抹消ヴォイスのヒーローアカデミア   作:M.T.

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文化祭って準備してる時が一番楽しいよね

 ジェントルとラブラバが何かを企んでいた頃、雄英の職員室では。

 B組の担任のブラドキングとA組の担任の相澤が話し合っていた。

 

「A組の出し物はバンド演奏とダンスホールを融合したような空間…か」

 

「他科へ何か貢献できないかと考えてのコレだそうだ」

 

「そいつはまァ偉い発想だ」

 

 相澤が言うと、ブラドキングが感心する。

 だが相澤は、複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「……俺は正直…どうだかな」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして授業が終わり、A組は寮に戻ろうとしていた。

 

「ごめん皆、僕達これから補習だから話し合い先進めといて!」

 

 ひなたは、申し訳なさそうに右手を顔の前で手刀のような形にしながら謝る。

 

「うん」

 

「大変そうだねぇ」

 

 ひなたが謝ると、尾白が頷き葉隠がコメントする。

 するとひなたの隣にいた心操がひなたの小さな手を握る。

 

「じゃ、行こっかひなた」

 

「う、うん…」

 

 心操がひなたの手を握って歩き出すと、ひなたが触角をピコピコさせて顔を赤くしながら頷く。

 二人は、手を繋いで一緒に本校舎へと戻っていった。

 芦戸と瀬呂は、心操がちゃっかりひなたの手を恋人繋ぎしているのを見逃さず、二人してニヤニヤしていた。

 

「やっぱりデキてら」

 

「あいつらセットで新婚夫婦って呼んでやろうぜ」

 

 二人は、早速心操とひなたをいじり倒す準備をしていた。

 一方で峰田と上鳴は、嫉妬を爆発させそうになっていた。

 

「チ゛ク゛シ゛ョオ゛…!! 心操の野郎、抜け駆けしやがって…!! 爪割れろ! チンコもげろ!!」

 

「無欲の勝利ってか…!」

 

 上鳴は拳を握って軽く悔しがっている程度だったが、峰田に至っては血涙を流して心操に怨念を向けていた。

 他のA組は、アホ二人を放って寮へと足を進める。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その後残ったA組は、出し物の話し合いを進める。

 

「色々決めないとねェ!!」

 

「どういうのが喜ばれるだろうか!!」

 

「んん」

 

 主に芦戸と上鳴がはしゃぎながら言い、耳郎も頭を捻る。

 すると、普通科の生徒達がA組の方を見てヒソヒソと話しているのが爆豪に聞こえる。

 

「ねェ聞いた? ヒーロー科A組ライブやるんだって。“俺達の為に”」

 

「いい気なものだよ。振り回してる張本人なのに」

 

 普通科の生徒達が見るからに不服そうな表情を浮かべて不満を漏らすと、爆豪は眉を顰める。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 寮に戻った補習組以外のA組は、それぞれ何をやるかを話し合っていた。

 委員長の飯田が出し物について話をする。

 

「文化祭はちょうど一ヶ月後! 時間もないし色々決めてしまいたい」

 

「まずは楽曲だね」

 

「やっぱノれるやつっしょ!」

 

「じゃあなるべく皆が知ってる曲をやるべきじゃね!?」

 

「踊れるやつ〜〜!!」

 

 A組は、何の曲をやるかでワイワイと話し合っていた。

 するとA組の中では一番音楽に詳しい耳郎が提案する。

 

「となると4つ打ち系だよね。ニューレイヴ系のクラブロック。ダンスミュージックだと本当はEDMで回した方がいいけど、皆は楽器やる気なんだよね?」

 

 耳郎が言うと、尾白と瀬呂がポカンとする。

 

「ベースとかドラムとかやってた人いる?」

 

 耳郎が聞くと、全員が黙った。

 当然だが、楽器経験者自体がほとんどいなかった。

 

「だよね…まずバンドの骨子ってドラムなんだけどさ、ウチギターメインでドラムは正直まだ練習中なのね。初心者に教えながらウチも練習しなきゃだと一ヶ月じゃ正直キツい」

 

 耳郎は、まずドラムの係を募った。

 だがその場にいたメンバーは自信がないのか、誰も立候補しなかった。

 すると、上鳴が唐突に言った。

 

「あ、つーかお前昔音楽教室行かされたっつってたじゃん」

 

「え?」

 

 上鳴は、爆豪の方を向いて言った。

 するとクラス全員が驚く。

 本人も自分が指名されると思っていなかったのか、若干キョトンとしていた。

 

「あ?」

 

「「「「え〜〜〜〜意外!!!」」」」

 

 爆豪がキョトンとしていると、その場にいた大半が驚いて声を上げる。

 すると瀬呂が、どこからかドラムを持ってきて爆豪にドラムのスティックを差し出す。

 

「爆豪ちょっとドラム叩いてみろよ」

 

「誰がやるかよ」

 

「ひなちゃんがムズいっつってたぞ」

 

 悪態をつく爆豪に対し、瀬呂がニヤニヤしながらひなたの名前を出して煽る。

 実際、ひなたもドラムはやった事はあったのだが、天性の楽器の才能がある彼女ですら『難しいから死ぬ気でやって一週間かかった』と語っていた事があった。

 するとひなたをライバル視している爆豪は、ドラムセットの前に座ってドラムを叩く。

 

「あ?」

 

 そのテクニックはプロ並みで、クラス全員が目を丸くしていた。

 楽器上級者の耳郎ですら、驚愕して震えていた。

 

「か…完璧」

 

「すげぇ、才能マンキタコレ」

 

「爆豪ドラム決定だな!」

 

「あ?」

 

 クラスメイトから称賛されドラム担当を勧められる爆豪だったが、当の本人は気に食わない様子だった。

 

「………そんな下らねー事やんねぇよ俺ァ」

 

 爆豪が悪態をついて部屋に戻ろうとすると、耳郎が引き止める。

 

「爆豪、お願い! つーか、あんたがやってくれたら良いものになる!」

 

 すると爆豪が立ち止まって言い放つ。

 

「なる筈ねぇだろ! アレだろ? 他の科のストレス発散みてーなお題目なんだろ? ストレスの原因がそんなもんやって自己満以外の何だってんだ。ムカつく奴から素直に受け取るわけねぇだろが」

 

 爆豪が言うと、耳郎はハッとした。

 爆豪は、放課後に普通科の生徒がA組がバンドをやるのを快く思っておらず陰口を叩いていたのをずっと気にしていたのだ。

 普通科にとってのストレスの原因であるA組がいくら他の科のストレス発散の為の出し物を披露したところで、余計にストレスになるだけだった。

 

「ちょっと…そんな言い方…」

 

「そういうのが馴れ合いだっつってんだよ」

 

 葉隠が(実際は見えないが)頬を膨らませて注意すると、爆豪がキレる。

 爆豪が言うと、他のクラスメイト達も考え直す。

 

「いやしかし…確かに配慮が足りなかったか…」

 

「話し合いに参加しねぇで後から腐すなよ」

 

 飯田が考え直し、轟が爆豪に注意すると、爆豪が言い放つ。

 

「ムカつくだろうが。俺達だって好きで(ヴィラン)に転がされてんじゃねぇ…!! 何でこっちが顔色伺わなきゃなんねぇ!! てめぇらご機嫌取りのつもりならやめちまえ! 殴るんだよ……! 馴れ合いじゃなく殴り合い…!! やるならガチで───…雄英全員、音で殺るぞ!!」

 

 爆豪の言葉に、耳郎は自分達のやるべき事、そして自分自身のやりたい事に初めて気がつく。

 爆豪が指で首を切りながら言うと、クラス全員の士気が一気に高まった。

 

「「「「バァクゴォオオ!!」」」」

 

 爆豪がドラムを引き受けると、クラスメイトの大半が大喜びした。

 それを見た飯田は、感心した様子で口を開く。

 

「爆豪くん自身攫われて多大な負荷を負っているのかもな…」

 

「理屈がヤバいけどやってくれるんだね! やったね耳郎ちゃん!」

 

 葉隠が耳郎に抱きつくと、耳郎は笑顔を浮かべる。

 

「ウチ、頑張るよ」

 

 こうしてバンドのドラムは爆豪に決まった。

 次は他の役割を誰が担当するかを決める事になった。

 

「あと…シンセはひなたかな」

 

「賛成ー! ひなたちゃん超絶技巧だったもんねえ!」

 

 耳郎と葉隠は、ひなたをシンセサイザーに推薦した。

 ひなたは楽器全般得意で、特にピアノの演奏に関しては天才の一言に尽き、『ラ・カンパネラ』や『ヴォロドス編トルコ行進曲』等の難曲を弾きこなせるプロ顔負けの演奏技術を持っていた。

 ピアノだけは右に出る者がいないひなたは、シンセサイザーに最適に思われた。

 だがそれに関して飯田が発言する。

 

「それなんだが…ひなた君はインターンの時に左腕の尺骨神経を負傷していて、まだリハビリ中だ。全治三ヶ月と診断されたそうだ。未だに小指が痛んで思うように動かせないらしい」

 

「そんな…まさかまた俺の呪いが今になって…!?」

 

「轟くん!?」

 

 飯田が言うと、ハンドクラッシャーこと轟が過剰反応する。

 轟は飯田や緑谷が腕に爆弾を抱えたのは自分が関わったせいだと思っており、ひなたが腕を痛めたのもステインの時の腕の呪いが今になって効いてきたのかもしれないと心配していた。

 

「えー、じゃあキーボード無理って事!?」

 

「そうなるな…」

 

「まァでも怪我なら仕方ねーわな」

 

 シンセサイザーに適任のひなたが出来ない事がわかると、クラスメイト達は残念がる。

 ひなたは、治崎との戦闘中に腕を折られた際尺骨神経に傷がついており、未だに左手の小指が思うように動かせないので、キーボードを弾けないのだ。

 すると、八百万が手を挙げる。

 

「私、幼少の頃から教養の一環でピアノを嗜んでおりましたが…私で宜しければお引き受けしましょうか?」

 

「わ━━! じゃあヤオモモはキーボードだ!」

 

「シンセは…クラブミュージックに欠かせないポジなの。ヤオモモ助かるよ!」

 

「頑張りますわ!」

 

「え━━女子でガールズダンサーズやろって話してたのに!! でもカァイイからいいや!!!」

 

 八百万にはダンスをやって欲しかった芦戸だったが、耳郎に任された八百万がプリプリしていたため渋々納得した。

 こうしてバンドのキーボードは八百万に決まった。

 耳郎は、続いて残りのギターとボーカルも決めるためメンバーを募る。

 

「ベースはウチやるから、あとはギターとボーカルだね」

 

「それ以外の人はダンス?」

 

「うむ…ただ…普通にそれだけで盛り上げられるか…」

 

 飯田が考え込むと、轟と芦戸が提案する。

 

「それはあの馬鹿騒ぎするヤツの」

 

「演出を加えなきゃ━━━!!」

 

「それだ」

 

「演出?」

 

 クラスメイト達がキョトンとしていると、芦戸がパソコンを叩いて動画を見せる。

 その映像は、天井から吊るされたミラーボールが輝きテープが散りばめられている中でバンドをしている動画だった。

 

「例えばコレね、火花とかテープとかミラーボール。空間作りで欠かせないのが演出!!」

 

「ディズニーパレードみたいにしようよ!」

 

「それの参加一体型!」

 

 芦戸が提案すると、葉隠も乗ってきた。

 

「体育館を借りるんだっけ!?」

 

「ああ。既に相澤先生が手配してくれている」

 

 芦戸が演出の話をすると、会場をどうするのかという話になった。

 すると、芦戸が再び提案する。

 

「じゃあね、例えば例えば、麗日が轟と切島を浮かしとくでしょー!? でね! 轟の氷を切島がゴリゴリ削るの! んで青山がミラーボールになってるから…」

 

「!?」

 

 芦戸が思いついた案を説明すると、青山が振り向く。

 

「スターダストみたく光がキラキラ舞い落ちるんだよ! チームスノーマンズ!!」

 

「アッハハハハ氷カキ器!!」

 

「前話してたチームコンボだ!?」

 

「実に良いと思う!! 盛り上がりに華を添える大事な要素だ!」

 

「僕がミラーボール? 良いじゃない☆」

 

 芦戸が提案すると葉隠と飯田が賛成する。

 青山本人も、嫌がっているのかと思いきや存外乗り気だった。

 

「そうなると演出の裏方さんも要るねぇ」

 

 A組が演出の話をしていた、その時だった。

 寮の玄関の扉が開き、補習組7人が戻ってくる。

 

「うーす」

 

「補習今日でようやく穴埋まりました。本格参加するよー!」

 

「ねえ出し物どこまで決まった?」

 

 ひなた達は、出し物について決まったところまで説明を聞いた。

 バンドは耳郎がベース、爆豪がドラム、八百万がキーボード、演出は轟と青山がやる事になった。

 あとはボーカルとギター、そして他の裏方を決めるだけとなった。

 すると麗日が唐突に尋ねる。

 

「へ? 歌は耳郎ちゃんじゃないの?」

 

「俺もてっきり耳郎がやるものかと…」

 

「いやまだ全然…」

 

 麗日と心操が言うと、耳郎が軽く手を振る。

 すると出しゃばってくる者達が三人いた。

 

「ボーカルならオイラがやる! モテる!」

 

「ミラーボール兼ボーカルはそうこの僕☆」

 

「オウ! 楽器は出来ねーけど歌なら自信あんぜ!」

 

「じゃあマイクあるから試しに歌ってみ?」

 

 耳郎がやりたがらずにいると、峰田、青山、切島が立候補する。

 するとひなたがマイクを差し出してくるので、試しに三人が歌う事になった。

 

「漢のオオブザシップてめェがアレを取れィ」

 

「ジャンルが違くない?」

 

「だよね」

 

 切島は熱唱するが、そもそも今回の出し物の曲とはジャンルが違った。

 

「%@#$※&¥ー*◉#¥¥!!」

 

「がなってるだけじゃない?」

 

「聴くに耐えない」

 

 次は峰田が歌うが、がなっているだけで音程が滅茶苦茶な上に歌詞が全く聞き取れなかった。

 ひなたに至っては、耳を塞ぎながら辛辣なコメントをしていた。

 

「ハ━━━━━!!」

 

「裏声」

 

「歌…ではないよね」

 

 青山に至っては、裏声を出すだけでそもそも歌っていなかった。

 すると瀬呂が心操に提案する。

 

「そうだ心操、お前どうだ? お前歌すげえ上手いだろ?」

 

「いや…大勢の前で歌うのはちょっと…」

 

 瀬呂が言うと、心操は軽く手を振る。

 心操も歌は上手かったのだが、如何せん大勢の前で自信を持って歌える性分ではないので棄権した。

 

「ひー君の歌声は耳が孕む」

 

「気色悪い事言うんじゃないよ」

 

「あでっ」

 

 ひなたが瀬呂の発言にうんうんと頷きながら変態じみた発言をすると、心操はひなたを小突く。

 すると耳郎がひなたに提案する。

 

「ひなた、どうかな? この前ピアノ弾きながら歌ってた歌、上手かったし」

 

「あ…じゃあやってみたいかも…!」

 

「お!? マジ!? じゃあちょっと歌ってみてよ」

 

 耳郎がひなたを推薦すると、ひなたは触角をピコピコさせて頷く。

 ひなたは、壊理に文化祭の出し物を見せる約束をしていたため、どうせならアピールチャンスが欲しいと思っていたところだったので、ボーカルに挑戦してみたいという気持ちはあった。

 すると瀬呂がひなたにマイクを差し出してくるので、ひなたはマイクを受け取ると、手に持っていたスマホで音源を探す。

 

「んー、じゃあ…ペルソナ4の『True Story』歌います」

 

 ひなたが選曲したのは、人気ゲーム『ペルソナシリーズ』のアニメ作品に登場するキャラクターが歌っていた劇中歌だった。

 ひなたがスマホをスピーカーに繋いで音源を再生すると、ギターを基調とした軽快な音源が聴こえてくる。

 ひなたは、リズムに合わせて軽くステップを踏みながら歌い出した。

 

 

 

 ───また今日も 胸の奥 閉ざしたHeart Beat

 ───見て欲しい 見せたくない どうどう巡り

 ───夢中だけじゃ 分からないんだ

 ─── Say Hello(Hello!)

 ───千の嘘 全部けとばして

 

 ─── Shout Friends 本気の言葉だけ

 ───響け 世界の彼方まで

 ─── Ring Bells 知らない鐘の音が

 ───君のドア 叩いたらTrue Story

 

 ───胸騒ぎ 無視しても 心がFeel Blue

 ───結局は 手につかない 朝が来ちゃう

 ───思うだけじゃ 届かないんだ

 ─── Change Yourself

 ───神様に 任せてらんない

 

 ─── Just Find 本当は聞こえてた

 ───君の切ない声 ずっと

 ─── Shake Hands 手をつなぐ勇気で

 ───星がいま 星座になるよ

 

 ─── Shout Friends 本気の言葉だけ

 ───響け 世界の彼方まで

 ─── Dream Bells 2人の鐘の音が

 ───明日のドア 開いてくTrue Story

 

 

 

「「「おお…!」」」

 

 ひなたが歌を歌うと、クラスメイト達が目を見張る。

 ひなたは、照れ臭そうに頭を掻きながら感想を求める。

 

「…どうでした?」

 

「うま…!! 確かに上手い!」

 

「才能ガールだチクショウ!」

 

「えへへ…」

 

 ひなたが感想を尋ねると、歓声が上がる。

 予想以上の高評価に、ひなたは照れ臭そうに頬を掻く。

 すると、心操がひなたの顔を覗き込みながら尋ねる。

 

「ひなた、頑張れそう?」

 

 心操が尋ねると、ひなたは顔を真っ赤にしてヘドバンをするかのように高速首振りをする。

 

「が、ガンバリマス…!」

 

「えー、一緒にガールズダンサーズやろうと思ってたのにー! でもカァイイから許す!」

 

 ひなたは、緊張で全身ガチガチになりながらもボーカルを引き受けた。

 それに対して芦戸が文句をいったが、緊張しつつも触角の先をピコピコさせて引き受けているのが可愛いという理由であっさり許可した。

 だがふと、自分が引き受けて本当に最高のライブが完成するのかという考えに至った。

 

「じゃあボーカルはひなちゃんで決まりか」

 

「…あ、でもきょーちんさ、本当にやらなくていいの?」

 

「えっ?」

 

「僕は個人的な理由でボーカルやりたいんだけど、一人で歌うのハズカシイから一緒に歌ってほしいなぁ」

 

 耳郎の方がこの場に適しているだろうと思ったひなたは、耳郎の方を見ながら言った。

 すると葉隠も提案する。

 

「私も耳郎ちゃんだと思うよ! 前に部屋で教えてくれた時、歌もすっごくカッコよかったんだから!」

 

「そうそう! こういうカッコいい系の曲はきょーちんが一番向いてるよ! きょーちんが歌ってくれたら、絶対めっちゃいいものになると思う!」

 

 葉隠とひなたは、耳郎の方を向いて推薦した。

 すると耳郎は恥ずかしがって慌て出した。

 

「ちょっと…ハードル上げないでよ」

 

「良いから良いから」

 

 葉隠は、マイクスタンドを耳郎の前まで持ってきた。

 すると耳郎は腹を括って声の調子を整える。

 

「オイラ達の魂の叫びを差し置いて…どんなもんだよコラ…? ええコラ!?」

 

「耳郎の歌聴いてみてェな! いっちょ頼むぜ!」

 

 切島に後押しされた耳郎は、恥ずかしがりつつも歌い始めた。

 その歌声はまさに圧巻で、所謂ハスキーセクシーヴォイスというものだった。

 耳郎のあまりの歌の上手さに、音痴の峰田と青山は昇天していた。

 

「耳が幸せー!!」

 

「ハスキーセクシーボイス!」

 

「プロの歌手みたい!」

 

「「「満場一致で決定だ!!」」」

 

 こうして、ボーカルはひなたと耳郎に決まった。

 

「……じゃあそれはそれで…で!! あとギター!! 二本欲しい!」

 

 耳郎が言うと、上鳴と峰田が真っ先に手を挙げた。

 

「やりて━━!! 楽器弾けるとかカッケー!!」

 

「やらせろ!!」

 

 一方、先程手を挙げた切島は手を挙げなかった。

 

「俺弦切りそう」

 

 すると爆豪が上鳴に対し怒鳴りつける。

 

「やりてぇじゃねンだよ殺る気あんのか」

 

「あるある超ある! ギターこそバンドの華だろィ!!」

 

 上鳴は、ギターを持って音を出してみせる。

 だが峰田は、腕の長さが足りず弦に手が届かなかった。

 峰田は涙目になりながら床にギターを置くと、泣きながら壁際に走り去っていった。

 

「キャラデザのせいで手が届かねェよ…!!」

 

「ドンマイ」

 

 しょぼくれた峰田は、壁際で体育座りをする。

 クラスの中では峰田の次に小柄なひなたは、峰田に同情する。

 

「俺はダンスがいいな!」

 

「俺も! しっぽで割と動けるし」

 

「俺はテープで色々演出仕掛けたいな」

 

 他のメンバーはダンスや演出の方をやりたがっており、ギターを立候補する者はいなかった。

 楽器経験者のひなたは、仕方がないのでギターを兼任しようと手を挙げようとする。

 

「あの…」

 

「?」

 

「…あ、何でもない。ごめんなさい」

 

 自分がギターをやろうとしたひなただったが、ふと左手の小指が痛んでうまく動かせない事を思い出し、挙げようとした手を引っ込めた。

 すると、ひなたが手を挙げかけていたのを見た心操が床に置いてあったギターを拾う。

 

「俺にやらせてくれないか」

 

「!」

 

 心操が立候補すると、ひなたが目を見開く。

 ひなたは、心操が楽器経験者だという話は全く聞いていなかったので、かなり驚いていた。

 

「えっ、ひー君…ギターやった事あるの?」

 

「やった事無い…けど、お前が歌うなら俺がやりたい。もちろん、簡単じゃないのは百も承知だ。生半可な覚悟じゃダメだってわかってる。でも俺だって、全力で楽しみたいんだ」

 

 ひなたが尋ねると、心操は首を手で押さえて答える。

 その表情からは、文化祭を楽しむ為に全力を尽くすという意気が感じられた。

 するとひなたは、パァッと笑みを浮かべて大きく頷く。

 

「…わかった! そういう事ならいくらでも教えるよ! 絶対成功させようね!」

 

「ありがとな。俺…頑張るよ」

 

 ひなたが触角をピンと立ててニカッと笑うと、心操も首を手で押さえて微笑んだ。

 すると、先程ひなたにぞんざいに扱われた醜い葡萄が嫉妬を爆発させる。

 

「ケッ、結局どいつもこいつもルッキズムかよ…リア充死ね!! 爆散しろ!!」

 

 峰田は血涙を流して悪態をついていたが、心操の立候補は峰田以外のクラスメイトからは好印象だった。

 

「心操か。いんじゃね? 真面目だし、やる時やる奴だしさ」

 

「何だかんだアツいしな!」

 

「確かにね。心操なら上鳴より早く上達しそう」

 

「はぁ!?」

 

 瀬呂と切島が心操を推し、耳郎もしれっと上鳴よりも持ち上げると、上鳴がショックを受ける。

 心操が照れ臭そうにしていると、常闇が心操に声をかける。

 

「心操。お前が不安なら俺が力を貸そう」

 

「常闇…お前、ギター弾けるのか。何で黙ってたんだ?」

 

「Fコードで一度手放した身故」

 

(ああ、なるほど…)

 

 心操が尋ねると、常闇は僅かに切ない表情を浮かべる。

 Fコードは初心者が躓く最初の難関なので、ギター経験者のひなたは心の中で納得していた。

 常闇は、楽器未経験にもかかわらず文化祭をいいものにしたい一心で立候補した心操を手助けするため、ギター経験者として心操に指導をする事にした。

 

「お前とは何度も共闘した仲だ。お前が爪弾くというのなら、俺が後押しする」

 

「ありがとな。俺もお前が協力してくれるなら心強いよ」

 

 常闇が後押しすると、心操が礼を言う。

 心操にとっては、クラスの中でも特に仲が良い常闇が助けてくれるのはとても心強かった。

 バンド担当が全員決まったところで、心操が部屋の端で落ち込んでいる峰田に声をかける。

 

「峰田。俺、お前の分まで弾くからさ。そろそろ元気出せよ」

 

「勝手にしろクソが。下らん下らんはよ終われ文化祭。全員爪割れろ」

 

「怖いよ」

 

 峰田が壁際で体育座りをして負のオーラを放っていると、心操がツッコミを入れる。

 峰田を心配した麗日は、芦戸と顔を見合わせる。

 すると芦戸が名案を思いつき、峰田に提案する。

 

「峰田! ダンス、峰田のハーレムパート作ったらやる!?」

 

「やるわ。はよ来いや文化祭」

 

「うわぁ」

 

 芦戸が峰田の耳元で言うと、峰田はあっさり機嫌が直った。

 ハーレムパートであっさり機嫌を直す峰田を見て、ひなたはドン引きする。

 こうしてダンスのメンバーが決まり、演出の方のメンバーも決まった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 そして深夜1時。

 

「全役割決定だ!!!」

 

 飯田は目の下に隈を出して目をギンギンにさせて叫ぶ。

 

 

 

 バンド隊

 メインボーカル&ベース:耳郎

 サブボーカル:相澤

 ギター:上鳴、心操

 シンセサイザー:八百万

 ドラム:爆豪

 

 演出隊

 青山、切島、瀬呂、常闇、轟

 

 ダンス隊

 青山、芦戸、蛙吹、飯田、麗日、尾白、砂藤、障子、葉隠、緑谷、峰田

 

 

 

 といった具合で、全員の役割が決まった。

 全員の役割が決まったところで、次はライブの曲を選ぶ事となった。

 

「それじゃあライブに使う曲を選ぶけど、皆は何が良い?」

 

 耳郎が尋ねると、他のクラスメイトが次々と案を出す。

 

「やっぱカッケェやつっしょ!」

 

「そうそう、ノれるやつ!」

 

「皆が知ってるやつ!」

 

「雄英らしくヒーローっぽいのがいいよな!」

 

「じゃあ『ピースサイン』とか?」

 

「はいはーい! ポルノの『THE DAY』がいいと思いまーす!」

 

「静粛に!! 静粛に!! 一人ずつ順番に!!」

 

 他のクラスメイトが我先にと自分の好きな曲を言うと、飯田がクラスメイトを静かにさせる。

 すると耳郎が提案をする。

 

「うーん、皆が知っていてカッコよくってヒーローっぽい曲は…『Hero too』になるけど」

 

「お! いいじゃん!」

 

「賛成ー!」

 

 耳郎が提案すると、他のクラスメイト達は耳郎の案に賛成する。

 するとそこで、ひなたが手を挙げる。

 

「あのさ…ライブって一曲だけじゃないよね? あのね、一曲入れてほしい曲があるんだけど…」

 

 ひなたがそう言ってスマホを見せて提案したのは、プリキュアシリーズのキャラクターソングだった。

 それを見た耳郎はキョトンとする。

 

「え? プリキュア? 何でまた…」

 

「どうしても聴かせたい人がいるんだ。ダメかな?」

 

 耳郎が理由を尋ねると、ひなたはどうしてもと頼み込む。

 すると案の定、爆豪が口調を荒げて口を挟んでくる。

 

「ざけんな!! 音で殺るっつったろが!! 何でよりにもよってプリキュアなんかやらにゃいかんのだ!! 層に合ってねンだよアホ!!」

 

「ひぃ! ごめんなさい!」

 

 爆豪が正論で殴りつけると、ひなたがビクッと肩を跳ね上がらせる。

 爆豪の言う通り、プリキュアの曲を演奏して喜ぶのは幼い少女か大きいお友達くらいなもので、ほとんどの聴衆が雄英生である今回のライブに合っているとはとても言えなかった。

 ひなたが爆豪に責められている中、緑谷はひなたの言う『聴かせたい人』が文化祭に来るであろう壊理の事だと気がつく。

 

「ぼ、僕はいいと思うよ! その曲だって立派なヒーローソングだし、その歌詞に元気をもらえる人もいるんじゃないかな!」

 

「俺もいいと思うぜ。曲自体は別に的外れってわけでもないしな」

 

「ありがとうデッくんひー君!!」

 

 緑谷と心操がひなたに助け舟を出すと、ひなたが泣いて喜ぶ。

 ひなたが真剣に訴えかけているのを見て、耳郎も賛成する。

 

「まあ、聴かせたい人がいるっていうなら…その曲はひなたがメインで歌いたいんだよね?」

 

「うん!」

 

「わかった、じゃあその曲と『Hero too』は決まりとして、他何かやりたい曲ある?」

 

「「「はい!! はいはいはーい!!」」」

 

 ライブに使う曲が二曲決まったところで耳郎が他の曲を提案すると、クラスメイト達が次々と手を挙げて好きな曲を挙げる。

 他の曲は、その中から多数決で『THE DAY』『ピースサイン』『空に歌えば』の三曲に決まった。

 

 

 

 

 




歌のくだりは、ひーちゃんのイメージボイスネタです。
声自体は、呪術の西宮のイメージです。
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