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窃野、宝生、多部の三人を倒した天喰は、三人をタコの触腕で拘束した。
「毒を仕込ませてもらった。死には至らんが…しばらくは満足に歩けもしないだろう。あとマスク、外しとくよ…何仕込んでるかわかったもんじゃない」
そう言って天喰が他のヒーロー達の元へ向かおうとすると、傷つきすぎたせいか倒れてしまう。
◇◇◇
時は遡り、突入直後。
治崎は、エリを抱えたクロノスタシスと一緒に地下道を歩いていた。
「騒がしいな…ちゃんと役に立ってるのかあいつらは…」
「言いたかないですが… 八斎會は終わりですね」
「組長と俺さえいれば八斎會は死なない。殆どの子分は組長派で俺の考えについて来やしない。俺こそが誰よりも組長の意志を尊重しているのにな……この完成品と…血清さえあれば、極道を再び返り咲かせる事ができる。今回の件も好事家にとっちゃいい話のネタになる。『ヒーローが恐れる薬』、奴等の好む響きだ。喜んで出資してくるさ。というわけで、少しは働け出向組」
治崎は、地下道にいたトガとトゥワイスに声をかけた。
「はーい」
「任せとけオーバーホール」
◇◇◇
一方で、他のヒーローと分断されてしまったひなたと心操はというと。
「クッソ、一足遅かった…!」
ひなたは、入中の“個性”を消す事で地下の迷宮を元に戻した。
だが“個性”を発動させるタイミングがコンマ数秒遅く、他のヒーロー達と分断されてしまい、おまけに入中にも逃げられてしまった。
唯一ひなたに助け出された心操は、ひなたと一緒に上の階に残っていた。
「助かった、ひな…」
心操は、咄嗟に自分を助け出してくれたひなたに礼を言おうとする。
だが心操は、咄嗟にひなたにしがみついた時にひなたの胸に触れてしまい、それに気付いた心操は咄嗟に手を離す。
「あ、ご、ごめん」
「う、ううん大丈夫…」
心操が謝ると、ひなたは顔を赤くしながら首を横に振った。
「とりあえず、今は皆と合流しよう。ひなた、皆がどこにいるかわかるか」
「ん、やってみる」
ひなたは、超音波を使って全員の居場所を探し出した。
「天喰先輩が真下で交戦中。その他の皆は、少しずつ上の階に登ってる」
「よし…行こう」
二人が緑谷達と合流しようとした、その時だった。
突然、ひなたの方へナイフが投げつけられる。
ひなたは、死角から投げつけられたナイフを捕縛武器でキャッチすると、ナイフが投げつけられた方向へ爆音攻撃を放つ。
『わ!!!』
「ぎゃ!!」
ひなたが爆音攻撃を放つと、トガの身体が泥のように弾け飛ぶ。
すると今度は、大柄な男、乱波がひなたの背後から現れ、拳を振りかぶってくる。
“個性”の波長を感知したひなたは、ノールックで捕縛武器の突きを放つ。
すると乱波の顔は、捕縛武器で貫かれ、泥のように溶ける。
「分身…! 分倍河原の“個性”か…!」
「多分ね! ひー君、悪いけどこの階に取り残された警官隊の皆さんをお連れしてきて」
「! けど…」
「こいつらを洗脳したところで無駄だよ。それに今、この屋敷の構造を正確に把握できるのは僕達しかいない! 早く!」
「…ああ!」
ひなたが言うと、心操は応援を呼びに行く。
ひなたは、索敵能力でトゥワイスを探そうとする。
だがその直後、今度は零が現れる。
零は、ひなたが“個性”を発動するより早く、青い目を光らせて“個性”を発動させる。
すると零の“個性”を喰らったひなたは、幻覚によって前のめりに倒れ込む。
「あーあ、あっけないな」
零は、倒れたひなたを幻覚で操ろうとする。
だがその直後、ひなたの捕縛武器がビュルッと飛び出し、零に襲いかかる。
零は、身体を翻して捕縛武器を避け、ナイフを抜く。
「っぶな…! 防御してなかったら操られてた」
ひなたは、トゥワイスを索敵の“個性”で探し出し、音波攻撃を仕掛けようと試みる。
だがそうはさせまいと、零がナイフで攻撃を繰り出してくる。
ひなたは、まずは零を音波攻撃で気絶させようと試みる。
だが零は、左眼の“個性”でひなたの“個性”を無力化し、ナイフで斬りかかってくる。
ひなたは、捕縛武器を操って零のナイフをいなしつつ、捕縛武器の先を鋭利な刃物に変えて零に攻撃を仕掛ける。
零は、化け物じみた身体能力でひなたの捕縛武器をナイフで全て防ぎ、追撃を放ってくる。
するとひなたは、相撲の張り手のように手を前に出してあえて零のナイフを受け、零のナイフを奪う。
常人なら激痛が走り出血は免れなかったが、ひなた程になれば血管や神経を避けて自ら刺されに行く事も可能だった。
零が一瞬動きを止めると、その隙にありったけの声を浴びせ、ついでに両脚で零の顔面にドロップキックを放つ。
すると零の顔はドロっと溶けた。
邪魔者がいなくなると、ひなたはトゥワイスのいる方向に向かって爆音攻撃を放つ。
だが爆音攻撃を受けたトゥワイスは、泥のように溶けた。
ひなたの知っている情報では、トゥワイスは自分の分身は生み出せないはずだった。
だがいつの間にかその弱点を克服していたのか、トゥワイスは自分の分身を生み出せるようになっていた。
「…あー、コレキリないな」
トゥワイスが自分の分身を生み出している事を悟ったひなたは、苦笑いを浮かべる。
自分の分身を生み出せるのなら、ここに留まっている理由はない。
おそらく、ここに連合の本体はいない。
下手したら、ひなたの索敵範囲にいない可能性すらある。
ひなたがそれを悟った直後、ひなたの目の前には連合のメンバーが勢揃いする。
零が一斉に襲いかかってくると、ひなたはビキッと額に青筋を浮かせ、同じクラスの誰かさんのような凶悪な表情を浮かべる。
「しゃらくせえなあ!!!」
数分後。
ようやく全ての分身を倒したひなたは、肩で息をする。
分身を全て倒しても、次が来ない。
おそらく、自分を増やせるようになったトゥワイスにも、増やせる数には制限があったのだ。
「はあっ、はあっ…梃子摺らせやがって」
するとその時、心操が警官隊を連れて戻ってくる。
「おーい、ひなた!」
「ひー君!」
警察が駆けつけてきて事情を尋ねると、ひなたは先程あった事を警察に話した。
「すみません、翻弄されっぱなしで油断しっぱなしで…」
「君達は十分やってくれたよ。むしろ我々大人の不手際で危険な目に遭わせて申し訳ない」
「いえ、そんな…とりあえず、皆さんご無事そうで何よりです。では、僕はこれで」
ひなたは、警官の数がきちんと合っている事を確認すると、緑谷達と合流する為出発しようとする。
すると、警官の一人が後ろからひなたを止めた。
「待て! どこに行く気だ!?」
「もちろん、皆と合流します。きっと今頃、入中が皆の所に戻って妨害をしてるはずです。だから行かなきゃ…奴を索敵で探し出して無力化できるのは僕だけですから」
「だが君達は…!」
『まだ学生だから敵地の奥深くまで潜り込む必要はない』、警官の一人がそう言おうとしたその時だった。
ひなたは、髪を逆立てて大音量で叫ぶ。
すると、グニャグニャに歪んでいた地下通路が元の形を取り戻した。
「な…!? 地下が、元に戻って…!?」
「下の階へのルートは確保しておきました。下の階に天喰先輩…サンイーターがいます。
ひなたは、そう言い残すと心操と一緒に奥へと進んでいった。
◇◇◇
一方、時は少し遡り、緑谷達は地下道を走っていた。
「先輩…大丈夫かな…やっぱ気になっちまう」
「うん…」
切島と緑谷が天喰を心配していると、ファットガムも、後ろで二人の会話を聞いて呆れ返っていた。
(後輩からの信頼ゼロやな…!! まー口で言うてもな…あいつ小っさいとこばっか見せとるからしゃあない)
「ただ!!」
ファットガムがいきなり叫ぶと、緑谷達はビクッと肩を跳ね上がらせる。
「背中預けたら信じて任せるのが男の筋やで!!!」
「先輩なら大丈夫だぜ!!」
「逆に流されやすい人っぽい」
ファットガムが大声で喝を入れると切島はあっさり流され、緑谷がツッコミを入れる。
「心配だが信じるしかねえ!!」
「サンイーターが作ってくれた時間! 一秒も無駄に出来ん!」
切島とファットガムが燃え上がっていると、他のヒーロー達があまりの暑苦しさに参っていた。
「上に戻ろう。クレシェンドとヒトシが上にいるはずだ」
「あの階段やな!」
ナイトアイが言い、ファットガムは目の前にある階段を登ろうとする。
すると、ふとイレイザーヘッドが口を開く。
「地下を動かす奴が何の動きも見せて来ないのは変だ」
「そういえば…グネグネしません!」
「何の障害もなく走ってるこのタイミングで邪魔をして来ないとなると…地下全体を正確に把握し動かせるわけではないのかもな。サンイーターに、上に残ったクレシェンド達もいる。もしかするとそちらに…意識を向けているのかもな」
イレイザーヘッドが考察していると、ロックロックが尋ねる。
「把握できる範囲は限定されていると?」
「あくまで予測です。奴は地下に“入り込んで操っている”。同化したわけじゃなく壁面内を動き回って“見たり”“聞いたり”してるとしたら、邪魔をしようと地下を操作する時本体が近くにいる可能性がある」
◇◇◇
その頃、バブルガールの方はというと。
「まさか総出で妨害してくるなんて…大人しくしていればよかったのに…正気とは思えない」
バブルガールは、センチピーダーと共に屋敷の中にいた組員を拘束していた。
すると組員の一人が答える。
「正気さ。今捕まりに行ってる奴は皆正気だよ。大人しくしてたら…オーバーホールに命奪られちまうからよ」
「…オーバー…治崎の事ね」
「ああそうさ。組長が倒れて実権を握り始めてから使うようになった名だ。組長は昔気質の極道を重んじた。この時代にあって、極道が生きる道を模索していた。
「おい…」
バブルガールの質問に対し、組員は愚痴を零す。
すると他の組員が愚痴をやめさせた。
バブルガールは、組員達の様子を見て怪訝そうに尋ねる。
「…嫌ってる割に、彼が捕まるとは思ってないんですね」
「ああ…! いいか、正気じゃねェってのは後先考えねェ人間の事だ。そういう人間はな…強えんだよ」
バブルガールが尋ねると、組員が答える。
その目は治崎の事を心底嫌っていたが、それと同時に畏れている目だった。
◇◇◇
一方、緑谷達の方はというと。
突然壁から巨大な手のようなものが伸びてきて、イレイザーヘッドに襲い掛かる。
「イレイザー!!」
緑谷と切島は、イレイザーヘッドの方へ駆けつけようとする。
だが巨大な手は、イレイザーヘッドをそのまま壁に開いた巨大な穴の中へと追いやろうとする。
入中は、“個性”を消せるイレイザーヘッドを確実に分断する気だったのだ。
するとファットガムが飛び出し、イレイザーヘッドを突き飛ばした。
「ファット!! すまない!」
「気にすんな!!!」
ファットガムは、そのまま反対側の壁に空いた穴へと叩き込まれた。
そしてそのまま通路の中をゴロゴロと転がっていき、暗い広間へと放り出される。
「ん゛〜〜〜…!!」
ファットガムは、腹の下から声がする事に気がつく。
ふと下を見ると、切島が挟まっていた。
「ぷはっ!!」
「雛か!!! 何しとん!?」
ファットガムの腹から出てきた切島に、ファットガムが思わずツッコミを入れる。
すると切島が説明する。
「俺も先生庇おうとして飛び出しました。俺ならダメージねェと思って……!! そしたらファットに沈んじまって…」
「まァしゃーないわ!! それより気ィ張っとけ……」
ファットガムがそう呟きながら周囲を警戒していると、ズン、と重い音が地下に鳴り響く。
するとその直後、ペストマスクとガントレットを装着した巨漢が拳を振りかぶってくる。
切島は、咄嗟に『
その直後、巨漢が二人にラッシュを叩き込んできた。
「俺は思うんだ。ケンカに銃や刃物は不粋だって。持ってたら誰でも勝てる、そういうのはケンカじゃない。その身に宿した力だけで殺し合うのが良いんだ。……わかるかな」
「
巨漢が語りかけると、ファットガムは咄嗟に切島の方を振り向く。
切島は壁に叩きつけられ、壁には巨大なクレーターができていた。
「はっ!! はっ!!」
切島は、息を切らしながら立ち上がる。
巨漢の機関銃のようなラッシュを両腕で防いだ切島は、両腕の硬化した皮膚が剥がれて血が流れていた。
するとファットガムは、サイドキックを傷付けられた事に激怒したのか全身の力を左拳に込めて拳を振り抜く。
だが、ファットガムの拳はバリアのようなもので防がれた。
ファットガムがバリアのようなものに驚いていると、巨漢の後ろから着物を着てペストマスクをつけた男が現れる。
「ファットガムと…身体を硬化できる少年…二人か…フム、二人とも防御が得意な“個性”だ。乱波よ、残念だったな」
するとその直後、乱波という名前の巨漢が再びファットガムにラッシュを浴びせる。
「ぐおっ」
ファットガムは何とか耐えたものの、服は腹の部分が破れてボロボロになっていた。
ファットガムの脂肪ですらダメージを相殺できない、まるで弾丸のようなラッシュだった。
「防御が得意? 受けきれてないぞ? まァミンチにならなかっただけでも充分…………ん?」
乱波が首を傾げていると、和装の男天蓋がバリアを解く。
「我々は矛と盾、対してあっちは盾と盾」
「待て…ケンカにならないぞ? まいったな……」
「もっとも…そっちの少年は盾と呼ぶには半端なようだが…」
そう言って天蓋は切島の方に目を向ける。
切島は、何とか立ち上がったものの両腕の皮膚が剥がれた痛みで荒い呼吸を繰り返していた。
「はっ…はっ…っぐう゛う゛う゛…!!!」
切島は、腕の痛みに折れてしまいそうになり、強くなれた気でいた自分を情けなく思っていた。
するとファットガムが喝を入れる。
「
「我々に勝つつもりだ、やったな乱波」
「わかってくれたか、良いデブだ!」
天蓋は再びバリアを張り、戦いたくて仕方がない乱波は高揚していた。
するとファットガムが闘気を燃やす。
「こんな三下とっととブッ飛ばして皆のとこ戻るぞ!!」
ファットガムが叫ぶと、乱波も闘気を燃やして高揚した。
乱波は、バリアを叩きながら天蓋に話しかける。
「おい、楽しくなってきたんだ。天蓋これ外せ、使うな。そもそも俺は、バリアなんて必要ないんだ」
「私欲に溺れるな。オーバーホール様の言いつけを忘れるな。相性は良好。我々のコンビネーションで確実に処理するんだ」
天蓋が乱波を窘めようとすると、乱波はいきなり天蓋に殴りかかってきた。
当然天蓋は自身にバリアを張って乱波の拳を防ぐと、忌々しそうな表情を浮かべながら乱波に尋ねる。
「どういうつもりだ、ケンカ狂いめ…」
「コンビなんてオバホが勝手に決めた事だ。俺は殺し合えれば何でも良い」
乱波が言うと、天蓋は不服そうにしつつもバリアを解いた。
「好きにしろ。それで処理できるのならな。あと、オバホじゃない。オーバーホール様だ」
「わかってくれたか。良い引きこもりだ」
乱波は、ファットガムの方を向くといきなりファットガムにラッシュを叩き込んできた。
「ぐっ!!」
ファットガムは脂肪でラッシュを受け止めるが、ダメージを殺し切れずにボロボロになる。
乱波のラッシュは速すぎて、間合いに入ったら避けるのは不可能だった。
加えてファットガムの脂肪でもダメージを殺し切れないほど一発一発が重いため、このままだとジワジワ体力を削られていくのは目に見えていた。
そして天蓋のバリアはまるで鋼鉄のように硬く、天蓋を倒さない限りファットガムに勝ち目はなかった。
「ファット…!!」
ファットガムが切島の方を見ると、切島がヨロヨロの状態で立っていた。
それを見て、ファットガムは腹を括った。
「乱波くんいうたな……打撃が効いたんは久方振りや」
ファットガムに攻撃を仕掛けようとした乱波だったが、ファットガムが話しかけると拳をピタリと止める。
ファットガムは、拳を構えて乱波に向かって叫ぶ。
「俺も昔はゴリゴリの武闘派やってん。お前の腕が上がらんくなるのと俺が耐え切れんくなるの、どっちが先か、矛と盾どっちが強いか…勝負してみようや!! 乱波くん!!」
ファットガムが喝を入れると、乱波はゾクゾクと昂り出した。
「やっぱりお前は良いデブだ! 天蓋!! バリアは!!」
「出さない」
「そう! 良い人ばっかじゃねェか!!」
乱波は、再びファットガムにラッシュを叩き込む。
それを見ていた切島は、自分の無力さを悔しがっていた。
強くなった気になって飛び出した挙句必殺技をあっさり破られ、足手まといになりファットガムに守られている自分が情けなかった。
そんな中、乱波は容赦なくファットガムにラッシュを浴びせ続ける。
「ガッカリさせんなよデブ、まだ倒れねェでくれよ。やっと肩があったまってきたとこなんだから」
そう言って乱波がラッシュを浴びせると、ファットガムは大量の血反吐を吐く。
切島は、一方的にやられているファットガムを見ている事しか出来なかった。
天蓋は切島に目を向け立ち尽くしている切島を憐れみ、切島が自分の無力さに絶望し何も出来なくなってしまっているのだろうと考えていた。
「嘘だろ!? まだ行けるよな!?」
そう言って乱波が拳を振りかぶったその時、天蓋がファットガムの様子がおかしい事に気がつく。
ファットガムは、乱波が浴びせてきたラッシュの衝撃を全部脂肪の中に溜め込み、それを一気に放出しようとしていたのだ。
だが衝撃を沈めて押さえておくのにエネルギーを使ってしまうため体内の脂肪が燃えていってしまい、脂肪が削れすぎて貯蓄した衝撃を放つ“溜め”が作れなかった。
「乱波!! そいつ何か企んでいる! 早く仕留めろ!!」
「気になる!! 生きていたら披露してくれ!!」
天蓋が指示を出し、乱波が興奮した様子で拳を振りかぶる。
昂って叫ぶあまり、乱波のペストマスクが裂けて大きく開いた口が覗いていた。
乱波がファットガム目掛けてラッシュを放とうとしたその時、乱波の目の前に切島が立ち塞がる。
「
「何!?」
突然切島が立ち塞がったので、ファットガムと天蓋が驚く。
乱波はお構いなしにラッシュを浴びせていくが、先程のラッシュで軽く吹き飛んだはずの切島が持ち堪えていた。
切島は、ラッシュで皮膚が割れた側から硬化して固め、足を硬化して踏ん張っていた。
すると乱波は興奮した様子で拳を振りかぶる。
「お前!!! 良いな!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
切島も全力で叫び声を上げながら渾身の力を左拳に込めて叩き込もうとするが、天蓋のバリアに阻まれる。
いきなり邪魔された事に憤った乱波は、天蓋の方を振り向く。
「バリアは!」
「出すに決まってるだろう」
「!」
「しかし無意味な事を……我が防壁の前に成す術なく倒れるだけだ」
切島は、全身の皮膚が砕けて血塗れになり、そのまま意識を手放して後ろへ倒れる。
だが…
「無意味やないで。まさか逆に守られるとは…なんて言うんは失礼やな…おおきに!! ええ矛になったわ!!」
ボロボロになった切島を、ファットガムが左手で受け止めていた。
脂肪を使い果たし引き締まった身体をしたファットガムは、ニッと笑みを浮かべて吸収した衝撃を全て右拳に込めていた。
すると興奮した乱波が天蓋に向かって叫ぶ。
「天蓋!! バリア解けえ!!!」
「無意味どころかこの為の特攻だったのか……!!」
天蓋は、右拳に衝撃を溜めるファットガムを見て目を見開く。
ファットガムは、拳を固めながら叫ぶ。
「敗因一つや!! 甘く見とった!! 俺も!!! お前らも!!」
「最大最硬防…「無駄だ、割られる」
天蓋はバリアでファットガムの攻撃を防ごうとしたが、乱波は無駄だと言いながらニッと笑みを浮かべて防御態勢を取る。
「
ファットガムは、右拳に溜めた衝撃波を放ちながらバリアを殴った。
するとバリアは簡単に粉々に砕け散り、乱波と天蓋が吹っ飛ばされる。
「ホコタテ勝負、こっちの勝ちや!!」
そう言ってファットガムが拳を突きつけ、乱波と天蓋が吹っ飛ばされた先には衝撃波で巨大なクレーターができていた。
ファットガムは、左腕に抱えていた切島を心配する。
「意識あるか!」
「…誰スか」
「ファットさんや! 結果にコミットしてん、流れでわかって!」
すると、切島が譫言のように呟く。
「俺が……ファット…守るよ…俺に…出来る…事…」
切島が呟いていると、ファットガムが涙ぐむ。
するとその直後、ガラ、と瓦礫が崩れる音が聞こえる。
「まだだ…殺し合いだ…まだ俺は…死んでないっ!」
ファットガムの衝撃波を喰らってボロボロになった乱波は、フラフラの状態で立っていた。
バリアが緩衝材になり、失神を免れていたのだ。
もう脂肪を全て使い切ってしまい“無個性”状態となってしまったファットガムは、どうしたらいいかと思考を巡らせていた。
すると乱波は、誰も予想だにしなかった発言をする。
「奥の部屋で応急手当くらいは出来る。そのガ…その男手当しろ」
乱波がそう言うと、流石にファットガムも少し考え込む。
「………罠やん」
「罠張る男に見えるのか」
すると、意識を取り戻した天蓋が叫ぶ。
「乱波…!! 勝手な真似をするな!!
「ああん?」
「暴力を貪るだけのケダモノが何故ここにいられるか考えろ!! 貴様の役割は何だ乱波!!」
天蓋が叫ぶと、乱波は天蓋を踏みつけ気絶させる。
「バリア張る余力もないんだろ。じゃあ黙ってな。もっとも…こっちも骨がイっちまって腕が上がんねェ」
敵であるはずのヒーローを助け味方であるはずの天蓋を攻撃した乱波に、流石にファットガムがツッコミを入れる。
「……何がしたいねん」
「ケンカだよ、殺し合い。俺は地下格闘の出だ。聞いたことくらいあるだろう? “個性”フル活用のファイトクラブ。俺の拳を受けて立ち上がった奴はそういなかった。いてもそいつら決まって命乞いを始めやがる。わかるだろ? やりたいことができない辛さ…! 命を賭すことでしか生まれぬ力! そのぶつけ合い!! だから良かった!! お前らはとても良かった!! 特に赤髪!! 俺はお前が気に入った!! 再死合いをしよう!! 傷を治せ!! 次はちゃんと殺してやる!!」
乱波が昂った様子で叫ぶと、ファットガムが冷静に口を挟む。
「自分この後逮捕されてブタ箱やで。わかってんのか? 次なんてあらへん。負けや」
「知るか! 誰も死んでないならドローだ!!」
「ドローちゃうわ。何シップに則っとんねん」
乱波が医務室に入っていきながら支離滅裂な発言をすると、ファットガムがツッコミを入れる。
すると乱波は、ニッと笑みを浮かべて言った。
「ちゃんともう一回殺りてえんだ。その男とよ」
ファットガムは、乱波の変人っぷりに呆れつつもその言葉に裏がない事を認め切島と一緒に医務室に入っていった。
そして気を失った切島をベッドに寝かせると、応急処置を施す。
「よし…出血の方は、これで治まる筈や。でも、鎮痛剤が効くまで、少しは安静にしとかなあかん」
「治ったか! じゃあ殺す!」
「治るか! 生かせ!」
乱波がいきなり喧嘩を再開しようとすると、ファットガムがツッコミを入れる。
ファットガムは、少し考え込んで乱波に尋ねる。
「………多少打ち解けてしもたついでで…ヒーローとしては少々おかしな事聞くけど、乱波くん、君なんでこんな小さな組に納まっとんねん」
すると乱波は、振り向かずにファットガムの質問に答える。
「そりゃあオバホは俺が唯一負けた男だからよ」
「負け…」
「組に入れってな。突然現れふっかけてきやがった…地下格闘場よ、当然勝敗に委ねるわな。そして俺は死んだ。と思ったら元通り。組に入ってから5回挑んだが5敗。全敗だ。あの男に勝つために俺はここにい続けてる」
それを聞いたファットガムは、思わず慄く。
自分があれほど苦戦した乱波のパワーとスピードを、治崎は完全に捌き切ったというのだ。
これで驚かないわけがなかった。
「そんな強さを持ちながら戦闘は部下任せ…あいつは何故出て来うへん? おんねやろ? 逃げるか隠れるかしとんねやろ? 治崎は何がしたいねん」
「調子に乗るな、誰が敵に「ヤクザ者の復権だとよ」
ファットガムの質問に対し拘束されていた天蓋が悪態をつくが、乱波はあっさり答えた。
乱波は、天蓋の制止を無視して全部話してしまう。
「詳しい事はよくわからんが、話してんのを聞いちまった事がある。何かを大量にバラ撒くとか言ってたな…」
「やめろ!! 乱波!!」
「その為に金が要ると…そこがクリア出来れば実行の日はもうすぐそこだってな」
◇◇◇
その頃、通形を追って地下道を駆け抜けていたヒーロー達は、入中の“個性”によって蠢く地下道に閉じ込められていた。
壁や地面、天井が迫り、もはや圧死は時間の問題だった。
「また来てるぞ!! いい加減にしてくれ! 天井が!! 壁が!! 地面が!! 迫ってくる!! 圧殺されるぞ!! 粗挽きハンバーグにされちまう!!」
「ロックロック!!」
「リーダーぶるない! この窮地、元はと言えばあんたの失態だ!! 『
ロックロックは、“個性”を使って周りの床や壁を固定した。
錠前ヒーロー ロックロック
本名 高木鍵
“個性”『施錠』
触れたモノを(生物除く)その場に固定する!!
しかしあまりに強大な力や広大な面積に対してはその限りではない!
「こっちへ! この辺はもう動かねえ! 狭さは言うなよ、強度MAXの『
「『デラウェアスマッシュ』!!」
緑谷は、空気砲を何度も放って壁を砕き続けた。
だが、いくら砕いても壁は迫ってくる。
「クソッ…!」
「まるで愚鈍な土竜だな」
「ファットチームがいれば、もっとスムーズに行けたのになァイレイザー!」
「わかってる!」
「このままじゃジリ貧だぞ! 追い詰められる一方だ!」
「埒が明かない!! みんなが紡いだ道を…止めてたまるかァ!!」
緑谷が叫んだ直後、突然天井や壁が退き道が拓けた。
突然天井や壁が退き道が拓けた。
「開いた!?」
「今度はどういうつもりだ!?」
するとその直後、急にまた壁や天井が迫ってくる。
「分断…!? 今更……」
イレイザーヘッドと緑谷は、一緒に壁の中に閉じ込められてしまった。
一方ロックロックは、一人で壁の中に閉じ込められていた。
ヒーロー達は、
・ロックロック
・イレイザーヘッド、緑谷
・サーナイトアイ、警察
の3グループに分かれてしまった。
「おい!! 皆!! 無事か!?」
ロックロックが壁に向かって叫ぶと、警察の声が聞こえてくる。
どうやら、分断されはしたものの全員無事なようだった。
だが、その直後だった。
『来るぞ!! ”次の一手”が!!』
ナイトアイは、その場にいた全員に警告する。
それを聞いたロックロックは『誰のせいで』と苛ついた、その時だった。
突然背後から現れたトガが、ロックロック目掛けてナイフを振り下ろしてくる。
ロックロックは、右手でトガのナイフをガードし“個性”を発動する。
「施錠!!」
するとトガはナイフを固定させられてカクッとバランスを崩す。
「あら!?」
トガが空中でバランスを崩すと、ロックロックはトガ目掛けて拳を振り抜く。
「
「違います。今は時代遅れの天然記念物、ゴクドー者のトガです。悪者なのです」
ロックロックが放った拳は空を切り、相手の意識の隙間に入り込む『技術』を使ってロックロックの背後に回り込んだトガは、ロックロックの口を押さえながらシリンジでロックロックの脇腹を刺す。
トガは、連合から支給されたマスク型のサポートアイテムを装着すると、シリンジで吸い出したロックロックの血を直接飲もうとする。
トガが血を啜ろうとしたその時、側の壁が破壊されてイレイザーヘッドと緑谷が駆けつけてくる。
「トガヒミコ!!」
緑谷がトガに向かって叫ぶと、トガは恍惚とした笑みを浮かべて緑谷目掛けてナイフを振りかぶってくる。
「トガ!! そうだよトガです! 覚えててくれた!! わああまた会えるなんて嬉しい!! 嬉しいなァ出久くん!! 嬉しいなァ!!」
トガが緑谷にナイフを振り下ろそうとすると、イレイザーヘッドが“個性”を発動してトガに捕縛武器を投げつける。
だがその時イレイザーヘッドは、捕縛武器を巻きつけたトガに手応えを感じない事に気がつく。
「…! こいつ…」
イレイザーヘッドは、トガの正体に気がつくときつく捕縛武器で縛ってから引き寄せ、トガの顔を容赦なく地面に踏みつけた。
すると、トガの上半身がドロっと泥のように溶けた。
それを見た緑谷は、ギョッとした表情を見せる。
「先生、これって…!」
「分倍河原の“個性”だ。デク、ナイフを拾っておけ。本物が近くにいる可能性も捨てきれん」
「はい…!」
イレイザーヘッドがロックロックの傷を手当てしながら指示を出すと、緑谷は近くに落ちていたナイフを回収した。
◇◇◇
そしてその頃、ナイトアイは乱波・トゥワイスチームと対峙していた。
「哀しいぜ死柄木…ワクワクちまうよ」
トゥワイスが言うと、ナイトアイはメガネをクイっと上げる。