とある新聞社にて。
記者の一人が、涙ぐみながらオールマイトの映像を眺めていた。
「オールマイト…これが最後の戦いになるなんて…」
すると編集長の女性が、記者に注意をする。
「見入ってないで資料揃える」
「はい!」
編集長に尻を叩かれた記者は、慌てて記事を書き始める。
「ヒーローネーム『オールマイト』。天才デヴィット・シールドとコンビを組み、ワールドレベルで脚光を浴びる。日本に帰国後事務所を立ち上げ、不動のNo.1ヒーロー、平和の象徴として…「ダメダメ!」あっ…」
記者が記事を書いていると、編集長が別の記者にダメ出しをした。
「こんな当たり障りのない記事じゃ、誰もウチの本を買ってくれないわよ!? 今までにないスクープが必要なの! ただでさえオールマイトの引退特集号はウチが最後発」
「オールマイトの関係者は皆口が堅くて…」
「そこを何とかするの! オールマイトが最後に戦った
「警察が最重要機密にしてる案件です。
「ネタは貰うんじゃない。取るの。取りに行くの!」
記者が事情を説明すると、編集長は記者に説教をした。
すると何者かが編集部に入ってくる。
「おやおや、編集長に怒った顔は似合いません。せっかくの美人が台無しです」
そう言って笑みを浮かべる痩せぎすの男は、フリー記者の特田種男という男だった。
「あら、タネちゃん久しぶり!」
「編集長、いいネタがあるんですが」
特田は、編集長に歩み寄るとウインクをしながら言った。
その後特田は、会議室で持ってきたネタについて話をした。
特田は、大画面のパソコンにオールマイトの映像を流す。
『次は…君だ』
オールマイトがカメラに向かってそう言ったところで映像を止め、特田は編集長に尋ねる。
「この言葉、どういう意味だと思います?」
「“黒幕は倒した、次は君だ”。つまり
「それにしては言い方が優しすぎませんか? “次は貴様らの番だ! ”…くらい言ってもおかしくない」
特田は、映像の中のオールマイトのように指を差しながら言った。
すると編集長が尋ねる。
「何が言いたいの?」
「4ヶ月前、唐突に雄英高校の教師となったオールマイトはヒーローとして限界を迎えていた。そんな彼が”次は君だ”というメッセージを残したのです」
「それって…」
「そう。オールマイトは自分の代わりとなる次世代のヒーローを雄英生の中から探そうとしていた。いえ…最後の言葉から察するに、既にその人物を決めていた」
特田が言うと、編集長はフッと笑いながら尋ねる。
「フフッ、タネちゃんならそれが誰かも掴んでるんじゃない?」
「最初は雄英ビッグ3のひとり、3年の通形くんが本命でした。彼は、かつてオールマイトのサイドキックをしていたサーナイトアイの事務所にも出入りしています」
「大本命じゃない」
「ですが、オールマイトはサーナイトアイと袂を分かっているらしいんです。2人が接触したという情報もありません」
「カモフラージュしてるとか?」
「かもしれませんが、私は別の線を考えてます。オールマイトは雄英1年A組の教育に特に力を入れていると聞きました」
「1年A組…その中にオールマイトの後を継ぐ者が…」
「私はいると踏んでいます」
編集長が言うと、特田は鋭い目つきをしながら言った。
だが特田は、左手首をプラプラと振りながら続ける。
「とはいえ、雄英は
「わかったわ。それはウチで何とかする。ただし…」
「当然、スクープは御社にのみ提供します。高く買って下さいね」
編集長が了承し念を押すように言うと、特田はウインクをしながら取引を交わした。
◇◇◇
その後、A組の寮では。
「「「取材!!?」」」
「ああ。お前たちに新聞社の取材が入る」
A組が驚きながら尋ねると、相澤が答える。
すると麗日が緑谷に話しかける。
「凄いねデクくん!」
「う…うん…」
麗日が緑谷に近づいて言うと、緑谷は緊張のあまり顔を赤くして目を泳がせる。
「何か照れるな」
「何でだよ」
「体育祭、全国中継されてたでしょ」
上鳴が言うと切島と尾白がツッコミを入れる。
すると葉隠が芦戸に話しかける。
「三奈ちゃん! 取材だよ取材! おめかししなきゃ!」
「だよね!」
「葉隠はする必要ないんじゃ…」
葉隠と芦戸が話していると、耳郎がツッコミを入れた。
ひなたも、触角をウキウキさせて隣にいた心操に話しかける。
「ひー君!! 取材だって! 凄いねえ! 僕もおめかししなきゃだ!」
「ひなたは今のままでも可愛いよ」
「やーんもうやめてよ恥ずかしいー!!」
(((バカップル…)))
心操が首を手で押さえながら言うと、ひなたは顔を赤くしながら左手で左頬を覆いながら右腕をブンブン振る。
それを見ていたクラスメイトは、心の中でツッコミを入れた。
すると相澤が注意をする。
「浮かれるな」
「「「シーン…」」」
相澤の睨みで生徒達が静かになると、相澤が話し始める。
「取材内容は”寮生活を始めた生徒達の暮らしをレポートする”、だそうだ。お前達が元気に生活している方を保護者の方々にも知ってもらおうと考えた校長が特別に許可を出した。だから…」
相澤が話している途中、峰田が隣にいた瀬呂に話しかける。
「取材に来るのは女かな? 女かな? 女子アナ?」
「新聞社だっての」
峰田が尋ねると、瀬呂がツッコミを入れる。
すると峰田は血眼になって涎を垂らしながら下品な話をし始める。
「よくよく考えたら女子アナってすげぇネーミングだよな。女子の…」
性犯罪者の目つきをしながら下ネタを言う峰田に、ひなたは鼻をつまみながら汚物を見るような視線を向けていた。
すると相澤が捕縛武器で峰田を縛り上げる。
「だからそういう真似を絶対にするな」
「んっ、んん…!」
相澤は、峰田を捕縛し“個性”を発動しながら釘を刺した。
すると特田が割り込んでくる。
「そういうのやめましょう。相澤先生」
「ん?」
「私は寮生活をしている雄英生の生の姿を取材したいんです」
「特田さん、まだ入っていいとは…」
「取材は午前8時から午後6時まで。もう始まってますよ」
そう言って特田は、腕時計を指差しながら笑顔を浮かべる。
すると相澤は、峰田の捕縛を解いた。
「皆さん、記者の特田です。今日は一日よろしくお願いします」
「「「お願いします!!」」」
特田が挨拶をすると、A組は一斉に頭を下げる。
「特別何かをしていただく必要はありません。皆さんがいつも送っている生活の様子をカメラに収めさせてください。たまに質問するかもしれませんがその時はよろしく」
「わあ! 爽やかイケメンだ!」
「ねー! 眼福〜!」
「………」
特田が笑顔を浮かべると、芦戸がキャイキャイはしゃぐ。
ひなたも両手で頬を覆ってはしゃぐと、心操が冷ややかな視線をひなたに向けてきたので、ひなたは咄嗟に目を逸らした。
一方で峰田は、取材に来たのが女子アナではなく、しかもイケメンだったので不満そうにしていた。
「女じゃねえのかよ「黙れ」
失礼な発言をする峰田に対し、ひなたがギロリと睨みつける。
一方で青山は、決めポーズをしながらため息をついていた。
「困っちゃうね。僕は常日頃輝いてるから格好の被写体になっちゃうよね」
「凄えな青山…」
平常運転な青山に対し、砂藤は呆れていた。
特田は、念を押すように相澤に頼み事をする。
「校長先生から伺っているとは思いますが取材への干渉はどうかご遠慮ください。私は…「分かってます。何かあれば連絡をください」
特田が言うと、相澤は手を挙げて特田の話を遮って話を切り上げる。
すると特田は、何か思惑がありそうな目をしながら言った。
「何もありはしませんよ。1年A組の皆さんは将来有望なヒーロー候補じゃないですか」
特田が言うと、相澤は飯田に指示を出す。
「飯田、問題があったらすぐに連絡しろ。いいな?」
「分かりました! この飯田天哉、1年A組学級委員長としての責務を全うする所存!」
相澤が指示を出すと、飯田はピシッと直立して返事をした。
すると特田が飯田に尋ねる。
「それじゃあえっと…皆さんこれから何を?」
「朝食です!」
「そんなに緊張しないで。私はいないものと思って…」
飯田がピシッと直立して堅苦しい口調で言うと、特田は笑顔を浮かべながら言った。
その後、A組は朝食の時間となった。
「んまぁ〜! サルミアッキサンドイッチ!」
「………」
「僕ってば今日も輝いてる☆」
「何勝手に取っとんじゃクソが!!」
「「ダメだこりゃ…」」
A組が普段通り朝食を食べている様子を特田が写真に収めたのだが、ひなたが自家製サルミアッキジャムを塗りたくったパンにハムとスライスチーズと野菜を挟んで作ったサルミアッキサンドイッチを幸せそうな顔をしながら食べていたり、轟が茶を飲んでいるところを撮ろうとしたところ青山が決めポーズをしながら割り込んできたり、爆豪が焼き魚を食べているところを撮ろうとしたところ爆豪がブチ切れパパッと朝食を済ませて去っていってしまったりなど、ツッコミどころがありすぎて切島と上鳴はため息をついていた。
「あら猫ちゃん可愛いわ」
「そうだ、この子の名前『うどん』にしよ! 白いから!」
「ええ…」
その後は制服に着替え、校舎に向かった。
その途中で蛙吹とひなたが白猫を見つけ、白猫がひなたの足にすり寄ってくると、ひなたは白いからという理由で『うどん』と勝手に命名していた。
「ここわかる人! じゃあ…相澤さん!」
「はい!」
「アハ☆」
「ふわぁ〜…」
その後は午前中の授業の時間となった。
ミッドナイトの近代ヒーロー美術史の授業中に特田がスクープに入り、ひなたが真面目に授業を受けている後ろで青山が特田に向かって決めポーズをしていたり芦戸があくびをしていたりしていた。
「んーまぁ! 辛味噌坦々麺!」
「ひなた口汚れてる」
「えっ嘘!?」
その後はセメントスの現代文の授業が行われ、その後昼休みとなった。
ひなたが食堂で坦々麺を食べていると、スープで口元が汚れたので、隣に座っていた心操がナプキンで拭った。
その様子を特田がカメラに収めると、それに気付いたひなたが耳まで真っ赤にして狼狽える。
「イェイ!」
「また腕上げたね相澤さん」
午後はヒーロー基礎学の演習授業が行われ、ひなたがセメントスのセメントを新技で破壊しピースサインをすると、その様子を特田がカメラに収める。
「うわ、雨」
「ウチ傘持ってないよー」
「あの、よろしければこれをお使いください」
「あ、ありがとう」
「ヤオモモー! 僕も傘忘れた!」
演習授業の後寮に戻る頃にはポツポツと雨が降っており、傘を忘れた生徒は八百万に傘を創ってもらって寮へと戻っていった(ちなみにひなたも傘を忘れたので八百万に頼み込んで傘を創ってもらっていた)。
出席番号1番 相澤ひなた
イレイザーヘッドの一人娘。特殊な声で相手の“個性”を抹消する“個性”
出席番号2番 青山優雅
腹からレーザーを出す“個性”
出席番号3番 芦戸三奈
身体から何でも溶かす酸を出す“個性”
出席番号4番 蛙吹梅雨
蛙と同じ特性を持つ“個性”
出席番号5番 飯田天哉
飯田ファミリーの次男坊。高速に移動できる“個性”
出席番号6番 麗日お茶子
触れたものを無重力にする“個性”
出席番号7番 尾白猿夫
尻尾を手足のように操れる“個性”
出席番号8番 上鳴電気
電気を身体に溜め放出できる“個性”
出席番号9番 切島鋭児郎
全身を硬くする“個性”
出席番号10番 砂藤力動
糖分を力に変える“個性”
出席番号11番 障子目蔵
目や口、耳を腕に複製できる“個性”
出席番号12番 耳郎響香
耳にあるプラグで小さな音を聞いたり、逆に大音量を放出したりできる“個性”
出席番号13番 心操人使
呼びかけに応じた者を洗脳する“個性”
出席番号14番 瀬呂範太
肘からテープを出す“個性”
出席番号15番 常闇踏陰
出席番号16番 轟焦凍
右から氷、左から炎を出す“個性”
出席番号17番 葉隠透
透明になる“個性”
出席番号18番 爆豪勝己
掌の汗を爆発させる“個性”
出席番号19番 緑谷出久
身体能力をパワーアップさせる“個性”
出席番号20番 峰田実
どんなものでもくっつける物質を投げる“個性”
出席番号21番 八百万百
身体から物を創り出す“個性”
『1年A組の生徒は21人。取材許可は下りたけど、どうやって調べる気?』
編集長が電話越しに尋ねると、特田が答える。
「オールマイトが選んだ候補となれば、必然的に対象は絞られます。例えば、体育祭の決勝トーナメントに残ったA組の8人。彼等に絞って探ってみます」
特田は、ひなた、芦戸、飯田、切島、常闇、轟、爆豪、緑谷の7人の中にオールマイトの後継がいると踏んでいた。
特田は、8人の写真が表示されたパソコンの画面を眺めながら考え込む。
(とは言え、最初から目星は付けていた。簡単な消去法。爆豪勝己は能力はプロヒーローのレベルに達しているが、中学時代オールマイトを超えると公言していた事からも彼の後を継ぐとは考えにくい。体育祭3位の轟焦凍も除外対象。何しろ父親がNo.2ヒーローのエンデヴァーだ。息子を彼の後釜に差し出すとは思えない)
爆豪と轟をオールマイトの後継者候補から外した特田は、次にひなたと心操に目を向ける。
二人は、自主トレの真っ最中だった。
「ん、だいぶ“個性”の使い方にも幅利かせられるようになってきたね!」
「お陰様でな」
二人のやり取りを横目で見ていた特田は、ひなたがオールマイトの後継者かどうかを見極めていた。
(体育祭準優勝の相澤ひなたも除外。彼女はオールマイトよりもむしろ父親のイレイザーヘッドを尊敬している。戦闘スタイルやコスチュームにもそれがよく表れている。相澤ひなたがオールマイトの後継である可能性は低い)
そしてその頃、常闇は障子と将棋をしていた。
「王手飛車取り」
常闇が駒を打つと、障子は左手で顔を覆う。
特田は、その様子を見ながらオールマイトの後継について考えていた。
(残るは3位の常闇踏陰か、インゲニウムの弟の飯田天哉か…或いは切島鋭児郞か、芦戸三奈…いや、数々のスクープをモノにしてきた私の勘が告げている。緑谷出久…彼がオールマイトの…平和の象徴を継ぐ者だと)
その頃緑谷は、寮の前でトレーニングをしていた。
するとビニール袋を持ったオールマイトが話しかけてくる。
「よっ」
「オールマイト!」
オールマイトに話しかけられた緑谷は、笑顔を浮かべる。
「どうしたんですか? オールマイト」
「実はさっきまで病院で定期検診を受けていたんだけど、朝からずっと検査だったから小腹が空いちゃってね。そしたら…」
オールマイトがコンビニに寄ったところ、店員が感激して涙を流しながらオールマイトに『オールマイト! あんたには散々世話になった! この国の人間として礼を言わせてくれ! 肉まんが欲しいんだろ!? いいから全部持ってってくれ! うまいから! 雨も降ってきたから傘も持ってってくれ! 防ぐから雨!』と告げて大量の肉まんとビニール傘を差し出してきたのだ。
「WAO!」
オールマイトは、そう言って肉まんを食べながら話を続ける。
「というわけでね、クラスのみんなにお裾分けだ」
オールマイトは、話しながら袋を差し出してきた。
袋の中身は大量の肉まんだった。
すると緑谷は笑顔を浮かべながら話し始める。
「さすがオールマイト。大人気だ。当然ですよね。オールマイトはNo.1ヒーロー。ずっと人々を守り、凶悪な
緑谷が言うと、オールマイトは緑谷の肩に手を置く。
「次は君の…いや、君達の番だ」
「はい」
「明日からはまたビシビシ鍛えるからな」
「よろしくお願いします!」
その後、オールマイトは教師寮へと向かっていった。
その頃にはすっかり雨は止んでいた。
すると突然、緑谷の後ろから特田が話しかけてくる。
「偉いね。夕食前も自主練かい?」
「えっ、あっ、はい」
特田が尋ねると、緑谷が答える。
すると特田は、鼻を鳴らしながら呟く。
「いい匂いがする」
「肉まんなんですけど、食べますか?」
「ぜひ!」
緑谷が肉まんを勧めると、特田は笑顔を浮かべた。
特田は、肉まんを食べながら緑谷と話をする。
「へえ! 特田さんもオールマイトのファンなんですか」
「僕らの世代でオールマイトのファンじゃないヤツがいたら、そいつはモグリだよ。眩しいほどにカッコよくてそして強かった。覚えてるかな? 18年前に起きた塚城のコンビナート爆発事故」
「もちろん知ってます! 事故に巻き込まれた24人の作業員をオールマイトが全員無事に助けたんですよね!」
「その中にね、私の父親がいたんだ」
「えっ」
特田が言うと、緑谷は僅かに目を見開く。
すると特田が話し始める。
「レスキュー隊も二の足を踏むような大惨事だった。それでも…」
それでも、オールマイトは従業員を助けたのだ。
オールマイトの腕には、特田の父親が抱えられていた。
それを見た幼い頃の特田は、涙を流して父親の名前を叫びながら手を伸ばした。
「無意識にカメラを向けた。その時の写真が新聞に載ったんだ。私は家族を助けられただけでなく、自分の人生にまで光を当ててもらった。感謝してもしきれない」
「そうだったんですか…」
「だからオールマイトの引退は本当に衝撃を受けた。平和の象徴を失ってしまった超人社会が、今後どうなっていくのか」
特田が言うと、緑谷は頷いた。
漠然とした不安が、ジワジワと社会を侵食し始めていた。
それは特田も決して例外ではなかったのだ。
特田の話を聞いた緑谷は、オールマイトのような皆を安心させるヒーローになる為に努力しようと心に決めた。
すると特田が話しかけてくる。
「緑谷くん」
「はいっ?」
「希望はあったよ」
「えっ?」
特田の言葉に緑谷が疑問符を浮かべていると、特田は一枚の写真を差し出してくる。
その写真には、緑谷の肩に手を置くオールマイトの姿が写っていた。
「次は君だ」
「ええっ!? 写真!? えっ、カメラも無いのに!? プリントアウトまで…」
特田が写真を渡すと、緑谷は目を丸くして驚いた。
どう考えても、写真を撮ってそれを現像する時間があったとは思えなかった。
すると特田が話し始める。
「旅行でスナップを撮ることくらいしかできない“個性”だと思ってたんだけどね」
そう言って特田が右手の掌を見せると、掌からカメラのレンズが生えた。
「カメラの…レンズ?」
緑谷がパチパチと瞬きをしていると、特田の左腕からもいくつかのカメラレンズが生える。
「えっ!?」
「どこからでも出せるよ」
そう言って特田は、右脛や左頬からもレンズを生やして笑顔を浮かべた。
フリー記者 特田種男
“個性”『全身レンズ』
身体の至る所からレンズを出して撮影!
しかも胸からプリントアウトまで出来る!
これならスクープ取り放題!!
「神野事件でオールマイトが最後に贈った言葉、その相手はやっぱり緑谷くんだった。調べていくうちに類似点が多いのを感じた。発現した“個性”がパワー系な事。中学時代、
「あ…」
特田が言うと、緑谷は僅かに目を見開く。
すると特田は話を続ける。
「プッシーキャッツの事務所にも行ってきてね。洸汰くんとも会ってきた」
「洸汰くんと?」
「それで憶測が確信に変わったんだ。君がオールマイトの後を継ぐ者だと」
「…!」
特田が笑顔を浮かべながら言うと、緑谷は目を見開いた。
すると特田が尋ねる。
「どうかな? 私の推理は」
「え、あの…あっ、その…」
特田が尋ねると、緑谷は指と指をチョンチョン突いて誤魔化そうとする。
すると特田は、笑顔を浮かべながら言った。
「嘘はつけないか。いいね。とてもヒーローしてる」
「え?」
特田が笑顔で言うと、緑谷は特田の方を振り向いた。
◇◇◇
一方その頃、寮内の談話スペースでは。
ひなたと心操は、相変わらず自主練をしていた。
すると八百万が声をかけてくる。
「皆さん、そろそろ夕食の時間ですわ」
「急いで集まるように!」
「ケロ?」
八百万と飯田が呼びかけると、蛙吹はソファーから立ち上がりながら隣に座っていた麗日に声をかけた。
「行きましょう、お茶子ちゃん」
「デクくんまた自主練かな?」
緑谷の様子が気になった麗日は、窓の外を眺める。
すると特田と話している緑谷を発見した。
「あ…何話してるんだろ」
その頃、緑谷と特田はというと。
緑谷は、特田にオールマイトとの秘密の核心を突くような事を聞かれて戸惑っていた。
「あ、あの、僕…」
「心配しなくていいよ。裏が取れてない憶測で記事を書くつもりはないから。悪いのは“雄英生の寮生活レポート”、なんて嘘の取材でここに来た私だ」
「えっ」
特田が白状すると、緑谷が驚く。
すると特田は、緑谷に謝罪をした。
「本当にすまなかった。でもどうしても知りたかった。希望が失われていない事を」
「特田さん…」
「これで社会に不安を抱く人々へまやかしの励ましなんかじゃなく、オールマイトが引退しても希望はあるのだと胸を張って報道できる」
そう言って特田は、緑谷に手を差し伸べる。
「嫌な思いをさせてしまってすまない。でも…」
「?」
「ありがとう」
「いえ」
特田が礼を言うと、緑谷は笑顔を浮かべながら特田の手を取った。
「それと…」
「えっ?」
特田は、手からレンズを生やすと緑谷の手を掴み、緑谷の身体を抱き寄せた。
それを窓越しに見ていた麗日は、目を丸くして顔を真っ赤にしていた。
特田は、左手から生やしたレンズで緑谷を抱き寄せている写真を撮った。
それを見ていた麗日は、顔を窓に押しつけて二人を凝視する。
「な、なんなん!?」
「どうしたのあいつ」
「さ、さあ…」
窓に顔を押し付ける麗日を見つけた心操は、先に麗日を見つけキョトンとしていた八百万に尋ねる。
一方、特田はというと。
特田は、緑谷に背を向けてその場から立ち去っていく。
「この写真、私の身体の中で大切にしまっておくよ。君の本を出版する時まで。写真のタイトルはそうだな…“新たな平和の象徴の若かりし頃”、なんてどうかな?」
特田が立ち止まって緑谷の方を振り向きながら言うと、緑谷は笑顔を浮かべる。
「そうなれるよう精一杯努力します!」
「頑張れよ、ヒーロー」
「はい!」
特田は、前を向き直すと緑谷に軽く手を振って去っていった。
緑谷は、特田の背中に向かって直角に頭を下げて返事をした。
特田は、取材の終了時間だと言ってひなた達に挨拶もせずに帰っていった。
特田の思いを聞いた緑谷は、受け継いだものの大きさを改めて感じていた。
すると麗日が寮から出てきて緑谷に声をかける。
「デクくん! 夕食の時間」
「あ、ごめん。今行くから」
「デクくん、さっき記者さんと何を話してたん?」
「あ、えっと…それは、その…」
麗日に尋ねられた緑谷が誤魔化そうとすると、麗日はすんすんと鼻を鳴らす。
「お肉の匂いがする…」
「えっ? あっ、さっきオールマイトから差し入れ貰ったんだ。みんなで食べてって」
そう言って緑谷は、オールマイトから貰った肉まんの入ったビニール袋を麗日に渡した。
「何?」
「肉まん」
「肉まん! 早くみんなに持ってかんと冷めてまう!」
「そうだね」
「皆肉まん! オールマイトからの差し入れだって!」
「「「「あざ━━━っす!!」」」」
麗日が言うと、生徒達は声を揃えてオールマイトに礼を言った。
その後ひなた達は、オールマイトからの差し入れの肉まんを食べた。
「ん〜〜〜まあ! にくまんにくまん」
ひなたは、幸せそうな表情を浮かべながら肉まんを頬張っていた。
頬に肉まんを詰めている様子は、ひなた自身の小柄さも相まってまるでハムスターのようだった。
すると、心操が緑谷に話しかける。
「緑谷、特田さんは?」
「ああ…もう時間だって言って帰っちゃった」
「そっか…」
「何も言わずに帰らんでも…お礼言いたかったのに」
緑谷と心操が話していると、ひなたが触角をフリフリと振りながら言った。
◇◇◇
翌日。
重工新聞社では。
「おかえりー! タネちゃん! どうだった? オールマイトの後釜が誰だか分かった!?」
編集長は、目を輝かせながら特田に詰め寄る。
その背後では、記者二人が目を輝かせて頷いていた。
だが…
「すみません」
「えっ?」
「どうやら私の早とちりだったようです」
「え〜…ムダ骨〜?」
特田が申し訳なさそうに謝ると、編集長は落胆し記者二人もため息をついて机に突っ伏した。
「あの取材許可貰うのに結構な根回ししたのよー!」
「申し訳ありません編集長…!」
編集長が子供のように駄々をこねると、特田が頭を下げて謝る。
「お詫びと言っては何ですが、別のスクープをモノにしてきました。肉まんを買い食いしているオールマイトです」
そう言って特田が肉まんを食べているオールマイトの写真を差し出すと、編集長は目を輝かせる。
「いい! 可愛い! でかしたわ! 流石タネちゃん! スクープの申し子!」
「恐縮です」
特田は笑顔を浮かべつつ、記事のネタにしてしまった事を心の中でオールマイトに詫びていた。
◇◇◇
その頃、雄英の職員室では。
「へっくしっ!!」
オールマイトが、突然大きなくしゃみをする。
すると相澤が話しかける。
「夏風邪ですか? うつさないでくださいよ」
「うん、分かってる…」
オールマイトは、ティッシュで鼻をかむと茶目っ気のある笑顔を浮かべた。
「ごめんね」