抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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文化祭編
文化祭


「見て見てー! 見ててー!」

 

 芦戸は、高く跳び上がると空中で身体を翻して片手で着地し、ブレイクダンスを披露する。

 

「ブレイキンブレイキン!」

 

「「ポウ! ポウ!」」

 

 芦戸がブレイクダンスを披露していると、瀬呂と葉隠が盛り上がる。

 だがそれを見ていた青山と峰田はどこか不満げな様子だった。

 

「彼女ダンスが趣味なんだよね☆」

 

「下穿くならスカート脱げよなぁ…!」

 

 峰田が悔しそうに言うと、ひなたは見事なアッパーカットで峰田をブッ飛ばす。

 ひなたは、そのまま何事もなかったかのように隣にいた緑谷に話しかける。

 

「今の、確か『サンダーロール』だよね。メチャ難易度高いやつ」

 

「芦戸さんは身体の使い方がダンス由来なんだよね。何というか…全ての挙動に全身を使う感じだ」

 

「初めての戦闘訓練でマント溶かされた事忘れない☆」

 

「まだ引きずってたのかお前…」

 

 緑谷は、芦戸のダンスを見てダンスから戦闘スタイルを学べるかもしれないと考えた。

 そして青山が未だに戦闘訓練の事を引きずっていると、心操がツッコミを入れる。

 

「僕もやってみようかな…」

 

「教えて貰えば?」

 

 緑谷がボソッと呟くと、上鳴が提案する。

 すると芦戸はビシッとポーズを決めながら言った。

 

「オーケーボォオイレッツダンスィ!!」

 

「あっ、ええと、お願いします!」

 

 緑谷と青山は、芦戸にダンスを教わる。

 

「砂藤のスイーツとかもそうだけどさ、ヒーロー活動にそのまま活きる趣味はいいよな! 強い!」

 

 上鳴は、耳郎を指差しながら続けた。

 

「趣味といえば耳郎のも凄えよな!」

 

「ちょっ、やめてよ」

 

 上鳴が言うと、耳郎は恥ずかしがる。

 

「あの部屋楽器屋みてーだったもんなぁ。ありゃ趣味の域超えてる」

 

「好きだねぇきょーちん」

 

「もぉ、やめてってば。部屋王忘れてくんない!?」

 

「いやありゃプロの部屋だね!! 何つーか正直かっ…!?」

 

 上鳴が耳郎を褒めようとすると、耳郎は上鳴にジャックを突きつける。

 

「マジで!」

 

 耳郎が恥ずかしがりながら席に戻っていくと、上鳴がオロオロしながら八百万とひなたに尋ねる。

 

「……何で…?」

 

「女心は難しいんだよ電吉」

 

 上鳴がオロオロしていると、ひなたが上鳴の肩に手を置く。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そしてチャイムが鳴り、HRが始まる。

 

「文化祭があります」

 

「「「「ガッポォオォイ!!」」」」

 

 相澤が発表すると、クラス全体のテンションが一気に頂点に達する。

 そんな中蛙吹が相澤に尋ねる。

 

「先生、今日はエリちゃんの所へは?」

 

「ああ、その事については後程」

 

「文化祭!!」

 

「ガッポイの来ました!!」

 

「何するか決めよー!!」

 

「わあああ」

 

 文化祭と聞いてほとんど全員が盛り上がっており、ひなたも楽しみなあまり触角をピンと立てて目を輝かせていた。

 すると切島が立ち上がって尋ねる。

 

「良いんですか!? この時世にお気楽じゃ!?」

 

「切島…変わっちまったな」

 

「でもそーだろ、(ヴィラン)隆盛のこの時期に!!」

 

「もっともな意見だ。しかし、雄英もヒーロー科だけで回ってるわけじゃない。体育祭がヒーロー科の晴れ舞台だとしたら、文化祭は他科が主役。注目度は比にならんが、彼らにとっても楽しみな催しなんだ。そして現状、寮制をはじめとしたヒーロー科主体の動きにストレスを感じてる者も少なからずいる」

 

 相澤が切島の質問に答えると、切島は今までの態度を見直し反省しながら席に座り直した。

 

「そう考えると…申し訳立たねぇな…」

 

「ああ、だからそう簡単に自粛するというわけにもいかないんだ。今年は例年と異なり、ごく一部の関係者を除き学内だけでの文化祭になる。主役じゃないとは言ったが決まりとして一クラス一つ出し物をせにゃならん。今日はそれを決めてもらう。んじゃ委員長、副委員長。あと頼んだ」

 

「はい!!」

 

 相澤が言うと、飯田と八百万が前に出て仕切る。

 

「ここからは相澤先生の指示通りA組委員長飯田天哉が進行を務めさせて頂きます! スムーズにまとめられるよう頑張ります!! まず候補を挙げていこう! 希望のある者は挙手を!」

 

 すると、二人が吹き飛ばされそうな勢いでクラスメイト達が一斉に手を挙げた。

 

「ぐっ…何という変わり身の早さだ…ええい必ずまとめてやる!」

 

 真っ先に手を挙げ指名されたのは上鳴だった。

 

「上鳴くん!!」

 

「メイド喫茶にしようぜ!」

 

「メイド…奉仕か、悪くない!」

 

 すると今度は血眼で峰田が手を挙げる。

 

「ぬるいわ上鳴!!」

 

「峰田くん!」

 

「オッパb…

 

 峰田が言いかけると、蛙吹とひなたがボコボコにし吊し上げる。

 

「錘あるかしら」

 

「ぬるいぞ梅雨ちゃん。すり潰してジュースにしちゃえ」

 

「「「うわぁ…」」」

 

 ひなたと蛙吹が真顔で峰田を縛り上げると、数人の男子が震え上がる。

 その間に麗日が手を挙げて指名された。

 

「麗日くん!!」

 

「お餅屋さん」

 

 麗日が案を出すと、今度は切島が提案する。

 

「腕相撲大会!!」

 

「熱いな!」

 

 切島の案に飯田がコメントすると、葉隠が提案する。

 

「ビックリハウス」

 

「分からんが面白いんだろうなきっと!」

 

 葉隠の案に飯田がコメントすると、砂藤が提案する。

 

「クレープ屋!」

 

「食べ歩きに持ってこいだ!」

 

 砂藤の案に飯田がコメントすると、芦戸が提案する。

 

「ダンスー!!」

 

「華やかだな!」

 

 芦戸の案に飯田がコメントすると、心操が提案する。

 

「……猫カフェ」

 

「ホウ! 癒し系か!」

 

 心操の案に飯田がコメントすると、常闇が提案する。

 

「暗黒学徒の宴」

 

「ホホウ!!」

 

 常闇の案に飯田が頷くと、青山が提案する。

 

「僕のキラメキショウ」

 

「…んん!?」

 

 青山の案に飯田が困惑すると、ひなたが挙手をする。

 

「はい!」

 

「ひなた君!」

 

「サルミアッキ屋さん!」

 

「何だそれは!?」

 

 飯田に当てられたひなたが案を出すと、飯田がツッコミを入れる。

 すると今度は耳郎が提案した。

 

「…コントとか?」

 

「なーる!」

 

「さァ他はないか!?」

 

 残りの生徒達も、次々と案を出した。

 こうしてクラス全員から一つずつ案が出た。

 

 

 

 切島→腕相撲大会

 葉隠→ビックリハウス

 麗日→お餅屋さん

 常闇→暗黒学徒の宴

 芦戸→ダンス

 相澤→サルミアッキ屋さん

 峰田→オッパブ

 耳郎→コント

 飯田→郷土史研究発表

 爆豪→殺し合い(デスマッチ)

 心操→ 猫カフェ

 障子→タコ焼き屋

 瀬呂→アジアンカフェ

 尾白→演武発表会

 八百万→お勉強会

 緑谷→ヒーロークイズ

 轟→手打ち蕎麦屋

 青山→僕のキラメキショー

 蛙吹→かえるのうた合唱

 砂藤→クレープ屋

 

 

 

「一通り皆からの提案は出揃ったかな」

 

「不適切・実現不可・よくわからないものは消去させて頂きますわ」

 

「あっ」

 

「無慈悲っ」

 

「酷いやヤオモモ!」

 

「は?」

 

「ハナから聞くんじゃねーや」

 

 八百万が黒板に書いた僕のキラメキショー(よくわからないもの)暗黒学徒の宴(よくわからないもの)サルミアッキ屋さん(実現不可)オッパブ(不適切)殺し合い(デスマッチ)(実現不可)を消すと、提案者の青山、常闇、ひなた、峰田、爆豪が不満を漏らす。

 

「郷土史研究発表もな━━、地味よねぇ」

 

「確かに」

 

「うん」

 

「別にいいけど他が楽しそうだし」

 

「総意には逆らうまい!」

 

 クラスメイトが飯田の案に不満を漏らすと、飯田は悔しそうに歯を食いしばる。

 

「勉強会はいつもやってるし」

 

「出し物ではないよね」

 

「お役に立てればと…つい」

 

 さらに八百万の案にも不満の声が上がると、八百万は恥ずかしそうにそっぽを向く。

 

「食いモン系は一つにまとめられるくね?」

 

「蕎麦とクレープはガチャガチャしねぇか?」

 

「じゃあいっその事間を取ってガレットにするっていうのはどう?」

 

 A組は出し物について話し合いをしていたが、段々とヒートアップししまいには喧嘩に発展してしまった。

 何人かの生徒がギャーギャーと騒ぎ立てる。

 

「だァからオリエント系にクレープは違うでしょー!」

 

「やっぱりビックリハウスだよ━━━!」

 

「皆でサルミアッキ食べたら美味しいよー」

 

「「「却下!!」」」

 

「静かに! 静かにィ!!」

 

 飯田が必死に喧嘩を止めようとしていると、八百万が呆れた様子で口を開く。

 

「まとまりませんでしたわね…」

 

 するとそこでチャイムが鳴った。

 そしてそれと同時に相澤が口を開く。

 

「実に非合理的な会だったな。明日朝までに決めておけ。決まらなかった場合…公開座学とする」

 

((((公開座学!!))))

 

 結局クラスの出し物は放課後に決めなければならなくなった。

 だがインターン組は補習があり、残りのメンバーで出し物を決める事となった。

 インターンに参加したひなた、蛙吹、麗日、切島、心操、常闇、緑谷は補習室で授業を受ける。

 そして授業後。

 

「今日の補習はここまでだ。解散の前に一つ…相澤、緑谷、心操」

 

「「「?」」」

 

「エリちゃんがお前らに会いたがってる」

 

「「「!」」」

 

 相澤が言うと、三人がノートを書く手を止めた。

 すると蛙吹が尋ねる。

 

「ひなたちゃん達に会いたがってる?」

 

「ああ。厳密には三人と通形を気にしている。まあ元から相澤にはエリちゃんが落ち着いたら会ってもらう予定だったが…要望を口にしたのは入院生活始まって以来初めての事だそうだ」

 

 それを聞いた三人は嬉しそうにしていた。

 三人とも壊理を心配しており早く会いたいと思っていたので、当然壊理に会いに行く事にした。

 

「明日はエリちゃんの所に行く予定だ。お前らも来い」

 

「「「はい!!」」」

 

 相澤からの願ってもない提案に、三人は喜んで返事をする。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一方その頃先に寝た爆豪を除く他の13人はというと。

 飯田は、パソコンで文化祭の出し物のヒントになりそうな情報を集めていた。

 

「落ち着いて考え直してみたんだが…先生の仰っていた他科のストレス、俺達は発散の一助となる企画を出すべきだと思うんだ」

 

「そうですわね…ヒーローを志す者がご迷惑おかけしたままではいけませんもの」

 

 飯田が言うと、隣に座っていた八百万が同意する。

 すると飯田が話し始める。

 

「そうなると正直…ランチラッシュの味を知る雄英生には食で満足させられる物を提供出来ないと思うんだ」

 

「あ、飯系ダメって事?」

 

「個人的にはだ、他科へのサービスと考えれば」

 

 飯田が言うと、障子が考え直す。

 

「そう言われるとそうだな…俺達が楽しいだけでは彼らに申し訳がない」

 

「それじゃあ」

 

「体験系…該当するものとなりますと…」

 

「メイド喫茶、猫カフェ、ビックリハウス…この辺か」

 

「猫カフェは衛生上厳しそうじゃね?」

 

「うーん発散…」

 

「コントとかは駄目かな?」

 

「素人芸程ストレス与えるモンはねーよ!」

 

「皆で踊ると楽しいよ…」

 

 芦戸が足をパタパタさせながら言うと、轟が椅子から立ち上がる。

 

「ダンス良いんじゃねぇか?」

 

「超意外な援軍が!!」

 

「ちょっといいか、何かあっただろ。何て言うのか知らねぇけど…バカ騒ぎするヤツ。ああ、こういうヤツだ」

 

 轟は、飯田のパソコンを使って動画を再生する。

 轟が再生したのはアーティストのライブ映像だった。

 するとクラスメイトが一斉にツッコミを入れる。

 

「「「轟から出る発想じゃね━━━━!!」」」

 

「パーティーピーポーになったのか轟…!?」

 

 峰田と砂藤は、恐る恐る轟を見る。

 

「違ぇ。飯田の意見はもっともだと思うし、その為には皆で楽しめる場を提供するのが適してるんじゃねぇか。仮免補講からの連想なんだが…」

 

「どんな補講だったんだよ…」

 

 補講で小学生と遊んだ経験をもとに提案した轟だったが、クラスメイトからはディスコダンスでもやらされたのかと思われていた。

 すると飯田が轟の意見に納得する。

 

「なるほど…」

 

「今一度言うが素人芸程ストレスなモンはねえぞ!?」

 

「私教えられるよ!!」

 

「ツーステップ」

 

 瀬呂が猛反対するが、芦戸がステップを踏む青山を指差しながら名乗りを上げる。

 朝はデタラメな動きをしていた青山だったが、芦戸の指導により華麗にステップを踏んでいた。

 

「奇っ怪な動きだった素人が、一日でステップをマスターした! 芦戸の指導は確かだ!!」

 

「待て素人共!! ダンスとはリズム!! すなわち音だ!! パリピは極上の音にノるんだ!!」

 

「音楽といえばぁ━━━━━━…!」

 

 峰田と葉隠が声を上げ、クラスメイトが一斉に振り向く。

 クラスメイト達の視線は、耳郎に集まっていた。

 

「え、何?」

 

「耳郎ちゃんの楽器で生演奏!!!」

 

 葉隠が言うと、耳郎が恥ずかしがる。

 

「ちょっと待ってよ」

 

「何でェ!?」

 

「耳郎ちゃん演奏も教えるのもすっごく上手だし、音楽してる時がとっても楽しそうだよ!」

 

 葉隠は耳郎を褒めるが、当の本人はやりたくないというよりは自信がなさげだった。

 

「芦戸とかさ、皆はちゃんとヒーロー活動に根差した趣味じゃんね? ウチのは本当ただの趣味だし…正直表立って自慢出来るもんじゃないっつーか…」

 

「そういう事か、昼間のアレは」

 

 耳郎がジャックをカチカチしながら言うと、上鳴が耳郎にズイと顔を近づけて言った。

 

「あんなに楽器出来るとかめっちゃカッケーじゃん!!」

 

 すると轟も耳郎に声をかける。

 

「耳郎、俺は十分ヒーロー活動に根差した趣味なんじゃねぇかな。自分が楽しいだけじゃなくて、皆で楽しめる趣味があるっていい事だと思う」

 

 轟が言うと、耳郎はぐっと口を噤む。

 すると八百万が耳郎に助け舟を出す。

 

「お二人の主張もよくわかりますわ。でもこれから先は耳郎さん本人の意志で────」

 

 だが、耳郎は頭を掻くと恥ずかしそうに言った。

 

「ここまで言われてやらないのも…ロックじゃないよね…」

 

「「「おお〜!」」」

 

「じゃあA組の出し物は━━━生演奏とダンスでパリピ空間の提供だ!!」

 

 こうして、A組の出し物は生演奏とダンスに決まった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ひなたと心操と緑谷は、壊理が三人と通形に会いたがっているという事で壊理が入院している病院に見舞いに行く事にした。

 そして面会当日。

 

「三人共━━━!! 行くよ━━━!!」

 

 通形と相澤は先に寮の前で待っており、通形はフルーツの盛り合わせを、相澤は紙袋を持っていた。

 通形が三人を呼ぶと、私服姿の三人が慌ただしく玄関から出てくる。

 

「「はい!」」

 

「すみません、バタバタしちゃって!」

 

 呼ばれた緑谷と心操は返事をし、ひなたはバタバタした様子で謝る。

 

「遅い。時間の使い方がなってないね」

 

「「「すみません…」」」

 

「まあいい、行くぞ」

 

 慌てて飛び出してきた三人に対して相澤が嫌味たっぷりに言うと、三人は顔を引き攣らせて謝った。

 

「ところでお父さ…じゃなかった、先生。その紙袋何ですか?」

 

 ひなたが相澤の持っていた紙袋を指差して尋ねると、相澤が答える。

 

「これか。エリちゃんへのプレゼントだ」

 

「……ちょっと見ていいですか?」

 

 嫌な予感がしたひなたは、チラリと紙袋の中を覗く。

 紙袋の中に入っていたのは、『GANRIKI NEKO』という目力の強い猫がプリントされた激ダサトレーナーとタイツ、そしてトレーナーに合わないフリルのスカートだった。

 するとひなたは、『やりやがったこいつ』と言いたげな表情を浮かべて心操と顔を見合わせる。

 

「………ごめんお父さん。服はちゃんと僕が一緒に選んであげるべきだったね…」

 

「先生…この事はクラスの皆には黙っておきますんで」

 

「どういう意味だ」

 

 ひなたが申し訳なさそうに謝り、心操が顔を逸らしながら言うと、相澤が睨んだ。

 実は相澤はファッションセンスが壊滅的で、運良く相澤の趣味の悪さが遺伝しなかったひなたは人並みにはファッションセンスがあり、相澤の外行きの服はひなたが選んでいる事も少なくはなかった。

 そのため、相澤の外行きの服装はひなたと山田が代わりに選んでいるのだ。

 そして寮を出発した5人は、壊理のいる病院へ見舞いに行く。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 通形、ひなた、心操、緑谷の4人が壊理の病室に入ると、ベッドの上に子供用の患者衣を着た壊理がいた。

 オーバーホールに付けられた腕の傷はまだ残ってはいたものの、角は小さく縮んでおり大分回復している様子だった。

 思いの外元気そうな壊理の姿を見た4人は、思わず笑みが溢れる。

 

「大丈夫ですかね? 事件を思い起こさせるものは遠ざけた方がいいという判断でしたが…」

 

「暴走を懸念していた。しかし少なくとも今は心配要らんだろう。今のあの子に暴走する程のエネルギーは無い」

 

 看護師が壊理の暴走を心配して担当医に尋ねると、担当医は小さく縮んだ壊理の角を見て言った。

 すると4人が壊理に話しかける。

 

「エリちゃん…」

 

「久しぶりエリちゃん! 今日は調子どうかな」

 

「会いに来れなくてごめんね」

 

「フルーツの盛り合わせ! 良かったら食べて! 好きなフルーツある!? 俺当てていい!? 桃でしょ!? ピーチっぽいもんね!」

 

 通形が籠を渡しながら言うと、壊理は籠を受け取りながら答える。

 

「リンゴ」

 

「だと思ったよね!!」

 

「ええ…」

 

 壊理がおずおずと答えると通形は思いきり間違えたのを無かった事にしたので、心操は若干顔を引き攣らせていた。

 ひなたは、壊理が所望したリンゴを切り分けてウサギリンゴを作った。

 そしてリンゴを一個食べると、壊理は話し始める。

 

「ずっとね、熱出てた時もね、考えていたの。救けてくれた時の事…でも、お名前がわからなかったの。ルミリオンさんしかわからなくて、知りたかったの」

 

 壊理が言うと、緑谷は自己紹介をした。

 

「緑谷出久だよ、ヒーロー名はデク! えっと…デクの方が短くて覚えやすいかな…デクで! デクです!」

 

「ひーろーめい?」

 

「あだ名みたいなものだよ」

 

「デクさん…」

 

 壊理が尋ねると、緑谷が答える。

 するとひなたと心操も自己紹介した。

 

「僕は相澤ひなただよ。ヒーロー名はクレシェンドモルト。ええっと…長いからクレシェンドでいいよ」

 

「俺は心操人使。ヒーロー名はまだ決めてない。好きに呼んでくれていいよ」

 

「ルミリオンさん、デクさん、クレシェンドさん、ヒトシさん。あと…メガネをしていたあの人…皆…私のせいでひどい怪我を…それに、ルミリオンさんも大怪我して、ヒトシさんに迷惑かけて…私のせいで…ごめんなさい」

 

 壊理が泣きながら言うと、通形は壊理の頭に手を置いて励ます。

 

「エリちゃん! 苦しい思いしたなんて思ってる人はいない。皆こう思ってる! 『エリちゃんが無事で良かった』って! 存在しない人に謝っても仕方ない!! 気楽にいこう、皆君の笑顔が見たくて戦ったんだよ!」

 

 通形が言うと、壊理は頑張って口角を上げようとしたり頬を引っ張ってみたりした。

 その様子に4人は首を傾げる。

 

「「「「?」」」」

 

「ごめんなさい…笑顔ってどうやればいいのか」

 

 その言葉を聞いた緑谷はハッとする。

 オーバーホールから肉体的には解放された壊理だったが、精神的にはまだ救われてはいなかった。

 ひなたは、そんな壊理に対し優しく言葉をかける。

 

「今は無理に笑おうとしなくて大丈夫だよ。そのうち心の底から笑えるようになればいいから。僕達も、エリちゃんが少しでも早く元気になれるように色々やってみるからさ」

 

 ひなたは、グッと両方の拳を握りしめながらパァっと笑顔を浮かべた。

 すると心操も、自分の思っている事を壊理に伝えた。

 

「ずっと、君を救う方法を考えてた。俺の力は、君が危なくなった時に止める事はできても、心を救う事はできないから…でもそれだけじゃなくて、いつかエリちゃんを心から笑顔にできるような、そんなヒーローになりたいって思ってる。お互い、少しずつ前向いていこうな」

 

 ひなたと心操は、うまく笑えない壊理を励まそうとした。

 すると緑谷は、ある事を思いついた。

 

「相澤先生、エリちゃん一日だけでも外出できないですか…?」

 

「無理ではない筈だが、というかこの子の引き取り先を今…」

 

「じゃあ、エリちゃんも来れませんか…!!?」

 

「あっ…!」

 

「……なるほど」

 

 緑谷が言わんとしている事を察した相澤は、相槌を打った。

 すると、ひなたと心操もそれを察して僅かに目を見開く。

 

「文化祭! エリちゃんも来れませんか!?」

 

 それを聞いた通形は、その手があったかと言わんばかりに笑顔を浮かべた。

 すると壊理が通形に尋ねる。

 

「ぶんかさい…?」

 

「エリちゃん! これは名案だよ! 文化祭っていうのはね! 俺達の通う学校で行うお祭りさ! 学校中の人が学校中の人に楽しんでもらえるよう出し物をしたり食べ物を出したり…あ! リンゴ! リンゴ飴とか出るかも!」

 

「リンゴ飴…?」

 

「リンゴをあろう事かさらに甘くしちゃったスイーツさ!」

 

「さらに…」

 

 通形が言うと、リンゴ好きの壊理は涎を垂らす。

 すると、ひなたも触角をピンと立てて口を開く。

 

「あ、あとクレープ! 先輩、去年クレープ出てませんでした?」

 

「ああ、そういえば出てたよね!」

 

「それだ、ひなたナイス」

 

 ひなたが通形や心操と一緒に盛り上がっていると、壊理が尋ねる。

 

「くれえぷ?」

 

「とっても甘くておいしいお菓子だよ! 甘くて薄い皮で、イチゴとかバナナとか、色んなフルーツを包んでるの! リンゴが入ってるやつもあるよ!」

 

「…!」

 

 ひなたが言うと、壊理は嬉しそうに目を見開く。

 すると相澤が携帯で根津校長に連絡する。

 

「校長に掛け合ってみよう」

 

「……それじゃあ…! エリちゃん…どうかな!?」

 

 緑谷が尋ねると、壊理は少し俯いて話し始める。

 

「……私、考えてたの。救けてくれた時の…救けてくれた人の事…ルミリオンさん達の事、もっと知りたいなって考えてたの」

 

 壊理が顔を上げると、通形は満面の笑みを浮かべる。

 

「嫌って程教えるよ!!! 校長にいい返事が貰えるよう俺達も働きかけよう!」

 

 話をしているうちに面会時間の終わりが近づき、ひなた達は壊理に別れの挨拶をすると寮へと戻っていった(ちなみに相澤が用意したプレゼントは、中身を確認した看護師がドン引きしこっそり可愛らしいデザインのワンピースとすり替えておいた)。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ひなた達が壊理との再会を果たしていたその頃、とある(ヴィラン)により一件の動画が投稿されていた。

 

『諸君、ご機嫌いかがかな。今日は私、強盗を働いております!』

 

 某所のコンビニで、紳士の風貌の男が強盗を働いていた。

 男は、レジにアタッシュケースを置きレジ打ちの店員にナイフを突きつける。

 すると店員は怯えながら両手を挙げた。

 

「見た事…あるぞ。お前、動画サイトを賑わせてる…」

 

「失礼、君とのトークを愉しむ時間はないのです。ヒーロー達が来る前にこのブリーフケースに現金を! さぁ! あ、千円札は10枚単位でまとめてくれると助かります。そうそう、二つ折りにして包「武器を捨てろ!!」

 

 男が店員を脅しながら指示を出していたその時、ヒーロー達がコンビニに駆けつけた。

 すると女性が動画を撮りながら男に連絡を入れる。

 

『マズいわ、もうヒーローが! 大丈夫なの!? 『ジェントル』!!』

 

「ハッハッハッ、落ち着きたまえラブラバ。私がたった二人の英雄に手間取るとでも────…」

 

 ジェントルと呼ばれる男が余裕の笑みを浮かべると、動画には『余裕のジェントル!!』というテロップが出る。

 するとその時、さらにヒーローが来た。

 

「武器を捨てろ!!」

 

 ヒーロー達が警告すると、『めっちゃ来た』とテロップが流れる。

 

「……ラブラバ」

 

『わかってるわジェントル!!』

 

「ここはカットで!!」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 グニャグニャと歪むコンビニの前にはボロボロのヒーロー達が倒れており、強盗を働いたジェントルは杖をつきながら颯爽と歩く。

 するとジェントルの助手の女性ラブラバが男に声をかける。

 

『待ってジェントル! お金を忘れているわ!』

 

 レジの前には、アタッシュケースが落ちていた。

 するとジェントルは高笑いしながら答える。

 

「いいやラブラバ、出演料の支払いさ。お金など目的になり得ない。歴史に名を残したい、そう…それが私!! ジェントルさ!!」

 

 ジェントルがカメラの方を向くと、『カメラ目線! カッコいいわジェントル!!』とテロップが現れる。

 ラブラバが撮ったジェントルの強盗動画だが、いざ動画サイトに投稿してみるとあまり再生数は伸びなかった。

 高層ビルの屋上で携帯で動画を見ていたラブラバは、不満そうに声を漏らす。

 

「再生数が伸び悩んでるわジェントル! ジェントルは今日もこんなに素敵なのに!! 何でかしら!!」

 

「やはり…もっと大きな偉業を成し遂げねばならない。偉業とは行動の意味…時代への問いかけさラブラバ」

 

 ジェントルはそう言ってどこからか取り出したティーポットで高い位置からティーカップに紅茶を注ごうとする。

 だが、吹き付ける風によって紅茶が飛ばされ自身とラブラバの服に紅茶がかかる。

 

「私は探しているよラブラバ! 私をもっと偉大にしてくれる案件を」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

『オールマイト、ブレイブ、(クリムゾン)ライオット。自警時代から今日に至るまでヒーローと呼ばれ歴史に燦然と輝く者がいる。伝説の支配者オール・フォー・ワン、“異能解放軍”指導者デストロ、希代の盗人“張間欧児”。一方で歴史には(ヴィラン)(犯罪者)とされた者も多く名を残しているのだ。制度が定まる以前、ヒーローも(ヴィラン)もまだ境界が曖昧だった頃、混沌の時代だ……しかしそこには自由が在った! アングレーズさながら剥き出しの自由が確かに在った!』

 

「すてき…」

 

 ジェントルのアジトでは、ラブラバは若かりし頃のジェントルが語っている動画に見惚れていた。

 

『初めまして諸君! ここよりお届けするのは怪傑浪漫! そう! 私はジェントル!! ジェントル・クリミナル!!』

 

「キャ━━━━━━━━!!」

 

 映像のジェントルが語ると、ラブラバは感極まって叫び声を上げながら椅子から転げ落ちる。

 するとティーカップとティーポットを持ったジェントルが部屋に入ってくる。

 

「ラブラバ、アップロードは済んだのかい?」

 

「ええジェントル!! またアカウントが削除されていたの。だから私、デビュー動画から全て上げ直したわ!! モーニングコーヒー代わりのデビュー動画で私卒倒していたのよ!」

 

「ラブラバは今日も素晴らしい仕事ぶアッツ」

 

 ティーポットを高々と掲げてティーカップに紅茶を注ごうとするジェントルだったが、狙いを外して思いきり左腕に熱々の紅茶をぶっかける。

 

「さて…今日の撮影に行こうじゃないか! この一杯を優雅に済ませてね」

 

 そう言ってジェントルは、紅茶の溢れたティーカップでほとんど入っていない紅茶を啜る。

 ジェントルは、いわゆる犯罪行為といわれる動画をサイトにアップする男だった。

 だがジェントルは所謂義賊だった。

 例えば以前強盗に行ったコンビニでは消費期限ギリギリのプリンをラベル偽造し販売していた疑惑が浮上しており、にもかかわらず本社はシラを切り事はうやむやに終わろうとしていた。

 そのためジェントルはコンビニ強盗をする事でそのコンビニに制裁を与えようとしていたのだ。

 

「くやしいわジェントル!」

 

「何がだいラブラバ」

 

 ラブラバが悔しそうに怒鳴っていると、ジェントルが尋ねる。

 するとラブラバが不満を漏らした。

 

「だってJストアの動画全然伸びないんですもの! 世間の見る目がないのよ! ジェントルはこんなに素敵なのに!」

 

「ハッハッハッ! 外に原因を求めていては成長できないよ、ラブラバ」

 

「でもでもだって! ジェントルはもう6年も前から動画界の(ヴィラン)として活躍してきたのよ!? 突然ステインとかいう奴の人生動画にお株を奪われて!! しかも本人じゃなく転載よ! 今や(ヴィラン)といえば(ヴィラン)連合一色! 陰湿でくらーい!! 嫌な感じ!!」

 

 ラブラバは、誰よりも尊敬しているジェントルが(ヴィラン)として全く評価されない事を遺憾に思い地団駄を踏んでいた。

 するとジェントルが語り始める。

 

「そうだねラブラバ。過激で暴力的な行動は時に人を魅了する。私の流儀とは反する…しかし勢いがある事もまた事実。彼らについての動画には全て一万を超えるコメントが。それに対し見たまえ、私へのコメントを」

 

 ジェントルの動画のコメントには、『やってる事が小さい』『微妙な事件にしか制裁しない』『失敗ばかりで腹立つ』などといった辛辣なコメントが寄せられていた。

 

「ジェントル…!!」

 

 それを見たラブラバは、ジェントルをフォローする言葉を探す。

 だがジェントルは、高笑いしながら言った。

 

「しかし私はめげたりしないのだ、ラブラバ!! なぜか!! 次の企画はそれすら凌駕してしまうからさ!」

 

 ジェントルが言うと、ラブラバは黄色い声を上げながらジェントルに尋ねる。

 

「すてき! 聞かせてジェントル、次の企画は何なのよ!?」

 

「偉業とは常に時代への問いかけだ。彼らを話の中心たらしめた始まりの地。そこが次の案件だ」

 

 壊理の見舞いに行っていたひなた達や文化祭の準備に勤しむクラスメイト達は、水面下で(ヴィラン)が動き出そうとしている事など知る由もないのだった。

 

 

 

 

 

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