戦り合ってみないとわからないとこはあるけど…」
「“個性”の使い方か……」
「焦ちゃんはどう思う? 先輩の“個性”のからくり」
「多分、複合“個性”じゃなくて一つの“個性”の応用だと思う。『すり抜け』の応用でワープしてるのか、『ワープ』で攻撃をすり抜けさせてるのか、どっちかだろうな」
「うん、やっぱりそうだよね」
「お前はどう考えてるんだ?」
「多分、『立体映像化』かそれに近い“個性”だろうね。もし全てを透過する“個性”なら、僕達には先輩が見えてるのはおかしいし、何なら重力とかの物理法則に従ってるのも変だよね。だからさ、正確には『映像化した自分を映し出せる“個性”』ってところじゃないかな?」
ひなたは、コテンと首を傾げながら自分の推理を話した。
「自分の身体を弾き出してるのは、地面に潜り込んでから“個性”を解除したんじゃないかな。一定以上の密度を持った物体同士が重なり合う事はできないから、瞬時に弾き出されてしまうとか、そういう仕組みだと推測できる…と思うよ」
「そこは『思う』なのか」
「まだ憶測の域を出ないしね」
轟がひなたの自信なさげな語尾にツッコミを入れると、ひなたは頬を掻きながら言った。
すると相澤がひなたの頭を小突く。
「おいコラ。あんまりベラベラ喋るな。他の奴等に聴こえちまうだろうが」
「あっ、ごめんなさーい」
相澤が注意をすると、ひなたは後頭部を掻きながら謝った。
たった5秒で青山、芦戸、蛙吹、上鳴、障子、耳郎、瀬呂、常闇、峰田、八百万の10人を倒した通形は、いつの間にかズボンと靴を履いて残りの8人を倒そうとしていた。
「あとは近接主体ばっかりだよね」
「何したのかさっぱりわかんねえ!! すり抜けるだけでも強ぇのに…ワープとか…! それってもう……無敵じゃないすか!」
「よせやい!」
天喰は、通形の“個性”を『無敵』と言い切った切島を初めとしたA組を、本質が見えていない素人だと評していた。
すると緑谷が他のA組に作戦を話した。
「何かカラクリがあると思うよ! 『すり抜け』の応用でワープしているのか『ワープ』の応用ですり抜けているのか、どちらにしろ直接攻撃されてるわけだからカウンター狙いでいけばこっちも触れられるときがあるはず……! 何しているか分かんないなら、わかってる範囲で仮説を立てて、とにかく勝ち筋を探っていこう」
「オオ! サンキュー! 謹慎明け緑谷! スゲー良い!」
「探ってみなよ!」
通形は、勢いよく走り出すと地面に沈み込んだ。
「沈んだ!!」
そして、次の瞬間には緑谷の背後に現れた。
だが緑谷は、通形が背後に現れるのを予測していたのか通形目掛けて蹴りを放つ。
「だが必殺!!!」
「うっ!!?」
「ブラインドタッチ目潰し!!」
通形は、緑谷の目に触れてすり抜けさせると、緑谷の鳩尾に拳を叩き込んだ。
重い一撃を喰らった緑谷は意識を手放し、戦闘不能になった。
「殆どがそうやってカウンターを画策するよね。ならば当然そいつを狩る訓練! するさ!!」
「緑谷くん!?」
通形が緑谷をダウンさせると、飯田が驚く。
だが次の瞬間には通形は地面に沈んでおり、次々と残った7人を倒していった。
心操の“個性”も、既に“個性”を知られている通形には通用せず、結局近接主体で戦うしかなくなり、緑谷の時と同様カウンター潰しをされてしまった。
「POWERRRRRRR!!!!」
「う゛っ…!?」
通形のボディーブローが心操の鳩尾に突き刺さり、心操はそのままダウンした。
彼氏を腹パンされたひなたは、頭を抱えて叫ぶ。
「あああああああ!! ひー君!! 待ってて今仇取るから!!」
「やめろバカ」
ひなたが心操の敵討ちをしようとすると、相澤がひなたの頭を掴んで止めた。
そんな中、波動が天喰に話しかける。
「通形さぁー、ねえねえ聞いて通形さー、強くなったよね」
「ミリオは子供の頃から強かったよ──…ただ─────加減を覚えた方がいい」
波動が天喰に話しかけると、天喰は若干呆れた様子で言った。
通形は、たった数分でA組を全滅させてしまった。
体育館には、爆豪と轟、そしてひなたを除く18人が全員もれなく腹パンを喰らってダウンしており、その中心には全裸の通形がいた。
◇◇◇
「ギリギリちんちん見えないよう努めたけど!! すみませんね女性陣!! とまぁこんな感じなんだよね!」
「わけも分からず全員腹パンされただけなんですが…」
「ひー君に腹パンしたの許しませんからね先輩」
通形と戦ったA組は、全員腹を殴られてグロッキーになっていた。
ひなたは、心操を殴った通形に対し何度もシャドーボクシングをしていた。
すると、通形が尋ねる。
「俺の“個性”、強かった?」
「強すぎっス!」
「ずるいや、私の事考えて!」
「すり抜けるしワープだし! 轟みたいなハイブリッドですか!?」
通形が文句を言うと、切島や葉隠がコメントした。
芦戸が質問すると、波動が手を挙げて言った。
「私知ってるよ“個性”。ねぇねぇ言ってい? 言ってい!? トーカ」
「波動さん今はミリオの時間だ」
天喰が言うと波動はムスッとして渋々黙り、通形が説明した。
「いや一つ!! 『透過』なんだよね! 君達がワープと言う移動は推察された通りその応用さ!」
「どういう原理でワープを…!?」
「全身“個性”発動すると俺の体はあらゆる物をすり抜ける! あらゆる! すなわち地面もさ!!」
「あっ…じゃああれ……落っこちてたって事…!?」
「そう! 地中に落ちる!! そして落下中に“個性”を解除すると不思議な事が起きる。一定以上の密度を持ったモノ同士が重なり合う事はできないらしく…弾かれてしまうんだよね。つまり俺は瞬時に地上へ弾き出されてるのさ! これがワープの原理、体の向きやポーズで角度を調整して弾かれ先を狙う事ができる!」
「!」
それを聞いたひなたは、僅かに目を見開く。
ひなたの予想は図らずも的を射ていたのだ。
「……? ゲームのバグみたい」
「イーエテミョー!!」
芦戸が言うと、通形は爆笑した。
「攻撃は全て透かせて自由に瞬時に動けるのね…やっぱりとても強い“個性”」
蛙吹が言うと、通形が首を横に振る。
「いいや、強い“個性”にしたんだよね。発動中は肺が酸素を取り込めない。吸っても透過しているからね…同様に鼓膜は振動を、網膜は光を透過する。あらゆるものがすり抜ける…それは何も感じる事ができずただただ質量を持ったまま落下の感覚だけがある…という事なんだ。わかるかな!? そんなだから壁一つ抜けるにしても片足以外発動、もう片方の足を解除して接地、そして残った足を発動させすり抜け、簡単な動きにもいくつか工程が要るんだよね」
「急いでる時ほどミスるな俺だったら…」
「オマケに何も感じ無くなってるんじゃ動けねー…」
説明を聞いた上鳴と峰田は、改めて通形のやっていた事の凄さを理解した。
ひなたも、通形の説明を聞きながら腕を組んでうんうんと頷く。
ひなたの“個性”も通形の“個性”同様いくつか工程が必要で、ただ目の前の敵に対して爆音を放って“個性”を消すだけでも、相手の“個性”の波長を読む、声帯を変形して声の周波数・波長・エネルギー量・射程・指向性・反射性等を設定する、相手の声の波長・周波数ともに完全一致する声を相手の波長にぶつけて共振させる、といった複雑な手順を踏む必要があり、その動作を迅速にできるようになったのは他でもなく長年にわたる“個性”訓練の賜物だった。
「そう! 案の定俺は遅れた!! ビリッケツまであっという間に落っこちた。服も落ちた」
(いや…その小ボケ要ります?)
通形が真面目な話中に小ボケを挟むと、ひなたが心の中でツッコミを入れる。
ひなたが通形の小ボケに引っ掛かっている間にも、通形は話を続けた。
「この“個性”で上を行くには遅れだけはとっちゃダメだった!! 予測!! 周囲よりも早く!! 時に欺く!! 何より『予測』が必要だった! そしてその予測を可能にするのは経験! 経験則から予測を立てる! 長くなったけどコレが手合わせの理由! 言葉よりも経験で伝えたかった! インターンにおいて我々は『お客』じゃなくて一人のサイドキック! プロとして扱われるんだよね! それはとても恐ろしいよ、時には人の死にも立ち会う…! けれど恐い思いも辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一線級の経験、俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ! ので! 恐くてもやるべきだと思うよ1年生!!」
通形が熱弁すると、心打たれたA組は拍手を送っていた。
「話し方もプロっぽい…」
「お客か、確かに職場体験はそんな感じだった」
「危ない事はさせないようにしてたよね」
すると、相澤が生徒達に声をかけた。
「そろそろ戻ろう」
「ねえ…! 私達いる意味あった? 知ってる?」
「何もしなくて良かった…ミリオと相澤さんに感謝しよう」
天喰は、自分達の代わりにインターンの話をしてくれた通形と、自分達がA組と話しやすいように気を遣ってくれたひなたに感謝していた。
こうして、ビッグ3はそれぞれ自分の教室へと戻っていった。
「「「ありがとうございました!!」」」
◇◇◇
A組がインターンの話で盛り上がっている中、森に囲まれた倉庫にもう一台の車が停まり中から男が二人出てくる。
一人は
「見るからに不衛生だな。ここが拠点か?」
「ああ! いきなり本拠地連れてくかよ。面接会場ってとこ」
「勘弁してくれよ、随分埃っぽいな…病気になりそうだ」
「安心しろ、中の奴らはとっくに病気だ」
不満を漏らす男に対し、トゥワイスは倉庫の扉を開けながら説明をした。
中には、荼毘、黒霧、スピナーを除いた
「話してみたら意外と良い奴でよ!! お前と話をさせろってよ! 感じ悪いよな!!」
「……とんだ大物、連れてきたな…トゥワイス」
トゥワイスが死柄木を指差しながら言うと、死柄木は僅かに口角を吊り上げた。
すると男が不満を漏らす。
「大物とは…皮肉が効いてるな、
「何!? 大物って有名人!?」
「先生に写真を見せてもらった事がある。いわゆる筋者さ。『死穢八斎會』、その若頭だ」
マグネが尋ねると、死柄木が答える。
トゥワイスが連れてきたのは指定
「おーおー、ヤーさんかい。そりゃあ心強い(笑)」
「極道!? ヤダ初めて見たわ、危険な香り!」
死柄木が言うと、零がヘラヘラ笑いながら反応し、マグネがキャッキャとはしゃぐ。
一方でトガは、極道と言われてもピンと来ないらしく、仲の良いMr.コンプレスに尋ねていた。
「私達と何が違う人でしょう?」
「よーし、中卒のトガちゃんにおじさんが教えてあげよう。昔は裏社会を取り仕切る恐ーい団体がたくさんあったんだ。でも、ヒーローが隆盛してからは摘発・解体が進みオールマイトの登場で時代を終えた。尻尾を掴まれなかった生き残りは、
トガが尋ねると、Mr.コンプレスが答える。
それに対してオーバーホールは、意外にも否定しなかった。
「まぁ、間違っちゃいない」
「それでその細々ライフの極道くんが何故ウチに? あなたもオールマイトが引退してハイになっちゃったタイプ?」
「いや…ヒーローよりもオールフォーワンの喪失が大きい。裏社会の全てを支配していたという闇の帝王…俺の時代じゃ都市伝説扱いだった。だが老人達は確信をもって畏れてた。死亡説が噂されても尚な。それが今回実体を現し…監獄へとブチ込まれた。つまり今は、日向も日陰も支配者がいない。じゃあ次は、誰が支配者になるか」
オーバーホールが言うと、死柄木は不機嫌そうに答える。
「……ウチの先生が誰か知ってて言ってんならそりゃ…挑発でもしてんのか? 次は俺だ。今も勢力を掻き集めてる。すぐに拡大していく。そしてその力で必ずこのヒーロー社会をドタマからブッ潰す」
すると、オーバーホールが死柄木に尋ねる。
「計画はあるのか?」
「計画? お前さっきから…仲間になりに来たんだよな?」
「計画のない目標は妄想と言う。妄想をプレゼンされてもこっちが困る。勢力を増やしてどうする? そもそもどう操っていく? どういう組織図を目指してる? ヒーロー殺しステインをはじめ、快楽殺人のマスキュラー、脱獄死刑囚ムーンフィッシュ、どれも駒として一級品だがすぐに落としてるな? 使い方がわからなかったか? イカレた人間十余人も操れないのに勢力拡大? コントロール出来ない力を集めて何になる。目標を達成するには計画がいる。そして俺には計画がある。今日は別に仲間に入れて欲しくて来たんじゃない」
「トゥワイス…ちゃんと意志確認してから連れて来い」
オーバーホールが言うと、死柄木はトゥワイスに文句を言った。
するとオーバーホールが提案してくる。
「計画の遂行に莫大な金が要る。時代遅れの小さなヤクザ者に投資しようなんて物好きはなかなかいなくてな。ただ名の膨れ上がったお前達がいれば話は別だ。俺の傘下に入れ。お前達を使ってみせよう。そして俺が次の支配者になる」
「帰れ」
オーバーホールの提案を死柄木は却下した。
マグネが布に包まれた巨大棒磁石を取り出して構えたその時、零が真っ先にナイフを片手に飛び出した。
「論外。手下にしてくれの間違いだろ?」
そう言って零がオーバーホール目掛けてナイフを振るうと、オーバーホールの頬に赤い線が走る。
するとオーバーホールは目を見開いて全身に蕁麻疹を発生させ、左手の指先で零の左腕に触れる。
だが零は左眼の“個性”を発動しているため、何も起こらなかった。
零は、そのままナイフでオーバーホールをさらに斬りつけようとする。
するとその時、零は左肩を何かで撃たれる。
「づ」
「触るな」
零は、肩を撃たれて一瞬目を瞑る。
するとオーバーホールは、蕁麻疹を発生させながらもその一瞬の隙に零の左腕に触れ、“個性”を発動した。
すると次の瞬間、零の左腕が消し飛ぶ。
「「「「!」」」」
それを見ていた5人が目を見開き、5人の目には吹き飛ばされて宙を舞う零の左腕が映った。
零は、腕を吹き飛ばされた激痛のあまり叫び声を上げる。
「いってえええええ!!?」
「先に手を出したのはお前らだ」
零がその場に尻餅をつくと、オーバーホールは他の連合メンバーを睨みつける。
目の前で零の腕が吹き飛ばされるのを見たトゥワイスとマグネは、零に駆け寄る。
「零!!」
「ゼロちゃん!!」
「クソ…んの鳥マスク野郎…!」
零は、トゥワイスとマグネに介抱されながらもオーバーホールに殺気を向けていた。
服に血が付いたオーバーホールは、不快そうに服を擦っていた。
「ああ汚いな…!! これだから嫌だ」
仲間の腕を吹き飛ばされたMr.コンプレスは、零の仇を取ろうと飛び出そうとした。
すると死柄木が後ろから呼びかけてMr.コンプレスを止める。
「待て、Mr」
「……クソッ…!」
死柄木がMr.コンプレスを止めると、Mr.コンプレスはオーバーホールを睨みながらも立ち止まる。
するとその直後、死柄木目掛けて弾丸のようなものが飛んできたため、死柄木は大きく後ろへ跳んで回避した。
「危ないところでしたよオーバーホール」
「なるほど───…ハナからそうしてりゃ幾分わかりやすかったぜ」
狙撃手の男が言うと、死柄木は不機嫌そうにぼやく。
すると、倉庫の壁を破壊してペストマスクの男達が現れる。
「待て、どこから!! 尾行はされてなかった!!」
「大方どいつかの“個性”だろう」
「遅い」
「一発外しちゃいやした…しかし即効性は十分でしたね」
オーバーホールの横に立つ男は、零を撃ったと思われる拳銃を持っていた。
「穏便に済ましたかったよ、
「てめぇ殺してやる!!!」
「あんた達…よくもゼロちゃんを!」
「弔くん、私刺せるよ。刺すね」
トゥワイス、マグネ、トガは、零の仇を討とうとする。
だが、死柄木は三人をを止めた。
「………駄目だ」
「責任取らせろ!!!」
「賢明だ、手だらけ男」
「すぐにとは言わないが、なるべく早めがいい。よく考えてみてくれ…自分達の組織とか色々…冷静になったら電話してくれ」
オーバーホールの部下達は撤収していき、オーバーホールも死柄木に名刺を投げて去っていった。
零は、血が滴る左肩を押さえながら息を整えていた。
「っく…ハァ、ハァ……」
「零、ごめん! 俺のせいで…!」
零は、右眼の“個性”を使って消し飛んだ腕を再生させる。
左腕を復活させた零は、トゥワイスの謝罪を他所にその手でガリガリと頭を掻きむしる。
「あー…クソ。こんなに不愉快な思いをしたのは久々だなぁ…! 覚えてろよ…!」
ミリオ先輩の“個性”ですが、原作の“個性”の疑問点を解消するため、オリジナル要素を盛り込んでいます。
え?地面にめり込んだままデクに話しかけてた?
そ、それは本作ではなかった事にさせていただくという事で…
『透過(仮)』
発動中はあらゆる物をすり抜ける。
物をすり抜けるという性質から『透過』という名前がついているが、実際は自身を立体映像化し投影する“個性”。
ある程度の密度を持った物体と重なり合った状態で“個性”を解除すると、自動的に身体が物体の外へ弾き出される。
厳密には透過ではなく自分を投影する“個性”なので、ある程度は重力や慣性などの物理法則に従って動く事ができる。