抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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明るい未来

 活瓶力也の”活力を奪う”個性で半数以上のヒーロー、警察がダウンする中、動ける者は地元のヒーローらと合流し、被害の確認にあたっていた。

 

「治崎の分解による家屋倒壊4棟。しかし我々が到着する前に全て元通りに修復されていたそうだ。民間人への被害も無し。平日の昼間ってのもあるが、奇跡だな」

 

 ヒーロー達が話していると、波動が割り込む。

 

「ねえねえあのね、半分はデクくんとクレシェンドちゃんのおかげだよ。ヘロヘロで倒れながら見てたの」

 

「木偶?」

 

「デクくんね、でっかい治崎を空中にブッ飛ばしてまたこの大穴近くに叩きつけてたの。クレシェンドはね、周りに被害が出る前にトゲを壊してでっかい治崎を元に戻したの。二人とも被害広がらないように戦ってたんだ。でっかいのはムズかしいんだよ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方で、戦いで傷ついた者達は最寄りの大学病院へ搬送された。

 

「君さ、これイっちゃってるよね」

 

「イっちゃってますか…」

 

 医者が呆れながら言うと、ベッドに横たわったまま診察を受けていたひなたは目をパチクリさせていた。

 あの後救急車で搬送され手術を受けたひなただったが、幸い出血が多かっただけで他の傷はさほど深くなく、声帯と他の怪我はリカバリーガールの治癒で治ったものの左腕だけはどうにもならなかった。

 

「左肩の靭帯断裂に左腕複雑骨折。とりあえず修復出来なさそうな骨の破片は手術で全部取り除いたけど、尺骨神経っていう神経が軽く損傷しててね。幸い後に遺らず回復しそうだけど、骨折が治ってからもリハビリが必要だね」

 

「………はい」

 

 医者が言うと、ひなたはギプスで固められた自分の腕を摩りながら頷く。

 治崎に握り潰された左腕の骨が複雑骨折しており、さらにそれが原因で腕の神経を損傷しており、腕が繋がっているのが奇跡的な程の重傷を負っていたのだ。

 

(焦ちゃんが聞いたら落ち込みそうだなぁ……)

 

 ひなたは、苦笑いを浮かべながらそんな事を考えていた。

 轟は自分が関わったせいで緑谷や飯田が腕をダメにしてしまったのではないかと本気で考えており、轟がひなたの腕の症状を聞いたらひなたにもその呪いが時間差で効いてしまったと落ち込むのではないかと考えたのだ。

 すると相澤がひなたの様子を見に来る。

 

「調子はどうだ」

 

「ああ、お父さん。お父さんは大丈夫?」

 

「十針縫った」

 

「そっか」

 

 ひなたは、無茶して重傷を負った事を相澤に謝ろうとする。

 無茶をするなと再三言われていたにもかかわらず自分の力不足のせいで重傷を負ってしまい、呆れられてしまったと思ったのだ。

 

「あの……」

 

 ひなたは、気まずそうな表情を浮かべながら相澤に謝ろうとする。

 だが、逆に相澤の方から頭を下げてきた。

 

「力になれなくてすまなかった」

 

「ううん、そんな事ないよ。お父さんとナイトアイが粘ってくれなかったら、多分勝てなかった。…あの、それより他の皆は?」

 

 ひなたが尋ねると、相澤は他のヒーロー達の容態を話し始めた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして少しして。

 緑谷も検査を受けていた。

 

「一応隅々まで検査しましたが、腕以外は何処も異常ありませんでした」

 

「…ありがとうございます」

 

「しかしこの腕どうしたらこんなになっちゃ「それより他の皆は………」

 

 医師の言葉を遮って緑谷が尋ねたその時、相澤が診察室に入ってくる。

 

「俺が見て来たよ」

 

「先生!! お怪我は!?」

 

「十針縫った。来い」

 

 相澤が手招きすると、緑谷がついていく。

 相澤は、まず最初に緑谷を守れなかった事を謝罪した。

 

「大事なところでいてやれなくてすまなかった」

 

「いえ…それより皆は…」

 

 緑谷が尋ねると、相澤が答える。

 

「切島は全身打撲に裂傷が酷いが命に別状はない。天喰も顔面にヒビが入ったものの、後に遺るようなモノではないとの事。ファットガムは骨折が何ヶ所か。元気そうだったけどな。ロックロックも幸い内蔵を避ける形で刃が刺さっていた。大事には至らない傷だ。ナイトアイも重傷だったが何とか一命を取り留めた。相澤も、左腕が重傷だったが他は見た目ほど酷い傷じゃなかったらしく命に別状はない。エリちゃんは、今は“個性”の暴走を懸念して隔離されてる」

 

「隔離…そんな、面会も出来ないんですか」

 

 相澤が他のヒーロー達や壊理の容態を報告すると、緑谷が尋ねる。

 “個性”を制御できないからとはいえ、幼い少女を隔離するというのは酷な話だと緑谷は感じていた。

 

「あの子の暴走を止めた心操が得たあの子の情報を鑑みての結論だそうだ。『人を巻き戻す“個性”をコントロール出来ない』、何かの弾みでまた発動してしまったら俺やあいつ、相澤以外に止める術が無い。未知数な上に精神的にも今は、これが合理的だと思う。あの子の為にもな…」

 

 相澤が言うと、緑谷は壊理を気の毒に思いつつも壊理の為を思って納得した。

 すると相澤は、“個性”の暴走で思い出したのか、壊理を気の毒に思う緑谷に話しかけた。

 

「相澤から聞いた。また“個性”が暴走したらしいな。『超パワー』から逸脱した“個性”が突然発現したと聞いているが」

 

「僕にも………まだハッキリわからないです。力が溢れて抑えられなかった。今まで信じてたものが突然牙を剥いたみたいで、僕自身凄く怖かった。だけど、相澤さんが抑えてくれたおかげでそうじゃないって気付いたんです」

 

 相澤が尋ねると、緑谷が答える。

 緑谷は、“個性”が暴走した時に助けてくれたひなたに感謝していた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてその後、緑谷達はナイトアイの病室に向かった。

 ナイトアイは、ひなたが“個性”で一度治したおかげで致命傷は免れていたものの、かなりの重傷でまだ寝たきりだった。

 静かな病室にポツンと置かれたベッドには、酸素マスクを装着し身体をチューブで繋がれたナイトアイが横たわっていた。

 

「ナイトアイ…!」

 

 慣れ親む声に、ナイトアイは微かに目を開ける。

 朦朧とする視界には、痩せ細ったオールマイトが映る。

 

「オールマイト、 漸く会う気に……?」

 

「返す言葉が見つからないよ…私は君に…酷い事を…」

 

「随分とかしこまってるじゃないか…私は別に、あなたを恨んじゃいないよ。貴方にはただ、幸せになって欲しかっただけだから…抗うと決めてくれたなら、私はそれでいい」

 

「ナイトアイ…すまなかった。これまでの償いをさせてくれ」

 

「償いなど…私も多くの人間に迷惑をかけてきた…」

 

 ナイトアイは、オールマイトに予知を使った事で殺される未来を見てしまった。

 そして予知により見えてしまった未来は、永遠に変えることは出来ない。

 今まで、どんなに未来を変えようと足掻いても、帳尻を合わせるように別の力が働いて見た通りの未来になってしまい、未来を回避する事はできなかった。

 

「これまで…あなたが殺される未来を変えたくて、変える術を探ってきた…ずっと…どうにもならなかった。私では…どうにも変えられなかった。だが、緑谷と相澤ひなたが今日見せてくれた…私はずっと、拭い去る事が出来なかった。変えられない、変わる事はない、その考えが常に頭の片隅に……思えば、相澤ひなたが“個性”を使った時から、未来は少しずつ変わっていた。変えられないはずの未来を、私の中に巣食っていた絶望を、あの子が壊してくれた…あの子が生み出した小さな希望を、皆が、強く、信じ紡ぎ…大きなエネルギーとなって、緑谷に収束された…未来は不確かで…あなたは考えを改めてくれた。私は…それで充分」

 

 ナイトアイは、天井をぼんやりと見つめながら言った。

 ナイトアイの“個性”は、未来を予知できるだけでなく、見た未来を確定させてしまうという性質を持っていた。

 オールマイトの死を予知してしまった事で、その未来が呪いとなり、“個性”を使って誰かの未来を見るのが怖くなってしまっていた。

 だがひなたが“個性”を使った時、彼女自身が『救けたい』と強く願った事で、無意識のうちにナイトアイの『未来を確定させてしまう力』を消してしまったのだ。

 ひなたによって未来を変えられ、呪いから解放されたナイトアイは、どこか晴れやかな表情を浮かべていた。

 すると、担当医に無理を言って駆けつけてきた通形が目に涙を浮かべながら言った。

 

「サー…すみません、俺が不甲斐ないばかりに…!」

 

「先輩…」

 

「ミリオ…お前は良くやってくれた。謝らなければならないのは私の方だ。辛い目に遭わせてばかり…私がもっとしっかりしていれば…」

 

「サー、あなたが教えてくれたからここまで来れたんだ! 俺にもっと教えてくれよ!」

 

 通形が泣き叫ぶと、ナイトアイは通形の頬に触れて“個性”を使った。

 1日に一度しか使えないはずのナイトアイの“個性”は、オールマイトの死を確定させてしまった絶望から解放されたからか、未来が変えられた瞬間に進化していた。

 

「…大丈夫、お前は誰よりも立派なヒーローになってる。この未来だけは、変えてはいけないな…だから、笑っていろ」

 

「っ……はいっ!!」

 

 ナイトアイが笑うと、通形は歪んだ笑みを浮かべた。

 するとナイトアイは、オールマイトにも声をかける。

 

「オールマイト、あなたもだ。私は未来を変えてくれた者達の為にも生きていく。だからあなたにも笑って生きていて欲しい」

 

「ああ…!! 約束する!! 殺される運命など笑って変えてみせる!!」

 

 ナイトアイがオールマイトに告げると、オールマイトは堅くナイトアイの手を握りしめて約束した。

 

「バブルガール、センチピーダー。何だその顔は。ヒーローたる者、ユーモアを失ってはいけない。悔やんでもいい、悲しんでもいい、だが笑顔を忘れるな」

 

「…承知しました」

 

「は゛い゛っ、や゛く゛そ゛く゛し゛ま゛す゛ぅぅぅ…!!」

 

 ナイトアイが言うと、センチピーダーとバブルガールは涙を流しながら笑顔を浮かべた。

 するとナイトアイは、その場にいない者に伝えたかった事を伝えるよう二人に頼む。

 

「それと、相澤ひなたに伝えておいてくれないか。彼女を守るつもりが逆に助けられてしまった…ただ一言、『ありがとう』と」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その頃、とある山岳部では。

 

「この数日の間に目撃情報が集中した。連合で最も厄介なお前さんさえ捕らえれば、後は芋づる式だ」

 

 グラントリノが黒霧の身体の上で飛び跳ねながら言った。

 すると塚内が黒霧の方へ拳銃を構えながら言った。

 

「頭と両手周囲にもゲートを出せる。気をつけて。そいつの拘束は難しい」

 

 すると黒霧が呟く。

 

「ここ…『野人が出る』って少々噂になってまして。知りませんか、グラントリノ。少し目立ってしまったようですが、仕方ありませんね。私、その野人に用がありまして」

 

「後でゆっくり話聞かせてくれや」

 

 グラントリノが言った、その直後だった。

 突然、山岳からズンッと音が鳴り響く。

 

「「!」」

 

「あの方は常に未来を見据えている。塚内警部、グラントリノ。あの方が育てていたのは何も死柄木弔だけじゃないんですよ。オールフォーワンの忠実なる僕がその一人…“ギガントマキア”」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして夕方。

 被害の確認が終わり仕事から解放された心操は、ひなたの見舞いに来ていた。

 心操は、ひなたの座っているベッドの横のパイプ椅子に座っており、小さなナイフを使ってスルスルと慣れた手つきでリンゴの皮を剥いた。

 捕縛武器をすぐに使いこなせるだけあってやっぱり手先が器用だなぁ、などとひなたが心の中で感心していると、心操が切り分けたリンゴを小さなフォークで刺してひなたの口元へと運ぶ。

 

「お食べ」

 

 心操が平然とひなたの口元へリンゴを押し付けてくると、ひなたは恥ずかしそうに視線を逸らす。

 

「ねえひー君…僕、右手は無事だから自分で食べれるんだよ? だからそれ、ちょっとやめてもらっていいですかね…恥ずかしいんで……」

 

「ダメ。食べて」

 

 ひなたは恥ずかしいのでやめるよう言うが、心操は表情を一切変えずに続けた。

 するとひなたは微かに頬を染めながら口を噤む。

 散々キスをしておいて今更『あーん』で恥ずかしがるのはおかしな話だったが、ひなたにとっては慣れない経験だったため恥ずかしさが勝ってしまっていた。

 だが心操が表情を変えずにリンゴを押しつけてくるので、流石に観念したひなたは諦めて受け入れた。

 

「い、いただきます…」

 

 ひなたが恥ずかしそうに右手で軽く髪をかき上げながら口を開くと、心操はひなたの口の中に切り分けたリンゴを運ぶ。

 そのまま咀嚼すると、シャリシャリとした心地の良い食感と甘酸っぱさが口の中に広がる。

 

「美味しい?」

 

「うん……美味しい」

 

「おかわりいる?」

 

「ん…欲しい、かな」

 

 心操がひなたの顔を覗き込んで尋ねると、ひなたは顔を赤くしながら頷く。

 心操がさらに残りのリンゴも食べさせようとしてくるので、ひなたは残りのリンゴも運ばれてきたそばから食べた。

 

(何か今日のひー君やけに優しいなぁ…いや、ひー君が優しいのはいつもの事なんだけど、それにしたってよく世話を焼いてくれるっていうか…)

 

 心操がいつも以上に世話を焼いてくるのでひなたが疑問に思っていると、心操が唐突にひなたに尋ねる。

 

「………腕、大丈夫?」

 

「うん、多少は不便だけどもう慣れちゃった」

 

 心操が尋ねると、ひなたは右手を動かしながら答える。

 片手が使えないというのは非常に不便だったが、回復力が高いのと、元々人一倍器用だった事もあって大抵の事は一人でできていた。

 すると心操が俯いたまま話し始めた。

 

「…俺、本当に正しい事をしたのかな」

 

「ん?」

 

「お前がこんなにボロボロになって、先生や先輩も傷ついて、そこで初めて気付いた。俺に出来る事はもっとあったんじゃないかって…」

 

「いや…ひー君はあの時自分に出来る事をしたと思うよ? 通形先輩とエリちゃんを助けたし、入中や玄野を連行するのに役に立ったわけだし…もうこれ以上ないくらいお役立ちだったよ君は! あ! そうだ! それよりリンゴおかわり欲しいな〜、なんちって…」

 

 心操が暗い表情で話すと、ひなたは落ち込む心操とは対照的に笑顔を浮かべて心操を励ました。

 心操を元気付けようとひなたが明るく振る舞っていると、心操の膝に何かがポタポタと落ちて膝に斑のシミができている事に気がつく。

 

「同じ会場で入試受けて…スタートはほとんど同じだったはずなのに、お前との差がどんどん開いていって、お前だけがボロボロに傷ついて…」

 

「うん」

 

「お前の事全力で守るとか大口叩いておきながら何も出来なくて、逆にお前に守られてばかりで、情けない自分が嫌で仕方がなくて…」

 

「うん」

 

「お前がいつか俺の手の届かない所に行っちまう気がして、それが嫌で必死に追いかけてるけど、どんなに突き進んでも目の前には高い壁があって…」

 

「うん」

 

「その度に自分の無力さに嫌気が差して……」

 

 心操がポツポツと語っていくと、ひなたは頷きながら話を聞く。

 心操の目からは、ポロポロと涙が溢れていた。

 ひなたは少し驚いていた。

 心操がひなたの前で涙を見せた事がなかったからだ。

 心操は、せめてひなたの前ではカッコ悪いところを見せまいと涙を堪えてきたが、今はそれすら叶わないほど打ち拉がれていた。

 

 普段のひなたなら『そんな事ないよ』と前向きな言葉をかけるところだったが、今は吐き出したいだけ吐き出させてあげようと黙って話を聞いていた。

 すると心操は、膝の上で両の拳を握りしめて涙を流しながらひなたに打ち明ける。

 

「ひなた、俺…強くなりたいよ…!」

 

 心操が泣きながら胸の内を打ち明けると、ひなたはベッドから身を乗り出して心操の左頬をそっと右手で包み込んで軽く唇を重ねた。

 すると心操は、驚いたせいか瞬きをして呆然とひなたの顔を眺めていた。

 止めどなく流れていた涙は、いつの間にか止まっていた。

 心操の目には、いつものように赤面して恥ずかしがっているひなたではなく、真っ直ぐに自分を見据えて真剣な表情を浮かべるひなたが映っていた。

 

「落ち着いた?」

 

「…え? あ、うん…」

 

「ずっと抱えてたものを吐き出したらスッキリしたでしょ」

 

「うん…」

 

 ひなたは、心操の涙を器用に右手で拭いながら優しく話しかける。

 落ち着いたトーンで話しかけるので、心操の心も落ち着いていく。

 するとひなたは、そっと右手を心操の左拳の上に置いて言った。

 

「大丈夫、僕はひー君を置いていなくなったりなんかしないよ。一緒にヒーローになろうってひー君が約束してくれたから。強くなろうよ、一緒にさ」

 

「ひなた…」

 

「あのね、体育祭の時オールマイトが言ってたんだけどね、その涙は強くなれる証なんだって。今の自分の無力さを悔しがってる奴はこれからもっと強くなるってお父さんも言ってた。だからね、泣いたっていいんだよ。大事なのは、その涙を糧にする事なんだ」

 

 ひなたは優しい口調で心操に告げると、今度はいつものように満面の笑みを浮かべて心操の胸にトンっと軽く拳を突きつける。

 

「さ、いつまでもくよくよしてたって始まらない! 前向いていこうぜ」

 

「……うん」

 

 ひなたが言うと、心操は右腕の袖で涙を拭って強く頷く。

 するとひなたは、ふと皿の上に残ったリンゴに目を向ける。

 ひなたは、何か思いついたようにピコンと頭の中で電球を光らせると、小さなフォークで切り分けたリンゴを一個刺す。

 

「そうだ、今度は僕が食べさせてあげるよ」

 

「え、いや…俺は…」

 

「食え」

 

 ひなたは、リンゴを心操の口元に押し付ける。

 心操は、先程のひなた同様観念したようにリンゴを口に含む。

 すると口の中に少しフォークが触れ、ひなたはフォークを引き抜くとペロリとフォークを舐める。

 

「えへへ、美味しい?」

 

「…うん。旨い」

 

 ひなたが笑顔を浮かべながら尋ねると、心操が頷く。

 一方相澤は、ひなたの病室の前に立っていた。

 病室の中に入ろうとドアノブに手をかけようとするが、ひなたと心操の会話が扉越しに聴こえてきて、自分達で立ち上がって前へ進もうとしている二人に余計な事を言うのは野暮だろうと思いそのまま病室の前を通り過ぎた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして一夜明け。

 

「相澤さん、今日もう退院なんだ」

 

「うん…お医者さんが言うには、たった一日で腕以外は完治とかあり得ないってさ。でも腕ばかりはアレだから数週間は安静だって」

 

 緑谷とひなたは、荷物を持って待合室に向かいながら喋っていた。

 ひなたは、自販機で買った缶コーヒーを片手にギプスをはめられた左手をぷらぷらと動かしていた。

 二人が待合室に向かっている途中、待合室の備え付けのテレビからニュースが聞こえてくる。

 

『犯人護送中の襲撃事件という前代未聞の失態。重要証拠品の紛失も確認されており、警察への批判が高まっています』

 

「ずぅっとこの話だねぇ…」

 

 緑谷とひなたが荷物を持って病院の待合室に行くと、ベンチに座りながらテレビでニュースを見ていたリカバリーガールがぼやいており、近くには相澤がいた。

 

「治崎が…死柄木に…」

 

「僕、あいつの“個性”を壊したんだよ。それもかなりキツめに“個性”を傷つけたから、少なく見積もっても1週間は“個性”が元に戻らないくらいのつもりだった。でも、そのせいで…」

 

 ニュースを見た緑谷とひなたは、治崎が死柄木達に重傷を負わされた事に責任を感じたのか俯いた。

 治崎が抵抗できずに連合に襲われたのは、ひなたが治崎の“個性”を壊し、緑谷が治崎を吹き飛ばしたからでもあった。

 二人がしたのはヒーローとして当然の行動だったが、そのせいでせっかく捕らえた相手が襲われてしまうというのはいい気分ではなかった。

 二人が暗い表情を浮かべていると、相澤が声をかける。

 

「お前らが責任を感じる事じゃない。気に病まなくていい。とりあえず生徒を学校に戻す。通形はもう少し様子を見るとの事だが。他は、相澤以外は治癒してもらって完治してる。そろそろ来る頃だ」

 

「あたしゃもうちょっとここの患者さん治癒してくるかね」

 

 相澤が言うと、リカバリーガールはベンチから立ち上がって他の患者の治療に向かう。

 すると緑谷が相澤に尋ねる。

 

「僕も…エリちゃんが目覚めるまでいちゃダメですか」

 

「お前がいても状況は変わらない。お医者さんに委ねるしかない」

 

「………先輩に挨拶してきます」

 

「あ…オイ今は…」

 

 相澤は通形の見舞いに行こうとする緑谷を止めようとすると、ひなたが相澤の服の裾を軽く摘んでクイと引っ張る。

 ひなたは、目で『行かせてあげて』と訴えかけていた。

 それを見た相澤は、頬を掻きながらその場に留まった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 学校に戻ってからも色々と調査や手続きが立て続けで、結局ひなた達が寮に戻れたのは夜の事だった。

 6人が帰ってきたと同時に、峰田が騒ぐ。

 

「帰ってきたァアアア!!!! 奴等が帰ってきたァ!!! 大丈夫だったかよォ!!?」

 

「ニュース見たぞおい!!」

 

「皆心配してましたのよ」

 

「大変だったな!」

 

「まァとにかくガトーショコラ食えよ!」

 

「お騒がせさん達☆」

 

 峰田、上鳴、八百万、砂藤、青山が6人に詰め寄ってきた。

 帰ってきて早々詰め寄ってきたクラスメイトの反応に、ひなたは思わず目を点にする。

 

「お前ら毎度凄え事になって帰ってくる! 怖いよいい加減!」

 

「無事で何より」

 

「無事かなあ…ブジ…うん」

 

「腕イっちゃったけど…」

 

 上鳴と障子が言うと、耳郎は『無事』という言葉に疑問を抱く。

 するとひなたがギプスでガチガチに固められた腕をプラプラしながら苦笑いを浮かべる。

 

「ひなたちゃんお茶子ちゃん梅雨ちゃん〜!!」

 

 葉隠は、三人のもとへ駆け寄ると抱きついた。

 すると飯田がクラスメイトと6人の間に割って入る。

 

「皆、心配だったのはわかるが!! 落ち着こう!! 報道で見ただろう、あれだけの事があったんだ。級友であるなら彼らの心を労り静かに休ませてあげるべきだ。身体だけでなく…心もすり減ってしまっただろうから……」

 

 飯田が言うと、緑谷が飯田に声をかける。

 

「飯田くん飯田くん」

 

「ム」

 

「ありがとう…でも、大丈夫」

 

 緑谷が言うと、飯田は目を点にした。

 

「じゃあ、いいかい。とっっっっっっっても心配だったんだぞもう!! 俺はもう、君達がもう」

 

「おめーがいっちゃん激しい」

 

「安定の飯田……」

 

 飯田が激しく気持ちをぶつけると、瀬呂と心操がツッコミを入れた。

 

「ラベンダーのハーブティーをお淹れしますわ! 心が安らぎますの!」

 

「ありがとううまっ」

 

 八百万がプリプリしながらキッチンへ走り、砂藤が緑谷とひなたの口にガトーショコラを突っ込む。

 そんな中、蛙吹が浮かない表情を浮かべる麗日を心配した。

 

「お茶子ちゃん、大丈夫…?」

 

 麗日は、あの時自分に出来る事はまだあったのではないかと後悔していた。

 それを相澤に相談したところ、「自分がどうしたいか考えてみてくれ」とアドバイスを受けた。

 

「………私、助けたい」

 

「……うん」

 

 麗日が自分の手を見つめながら言うと、蛙吹が頷く。

 するとひなたが麗日の前に立って言った。

 

「お茶子っち、頑張ろうね」

 

 ひなたが言うと、麗日が頷く。

 誰かを助けたいという思いは、ひなたも同じだった。

 一方で瀬呂は、切島と肩を組んでインターンの事について尋ねていた。

 

「何で言ってくれなかったんだよ! 俺達もー仰天だったよ!」

 

「ワリィ。カンコーレー敷かれてたんだよ」

 

 切島が瀬呂に絡まれていると、芦戸が声をかける。

 

「切島、大丈夫?」

 

「………まだまだだわ」

 

「そっか」

 

 ほとんど全員がわいわいと騒いでいる中、爆豪はソファーにドッカリと座って黙ったままだった。

 すると上鳴が爆豪に絡んでくる。

 

「おーいかっちゃん、何を不貞腐れてんだ。心配だったからここいんだろ!? なァ!? 素直になれよ!」

 

「寝る」

 

「えー早くね!? 老人かよ!!」

 

「まだ8時半だぞお爺ちゃん」

 

「っせ」

 

 爆豪は、絡んできた上鳴をソファーに投げた。

 心操が携帯の時計を指差しながら言うと、爆豪が悪態をつく。

 すると尾白が爆豪に話しかける。

 

「一言くらいかけたら?」

 

「てめーらと違って暇じゃねンだ」

 

 尾白が爆豪に声をかけると、爆豪は余計なひと言を放った。

 すると、外に出ていた轟が寮に入ってくる。

 

「緑谷、相澤、麗日、切島、心操、蛙吹、わりィが俺も」

 

「轟もかよ!」

 

 轟が言うと、上鳴がツッコミを入れる。

 一方、蛙吹と耳郎は轟を心配していた。

 

「…爆豪ちゃんはともかく、轟ちゃんまでどうしたのかしら…」

 

「あいつら明日仮免の講習なんだ。にしても早いけど…」

 

 ひなたは、苦笑いを浮かべつつ隣にいた心操にコソッと話しかける。

 

「そういえばだけどさ…仮免講習の教官ってギャングオルカとイナズマだったよね?」

 

「うん、そう聞いてるけど」

 

 ひなたが尋ねると、心操が首を手で押さえながら答える。

 仮免講習の教官はギャングオルカだったが、イナズマも講習の手伝いに来ていた。

 

「大丈夫かねぇあの二人…」

 

 ひなたは、引き攣った笑みを浮かべながら二人を心配する。

 というのも、ギャングオルカもイナズマも鬼教官で有名なのだ。

 特にイナズマは鬼教官どころか完全にヤのつく人達のような立ち振る舞いで、行き過ぎたスパルタ教育や暴言の数々はもはや教育委員会に訴えられるレベルだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして翌日。

 

「爆豪、行くぞ」

 

「うっせえな行くわ」

 

「仮免講習の時間だ」

 

「後ろ歩けや」

 

 轟が言うと、爆豪が悪態をつく。

 二人は相変わらず馬が合わない様子だった(正確には普通に接しようとしている轟を爆豪が突っぱねているだけなのだが)。

 二人は、仮免講習を受ける為寮を出発した。

 

 

 

 

 




ひーちゃんの奮闘のお陰でナイトアイ生存。
エリちゃんを危険に晒す事なくオバホに勝利。
そしてオールマイトと和解。
ひー君のおかげでエリちゃんが安全に戦場から脱出。
ひーひーカップルガチで有能w
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